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3rdSEASON
集いし者たち
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(1)
カランカラン。
ドアベルが音を立てる。
「いらっしゃい、片桐君に遠坂さん」
そう言ってくれたのはこの店でバイトをしている、酒井善幸君。
同じ大学の同じ学部の友達だ。大学の入学式で知り合った。誠と同じ高校でサッカーをしてた人。ポジションはキーパーだったらしい。
喫茶店「青い鳥」
すっかり常連客になったらしい僕達。
可愛らしい店員が注文を聞きに来る。
「二人ともいつものでいいですか?」
この娘の名前は一ノ瀬穂乃果。
この店で知り合った酒井君の元恋人。ちょっとした事件がきっかけで中島隆司君っていうカウンターに座ってる酒井君の友達と付き合いだした。
可愛い上に胸がでかいと来てる。
実際デカい。こんな女性が本当にいたんだなって思うくらいでかい。てか足下見れるの?
ぽかっ
「どこ見てるのかな~?冬夜君」
隣に座ってるのは僕の彼女の遠坂愛莉。愛莉曰く「恋人じゃないもん~婚約者だもん~」だ、そうだ。
実際片桐家と遠坂家では僕たちは結婚することを前提に付き合ってることになってるらしい。
すぐに拗ねたりわがまま言ったりするけど、そこが可愛い。我儘と言っても本当に些細な事で、もっと我儘言ってもいいんだよと言ってもやっぱり可愛い要求をしてくる。
「冬夜も男らしいところ見せるんだな」
そう言って向かいに座ってコーヒーを啜ってるのは高校時代の友達の渡辺正志君。
渡辺班を作った本人でグループのリーダー的存在。
渡辺班というのは、高校時代の修学旅行にたまたま一緒になった班でそれ以来色んなことの相談に乗ってくれる。
恋人がいない人をみつけては渡辺班に引き込んで無理矢理恋人を作らせる困った一面もある。
大学が別々になってもメッセージグループを利用して密に連絡を取り合う。いわゆるインカレサークルというやつだ。
その渡辺班の力をもってしても、成就しなかった恋もある。
さっきの酒井君の事もそうだけど……。
「花菜は年下が良いとか年上が良いとかそういうのはあるのか?年上なら私でも紹介できるけど」
コーラを飲みながら渡辺君の隣に座っているのは渡辺君の彼女の久世美嘉さん。
高校は違ったけれど渡辺君の彼女ってことで渡辺班の一員になった。
因みに大学には行かなくて、飲食店で働いているらしい。
両親とは複雑な関係にあるようで、今は渡辺君と同棲している。
そして大島花菜さん。
新しく渡辺班に入った同じ大学の同じクラスの子。
愛莉の友達として渡辺班に参加。彼氏は欲しいらしいけど緊張してしまうし、自分に自信が無いらしい。
十分綺麗だし、優しいし、モテると思うんだけど。好きな人の前だと控えめになってしまうらしい。
真面目であとお洒落な子だ。
「どちらかというと年上がいいですけど、出来れば近い方が良いですね」
大島さんはアイスティーを飲みながら言った。
「だとすると私にはちょっと無理だな。とーや、男友達くらいいないのかよ」
と、美嘉さんは僕に話を振ってきた。
あ、僕の名前は片桐冬夜。
なぜか片桐家と遠坂家の期待を背負って学校生活を送っている。
高校、大学と愛莉から重圧を受けながらもなんとかここまでやってきた。
愛莉とはもうすでに婚約したことになってるらしい。
また求婚した覚えはないんだけど。大学卒業して独り立ち出来たらちゃんと求婚しようと思ってる。
愛莉は「言葉なんていらないよ、私達はもうずっといっしょなんだから」と笑っているが、ケジメはちゃんとつけたい。
カランカラン。
また客が入ってきた。
「こんにちは、もう始めてるのね」
薄いピンクのワンピースの上にジーンズのジャケットを着た女性が、女性の方くらいの男性を引き連れてやってきた。
男性の恰好はTシャツにカーゴパンツだった。
女性の名前は江口恵美さん。両親ともに実業家であり。お嬢様として育ってきている。
高校の時に男性・石原望君と交際を始めた。渡辺班の力で強引にくっつけた節もある。
石原君とは高1のときから認識はしていたものの、僕自身愛莉とのやりとりで友達を作ることができなかった。
渡辺君曰く「お前は友達関係が希薄すぎる、もっと友達作らないと!」ということだが。
僕にも友達はいた。
中島君と同じくカウンターに座ってる多田誠と音無神奈。この二人も交際をしている。
二人共中学の時からの友達で誠はイケメン、カンナは美人と欠点の無いカップルだ。
カンナ曰く「誠はただの馬鹿で変態」と言っていたが、そんな事を平然と言えるのはカンナくらいだろう。
誠は私立大でサッカーをしている。何度も僕にサッカーをするように言われたけど今じゃ言われない。学校が違うからだろう。
「お前は絶対サッカーをするな。うちが勝てなくなる」
何とも勝手な理屈だ。まあ、する気はないけど。
中学高校と4人で平凡と学校生活を送ってきたが、渡辺班を通じて沢山の友達が出来た。
「い、いらっしゃいませ」
酒井君の声が怯えている。
多分、彼女の登場だろう。
彼女というのは志水晶さん。
同じ大学のクイーンと呼ばれてる人だ。
どういうわけか、酒井君に興味を持って交際を迫っているらしい。
江口さん曰く「諦めの悪いみっともない女」らしいが、実際彼女が酒井君のどこが好きになったのか分からない。
酒井君も聞いてみたらしいんだけど良く分からない理由だそうな。
「やる気の無さそうな、興味なさそうなそんな目が好き」とかなんとか。
うん、確かに訳が分からない。
最後に入ってきたのは桐谷君と指原さん。
桐谷瑛大。高1の時からの知り合い。
高2の時の修学旅行で友達に鳴った。特撮好きで毎週日曜日は欠かさず見てるらしい。おちゃらけた適当な性格。
よく彼女・指原亜依さんに怒られてる。
この二人も良く喧嘩しては別れる別れないの話になるがここまでやってこれたんだからなんとかなるだろ。
指原さんと渡辺君は、謎の情報網をもっている。
大体この二人が独り身の男女を渡辺班に勧誘しては適当にカップリングをしている。
今日こうして集まったのは今回の犠牲者・大島花菜さんの事についてだ。
「先ずはその緊張癖をどうにかしないとね」
指原さんが言う。
「昔っから人見知りで……」
大島さんは俯いたまま話す。
「それがいけないのよ、まずは人の目を見て話すところから始めないと」
江口さんがそう言う。
「は、はい」
大島さんはそうは言うものの中々顔を上げない。
「彼氏候補の方は俺に任せてくれ。セッティングも遠坂さんからとびっきりの方法を聞いた。あとは大島さん自身の問題だ」
「とびっきりの方法?」
「ああ、とびっきりの方法だ。大島さんには最適かもしれない」
「それってどんな方法なの?」
江口さんが渡辺君に聞いた。
「それはな……」
「なるほど、『吊り橋効果』ってやつね」
江口さんが感心していた。
「それなら大島さんでもどうにかなるね!」
指原さんも賛成のようだ。
「でも、相手が問題よ。慎重に選ばないと」
「見頃にはまだ時間がある。じっくり選ばせてもらうよ」
江口さんと渡辺君が話をしていた。
僕は、大島さんを見た。大島さんは俯いたまま何も言わない。うん、見た目は悪くないんだよな。
ベージュのショップコートにコーデュロイのワイドパンツ。白いシャツと少しお洒落目な出で立ち。
化粧も愛莉より上手だ……口にはしないけど。
「冬夜君?」
こんなにお洒落な大島さんに彼女がいないのは、単に男性恐怖症なだけという残念な理由。どうすれば解消できる?
