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3rdSEASON
サプライズ!
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(1)
ピピピピ……
僕はアラームを止める。
雪は降らないけど霜は降りる、
寒さも本格化してきた。
今日は月曜日1限目から入ってある。
なのに珍しく愛莉はのんびりと寝ている。
「愛莉、今日月曜だぞ」
愛莉は寝ぼけ眼で目をこすりながら僕に言う。
「今日振り替え休日だよ?」
え?
慌ててカレンダーを見る。愛莉の言う通りだった。
よし、ゆっくり寝よう。
ぽかっ
「他人を起こしておいて自分は寝るなんていい度胸してるね。でもそんな度胸は必要ありませ~ん」
仕方なく起きると着替える。
「今日の予定はいれてるんでしょ?」
「ああ、泊まるホテルまで予約してある」
「わ~い、お泊りだ」
「ただ明日渡辺班でパーティやるそうだから」
「うん、準備しておくね」
愛莉は部屋を出ていく。恐らく朝食の準備だろう。
ダイニングに行くと良い匂いが漂ってくる。
「冬夜君先に顔洗ってきても良いよ」
愛莉に言われるがまま顔を洗いに行く。
鏡を見る。寝ぐせはついてない。
準備をしてさっと髪を整えるとダイニングに戻る。
愛莉が皿をテーブルに並べている。それを手伝ってやった。
母さんが、起きてくるころには朝食の準備はできていた。母さんは父さんを起こしに行く。
そうして朝食の時間になる。
「いつもごめんなさいね」
母さんが謝る。
「良いんです、好きでやってるんだから」
愛莉は笑顔でそう言う。
「今日はお出かけするんでしょ?」
母さんが愛莉に念を押す。
「はい!冬夜君が泊るところ用意してくれてるって」
「そうかい、のんびりしておいで」
「ありがとうございます」
朝食が終われば、愛莉は食器を片付けだす。さすがに母さんが自分がやるからお出かけの準備でもしてなさいと言う。
初めは自分がやると言っていた愛莉も、母さんの必死の説得に自分が引き下がることに。
「母さんがやるって言ってるんだからやらせとけばいいじゃないか?」と言うと「料理するだけして片づけないなんてなんか後ろめたくて」と愛莉が言う。
「役割分担て割り切ったほうが良い。多分母さんも困ってると思う」
「そうなのかな~?」
「大丈夫だよ、愛莉はまだ学生なんだから。少しくらい母さんの仕事残しておいてやらないと」
多分僕の言ってる事は正しい。愛莉が働く分母さんのやることが無くなって、何もすることが無くなって困ってる。勉強もしながら家事の手伝いまでさせて愛莉にもしもの事があれば遠坂家に申し訳が立たない。きっとそう思ってる。
その事を愛莉に説明すると、愛莉は渋々承諾した。
愛莉は僕の勉強スケジュールを管理すると言い出している。それは、僕が前期で倒れてしまったから。だから適度な休みを勉強の合間に挟んでいる。
なら僕は愛莉の仕事を管理してやらなきゃいけない。休日には適度に外に連れ出して愛莉を休めてやるのが僕の役割。
僕は先に着替えリビングで寛いでいると愛莉が後からやってきた。
「準備出来たよ~」
「じゃ、行ってくるよ」と父さんたちに一言告げると「気をつけてな」と一言もらう。
車に乗り込むと愛莉が「どこに行くの?」と一言いう……。
「一度通ってみたいコースがあったんだ。途中に蕎麦屋もあるしそっちに行こうかなって」
「は~い」
そう言うと僕は車を動かした。
(2)
「花菜、起きて。もう昼になるよ」
「ん……」
私は目が覚めると、かずさんが料理をしていた。
料理と言ってもインスタントラーメンと炒飯だけど。
テーブルにつくと「頂きます」と言ってラーメンをすする。
「今日はバイト休みだろ?」
かずさんが聞いてくるので頷くと「良かった、僕も部活休むことにしました」と言って微笑んだ。
昼食を終えると私が片付ける。かずさんも手伝ってくれた。
その後私たちは街ブラデート。
ペアのブレスレットを買うと互いに交換。
ホテルにチェックインして、寛ぐ。
かずさんは元々は口数が少ない部類の男性らしい。
でも、気まずいとかそういう雰囲気はない。
そばにいてくれるだけで安心するというタイプの人。
テレビをつけると、クリスマスイブの特番をやっている。二人静かにテレビを見ていれば、短日の今日この頃。あっという間に窓から見える風景は暗くなる。
「そろそろ夕食にしましょうか?」
かずさんがそう言うと、私たちは予約をしてあったレストランに入る。
コースも予約しておいた。
料理が来る前にと、かずさんにプレゼントを渡す。
「さっきブレスレットをもらったからいいですよ」とかずさんは言うけど「もう準備してあったから」と私は渡す。
中身は手編みのマフラー。
「大切に使わせていただきます」
かずさんに喜んでもらえてよかった。
「こんな事なら僕も何か用意しておくべきでした」とかずさんが言う。
「気にしないで、なんとなく作ってみただけだから」とかずさんに言う。
かずさんはお酒が入ると饒舌になるようだ。
