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3rdSEASON
眩しい明日を
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(1)
「今日は木元先輩の卒業のお祝いと冬夜の凱旋の祝いの為に集まってもらいました……」
渡辺君が挨拶をしている。
「それではみんな今日は盛り上がろう!乾杯!」
カチン。
グラスの音が響く。
僕の席には愛莉、多田夫妻、佐(たすく)、佐倉さんがいる。
「冬夜、足大丈夫か?」
誠が心配してくれた。
「大丈夫だよ、今日も軽く練習してきたし」
僕が言うと愛莉も言ってくれた。
「単に踏まれて腫れてただけだから問題ないって。腱も骨も異常はないって」
「気をつけろよ、前にも言ったが体が資本なんだ」
気をつけろって言ったって今回の場合は気をつけようがないだろ?
「でも今回の試合は酷かったな。見ててヒヤッとしてたぜ」
カンナが言う。
「冬夜を押えないと、点差が広がるばかりだからな。相手もなりふり構ってられなかったんだろう」
佐が言う。
「僕だけじゃないよ、皆接触プレイは封じられてた。すぐに倒れてアピールするんだ。そして審判の笛が鳴る」
「その結果あのプレイだったんですね。あのプレイはうちのチームの参考になります」
佐倉さんがそう言った。
「恐らく片桐先輩の入るチームは同じようなチームになっていくんでしょうね。先輩の相手の初手を殺してからの速攻につながるスピードを要求されていくんでしょう」
僕がディフェンスして相手のボールを奪ってからそのまま速攻につなげていくんだから仕方ない。
点を取られても真っ先に僕が相手コートに入ってボールを受け取ろうとするからパスの速度も自ずと要求されてくるから仕方ない。
そう佐倉さんは言う。
「蒼汰の奴びびってたぜ。佐倉が『冬夜にボールがまわってしまったらもう止めようがない。だとしたら冬夜へのパスを封じてくるのが定石になる。PG狙われますよ』っていうもんだから」
「サッカーでも同じだったもんな。お前にボールが渡ることが一番恐ろしい。お前のプレイはなんでもそうなるんだろうな」
誠が言う。
そうやって皆を引っ張っていくから皆に妬まれるんじゃないだろうか?
現に地元大のバスケ部に妙なプレッシャーを与えていないだろうか?
「でも冬夜、まさか日本代表まで引っ張るとは思わなかったぜ。やっぱり持ってる才能が違うよ」
誠は飲み物のおかわりを注文しながら言う。
僕もハイボールをおかわりした。
「ちゃんと代表で自分のポジションつくれてよかったじゃねーか」
佐が言う。
「しかもアジア選手権の代表候補にも挙がったんだろ?すげーを通り越して怖えーよ」
カンナが言う。
「夢に向かって順調に進んでるじゃねーか?冬夜」
誠が肩を叩く。
「ああ、そうだな。でもここからは怪我も出来ない。自分で勝ち取っていくしかない。ハードルは高いんだ」
「お前ひとりでどうにかなるもんじゃないだろ冬夜」
佐は言う。
「今日の試合見た感じだと多分アジアの中でなら頭一つ飛びぬけてるよ。少なくともお前を止められる奴はいない。問題は世界でどれだけのレベルになってるからだ」
「昨日の試合見ただけだとわかりませんね。片桐先輩がマークされることは間違いないだろうけど」
佐倉さんも言った。
真面目に代表戦を研究してるチームなら間違いなく僕を封じるか聖人を封じるかどちらかに出る。
でも代表ですごいのは僕だけじゃない、彩(ひかる)や和人もいる。
そしてそんな中でも僕の存在意義を出していかなきゃいけない。
「まあ、今夜は祝勝会も兼ねてるんだ。バスケの事は忘れて飲め!」
カンナが言う。
「そうだな、お姉さんビールもう一杯!」
「僕もハイボール一杯」
皆のみ物を頼んでいると渡辺君がやってきた。
「ちょっと冬夜を借りてもいいか?」
「……どうしたの?」
愛莉が渡辺君に聞く。
「そうだな、遠坂さんに隠しちゃ悪いな。ちょっと新メンバーの事でな」
「新メンバーって白鳥さんの事?」
愛莉が言うと渡辺君が頷いた。
「実は檜山先輩のお見合い相手だったんだ」
「ええ!?」
その席に居た皆が驚いた。
「それで檜山先輩そのお見合いを反故にしようとしたんだが……」
渡辺君がいきさつを説明する。
その事は男子会の方で聞いていた。
「それでよく入れる気になったな。咲良の気持ち無視してないか?」
カンナが怒る。
「それでちょっとごたごたしててな。冬夜の力を借りたくて」
僕が力になるの?