ぽかっ
「冬夜君……なんで大島さんに見とれてるの?」
「え?いや、大島さんの事考えてたから」
ぽかぽかっ
「どうして冬夜君が大島さんの事考えてるのよ!」
「だってどうにかしてあげたいと思うだろ」
「うぅ……。それはそうだけど」
何かと葛藤してる愛莉をよそに僕は大島さんに話しかけていた。
「……ねえ、大島さん?趣味とかある?」
「え?ボーリングとかカラオケかな?」
「じゃあ、今度一緒にいかな……いてっ!」
ぽかっ
「冬夜君婚約者の横でナンパとはそういう度胸はいらないってお話したよね?」
あ、「みんなで」っていうの忘れてた。
「みんなで行こうって意味だよ。ナンパとかそういうのじゃないって!」
「皆でですか?」
大島さんが聞き返して来たので僕は答えた。
「うん、グループ活動の一環でさ、週1で集まれる時に集まるってあるんだよね。それでみんなと遊んでみようよ」
「そういう事なら……」
食いついてきた。今なら色々聞けるかも。
「ボーリングはアベレージいくつくらいいくの?」
「150くらいかな。マイボールも持ってるんですよ」
「すごいね、カラオケはどんなの歌うの?」
「うーん、色々歌えますよ。90年代から今の曲まで」
「へえ、誰が好きなの……」
ぽかっ!
ちょっと痛いぞ愛莉。
「やっぱり冬夜君が言うと口説いてるようにしか見えない!」
それは偏見だよ愛莉。
「トーヤ、いつも言ってるよな……お前は愛莉の事だけ考えてろって」
カンナも怒ってる。やり過ぎたかな?
「お前そっちの方も能力発動かよ。見事に心の防御に入り込んでいく手口。もうお前なんでもありなんじゃねーか?」
いや、普通に会話しただけだぞ。誠でもできるだろそれくらい。
愛莉の方を観る。うっわぁめっちゃ怒ってる。どうしよう?
「愛莉もボーリング得意なんだよね?」
「うん、200くらいはいくかな?」
「200もいくんですか?凄いですね。是非一度一緒にやってみたいです。」
大島さんが食いついてきた。
「うん、今度一緒にいこっ!」
愛莉の機嫌も直ったようだ。
「じゃあ、今度の集合場所はアミューズメント施設だな」と、渡辺君が言うと皆が頷く。
「俺達も行っていいのかな?」と、中島君が聞いてきた。
「当然だろ?グループに入ったんだし」と、渡辺君は当然のように言う。
「僕の事なら気遣わないで」と、酒井君が言った。
「そ、そうか。悪いね」と、中島君が答える。
「じゃ、そろそろ行こうか」と渡辺君が立ちあがる。
そうだね、この時間にこれだけの人数が集まるのは占領してるみたいで気が引ける。
「気にしなくていいのよ、皆お客さんなんだし」
普段そんなに人が来るものでもないしね、と付け足して笑うオーナー。
笑い事じゃないと思うんだけど。
(2)
カランカラン。
ドアベルが鳴る。
入ってきたのは片桐君と遠坂さんだった。
夏休みだというのによく来店する。
「家にいると愛莉が働くからさ、どこかに連れ出せって言われるんだよね」
そう片桐君は言っていた。
そうか、遠坂さんは半住み込み状態って言ってたな。
なんでも嫁入り修行をしてるんだとか?
「いつものでいいかい?」
「うん」
「いつもの」で通るほど彼らは良くこの店に来る。
この店を気に入ってくれたことはありがたい。
もう二人「いつもの」が通る客がこの店にはいるけど。
一人はカウンターに陣取って一ノ瀬さんと喋りながらコーヒーを啜ってる。
もう一人は……あ、来た。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
「いつものね、お願い」
サングラスを外し、帽子をとると彼女・志水晶はそう言った。
「あら?あなた達もいたの?」
奥のテーブルにいる片桐君たちとカウンターにいる中島君を見て志水さんはそう言った。
志水さんは中島君の隣に座ると一ノ瀬さんに言った。
「マメな彼氏で羨ましい事」
「ええ、とても大事にしてくれてるんですよ」
早くも臨戦態勢かい?
