優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

太陽のない夜

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(1)

「じゃあ、皆おめでたい夜を祝おうじゃないか。乾杯!」

渡辺君がそう言うと宴の始まり。

まずは婚約、結婚が決まったカップルにおめでとうと挨拶する。

「まさか石原君まで婚約するとはね」
「まあ、色々あるんですよ。片桐君は遠坂さんに言われないんですか?」

ああ、そういう事ね。言葉が足りなくても大方の事は想像がつく。

「イッシー。まるで私が言わせたような言い方ね?」
「そ、そんなんじゃないよ!純粋に愛してるよ恵美の事」

そんな事が普通に言えるなんて、早くもお酒が回ったのかい?
挨拶を一通り終えると、席に戻る。
小皿には刺身やらが盛られていた。

「先輩、宴とはいえ食べ過ぎには注意してくださいよ」

佐倉さんがそう言う。

「冬夜どうせならサッカー始めればよかったのに……」

誠がジョッキをもって近づいてきた。
どっちでもよかったんだけどね。
ただ、バスケの方が好きかなってだけで。

「早速日本代表負かすとかお前チート過ぎるだろ。それでもってフルタイム出場できないだの言ってる割にはユニバーシアード呼ばれたらしいし」
「その点なら問題ありません、来年にはフルタイム出場できる体力つけてるはずです」

佐倉さんが言った。

「佐倉はバスケ部のマネやってるんだって?」

誠が佐倉さんに聞いていた。そうか中学の時部活一緒だったのか。

「はい、片桐先輩にスポーツさせる為に地元大学に入ったみたいなものですから」
「よく冬夜を説得出来たな」
「時間かかりましたよ。最後は強引な手段使ったけど。良かったです」
「遠坂さんとは違うアプローチの仕方したんだな。でもって告白したんだって」
「振られちゃいましたけどね」

佐倉さんはそう言って舌をだす。

「遠坂先輩には敵いそうにありません。諦めてもいませんけど。私我慢強い方だから」

ひゅーっと口笛を鳴らす誠。

「言っとくけどトーヤはこう見えてしぶといぞ。付き合いだした理由は単純だけど想いは強い。他の男探した方が早いぞ」
「片桐先輩を超える人がみつかったら考えます」
「何何?そういう相談なら渡辺班がついてるわよ」

指原さんがやってきた。

「やあ、指原さん。指原さんも指輪もらったんだって?」

僕が指原さんに尋ねると、指原さんは嬉しそうに左手の薬指を見せてくれた。
小さなダイヤがはめられた指輪が飾られてあった。

「高いのは要らないって言ったんだけどね。瑛大なりの最大級の愛情表現だったみたいだよ」

皆クリスマスイブとかにプロポーズするものなんだな。
記念日になるからかな。
記念日か、記念日なら……。

「あら?片桐君考え事?どうしたの?片桐君も愛莉にプロポーズする気になった?」

指原さんがそう言うと僕は首を振った。
どうやら僕はアルコールが入ると口が軽くなるらしい。

「いや、いつプロポーズしようかなって考えてただけ……。どうせ記念日にするなら……」
「トーヤ、愛莉聞いてるぞ!今プロポーズしてるようもんじゃないか!」

カンナに言われて初めて気がついた、
愛莉は江口さん志水さんの側にいるけど聞き耳を立ててる。
常に僕の話を探っているようだ。
愛莉と目が合うと愛莉はにこりと笑う。

「私はいつでもいいよ?」と愛莉は笑う。

「とーや!そういう事なら早い方がいい!今この場で言ってしまえ!!」

美嘉さんがそう言うと騒いでいた皆が静まり返る。

「ごめん、大学卒業してからって決めてあるから」
「大学卒業したらすぐいうのか?」
「いや、生活が安定してから」
「まあ、冬夜も色々考えてあるんだろ?遠坂さんもそれを待ってるつもりなんだろ?」

渡辺君が言うと愛莉は頷く。

「冬夜君、記念日は婚姻届を出すでいいからね」

愛莉はそういう。という事はその前に言わなきゃだめか……となるとやっぱりクリスマスになるのかな?

