優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

溢れる光

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(1)

「おはよう愛莉。時間だよ」
「ほえ……」

愛莉は時計を見る。

「まだ朝ごはんまで30分あるよ?どうしたの?」
「愛莉朝準備に時間かかるだろ?そろそろかな?と思って」

そう言って愛莉にキスをする。

「えへへ~。ありがとう」

愛莉はガウンを羽織り下は下着だけ。ベッドの上に割座で座りちょっと袖の長いガウンから手を半分くらい出して頭をかいてる。
こんな状況でよく自我を保てるな僕、と一人褒めてやる。
愛莉はベッドから出るとバスルームに向かう。
そして出てくると着替えを始める。
その間椅子に座りのんびりとテレビを見ている。
こんな時間からテレビを見ることなど滅多にないのだが。

「着替え終わったよ~」

愛莉はワンピースにカーデガンを羽織りポシェットをかけている。
まだ眠いのか目をこすっている。
その仕草が凄く可愛い。
押し倒したくなる衝動に駆られるが、ここは冷静に食欲を優先させよう。

「じゃあ、朝ごはんいこうか?」というと愛莉は「うん」とうなずいて部屋を出た。


朝食を終えると部屋に戻り愛莉が化粧を終えるまでテレビを見て時間を潰す。
愛莉が「終わったよ~」と声をかけると僕も荷物を手にし部屋を出る。
チェックアウトの手続きを愛莉がしている間、椅子に腰かけ愛莉を待つ。
愛莉が戻ってくるとホテルを出てテーマパークを後にする。
駐車場に着くと荷物を積み込み出発。高速は既に渋滞気味。
それでも少しの間だけだとナビを見て確認する。

「着いたら何するの~?」

愛莉が聞くと僕は当然の様に「多分お昼だろうな」と答える。

「今日は二人の日だよね?そう言ってたよね?」
「そうだね」
「じゃあ、私から提案があるんだけど?」
「なに?」
「今日は車さんお休みさせてあげよう?」
「でも、車無いと移動不便だぞ?」

わかってないな~と愛莉は笑う。

「路面電車が走ってるの。あれ乗ってみたいな~って思って。どうせ車で移動しても渋滞で動けないだろうし」

愛莉の言う事ももっともだしな。どこも駐車場埋まってるだろうし。

「じゃあ、車は今日は休ませてあげるか」
「うん」

ホテルの駐車場は使えないので、近くのパーキングに止める。
中華街で昼食を取ると、前に言ったことのある観光地に行く。
あれから6年経ってるのか。観光地の風景は変わらない。変わって見えてるとしたら僕達の方が変わったのかもしれない。
あの時は親と一緒だった。今は二人だけの旅。
あの時はつまらないと思っていたことも今は楽しめる。
どうして恋人たちが集うのかその理由も今なら分かる気がする。

「うぅ……」

愛莉がなんか悩んでる。どうしたんだろう?僕何もしてないよな?

「どうしたの?」
「今日車さん休みだっていったのにどうしようかなあと思って」
「?」
「夜景見に行きたいな~って」

本当にどうでもいい事で悩む娘だな。

「家に帰ったらゆっくり休ませてあげるから大丈夫だよ」
「本当だよ?山に言ったらだめだからね?」
「わかったよ。で、どこに行きたいの?」
「えっとね~」

ここからそんなに離れてない。

「夕飯食べてから行こうか」
「うん」
「夜景もいいけど昼間の景色も楽しんでおこう?綺麗だよ」
「本当だね~」

その後坂を下りながら店を見て回る。
神戸でした街ブラデートを思い出していた。
愛莉がお土産を選んでいるのを手伝ってやる。

「やっぱり長崎だとカステラなのかな~?」
「カステラならここで買うよりいいとこあるらしいよ」
「じゃあ、そこ行こう?」
「明日でいいだろ?それより天主堂とか見ておかなくていいのか?」
「あ、行く行く……でも……」
「?」
「冬夜君がそういうとこ勧めるってめずらしいね!」
「僕だって愛莉と良い想い出作りたいからな」
「わ~い♪」

