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3rdSEASON
求道
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(1)
「おはよう冬夜君!朝だよ~今日も学校あるんだよ~!」
「おはよう愛莉……」
完全な寝不足。愛莉がどうして元気なのか不思議なくらいだ。
毎回するたびに思う。愛莉は僕の元気を吸い取ってるんじゃないかと。
昨夜は熱かった。
結婚。愛莉が僕のお嫁さんになる。それは幻想のように思えたけど、昨夜一枚の紙きれがそれを具体化させてくれた。
多分結婚という物において一番の障害となるのは彼女の両親の存在だろう。
その障壁が無い。まったく無い。それどこかウェルカム状態と来てる。
愛莉が僕のお嫁さんになる。それが真実味を増した時緊張と共に訪れる幸福感と解放感。
やっと手に入れたんだ。最高の宝物を。
それが夜の快楽へと走らせる。
快楽の時間は深夜まで続いた。精も根も尽き果てた僕を愛莉は抱擁して寝ていた。
そんな愛莉は今一人着替えを始めている。
愛莉は赤とかピンクより緑とか青とかの方が好きらしい。それも薄いパステル系の。
もちろん持ってるのは持ってるらしいけど。旅行に行った時とかクリスマスとか特別な日にしか着てない。特別な日に身に着けるという事はそっちが本命なんだろうか?
僕の視線に気がついた愛莉が近づいて来る。なに、いまさら恥ずかしいという事もないだろう。
ぽかっ
あったみたいだ。
「そんなにじろじろ見られてら恥ずかしいよ。冬夜君のえっち」
「そう思うんだったら目の前で着替えるの止めたらいいだろ?」
「うぅ……だって冬夜君がそんな目で見てるの初めてだもん」
「どんな目してた?」
「なんかすっごいいやらしい目」
「愛莉、一つだけいい?」
「な~に?」
愛莉は着替えながら僕に聞き返す。
「多分愛莉がつけてる下着だから興奮するんだと思う」
「!?」
「下着それ自体には興味ないっていうか……いてっ!」
ぽかぽかっ
「冬夜君の馬鹿!麻耶さんに言いつけてやるんだから!」
「ああ、それは待って!」
非常に困る。
「ぶーっ!で~す。じゃあ冬夜君に罰ゲームを与えま~す」
「なに?」
「着替えて」
はい?
「ほら、時間ないよ早く早く!」
僕は言われるがままに着替える。
愛莉は屈んでじーっと僕を見てる。
「愛莉、そんなにじろじろ見られると着替えづらいんだけど」
「冬夜君は私の着替えじーっと見てたのに冬夜君は見せないなんてずるい!」
愛莉の言わんとすることは理解できた。
視線を気にしながらも着替える。
「ねえ?冬夜君」
「なに?」
「どうしてそんなにいい体してるの?あんなに食べてるのに全然お腹出てないし」
そんなにムキムキって程じゃないと思うけどな。むしろ誠の方が体つき良いだろ?
「……今度誠に見せてもらえよ。僕よりよっぽどいい体形だと思うよ?」
「いつ見るの?」
「どうせ夏にでもまた皆で海に行くんだろ?その時に見せてもらえば……」
ぽかっ
「今日の冬夜君は意地悪にも程があるよ。泣いちゃうぞ。冬夜君の体だから見たいの!他の人なんて興味ないし。冬夜君は違うみたいだけど」
「そんなことないよ、さっきも言ったろ?愛莉の体と下着が組み合わさっていいんだって」
朝から何を熱弁してるんだろう?
「嘘だもん!冬夜君日焼けしてる人とかカンナみたいな体形の人が好きだってしってるもん!」
「なんでそうなるんだよ」
「だって冬夜君の見てる動画大体そんな人ばっかだもん」
「……なんで知ってるんだよ」
「……夫婦に隠し事は無しなんだよ」
「?」
「冬夜君のデスクトップ覗きました……てへっ♪」
「愛莉……」
「そ、そんなに怒ることないじゃん。やましいことしてなきゃ平気でしょ?パスワードかけてない冬夜君が悪いんだよ」
必死に言い訳をする愛莉。
「今言ったな?」
「ほえ?」
「じゃあ、愛莉もノート覗かれて困ることないよな?」
「うぅ……じゃあ、ご飯食べた後で……」
一回見てみたかったんだよね。女性のパソコンの中身ってやつ?
朝食を終えて愛莉の家事も終えて愛莉がマグカップを持ってくると僕はテーブルの前に座っていた。
愛莉はテーブルにマグカップを置くと自分のノートPCを起動させる。
パスワードは僕の誕生日らしい。
「さあどうぞ!」
愛莉は僕にノートPCを差し出す。
デスクトップ画面を見る。意外に殺風景なんだな。もっと可愛らしい背景かと思っていたけど。
アイコンも必要最低限のアイコンしか出ていない。
PCの中味も小遣い帳とか大学の資料くらいしか入ってない。そういやそんなに愛莉がPC触ってるのって見たこと無いな。本命はスマホの方か
ネットブラウザも確認する。
SNSと通販サイトぐらいか。
SNSの中味は……。ちらりと愛莉を見る。
「別にいいよ~」
自動ログインにしてるみたいだ。今までに行った旅行での思い出の画像や日記。お気に入りには有名人や料理のレシピ・ファッション系なんかを中心に見てるみたいだ。
愛莉にノートPCを返す。
「つまんないと思ったでしょ?」
「そんなことないよ、意外だなと思ったけど、もっと可愛らしい物を想像してた」
「どうせ私は可愛くないですよ~だ」
愛莉は口を尖らせて拗ねる。
すぐ拗ねるんだから。このお姫様は。
「愛莉が可愛くないとは言ってないだろ?」
「いっしょだよ」
「愛莉って意外と機能性重視なんだなって思っただけ。SNSなんかも女の子らしかったし」
「あとから言われても嬉しくないよ?」
「どうしたら機嫌を直してくれますかお姫様」
「う~ん」
愛莉が悩み始めた。
そんなに悩まなくてもいくつでも叶えてやるのに。
すると愛莉は僕の隣に座りぼくにもたれかかる。
「そんなので良いの?」
「うん、これだけで幸せだから」
どれだけ健気な娘なんだろう?
