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3rdSEASON
桜のあと
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(1)
4月
青空に振る花の雨。
来週からいよいよ授業が始まる。
履修登録はすでに終わっている。今年も死ぬ思いをすることになりそうだけど。それが愛莉の希望なら聞いてやりたい。……でも4年次には勘弁してくれよ。
今日は前期が始まる前にと花見を設定してある。
今頃公園の花は桜が満開だろう。愛莉も朝から弁当を作っている。
そろそろ来るんじゃないかな?
その前に着替えておくか。
ベッドから出ると、クローゼットから服を選ぶ。
着替え終えると愛莉が来るまでPCを眺める。へえ、あのタレントが未成年と飲酒ね。今そう言うハニートラップ多いらしいから気をつけないとね。大変だな、タレントも。
「冬夜君おはよう。ご飯できてるよ~」
そう言えば、誠がまた違う検索ワード送って来たな。愛莉がいないうちに見ておくか、内容はだいたい見当つくけど。僕だって男だしそういうのに興味が全くないわけじゃない。愛莉がいるからそんなに必死に飢えてることは無いけど、大体のことは愛莉要求したらしてくれるし。まあ、誠までのレベルじゃないけど……。それなりの事はしてくれる。
「今日も起きてるね~。何見てるの?」
うわ、加工無しかよ。大丈夫なのかこのサイト……。なんとなく選んでみたけどよく見ると愛莉に似てるなこの女性。でも……なんか愛莉と違う。そんなことしちゃって平気なのかな。匂いとか味とかきにならないのかな……?ちなみに愛莉に聞かれると不味いからヘッドホンしてる。
「冬夜君こんなことしたいの?ていうか、朝から何みてるのかな?」
ぽかぽかぽかぽかっ!
痛い!
振り返ると恐ろしい笑顔の愛莉が立っていた。
「婚約者が一生懸命朝ごはん作ってるのに、いい御身分ですね!」
「あ、いや。ごめん!誠から来た検索ワード気になってさ」
「ぶーっ!言い訳になってないもん!」
うわあ、朝からやってしまったようだ。愛莉が怒ってる。しかもひどく怒ってる。自業自得だ?しょうがないだろ彼女に似た女優がいたら見てしまうだろ?素人物ってタグあったけど。
「冬夜君が女性に興味は持つのは嬉しいけど、こんなのに興味持たなくていいの!」
「で、でもさ。この女優愛莉にどことなく似ていてさ」
言い訳になってない言い訳をいう。人間パニックになるとミスを重ねていくもので……。
「……冬夜君私にこう言うの要求するわけ?」
「あ、いや。そうじゃなくて愛莉に似て綺麗な女優だなって」
「……ふーん。冬夜君約束覚えてる?『一緒だったら見て良いよ』って……」
「……え!?」
驚く僕をよそに愛莉は再生のボタンをクリックヘッドホンのジャックを外す。
すると大音量のあの声が部屋中に響き渡る。
「声も似てるだろ?愛莉に……」
何でそう言う余計な事を言うかな……。我ながら間抜けな感想だと思った。
「冬夜君……私こんなの無理だよ……さすがに恥ずかしい」
「いや、愛莉にして欲しいって意味で見てるんじゃないよ」
むしろしてもらえないだろう非現実的なシチュエーションだからこそ興味が湧くわけで。……って真面目に解説してるわけじゃないな。とりあえず音量下げないと。
「冬夜!あんた達朝から何やってるの!?」
母さんが上がってきた。愛莉は母さんに泣きつく。
「麻耶さん、冬夜君が酷いの!」
愛莉、その言い方は語弊があるぞ、僕は朝から動画を見ていただけで愛莉には何もしてないぞ。
愛莉が母さんに事情を話すと母さんが鬼の形相で僕をにらんでる。
「冬夜……あんたって子は……」
朝食の間中母さんの怒鳴り声がこだました。
(2)
渡辺班川沿いの公園に夕方集合との事。
公園まで来るまで30分もあれば着く。
時間に合わせて家を出ることにした。
昼ごはんを食べて時間を潰す。
愛莉は黙ってテレビを見ながら、お小遣い帳のデータを集計してる。
朝の一件から一切口をきいてくれない。
どう話しかけたらいいか分からなかった。
花見までになんとかしなくちゃ。
愛莉の横に座ると、肩を抱き「先月はどうだった?」と聞いてみる。
しかし愛莉は手を振り払い、少し横に移動し「別に、いつも通りだよ」とそっけない返事を返す。
かなり怒ってるな。こういう時は下手な小細工をしている場合じゃない土下座して「ごめん!」と謝る。しかし愛莉は冷淡な態度で作業を続ける。もっと訴えないとダメか。
「朝はごめん!ほんの出来心だったんだ。ちょっと検索してたら愛莉に似ている子がいて、すごいなぁと思って見とれてたらついいつも通り世界に没頭していて……」
没頭していたという言葉に反応したのだろうか?