まあ、いいか。とりあえず行ってくるか。
ジョッキを持って立ち上がる。
「じゃあ、愛莉ちょっと行ってくる」
「うん」
そうしてテーブルを移動した。
(2)
渡辺君のテーブルには渡辺夫妻檜山君咲良さん白鳥さんの5人がいる。
僕は空いてる白鳥さんの対面に座った。
相変わらず何を考えているのかわからない。
「おお、とーや。よく来たな!」
美嘉さんはご機嫌のようだ。
「うん。で、どうしたの?」
僕が美嘉さんに事情を聞くと渡辺君が説明した。
最初は普通に飲んでたらしい。
もちろん白鳥さんはソフトドリンクを。
すると突然咲良さんが白鳥さんに聞いたらしい。
「どうして渡辺班に入ろうと思ったんですか~?」
「どうしてって檜山さんが入れって言うから」
「断っても良かったんじゃないですか~」
「私の価値観を変えてくれるって言ったから……今更変わる物でも無いと思うけど」
「じゃあ、入る意味ないじゃないですか~」
「暇つぶし程度にはなるって言ったから」
どうせやりたい事もないし、そこまで言うなら入ってみよう。そう思ったらしい。
「春樹はどうして白鳥さんを誘ったんですか~?」
「渡辺班なら白鳥さんを変えられると思ったからだよ」
「白鳥さんは変わりたいわけじゃないんでしょ~」
「そうね、変えたいと思ったことはない」
「そんなの時間の無駄じゃないですか~?」
「そうかもしれないわね」
うん、分からない。白鳥さんが何を考えているのか全く分からない。
「で、片桐さんと話せば変わるって言うから呼んでもらったんです」
「……なるほどね」
「で、どうですか?何か変わる方法ってあるんですか?」
白鳥さんが僕に聞く。
僕は即答した。
「無いね」
「おい、とーや!」
「冬夜それはあんまりだろ……」
渡辺夫妻が言う。
僕は話を続ける。
「白鳥さんが何を求めてるのかわからない。変わりたいという意思すらない。だからどう変えたらいいのかわからない」
「……暇つぶしにもならなかったわね」
白鳥さんは席を立とうとする。慌てる檜山君。
「諦めちゃいけないよ」
僕は白鳥さんを呼び止める。
「諦める?」
「変わりたいという意思すらないというのは君自身が変われないと諦めてるんじゃないのかい?」
「変わろうと思ったことすらない」
「違うと思う。変われるはずがない。そう諦めてるだけだよ」
白鳥さんは黙って話を聞いていた。
しかしすぐに白鳥さんは言った。
「あなた達が変わりたいと思わせてくれるといいたいの?」
「そういうのは得意なグループだから」
僕の役割は終わったかな。あとは渡辺君たちがどうかしてくれるだろう。
「じゃ、僕は戻るよ」
「待って」
僕が席を立とうとすると白鳥さんが呼び止めた。
白鳥さんは既に自分の席に着いている。
「皆あなたの事を褒めていたからどんな人だろう?と思ったけどただの馬鹿じゃないの?」
偶に言われるね。
「私がその何かに気づいたとしてあなた達に何のメリットがあるの?私が檜山さんを好きになるかもしれないわよ?」
「恋愛ってさ、必ずうまくいくものじゃないんだ。手に入れたくても手に入れられないものはある。それに気づけたら儲けもんじゃない?」
「そんなのとうに気づいているわ」
「手に入れられなかった物あるの?」
「あなた達には理解できない……それを持っていて当たり前だと思ってるから」
やっと心が見えた。
「やっぱり僕たちと会ってよかったじゃない」
僕はそう言うと笑った。
白鳥さんはきょとんとしている。
「君が欲しがっているもの、今周りにいるじゃない?」
「……そんな薄っぺらい物じゃないわ」
「最初はみんな薄っぺらなものだよ。ミルフィーユみたいなもんだ。何重にも重ねて言ってつくりあげていく」
「あなたが、面白い人だという事は理解したわ」
皆そう言うね。
「それで次はどうしてくれるの?」
「どうしたい?」
「別にしたい事なんてないわ」
「それを一緒に探していこう。何をしたいのかが分からないと、どうしてあげたらいいか分からない」
「……それで渡辺班とやらで行動すればわかるのね?」
「たぶんね」
「……わかったわ」
白鳥さんは納得したようだ。
説得には時間がかかるだろう。
いきなりから揚げをあげても下味をつけないと美味しくない。
白鳥さんはまず下味をつける段階だ。
「トーヤすぐ来てくれ!」
カンナが叫んでる。
どうしたんだろ?