ちょっとだけサービスしてあげるかな?
愛莉の肩に腕を回し抱き寄せる。
うっとりとしている愛莉。
僕の目線は良からぬ方へ向かうのだが、今回ばかりは我慢した。
すると僕と愛莉のスマホがメッセージを着信する。
多分渡辺班だろう。
メッセージを見て驚いた。
「竹本君が失踪した」
僕は愛莉と顔を見合わせる。
何があったんだ?一体?
(2)
ハナミズキの咲く頃。
僕はコンビニの駐車場で車中泊をしていた。
6時ごろに目が覚めるとコンビニでお握りを買って食べて再び出発。
まだ通勤ラッシュの時間は避けていたとはいえ帰省ラッシュの多いこの時期。
車は遅々として進まない。
その間FMラジオを聞いてのんびり過ごす。
街を抜けると少し混雑も解消される。
しかし次の街がすぐにあった。
そこでまた足止めを食らう。
それを抜けると山道が続く。
次のSSで給油しようと思っていたけどなかなか見つからない。
山を越えるとやっと一件あった。
その後バイパスを抜けながら南へと道を走らせる。
県庁所在地に向かった。
商店街はガラガラで本当に県庁所在地?と疑いたくなるほどだった。
さらに郊外に出るとスーパーがあった。
こういうところには焼き立てのパン屋さんがある。
パン屋さんに交渉する。パンの耳を格安で譲り受けることが出来た。
ついでにホームセンターでカセットコンロと小型の鍋を買う。
少しでも自炊しなくちゃ。
コンビニで地図を買う。
カーナビと見比べながら現在地を確認する。
10号線をはずれ九州最南端の岬に向かう。
駐車場から佐多岬の途中、枇榔やソテツなどの亜熱帯植物が茂ってあった。
佐多岬に着くとエメラルドブルーの大海原が広がり解放感が半端なかった。
アクセルを踏むだけでここまでこれるんだと感動した。
このあとどうしようか悩んだ。
片桐先輩が「桜島は見ておいた方がいい」と言っていたのを思い出した。
僕は戻り桜島へ向かう。
その景色に感動した。
でも冬夜君の言ってるのはそういう事じゃなかったようだ。
フェリーで鹿児島市内に渡るフェリー。
それは格別の物だった
船から見れる山を見てあんなところに行ったんだなと感動する。
はしゃいでるカップルがいる。
そのカップルと目が合うと「写真撮ってもらえませんか?」と尋ねられた。
僕は快諾した。
パシャッ
そのカップルは僕に礼を言うと立ち去って行った。
その時僕は気づいた。
隣にいる薄紅色の可愛い君の幻を見る。
手を繋いで写真を撮って。
やっぱり僕は彼女が好きなんだな。一人感慨にふけっていた。
どうせなら記念に写真を撮っておこう。
そう思ってスマホを手にしてみた。
充電切れを起こしていた。
後で充電しなきゃな。
一人苦笑していた。
鹿児島以内に着くとどうしようか迷う。
最南端は観たんだしわざわざ指宿まで行く必要もないな。
無いより観光目的で来たわけじゃない。
日も暮れてきた。今日はどこかに泊りたい。
適当に安いユースホステルを探す。
市内に一軒あった。
ドミトリーの部屋だったけど気にしない。
相部屋だった人と話をする。
その人は九州一周をしているらしい。
九州一周。それも面白いかもしれないな
僕ん旅の目的は決まったようだ。
どこまで行けるか分からないけど。
行けるだけ行ってみよう。
「君はどうして旅をしているの?」
そう聞かれた。言葉に詰まった。
「まあ、話せない事情もあるよね。旅をすることに意味があるんだから深く考える必要はないよ」
「……旅をしようと思って。したわけじゃないんです。気がついたら家を出ていました。どこまでいけるのかと試して見たくなって……」
「……行けるところまで行くと良い。道はどこまでも続く。その道をひたすら追い求めるといい」
施設には共用キッチンがある。
買ってきたインスタントラーメンを作って食べた。
近くのホームセンターでポケットコンロなんかも買っておいた。
資金には限りがある。ガソリン代だって馬鹿にならない。毎日ユースホステルを使うわけにもいかない。
適当なキャンプなどで自炊する準備も必要だと思ったから。
その後風呂に入り眠りにつく。
みんな疲れているのだろう寝ていた。
僕も今日は疲れたので寝た。
あ、皆から心配のメッセージが来ていたので返しておいた。
「僕は無事です。心配しないで」と……。
今僕は好きな事をやっている。
それは悪い事なのか?