そんなにはしゃいでると人にぶつかるぞ愛莉。

(2)

朝から出発すると、ひたすら東へ目指して車を走らせていた。
観光地を避けて遠回りで海岸沿いを走る。
途中道の駅に寄っては水を補給しておく。一々コンビニで買っていたらお金がもったいないから。
観光地を抜けた辺りで長崎街道に入る。
車は多いけどそこまで多くはない。
たまにマナーの悪い車が無理に割り込んでくるけど気にしない。
佐賀を超えて福岡に入る。
ここでミスがあった。
大宰府辺りで渋滞に巻き込まれてしまった。
福岡高速と九州道の連結点でもある大宰府はやけに混む。
今日中に北九州まで抜けたいな。
コンビニで買っておいたパンを食べながら一向に進まない渋滞を行く。
進まないけど少しずつ進んでるから。
後戻りはできない。
なるようになるさ。
ある交差点を境に渋滞が解消される。
スムーズに走る。
福岡高速のICが目に入る急ぐなら乗るべきだけど。
敢えて国道を走る。
北九州に入る頃には日が暮れていた。
門司に寄る。
関門トンネルを抜けるかどうか迷う。
取りあえず抜けることにした。
抜けて本州に上陸するとUターンして九州に戻る。
ここから先はまた後にしよう。
レストランで久しぶりに食事らしい食事をとる。
港に車を止めて今夜の野宿の場所にする。
工場の明かりが明々として綺麗だ。
危険そうな人の車も何台か止まってるけど、長距離トラックも止まっている。
また写真をメッセージグループに載せる。
すぐに反応が返ってくる。

「綺麗だね」
「今どこにいるんだ?」
「明日には帰ってくるのか?みんな心配してるぞ」
「竹本君大丈夫?」

大丈夫だよ。
明日には帰ります。

そう送って僕は眠りについた。

(3)

ダン!

「何考えてるんだお前は!?もしもの事があったらどうするつもりだ!」

目の前の客はカウンター席につくなりそう怒鳴った。

「落ち着け神奈」

もう一人の客が音無さんを宥める。
多分怒ってるのは昨夜の一件だろう。
あれから皆から文句をさんざん言われた。
しかし、どうもこうも晶ちゃんが行くと言い出したのだから仕方ない。

「私を信じてないの?」

そう言われたら反論しようがない。
まさか強引な手段で来るとは思わなかったけど。
それでも彼女なりに対応策は講じていたみたいだ。

「でも無理にでも止めるべきだったと思うぞ」

もう一人の客・多田君がそう言う。

「彼女に『信じて』と言われたらしょうがないでしょう」
「お前もついて行くとか対応のしようはあっただろう?」
「晶ちゃんにはボディガードがついているから大丈夫ですよ」
「お前がボディガードにならなくてどうするんだ!?」

音無さんの声が良く響く。

「私も落ち着くべきだと思います~。……乱れていたら相手の思うつぼだよ」

咲良さんがそう言うと音無さんは再び椅子に腰かける。

カランカラン。

渦中の人物が現れる。

「いつもの下さい」

晶ちゃんはそういうと自分の指定席……音無さんの左席に座る。
今まで自分の事で言い争っていたことなど露にも思ってないだろう。

「あー、まだ頭がくらくらするわ……」
「大丈夫かい?晶ちゃん」
「大丈夫じゃないから来たのよ。紅茶でも飲めば直るかと」
「何も食べてないなら何か作ろうかい?お嬢さん」

マスターがそう言うと「二日酔いとかじゃないから大丈夫です」と晶ちゃんは返した。

「晶!何考えてたんだ。あいつの誘いに乗るなんて……もしもの事があったらどうするんだ?」
「対策はしておいたわよ。あいつがホテルに誘うことくらい想定してたわ。何か仕掛けてくることも」
「そうじゃないだろ!あいつと二人にならないのが最善の策だろ!?あいつはどんな手使ってきてもおかしくない事くらい私の件でわかっていただろ」
「やられっぱなしじゃ面白くないから、ちょっと痛い目見せてやろうと思ったっだけよ。結果的には向こうが痛い目みたんだからいいでしょ」

