優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

パーティ!

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(1)

「ふぁ~」

欠伸かため息か分からないけど大きく背筋を伸ばし、声を漏らした。
朝のんびり朝食を取りチェックアウトギリギリまで愛莉とゆったり寛いでいたら、結構集合時間ギリギリになった。
今日は、身内のグループ「渡辺班」の全集が掛かっていた日。
集合場所は駅前。
集合場所にいても誰とも会わなかった。
愛莉と相談すると駅ビルの中のコーヒーショップで時間を潰すことにした。
ここからなら、店内から集合場所を見渡すことが出来る。眠気覚ましにコーヒーを買ってきて、愛莉と待っていた。
愛莉は隣でカモミールを飲みながら僕と世間話をしている。

遠坂愛莉。

ちょっと不思議な子。世間的には何でもこなし、成績も優秀で綺麗な女性。けれどその実はすごい寂しがり屋でいつも傍にいないと不安になるらしい、可愛らしい駄々をこねては僕を困らせている。
けれどその我儘も愛情というフィルターを通してみれば、愛おしく思える。凄い甘えたがり屋さん。

「あら?あなた達もここで待っていたの?」

振り返ると、どことなくお嬢様的な女性が、背の低い男性を従えてやってきた。

「あ、恵美こんにちは~」

愛莉が振り返り女性に挨拶をする。江口さんはにこりと笑うと愛莉に挨拶をした。

「久しぶりね、片桐君もご機嫌いかが?」
「お久しぶり、楽しんでるよ」

彼女たちも隣に座り集合場所を観察している。
その間江口さん達と喋っていた。
彼女たちも昨日の夜はホテルのレストランで食事をして、そのまま泊まっていたらしい。福岡のイルミネーションは綺麗だったそうな。その綺麗さを懸命に伝える石原君。

「片桐君たちはどこに行ってたの?」

そんな互いの土産話をしていれば、次々と集まる人が見える。
それを確認すると僕達は、店を出て集合場所に向かう。

「お、冬夜。こんにちは」

渡辺君が僕達に気づくとそう言った。
総勢16名ともなると纏めるのも大変らしい。

「店は予約取ってある、早く行こう」

そうしてぞろぞろと飲食店に向かう僕達だった。
今年もやっている青色の照明を見ながら、横道に入ると静かな通りに入る。
雑居ビルの2階に店はあった。
今年最後の渡辺班の宴会場は、焼き鳥と刺身各種が自慢のリーズナブルな店だった。
皆ドリンクを手に、渡辺君の言葉を待つ。

「今年一年大変だったけど、来年も楽しくやろう」

渡辺君がそう言うと乾杯をする。宴の始まりだった。

男性陣はそれぞれ自分のパートナーに小皿に取り分けてもらってる。
僕は愛莉に愛莉が好きそうなものを取り分けて小皿に乗せ愛莉に渡す。

「はい、冬夜君」

愛莉がとっていたのは大体サラダだった。肉が無い全くない。せめて刺身でも選んでくれるかと思ったが、それもない。

「どうせ後から食べるんでしょ?だったら最初は野菜食べないと」

食べ物は次から次へとやってくる。
そうして食べながら歓談を楽しんでいると渡辺君が立ち上がりった。

「みんなが素面でいる間に済ませておこう。皆準備してきたか?」

準備してきたかというのは、おそらくメッセージグループに書いてあった告知の事だろう。
プレゼント交換会。それぞれカップルが選んだプレゼントを交換する会。
愛莉と選んだのはお揃いのマグカップ。旅行先で買ってきたものだ。
愛莉がバッグから取り出し向かいのカップルに手渡す。
僕の向かいのカップルは志水さんだった。
志水さんからプレゼントを受け取る。

「大事に使いなさいな」

酒井君は顔が青ざめている。そう言えば似たようなシチュエーションを誠たちと味わったな。
ちなみに誠たちのプレゼントは大人のおもちゃ。

「こ、こういう会ってそういうノリだろ?」

誠は慌てて弁明する。が、その必要はなかった。
皆が皆栄養剤だの滋養強壮ドリンクだのまあ、中には二つのワイングラスだのまだましに見えるものもあったけど。
そして志水さんの選んだ、ものは……。
薄くてつけてないのと同じくらい気持ちいらしい。
白い箱を手にして顔を赤くする愛莉。