たまには叱って欲しい事もある……。
皆は怒っているようだった。
「心配させるな」と。
そんな人たちがいることに感謝していた。
そんな人達の中に木下さんもいた。
「竹本君大丈夫?」と心配してくれているようだった。
「大丈夫だよ」と返した。
帰ったら君に伝えたい事があるんだ。
多分君を困らせることになるだろうけど。
僕の自己満足に付き合わせるだけになるだろうけど。
お願いだから聞いて欲しい。
(3)
俺たちは丹下先生の立ち合いのもと竹本の部屋に足を踏み入れることにした。
部屋の中は適度に散らかっており、ちょっとそこまで出かけてくるといった感じがした。
「とくに何か目的があって出たようには感じられませんね」
「そうだな……真鍋心当たりはないのか?」
丹下先生が聞いてきたが特に心当たりは……あった。
「昨日ちょっとトラブルがあって揉めたんですよ。その後ふらっと帰ってしまって……あいつ思い詰めてたな」
「なんかまずいんじゃない?捜索願でも出した方が……」
新名さんが言うと丹下先生は何か思うところがあったのか急に笑い出した。
「そういうことか……。捜索願とかは出さなくてもいいと思う」
「先生!竹本君の事心配じゃないんですか?連絡もつかないんですよ!スマホも電源切ってるみたいだし。直電にもつながらないし」
「修ちゃんちょっと冷たいよ」
木下さんまで、加わった。
俺も考えてみた。竹本が失踪した理由。突然いなくなった。連絡もつかない。だけど捜索願を出すまではない……もしかして!
「なるほどな……。そういうことか」
「そういうことだ、真鍋」
アイツらしいと言えばアイツらしいか。
「あまり事を大きくしないほうがいいかもしれませんね」
「だろ?」
「修ちゃん竹本君の行き先知ってるの?」
木下さんが丹下先生に聞いていた。丹下先生は首を振る。
「分からない、けどきっと無事だよ。それは確かだ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「海未……人にはあまり触れてほしくないこともあるんだ」
「?」
「先生俺ちょっと行くところがあるんで行ってきます。新名さんも来るよな」
「青い鳥でしょ?行く行く。海未ちゃんも来なよ。皆で相談しよっ!」
「修ちゃん行ってきていい?」
「帰りは大丈夫か?」
丹下先生はちらっと俺を見る。
「俺が送って帰りますから」
「じゃあ、あまり遅くならない程度にな」
丹下先生がそう言うと俺たちは竹本のアパートを後にした。
喫茶青い鳥。
今日は大勢の人が詰めかけていた。
竹本の緊急事態、がテーマだから。
疾走した理由は特定の人しか知らない。
「私言い過ぎたかな……」と、指原先輩は言う。
「あのくらいで行方をくらます竹本の精神が軟弱なのよ」と江口先輩が言う。
「もう一回鍛えなおす必要がありそうね」と付け足して。
「あのさ……、真鍋君何か知ってるみたいだけど?」
片桐先輩がカツサンドを食べながら僕に言う。
こういう時の片桐先輩の勘は鋭い。
「まあ、心当たりはありますね」
「そうなんですよ!片桐先輩!丹下先生も知ってるみたいだけど何も教えてくれないんです」
新名さんが片桐先輩に訴える。
片桐先輩は僕の方をじっと見る。そして一言「なるほどね……」と言った。その顔には笑みがこぼれている。どこまでこの人は人の心に入ってくるんだろう?
「ちょっと冬夜君。笑ってる場合じゃないでしょ!」
遠坂先輩が片桐先輩を窘める。
片桐先輩は柳の如く受け流し、ナポリタンとカツサンドをたいらげると「じゃ、僕達はこれで。明日早いし」と言って席を立つ。
ぽかっ
「冬夜君の薄情者!仲間が失踪したんだよ!少しは心配してあげたっていいじゃない?」
遠坂先輩が片桐先輩に言うと片桐先輩は遠坂先輩に耳打ちした。
「ああ、なるほど……」
遠坂先輩に理由を説明したようだ。
「じゃ、またね」
そう言って片桐先輩たちは店を出て行った。
「俺達も解散するとするか。そのうち連絡がくるさ」
そう言って渡辺先輩が立ち去ろうとしたとき全員のスマホが鳴った。
「僕は無事です。心配しないで」
その後写真が何枚か送られてきた。
「今どこにいるの?」
木下さんがメッセージを送る。
「鹿児島。錦江湾綺麗だったよ」
「鹿児島!?意味が分からない!!」
指原先輩が怒っている。
「真鍋君。この際だから白状しなさい!何で鹿児島に行ってるの!?」
志水先輩から聞かれる。どう答えたらいい物か。
「竹本君も思うところがあったんだろ?青春していていいじゃないか」
渡辺先輩はそう言って帰って行った。
入れ違いで西松君が入ってきた。
「おや?今日は全員招集だと聞いていたんですが」
「用事があってこれない人もいるんだよ!」
指原先輩の機嫌は悪い。間が悪いときに来たね。
そんなことなどお構いなしに江口先輩の隣に座る。
「今日は石原先輩はいないんですか?」
「バイトよ。彼真面目だから。良いって言ってるのにデート資金の確保に必死なのよ」
「庶民の彼氏を持つと大変ですね」
「あなたみたいな自信家と付き合いたいとも思わないけどね」
「その価値観変える自信ありますよ。どうです?今夜一緒にディナーでも。夜景の綺麗なレストランを知っていましてね」
パシャッ!