「あなたみたいな素敵な人と出会えてよかった」とか「こんなに幸せな気分になれたのは初めてだとか」聞いてるだけで恥ずかしくなる言葉を連ねていく。彼なりに私を想ってのことなのだろう、甘んじてそれを受け入れる。
食事が終わるとまだ時間はあるなと呟き、私を連れて駅ビルにもどる。かずさんは私に財布をプレゼントしてくれた。
「マフラーのお返しです」とかずさんは囁く。
その後ホテルに向かう途中、かずさんはドラッグストアに立ち寄った。
「ここで待ってて」とかずさんは言い、一人店内に入っていく。
何を買っているのかはおおよそ見当はついた。でもそれは気づかないふりをした。
かずさんが買い物を済ませると私たちはホテルに戻った。
露天風呂にに入ると一息つく。
夜空がとても綺麗だった。
今夜に備え体を念入りに洗う。しかしそれは期待外れに終わる。彼は酔いもあって眠っていた。
このまま寝かせておいた方がいいのか?悩んだ末彼を起こす。
ハッと目を覚まし身を起こすと私を抱きしめる。
私は彼を受け入れた。
見た目と行動のギャップに笑えば、彼は顔を赤くする。
「すいません、こういうのに慣れていなくて……いつも恋人に頼りっぱなしだったから」とかずさんは弁解する。
「いいんですよ、気にしないで」
本当になれていなかったんですね。私はかずさんに囁く。
「初めてだったんですよ……」と。
「そうだったんですか、いい頃あいだと思ったんですが……すいません」
どうか謝らないで。私は今凄く幸せな気分なのですよ。
二人で夢を抱いて寝る。
同じ夢を見ていれば、なおの事いいのにな。
(3)
ヂリリリ……。
目覚まし時計を止める。
窮屈なベッドを抜け出し服を着替える。
元々そんなに広くなかった部屋は新たな住人の荷物によって、さらにスペースがなくなっていた。
その新たな住人は僕の狭いベッドに無理矢理入り込んで眠りについている。
ため息を吐く。どうしてこうなったんだろう?
パソコンを付けて今日のニュースに目を通す。
熱愛報道とかスポーツ関連のニュースが主だった。
そのあとSNSを一通り見ていた。
すると後ろから抱きつく新たな住人の姿が。
「おはようの一言くらいあってもいいんじゃない?」
普段の衣装からは想像もつかないくらいギャップのある可愛いパジャマを来て彼女・志水晶は立っていた。
話は遡る。
真夜中に突然訪れる来訪者。
彼女は大きなカバンを持っている。
また呼び鈴を連打されても困るので素直に戸を開ける。
すると彼女は有無も言わさず部屋に上がり込んで、荷物を広げる。
衣類やドライヤー、化粧品などを部屋のスペースを見つけては並べていく。
「あの、これは一体どういう事なんでしょうか?」
「見てわからない?泊まりに来たのよ……いえ、同棲しに来たと言った方が良いのかしら」
「同棲って……」
ここ1LDKですよ、そんなに広くないですよ。
「ちょっと狭いけど……まあ、こんなものでしょうね」
一人で悩んで一人で納得るする志水さん。
「あの、どうしてこうなったのかいまいち理解しかねるんですけど」
「私と付き合うことになったんでしょ?同棲くらい普通じゃない?」
志水さんの普通の尺度を一度詳しく説明してほしいと思った。
「大丈夫よ、料理くらいなら出来るように練習してきたから」
「良く親御さん承諾しましたね」
どこの馬の骨とも知らない僕と同棲、普通なら反対されそうだけど。
「自己責任で動きなさいと言われたわ。何の問題も無いわよ……ただ」
ただ?
「一度家に連れてきなさいと言ったわ。まだ付き合って一月も立ってないのに早いわよね」
そう言って志水さんは笑う。
遠坂さん教えてください。これが乙女のとる行動なのですか?
ああ、彼女も片桐君の家に泊まり込んでいるんでしたね。しかも両家の両親の公認のもと。
「喉が渇いたわ……近くにコンビニがあったわね」
僕は黙ってコーヒーを差し出した。
「あら?気が利くのね。ありがとう」
そうして奇妙な同棲生活が始まった。
「今日は何の日か覚えてる?」
「……クリスマスイブですか?」
「それもあるけど、前に言ったと思うんだけど」
思いだしたくもない事を想いだした。
今日は志水さんの両親に対面する日。
何もわざわざイブの日にしなくても。
当然バイトはありますよ。でもバイトが終わった後でいいと彼女が言うので渋々承諾したわけで。
バイトが終わる頃、志水さんは店に訪れた。
迎えに来た。そう言って彼女は店の外で待機してる。
裏から逃げ出すか?アパートの部屋の鍵は持っている。逃げても無駄だ。
大人しく彼女と共に彼女の家に向かう。
大学から車で30分ほどのところに彼女の家はあった。
パッと見思っていたような豪邸ではなかった。
リムジンは家の門の前に止めると、僕達を降ろし去って行った。
思えばこの家の車庫にリムジンを止めるにはちと狭い。
志水さんは家の鍵をバッグから取り出すと開錠する。扉を開けると真新しい家のにおいがする。
生活感のない、まるでモデルハウスのような状態。
「あの、ご両親は?」
「間もなく来るはずよ」
両親とも、働いてるのかな?