作業していた愛莉の手がぴたりと止まる。どうしてこう余計な事を言ってしまうんだろう。愛莉の扱い方全然わかってないじゃないか僕。
「没頭するほど楽しい世界だったんだ……」
久々に聞く愛莉の凍てつくような声。
「あ……」
気づいた時に時すでに遅し。愛莉は僕の方を見る。そして僕を抱きしめる。なんでだろう、凄く悲しい世界を感じた。何が悲しいの?やっぱりああいう動画を見るのは心の浮気と思うんだろうか?
「冬夜君ちゃんと私の心の中覗いてくれてる?ちゃんと私を見てる?いつものように入って来てよ、怖がってないで」
愛莉の心の中、ちゃんと入ってるよ。悲しさの吹雪と怒りの炎が入り混じったまさに地獄絵図……。あれ?その中に一つ一際と強い冷気を放つ空間につながるドアが開いてる。
思い切って入ってみると、悲しそうに泣いてる少女が座り込んでいる。
どうしたの?やっぱり悲しいの?ごめんね愛莉。
辛い思いさせて……。しかし少女は首を振る。
「悲しいのは冬夜君に見放されると思ってるから。怒ってるのは冬夜君の要求に応えられない自分に……」
僕を抱く愛莉の細い腕が震えている。愛莉?
「冬夜君が初めて女性に興味を持って、私に似ているってだけで夢中になる冬夜君を嬉しく思った。……でも恥ずかしくて応えられない。冬夜君他の女の子に行っちゃうじゃないかって不安になって。冬夜君の細やか願いをかなえてあげられない自分が悔しくて歯がゆくて……それで拗ねてただけ」
「いや、別に愛莉に同じことを要求してるわけじゃないんだよ?」
「そうじゃないんだよ。冬夜君は優しいからそんなこと無いって分かってるけど。気持ちが不安定で……ごめんなさいは私の方なんだよ」
愛莉の抱きしめる腕に力が入る。
「私じゃなきゃいや。そういうことするのは私だけでいい!でも私はそれができない。冬夜君他に行っちゃいや!」
そんな事で悩んでいたのか。怒っていると思っていた彼女は不安で身を震わせて、打開策に踏み出せない自分を悔しく思って自分にいら立ちを覚えていた。僕に見切りをつけられるんじゃないか?って……。
未だにすすり泣き体を震わせている愛莉を優しく抱いてやる。
「ごめんな。不安にさせて。でも心配しなくていいよ。いつもそばにいるから」
「ごめんて謝るのは私の方だよ」
「愛莉、一つだけ言わせてもらってもいい?」
「なに?」
「勘違いしてる。確かに愛莉に似ているからという理由で夢中になってた。でも愛莉に同じことをして欲しいとは思わない……。なぜなら相手が愛莉ってだけでもっと気持ちいい気分になれるんだ。それはどんなにテクがある人でも再現できるとは思わない」
愛莉は僕の話をじっと聞いていた。
「愛情に勝る調味料はない。同じ事じゃないかな?愛に勝る快楽なんてないと思うよ」
「……」
「愛してるよ愛莉。今までも、これからもずっと」
冷え切った愛莉の体に熱がよみがえる。とても温かな感情。優しい世界が蘇る。
「冬夜君、ありがとう。……私も大好きだよ」
愛莉の顔を見ると笑顔になっていた。目元は真っ赤に腫れたままだけど。
「僕も頑張るよ、ちゃんと愛莉の……見たことなかったしな」
ぽかっ
「馬鹿!」
そう言う愛莉の顔はとても優しいものだった。
誠……誠の言うロマン……少しだけ解った気がする。でも、僕には必要ない。目の前の天使を捨ててまで手にれる必要がないから。
本当は誠もそうなんだろう?カンナを捨ててまで手に入れる必要がない事くらい分かってるんだろ?それをカンナに伝えてやれよ。たった6文字で良いんだ。
(3)
時間になると私と冬夜君は家を発った。とても幸せな気分で。
午前中はずっとブルーだったけど、冬夜君が変えてくれた。
私もそんなに優等生じゃないみたい。なんでもこなせるってわけじゃない。出来ない事だってある。頑張ろうと思っても出来ないことはある。欠点だっていっぱいあるけど、冬夜君は受け入れてくれた。
冬夜君には内緒にしておいたけど、冬夜君がお願いすればできる気がしてきた。
でも冬夜君は今のままでいいと言ってくれる。
ありのままの私を受け入れてくれてた。
ごめんね冬夜君。
もう少し勇気が生まれたらいっしょに新しい世界に飛び出そうよ。
「愛莉、楽しみだな……」
えっ!?まさか今夜ですか?
「花見」
……まあ、それが冬夜君だよね。
「どうせ桜よりお弁当がたのしみなんでしょ?」
「美嘉さんの料理すごいらしいからな。どんなご馳走がでてくるんだろうな?」
他の女性なんて興味ないと言ったそばからそう来ますか?それとも食べ物は別って言いたいの?でも冬夜君言ってたよ?愛情に勝る調味料はないって。
ぽかっ
「私のお弁当とどっちが興味あるのかな?冬夜君」
「愛莉に決まってるだろ。たださ……」
ぽかっ
「ただ何?」
「……何でもないです」
プロに勝てる気はしないけど、それでも冬夜君好みの味を熟練してきた私としては負けられない。
……なんてね?