江口先輩は西松君に水をかけていた。
「あなたとディナーするくらいならイッシーとそこら辺の店でラーメン食べていた方がマシだわ……気分を害したわ。今日は私も失礼する」
「恵美がそう言うなら私も退散しようかしら。善君今日は何が食べたい?」
「偶には晩酌もいいかもね」
「あなた酒癖が悪いけど、家なら好都合ね。酒の肴でも作っておくわ」
そう言って江口先輩と志水先輩も店を出て行った。
「皆帰ったなら私も帰ろうかな?」
指原先輩がそう言った時だった。
カランカラン。
店に入ってくる女性が一人。
「竹本君が失踪したと聞いて飛んできました~。大丈夫なんですか彼~」
「無事みたいよ?スマホみてみ?」
指原先輩に言われてスマホを見る花山さん。竹本の無事を確認すると胸を撫でおろした。
「よかった~。で、なんで突然鹿児島なわけ?」
「理由は真鍋君が知ってるみたいだけど」
指原先輩が話を俺に振る。
「真鍋君~どうしてなのかな~?」
形勢不利といった状況だ。
言うしかないのか?
すまん竹本。
「昨日悩んでましたからね。気分転換にでも行ったんじゃないですかね~」
酒井先輩が助け舟を出してくれた。
「気分転換で鹿児島?意味分からない。ちょっとそこまでってレベルじゃないよ」
指原先輩のいう事もごもっともだ。
「彼なりに思うところがあったんでしょう。行き先の無い旅ってのもいいじゃないですか?」
酒井先輩がそう言うと新名さんが「あっ」と声をあげた。
感づいたようだ。
「どうしたの未来?」
「ひょっとして自分探しの旅ってやつ?」
「まあ、そんなところでしょうね……。昨日の件で思うところがあったんでしょう」
「酒井先輩もしたことあるんですか?自分探しの旅」
「無いよ?自分という物を弁えていたから」
「真鍋君は?」
「俺も無いな、したいとは思ったことあるけど春休みも忙しかったから……」
「ばっかじゃないの?男の考えてる事ってわからない!自分なんて他人に認めてもら得て初めて確立するものでしょう……あっ!」
指原先輩は思うところがあったようだ。
昨日自己否定された竹本が自分を見つめなおすための旅に出るのも不思議じゃない。
「私のせいなのかな?」
「いや、指原先輩の言ってた事も正しいです。でもどう受け止めたかは竹本次第です。竹本は自分を振り返ってみたかったんでしょう」
この際だから徹底的に見つめなおしてこい。
そのうちひょこっと帰ってくるだろう。
息を切らして駆け抜けて。
ただ絶対に振り返るな。
もう一回り大きくなった竹本を期待していよう。
(4)
「う~ん」
帰って帳簿をつけながら悩んでいた。
冬夜君はテレビをぼーっと見てる。
冬夜君はあまりテレビを見ない人だ。
ただPCをつけることもない、勉強もまだ焦る時期じゃないと私が押さえてる、ゲームは……私が一緒の時は絶対にさせないんだから。
と、なると選択肢が限られてくる。そして冬夜君はテレビを見ることを選択した。
私と一緒に見て楽しめるから。
でも正直今はテレビという気分じゃなかった。
竹本君の事が気になる。本当に大丈夫なのかな?
「昨日の話きいたろ?自分がわからなくなったんだよきっと」
冬夜君はそう言う。
冬夜君は笑っている。そして安心している。
「冬夜君も自分探ししたいって思ったことあるの?」
私は冬夜君に聞いてみた。
「自分探しはないけど、一人旅はしたいって思ったことはあるよ」
うぅ……。
「私が邪魔してる?」
そう言うと冬夜君は私の頭を撫でて言った。
「どこへ行くのも愛莉と一緒なんだろ?」
「……うん!」
「どこへ行くで思い出した!」
そう言うと冬夜君は明日からの旅行の仕度を始める。
「楽しみだな~イカそうめん」
「冬夜君は自分探しというより食べ歩きの方が似合ってるね」
「そりゃね、自分を探す意味がないから」
「?」
「食べ物と愛莉を愛してやまない自分が僕だよ」
……いい事言ったつもりなんでしょうけど。
ぽかっ
「私と食べ物が一緒なわけ?酷いよ冬夜君」
「最近は愛莉を食べちゃうことも楽しいよ」
「私を食べる?」
その意味を考えて気づいた時、顔が紅潮した。
「そんなに安い私じゃないんですからね!」
「じゃあ、明日は朝早いし早く寝るか?」
「うぅ……冬夜君本当に最近意地悪だよ」
私が泣く真似をすると冬夜君は慌てて私を抱きしめる。
「じょ、冗談に決まってるだろ?ちゃんと甘えさせてやるから」
「本当に?」
「ああ、本当だとも」
「じゃあ甘える~」
そう言って冬夜君に抱き着く。
「もう帳簿は終わったのか?」
「うん!」
「じゃ、寝るか?」
「は~い」
そうしてテレビを消し灯りを落として二人でベッドに入り込む。
夜と朝の狭間、星屑が煌めいていた。
「おはよう冬夜君!朝だよ~今日も学校あるんだよ~!」
「おはよう愛莉……」
完全な寝不足。愛莉がどうして元気なのか不思議なくらいだ。
毎回するたびに思う。愛莉は僕の元気を吸い取ってるんじゃないかと。
昨夜は熱かった。
結婚。愛莉が僕のお嫁さんになる。それは幻想のように思えたけど、昨夜一枚の紙きれがそれを具体化させてくれた。
多分結婚という物において一番の障害となるのは彼女の両親の存在だろう。
その障壁が無い。まったく無い。それどこかウェルカム状態と来てる。
愛莉が僕のお嫁さんになる。それが真実味を増した時緊張と共に訪れる幸福感と解放感。
やっと手に入れたんだ。最高の宝物を。
それが夜の快楽へと走らせる。
快楽の時間は深夜まで続いた。精も根も尽き果てた僕を愛莉は抱擁して寝ていた。
そんな愛莉は今一人着替えを始めている。
愛莉は赤とかピンクより緑とか青とかの方が好きらしい。それも薄いパステル系の。
もちろん持ってるのは持ってるらしいけど。旅行に行った時とかクリスマスとか特別な日にしか着てない。特別な日に身に着けるという事はそっちが本命なんだろうか?