晶ちゃんと音無さんが言い合いをしていると、カランカランとドアベルが鳴る。

「今日は大勢いるんですね」
「今日は来ないと思っていたわよ、西松」

西松君の挨拶に応えたのは晶ちゃんだった。

「俺はどこに座ればいいかな?……ここ空いてますね。失礼してもいいかな?神崎さん」

座りながら咲良さんに話しかける西松君。

「皆に醜態晒しておきながら今度は私に標的変更ですか~。人を馬鹿にするのもいい加減にしないとですよっ!」

可愛い声で、挑発する咲良さん。

「いつものお願いします」

眉をぴくッとつりあげながらも平静を装う西松君。

「残念だけど今彼氏募集中だけど~。……あんただけは絶対いや!」
「ははは、それだけ美人だと自信過剰にもなりますか?参ったな。確か私立大のアイドルなんでしたっけ?」
「誉め言葉として受け取っておきますね~」
「どうです?同じ境遇の者同士仲良く」
「勘違いするのもいい加減にしやがれこのあほんだら~ですぅ」
「勘違い?」
「私は確かに自信過剰だった時もあるけど~。今は渡辺班に彼氏探してもらってる身ですよ~」
「だったら僕がいるじゃないですか?」
「あんただけは死んでもいやです~」

のんびりした口調だけど、そのセリフの中味は敵意むき出しの咲良さん。
そんな咲良さんだったが、何を思いついたのかとんでもない事を言い出した。

「そうだ、私ともゲームしませんか~?」
「ゲーム?」

西松君は眉を顰める。

「単純明快なゲームですよ~。今のゲームだと私対象外でしょ~?だから範囲広げてあげようと思って~」
「で?ルールは?」
「簡単です。私があなたに靡いたらあなたの勝ち~。私が先に他の彼氏見つけたらあなたの負け~」
「……余程自分に自信があると?」
「咲良……待て……」

音無さんが咲良さんを止めようとするが咲良さんは首を振る。

「だってこのままだと彼可哀そうじゃないですか~多分今のルールだと負け確定ですよ~……私も靡いたら負けと分かって靡くほど間抜けじゃない」
「そのルールのままだとゲームにならない。その辺の男を捕まえてきて『彼氏です』でゲームが決まってしまう」
「意外と知恵があるんですね~。……思ったよりは頭使えるんだ?」

本当に煽ってくる人だな。会った時こんなんだっけ?

「じゃあ、ハンデ上げます~彼氏ができてもあなたにその仲を引き裂けたら私の負け~。……それでも面白くないもしその彼氏と私が別れたら私の負けでいいですよ~」
「咲良!やりすぎだ!!」

音無さんが叫ぶ。だが、意に介さない。

「大丈夫ですよ音無先輩。渡辺班はそういうの得意なんでしょ?」
「俺が勝った時はどうするんです?」
「私があなたに落とされたって事だから渡辺班の負けでいいですよ~」
「それは咲良さんの一存で決められないでしょ?」
「それもそうですね~」

咲良さんはスマホを操作する。
渡辺班のグループメッセを通じて渡辺君に連絡する。皆は反対しているらしいが、渡辺君は了承したらしい。片桐君は……?

「馬鹿馬鹿しい」の一言で済ませた。

「決まりですねっ!」

そう言うと咲良さんは立ち上がる。

「じゃあ~今日は帰ります~。またね~」

そう言って店を出て行った。

「俺も帰るとしよう……では皆さんまた」

そう言って西松君も帰って行った。

「何考えてるんだ。咲良の奴!」
「ゲーム感覚で楽しんでるのでしょうね」

音無さんの疑問に晶ちゃんが答えた。
そう言いながらも晶ちゃんはスマホを操作しているようだ。

「渡辺君。どうして許可したの?」
「拒めば西松が図に乗るだろ?」
「図に乗らせておけばいいじゃない、無様だわ」
「ここまでハンデを与えて。負ければかなりの屈辱だろうさ」
「咲良の身の危険を考えなかったの?」
「咲良も馬鹿じゃないことは分かっただろ?出来レースだよ」
「一瞬の気のゆるみが大惨事を生むでしょう?」
「俺は咲良も変わったと信じてる」