あまり立ち入った話は聞かないほうが良いな。
志水さんは自分の部屋に案内する。真新しい調度品が陳列してある。
ベッドは当然の様にダブルベッドが置かれてある。
布団もシーツもホテルのそれを思わせるかのようにびしっとしてある。
「飲み物とってくるからちょっと待ってて」
そう言うと志水さんは部屋を出ていった。
しかしこう何か不自然なものを感じる。その正体を探っていた。
必要なものは何でもそろってある、女性特有のコーディネートがされた部屋だった。
しかしそれら自体に違和感を覚える。何だろう……この違和感。
志水さんが飲み物をもって戻ってきた。部屋に置かれてあるテーブルにコップを二つ並べるとデトックスウォーターが注がれる。
「これも手作りなのかい?」
僕がそう言うと、志水さんは口角を上げて頷いた。
「美味しいです」
「ありがとう、誰かの為に作ったのも褒めてもらえたのも初めてよ」
多分事実を述べてるだけなんだろう。その笑顔に嘘偽りは感じられなかった。歪んだ愛情でも報われるときはある。それは彼女が証明してみせた。
歪んだ愛情。
何をもってそう言ってるのか自分でもわからなかった。彼女はただ考え方が捻じれているだけで愛情自体はストレートに表現しているのかもしれない。ぶつけ方を間違っているかもしれないけど。
方法が歪んでいるだけでその真意は遠坂さんが言うように純粋なのかもしれない。やり方が分からないだけで。それは周りの環境がそうさせているのかもしれないな。
ピンポーン
誰かが来たようだ。呼び鈴が鳴る。
「来たようね……」
来客の正体を知っているらしい志水さんは僕を呼び玄関に出た。
玄関のカギを開ければドアを開くと、夫婦らしい二人組が立っていた。
「晶ちゃん久しぶり、元気だった」
「元気です。お久しぶりです」
「晶ちゃん一人で大丈夫だったかい?心細くなかったかい」
「大丈夫よ父さん。いらっしゃい」
なんだろう?この不自然な会話。
同棲の許可は出てたのは知ってるけどいらっしゃいって……。
父さんと呼ばれた人が僕に気づくと会釈をする。
「君が晶の彼氏さんかな?名前は?」
「さ、酒井善幸です」
その人は僕の全身をさぐり不審なところがないかを探っている。納得すると手を差し出した。
「私が晶の父親です、よろしく」
僕はその手を握り「こちらこそよろしくお願いします」と挨拶しておいた。
「それにしても、随分綺麗だな。まだ引っ越してないのか?」
!?
今なんておっしゃいました?
「年内にはやってしまおうと思っているんだけれど、折角だからクリスマスプレゼントにと思って」
「ぷれ……ぜんと?」
「ん?酒井君にはまだ話してなかったのかい?」
「ええ、みんな集まってから食事しながらでもと思って」
何か大きな間違いを犯してしまった気がする。
食事は全て彼女の手料理だった。
初めてだという彼女の料理は凝っている、世間一般的なクリスマス料理をすべて作っていた。
真新しいテーブルに着くと、まずは乾杯といく。
食事も美味しかった……と、思う。さっきの言葉が気になって味が良く分からないほど頭は混乱していた。
「志水さんさっきの話だけど、一体どういうことか説明してくれないかな?」
「ああ、そうね。先ず付き合いだしたから同棲は当然って言うのは説明したわね?」
納得はしてないけど、とりあえず話は聞いたね。
「で、取りあえずの荷物を用意していったんだけどとてもじゃないけど入り切れるほどの部屋の広さじゃない。そこで父さんに相談したの。そしたらすぐに入れる物件をさがすからそこに引っ越しなさいって」
「はい?」
「狭い家だけどアパートよりはマシでしょ?あなたの部屋もちゃんと用意してあるわ」
「あの、凄く根本的な質問なんだけど僕も引っ越すことが前提なわけ?」
「そうよ?いけなかった?」
うわぁ……すごく純粋な人なのは間違いないけど……徹底した深窓の令嬢なんだな。言い方を変えたら単なるあほの子だ。
そんな顔して「いけなかった?」って断れるわけないじゃないですか。ていうか契約交わす前に聞いてくださいよ。あと父親の目線がすごく気になるんですけど。
「この家じゃ不満なのかな?」
そういう問題じゃなくてですねお父さん、僕の生活を根底から変えるような話をなぜ事前にしてもらえなかったのかが疑問でしてね。ここからだとバイトに行くのも大変なんですけど。
「いやあ、ここからだと学校遠いし、バイト行くのもちょっと不便だなあって」
「バイト?」
「彼バイトをしているの、大学近くの喫茶店で」
志水さんが付け足しで説明する。
「それなら君にも送迎を手配しよう。それなら問題ないだろう」
「そうですね」って言うと思いましたか?
根本的に何か間違っているでしょう?送迎付きでバイトに行くって色々突っ込みどころがあると思うんですけどね。
「さっきから話を聞いてればこの酒井君ってのはそんなに娘と生活するのがいやなのかい?」
なんかあいさつした時の印象と大分変ってるよお母さん。ここで嫌ですって言える勇気がある人がいるなら挙手してほしいくらいの剣幕で睨みつけられてる。
「そう……なのか……?」
うわあ、お父さんまでなんか稲光が弾けてそうなオーラを纏って僕をにらみつけてる。
「二人とも落ち着いて、ちょっと戸惑ってるだけよ、彼は」
志水さんがそう言うと二人のオーラが少しだけ和らいだ。
「まあ、最初はそうよね。誰でも戸惑うわね」
「大丈夫だ、娘がちゃんと教えてくれるよ」
あの、二人共同棲に賛成っていうけど、僕の意思が介入する隙間は1ミリもないんですね。
僕の意思とは裏腹に引っ越しは冬休みの間に行われることになった。
バイトは送迎がつくらしい。
送迎付きでバイトってただの馬鹿じゃないのかと思ったけどそんな事言おうものなら沈められてしまいそうなので言わずにいた。
話が終わり食事が終わると、両親は帰って行った。
二人で食器を洗い片づけると、ケーキを食べながら話した。
「突然の事で驚いたでしょ、サプライズしてみたんだけど……」
驚いたっていうかまさか生活環境まで変えられるとは思ってもみませんでしたよ。
サプライズというか正に文字通りの不意打ちでしたね。
「いいんですか?まだ付き合い始めて一月経たないうちから、同棲ってありえるんですかね?」
「私と同棲するのいや?」
だからそういう選択肢が一択しかない質問やめてもらえませんか?