僕の視線に気がついた愛莉が近づいて来る。なに、いまさら恥ずかしいという事もないだろう。
ぽかっ
あったみたいだ。
「そんなにじろじろ見られてら恥ずかしいよ。冬夜君のえっち」
「そう思うんだったら目の前で着替えるの止めたらいいだろ?」
「うぅ……だって冬夜君がそんな目で見てるの初めてだもん」
「どんな目してた?」
「なんかすっごいいやらしい目」
「愛莉、一つだけいい?」
「な~に?」
愛莉は着替えながら僕に聞き返す。
「多分愛莉がつけてる下着だから興奮するんだと思う」
「!?」
「下着それ自体には興味ないっていうか……いてっ!」
ぽかぽかっ
「冬夜君の馬鹿!麻耶さんに言いつけてやるんだから!」
「ああ、それは待って!」
非常に困る。
「ぶーっ!で~す。じゃあ冬夜君に罰ゲームを与えま~す」
「なに?」
「着替えて」
はい?
「ほら、時間ないよ早く早く!」
僕は言われるがままに着替える。
愛莉は屈んでじーっと僕を見てる。
「愛莉、そんなにじろじろ見られると着替えづらいんだけど」
「冬夜君は私の着替えじーっと見てたのに冬夜君は見せないなんてずるい!」
愛莉の言わんとすることは理解できた。
視線を気にしながらも着替える。
「ねえ?冬夜君」
「なに?」
「どうしてそんなにいい体してるの?あんなに食べてるのに全然お腹出てないし」
そんなにムキムキって程じゃないと思うけどな。むしろ誠の方が体つき良いだろ?
「……今度誠に見せてもらえよ。僕よりよっぽどいい体形だと思うよ?」
「いつ見るの?」
「どうせ夏にでもまた皆で海に行くんだろ?その時に見せてもらえば……」
ぽかっ
「今日の冬夜君は意地悪にも程があるよ。泣いちゃうぞ。冬夜君の体だから見たいの!他の人なんて興味ないし。冬夜君は違うみたいだけど」
「そんなことないよ、さっきも言ったろ?愛莉の体と下着が組み合わさっていいんだって」
朝から何を熱弁してるんだろう?
「嘘だもん!冬夜君日焼けしてる人とかカンナみたいな体形の人が好きだってしってるもん!」
「なんでそうなるんだよ」
「だって冬夜君の見てる動画大体そんな人ばっかだもん」
「……なんで知ってるんだよ」
「……夫婦に隠し事は無しなんだよ」
「?」
「冬夜君のデスクトップ覗きました……てへっ♪」
「愛莉……」
「そ、そんなに怒ることないじゃん。やましいことしてなきゃ平気でしょ?パスワードかけてない冬夜君が悪いんだよ」
必死に言い訳をする愛莉。
「今言ったな?」
「ほえ?」
「じゃあ、愛莉もノート覗かれて困ることないよな?」
「うぅ……じゃあ、ご飯食べた後で……」
一回見てみたかったんだよね。女性のパソコンの中身ってやつ?
朝食を終えて愛莉の家事も終えて愛莉がマグカップを持ってくると僕はテーブルの前に座っていた。
愛莉はテーブルにマグカップを置くと自分のノートPCを起動させる。
パスワードは僕の誕生日らしい。
「さあどうぞ!」
愛莉は僕にノートPCを差し出す。
デスクトップ画面を見る。意外に殺風景なんだな。もっと可愛らしい背景かと思っていたけど。
アイコンも必要最低限のアイコンしか出ていない。
PCの中味も小遣い帳とか大学の資料くらいしか入ってない。そういやそんなに愛莉がPC触ってるのって見たこと無いな。本命はスマホの方か
ネットブラウザも確認する。
SNSと通販サイトぐらいか。
SNSの中味は……。ちらりと愛莉を見る。
「別にいいよ~」
自動ログインにしてるみたいだ。今までに行った旅行での思い出の画像や日記。お気に入りには有名人や料理のレシピ・ファッション系なんかを中心に見てるみたいだ。
愛莉にノートPCを返す。
「つまんないと思ったでしょ?」
「そんなことないよ、意外だなと思ったけど、もっと可愛らしい物を想像してた」
「どうせ私は可愛くないですよ~だ」
愛莉は口を尖らせて拗ねる。
すぐ拗ねるんだから。このお姫様は。
「愛莉が可愛くないとは言ってないだろ?」
「いっしょだよ」
「愛莉って意外と機能性重視なんだなって思っただけ。SNSなんかも女の子らしかったし」
「あとから言われても嬉しくないよ?」
「どうしたら機嫌を直してくれますかお姫様」
「う~ん」
愛莉が悩み始めた。
そんなに悩まなくてもいくつでも叶えてやるのに。
すると愛莉は僕の隣に座りぼくにもたれかかる。
「そんなので良いの?」
「うん、これだけで幸せだから」
どれだけ健気な娘なんだろう?