「私もそんな彼氏が欲しいわ」
「志水さんの周りにはいつもいるじゃないですか。大事にしてくれそうな人」
それが僕じゃないことは分かってる。そうであって欲しい。
「本当に欲しいものは手に入らないらしいわ」
そう言って志水さんは僕の方をちらりと見る。
僕は目線をそらす。
「案外、身近なところに転がっているものですよ」
「それは最近理解出来たわ」
「そうなんですか?」
一ノ瀬さんは意外そうな表情をしてみせた。
「ええ、気づいた時は衝撃的だったけどね」
そう言って僕を見る。一瞬目が合った。慌てて目をそらす。
「え!?志水さん好きな人いるんですか?」
中島君が余計な事を聞く。
「ええ、目の前にいるんだけどね」
今は仕事中。今は仕事中。
「酒井君、注文の品できたよ」
マスターが言ったから厨房に受け取りに行く。そしてそれを片桐君たちのところへ持って行く。
その間に一ノ瀬さんが志水さんにレモンティーを渡していた。
「ありがとう」
そういうと志水さんはレモンティーを一口飲む。
「あなたたちはどうなの?上手くいってるの?」
「ええ、毎日が凄く楽しいですよ」
一ノ瀬さんが明るい表情で、そう言った。営業スマイルでない事くらいは僕でも分かる。
「俺が部活あるんで毎日は会えないですけどね。ここにくれば大抵会えるから」
君たちが楽しそうにしてる間僕は針の筵なんだけどね。
傷口に塩を塗りこめられてる気分だよ。
好きな店ではあるけど楽しい職場ではなくなったね。
「で、志水さんの好きな人ってひょっとして善幸なんですか?」
どうして君はいつも余計な事をいうのかな?
折角話がそれていたのに……。
「ええ、そうよ。ただ、なかなか靡いてくれなくて。てこずってるわ」
志水さんは平然と言ってのけた。
「まじで!?善幸!一ノ瀬さんの時もそうだったけど何が不満なんだよ」
不満があるから断ってるんでない。
平穏を願うから、無難な行動をとる。
ただそれだけなのに、周りがそれを許さない。
どうして放っておいてくれないんだろう?
恋をすると楽しい事もある、けど辛いこともある。
もう二度と味わいたくない。
そう思っただけのこと。
それに志水さんはただ揶揄ってるだけのように見える。
志水さんと付き合う事に対するリスクに見合ったメリットがあるのだろうか?
そう考えると志水さんと付き合うなんて無理だ。
「そろそろ失礼するわ」
「え?もう帰るんですか?もう少しゆっくりしていけばいいのに……」
一ノ瀬さんがそう言うも「酒井君の顔を見に来ただけだから」と言って帰って行った。
最近ずっとそうだ。用を済ませて帰る都合の良い常連客になってる。
どういうつもりなんだろう?
前のような押しが無くなった。かのように見えた。
(3)
今日はバイトは休みだ。
みんなでアミューズメント施設で遊ぶ予定だ。
片桐君が迎えに来てくれる……予定だった。
その時間まで寝ていたから。気づかなかった。
ピンポーン
呼び鈴の音で目が覚める。
時計を見ると約束の時間より若干早い。
ピンポーン。
はいはい、今出ますよ。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
呼び鈴を連打する来客。
片桐君ってそんなキャラだっけ?
スマホが鳴る。
呼び鈴連打も気になるけどとりあえずスマホに出る。
志水さんからだ。
電話に出ると、呼び鈴が鳴りやんだ。
「私、今外で待ってるんだけど」
はい?
「今日は片桐君が迎えに来てくれるから大丈夫ですよ」
「メッセージグループ見てないの?」
メッセージグループを見る。
「私が、酒井君の迎えに行くから」
凍り付いた。
「とりあえず開けてくれないかしら」
僕は言われるがままに扉を開ける……。
衝撃的だった。
そこにはいままで高飛車だけど高貴なお嬢様風だった志水さんはいない。
白のショートパンツと白いTシャツにロングチェックシャツを羽織った彼女の姿は彼女の魅力的な体系を十分に活かしている。
サングラスをかけ、白い女優帽をかぶった彼女は僕を見て不敵に笑う。
「いつもと服装を変えてみたの。似合うかしら」
綺麗な脚線美を魅せつけ、豊かな胸を主張し引っ込むところは引っ込んでる彼女の姿は正視に耐えないものだった。
「似合うかしら」
「とても似合ってると思います」
「じゃ、準備出来たら教えて。ここで待ってるから」
志水さんは僕の家の中に入り込んできてる。
そこで待ってもらうようにお願いすると、一ノ瀬さんと選んだ服を来て寝ぐせだけは直して一緒に家を出た。
恐らく、リムジンで、アミューズメント施設に行くのは県内でも僕達だけだろう。
入口にリムジンを止めると当然のように皆の注目を集める。
そして降りてくる女性に目線は映る。その後に出てくる僕には誰も気づかない。
気づいても、付き人くらいにしか思われてないだろう。
志水さんは学内にいたときのように注目をものともせず、そして突然僕と腕を組む。
「行きましょ、酒井君」
凄く明るい声音。
「おーいこっちこっち」
声がする方を見ると指原さんが手を振っていた。
僕達は指原さん達の方に向かって行く。
「あいかわらず雑魚を引き連れて満足してるのね」
江口さんの口撃。
志水さんはあっさりと躱す。
「勝手に寄ってくるんだから仕方ないわ。気になったらごめんなさい」
躱すどころか挑発してるようにすら思える彼女の返答。
「そろそろ予約の時間だし行こうか」
渡辺君がそう言うのでついて行った。
自分で言ってるように大島さんはボウリングが得意だったようだ。
次々とストライクをとってハイタッチする大島さん。
少しは打ち解けてきたのかな?
僕と片桐君は溝掃除をしていたけど。
「冬夜君もっとフォームをなおしなよ」
遠坂さんがそういうと一投投げてみせる。
見事にストライクだ。
「あのね、ボールをこう持って……」
片桐君は遠坂さんにフォームを教わる。
「あとは冬夜君もっと思い切って投げたらいいよ。前に言ってたでしょ『恥をかくなら思い切りかけ』って」
遠坂さんに言われると、片桐君の目つきが代わる。
彼の目にはボールの軌道が見えているのだろうか?
その軌道に乗せるように投げる。
その軌道を描いて片桐君はストライクをとっていった。
「やっぱり冬夜君すごい、何だってその気になればできるんだね!パットゴルフしてる時におもったんだよね」
月の導きでも見えているんだろうか?