例え私が劣っていたとしても冬夜君なら私の料理を選んでくれる。そう信じてる。
花見の場所の確保は渡辺君たちがしてくれてた。
渡辺君たちをみつけると声をかける。
渡辺君たちも私たちに返してくれた。
最後に来たのは神奈と誠君。
女性が8人も集まれば。それはもう料理が並ぶこと並ぶこと。やっぱり美嘉さんの料理が一番目立っていた。
冬夜君なんか、凝視している。
さっき言ったこともう忘れたの?
ぽかっ
「冬夜君沢山お弁当あるからね♪」
「いや、他の人のも……」
「あるからね♪」
「……はい」
「とーや愛莉の弁当に勝てるとは思わねーけど私もちょっと自信があるんだぜ?」
「トーヤ私のも食べてみろよ」
美嘉さんと神奈が言いだすと私のもとみんなからおすそ分けされる冬夜君。
凄い量だ……。食べきれるの?食べちゃうんだろうな~この人は……。
「皆、飲み物盛ったか~?新年度に入ったけど、よろしくな!!乾杯」
渡辺君がそう言うと皆が「乾杯」といい。宴の始まり。
「渡辺君、新人ゲットの目途はが立ってるの」
指原さんが、そう言うと渡辺君は首を振っていた。
「これ以上増やすのもどうかと思うし、特にツテもないからな」
「ツテじゃないけど、噂なら聞いたよ」
「ほう?どんな噂だ?」
「今年の入学式もすごい新生が現れたらしくて、とにかく皆に可愛がられて『姫様』と呼ばれているらしいわよ」
「どっちのキャンパスだ?」
「確か渡辺君たちと一緒だったはずよ。理工学部って言ってた」
「その話なら僕も聞いたよ。早速勧誘合戦が始まってるって」
指原さんと渡辺君が話してると同じ理工学部の木元先輩が言った。
「でもそう言う話なら、医学部にもいるって聞いたよ」
穂乃果が言う。
「どんな噂?」
「男性なんだけど凄いお金持ちで頭も良くて見た目も良くて……ただ、すごい女たらしだって」
穂乃果の話に男性陣がざわつく。
「そいつの歓迎だけは絶対なしな!」
誠君が言うと、神奈も同調した。
「私もそういう奴はごめんだね!亜依、穂乃果、分かってるだろうな」
「分かってるわよ」
私は構わないけどね、冬夜君に優る人なんているわけないもん。
その冬夜君は目の前に差し出されたご馳走を食べるのに必死で話なんてまるで聞いてないけど。
「私は興味あるわね、その女たらしってやつ……、どう教育してやろうかとぞくぞくしてくるわ」
恵美……そういう人だったの?
「ぼ、僕は止めておいた方が良いかな~って……」
「何?私がどうこうされると思ってるの、そんな下衆な女に見えてるわけ?」
「い、いや。大丈夫です」
恵美が言うと石原君は黙ってしまった。
「そう言う話うちの大学じゃ聞かないんだよな。桐谷君聞いてる?」
「すごい男たらしの女が入ったってのは聞いたよ。うちのサークルも勧誘に走ってるって」
そうなんだ、神奈誠君が心配じゃないのかな?
神奈に聞いてみた。
「どんなに誠の見た目に目を奪われても本性を知ったら逃げ出してしまうよ」
きっぱりと言う神奈。
誠君の趣味か……ああ!