「まどろっこしいな、二人共結婚する気なんだろ?もうしてしまえよ」

美嘉さんがそう言うとみんながそうだそうだと囃し立てる。

「してるって決めてるから、ちゃんと決めるタイミングは冬夜君に決めて欲しいの。きっと素敵なプロポーズをしてくれるはずだから」

さりげなくハードルを上げてくる愛莉。
長いセリフはダメって言ってたな。
というかセリフ言う前に「はい」って言うって言ったな……。それでもやっぱりちゃんとけじめはつけないとな。

(2)

「志水さんに恵美……それに花菜もおめでとう」
「ありがとうね」
「ありがとう」
「ありがとうございます」

4人で乾杯して3人の報告ををお祝いする。

「来年は大変そうね。最初に式を挙げるのは誰かしら?」

高階……西松深雪先輩はそういう。

「それは先輩からですよ」と、花菜が言う。
「あら?大島さんも早くていいんじゃない?」
「私まだ両親への報告も済んでないんですよ」

整理しよう。今結婚してるのが西松夫妻と、渡辺夫妻、それと丹下夫妻。で、プロポーズをされたのが恵美と志水さんと花菜。それに近いのが神奈と亜依。

「丹下先生はいつ挙式されるんですか?」
「うん?海未が短大卒業してからかな?」

丹下先生はそう答えた。
やっぱり一番早いのは深雪先輩なのかな~。

「人の心配してる場合じゃないんじゃない?愛莉ちゃん」
「ほえ?」

江口さんが冬夜君を指差す。
佐倉さんと仲良く食事してる冬夜君がいた。

「私達の事はいいからあっちに言った方がいいんじゃない?」

そうかな~?
そんな事を言っていると冬夜君の声が

「いや、いつプロポーズしようかなって考えてただけ……。どうせ記念日にするなら……」

冬夜君は酔うと声が大きくなるようだ。
ここにいても良く聞こえる。
プロポーズ……してくれるの?記念日ってことは……あの日かな?

「トーヤ、愛莉聞いてるぞ!今プロポーズしてるようもんじゃないか!」

そうだよね、今言ってくれてもいいんだよ?
心の準備は……出来た。

「私はいつでもいいよ?」

冬夜君の一言を待っていた。だけど……。

「ごめん、大学卒業してからって決めてあるから」

まだ、ずっと先の話のようだ。
でも、冬夜君なら素敵な言葉を言ってくれるに違いない。

「でも早い所決めておいた方がいいんじゃない?ライバルも現れたし」

ライバルって佐倉さんの事かな?

「一度、冬夜君と揉めたそうじゃない?」

恵美がそう言うと、私は首を振った。

「あのあと実家に帰ったんだ」
「え!?」

3人が驚く。

「そしたらりえちゃん……母に怒られてね。『一度嫁ぐと決めたならそのくらいで帰ってくるんじゃありません!』って……。だから今は平気。このくらいで折れるもんかって誓ったの」
「で、片桐君はなんて?」
「ほえ?」

恵美が聞いてきた。

「話を聞いてるとまるで愛莉ちゃんだけが悪いみたいじゃない?片桐君に対しては何もないわけ?」
「冬夜君丘に連れて行ってくれた」
「?」
「すっごくきれいな景色だった。そこで冬夜君言ってくれたの『もう愛莉を縛るものはないよ。愛莉の自由だ。愛莉の好きにしていいよ』って、私寂しかった。冬夜君居なくなっちゃうの?って……」

志水さんが鬼のような形相で冬夜君のところに向かおうとしてる。私は志水さんを止めて話を続けた。

「でね、続きがあるの『どんな気持ち?』って。不安だったら、解き放たれたというよりは見捨てられた気分になって。私その時気がついた。冬夜君を縛ってるんじゃない、冬夜君の存在が私を安心させるように私の存在があるから今の冬夜君がいるんだって」

離れると不安になるから側にいる。ただそれだけの話。

「そう思ったらもう平気。冬夜君も私も二人でいるから安定してるんだって。だから何も気にする必要ないんだって」

3人とも話に聞き入っていた。

「とは、いえあの状況はどうにかした方がいいと思うわよ?」

恵美がそう言って冬夜君を指差す。
佐倉さんにあーんしてもらってる冬夜君がいた。

「……」

私は無言ですっと立ち上がる。
3人に見送られ冬夜君のもとへ向かう。
冬夜君は気分よくもつ鍋を食べていた。

ぽかっ

「何してるのかな冬夜君?」

誠君に席を譲ってもらい冬夜君の隣に座る。

「あ、愛莉。どこ行ってたの?」
「……本当に冬夜君は目が離せないね」

そんなんだから私は不安になるんじゃない。
その不安を取り除いてくれるのが冬夜君だった。
冬夜君は私に抱き着く。

「ちょっと、冬夜君!?」

冬夜君は私の胸の谷間に顔をうずめ、そして言う。

「やっぱり愛莉が一番いい」

周りが囃し立てる。
普段絶対言わないことを言う冬夜君。
それが本音なの?