慌ててテーブルに戻ると愛莉が泣いている。
「何があったの?」
「トーヤが構ってくれないって泣きだして……」
「……愛莉?」
「……冬夜君~」
愛莉は僕に抱き着く。
「冬夜君が構ってくれないの~」
「ほら、戻ってきたよ」
「うん~♪」
カンナを見ると聞いた。
愛莉が酒臭い。
「どのくらい飲んだの?」
「……カルーアミルクを10杯くらいと酎ハイを数杯と……」
愛莉の酒癖が悪いのは分かった。
「ところで二次会どうする?」
渡辺君が聞いてきた。
「俺は折角だから行くよ。冬夜はどうする?」
木元先輩は行くらしい。
僕も行きたいけど。
「冬夜君、行こ行こ~♪」
愛莉がこんな感じだから断りたいんだけど。
「とーやお前も主賓なんだぞ!最後まで付き合え!」
美嘉さんがそう言う。
「トーヤ……愛莉大丈夫か?」
カンナが心配する。
「大丈夫だよ~♪」
「愛莉、今日は帰ろう?」
「や~だ!行くの!」
愛莉がこんなに駄々をこねるの初めて見た。
「うぅ……冬夜君帰るなら帰ればいいじゃない。私一人残して帰るんだね?」と、泣き出す始末。
「わかったよ、分かったから泣かないで」
「わ~い」
その時本当は気づいてた。もうとっくに酔いが醒めてる事。そして酒を理由に我儘し放題だって事に。
「冬夜、たまには遠坂さんの我儘きいてやれ、そういうのも旦那としては大事だぞ」
誠、僕はまだ結婚してないぞ。
(3)
俺と白鳥さんは白鳥さんの送迎で帰りについた。
咲良の目線が痛かったけど。
無言のままだと気まずいので話しかけてみた。
「今日はどうだった?」
「面白い人ですね片桐さん。皆が惹かれる理由が分かった気がする」
「そうか……ところで白鳥さんの欲しくても手に入らなかったものってなんだ?」
「檜山さんは片桐さんと違って鈍いんですね」
片桐が鋭すぎるだけだろ?
「あなたが欲しいって言ったらどうします?」
「悪いが俺には……」
「例えばの話です。気にしないで」
白鳥さんは海を見てる、何もない海。真っ暗な海に何が見えているのだろうか?
「次の集まりはいつなんです?」
白鳥さんが聞いてきた。
「多分入学式が終わった後に花見をするらしいからそれだろう」
「そっか……」
「また会いたいと思ったか?」
「そうね。檜山さんが言った通り退屈しのぎにはなりそう」
「片桐に会いたいのか?」
「そういう感情は持ってないわ。ただ、皆の話を聞いていたいだけ」
第一片桐さんには遠坂さんがいるのでしょう?と付け足した。
「そうね、あなたに言っても差し支えなさそうだから言うわ。このまま無言でいるのも退屈だし」
何を言うつもりだろう?
「私が欲しかったのは友達。気兼ねなく話が出来る親友。でも家の事情で友達を作る自由すらなかった」
英才教育ってやつか?どれだけの習い事をしてきたのだろう?
「檜山さんもそうだったと思うけど常に羨望の的だった。私の領域を覆う壁を乗り越えてくる人なんて誰もいなかった。その壁の内側に親という壁がさらにあったんだけど」
「それは自分から飛び出すべきなんじゃなかったのか?」
「やっぱり檜山さんと私は相容れないわね。私の世界は常に親の中にあった」
深窓の令嬢ってやつか。
「昔私の領域に入ってきた人がいてね。子供の頃の話。私にも友達ができたって喜んだことがあった。一週間後その友達の家は離散したわ……親が失業したのが理由らしいわ。子供の私でもわかった。私の親が手を回したんだって」
「なるほどな……それが友達を作らない理由か?」
「そうね……私には必要ないって親に言われてきた事だから。無理に作ろうとしても引き離される。渡辺班とやらも危ないかもしれない」
「それでも近づこうとした理由は?」
「檜山さんから聞いた時は興味があったから。今は違うけど……」
「友達……か?」
車が止まる。俺の家についたようだ。
「それではまた。誘ってくれてありがとう」
「また連絡する」
「結構。メッセージとやらで皆の会話は見れるみたいだから」
そう言うと窓を閉めて車は走っていった。
家に帰るとスマホを見る。
咲良からメッセージが届いてた。
慌てて咲良に電話する。
「こんな時間まで何してたんですか~?」
「今家に帰ったところだよ」
「メッセージ送りましたよ~」
「今見たところだよ」
「……何もなかったのよね?」
「当たり前だろ、信じてくれ」
「信じてますよ~。……ただあの人行動がよめないから」
確かにな……。
「春樹も気をつけてくださいね~」
「俺とは相容れないと言われたよ」
「そうですか~、ではまた明日~」
「ああ、また明日」
そう言って電話は切れた。
行動が読めないか……。
確かに突然打ち明けた白鳥さんが欲しかった物。
それは同情を誘うための罠なのか?
そういう風には感じなかったが。
しかし俺は明らかに同情している。
俺には咲良がいる。
じゃあ、白鳥さんに何をしてやればいい?