「そういうノリなんでしょ?」

どこでそういう知識を身につけてきたのやら。


時間が立てば皆が各々席を移動して挨拶をする。席を立たずにひたすら食べる僕とそれを見張る愛莉。
志水さん達も席を移動しなかった。自分は動かなくても誰かが来る。そう思っていたのかもしれない
しかしここは合コンでもなんでもない。ただの身内の集まり。皆仲がいいもの同士集まって喋っている。
こんな状況に追い込まれたのは、志水さん自身初めてだったのかもしれない。食べながら考えた末、僕から話題を振ることにした。

「メッセージグル見たよ。二人同棲始めたんだって?」
「ええ、楽しくやっているわ」

酒井君の顔を見ると決してそうは思えなかったけど「そうなんだ」と話を合わせておいた。

「片桐君たちも半ば同棲みたいなものだと聞いたけど」
「親に世話になってるから同棲とは言い難いよ。色々気になるし」
「それは大変ね……」
「同棲かぁ」

愛莉が同棲の二文字に引っかかってるのに気がついた。愛莉の頭を撫でてやる。

「僕たちは大学卒業した後の楽しみにとっておくよ。その時には独り立ちするつもりだし」

そう言うと愛莉の機嫌は良くなり、僕に抱き着く。

「そういうスキンシップ取れるのが羨ましいわ。彼何もしてくれなくて」

その言葉はひときわ大きく聞こえたかのように思えた。思えただけじゃない。実際に周りの人に聞こえていたらしい。

「酒井……ひょっとして……まだなのか?」

誠がそう言うと酒井君は黙ったままだ。ここでの黙秘は肯定を意味する。

「同棲までしておいてまだなんてあり得ないだろ!」

誠がそう言うとそれを口火に次々とヤジが飛ぶ。
その野次に愛想笑いをしながらじっと耐える酒井君。

「まあ、酒井には酒井の事情があるんだろう」と渡辺君が宥めるも、愛莉は僕の顔を見てうーんと唸っている

「どうしたの?」

愛莉に尋ねると、愛莉は答えた。

「前も言ってたけどこのグループ草食系が多いのかな?って草食というか欲が全くない人もいるんだなって、冬夜君も特別な日でもない限り誘ってくれないし」

ここで僕の話を振るのはどうかと思うぞ。

「冬夜!お前もそうだったのか!?」

飛び火してきた。

「とーや!お前もまさか……なのか!?」と美嘉さんが言う。
「それは流石にないけど……愛莉に寂しい思いさせてるのか!?」とカンナが聞いてくる。
「さ、寂しい思いなんてさせてない……と、思う」
「寂しくなんかないよ、そういう気分になった時はそれなりに甘えさせてくれるから」

僕と愛莉で弁解するが、カンナ達は引き下がらない。

「愛莉、前にも言ったと思うがそれはただ甘やかしてるだけだぞ」と、カンナが言えば
「だから、私が寂しいなと思ってる時はちゃんといてくれてるからいいんだって」と、愛莉が返す。
「女に寂しいと思わせてる時点でダメだろ」と美嘉さんが言う。

さっきから様子が変だぞ、と渡辺君や誠を見ると、やれやれと言わんばかりに首を振ってる。ああ、そういうことね、と理解した。

「片桐君にも教育が必要なのかしら?」と江口さんが笑えば「ていうか男全員一度教育うけてもらっとけ」と美嘉さんが騒ぐ始末。
「教育って何のことですか?」と木元先輩が聞くと大島さんが説明して「なるほど」と苦笑いする。
「まあ、酒井君だってタイミングを待っているんだよ、なんか特別な日を狙ってるとかさ……彼なりに色々考えていると思うよ」と話題を元に戻す。
「クリスマスイブよりも特別な日があるというの?」と、志水さんが聞いてくれば「酒井君、クリスマスイブにも何もしなかったんですか?」と一ノ瀬さんが叫ぶ。
「まあ、何もしなかったというかできなかったというか……ははは」

酒井君は苦笑いするだけだった。しかしそれだけで今日の女性陣が許すわけがなく。

「前に言いましたよね!?24日はデートするって……店も終わって志水さん迎えに来て、それなのに何もしなかったんですか?」

ごめん、酒井君それは僕にも弁護できない。

「ある意味デートでしたよ。彼女とプレゼント交換もしたし。親にもあったし……」

酒井君が言うことに嘘はないと思う、その証拠に志水さんはうんうんと頷いている。聞いてる限りでは上手くいってるように感じる。ではなぜ彼はこんなに戸惑っているのか?