その表情誰から学んできたんですか?あなたの親衛隊なら即答するところですよ。最近大人しいと思っていたら水面下でこんなことを計画してたんですね。
「付き合いだしてすぐ同棲する人もいるそうだから、私は問題ないわよ」
手段が多分恐ろしく違うと思うんですけどね。大学生のクリスマスプレゼントに家をプレゼントなんて少なくとも僕はきいたことありませんよ。……僕のクリスマスプレゼントが凄く安っぽいものに見えるじゃないですか。
「遅れてしまったけど、これ……志水さんへのプレゼント。」
カードケースの入った箱を手渡した。ね?凄くちっぽけなものでしょう。
「嬉しいわ……大切に保管しておくわね」
「むしろ使って欲しいんだけど」
「肌身離さずってことね……あなたも考えてくれてるのね」
その時志水さんの顔が赤く染まっていることに気がついた。それは今飲んでるドリンクのせいなんかじゃない。本当に喜んでくれているんだと思う。
へえ、そういう可愛い所もあるんだな。いつもとのギャップに思わず胸がドキッとした。
遠坂さんの言う通りなのかもしれない。彼女も実はただの恋する乙女だったのかもしれない。
その時はまだ自分の中に芽生えた異変を気づくことはなかった。
(4)
「綺麗~」
寒空の下露天風呂に入り冬の星空を見れば、体の芯から暖まり心も温まる。
「来て良かったね~」
「そうだな~」
冬夜君もやっと少し成長したみたい。一緒にお風呂に入っても動揺しなくなった。それは嬉しい事なんだけど少し寂しい気持ちもする。少しだけでもいいからドキドキさせてみたい。いつもドキドキさせられるのは私の方だから。
ちょっとだけ、悪戯してみる。冬夜君の腕を抱きしめ私の胸を押し当てる。さすがに動揺したらしい冬夜君は慌てて離れようとするも、私は逃がさない。
観念したのかそのまま星空を見上げている。星座の事なんてこれっぽっちもしらないけど天空のイルミネーションはとてもきれいで輝いて見える。
しばらく自然のプラネタリウムを見ていると冬夜君は突然立ち上がる。もう飽きちゃったの?
「ごめん、これ以上無理。のぼせそう」
そう言って冬夜君は温泉を出た。
私も入り過ぎるとのぼせちゃうと思い、温泉から出る。
浴衣を切ると冬夜君はベランダにでて火照った体を冷ましながら空を見上げている。
「湯冷めしちゃうよ」
私は冬夜君の背後から抱きしめる。まだ体が熱い。私の体が冷えてるのかな?暖まる。抱き合っていれば寒い夜でも暖まるって本当だね。
「そうだな、そろそろ中にもどるよ」
そう言って冬夜君は私から離れて部屋に入る。今日は私の中に入ってきてもらえないの?意地悪なんだから……。
私達の旅行はいつも朝が早い。だから早く眠りにつく。
テレビの音だけが鳴る中冬夜君はベッドに入る。私が寂しそうに立っていると自分の掛布団を少しめくり「おいで」という。ちゃんと私の心覗いてくれてるんだね。良かった。
冬夜君と体を温め合いながら眠りにつく。
「寒くないか?」
寒くないよ……あなたがそばにいるから。それだけで体が温まるの。
「なんか選択ミスったかな。クリスマスに温泉旅行ってどうかなって思ったけど」
忘れたの?冬夜君と一緒にならどこへだって行くよ。どこでもいい想い出作れると思うから。
「年越しはどこへ行こうか?家でのんびりすごすか?」
「う~ん……それでもいいよ」
「愛莉は働きすぎ注意だぞ!」
「はい」
「年が明けたら初詣……どこにする?」
「春肥神社でいいんじゃない?」
「また皆で集まるのかな?」
「きっとね、明日になれば分かるんじゃないかな?」
明日は皆と騒ぐ約束だから。
「あ、そうだ愛莉これ……」
「?」
箱を開けると綺麗なピンク色の宝石の指輪が入っていた。サイズ覚えててくれたんだ。私からもプレゼントあるよ。
冬夜君にそれをあげると「ありがとう」と喜んでいた。どういたしまして。
その後も冬夜君と密着したまま話をしていた。お互いの顔を見てはキスをしたり。当たり前の愛し方をしていた。それだけで良かった。
やがて突然消える冬夜君の声。
「冬夜君?」
スースーと寝息をたてて眠っている冬夜君。そっと灯りを落とす。
冬夜君をまるで抱き枕の様にして眠る私。
この温もりがいつまでもつづきますように。
ピピピピ……
僕はアラームを止める。
雪は降らないけど霜は降りる、
寒さも本格化してきた。
今日は月曜日1限目から入ってある。
なのに珍しく愛莉はのんびりと寝ている。
「愛莉、今日月曜だぞ」
愛莉は寝ぼけ眼で目をこすりながら僕に言う。
「今日振り替え休日だよ?」
え?