「誠君!冬夜君に変な事吹き込むの止めて!!今日それで大変だったんだから!」
私は大声を上げる。どれだけ辛い目にあったことか……。
「へ?」
何があったの?と言いたげな誠君の表情。
「愛莉、誠がまたなんかやらかしたのか?」
「その話はもうすんだからいいだろ!うがっ!」
私を止める冬夜君の口に食べ物を詰め込む美嘉さん。
「なんかあったんだろ?話せよ愛莉」
美嘉さんに言われると、今朝あったことを話した。
「ま・こ・と~この馬鹿は!!」
頭を抱える誠君。
「冬夜、見るタイミング考えろよ……」
「誠!そういう問題じゃないだろ!!この馬鹿が!!愛莉ごめんな。」
神奈が私に謝る。
「それにしてもとーやにも問題あるんじゃないか?普通彼女の前で見るか?しかも愛莉そっくりの女優だ?何考えてるんだ?」と美嘉さんがいう。
「トーヤは大丈夫だと思っていたが……そう来るとは思わなかった」と神奈が言う。
「ハハハ冬夜も男だったという事だな」と渡辺君は笑う。
「その件はちゃんと謝ったって」と冬夜君が言えば「そう言う問題じゃないだろ!お前のやってることは浮気同然だぞ!」と神奈が怒る。
「カンナだって誠が見てたって何も言わないんだろ?」と冬夜君が言えば「誠は私の前じゃ絶対見ねーよ!自分そっくりの女優が変態的行動をとってるの夢中になってる彼氏を見た時の愛莉の気持ち考えたことあるのか?」と神奈が代弁してくれた。
「ある意味多田君より重症だね」と亜依が言う。
「他の男性陣もそう言うの見るの?」と花菜が聞くと男性陣は黙ってしまう。
「見てるわけね……」と、恵美がため息交じりに呟く。
「僕は見てないですよ!」と必死に弁明する酒井君。
「全く興味がないってのも、問題あるわよ」と志水さん。
「そういう意味では片桐君の行動はある意味正しいですよね?だって出来ないことに憧れて見てたってだけでしょ?」と穂乃果が言う。
うん、冬夜君の行動は理解できるの。今まで興味もたなかった冬夜君が興味を示したのが私そっくりの女優ってのもどこかで嬉しいと思ってる。
「男共がさっきから静まり返ってるのもちょっと納得できないわね?片桐君の行動を容認してるわけ?」と恵美が聞くと、そういう事じゃないと皆が否定する。
「今回の事件は冬夜のタイミングが悪かったってだけで、そういう動画を見る事自体は悪い事じゃないだろ?男なら当然だ」と渡辺君は言う。
「遠坂さんだって動画を見る事自体を拒絶してたわけじゃないんだろ?」
「うん」
「珍しいな、冬夜がそういうタイミング外すのって」
「ていうか、なんでとーやがそういうのに興味もったんだ?食い物しか興味なかったのに」と、美嘉さんが誰もが思う疑問を言った。
「それは……」
「それは?」
皆が冬夜君に注目する。
「他の人はどんなことしてるんだろう?って気になってさ。前に言われたから『ワンパターンだと愛莉に飽きられるぞ』って……」
そんな冬夜君の言い訳に皆からため息が漏れる。
「あのなあ、冬夜。全部演技なんだぞ?本当にやってる事とは限らないだろ」と、誠君が解説する。
「だから素人物ってタグで検索したって!第一これでも見て勉強しろと言ったのは誠だろ!」
「冬夜、素人がカメラ回ってる前でやると思うか?第一お前遠坂さんがあんな声出したの聞いた事あるのかよ……いてっ!」
神奈が誠君の頭を小突くと冬夜君に言った。
「トーヤ。この前女子会してるときに愛莉自慢してたぞ。今のトーヤに満足してる、幸せだって。そういう事だよ。今のままでいいんだよ」
すると冬夜君が素っ頓狂な事を言い出した。
「愛莉のああいう声なら聞いた事ある……」
ぽかっ。
「冬夜でも勉強することがまだたくさんあるって事でいいじゃないか」と、渡辺君がまとめにはいる。
そうだね。余計な事は勉強しなくていいけど。
「そうだな、とーやもまだ酒の飲み方とかしらねーもんな。それ飲め……」
「美嘉!今冬夜に飲ませたら俺達も巻き込まれるんだぞ!」
「ちぇっつまんねーの」
「愛莉」
「どうしたの?」
「お弁当無くなったよ」
あ!!いつの間に!
全く目を離してるとこれなんだから。
「とーや、まだ残ってるぞ、残しても腐らせるだけだから食え食え」
冬夜君を餌付けする美嘉さん。
冬夜君のお腹が満たされる頃。花の宴も終わろうとしていた。
(4)
「なあ、愛莉?」
「な~に?」
助手席に座っている愛莉は明るく答えた。
「現状で、幸せって本当なのか?」
「ほえ?」
「いや、その……夜の事とか……」
ぽかっ
「う~ん、冬夜君が分かりやすいように解説しないとダメ?」
「出来ればそうしてくれるとありがたいかな?」
「うぅ……。すっごい言うの恥ずかしいから聞き返したりするの無しだよ?あと笑わないでね」
「うん」
愛莉はその後しばらく黙っていた。
車が信号で止まると、愛莉は僕に耳打ちした。
愛莉の顔は真っ赤だった。
愛莉は僕に一言こう言った
「あんな声出すのは極力抑えてるんだけどどうしても我慢できないとでちゃうの」
そうだったんだね。
「だから冬夜君は気にしなくていいんだよ。でも……」
「でも?」
「冬夜君がその……口でして欲しいとか言うならそのくらいはしてあげるけど……」
僕は言葉に詰まった。……なんて返せばいいんだろう?
「あんなに上手にできるとは思わないけど練習はするから」
「練習?誰と?」
ぽかっ
「冬夜君に決まってるでしょ!馬鹿!」
そうだよな、ちょっと意地悪してみただけ。
「あ、でも……」
「でも?」
「誰かが言ってたソフトクリーム舐めるようにすればいいんだって」
愛莉がソフトクリームを舐めてる場面を想像してみた。
口の周りに白いクリームがついていてそれはまるで……。
ぽかっ
「また変な事考えてた!」
「愛莉」
「な~に?」
「今夜試してみるか」
叩かれるかな……?あれ、こないぞ?