それを考えた結果が渡辺班に丸投げと言う卑怯なやり方だった。
それはうまくいっている。
後は、渡辺班がどこからか男を見繕ってくるだろう。
俺の時のように。
渡辺班の人を見る眼は確かなようだ。
後は渡辺班に任せておけばいい。
それより自分の事だ。
白鳥さんに目がいって咲良の事をないがしろにしていたことは事実だ。
大切に扱ってやらないとな。
白鳥さんの事よりも咲良の事を……。
しかし頭の中は白鳥さんの事で一杯だった。
ただの同情だが。
(4)
「白鳥さんと話してみてどうだった冬夜?」
渡辺君が聞いてくる。
「どうって別に?」
「初対面の時は『心が読めない』って言ってたろ?」
「うん、感情が無いと思っていた」
「今はどうなんだ?何かをつかんだようだが」
「解決の糸口は見つけたよ」
ただそれをどう紐解いていくかが問題だけど。
電話をしていた、咲良さんが戻ってきた。
「なんて?檜山先輩」
「何も無いから信用してくれって~」
まあ、信じるしかないよね。
「大体なんで白鳥を入れたんだ正志!」
美嘉さんが怒っている。
「私達に納得がいく理由が欲しいわね」
「相手は曲がりなりにも檜山先輩のお見合い相手よ!?」
恵美さんと晶さんが怒ってる。
渡辺君は笑っていた。
「だからだよ。その檜山先輩が頼んできた。多分他の男を押し付けて欲しいとかそんな理由だろ。どんな女性なのか興味もあったしな」
「その男のあてはあるのかい?」
酒井君が尋ねてくる。
「無いよ、来月新入生が入ってくるからそれから当たるつもりだ」
「その前にこなさないといけない課題あると思うけど?」
「冬夜、それはなんだ?」
「まず彼女に恋愛感情というものを身につけるのが大事だよ。今のままだとベジタリアンに肉を食べさせるようなものだよ」」
「その手は考えてあるのか?」
「無い……何らかのきっかけがあればいいんだろうけど」
「きっかけ作りの男が必要ってことだな?」
誠が言うと頷いた。
「ただし危険な賭けだ。下手すると渡辺班の男子の誰かに興味が湧くかもしれない」
僕は忠告する。
渡辺君は笑って返した。
「お前が一番危険なんだけどな」
確かにそうかもね。
どうしていつも僕なんだろう?
前から思っていた事だけど。
「心配いらないもん!冬夜君はずっと私のものなんだから~」
愛莉がそう行って抱き着く。
「愛莉も随分ため込んでいたんだろうな。こんな愛莉初めてだ」
カンナがそう言うと渡辺君が言う。
「冬夜にも責任があるんだぞ。バスケに夢中で遠坂さんの相手ろくにしてなかっただろ?」
「まあね……」
気持ちよさそうに僕に抱き着いている愛莉を見ながら言う。
「白鳥さんの相手の事は任せてくれ。俺が了解したんだ。俺が責任持つ」
渡辺君がそう言うと皆うなずいた。
「じゃ、そろそろお開きにしますか?」
「正志、今日は朝までやるんじゃないのか!?」
「もう酔いつぶれてる遠坂さんもいるしな」
「私なら大丈夫だよ~」
「……な?」
「しょうがねえなあ」
僕達はカラオケ店を出る。
「じゃ、次は前期始まる前に花見をやってしまおう」
渡辺君がそう言うとみんな解散した。
中には3次会に行く人もいたけど。
僕は駅前でタクシーを拾うと家までお願いした。
僕の膝の上に寝る愛莉の頭を撫でてから言う。
「いい加減にしろ、もう誰もいないぞ」
愛莉は目を開けると僕を見る。
「……バレてた?」
「全く……酔ったことを言い訳に好き放題して。困ったお嫁さんだな~」
「えへへ~」
愛莉は起き上がる。
「でも気分が良いのは本当だよ~」
「知ってるよ」
「お客さん方新婚さんですか?」
「そうで~す」
「仲のいいお二人ですね」
「ありがとうございます」
愛莉はそう言うと、僕の腕を掴む。
「冬夜君から見てどう思ったの?白鳥さんの事」
「え?」
「ほら、私全然話してないからわかんなくて」
なるほどね。
「そうだな、今までにないタイプかな。深雪さんに近いかもしれないけど」
「?」
「恋愛というか人と接することを極度に恐れてる。親しくなろうとしないそんな感じ。だから最初は同性と親しんだ方が良いと思うんだけど」
「でも、向こうにその気が無いとこっちからいくら歩み寄っても無理だよ?」
愛莉の言う通りだと思う。
その為の策を考えなくちゃいけないんだけど……浮かばない。
単なる人間嫌いならいいんだけど、好き嫌いじゃない。関心が無いんだ。そんな人にどう接したらいい?
でも幸か不幸か僕には興味を示したようだ。
嫌がる物を無理やり食べさせても意味がない。無理矢理食べさせるか……。
愛莉の顔を見る?
愛莉は不思議そうに僕の顔を見る。
「パンと牛乳か……」
一人呟く僕。
あの時愛莉がしてみせたように工夫すればいいのか。
気づいたら愛莉がスマホを操作している。
何してるんだろう?