片桐君の才能の片鱗を披露しただけのボウリングだった。
その後カラオケに行く。
パーティルームで歌う面々。
いや、僕歌える歌ないんですよね。ガチで。
片桐君と遠坂さんはデュエットでのみ歌っていた。
志水さんは意外と渋い歌歌っていた。
15人もいるといくら時間があっても足らず、時間はあっという間に過ぎていった。
カラオケ時間を過ぎると、店の外に出る。
「この人数だとやっぱりあそこかな?」
「そう思って予約取ってある」
久世さんと渡辺君がそんな話をしてる中、志水さんはスマホを手にリムジンを手配していた。
それを、片桐君が制する。
「二人は僕の車に乗りなよ。狭い路地通るしリムジンだと難しいよ」
「……そう言われると仕方ないわね」
リムジンの手配をキャンセルすると、片桐君の車に乗った。
「店は前行ったところでいいんだよね?」
「ああ、渡辺の名前で予約してあるから」
「わかった」
片桐君はそう言うと車を出す。
二人は楽しそうに会話をしている。
後ろに座ってる僕たちは置いてけぼりで。
何だろうこの気まずい雰囲気。
「二人は仲が良いのね」
志水さんが、そう切り出した。
「うん、婚約者だから」
遠坂さんが満面の笑顔で答える。
「秘訣が知りたいわ。どうしたらそうまで仲良くなれるの?」
「う~ん、相手の気持ちを尊重する。自分の気持ちだけを押し付けない。相手のありのままを愛する。そのくらいかな~」
「なるほど、参考になるわ。相手の気持ちを尊重する……私に欠けていたところかもしれない」
志水さんの言葉に3人は驚いた。
「志水さんでもそう思う事あるんだ……」
遠坂さんがそう漏らす。
「私も馬鹿じゃない。ずっと考えてる。どうしたら彼が私に振り向いてくれるのか?」
僕の気持ちも考えてくれるならそっとしておいてほしいものですけどね。
(4)
居酒屋で宴は始まった。
だから志水さんと江口さんを同席にするなとあれほど……。
「どう?挫折を味わった」
「まだまだこれからよ」
二人とも顔が真っ赤だ。
渡辺君が止めに入るとおもいきや、渡辺君も上機嫌になってる。あーあ。
あとは久世さんと音無さんが盛り上がってるくらいか?
他のカップルはそれぞれの世界に入り込んでる。
僕と石原君はジュースを飲みながら話をする。
「石原君の時はどうやって上手くいったんだい?」
「僕の時は僕から告白しようとしたら彼女に先手うたれました。良く分からない理由で」
ああ、君も同じ境遇だったんだね。
「でも、今は良かったと思います。意外に彼女優しいし、甘えたがりな所もあるし」
「そういうものなんですか?」
「そうですよ、片桐君が言ってました『ラーメンはのびないうちに食え』って……」
片桐君はなんでも食べ物に例えるのが得意なんだね。
その後も石原君と話をしていた。
もりあがってる二人をよそに。
「じゃあ、ここで解散だな」
渡辺君はタクシーを手配しながらそう言った。
「じゃあ、俺は神奈を送らないといけないから」
多田君はそう言って足がふらついてる音無さんを支えながら歩いて行った。
「私達もそろそろ行こうかしら?」
志水さんは、そう言ってリムジンを手配する。
「僕は片桐君の車に乗せてもらうよ」
「連れないこと言わないで」
そういうと僕の腕をがっちり組んで離さない志水さん。
「裏口に来るみたいだからいくわ。またね」
そう言うと志水さんは毅然と歩き出した。
僕の腕を掴んだまま……。
車の中で。
「今日は色々と勉強になったわ……あの女に教えられるのは癪だったけど」
仲良くやってたんだな。
「後は、酒井君をどう攻略するかだわね」
諦めてくれるのが最善の手なんですけどね。
「私諦めないから。」
車は僕のアパートの前で止まる。車のドアが開く。
「じゃあ、これで……!?」
彼女の唇が僕の唇に重なっていた。
「本当はあなたの方からしてほしかったのだけど、仕方ないわね。これは宣戦布告よ」
僕は呆然と立ち尽くしていた。
「それじゃまた明日。青い鳥で」
そう言うと彼女のリムジンは走り去っていった。
まだ暑い残暑の残る季節の夜だった。
(5)
「ごめんなさい」
大島さんが謝る。
「謝ることは無いよ。悪いのは誘った神奈なんだし」
大島さんはそのなんだ……やっちゃったんだよね。
で、大島さんの車を私が運転して、その後を冬夜君が付いて来てくれてる。
冬夜君の車にカジュアルシューズ用意しておいて良かったよ。
大島さんの家は狭間の近くにあるという。
「今日はどうだった?楽しかった?」
「凄い楽しかったです。また遊びたいです」
「じゃあ、まず第一段階はクリアしたね」
「え?」
「人見知り……とりあえず仲間内でなくなったでしょ?」
「あ……」
「きっと渡辺君が素敵な人探してくれるから」
「あの作戦……上手くいくんでしょうか?」
「大島さんは高所恐怖症?」
「いえ、大丈夫です」
「なら、打ち合わせ通りやれば大丈夫だよ」
「でも……」
冬夜君が言ってた言葉使わせてもらおうかな?
「なんでも食わず嫌いは良くないって冬夜君が言ってたの。だからとりあえず相手の目を見て話してみよう?お手伝いはするから」
「そうですね」
「楽な道を選ぶな、己の歩んだ道を誇れるようになれ。その通りだと思う」
「……わかりました。あ、そこです私のアパート」
そこは木造の……言い方悪いけど、ぼろいアパートだった。
彼氏連れてこれない理由はこれだったんだね。
私は駐車場に車を止めると鍵を渡す。
「ありがとうございました」
そう礼を言うと彼女は帰って行った。
「てなわけ」
「そっか上手くいったんだな」
「うん♪」
「あとは相手か……いい人いるかな」
「渡辺君が後期始まったらいい人探すって」
渡辺君の情報網は広い。なんとでもなるだろう。
「あとは、志水さんと酒井君だね」
「なんだかんだ言って上手くいきそうな気がする。なんかこう志水さん変わってきた気がするんだよね」
「そうなの?」
「冬夜君はきづかなかった?」
気づくわけないか。いいよ、冬夜君は気づかなくても。私だけ見てくれたらいいんだから。
「全然わからない」
そうでしょうね。
「もうじき後期はじまるね」
「そうだな」
「色々準備しておかないとね」
「例えば?」
「冬夜君の体調管理。もう前期末のようなことにならないようにしっかりスケジュール組みますからね」
「来年から時間割考えような」
「うぅ……冬夜君とキャンパスライフ……」
でも、大学生のうちに資格とか取っておいた方が良いって書いてたよ。
その時冬夜君が頭を撫でてくれた。
「わかってるよ。気をつけるから」
「うん」
冬夜君は3年生になったら忙しくなる。
その前に想い出作らせて。
冬夜君のじゃまになるようなことはしないから。
もうすぐ夏休みが終わる。
色んな経験をした。
それは新しい季節のはじまりだった。
カランカラン。
ドアベルが音を立てる。
「いらっしゃい、片桐君に遠坂さん」
そう言ってくれたのはこの店でバイトをしている、酒井善幸君。
同じ大学の同じ学部の友達だ。大学の入学式で知り合った。誠と同じ高校でサッカーをしてた人。ポジションはキーパーだったらしい。
喫茶店「青い鳥」
すっかり常連客になったらしい僕達。
可愛らしい店員が注文を聞きに来る。
「二人ともいつものでいいですか?」
この娘の名前は一ノ瀬穂乃果。
この店で知り合った酒井君の元恋人。ちょっとした事件がきっかけで中島隆司君っていうカウンターに座ってる酒井君の友達と付き合いだした。
可愛い上に胸がでかいと来てる。
実際デカい。こんな女性が本当にいたんだなって思うくらいでかい。てか足下見れるの?