ふと隣を見るともじもじ恥ずかしそうにしてる愛莉が。
「私は冬夜君のものだから……」
「え?」
「冬夜君が好きな時にしていいんだよ!」
愛莉は顔を隠している。
精一杯の意思表示だったんだな。
「愛莉が、サービスしてくれるなら僕もお返ししないとな」
「え?」
「僕も愛莉の……舐めてあげようかなって」
「!?」
「69って言うんだっけ?」
「それお返しになってない!私が恥ずかしいだけじゃない。それにそんな言葉どこで覚えてきたの?」
「ってことは、愛莉は意味知ってるんだな?」
「うぅ……冬夜君は優しいのか意地悪なのかわかんないよ」
ちょっとやり過ぎたかな?
恥ずかしそうにしてる愛莉をみてるとつい悪戯が過ぎてしまう。
「……優しくしてくれるだけで十分だから」
「?」
「冬夜君の優しさが伝わってきてそれだけで満足なの!」
そう言う愛莉の頭をそっと撫でてやる。愛莉はうっとりして僕に体を預けてくる。運転中だぞ。
「今赤だも~ん」
そのまま、僕達は家に帰り桜のあとの二人だけの宴を楽しむのだった。
4月
青空に振る花の雨。
来週からいよいよ授業が始まる。
履修登録はすでに終わっている。今年も死ぬ思いをすることになりそうだけど。それが愛莉の希望なら聞いてやりたい。……でも4年次には勘弁してくれよ。
今日は前期が始まる前にと花見を設定してある。
今頃公園の花は桜が満開だろう。愛莉も朝から弁当を作っている。
そろそろ来るんじゃないかな?
その前に着替えておくか。
ベッドから出ると、クローゼットから服を選ぶ。
着替え終えると愛莉が来るまでPCを眺める。へえ、あのタレントが未成年と飲酒ね。今そう言うハニートラップ多いらしいから気をつけないとね。大変だな、タレントも。
「冬夜君おはよう。ご飯できてるよ~」
そう言えば、誠がまた違う検索ワード送って来たな。愛莉がいないうちに見ておくか、内容はだいたい見当つくけど。僕だって男だしそういうのに興味が全くないわけじゃない。愛莉がいるからそんなに必死に飢えてることは無いけど、大体のことは愛莉要求したらしてくれるし。まあ、誠までのレベルじゃないけど……。それなりの事はしてくれる。
「今日も起きてるね~。何見てるの?」
うわ、加工無しかよ。大丈夫なのかこのサイト……。なんとなく選んでみたけどよく見ると愛莉に似てるなこの女性。でも……なんか愛莉と違う。そんなことしちゃって平気なのかな。匂いとか味とかきにならないのかな……?ちなみに愛莉に聞かれると不味いからヘッドホンしてる。
「冬夜君こんなことしたいの?ていうか、朝から何みてるのかな?」
ぽかぽかぽかぽかっ!
痛い!
振り返ると恐ろしい笑顔の愛莉が立っていた。
「婚約者が一生懸命朝ごはん作ってるのに、いい御身分ですね!」
「あ、いや。ごめん!誠から来た検索ワード気になってさ」
「ぶーっ!言い訳になってないもん!」
うわあ、朝からやってしまったようだ。愛莉が怒ってる。しかもひどく怒ってる。自業自得だ?しょうがないだろ彼女に似た女優がいたら見てしまうだろ?素人物ってタグあったけど。
「冬夜君が女性に興味は持つのは嬉しいけど、こんなのに興味持たなくていいの!」
「で、でもさ。この女優愛莉にどことなく似ていてさ」
言い訳になってない言い訳をいう。人間パニックになるとミスを重ねていくもので……。
「……冬夜君私にこう言うの要求するわけ?」
「あ、いや。そうじゃなくて愛莉に似て綺麗な女優だなって」
「……ふーん。冬夜君約束覚えてる?『一緒だったら見て良いよ』って……」
「……え!?」
驚く僕をよそに愛莉は再生のボタンをクリックヘッドホンのジャックを外す。
すると大音量のあの声が部屋中に響き渡る。
「声も似てるだろ?愛莉に……」
何でそう言う余計な事を言うかな……。我ながら間抜けな感想だと思った。
「冬夜君……私こんなの無理だよ……さすがに恥ずかしい」
「いや、愛莉にして欲しいって意味で見てるんじゃないよ」
むしろしてもらえないだろう非現実的なシチュエーションだからこそ興味が湧くわけで。……って真面目に解説してるわけじゃないな。とりあえず音量下げないと。
「冬夜!あんた達朝から何やってるの!?」
母さんが上がってきた。愛莉は母さんに泣きつく。
「麻耶さん、冬夜君が酷いの!」
愛莉、その言い方は語弊があるぞ、僕は朝から動画を見ていただけで愛莉には何もしてないぞ。
愛莉が母さんに事情を話すと母さんが鬼の形相で僕をにらんでる。
「冬夜……あんたって子は……」
朝食の間中母さんの怒鳴り声がこだました。
(2)
渡辺班川沿いの公園に夕方集合との事。
公園まで来るまで30分もあれば着く。
時間に合わせて家を出ることにした。
昼ごはんを食べて時間を潰す。
愛莉は黙ってテレビを見ながら、お小遣い帳のデータを集計してる。
朝の一件から一切口をきいてくれない。
どう話しかけたらいいか分からなかった。
花見までになんとかしなくちゃ。
愛莉の横に座ると、肩を抱き「先月はどうだった?」と聞いてみる。
しかし愛莉は手を振り払い、少し横に移動し「別に、いつも通りだよ」とそっけない返事を返す。
かなり怒ってるな。こういう時は下手な小細工をしている場合じゃない土下座して「ごめん!」と謝る。しかし愛莉は冷淡な態度で作業を続ける。もっと訴えないとダメか。
「朝はごめん!ほんの出来心だったんだ。ちょっと検索してたら愛莉に似ている子がいて、すごいなぁと思って見とれてたらついいつも通り世界に没頭していて……」
没頭していたという言葉に反応したのだろうか?