ちょっとだけサービスしてあげるかな?
愛莉の肩に腕を回し抱き寄せる。
うっとりとしている愛莉。
僕の目線は良からぬ方へ向かうのだが、今回ばかりは我慢した。
すると僕と愛莉のスマホがメッセージを着信する。
多分渡辺班だろう。
メッセージを見て驚いた。
「竹本君が失踪した」
僕は愛莉と顔を見合わせる。
何があったんだ?一体?
(2)
ハナミズキの咲く頃。
僕はコンビニの駐車場で車中泊をしていた。
6時ごろに目が覚めるとコンビニでお握りを買って食べて再び出発。
まだ通勤ラッシュの時間は避けていたとはいえ帰省ラッシュの多いこの時期。
車は遅々として進まない。
その間FMラジオを聞いてのんびり過ごす。
街を抜けると少し混雑も解消される。
しかし次の街がすぐにあった。
そこでまた足止めを食らう。
それを抜けると山道が続く。
次のSSで給油しようと思っていたけどなかなか見つからない。
山を越えるとやっと一件あった。
その後バイパスを抜けながら南へと道を走らせる。
県庁所在地に向かった。
商店街はガラガラで本当に県庁所在地?と疑いたくなるほどだった。
さらに郊外に出るとスーパーがあった。
こういうところには焼き立てのパン屋さんがある。
パン屋さんに交渉する。パンの耳を格安で譲り受けることが出来た。
ついでにホームセンターでカセットコンロと小型の鍋を買う。
少しでも自炊しなくちゃ。
コンビニで地図を買う。
カーナビと見比べながら現在地を確認する。
10号線をはずれ九州最南端の岬に向かう。
駐車場から佐多岬の途中、枇榔やソテツなどの亜熱帯植物が茂ってあった。
佐多岬に着くとエメラルドブルーの大海原が広がり解放感が半端なかった。
アクセルを踏むだけでここまでこれるんだと感動した。
このあとどうしようか悩んだ。
片桐先輩が「桜島は見ておいた方がいい」と言っていたのを思い出した。
僕は戻り桜島へ向かう。
その景色に感動した。
でも冬夜君の言ってるのはそういう事じゃなかったようだ。
フェリーで鹿児島市内に渡るフェリー。
それは格別の物だった
船から見れる山を見てあんなところに行ったんだなと感動する。
はしゃいでるカップルがいる。
そのカップルと目が合うと「写真撮ってもらえませんか?」と尋ねられた。
僕は快諾した。
パシャッ
そのカップルは僕に礼を言うと立ち去って行った。
その時僕は気づいた。
隣にいる薄紅色の可愛い君の幻を見る。
手を繋いで写真を撮って。
やっぱり僕は彼女が好きなんだな。一人感慨にふけっていた。
どうせなら記念に写真を撮っておこう。
そう思ってスマホを手にしてみた。
充電切れを起こしていた。
後で充電しなきゃな。
一人苦笑していた。
鹿児島以内に着くとどうしようか迷う。
最南端は観たんだしわざわざ指宿まで行く必要もないな。
無いより観光目的で来たわけじゃない。
日も暮れてきた。今日はどこかに泊りたい。
適当に安いユースホステルを探す。
市内に一軒あった。
ドミトリーの部屋だったけど気にしない。
相部屋だった人と話をする。
その人は九州一周をしているらしい。
九州一周。それも面白いかもしれないな
僕ん旅の目的は決まったようだ。
どこまで行けるか分からないけど。
行けるだけ行ってみよう。
「君はどうして旅をしているの?」
そう聞かれた。言葉に詰まった。
「まあ、話せない事情もあるよね。旅をすることに意味があるんだから深く考える必要はないよ」
「……旅をしようと思って。したわけじゃないんです。気がついたら家を出ていました。どこまでいけるのかと試して見たくなって……」
「……行けるところまで行くと良い。道はどこまでも続く。その道をひたすら追い求めるといい」
施設には共用キッチンがある。
買ってきたインスタントラーメンを作って食べた。
近くのホームセンターでポケットコンロなんかも買っておいた。
資金には限りがある。ガソリン代だって馬鹿にならない。毎日ユースホステルを使うわけにもいかない。
適当なキャンプなどで自炊する準備も必要だと思ったから。
その後風呂に入り眠りにつく。
みんな疲れているのだろう寝ていた。
僕も今日は疲れたので寝た。
あ、皆から心配のメッセージが来ていたので返しておいた。
「僕は無事です。心配しないで」と……。
今僕は好きな事をやっている。
それは悪い事なのか?