ぽかっ
「どこ見てるのかな~?冬夜君」
隣に座ってるのは僕の彼女の遠坂愛莉。愛莉曰く「恋人じゃないもん~婚約者だもん~」だ、そうだ。
実際片桐家と遠坂家では僕たちは結婚することを前提に付き合ってることになってるらしい。
すぐに拗ねたりわがまま言ったりするけど、そこが可愛い。我儘と言っても本当に些細な事で、もっと我儘言ってもいいんだよと言ってもやっぱり可愛い要求をしてくる。
「冬夜も男らしいところ見せるんだな」
そう言って向かいに座ってコーヒーを啜ってるのは高校時代の友達の渡辺正志君。
渡辺班を作った本人でグループのリーダー的存在。
渡辺班というのは、高校時代の修学旅行にたまたま一緒になった班でそれ以来色んなことの相談に乗ってくれる。
恋人がいない人をみつけては渡辺班に引き込んで無理矢理恋人を作らせる困った一面もある。
大学が別々になってもメッセージグループを利用して密に連絡を取り合う。いわゆるインカレサークルというやつだ。
その渡辺班の力をもってしても、成就しなかった恋もある。
さっきの酒井君の事もそうだけど……。
「花菜は年下が良いとか年上が良いとかそういうのはあるのか?年上なら私でも紹介できるけど」
コーラを飲みながら渡辺君の隣に座っているのは渡辺君の彼女の久世美嘉さん。
高校は違ったけれど渡辺君の彼女ってことで渡辺班の一員になった。
因みに大学には行かなくて、飲食店で働いているらしい。
両親とは複雑な関係にあるようで、今は渡辺君と同棲している。
そして大島花菜さん。
新しく渡辺班に入った同じ大学の同じクラスの子。
愛莉の友達として渡辺班に参加。彼氏は欲しいらしいけど緊張してしまうし、自分に自信が無いらしい。
十分綺麗だし、優しいし、モテると思うんだけど。好きな人の前だと控えめになってしまうらしい。
真面目であとお洒落な子だ。
「どちらかというと年上がいいですけど、出来れば近い方が良いですね」
大島さんはアイスティーを飲みながら言った。
「だとすると私にはちょっと無理だな。とーや、男友達くらいいないのかよ」
と、美嘉さんは僕に話を振ってきた。
あ、僕の名前は片桐冬夜。
なぜか片桐家と遠坂家の期待を背負って学校生活を送っている。
高校、大学と愛莉から重圧を受けながらもなんとかここまでやってきた。
愛莉とはもうすでに婚約したことになってるらしい。
また求婚した覚えはないんだけど。大学卒業して独り立ち出来たらちゃんと求婚しようと思ってる。
愛莉は「言葉なんていらないよ、私達はもうずっといっしょなんだから」と笑っているが、ケジメはちゃんとつけたい。
カランカラン。
また客が入ってきた。
「こんにちは、もう始めてるのね」
薄いピンクのワンピースの上にジーンズのジャケットを着た女性が、女性の方くらいの男性を引き連れてやってきた。
男性の恰好はTシャツにカーゴパンツだった。
女性の名前は江口恵美さん。両親ともに実業家であり。お嬢様として育ってきている。
高校の時に男性・石原望君と交際を始めた。渡辺班の力で強引にくっつけた節もある。
石原君とは高1のときから認識はしていたものの、僕自身愛莉とのやりとりで友達を作ることができなかった。
渡辺君曰く「お前は友達関係が希薄すぎる、もっと友達作らないと!」ということだが。
僕にも友達はいた。
中島君と同じくカウンターに座ってる多田誠と音無神奈。この二人も交際をしている。
二人共中学の時からの友達で誠はイケメン、カンナは美人と欠点の無いカップルだ。
カンナ曰く「誠はただの馬鹿で変態」と言っていたが、そんな事を平然と言えるのはカンナくらいだろう。
誠は私立大でサッカーをしている。何度も僕にサッカーをするように言われたけど今じゃ言われない。学校が違うからだろう。
「お前は絶対サッカーをするな。うちが勝てなくなる」
何とも勝手な理屈だ。まあ、する気はないけど。
中学高校と4人で平凡と学校生活を送ってきたが、渡辺班を通じて沢山の友達が出来た。
「い、いらっしゃいませ」
酒井君の声が怯えている。
多分、彼女の登場だろう。
彼女というのは志水晶さん。
同じ大学のクイーンと呼ばれてる人だ。
どういうわけか、酒井君に興味を持って交際を迫っているらしい。
江口さん曰く「諦めの悪いみっともない女」らしいが、実際彼女が酒井君のどこが好きになったのか分からない。
酒井君も聞いてみたらしいんだけど良く分からない理由だそうな。
「やる気の無さそうな、興味なさそうなそんな目が好き」とかなんとか。
うん、確かに訳が分からない。
最後に入ってきたのは桐谷君と指原さん。
桐谷瑛大。高1の時からの知り合い。
高2の時の修学旅行で友達に鳴った。特撮好きで毎週日曜日は欠かさず見てるらしい。おちゃらけた適当な性格。
よく彼女・指原亜依さんに怒られてる。
この二人も良く喧嘩しては別れる別れないの話になるがここまでやってこれたんだからなんとかなるだろ。
指原さんと渡辺君は、謎の情報網をもっている。
大体この二人が独り身の男女を渡辺班に勧誘しては適当にカップリングをしている。
今日こうして集まったのは今回の犠牲者・大島花菜さんの事についてだ。
「先ずはその緊張癖をどうにかしないとね」
指原さんが言う。
「昔っから人見知りで……」
大島さんは俯いたまま話す。
「それがいけないのよ、まずは人の目を見て話すところから始めないと」
江口さんがそう言う。
「は、はい」
大島さんはそうは言うものの中々顔を上げない。
「彼氏候補の方は俺に任せてくれ。セッティングも遠坂さんからとびっきりの方法を聞いた。あとは大島さん自身の問題だ」
「とびっきりの方法?」
「ああ、とびっきりの方法だ。大島さんには最適かもしれない」
「それってどんな方法なの?」
江口さんが渡辺君に聞いた。
「それはな……」
「なるほど、『吊り橋効果』ってやつね」
江口さんが感心していた。
「それなら大島さんでもどうにかなるね!」
指原さんも賛成のようだ。
「でも、相手が問題よ。慎重に選ばないと」
「見頃にはまだ時間がある。じっくり選ばせてもらうよ」
江口さんと渡辺君が話をしていた。
僕は、大島さんを見た。大島さんは俯いたまま何も言わない。うん、見た目は悪くないんだよな。
ベージュのショップコートにコーデュロイのワイドパンツ。白いシャツと少しお洒落目な出で立ち。
化粧も愛莉より上手だ……口にはしないけど。
「冬夜君?」
こんなにお洒落な大島さんに彼女がいないのは、単に男性恐怖症なだけという残念な理由。どうすれば解消できる?