「プレゼント交換って何あげたんですか?」

一ノ瀬さんが聞いていた。

「普通にカードケースですよ。彼女カード沢山持ってるし。学生証なんかも入れられるし」

うん、普通だと思う。酒井君なりに考えて買ったんだろう。どうしても気になる言葉「プレゼント交換」と「親に会う」この言葉を発した時彼に躊躇いがを感じた。
親に会うのは普通に緊張するだろう。彼女の家で親にあったのなら何も無くても不思議じゃないと思う。
志水さんは名家のお嬢様だと聞いた。江口さんよりもきっと大きな家に住んでいるのだろう。あ、話をそっちに持って行けば彼を助けられるかも。

「酒井、志水さんの家はどんなところだった?」僕が行動に移すより先に渡辺君が動いていた。やはりこのままじゃまずいと思ったのだろうか?だけど話は予想通りにはいかなかった。

「知らないですよ。行ったことないし」酒井君は当然の様に答える。
「行ったことないって、お前親にあったんじゃないのか?」
「会いましたよ」
「じゃあ、お前の家で会ったのか?」
「僕の家と言うかまあ家なんでしょうね」

どうも歯切れの悪い酒井君の回答。そんな返事を続けていると……。

「どっかのお店で夕食でも一緒にしたのか?」懸命に話題をそらそうとするが。
「違うわ、私が手料理でもてなしたの親を」

志水さんが代わって答えた。に、しても親を手料理でもてなした?

「ああ、もうわけわからねえ!ちゃんと説明しろよ」美嘉さんがしびれを切らす。

「だから私達の家に私の両親を招待したの」

志水さんが事もなげに答える。言葉だけ聞いてると普通に聞こえる、けれど嫌な予感がするのは気のせい?

「私達の家って酒井君の家じゃないの?」江口さんが当たり前の質問をする。けれど……

「違うわ、それじゃ狭すぎて歓迎できない。新しい愛の住処ってところかしら」
「って事は引っ越したの?」
「まだよ、年内には終わらせるつもり。大した荷物もないから冬休みに入ったらしようと思う」

クリスマスプレゼント、新しい愛の住処、親を招待、これから引っ越す……なんか想像したくないけど、当たってほしくないけど、聞かないと僕の食がすすまない。

「志水さんのプレゼントってひょっとして……」

僕は恐る恐る志水さんに聞いてみた。当たってほしくない予感ほどよく当たるらしく、想像通りの回答が待っていた。

「家よ、彼との新居を前から準備していたの」

うわあ……。それまで騒いでいた皆がシーンと静まり返る。それほどにインパクトのある一言だった。

「家って一軒家?」

指原さんがおずおずと尋ねる。志水さんはうなずいた。
今まで散々語り合ってきた一般論を根底から覆す一言だった。その証拠に誰も口を開こうとしない。

「あれ?どうしたのみんな?私そんなにおかしなものプレゼントしたかしら?」

自覚が無いらしい。ないだけに性質が悪い。なんて言葉をかけて良いのか皆が戸惑っていた。
酒井君の言動も行動も皆説明がつく。どれだけ自分を失っていたとしてもその一言で全部を取り戻すだけの衝撃的な発言だった。

「志水さん、付き合い始めて一月ちょいでそれはちょっと……」

語尾を曖昧にしながらも、志水さんの行動に問題があるんじゃないかとニュアンスで話す愛莉。

「あら?付き合い始めてすぐ同棲を始める人もいるって書いてたわよ」

だったら、家くらい用意するでしょ?と志水さんは言う。
皆なんて言ったらいいのかわからない、それぞれの常識を覆す状況に頭がついていかないのか、静まり返っていた。
しかしここは宴の席。そんなこと関係ないと言わんばかりの人間が少なからずいる。

「何しーんとしてるんだよ!めでたい事じゃないか!もりあがっていこうぜ!」

カンナが突然話し出す。それにつられて美嘉さんも「そうだ、今日はめでたい席だ、大いに盛り上がろう」と言う。
何がめでたいのか全然わからない。それは愛莉も一緒だったようだ。二人で顔を見合わせる。
渡辺君も考えることを放棄したのか「酒井、おめでとう。幸せにな!」といい、酒井君の飲み物を注文する。
それを口切に皆が宴を再開する。