たまには叱って欲しい事もある……。
皆は怒っているようだった。
「心配させるな」と。
そんな人たちがいることに感謝していた。
そんな人達の中に木下さんもいた。
「竹本君大丈夫?」と心配してくれているようだった。
「大丈夫だよ」と返した。
帰ったら君に伝えたい事があるんだ。
多分君を困らせることになるだろうけど。
僕の自己満足に付き合わせるだけになるだろうけど。
お願いだから聞いて欲しい。
(3)
俺たちは丹下先生の立ち合いのもと竹本の部屋に足を踏み入れることにした。
部屋の中は適度に散らかっており、ちょっとそこまで出かけてくるといった感じがした。
「とくに何か目的があって出たようには感じられませんね」
「そうだな……真鍋心当たりはないのか?」
丹下先生が聞いてきたが特に心当たりは……あった。
「昨日ちょっとトラブルがあって揉めたんですよ。その後ふらっと帰ってしまって……あいつ思い詰めてたな」
「なんかまずいんじゃない?捜索願でも出した方が……」
新名さんが言うと丹下先生は何か思うところがあったのか急に笑い出した。
「そういうことか……。捜索願とかは出さなくてもいいと思う」
「先生!竹本君の事心配じゃないんですか?連絡もつかないんですよ!スマホも電源切ってるみたいだし。直電にもつながらないし」
「修ちゃんちょっと冷たいよ」
木下さんまで、加わった。
俺も考えてみた。竹本が失踪した理由。突然いなくなった。連絡もつかない。だけど捜索願を出すまではない……もしかして!
「なるほどな……。そういうことか」
「そういうことだ、真鍋」
アイツらしいと言えばアイツらしいか。
「あまり事を大きくしないほうがいいかもしれませんね」
「だろ?」
「修ちゃん竹本君の行き先知ってるの?」
木下さんが丹下先生に聞いていた。丹下先生は首を振る。
「分からない、けどきっと無事だよ。それは確かだ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「海未……人にはあまり触れてほしくないこともあるんだ」
「?」
「先生俺ちょっと行くところがあるんで行ってきます。新名さんも来るよな」
「青い鳥でしょ?行く行く。海未ちゃんも来なよ。皆で相談しよっ!」
「修ちゃん行ってきていい?」
「帰りは大丈夫か?」
丹下先生はちらっと俺を見る。
「俺が送って帰りますから」
「じゃあ、あまり遅くならない程度にな」
丹下先生がそう言うと俺たちは竹本のアパートを後にした。
喫茶青い鳥。
今日は大勢の人が詰めかけていた。
竹本の緊急事態、がテーマだから。
疾走した理由は特定の人しか知らない。
「私言い過ぎたかな……」と、指原先輩は言う。
「あのくらいで行方をくらます竹本の精神が軟弱なのよ」と江口先輩が言う。
「もう一回鍛えなおす必要がありそうね」と付け足して。
「あのさ……、真鍋君何か知ってるみたいだけど?」
片桐先輩がカツサンドを食べながら僕に言う。
こういう時の片桐先輩の勘は鋭い。
「まあ、心当たりはありますね」
「そうなんですよ!片桐先輩!丹下先生も知ってるみたいだけど何も教えてくれないんです」
新名さんが片桐先輩に訴える。
片桐先輩は僕の方をじっと見る。そして一言「なるほどね……」と言った。その顔には笑みがこぼれている。どこまでこの人は人の心に入ってくるんだろう?
「ちょっと冬夜君。笑ってる場合じゃないでしょ!」
遠坂先輩が片桐先輩を窘める。
片桐先輩は柳の如く受け流し、ナポリタンとカツサンドをたいらげると「じゃ、僕達はこれで。明日早いし」と言って席を立つ。
ぽかっ
「冬夜君の薄情者!仲間が失踪したんだよ!少しは心配してあげたっていいじゃない?」
遠坂先輩が片桐先輩に言うと片桐先輩は遠坂先輩に耳打ちした。
「ああ、なるほど……」
遠坂先輩に理由を説明したようだ。
「じゃ、またね」
そう言って片桐先輩たちは店を出て行った。
「俺達も解散するとするか。そのうち連絡がくるさ」
そう言って渡辺先輩が立ち去ろうとしたとき全員のスマホが鳴った。
「僕は無事です。心配しないで」
その後写真が何枚か送られてきた。
「今どこにいるの?」
木下さんがメッセージを送る。
「鹿児島。錦江湾綺麗だったよ」
「鹿児島!?意味が分からない!!」
指原先輩が怒っている。
「真鍋君。この際だから白状しなさい!何で鹿児島に行ってるの!?」
志水先輩から聞かれる。どう答えたらいい物か。
「竹本君も思うところがあったんだろ?青春していていいじゃないか」
渡辺先輩はそう言って帰って行った。
入れ違いで西松君が入ってきた。
「おや?今日は全員招集だと聞いていたんですが」
「用事があってこれない人もいるんだよ!」
指原先輩の機嫌は悪い。間が悪いときに来たね。
そんなことなどお構いなしに江口先輩の隣に座る。
「今日は石原先輩はいないんですか?」
「バイトよ。彼真面目だから。良いって言ってるのにデート資金の確保に必死なのよ」
「庶民の彼氏を持つと大変ですね」
「あなたみたいな自信家と付き合いたいとも思わないけどね」
「その価値観変える自信ありますよ。どうです?今夜一緒にディナーでも。夜景の綺麗なレストランを知っていましてね」
パシャッ!