慌ててカレンダーを見る。愛莉の言う通りだった。
よし、ゆっくり寝よう。
ぽかっ
「他人を起こしておいて自分は寝るなんていい度胸してるね。でもそんな度胸は必要ありませ~ん」
仕方なく起きると着替える。
「今日の予定はいれてるんでしょ?」
「ああ、泊まるホテルまで予約してある」
「わ~い、お泊りだ」
「ただ明日渡辺班でパーティやるそうだから」
「うん、準備しておくね」
愛莉は部屋を出ていく。恐らく朝食の準備だろう。
ダイニングに行くと良い匂いが漂ってくる。
「冬夜君先に顔洗ってきても良いよ」
愛莉に言われるがまま顔を洗いに行く。
鏡を見る。寝ぐせはついてない。
準備をしてさっと髪を整えるとダイニングに戻る。
愛莉が皿をテーブルに並べている。それを手伝ってやった。
母さんが、起きてくるころには朝食の準備はできていた。母さんは父さんを起こしに行く。
そうして朝食の時間になる。
「いつもごめんなさいね」
母さんが謝る。
「良いんです、好きでやってるんだから」
愛莉は笑顔でそう言う。
「今日はお出かけするんでしょ?」
母さんが愛莉に念を押す。
「はい!冬夜君が泊るところ用意してくれてるって」
「そうかい、のんびりしておいで」
「ありがとうございます」
朝食が終われば、愛莉は食器を片付けだす。さすがに母さんが自分がやるからお出かけの準備でもしてなさいと言う。
初めは自分がやると言っていた愛莉も、母さんの必死の説得に自分が引き下がることに。
「母さんがやるって言ってるんだからやらせとけばいいじゃないか?」と言うと「料理するだけして片づけないなんてなんか後ろめたくて」と愛莉が言う。
「役割分担て割り切ったほうが良い。多分母さんも困ってると思う」
「そうなのかな~?」
「大丈夫だよ、愛莉はまだ学生なんだから。少しくらい母さんの仕事残しておいてやらないと」
多分僕の言ってる事は正しい。愛莉が働く分母さんのやることが無くなって、何もすることが無くなって困ってる。勉強もしながら家事の手伝いまでさせて愛莉にもしもの事があれば遠坂家に申し訳が立たない。きっとそう思ってる。
その事を愛莉に説明すると、愛莉は渋々承諾した。
愛莉は僕の勉強スケジュールを管理すると言い出している。それは、僕が前期で倒れてしまったから。だから適度な休みを勉強の合間に挟んでいる。
なら僕は愛莉の仕事を管理してやらなきゃいけない。休日には適度に外に連れ出して愛莉を休めてやるのが僕の役割。
僕は先に着替えリビングで寛いでいると愛莉が後からやってきた。
「準備出来たよ~」
「じゃ、行ってくるよ」と父さんたちに一言告げると「気をつけてな」と一言もらう。
車に乗り込むと愛莉が「どこに行くの?」と一言いう……。
「一度通ってみたいコースがあったんだ。途中に蕎麦屋もあるしそっちに行こうかなって」
「は~い」
そう言うと僕は車を動かした。
(2)
「花菜、起きて。もう昼になるよ」
「ん……」
私は目が覚めると、かずさんが料理をしていた。
料理と言ってもインスタントラーメンと炒飯だけど。
テーブルにつくと「頂きます」と言ってラーメンをすする。
「今日はバイト休みだろ?」
かずさんが聞いてくるので頷くと「良かった、僕も部活休むことにしました」と言って微笑んだ。
昼食を終えると私が片付ける。かずさんも手伝ってくれた。
その後私たちは街ブラデート。
ペアのブレスレットを買うと互いに交換。
ホテルにチェックインして、寛ぐ。
かずさんは元々は口数が少ない部類の男性らしい。
でも、気まずいとかそういう雰囲気はない。
そばにいてくれるだけで安心するというタイプの人。
テレビをつけると、クリスマスイブの特番をやっている。二人静かにテレビを見ていれば、短日の今日この頃。あっという間に窓から見える風景は暗くなる。
「そろそろ夕食にしましょうか?」
かずさんがそう言うと、私たちは予約をしてあったレストランに入る。
コースも予約しておいた。
料理が来る前にと、かずさんにプレゼントを渡す。
「さっきブレスレットをもらったからいいですよ」とかずさんは言うけど「もう準備してあったから」と私は渡す。
中身は手編みのマフラー。
「大切に使わせていただきます」
かずさんに喜んでもらえてよかった。
「こんな事なら僕も何か用意しておくべきでした」とかずさんが言う。
「気にしないで、なんとなく作ってみただけだから」とかずさんに言う。
かずさんはお酒が入ると饒舌になるようだ。
「あなたみたいな素敵な人と出会えてよかった」とか「こんなに幸せな気分になれたのは初めてだとか」聞いてるだけで恥ずかしくなる言葉を連ねていく。彼なりに私を想ってのことなのだろう、甘んじてそれを受け入れる。