ぽかっ
「冬夜君……なんで大島さんに見とれてるの?」
「え?いや、大島さんの事考えてたから」
ぽかぽかっ
「どうして冬夜君が大島さんの事考えてるのよ!」
「だってどうにかしてあげたいと思うだろ」
「うぅ……。それはそうだけど」
何かと葛藤してる愛莉をよそに僕は大島さんに話しかけていた。
「……ねえ、大島さん?趣味とかある?」
「え?ボーリングとかカラオケかな?」
「じゃあ、今度一緒にいかな……いてっ!」
ぽかっ
「冬夜君婚約者の横でナンパとはそういう度胸はいらないってお話したよね?」
あ、「みんなで」っていうの忘れてた。
「みんなで行こうって意味だよ。ナンパとかそういうのじゃないって!」
「皆でですか?」
大島さんが聞き返して来たので僕は答えた。
「うん、グループ活動の一環でさ、週1で集まれる時に集まるってあるんだよね。それでみんなと遊んでみようよ」
「そういう事なら……」
食いついてきた。今なら色々聞けるかも。
「ボーリングはアベレージいくつくらいいくの?」
「150くらいかな。マイボールも持ってるんですよ」
「すごいね、カラオケはどんなの歌うの?」
「うーん、色々歌えますよ。90年代から今の曲まで」
「へえ、誰が好きなの……」
ぽかっ!
ちょっと痛いぞ愛莉。
「やっぱり冬夜君が言うと口説いてるようにしか見えない!」
それは偏見だよ愛莉。
「トーヤ、いつも言ってるよな……お前は愛莉の事だけ考えてろって」
カンナも怒ってる。やり過ぎたかな?
「お前そっちの方も能力発動かよ。見事に心の防御に入り込んでいく手口。もうお前なんでもありなんじゃねーか?」
いや、普通に会話しただけだぞ。誠でもできるだろそれくらい。
愛莉の方を観る。うっわぁめっちゃ怒ってる。どうしよう?
「愛莉もボーリング得意なんだよね?」
「うん、200くらいはいくかな?」
「200もいくんですか?凄いですね。是非一度一緒にやってみたいです。」
大島さんが食いついてきた。
「うん、今度一緒にいこっ!」
愛莉の機嫌も直ったようだ。
「じゃあ、今度の集合場所はアミューズメント施設だな」と、渡辺君が言うと皆が頷く。
「俺達も行っていいのかな?」と、中島君が聞いてきた。
「当然だろ?グループに入ったんだし」と、渡辺君は当然のように言う。
「僕の事なら気遣わないで」と、酒井君が言った。
「そ、そうか。悪いね」と、中島君が答える。
「じゃ、そろそろ行こうか」と渡辺君が立ちあがる。
そうだね、この時間にこれだけの人数が集まるのは占領してるみたいで気が引ける。
「気にしなくていいのよ、皆お客さんなんだし」
普段そんなに人が来るものでもないしね、と付け足して笑うオーナー。
笑い事じゃないと思うんだけど。
(2)
カランカラン。
ドアベルが鳴る。
入ってきたのは片桐君と遠坂さんだった。
夏休みだというのによく来店する。
「家にいると愛莉が働くからさ、どこかに連れ出せって言われるんだよね」
そう片桐君は言っていた。
そうか、遠坂さんは半住み込み状態って言ってたな。
なんでも嫁入り修行をしてるんだとか?
「いつものでいいかい?」
「うん」
「いつもの」で通るほど彼らは良くこの店に来る。
この店を気に入ってくれたことはありがたい。
もう二人「いつもの」が通る客がこの店にはいるけど。
一人はカウンターに陣取って一ノ瀬さんと喋りながらコーヒーを啜ってる。
もう一人は……あ、来た。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
「いつものね、お願い」
サングラスを外し、帽子をとると彼女・志水晶はそう言った。
「あら?あなた達もいたの?」
奥のテーブルにいる片桐君たちとカウンターにいる中島君を見て志水さんはそう言った。
志水さんは中島君の隣に座ると一ノ瀬さんに言った。
「マメな彼氏で羨ましい事」
「ええ、とても大事にしてくれてるんですよ」
早くも臨戦態勢かい?