「はい」
愛莉は女子グルに白鳥さんを招待したようだ。
「よろしくお願いします」
そう残されてある白鳥さんのメッセージ。
来週から新年度に入る。
白鳥さんの事とバスケの事。
大変だろうなと一人考えていた。
「私の事も忘れないでね」
愛莉がそう言って笑う。
「そうだな」
そう言って愛莉の頭を撫でてやる。
隣に座ってる愛莉に眩しい明日を。
何度でも何度でも探し出してやろう。
「今日は木元先輩の卒業のお祝いと冬夜の凱旋の祝いの為に集まってもらいました……」
渡辺君が挨拶をしている。
「それではみんな今日は盛り上がろう!乾杯!」
カチン。
グラスの音が響く。
僕の席には愛莉、多田夫妻、佐(たすく)、佐倉さんがいる。
「冬夜、足大丈夫か?」
誠が心配してくれた。
「大丈夫だよ、今日も軽く練習してきたし」
僕が言うと愛莉も言ってくれた。
「単に踏まれて腫れてただけだから問題ないって。腱も骨も異常はないって」
「気をつけろよ、前にも言ったが体が資本なんだ」
気をつけろって言ったって今回の場合は気をつけようがないだろ?
「でも今回の試合は酷かったな。見ててヒヤッとしてたぜ」
カンナが言う。
「冬夜を押えないと、点差が広がるばかりだからな。相手もなりふり構ってられなかったんだろう」
佐が言う。
「僕だけじゃないよ、皆接触プレイは封じられてた。すぐに倒れてアピールするんだ。そして審判の笛が鳴る」
「その結果あのプレイだったんですね。あのプレイはうちのチームの参考になります」
佐倉さんがそう言った。
「恐らく片桐先輩の入るチームは同じようなチームになっていくんでしょうね。先輩の相手の初手を殺してからの速攻につながるスピードを要求されていくんでしょう」
僕がディフェンスして相手のボールを奪ってからそのまま速攻につなげていくんだから仕方ない。
点を取られても真っ先に僕が相手コートに入ってボールを受け取ろうとするからパスの速度も自ずと要求されてくるから仕方ない。
そう佐倉さんは言う。
「蒼汰の奴びびってたぜ。佐倉が『冬夜にボールがまわってしまったらもう止めようがない。だとしたら冬夜へのパスを封じてくるのが定石になる。PG狙われますよ』っていうもんだから」
「サッカーでも同じだったもんな。お前にボールが渡ることが一番恐ろしい。お前のプレイはなんでもそうなるんだろうな」
誠が言う。
そうやって皆を引っ張っていくから皆に妬まれるんじゃないだろうか?
現に地元大のバスケ部に妙なプレッシャーを与えていないだろうか?
「でも冬夜、まさか日本代表まで引っ張るとは思わなかったぜ。やっぱり持ってる才能が違うよ」
誠は飲み物のおかわりを注文しながら言う。
僕もハイボールをおかわりした。
「ちゃんと代表で自分のポジションつくれてよかったじゃねーか」
佐が言う。
「しかもアジア選手権の代表候補にも挙がったんだろ?すげーを通り越して怖えーよ」
カンナが言う。
「夢に向かって順調に進んでるじゃねーか?冬夜」
誠が肩を叩く。
「ああ、そうだな。でもここからは怪我も出来ない。自分で勝ち取っていくしかない。ハードルは高いんだ」
「お前ひとりでどうにかなるもんじゃないだろ冬夜」
佐は言う。
「今日の試合見た感じだと多分アジアの中でなら頭一つ飛びぬけてるよ。少なくともお前を止められる奴はいない。問題は世界でどれだけのレベルになってるからだ」
「昨日の試合見ただけだとわかりませんね。片桐先輩がマークされることは間違いないだろうけど」
佐倉さんも言った。
真面目に代表戦を研究してるチームなら間違いなく僕を封じるか聖人を封じるかどちらかに出る。
でも代表ですごいのは僕だけじゃない、彩(ひかる)や和人もいる。
そしてそんな中でも僕の存在意義を出していかなきゃいけない。
「まあ、今夜は祝勝会も兼ねてるんだ。バスケの事は忘れて飲め!」
カンナが言う。
「そうだな、お姉さんビールもう一杯!」
「僕もハイボール一杯」
皆のみ物を頼んでいると渡辺君がやってきた。
「ちょっと冬夜を借りてもいいか?」
「……どうしたの?」
愛莉が渡辺君に聞く。
「そうだな、遠坂さんに隠しちゃ悪いな。ちょっと新メンバーの事でな」
「新メンバーって白鳥さんの事?」
愛莉が言うと渡辺君が頷いた。
「実は檜山先輩のお見合い相手だったんだ」
「ええ!?」
その席に居た皆が驚いた。
「それで檜山先輩そのお見合いを反故にしようとしたんだが……」
渡辺君がいきさつを説明する。
その事は男子会の方で聞いていた。
「それでよく入れる気になったな。咲良の気持ち無視してないか?」
カンナが怒る。
「それでちょっとごたごたしててな。冬夜の力を借りたくて」
僕が力になるの?