食事が終わるとまだ時間はあるなと呟き、私を連れて駅ビルにもどる。かずさんは私に財布をプレゼントしてくれた。
「マフラーのお返しです」とかずさんは囁く。
その後ホテルに向かう途中、かずさんはドラッグストアに立ち寄った。
「ここで待ってて」とかずさんは言い、一人店内に入っていく。
何を買っているのかはおおよそ見当はついた。でもそれは気づかないふりをした。
かずさんが買い物を済ませると私たちはホテルに戻った。
露天風呂にに入ると一息つく。
夜空がとても綺麗だった。
今夜に備え体を念入りに洗う。しかしそれは期待外れに終わる。彼は酔いもあって眠っていた。
このまま寝かせておいた方がいいのか?悩んだ末彼を起こす。
ハッと目を覚まし身を起こすと私を抱きしめる。
私は彼を受け入れた。
見た目と行動のギャップに笑えば、彼は顔を赤くする。
「すいません、こういうのに慣れていなくて……いつも恋人に頼りっぱなしだったから」とかずさんは弁解する。
「いいんですよ、気にしないで」
本当になれていなかったんですね。私はかずさんに囁く。
「初めてだったんですよ……」と。
「そうだったんですか、いい頃あいだと思ったんですが……すいません」
どうか謝らないで。私は今凄く幸せな気分なのですよ。
二人で夢を抱いて寝る。
同じ夢を見ていれば、なおの事いいのにな。
(3)
ヂリリリ……。
目覚まし時計を止める。
窮屈なベッドを抜け出し服を着替える。
元々そんなに広くなかった部屋は新たな住人の荷物によって、さらにスペースがなくなっていた。
その新たな住人は僕の狭いベッドに無理矢理入り込んで眠りについている。
ため息を吐く。どうしてこうなったんだろう?
パソコンを付けて今日のニュースに目を通す。
熱愛報道とかスポーツ関連のニュースが主だった。
そのあとSNSを一通り見ていた。
すると後ろから抱きつく新たな住人の姿が。
「おはようの一言くらいあってもいいんじゃない?」
普段の衣装からは想像もつかないくらいギャップのある可愛いパジャマを来て彼女・志水晶は立っていた。
話は遡る。
真夜中に突然訪れる来訪者。
彼女は大きなカバンを持っている。
また呼び鈴を連打されても困るので素直に戸を開ける。
すると彼女は有無も言わさず部屋に上がり込んで、荷物を広げる。
衣類やドライヤー、化粧品などを部屋のスペースを見つけては並べていく。
「あの、これは一体どういう事なんでしょうか?」
「見てわからない?泊まりに来たのよ……いえ、同棲しに来たと言った方が良いのかしら」
「同棲って……」
ここ1LDKですよ、そんなに広くないですよ。
「ちょっと狭いけど……まあ、こんなものでしょうね」
一人で悩んで一人で納得るする志水さん。
「あの、どうしてこうなったのかいまいち理解しかねるんですけど」
「私と付き合うことになったんでしょ?同棲くらい普通じゃない?」
志水さんの普通の尺度を一度詳しく説明してほしいと思った。
「大丈夫よ、料理くらいなら出来るように練習してきたから」
「良く親御さん承諾しましたね」
どこの馬の骨とも知らない僕と同棲、普通なら反対されそうだけど。
「自己責任で動きなさいと言われたわ。何の問題も無いわよ……ただ」
ただ?
「一度家に連れてきなさいと言ったわ。まだ付き合って一月も立ってないのに早いわよね」
そう言って志水さんは笑う。
遠坂さん教えてください。これが乙女のとる行動なのですか?
ああ、彼女も片桐君の家に泊まり込んでいるんでしたね。しかも両家の両親の公認のもと。
「喉が渇いたわ……近くにコンビニがあったわね」
僕は黙ってコーヒーを差し出した。
「あら?気が利くのね。ありがとう」
そうして奇妙な同棲生活が始まった。
「今日は何の日か覚えてる?」
「……クリスマスイブですか?」
「それもあるけど、前に言ったと思うんだけど」
思いだしたくもない事を想いだした。
今日は志水さんの両親に対面する日。
何もわざわざイブの日にしなくても。
当然バイトはありますよ。でもバイトが終わった後でいいと彼女が言うので渋々承諾したわけで。
バイトが終わる頃、志水さんは店に訪れた。
迎えに来た。そう言って彼女は店の外で待機してる。
裏から逃げ出すか?アパートの部屋の鍵は持っている。逃げても無駄だ。
大人しく彼女と共に彼女の家に向かう。
大学から車で30分ほどのところに彼女の家はあった。
パッと見思っていたような豪邸ではなかった。
リムジンは家の門の前に止めると、僕達を降ろし去って行った。
思えばこの家の車庫にリムジンを止めるにはちと狭い。
志水さんは家の鍵をバッグから取り出すと開錠する。扉を開けると真新しい家のにおいがする。
生活感のない、まるでモデルハウスのような状態。
「あの、ご両親は?」
「間もなく来るはずよ」
両親とも、働いてるのかな?