「私もそんな彼氏が欲しいわ」
「志水さんの周りにはいつもいるじゃないですか。大事にしてくれそうな人」
それが僕じゃないことは分かってる。そうであって欲しい。
「本当に欲しいものは手に入らないらしいわ」
そう言って志水さんは僕の方をちらりと見る。
僕は目線をそらす。
「案外、身近なところに転がっているものですよ」
「それは最近理解出来たわ」
「そうなんですか?」
一ノ瀬さんは意外そうな表情をしてみせた。
「ええ、気づいた時は衝撃的だったけどね」
そう言って僕を見る。一瞬目が合った。慌てて目をそらす。
「え!?志水さん好きな人いるんですか?」
中島君が余計な事を聞く。
「ええ、目の前にいるんだけどね」
今は仕事中。今は仕事中。
「酒井君、注文の品できたよ」
マスターが言ったから厨房に受け取りに行く。そしてそれを片桐君たちのところへ持って行く。
その間に一ノ瀬さんが志水さんにレモンティーを渡していた。
「ありがとう」
そういうと志水さんはレモンティーを一口飲む。
「あなたたちはどうなの?上手くいってるの?」
「ええ、毎日が凄く楽しいですよ」
一ノ瀬さんが明るい表情で、そう言った。営業スマイルでない事くらいは僕でも分かる。
「俺が部活あるんで毎日は会えないですけどね。ここにくれば大抵会えるから」
君たちが楽しそうにしてる間僕は針の筵なんだけどね。
傷口に塩を塗りこめられてる気分だよ。
好きな店ではあるけど楽しい職場ではなくなったね。
「で、志水さんの好きな人ってひょっとして善幸なんですか?」
どうして君はいつも余計な事をいうのかな?
折角話がそれていたのに……。
「ええ、そうよ。ただ、なかなか靡いてくれなくて。てこずってるわ」
志水さんは平然と言ってのけた。
「まじで!?善幸!一ノ瀬さんの時もそうだったけど何が不満なんだよ」
不満があるから断ってるんでない。
平穏を願うから、無難な行動をとる。
ただそれだけなのに、周りがそれを許さない。
どうして放っておいてくれないんだろう?
恋をすると楽しい事もある、けど辛いこともある。
もう二度と味わいたくない。
そう思っただけのこと。
それに志水さんはただ揶揄ってるだけのように見える。
志水さんと付き合う事に対するリスクに見合ったメリットがあるのだろうか?
そう考えると志水さんと付き合うなんて無理だ。
「そろそろ失礼するわ」
「え?もう帰るんですか?もう少しゆっくりしていけばいいのに……」
一ノ瀬さんがそう言うも「酒井君の顔を見に来ただけだから」と言って帰って行った。
最近ずっとそうだ。用を済ませて帰る都合の良い常連客になってる。
どういうつもりなんだろう?
前のような押しが無くなった。かのように見えた。
(3)
今日はバイトは休みだ。
みんなでアミューズメント施設で遊ぶ予定だ。
片桐君が迎えに来てくれる……予定だった。
その時間まで寝ていたから。気づかなかった。
ピンポーン
呼び鈴の音で目が覚める。
時計を見ると約束の時間より若干早い。
ピンポーン。
はいはい、今出ますよ。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
呼び鈴を連打する来客。
片桐君ってそんなキャラだっけ?
スマホが鳴る。
呼び鈴連打も気になるけどとりあえずスマホに出る。
志水さんからだ。
電話に出ると、呼び鈴が鳴りやんだ。
「私、今外で待ってるんだけど」
はい?
「今日は片桐君が迎えに来てくれるから大丈夫ですよ」
「メッセージグループ見てないの?」
メッセージグループを見る。
「私が、酒井君の迎えに行くから」
凍り付いた。
「とりあえず開けてくれないかしら」
僕は言われるがままに扉を開ける……。
衝撃的だった。
そこにはいままで高飛車だけど高貴なお嬢様風だった志水さんはいない。
白のショートパンツと白いTシャツにロングチェックシャツを羽織った彼女の姿は彼女の魅力的な体系を十分に活かしている。
サングラスをかけ、白い女優帽をかぶった彼女は僕を見て不敵に笑う。
「いつもと服装を変えてみたの。似合うかしら」
綺麗な脚線美を魅せつけ、豊かな胸を主張し引っ込むところは引っ込んでる彼女の姿は正視に耐えないものだった。
「似合うかしら」
「とても似合ってると思います」
「じゃ、準備出来たら教えて。ここで待ってるから」
志水さんは僕の家の中に入り込んできてる。
そこで待ってもらうようにお願いすると、一ノ瀬さんと選んだ服を来て寝ぐせだけは直して一緒に家を出た。
恐らく、リムジンで、アミューズメント施設に行くのは県内でも僕達だけだろう。
入口にリムジンを止めると当然のように皆の注目を集める。
そして降りてくる女性に目線は映る。その後に出てくる僕には誰も気づかない。
気づいても、付き人くらいにしか思われてないだろう。
志水さんは学内にいたときのように注目をものともせず、そして突然僕と腕を組む。
「行きましょ、酒井君」
凄く明るい声音。
「おーいこっちこっち」
声がする方を見ると指原さんが手を振っていた。
僕達は指原さん達の方に向かって行く。
「あいかわらず雑魚を引き連れて満足してるのね」
江口さんの口撃。
志水さんはあっさりと躱す。
「勝手に寄ってくるんだから仕方ないわ。気になったらごめんなさい」
躱すどころか挑発してるようにすら思える彼女の返答。
「そろそろ予約の時間だし行こうか」
渡辺君がそう言うのでついて行った。
自分で言ってるように大島さんはボウリングが得意だったようだ。
次々とストライクをとってハイタッチする大島さん。
少しは打ち解けてきたのかな?
僕と片桐君は溝掃除をしていたけど。
「冬夜君もっとフォームをなおしなよ」
遠坂さんがそういうと一投投げてみせる。
見事にストライクだ。
「あのね、ボールをこう持って……」
片桐君は遠坂さんにフォームを教わる。
「あとは冬夜君もっと思い切って投げたらいいよ。前に言ってたでしょ『恥をかくなら思い切りかけ』って」
遠坂さんに言われると、片桐君の目つきが代わる。
彼の目にはボールの軌道が見えているのだろうか?
その軌道に乗せるように投げる。
その軌道を描いて片桐君はストライクをとっていった。
「やっぱり冬夜君すごい、何だってその気になればできるんだね!パットゴルフしてる時におもったんだよね」
月の導きでも見えているんだろうか?