まあ、いいか。とりあえず行ってくるか。
ジョッキを持って立ち上がる。
「じゃあ、愛莉ちょっと行ってくる」
「うん」
そうしてテーブルを移動した。
(2)
渡辺君のテーブルには渡辺夫妻檜山君咲良さん白鳥さんの5人がいる。
僕は空いてる白鳥さんの対面に座った。
相変わらず何を考えているのかわからない。
「おお、とーや。よく来たな!」
美嘉さんはご機嫌のようだ。
「うん。で、どうしたの?」
僕が美嘉さんに事情を聞くと渡辺君が説明した。
最初は普通に飲んでたらしい。
もちろん白鳥さんはソフトドリンクを。
すると突然咲良さんが白鳥さんに聞いたらしい。
「どうして渡辺班に入ろうと思ったんですか~?」
「どうしてって檜山さんが入れって言うから」
「断っても良かったんじゃないですか~」
「私の価値観を変えてくれるって言ったから……今更変わる物でも無いと思うけど」
「じゃあ、入る意味ないじゃないですか~」
「暇つぶし程度にはなるって言ったから」
どうせやりたい事もないし、そこまで言うなら入ってみよう。そう思ったらしい。
「春樹はどうして白鳥さんを誘ったんですか~?」
「渡辺班なら白鳥さんを変えられると思ったからだよ」
「白鳥さんは変わりたいわけじゃないんでしょ~」
「そうね、変えたいと思ったことはない」
「そんなの時間の無駄じゃないですか~?」
「そうかもしれないわね」
うん、分からない。白鳥さんが何を考えているのか全く分からない。
「で、片桐さんと話せば変わるって言うから呼んでもらったんです」
「……なるほどね」
「で、どうですか?何か変わる方法ってあるんですか?」
白鳥さんが僕に聞く。
僕は即答した。
「無いね」
「おい、とーや!」
「冬夜それはあんまりだろ……」
渡辺夫妻が言う。
僕は話を続ける。
「白鳥さんが何を求めてるのかわからない。変わりたいという意思すらない。だからどう変えたらいいのかわからない」
「……暇つぶしにもならなかったわね」
白鳥さんは席を立とうとする。慌てる檜山君。
「諦めちゃいけないよ」
僕は白鳥さんを呼び止める。
「諦める?」
「変わりたいという意思すらないというのは君自身が変われないと諦めてるんじゃないのかい?」
「変わろうと思ったことすらない」
「違うと思う。変われるはずがない。そう諦めてるだけだよ」
白鳥さんは黙って話を聞いていた。
しかしすぐに白鳥さんは言った。
「あなた達が変わりたいと思わせてくれるといいたいの?」
「そういうのは得意なグループだから」
僕の役割は終わったかな。あとは渡辺君たちがどうかしてくれるだろう。
「じゃ、僕は戻るよ」
「待って」
僕が席を立とうとすると白鳥さんが呼び止めた。
白鳥さんは既に自分の席に着いている。
「皆あなたの事を褒めていたからどんな人だろう?と思ったけどただの馬鹿じゃないの?」
偶に言われるね。
「私がその何かに気づいたとしてあなた達に何のメリットがあるの?私が檜山さんを好きになるかもしれないわよ?」
「恋愛ってさ、必ずうまくいくものじゃないんだ。手に入れたくても手に入れられないものはある。それに気づけたら儲けもんじゃない?」
「そんなのとうに気づいているわ」
「手に入れられなかった物あるの?」
「あなた達には理解できない……それを持っていて当たり前だと思ってるから」
やっと心が見えた。
「やっぱり僕たちと会ってよかったじゃない」
僕はそう言うと笑った。
白鳥さんはきょとんとしている。
「君が欲しがっているもの、今周りにいるじゃない?」
「……そんな薄っぺらい物じゃないわ」
「最初はみんな薄っぺらなものだよ。ミルフィーユみたいなもんだ。何重にも重ねて言ってつくりあげていく」
「あなたが、面白い人だという事は理解したわ」
皆そう言うね。
「それで次はどうしてくれるの?」
「どうしたい?」
「別にしたい事なんてないわ」
「それを一緒に探していこう。何をしたいのかが分からないと、どうしてあげたらいいか分からない」
「……それで渡辺班とやらで行動すればわかるのね?」
「たぶんね」
「……わかったわ」
白鳥さんは納得したようだ。
説得には時間がかかるだろう。
いきなりから揚げをあげても下味をつけないと美味しくない。
白鳥さんはまず下味をつける段階だ。
「トーヤすぐ来てくれ!」
カンナが叫んでる。
どうしたんだろ?