「ちょっと片桐君酒癖悪いの!?」

亜依がそう言う。
あまり強い方じゃないと思うけど。
ガードが緩くなるのは間違いなさそうだ。
しょうがないんだから。

「わかったから、ほら、お鍋焦げちゃうよ」
「片桐先輩まだ一杯ありますよ~」

佐倉さんが器に鍋の中味を取る。

「ありがとう~」

冬夜君はそれを食べる。

「面白そうだな……愛莉、ちょっと席代れよ」
「絶対ダメ」

にこりと笑ってカンナの要求を却下した。

「ちぇっ……つまんねーの」
「神奈は俺がさせてやるから」と、誠君が神奈を連れて行く。
「誠がやっても気持ち悪いだけだってーの!」

そう言いながらも誠君に連れられる神奈。

「皆、2次会には何人くらいいけそうだ?」

渡辺君がそう言うと大体の人が手をあげた。
私達は辞退した。
だって冬夜君がこんなんだもん。

「とーや来ねーのかよ」

美嘉さんがそう言う。こんな状態じゃ連れて行けないよ。絶対にダメ。

「僕は行くよ~」

ぽかっ!

「明日授業あるんだよ!だめ!」
「まあ、冬夜はこんなんだし仕方ないな。……いつもの店で多分大丈夫かな?」

そういって渡辺君が電話をかける。

「冬夜君、これウーロン茶」

そう言って冬夜君にウーロン茶を飲ませる。
1次会は終わりのようだ。

「それじゃ、結婚が決まったカップルの未来を祝して一本締めを」

ぱん!

そうして1次会は終わった。

(3)

愛莉とバスで家に帰る。
酔いはだいぶ覚めていたけど……愛莉に甘えてみた。
愛莉の肩に頭を乗せて眠る……。

ぽかっ

「本当は起きてるんでしょ?分かってるんだから」

バレてたようだ。

「……酔ってるふりして好き放題して……もう!」

どこまでバレてるんだろう?

「最初から分かってたよ。昨日の晩も本当は覚えていたんじゃないの?」
「昨日は本当に忘れてたよ」
「てことは今日は覚えてるんだ?」
「……まあね」
「佐倉さんにすっごい甘えてた」

愛莉の機嫌はあまりよくない?
愛莉の心を読んでみる……そうでもないらしい。

「あれは佐倉さんが勧めてくるから」

佐倉さんは常に僕の側にいて適当に取り分けてどうぞとすすめてくれた。
佐倉さんも陽気になっていたのかもしれない。

「帰ったら愛莉に甘えるから」
「何をしてくれるのかな~?」
「昨日言ったろ?約束は守るよ」
「本当に?」
「うん、今は大丈夫。だいぶ意識もはっきりしてる」
「わ~い」

バス停で降りると家まで歩いて帰る。
その時白いちらちらと光っているものが待っているのに気づいた。

「雪だ」
「愛莉……公園に行かない?」
「ほえ?……いいけど?」

愛莉と公園に行く。
愛莉は察したのかベンチに座る。
僕は愛莉の腕に組みつく。

「もうあれから7年経ったんだね」
「そうだね」
「冬夜君はあの夜の事今ではどう思ってる?」
「どうして?」
「気になるから」
「……良かったと思ってるよ、あれからお互いにちゃんと恋人として認識できた気がするから」

すると愛莉は頬を膨らませる。

「酷い、それまでは恋人じゃなかったの」
「恋人だったさ」
「?」
「ただ、改めて実感したんだ。愛莉という大切なものがあってそれが今この手の中にあって手離しちゃいけないものなんだって実感できた」
「……」
「愛莉は後悔してる?僕をあの時許したこと」
「そんなわけないでしょ。じゃなきゃ今までずっと付き合っていません」
「それもそうだね」

僕は苦笑する。

「そろそろ行こう、冷えてきた」

そう言って立ち上がり歩き出す愛莉を呼び止める。

「まだ何かあるの?」

僕もすっと立ち上がり愛莉に大声で言った。

「3年!!」
「え?」
「あと3年待って!そしたら必ず愛莉にプロポーズするから!」

シーンと静まり返る。
時折冷たい風が吹き抜ける音が聞こえる。
またやらかしたのか。
愛莉を見る。泣いていた。やっぱりやらかしたか。

「……ずるいよ冬夜君」
「え?」
「私が拒むはずがないのを分かっていて言ってるでしょ?」
「あ……」
「はい、待ってます。絶対約束守ってね……あと。忘れてないよね?」
「何を?」
「……長いセリフ考えなくていいからね」