作業していた愛莉の手がぴたりと止まる。どうしてこう余計な事を言ってしまうんだろう。愛莉の扱い方全然わかってないじゃないか僕。
「没頭するほど楽しい世界だったんだ……」
久々に聞く愛莉の凍てつくような声。
「あ……」
気づいた時に時すでに遅し。愛莉は僕の方を見る。そして僕を抱きしめる。なんでだろう、凄く悲しい世界を感じた。何が悲しいの?やっぱりああいう動画を見るのは心の浮気と思うんだろうか?
「冬夜君ちゃんと私の心の中覗いてくれてる?ちゃんと私を見てる?いつものように入って来てよ、怖がってないで」
愛莉の心の中、ちゃんと入ってるよ。悲しさの吹雪と怒りの炎が入り混じったまさに地獄絵図……。あれ?その中に一つ一際と強い冷気を放つ空間につながるドアが開いてる。
思い切って入ってみると、悲しそうに泣いてる少女が座り込んでいる。
どうしたの?やっぱり悲しいの?ごめんね愛莉。
辛い思いさせて……。しかし少女は首を振る。
「悲しいのは冬夜君に見放されると思ってるから。怒ってるのは冬夜君の要求に応えられない自分に……」
僕を抱く愛莉の細い腕が震えている。愛莉?
「冬夜君が初めて女性に興味を持って、私に似ているってだけで夢中になる冬夜君を嬉しく思った。……でも恥ずかしくて応えられない。冬夜君他の女の子に行っちゃうじゃないかって不安になって。冬夜君の細やか願いをかなえてあげられない自分が悔しくて歯がゆくて……それで拗ねてただけ」
「いや、別に愛莉に同じことを要求してるわけじゃないんだよ?」
「そうじゃないんだよ。冬夜君は優しいからそんなこと無いって分かってるけど。気持ちが不安定で……ごめんなさいは私の方なんだよ」
愛莉の抱きしめる腕に力が入る。
「私じゃなきゃいや。そういうことするのは私だけでいい!でも私はそれができない。冬夜君他に行っちゃいや!」
そんな事で悩んでいたのか。怒っていると思っていた彼女は不安で身を震わせて、打開策に踏み出せない自分を悔しく思って自分にいら立ちを覚えていた。僕に見切りをつけられるんじゃないか?って……。
未だにすすり泣き体を震わせている愛莉を優しく抱いてやる。
「ごめんな。不安にさせて。でも心配しなくていいよ。いつもそばにいるから」
「ごめんて謝るのは私の方だよ」
「愛莉、一つだけ言わせてもらってもいい?」
「なに?」
「勘違いしてる。確かに愛莉に似ているからという理由で夢中になってた。でも愛莉に同じことをして欲しいとは思わない……。なぜなら相手が愛莉ってだけでもっと気持ちいい気分になれるんだ。それはどんなにテクがある人でも再現できるとは思わない」
愛莉は僕の話をじっと聞いていた。
「愛情に勝る調味料はない。同じ事じゃないかな?愛に勝る快楽なんてないと思うよ」
「……」
「愛してるよ愛莉。今までも、これからもずっと」
冷え切った愛莉の体に熱がよみがえる。とても温かな感情。優しい世界が蘇る。
「冬夜君、ありがとう。……私も大好きだよ」
愛莉の顔を見ると笑顔になっていた。目元は真っ赤に腫れたままだけど。
「僕も頑張るよ、ちゃんと愛莉の……見たことなかったしな」
ぽかっ
「馬鹿!」
そう言う愛莉の顔はとても優しいものだった。
誠……誠の言うロマン……少しだけ解った気がする。でも、僕には必要ない。目の前の天使を捨ててまで手にれる必要がないから。
本当は誠もそうなんだろう?カンナを捨ててまで手に入れる必要がない事くらい分かってるんだろ?それをカンナに伝えてやれよ。たった6文字で良いんだ。
(3)
時間になると私と冬夜君は家を発った。とても幸せな気分で。
午前中はずっとブルーだったけど、冬夜君が変えてくれた。
私もそんなに優等生じゃないみたい。なんでもこなせるってわけじゃない。出来ない事だってある。頑張ろうと思っても出来ないことはある。欠点だっていっぱいあるけど、冬夜君は受け入れてくれた。
冬夜君には内緒にしておいたけど、冬夜君がお願いすればできる気がしてきた。
でも冬夜君は今のままでいいと言ってくれる。
ありのままの私を受け入れてくれてた。
ごめんね冬夜君。
もう少し勇気が生まれたらいっしょに新しい世界に飛び出そうよ。
「愛莉、楽しみだな……」
えっ!?まさか今夜ですか?