あまり立ち入った話は聞かないほうが良いな。
志水さんは自分の部屋に案内する。真新しい調度品が陳列してある。
ベッドは当然の様にダブルベッドが置かれてある。
布団もシーツもホテルのそれを思わせるかのようにびしっとしてある。
「飲み物とってくるからちょっと待ってて」
そう言うと志水さんは部屋を出ていった。
しかしこう何か不自然なものを感じる。その正体を探っていた。
必要なものは何でもそろってある、女性特有のコーディネートがされた部屋だった。
しかしそれら自体に違和感を覚える。何だろう……この違和感。
志水さんが飲み物をもって戻ってきた。部屋に置かれてあるテーブルにコップを二つ並べるとデトックスウォーターが注がれる。
「これも手作りなのかい?」
僕がそう言うと、志水さんは口角を上げて頷いた。
「美味しいです」
「ありがとう、誰かの為に作ったのも褒めてもらえたのも初めてよ」
多分事実を述べてるだけなんだろう。その笑顔に嘘偽りは感じられなかった。歪んだ愛情でも報われるときはある。それは彼女が証明してみせた。
歪んだ愛情。
何をもってそう言ってるのか自分でもわからなかった。彼女はただ考え方が捻じれているだけで愛情自体はストレートに表現しているのかもしれない。ぶつけ方を間違っているかもしれないけど。
方法が歪んでいるだけでその真意は遠坂さんが言うように純粋なのかもしれない。やり方が分からないだけで。それは周りの環境がそうさせているのかもしれないな。
ピンポーン
誰かが来たようだ。呼び鈴が鳴る。
「来たようね……」
来客の正体を知っているらしい志水さんは僕を呼び玄関に出た。
玄関のカギを開ければドアを開くと、夫婦らしい二人組が立っていた。
「晶ちゃん久しぶり、元気だった」
「元気です。お久しぶりです」
「晶ちゃん一人で大丈夫だったかい?心細くなかったかい」
「大丈夫よ父さん。いらっしゃい」
なんだろう?この不自然な会話。
同棲の許可は出てたのは知ってるけどいらっしゃいって……。
父さんと呼ばれた人が僕に気づくと会釈をする。
「君が晶の彼氏さんかな?名前は?」
「さ、酒井善幸です」
その人は僕の全身をさぐり不審なところがないかを探っている。納得すると手を差し出した。
「私が晶の父親です、よろしく」
僕はその手を握り「こちらこそよろしくお願いします」と挨拶しておいた。
「それにしても、随分綺麗だな。まだ引っ越してないのか?」
!?
今なんておっしゃいました?
「年内にはやってしまおうと思っているんだけれど、折角だからクリスマスプレゼントにと思って」
「ぷれ……ぜんと?」
「ん?酒井君にはまだ話してなかったのかい?」
「ええ、みんな集まってから食事しながらでもと思って」
何か大きな間違いを犯してしまった気がする。
食事は全て彼女の手料理だった。
初めてだという彼女の料理は凝っている、世間一般的なクリスマス料理をすべて作っていた。
真新しいテーブルに着くと、まずは乾杯といく。
食事も美味しかった……と、思う。さっきの言葉が気になって味が良く分からないほど頭は混乱していた。
「志水さんさっきの話だけど、一体どういうことか説明してくれないかな?」
「ああ、そうね。先ず付き合いだしたから同棲は当然って言うのは説明したわね?」
納得はしてないけど、とりあえず話は聞いたね。
「で、取りあえずの荷物を用意していったんだけどとてもじゃないけど入り切れるほどの部屋の広さじゃない。そこで父さんに相談したの。そしたらすぐに入れる物件をさがすからそこに引っ越しなさいって」
「はい?」
「狭い家だけどアパートよりはマシでしょ?あなたの部屋もちゃんと用意してあるわ」
「あの、凄く根本的な質問なんだけど僕も引っ越すことが前提なわけ?」
「そうよ?いけなかった?」
うわぁ……すごく純粋な人なのは間違いないけど……徹底した深窓の令嬢なんだな。言い方を変えたら単なるあほの子だ。
そんな顔して「いけなかった?」って断れるわけないじゃないですか。ていうか契約交わす前に聞いてくださいよ。あと父親の目線がすごく気になるんですけど。
「この家じゃ不満なのかな?」
そういう問題じゃなくてですねお父さん、僕の生活を根底から変えるような話をなぜ事前にしてもらえなかったのかが疑問でしてね。ここからだとバイトに行くのも大変なんですけど。
「いやあ、ここからだと学校遠いし、バイト行くのもちょっと不便だなあって」
「バイト?」
「彼バイトをしているの、大学近くの喫茶店で」
志水さんが付け足しで説明する。
「それなら君にも送迎を手配しよう。それなら問題ないだろう」
「そうですね」って言うと思いましたか?
根本的に何か間違っているでしょう?送迎付きでバイトに行くって色々突っ込みどころがあると思うんですけどね。
「さっきから話を聞いてればこの酒井君ってのはそんなに娘と生活するのがいやなのかい?」
なんかあいさつした時の印象と大分変ってるよお母さん。ここで嫌ですって言える勇気がある人がいるなら挙手してほしいくらいの剣幕で睨みつけられてる。
「そう……なのか……?」
うわあ、お父さんまでなんか稲光が弾けてそうなオーラを纏って僕をにらみつけてる。
「二人とも落ち着いて、ちょっと戸惑ってるだけよ、彼は」
志水さんがそう言うと二人のオーラが少しだけ和らいだ。
「まあ、最初はそうよね。誰でも戸惑うわね」
「大丈夫だ、娘がちゃんと教えてくれるよ」
あの、二人共同棲に賛成っていうけど、僕の意思が介入する隙間は1ミリもないんですね。
僕の意思とは裏腹に引っ越しは冬休みの間に行われることになった。
バイトは送迎がつくらしい。
送迎付きでバイトってただの馬鹿じゃないのかと思ったけどそんな事言おうものなら沈められてしまいそうなので言わずにいた。
話が終わり食事が終わると、両親は帰って行った。
二人で食器を洗い片づけると、ケーキを食べながら話した。
「突然の事で驚いたでしょ、サプライズしてみたんだけど……」
驚いたっていうかまさか生活環境まで変えられるとは思ってもみませんでしたよ。
サプライズというか正に文字通りの不意打ちでしたね。
「いいんですか?まだ付き合い始めて一月経たないうちから、同棲ってありえるんですかね?」
「私と同棲するのいや?」
だからそういう選択肢が一択しかない質問やめてもらえませんか?