片桐君の才能の片鱗を披露しただけのボウリングだった。
その後カラオケに行く。
パーティルームで歌う面々。
いや、僕歌える歌ないんですよね。ガチで。
片桐君と遠坂さんはデュエットでのみ歌っていた。
志水さんは意外と渋い歌歌っていた。
15人もいるといくら時間があっても足らず、時間はあっという間に過ぎていった。
カラオケ時間を過ぎると、店の外に出る。
「この人数だとやっぱりあそこかな?」
「そう思って予約取ってある」
久世さんと渡辺君がそんな話をしてる中、志水さんはスマホを手にリムジンを手配していた。
それを、片桐君が制する。
「二人は僕の車に乗りなよ。狭い路地通るしリムジンだと難しいよ」
「……そう言われると仕方ないわね」
リムジンの手配をキャンセルすると、片桐君の車に乗った。
「店は前行ったところでいいんだよね?」
「ああ、渡辺の名前で予約してあるから」
「わかった」
片桐君はそう言うと車を出す。
二人は楽しそうに会話をしている。
後ろに座ってる僕たちは置いてけぼりで。
何だろうこの気まずい雰囲気。
「二人は仲が良いのね」
志水さんが、そう切り出した。
「うん、婚約者だから」
遠坂さんが満面の笑顔で答える。
「秘訣が知りたいわ。どうしたらそうまで仲良くなれるの?」
「う~ん、相手の気持ちを尊重する。自分の気持ちだけを押し付けない。相手のありのままを愛する。そのくらいかな~」
「なるほど、参考になるわ。相手の気持ちを尊重する……私に欠けていたところかもしれない」
志水さんの言葉に3人は驚いた。
「志水さんでもそう思う事あるんだ……」
遠坂さんがそう漏らす。
「私も馬鹿じゃない。ずっと考えてる。どうしたら彼が私に振り向いてくれるのか?」
僕の気持ちも考えてくれるならそっとしておいてほしいものですけどね。
(4)
居酒屋で宴は始まった。
だから志水さんと江口さんを同席にするなとあれほど……。
「どう?挫折を味わった」
「まだまだこれからよ」
二人とも顔が真っ赤だ。
渡辺君が止めに入るとおもいきや、渡辺君も上機嫌になってる。あーあ。
あとは久世さんと音無さんが盛り上がってるくらいか?
他のカップルはそれぞれの世界に入り込んでる。
僕と石原君はジュースを飲みながら話をする。
「石原君の時はどうやって上手くいったんだい?」
「僕の時は僕から告白しようとしたら彼女に先手うたれました。良く分からない理由で」
ああ、君も同じ境遇だったんだね。
「でも、今は良かったと思います。意外に彼女優しいし、甘えたがりな所もあるし」
「そういうものなんですか?」
「そうですよ、片桐君が言ってました『ラーメンはのびないうちに食え』って……」
片桐君はなんでも食べ物に例えるのが得意なんだね。
その後も石原君と話をしていた。
もりあがってる二人をよそに。
「じゃあ、ここで解散だな」
渡辺君はタクシーを手配しながらそう言った。
「じゃあ、俺は神奈を送らないといけないから」
多田君はそう言って足がふらついてる音無さんを支えながら歩いて行った。
「私達もそろそろ行こうかしら?」
志水さんは、そう言ってリムジンを手配する。
「僕は片桐君の車に乗せてもらうよ」
「連れないこと言わないで」
そういうと僕の腕をがっちり組んで離さない志水さん。
「裏口に来るみたいだからいくわ。またね」
そう言うと志水さんは毅然と歩き出した。
僕の腕を掴んだまま……。
車の中で。
「今日は色々と勉強になったわ……あの女に教えられるのは癪だったけど」
仲良くやってたんだな。
「後は、酒井君をどう攻略するかだわね」
諦めてくれるのが最善の手なんですけどね。
「私諦めないから。」
車は僕のアパートの前で止まる。車のドアが開く。
「じゃあ、これで……!?」
彼女の唇が僕の唇に重なっていた。
「本当はあなたの方からしてほしかったのだけど、仕方ないわね。これは宣戦布告よ」
僕は呆然と立ち尽くしていた。
「それじゃまた明日。青い鳥で」
そう言うと彼女のリムジンは走り去っていった。
まだ暑い残暑の残る季節の夜だった。
(5)
「ごめんなさい」
大島さんが謝る。
「謝ることは無いよ。悪いのは誘った神奈なんだし」
大島さんはそのなんだ……やっちゃったんだよね。
で、大島さんの車を私が運転して、その後を冬夜君が付いて来てくれてる。
冬夜君の車にカジュアルシューズ用意しておいて良かったよ。
大島さんの家は狭間の近くにあるという。
「今日はどうだった?楽しかった?」
「凄い楽しかったです。また遊びたいです」
「じゃあ、まず第一段階はクリアしたね」
「え?」
「人見知り……とりあえず仲間内でなくなったでしょ?」
「あ……」
「きっと渡辺君が素敵な人探してくれるから」
「あの作戦……上手くいくんでしょうか?」
「大島さんは高所恐怖症?」
「いえ、大丈夫です」
「なら、打ち合わせ通りやれば大丈夫だよ」
「でも……」
冬夜君が言ってた言葉使わせてもらおうかな?
「なんでも食わず嫌いは良くないって冬夜君が言ってたの。だからとりあえず相手の目を見て話してみよう?お手伝いはするから」
「そうですね」
「楽な道を選ぶな、己の歩んだ道を誇れるようになれ。その通りだと思う」
「……わかりました。あ、そこです私のアパート」
そこは木造の……言い方悪いけど、ぼろいアパートだった。
彼氏連れてこれない理由はこれだったんだね。
私は駐車場に車を止めると鍵を渡す。
「ありがとうございました」
そう礼を言うと彼女は帰って行った。
「てなわけ」
「そっか上手くいったんだな」
「うん♪」
「あとは相手か……いい人いるかな」
「渡辺君が後期始まったらいい人探すって」
渡辺君の情報網は広い。なんとでもなるだろう。
「あとは、志水さんと酒井君だね」
「なんだかんだ言って上手くいきそうな気がする。なんかこう志水さん変わってきた気がするんだよね」
「そうなの?」
「冬夜君はきづかなかった?」
気づくわけないか。いいよ、冬夜君は気づかなくても。私だけ見てくれたらいいんだから。
「全然わからない」
そうでしょうね。
「もうじき後期はじまるね」
「そうだな」
「色々準備しておかないとね」
「例えば?」
「冬夜君の体調管理。もう前期末のようなことにならないようにしっかりスケジュール組みますからね」
「来年から時間割考えような」
「うぅ……冬夜君とキャンパスライフ……」
でも、大学生のうちに資格とか取っておいた方が良いって書いてたよ。
その時冬夜君が頭を撫でてくれた。
「わかってるよ。気をつけるから」
「うん」
冬夜君は3年生になったら忙しくなる。
その前に想い出作らせて。
冬夜君のじゃまになるようなことはしないから。
もうすぐ夏休みが終わる。
色んな経験をした。
それは新しい季節のはじまりだった。
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