「花見」
……まあ、それが冬夜君だよね。
「どうせ桜よりお弁当がたのしみなんでしょ?」
「美嘉さんの料理すごいらしいからな。どんなご馳走がでてくるんだろうな?」
他の女性なんて興味ないと言ったそばからそう来ますか?それとも食べ物は別って言いたいの?でも冬夜君言ってたよ?愛情に勝る調味料はないって。
ぽかっ
「私のお弁当とどっちが興味あるのかな?冬夜君」
「愛莉に決まってるだろ。たださ……」
ぽかっ
「ただ何?」
「……何でもないです」
プロに勝てる気はしないけど、それでも冬夜君好みの味を熟練してきた私としては負けられない。
……なんてね?
例え私が劣っていたとしても冬夜君なら私の料理を選んでくれる。そう信じてる。
花見の場所の確保は渡辺君たちがしてくれてた。
渡辺君たちをみつけると声をかける。
渡辺君たちも私たちに返してくれた。
最後に来たのは神奈と誠君。
女性が8人も集まれば。それはもう料理が並ぶこと並ぶこと。やっぱり美嘉さんの料理が一番目立っていた。
冬夜君なんか、凝視している。
さっき言ったこともう忘れたの?
ぽかっ
「冬夜君沢山お弁当あるからね♪」
「いや、他の人のも……」
「あるからね♪」
「……はい」
「とーや愛莉の弁当に勝てるとは思わねーけど私もちょっと自信があるんだぜ?」
「トーヤ私のも食べてみろよ」
美嘉さんと神奈が言いだすと私のもとみんなからおすそ分けされる冬夜君。
凄い量だ……。食べきれるの?食べちゃうんだろうな~この人は……。
「皆、飲み物盛ったか~?新年度に入ったけど、よろしくな!!乾杯」
渡辺君がそう言うと皆が「乾杯」といい。宴の始まり。
「渡辺君、新人ゲットの目途はが立ってるの」
指原さんが、そう言うと渡辺君は首を振っていた。
「これ以上増やすのもどうかと思うし、特にツテもないからな」
「ツテじゃないけど、噂なら聞いたよ」
「ほう?どんな噂だ?」
「今年の入学式もすごい新生が現れたらしくて、とにかく皆に可愛がられて『姫様』と呼ばれているらしいわよ」
「どっちのキャンパスだ?」
「確か渡辺君たちと一緒だったはずよ。理工学部って言ってた」
「その話なら僕も聞いたよ。早速勧誘合戦が始まってるって」
指原さんと渡辺君が話してると同じ理工学部の木元先輩が言った。
「でもそう言う話なら、医学部にもいるって聞いたよ」
穂乃果が言う。
「どんな噂?」
「男性なんだけど凄いお金持ちで頭も良くて見た目も良くて……ただ、すごい女たらしだって」
穂乃果の話に男性陣がざわつく。
「そいつの歓迎だけは絶対なしな!」
誠君が言うと、神奈も同調した。
「私もそういう奴はごめんだね!亜依、穂乃果、分かってるだろうな」
「分かってるわよ」
私は構わないけどね、冬夜君に優る人なんているわけないもん。
その冬夜君は目の前に差し出されたご馳走を食べるのに必死で話なんてまるで聞いてないけど。
「私は興味あるわね、その女たらしってやつ……、どう教育してやろうかとぞくぞくしてくるわ」
恵美……そういう人だったの?
「ぼ、僕は止めておいた方が良いかな~って……」
「何?私がどうこうされると思ってるの、そんな下衆な女に見えてるわけ?」
「い、いや。大丈夫です」
恵美が言うと石原君は黙ってしまった。
「そう言う話うちの大学じゃ聞かないんだよな。桐谷君聞いてる?」
「すごい男たらしの女が入ったってのは聞いたよ。うちのサークルも勧誘に走ってるって」
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きっぱりと言う神奈。
誠君の趣味か……ああ!