「酒井君、おめでとう幸せにね」とみんなが挨拶をしていく。

こんなに酒井君を哀れに思ったことは無い。
愛莉と二人でその様子を見ていると、カンナが「何辛気臭い顔してんだよ。そりゃ先越されたのは悔しいかもしれねーけど次は間違いなくお前たちの番なんだから!」と良く分からない励ましを受けた。
そんな感じでただのパーティは二人の今後を祝う会に様変わりした。
この勢いだと本当に学生婚しかねないな、酒井君。

(2)

志水さんの一言で狂気の宴と変貌したクリスマスパーティは2次会へ突入した。
いつものカラオケボックスでパーティルームを貸し切ってのパーティだ。
皆が勝手に僕達を祝ってくれている。
片桐君たちだけは、僕の心情をわかってもらえていたらしく、余り話しかけてこなかった。
そう。そっとしておいてほしかった。
今この人たちにどう弁明しても、通じないだろう。下手すれば袋叩きにあいかねない。ならば魔法の液体を飲んでこの狂気の宴に参加してみるのも手じゃないのか?
そう思っていた。思わなくてもそうさせられていただろう。半ばやけくそで宴に参加していた。
それを志水さんがどう受け止めたのか分からない。ただ「大丈夫?」と心配そうに聞いてきたのは覚えてる。
心配することを口実に体を密着させられれば、いつもは働いていた理性という安全弁も全く働かなくなり、彼女を押し倒していた。
何かわけのわからないことを言い、彼女にキスを迫れば、最初は嫌がっていた彼女もやがて眼を閉じ体を小刻みに震わせながらもそれを受け入れようとしていた。
さすがに不味いと誰かが気づいたのか、誰かが彼女から僕を引きはがす。
僕の意識はそこで止まっていた。

気づいたら朝になっていて新居のベッドで眠っていた。
頭痛がする。今日が2限目からでよかった。
2限目も休もうかと思ったけど、迎えの車が来ていることに気づくと諦めて普段着に着替えるとバッグを手に家を出た。
志水さんは1限目からだったらしく、先に行っていた。
引きはがされてから記憶がない。そして何も言わずに先に出る志水さんが想像つかない。
何か至らぬことをしたのではないだろうか?
そんな心配をすれば、不安になりまだ授業中であろう彼女のメッセージを送る。

「昨日は大変ご迷惑をおかけしました」

返事は即答だった。

「あなたも男なのだと知って少しは安心したわ。気にしないで」と……。

やっぱなにかあったんだな。
頭を抱える、未遂で終わっていた。そう思いたい。



授業を終えるとその足でバイト先に向かう。
一ノ瀬さんが先に来ていた。
一ノ瀬さんは僕を見ると目線をそらし休憩室を出ようとする。
反射的に一ノ瀬さんの腕を掴んでいた。
一ノ瀬さんは体をびくつかせる。

「な、何か……」

一ノ瀬さんはか細い声で僕に言った。

「あ、あの。僕昨日なにか変なことしませんでしたか?記憶が無くて」

一ノ瀬さんは呆気にとられそして笑い出す。

「それ志水さんには聞かないほうが良いですよ。聞いたらきっとショックだと思うから」
「って事は何かあったんですね」
「そうですね。でも酒井君がああいうことするのって滅多にないから、気にすること無いと思います。志水さんもきっと安心してるだろうし」
「差し支えなければ教えてもらえませんか?朝からどうも気になって……」

一ノ瀬さんはしばらく考えた後こういった

「正確には何もなかったです。酒井君が志水さんを押し倒して皆がそれを引きはがして抑える皆にむかって『婚約者だから関係ないだろ!好きにさせろよ!』ってわめいてたくらいですかね」

顔が赤くなるのが分かった。
そんな事言ってたんだね。
言質とられたね完全に。

「本人も我を失ってることくらい分かってるから気にしなくていいですよ。まあ、だからこそ出る本音ってのもあると思いますけどね」

婚約者と言ったのが僕の本音?一時的な気の迷いでしかないと思う。それこそ魔法の飲み物のせいじゃないか?