慌ててテーブルに戻ると愛莉が泣いている。
「何があったの?」
「トーヤが構ってくれないって泣きだして……」
「……愛莉?」
「……冬夜君~」
愛莉は僕に抱き着く。
「冬夜君が構ってくれないの~」
「ほら、戻ってきたよ」
「うん~♪」
カンナを見ると聞いた。
愛莉が酒臭い。
「どのくらい飲んだの?」
「……カルーアミルクを10杯くらいと酎ハイを数杯と……」
愛莉の酒癖が悪いのは分かった。
「ところで二次会どうする?」
渡辺君が聞いてきた。
「俺は折角だから行くよ。冬夜はどうする?」
木元先輩は行くらしい。
僕も行きたいけど。
「冬夜君、行こ行こ~♪」
愛莉がこんな感じだから断りたいんだけど。
「とーやお前も主賓なんだぞ!最後まで付き合え!」
美嘉さんがそう言う。
「トーヤ……愛莉大丈夫か?」
カンナが心配する。
「大丈夫だよ~♪」
「愛莉、今日は帰ろう?」
「や~だ!行くの!」
愛莉がこんなに駄々をこねるの初めて見た。
「うぅ……冬夜君帰るなら帰ればいいじゃない。私一人残して帰るんだね?」と、泣き出す始末。
「わかったよ、分かったから泣かないで」
「わ~い」
その時本当は気づいてた。もうとっくに酔いが醒めてる事。そして酒を理由に我儘し放題だって事に。
「冬夜、たまには遠坂さんの我儘きいてやれ、そういうのも旦那としては大事だぞ」
誠、僕はまだ結婚してないぞ。
(3)
俺と白鳥さんは白鳥さんの送迎で帰りについた。
咲良の目線が痛かったけど。
無言のままだと気まずいので話しかけてみた。
「今日はどうだった?」
「面白い人ですね片桐さん。皆が惹かれる理由が分かった気がする」
「そうか……ところで白鳥さんの欲しくても手に入らなかったものってなんだ?」
「檜山さんは片桐さんと違って鈍いんですね」
片桐が鋭すぎるだけだろ?
「あなたが欲しいって言ったらどうします?」
「悪いが俺には……」
「例えばの話です。気にしないで」
白鳥さんは海を見てる、何もない海。真っ暗な海に何が見えているのだろうか?
「次の集まりはいつなんです?」
白鳥さんが聞いてきた。
「多分入学式が終わった後に花見をするらしいからそれだろう」
「そっか……」
「また会いたいと思ったか?」
「そうね。檜山さんが言った通り退屈しのぎにはなりそう」
「片桐に会いたいのか?」
「そういう感情は持ってないわ。ただ、皆の話を聞いていたいだけ」
第一片桐さんには遠坂さんがいるのでしょう?と付け足した。
「そうね、あなたに言っても差し支えなさそうだから言うわ。このまま無言でいるのも退屈だし」
何を言うつもりだろう?
「私が欲しかったのは友達。気兼ねなく話が出来る親友。でも家の事情で友達を作る自由すらなかった」
英才教育ってやつか?どれだけの習い事をしてきたのだろう?
「檜山さんもそうだったと思うけど常に羨望の的だった。私の領域を覆う壁を乗り越えてくる人なんて誰もいなかった。その壁の内側に親という壁がさらにあったんだけど」
「それは自分から飛び出すべきなんじゃなかったのか?」
「やっぱり檜山さんと私は相容れないわね。私の世界は常に親の中にあった」
深窓の令嬢ってやつか。
「昔私の領域に入ってきた人がいてね。子供の頃の話。私にも友達ができたって喜んだことがあった。一週間後その友達の家は離散したわ……親が失業したのが理由らしいわ。子供の私でもわかった。私の親が手を回したんだって」
「なるほどな……それが友達を作らない理由か?」
「そうね……私には必要ないって親に言われてきた事だから。無理に作ろうとしても引き離される。渡辺班とやらも危ないかもしれない」
「それでも近づこうとした理由は?」
「檜山さんから聞いた時は興味があったから。今は違うけど……」
「友達……か?」
車が止まる。俺の家についたようだ。
「それではまた。誘ってくれてありがとう」
「また連絡する」
「結構。メッセージとやらで皆の会話は見れるみたいだから」
そう言うと窓を閉めて車は走っていった。
家に帰るとスマホを見る。
咲良からメッセージが届いてた。
慌てて咲良に電話する。
「こんな時間まで何してたんですか~?」
「今家に帰ったところだよ」
「メッセージ送りましたよ~」
「今見たところだよ」
「……何もなかったのよね?」
「当たり前だろ、信じてくれ」
「信じてますよ~。……ただあの人行動がよめないから」
確かにな……。
「春樹も気をつけてくださいね~」
「俺とは相容れないと言われたよ」
「そうですか~、ではまた明日~」
「ああ、また明日」
そう言って電話は切れた。
行動が読めないか……。
確かに突然打ち明けた白鳥さんが欲しかった物。
それは同情を誘うための罠なのか?
そういう風には感じなかったが。
しかし俺は明らかに同情している。
俺には咲良がいる。
じゃあ、白鳥さんに何をしてやればいい?