「だ、そうよ」

晶ちゃんはため息交じりに言った。

「渡辺班は女性を軽く見過ぎだ。もっと慎重に扱って欲しい」

音無さんがそう語る。

「信頼してるんだよ。皆自分のパートナーを」
「信頼とぞんざいに扱ってるじゃ意味が全然違うんだぞ」

音無さんが多田君に言う。

「皆大切にしてるさ。大切にしてるからこそ。善幸も焦って行動に移したんだろう?」

すいません半分自棄でしたとは言えず。

「咲良なら大丈夫よ。自分で言ってたでしょ『人を馬鹿にするといい加減にしろ』って……。初めから勝負はついてるのよ」

強硬手段はもう通用しない。

そう晶ちゃんは言っていた。
しかし、咲良ちゃんは独り身。
内心どこかで心配していた。

「よその女を心配するなら私を心配しなさい」

そう晶ちゃんは言っている。
柿若葉の美しい季節の事だった。

(4)

「綺麗だね~」

私達は稲佐山に来ていた。
ロープウェイに乗って山上まで登れば、立体的な夜景が楽しめる。
光に包まれて幻想的な世界を堪能する。

夕食を食べる時冬夜君と二人で驚いていた。
渡辺班のチャットログに。

冬夜君は「馬鹿馬鹿しい」と一蹴したが心配じゃないのかな?

「咲良さんは西松君の事を知ってるし嫌ってるんでしょ?話にならないよ」
「でも、志水さんの一件もあるし」
「どんなことしてくるか予想してたんだろ?事件にならなかったんだし」
「冬夜君は私が西松君と遊んでくるって言ったらどうする?」
「全力で止めるね。絶対二人きりになんかさせない。ていうか、そんな気ないだろ?」

私は微笑んで答えた。

「そろそろロープウエイ終わっちゃうし降りよう?」

私達は夜景を堪能した後稲佐山を後にした。


ホテルに帰ると冬夜君は買ってきた食料を食べ始める。
私はシャワーを浴びていた。
私がバスルームから出ると冬夜君が交代で入る。

「先にどうぞ」って言ったんだけど、「これ食べてから入る」と言ったので先に入った。

冬夜君がシャワーを浴びている間私は髪を乾かしながらテレビを見ていた。
冬夜君がバスルームから出てくると私は冬夜君に飛びつく。
冬夜君は私を受け止めその表情からは余裕さえ見て取れた。

わかってるよ

そう冬夜君の表情から見て取れた。

いいんだよ?

私は冬夜君と一緒にベッドの中に入ってジュースを飲みながらテレビを見ていた。
二人でテレビを見ておしゃべりして、笑い合って。
そんな時間を過ごしていた。
動き出したのは冬夜君。
私を抱き寄せキスを迫る。
私はそれを受けいれる。……でもね。

「今日は冬夜君もゆっくり休んで。明日運転大変だし」
「いいの?」

冬夜君は少し残念そうだ。

「今夜は二人で楽しむんじゃなかったのか?」

冬夜君はそう聞いてくる。

「楽しんでるよ。今この時間が楽しいの」

私は冬夜君にそう言うと、冬夜君は納得したようだ。
二人で深夜番組を見るなんて滅多にない。

突然冬夜君の返事が消えた。
どうしたんだろ?
冬夜君を見ると……寝ていた。
疲れてたんだね。
私はテレビを消して、照明を落とす。
そして寝ている冬夜君に抱き着く。冬夜君起きるかなと思ったけど余程眠かったのか起きる気配が全くしない。
私も眠りにつく。
明日には地元に帰る。
寂しくもあったけどまた、来年どこかに行けばいい。
来年と言わず夏にでも。
次はどこへ行こう?
そんな楽しみを胸に、私も夢の世界へと入っていた。
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