ああ、その事か。

「分かってるよ」
「うん……じゃあ帰ろう?」

愛莉と手を繋いで家に帰った。

(4)

2次会。
皆でカラオケで騒いでる。
誠は佐倉と何か話している。

「佐倉、どうやって冬夜を説得したんだ?」
「強硬策に出たんです、相手も申し分なかったし」
「しかし日本代表も一人で潰してしまう冬夜か……」

話はトーヤの事のようだ。
バスケの珍事は全国で広まっているらしい。
テレビの取材も来ていた。
あれからバスケ部はレベルアップしたらしい。
どんな車でも一流のスポーツカーと張り合うトーヤ。
どんなに平凡なチームも一流のチームと張りあえるまでに伸ばすトーヤ。

「片桐先輩なら世界にも通用するプレイヤーです。ただ、一つ足りない要素があるとすれば……」
「そんなのあるのか?」

私も話に混ざった。

「”挫折”です。その才能故に挫折を知らない。どんな名選手でも一度は挫けているはず」
「それなら心配ないよ」
「どうしてですか多田先輩」
「小学校の時に挫折していたから。皆に妬まれてね。それでスポーツは二度としないと誓っていたんだ」
「そうなんですね。本当はライバルと呼べる人がいたらいいんだけど、ユニバーシアードにならいますよね」
「そうだろうな」
「なあ……?」

私はふとした疑問があった。

「どうした?神奈」

誰もが思うふとした疑問。

「私が転校してからサッカー始めたことは誠から聞いた。そして中2の時からも知ってる。……中1の時は何してたんだ?」

私がそう言うと誠は口を噤んだ。言えない事なのか?

「ただ先輩どうしたんですか?」
「い、いや、あ、神奈の順番だぞ」

誠がそう言うとイッシーからマイクを受け取る。
歌いながら考えていた。
誰もが言わないトーヤの中1時代。
何があったんだろう?
佐倉の言葉は挫折なのか?
でも愛莉も知らないと言ってた。
一体何があったというのだろう?
それを知っているのは今となってはトーヤと誠だけ。
だが、二人は決して口にしない。
空白の1年を埋めるものは果たして誰なのだろうか?

(5)

少女が僕を見ている。
いつもの夢か。
何も言わない。
今日は珍しいな。
少女はずっと僕を見ている。
もう忘れさせてくれ。
彼女は何も言わない。
彼女は何も教えてくれない。
教えてくれ……俺はあと何回懺悔すればいい?

「もういいだろ!!」
「ふぇ?」

僕の叫び声で愛莉を起こしてしまったようだ。

「こんな時間にどうしたの?」

時計は2時だった。
気持ち悪い汗をかいている僕を拭う愛莉。

「今日はもう寝た方がいいよ?」
「起こしちゃったね……ごめん」
「また思い出したの?」
「ああ……」

愛莉は僕に横になってという。
言われるがままに横になると愛莉が抱き着く。

「効き目あるかどうかわからないけど。私がこうしていてあげるから安心して寝て」
「?」
「あの人にむかって『あっち行け~』って追い払ってあげるから」
「……ありがとう」
「私こそありがとう」
「え?」
「まだつけててくれてたんだね。その指輪」
「あ……」

当たり前のようにつけてた左手の薬指の指輪。
手入れも何もしてないからちょっと痛んでるけど。

「まるで私たちみたい」
「え?」
「ボロボロになってもずっと一緒にいる……絶対に離れない。今までも、これからもずっと……」

愛莉は僕の左手に自分の手を合わせて行った。
愛莉の手についてる指輪はまだ綺麗だった。
ただ、愛莉の指輪は僕がプレゼントしたものだったけど。
気がついたら愛莉は僕を抱いて眠っていた。
何度でも何度でも思う。
何度も何度も間違いを繰り返しても。
同じ数だけ仲直りする。
太陽が夜に遊びに訪れる日。
今夜だけは祝杯をあげる日。
何度でも夢を見よう。
何度でも愛莉が助けてくれる。
いつも愛莉がそばに居てくれる。
それがいかに大事なことなのかいつか思い知らされる。

いつでももどってきていいんだよ

その言葉が身に沁みる時は遠くない日の話。
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