それを考えた結果が渡辺班に丸投げと言う卑怯なやり方だった。
それはうまくいっている。
後は、渡辺班がどこからか男を見繕ってくるだろう。
俺の時のように。
渡辺班の人を見る眼は確かなようだ。
後は渡辺班に任せておけばいい。
それより自分の事だ。
白鳥さんに目がいって咲良の事をないがしろにしていたことは事実だ。
大切に扱ってやらないとな。
白鳥さんの事よりも咲良の事を……。
しかし頭の中は白鳥さんの事で一杯だった。
ただの同情だが。
(4)
「白鳥さんと話してみてどうだった冬夜?」
渡辺君が聞いてくる。
「どうって別に?」
「初対面の時は『心が読めない』って言ってたろ?」
「うん、感情が無いと思っていた」
「今はどうなんだ?何かをつかんだようだが」
「解決の糸口は見つけたよ」
ただそれをどう紐解いていくかが問題だけど。
電話をしていた、咲良さんが戻ってきた。
「なんて?檜山先輩」
「何も無いから信用してくれって~」
まあ、信じるしかないよね。
「大体なんで白鳥を入れたんだ正志!」
美嘉さんが怒っている。
「私達に納得がいく理由が欲しいわね」
「相手は曲がりなりにも檜山先輩のお見合い相手よ!?」
恵美さんと晶さんが怒ってる。
渡辺君は笑っていた。
「だからだよ。その檜山先輩が頼んできた。多分他の男を押し付けて欲しいとかそんな理由だろ。どんな女性なのか興味もあったしな」
「その男のあてはあるのかい?」
酒井君が尋ねてくる。
「無いよ、来月新入生が入ってくるからそれから当たるつもりだ」
「その前にこなさないといけない課題あると思うけど?」
「冬夜、それはなんだ?」
「まず彼女に恋愛感情というものを身につけるのが大事だよ。今のままだとベジタリアンに肉を食べさせるようなものだよ」」
「その手は考えてあるのか?」
「無い……何らかのきっかけがあればいいんだろうけど」
「きっかけ作りの男が必要ってことだな?」
誠が言うと頷いた。
「ただし危険な賭けだ。下手すると渡辺班の男子の誰かに興味が湧くかもしれない」
僕は忠告する。
渡辺君は笑って返した。
「お前が一番危険なんだけどな」
確かにそうかもね。
どうしていつも僕なんだろう?
前から思っていた事だけど。
「心配いらないもん!冬夜君はずっと私のものなんだから~」
愛莉がそう行って抱き着く。
「愛莉も随分ため込んでいたんだろうな。こんな愛莉初めてだ」
カンナがそう言うと渡辺君が言う。
「冬夜にも責任があるんだぞ。バスケに夢中で遠坂さんの相手ろくにしてなかっただろ?」
「まあね……」
気持ちよさそうに僕に抱き着いている愛莉を見ながら言う。
「白鳥さんの相手の事は任せてくれ。俺が了解したんだ。俺が責任持つ」
渡辺君がそう言うと皆うなずいた。
「じゃ、そろそろお開きにしますか?」
「正志、今日は朝までやるんじゃないのか!?」
「もう酔いつぶれてる遠坂さんもいるしな」
「私なら大丈夫だよ~」
「……な?」
「しょうがねえなあ」
僕達はカラオケ店を出る。
「じゃ、次は前期始まる前に花見をやってしまおう」
渡辺君がそう言うとみんな解散した。
中には3次会に行く人もいたけど。
僕は駅前でタクシーを拾うと家までお願いした。
僕の膝の上に寝る愛莉の頭を撫でてから言う。
「いい加減にしろ、もう誰もいないぞ」
愛莉は目を開けると僕を見る。
「……バレてた?」
「全く……酔ったことを言い訳に好き放題して。困ったお嫁さんだな~」
「えへへ~」
愛莉は起き上がる。
「でも気分が良いのは本当だよ~」
「知ってるよ」
「お客さん方新婚さんですか?」
「そうで~す」
「仲のいいお二人ですね」
「ありがとうございます」
愛莉はそう言うと、僕の腕を掴む。
「冬夜君から見てどう思ったの?白鳥さんの事」
「え?」
「ほら、私全然話してないからわかんなくて」
なるほどね。
「そうだな、今までにないタイプかな。深雪さんに近いかもしれないけど」
「?」
「恋愛というか人と接することを極度に恐れてる。親しくなろうとしないそんな感じ。だから最初は同性と親しんだ方が良いと思うんだけど」
「でも、向こうにその気が無いとこっちからいくら歩み寄っても無理だよ?」
愛莉の言う通りだと思う。
その為の策を考えなくちゃいけないんだけど……浮かばない。
単なる人間嫌いならいいんだけど、好き嫌いじゃない。関心が無いんだ。そんな人にどう接したらいい?
でも幸か不幸か僕には興味を示したようだ。
嫌がる物を無理やり食べさせても意味がない。無理矢理食べさせるか……。
愛莉の顔を見る?
愛莉は不思議そうに僕の顔を見る。
「パンと牛乳か……」
一人呟く僕。
あの時愛莉がしてみせたように工夫すればいいのか。
気づいたら愛莉がスマホを操作している。
何してるんだろう?
「はい」
愛莉は女子グルに白鳥さんを招待したようだ。
「よろしくお願いします」
そう残されてある白鳥さんのメッセージ。
来週から新年度に入る。
白鳥さんの事とバスケの事。
大変だろうなと一人考えていた。
「私の事も忘れないでね」
愛莉がそう言って笑う。
「そうだな」
そう言って愛莉の頭を撫でてやる。
隣に座ってる愛莉に眩しい明日を。
何度でも何度でも探し出してやろう。
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