その表情誰から学んできたんですか?あなたの親衛隊なら即答するところですよ。最近大人しいと思っていたら水面下でこんなことを計画してたんですね。
「付き合いだしてすぐ同棲する人もいるそうだから、私は問題ないわよ」
手段が多分恐ろしく違うと思うんですけどね。大学生のクリスマスプレゼントに家をプレゼントなんて少なくとも僕はきいたことありませんよ。……僕のクリスマスプレゼントが凄く安っぽいものに見えるじゃないですか。
「遅れてしまったけど、これ……志水さんへのプレゼント。」
カードケースの入った箱を手渡した。ね?凄くちっぽけなものでしょう。
「嬉しいわ……大切に保管しておくわね」
「むしろ使って欲しいんだけど」
「肌身離さずってことね……あなたも考えてくれてるのね」
その時志水さんの顔が赤く染まっていることに気がついた。それは今飲んでるドリンクのせいなんかじゃない。本当に喜んでくれているんだと思う。
へえ、そういう可愛い所もあるんだな。いつもとのギャップに思わず胸がドキッとした。
遠坂さんの言う通りなのかもしれない。彼女も実はただの恋する乙女だったのかもしれない。
その時はまだ自分の中に芽生えた異変を気づくことはなかった。
(4)
「綺麗~」
寒空の下露天風呂に入り冬の星空を見れば、体の芯から暖まり心も温まる。
「来て良かったね~」
「そうだな~」
冬夜君もやっと少し成長したみたい。一緒にお風呂に入っても動揺しなくなった。それは嬉しい事なんだけど少し寂しい気持ちもする。少しだけでもいいからドキドキさせてみたい。いつもドキドキさせられるのは私の方だから。
ちょっとだけ、悪戯してみる。冬夜君の腕を抱きしめ私の胸を押し当てる。さすがに動揺したらしい冬夜君は慌てて離れようとするも、私は逃がさない。
観念したのかそのまま星空を見上げている。星座の事なんてこれっぽっちもしらないけど天空のイルミネーションはとてもきれいで輝いて見える。
しばらく自然のプラネタリウムを見ていると冬夜君は突然立ち上がる。もう飽きちゃったの?
「ごめん、これ以上無理。のぼせそう」
そう言って冬夜君は温泉を出た。
私も入り過ぎるとのぼせちゃうと思い、温泉から出る。
浴衣を切ると冬夜君はベランダにでて火照った体を冷ましながら空を見上げている。
「湯冷めしちゃうよ」
私は冬夜君の背後から抱きしめる。まだ体が熱い。私の体が冷えてるのかな?暖まる。抱き合っていれば寒い夜でも暖まるって本当だね。
「そうだな、そろそろ中にもどるよ」
そう言って冬夜君は私から離れて部屋に入る。今日は私の中に入ってきてもらえないの?意地悪なんだから……。
私達の旅行はいつも朝が早い。だから早く眠りにつく。
テレビの音だけが鳴る中冬夜君はベッドに入る。私が寂しそうに立っていると自分の掛布団を少しめくり「おいで」という。ちゃんと私の心覗いてくれてるんだね。良かった。
冬夜君と体を温め合いながら眠りにつく。
「寒くないか?」
寒くないよ……あなたがそばにいるから。それだけで体が温まるの。
「なんか選択ミスったかな。クリスマスに温泉旅行ってどうかなって思ったけど」
忘れたの?冬夜君と一緒にならどこへだって行くよ。どこでもいい想い出作れると思うから。
「年越しはどこへ行こうか?家でのんびりすごすか?」
「う~ん……それでもいいよ」
「愛莉は働きすぎ注意だぞ!」
「はい」
「年が明けたら初詣……どこにする?」
「春肥神社でいいんじゃない?」
「また皆で集まるのかな?」
「きっとね、明日になれば分かるんじゃないかな?」
明日は皆と騒ぐ約束だから。
「あ、そうだ愛莉これ……」
「?」
箱を開けると綺麗なピンク色の宝石の指輪が入っていた。サイズ覚えててくれたんだ。私からもプレゼントあるよ。
冬夜君にそれをあげると「ありがとう」と喜んでいた。どういたしまして。
その後も冬夜君と密着したまま話をしていた。お互いの顔を見てはキスをしたり。当たり前の愛し方をしていた。それだけで良かった。
やがて突然消える冬夜君の声。
「冬夜君?」
スースーと寝息をたてて眠っている冬夜君。そっと灯りを落とす。
冬夜君をまるで抱き枕の様にして眠る私。
この温もりがいつまでもつづきますように。
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