「誠君!冬夜君に変な事吹き込むの止めて!!今日それで大変だったんだから!」
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「へ?」
何があったの?と言いたげな誠君の表情。
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「その話はもうすんだからいいだろ!うがっ!」
私を止める冬夜君の口に食べ物を詰め込む美嘉さん。
「なんかあったんだろ?話せよ愛莉」
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「ま・こ・と~この馬鹿は!!」
頭を抱える誠君。
「冬夜、見るタイミング考えろよ……」
「誠!そういう問題じゃないだろ!!この馬鹿が!!愛莉ごめんな。」
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「トーヤは大丈夫だと思っていたが……そう来るとは思わなかった」と神奈が言う。
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「その件はちゃんと謝ったって」と冬夜君が言えば「そう言う問題じゃないだろ!お前のやってることは浮気同然だぞ!」と神奈が怒る。
「カンナだって誠が見てたって何も言わないんだろ?」と冬夜君が言えば「誠は私の前じゃ絶対見ねーよ!自分そっくりの女優が変態的行動をとってるの夢中になってる彼氏を見た時の愛莉の気持ち考えたことあるのか?」と神奈が代弁してくれた。
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「そういう意味では片桐君の行動はある意味正しいですよね?だって出来ないことに憧れて見てたってだけでしょ?」と穂乃果が言う。
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「男共がさっきから静まり返ってるのもちょっと納得できないわね?片桐君の行動を容認してるわけ?」と恵美が聞くと、そういう事じゃないと皆が否定する。
「今回の事件は冬夜のタイミングが悪かったってだけで、そういう動画を見る事自体は悪い事じゃないだろ?男なら当然だ」と渡辺君は言う。
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「うん」
「珍しいな、冬夜がそういうタイミング外すのって」
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「それは……」
「それは?」
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「他の人はどんなことしてるんだろう?って気になってさ。前に言われたから『ワンパターンだと愛莉に飽きられるぞ』って……」
そんな冬夜君の言い訳に皆からため息が漏れる。
「あのなあ、冬夜。全部演技なんだぞ?本当にやってる事とは限らないだろ」と、誠君が解説する。
「だから素人物ってタグで検索したって!第一これでも見て勉強しろと言ったのは誠だろ!」
「冬夜、素人がカメラ回ってる前でやると思うか?第一お前遠坂さんがあんな声出したの聞いた事あるのかよ……いてっ!」
神奈が誠君の頭を小突くと冬夜君に言った。
「トーヤ。この前女子会してるときに愛莉自慢してたぞ。今のトーヤに満足してる、幸せだって。そういう事だよ。今のままでいいんだよ」
すると冬夜君が素っ頓狂な事を言い出した。
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ぽかっ。
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そうだね。余計な事は勉強しなくていいけど。
「そうだな、とーやもまだ酒の飲み方とかしらねーもんな。それ飲め……」
「美嘉!今冬夜に飲ませたら俺達も巻き込まれるんだぞ!」
「ちぇっつまんねーの」
「愛莉」
「どうしたの?」
「お弁当無くなったよ」
あ!!いつの間に!
全く目を離してるとこれなんだから。
「とーや、まだ残ってるぞ、残しても腐らせるだけだから食え食え」
冬夜君を餌付けする美嘉さん。
冬夜君のお腹が満たされる頃。花の宴も終わろうとしていた。
(4)
「なあ、愛莉?」
「な~に?」
助手席に座っている愛莉は明るく答えた。
「現状で、幸せって本当なのか?」
「ほえ?」
「いや、その……夜の事とか……」
ぽかっ
「う~ん、冬夜君が分かりやすいように解説しないとダメ?」
「出来ればそうしてくれるとありがたいかな?」
「うぅ……。すっごい言うの恥ずかしいから聞き返したりするの無しだよ?あと笑わないでね」
「うん」
愛莉はその後しばらく黙っていた。
車が信号で止まると、愛莉は僕に耳打ちした。
愛莉の顔は真っ赤だった。
愛莉は僕に一言こう言った
「あんな声出すのは極力抑えてるんだけどどうしても我慢できないとでちゃうの」
そうだったんだね。
「だから冬夜君は気にしなくていいんだよ。でも……」
「でも?」
「冬夜君がその……口でして欲しいとか言うならそのくらいはしてあげるけど……」
僕は言葉に詰まった。……なんて返せばいいんだろう?
「あんなに上手にできるとは思わないけど練習はするから」
「練習?誰と?」
ぽかっ
「冬夜君に決まってるでしょ!馬鹿!」
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「あ、でも……」
「でも?」
「誰かが言ってたソフトクリーム舐めるようにすればいいんだって」
愛莉がソフトクリームを舐めてる場面を想像してみた。
口の周りに白いクリームがついていてそれはまるで……。
ぽかっ
「また変な事考えてた!」
「愛莉」
「な~に?」
「今夜試してみるか」
叩かれるかな……?あれ、こないぞ?
ふと隣を見るともじもじ恥ずかしそうにしてる愛莉が。
「私は冬夜君のものだから……」
「え?」
「冬夜君が好きな時にしていいんだよ!」
愛莉は顔を隠している。
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「愛莉が、サービスしてくれるなら僕もお返ししないとな」
「え?」
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「?」
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