江口先輩は西松君に水をかけていた。
「あなたとディナーするくらいならイッシーとそこら辺の店でラーメン食べていた方がマシだわ……気分を害したわ。今日は私も失礼する」
「恵美がそう言うなら私も退散しようかしら。善君今日は何が食べたい?」
「偶には晩酌もいいかもね」
「あなた酒癖が悪いけど、家なら好都合ね。酒の肴でも作っておくわ」
そう言って江口先輩と志水先輩も店を出て行った。
「皆帰ったなら私も帰ろうかな?」
指原先輩がそう言った時だった。
カランカラン。
店に入ってくる女性が一人。
「竹本君が失踪したと聞いて飛んできました~。大丈夫なんですか彼~」
「無事みたいよ?スマホみてみ?」
指原先輩に言われてスマホを見る花山さん。竹本の無事を確認すると胸を撫でおろした。
「よかった~。で、なんで突然鹿児島なわけ?」
「理由は真鍋君が知ってるみたいだけど」
指原先輩が話を俺に振る。
「真鍋君~どうしてなのかな~?」
形勢不利といった状況だ。
言うしかないのか?
すまん竹本。
「昨日悩んでましたからね。気分転換にでも行ったんじゃないですかね~」
酒井先輩が助け舟を出してくれた。
「気分転換で鹿児島?意味分からない。ちょっとそこまでってレベルじゃないよ」
指原先輩のいう事もごもっともだ。
「彼なりに思うところがあったんでしょう。行き先の無い旅ってのもいいじゃないですか?」
酒井先輩がそう言うと新名さんが「あっ」と声をあげた。
感づいたようだ。
「どうしたの未来?」
「ひょっとして自分探しの旅ってやつ?」
「まあ、そんなところでしょうね……。昨日の件で思うところがあったんでしょう」
「酒井先輩もしたことあるんですか?自分探しの旅」
「無いよ?自分という物を弁えていたから」
「真鍋君は?」
「俺も無いな、したいとは思ったことあるけど春休みも忙しかったから……」
「ばっかじゃないの?男の考えてる事ってわからない!自分なんて他人に認めてもら得て初めて確立するものでしょう……あっ!」
指原先輩は思うところがあったようだ。
昨日自己否定された竹本が自分を見つめなおすための旅に出るのも不思議じゃない。
「私のせいなのかな?」
「いや、指原先輩の言ってた事も正しいです。でもどう受け止めたかは竹本次第です。竹本は自分を振り返ってみたかったんでしょう」
この際だから徹底的に見つめなおしてこい。
そのうちひょこっと帰ってくるだろう。
息を切らして駆け抜けて。
ただ絶対に振り返るな。
もう一回り大きくなった竹本を期待していよう。
(4)
「う~ん」
帰って帳簿をつけながら悩んでいた。
冬夜君はテレビをぼーっと見てる。
冬夜君はあまりテレビを見ない人だ。
ただPCをつけることもない、勉強もまだ焦る時期じゃないと私が押さえてる、ゲームは……私が一緒の時は絶対にさせないんだから。
と、なると選択肢が限られてくる。そして冬夜君はテレビを見ることを選択した。
私と一緒に見て楽しめるから。
でも正直今はテレビという気分じゃなかった。
竹本君の事が気になる。本当に大丈夫なのかな?
「昨日の話きいたろ?自分がわからなくなったんだよきっと」
冬夜君はそう言う。
冬夜君は笑っている。そして安心している。
「冬夜君も自分探ししたいって思ったことあるの?」
私は冬夜君に聞いてみた。
「自分探しはないけど、一人旅はしたいって思ったことはあるよ」
うぅ……。
「私が邪魔してる?」
そう言うと冬夜君は私の頭を撫でて言った。
「どこへ行くのも愛莉と一緒なんだろ?」
「……うん!」
「どこへ行くで思い出した!」
そう言うと冬夜君は明日からの旅行の仕度を始める。
「楽しみだな~イカそうめん」
「冬夜君は自分探しというより食べ歩きの方が似合ってるね」
「そりゃね、自分を探す意味がないから」
「?」
「食べ物と愛莉を愛してやまない自分が僕だよ」
……いい事言ったつもりなんでしょうけど。
ぽかっ
「私と食べ物が一緒なわけ?酷いよ冬夜君」
「最近は愛莉を食べちゃうことも楽しいよ」
「私を食べる?」
その意味を考えて気づいた時、顔が紅潮した。
「そんなに安い私じゃないんですからね!」
「じゃあ、明日は朝早いし早く寝るか?」
「うぅ……冬夜君本当に最近意地悪だよ」
私が泣く真似をすると冬夜君は慌てて私を抱きしめる。
「じょ、冗談に決まってるだろ?ちゃんと甘えさせてやるから」
「本当に?」
「ああ、本当だとも」
「じゃあ甘える~」
そう言って冬夜君に抱き着く。
「もう帳簿は終わったのか?」
「うん!」
「じゃ、寝るか?」
「は~い」
そうしてテレビを消し灯りを落として二人でベッドに入り込む。
夜と朝の狭間、星屑が煌めいていた。
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