「私も酒井君と付き合っていた時に飲ませたら上手くいってたのかな?」

そんな事を言うと一ノ瀬さんは笑いながら休憩室を出て行った。
たられば、恋愛をするうえで考えたらいけない語尾。もしもあの時こうしていたら。こう言っていたら。考えても何も意味がない。
それよりその先の事を考えよう。次の恋愛に向けての経験値を積み重ねていく。そう考えていた方が前向きでいいと僕は思う。

「酒井君、お客さんきたよ」

一ノ瀬さんが呼んでいる。休憩室を出ると片桐君と遠坂さんが待っていた。

「き、昨日はお疲れ様」

片桐君の作り笑いは非常に不自然なもので、パッと見ただけでも分かる。

ぽかっ

遠坂さんが片桐君を小突く。

「今日は大丈夫だった?」

遠坂さんの笑みは自然そのものであったが小悪魔的な何かをかんじさせる。

「午前中は最悪の気分でした」

正直に明かすと彼女は笑いながら言う。

「志水さん大切にしてあげてね」

そう言うと二人は奥の席に座る。
その後志水さんが入ってきた。
志水さんは清々しいほど笑顔だった。
カウンターに座ると「いつものお願い」と短く言う。
その後はいつも通り僕を品定めするかのように眺める志水さん。
彼女に紅茶を渡す際に「昨日は大変失礼しました」と一言いう。
すると彼女は眉を吊り上げる。

「別に失礼な事なんて何一つしてないと思うけど、何か心当たりあるの?」
「すいません、記憶がなくて」
「そう、じゃああの言葉もおぼえてないのね……」

少し声の調子を落とす志水さん。
ああ、聞いたらいけないことだったね。言っちゃいけないことだったね。
しかし志水さんの機嫌はすぐに直る。

「まあ、いいわ。あなたにそういう気持ちが一欠けらでもあることが分かったから。次は素面で言わせて見せる」

その後はいつもの志水さんに戻っていた。
違う事と言えば……。

「今日はあなたの仕事が終わるまでまたせてもらうわ。その方が手間が省けるでしょ?」

思いだしたことが一つある。明日から冬季休業に入る。そうしたら引っ越しをしなくちゃいけないんだった。親にも話しておかないといけないだろうな。あ、実家に帰るのどうするかな?

(3)

昨日は驚いた。
まさか酒井君があそこまで取り乱すとは……。
突然志水さんを押し倒す酒井君。それを僕たちが引きはがす。

「婚約者だから関係ないだろ!好きにさせろよ!」

突然言い放った衝撃的な発言。皆が驚く。その後彼は電池が切れたかのように突然眠りにつく。

「こんな酒井初めて見た……。日頃色々ため込んでるんだろうな。」

中島君がそう言うと、皆が頷いた。

「……今日は先に帰らせてもらうわ。彼こんな状態だし」

そう言うとすぐさま電話で迎えを手配する志水さん。

「じっくり介抱してやりさいな」と恵美が言うと「そうね、手厚くするわ」と志水さんが返す。

いつの間にか二人共仲良くなったのかな?
気持ちの共有ってやつだろうか?
二人の間に共通する何かがあったのだろう。僕も酒井君の立場がよくわかるから、今の心境もよくわかる。
今夜ばかりは飲まずにいられなかったのだろう?
その後残った僕たちはカラオケを楽しんで朝の7時までじっくり楽しんでいた。
生まれて初めての徹夜ってやつだ。気分は悪くない。
店を出ると朝陽がまぶしい、清々しい気分だ。

「このあとどうする?授業までまだ時間あるけど。あなたもでしょ?」
「うん、この時間に開いてるお店なんて限られていると思うけど」
「あなたも言うようになったのね。そういう度胸ができたのも調教のお蔭かしら?」

全力で勘違いしてると直感した。

「コーヒーでも飲んで少し頭をすっきりさせたい。シャワーを浴びたいってのもあるけど」
「じゃあ、休憩でいいわね」
「いや、そりゃ今日は平日だけど」
「いいわね?」
「……はい」


シャワーを浴びてコーヒーを飲むけど、やっぱり開放感からか眠気が襲う。
アラームを授業の1時間前にセットして少し仮眠をとることに。

「ねえイッシー」

突然恵美が話しかけてきた。

「なんだい?」
「イッシーも同じだった?酒井君と」

恵美の言わんとすることはなんとなく分かった。でも僕はそれを否定した。

「そんなことないよ、だって考えてもごらん?僕が恵美を選んだんだよ」
「でもその後あなた後悔してるそぶりすら見せたわ。そう、今の酒井君の様に」
「気のせいだよ、高2の冬にラブレターを読まれたよね。あの気持ちと今も変わらない」
「……あなた成長したわね。私の心をここまでほどいてくれるのはあなたが初めてよ」
「恵美こそ、僕の事を想ってくれてる。恵美自身がかあろうとしてくれてる。それだけで十分だよ」
「ありがとう、好きよ。イッシー」
「僕も大好きだよ、恵美」

最初は二人で手をつないで、そのあとお互いが向き合い、抱き合い、そして眠りについた。

(4)

僕達は、喫茶店で飲み物を飲みながら、食べながら酒井君と志水さんのやり取りを見ていた。

「昨日はびっくりしたね」
「そうだな」

一番驚いてたのは志水さんだったみたいだけど。

「でも、ああまで言ったってことは酒井君志水さんの事が好きだって事だよね?気づいてないだけで」
「どうだろうな」

ノリと勢いと半ば自棄で言ってるような節も見えたけど。

「上手くいくと良いね」
「そうだな」
「冬夜君、人の話ちゃんと聞いてる?」

目の前の可愛い妖精さんはちょっと拗ねたようだ。
まあ、二人の問題は二人できっと解決していけるよ。僕たちがそうだったように。僕はとりあえずは目の前の問題を片付けよう。

「聞いてるよ、あの二人が上手くいくかどうかだろ?」
「うん、冬夜君はどう思ってるの?」
「上手くいけばいいと思うよ、でも僕たちがしてやれることはもうほとんどない領域まで達してる気がする。後は二人で頭を寄せ合って考えていくしかないんだと思う」
「相談くらいのれないかな~?」
「相談されたら受けたらいい。それはでは様子を見守ることも大切だよ」
「なるほどね~」

愛莉は納得してるのかわからないけど、とりあえずは理解したようだ。

「お、来るの早いね」

木元先輩と大島さんがやってきた。
二人はテーブルの向かいに座るとそれぞれ注文していた。
木元先輩たちもこの店の常連にすっかりなってしまったようで、注文もスムーズに進む。

「明日から冬休みか、冬夜君たちは何か予定でもあるのかい?」
「いえ、多分家でごろごろしてるだけだと思います」

とは、いうもののどこかに連れ出さないとまた愛莉が張り切るんだろうな。
何か良い手立てはないものか。

「僕達ものんびりしていようと思ってね。部活はあるけど」
「私もバイトあるからそこまではのんびりできないかな」

木元先輩と大島さんは都合があるらしいが、とくに大した予定は立てていないらしい。
とはいえ、うちの親も愛莉の両親も多分実家に帰るだろう。と、すれば誰に何を言われるまでもない家でごろごろしてるのが気楽なんだけど愛莉がここぞとばかりに張り切るのは目に見えてる。
……また旅行でもするしかないのかな?
とはいえ、年中旅行してるほどの余裕もない。愛莉を連れて近場をめぐるのがいいかもしれないけどどこも混んでるだろうしなあ。
悩んだ末愛莉に直接聞いてみることにした。多分それが一番早い。あまり考えているとまた愛莉に何されるか分からない。

「愛莉は連休なにがしたい?」
「ほえ?」
「連休にしたい事ってない?」
「冬夜君とゆっくりする~」
「本当にゆっくりできる?」
「え?」
「僕と一緒にのんびり時間を過ごせる?」
「うぅ……そうきますか」

愛莉は悩み始めた。大方炊事に洗濯に掃除と大忙しの日常を予想していたんだろう。それではのんびりする意味がない。

「わかった……必要最低限の事だけする。ただし私からも条件がありま~す」
「なんだい?」
「私を置いてけぼりにしないで」
「?」
「冬夜君目を離すとすぐにゲームの世界とか勉強の世界に入ってしまうから連休の間だけは私の世界だけにいて。そしたら私も冬夜君と浸ってるから」
「わかったよ」
「わ~い」
「君たち本当に仲が良いね」

木元先輩がそう言った。

「もうラブラブなんですよ~」と愛莉が僕の腕を掴み言う。

「私達も負けませんからね。ね?かずさん」
「そうだな、負けないようにしないとな」

北風寒い今日この頃でも、僕たちの周りには暖かい空気がただよってるのだった。
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古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

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