優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

その魂に咲く花を

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(1)

「冬夜君朝だよ」

愛莉の声で目が覚める。
ベッドから出ると着替えてジョギングの準備。
スポンサーから届いた新しい靴を履く。
足が軽い。
軽く飛んでみる。なるほどね。これは良い。
そう思っていると愛莉が「えいっ」と靴を踏んだ。
新しい靴なのに。
愛莉に抗議すると「ゲン担ぎだよ」と笑った。
いつものコースを1時間走って、家に戻るとシャワーを浴びる。
着替えたりしていたら朝食が出来ている。
朝食を食べるとPCを見たりスマホを弄ったりしながらテレビを聞いて時間を潰していると愛莉がマグカップをもって来る。
愛莉と一緒に座ってテレビを見る。
いつものオリーブオイルどばーを見ながら、朝のドラマを見て適当に時間を潰して大学に向かう。
今日は早いのでショートカットする。
駐車場に車を止めて歩いて棟に向かう。
授業を受けたあと、学食で弁当を食べる。
食べていると渡辺班の皆が集まってくる。
渡辺君が疲れているようだ。

「渡辺君お疲れ」
「いや、参った参った」
「何があったの?」

恵美さんが聞いた。

「いや、白鳥さんの相手の事でね……」
「やっぱり難しい?」
「冬夜の注文通りの連中は山ほどいるよ」
「片桐君の注文?どんな注文したの?」

晶さんが聞いてきた。

「それはお楽しみって事で」

渡辺君はそう返す。

「見つかりそう?」

僕が渡辺君に聞いていた。

「いや、簡単だったよ……候補が多すぎて困るくらいだ。なんか絞る条件ないか?」
「そうだなあ……できるだけ、一途な奴がいいかな?」
「お前それ矛盾してるぞ」
「焦らすなよ冬夜。分かりやすく説明しろ」

佐(たすく)が言う。
僕から言った方が早いだろう。
僕が皆に説明した。

「今回の作戦は北風作戦」
「は?」

佐が聞き返す。

「説明になってないぞトーヤ」

神奈が言う。

「彼女の心の殻は固いんだ、しかも何重にもある。一つ一つ解いていたんじゃ埒が明かない。だったら一気にぶち壊してしまおうって作戦」」
「そんなことしたら彼女益々殻にこもるんじゃない?」

恵美さんが言う。

「だから渡辺君に注文したんだ。人の家にハンマーで穴開けて土足で踏み入るような人間を探してきてくれって」
「それってまともな男じゃないじゃない、彼女益々殻にこもるわよ」
「完全に取り除こうってわけじゃない。ひびさえ入れたらいいんだ。そこから光が差し込むかもしれない。その光に興味を示すかもしれない」
「で、具体的にはどういう男なわけ?」

志水さんが聞いてくる。

「一言でいうとチャラ男」
「は?」

女性陣の冷たい視線を一身に浴びる。

「図々しくて根拠のない自信家で人のパーソナルスペースに土足で入り込んでくる……」
「何考えてるんだトーヤ!!」

カンナの怒声が飛ぶ。

「神奈ちゃんの言う通りよ。そんな男あてがわれる女性の気持ち分かる?」

恵美さんからも言われた。

「だから言ったろ?一途なところもある……佐倉さんなら分かると思うけど帆秋さんみたいな感じの」
「帆秋さんのどこが一途なんですか?」

佐倉さんの冷たい声が聞こえる。

「じゃあ、帆秋さんとやらでいいんじゃないか?」

カンナが言うと僕は首を振った。

「帆秋さんはだめだよ。佐倉さんに未練があるみたいだから……言ったろ?一途な人だって」
「また難しい質問だな。具体的に言ってくれよ」

渡辺君がそう言うと僕は考えた。

「見た目がチャラければいいよ。後はこっちで判断するから」
「後はお見合いか?」
「そんな感じかな?」
「冬夜君、そんな男ばかりとお見合いさせられたら、白鳥さん可哀そうだよ。もっと男性不振になっちゃうかも」

愛莉が言うと僕は首を振った。

「白鳥さんは男性不振なんかじゃない。単純に興味が無いんだ。だから言ったろ『ハンマーで壁を叩き壊す』って。彼女の壁を関係なしに踏みにじる男が良い」
「なるほど、それでチャラ男か」

カンナは納得したようだ。

「その後どうするの?その男とカップリングさせるの?」
「それは白鳥さんが決める事。僕達にそこまで強要する権利はないよ」
「片桐君の狙いがさっぱりわからないんだけど」

晶さんが言った。

「狙いは白鳥さんの心の壁を少しでもいいからのぞく事。白鳥さんの心に少しでも光を当てること。その魂に花を咲かせること」
「それがチャラ男に可能なの?」
「今まで見たいな大人しい男には無理だと思う」
「で、渡辺君は見つけられそうなの?」
「いる事はいるんだ。ただ冬夜のもう一つの条件に合いそうかどうかが分からない。冬夜、面接に付き合えよ」

渡辺君がそう言った。

「そうだね。僕が会ったほうがいいかもね。できれば白鳥さんも呼んで」
「どうする?今夜あたりやるか?」
「早い方が良いだろうね」
「わかったメッセージ打っとく」
「で、いい人がいたとしてその後どうするの?」
「いつもの教育があるだろ?」

江口さんが言うと僕は答えた。

「そんな男逃げ出すに決まってるでしょ」
「それを見つけるのが僕の仕事」
「片桐先輩バスケの練習があるのに大丈夫なんですか?」

佐倉さんが言う。

「合間を見てやるよ」
「ならいいんですけど……」

しかしいい人を見つけるのにさほど時間を要しなかった。

(2)

渡辺班の噂は地元大に広まっていた。
わざわざ募集の看板を立てるまでもない。
どこから俺の事を聞きつけたのか、大勢の新入生が詰めかけてきた。

「俺彼女欲しいんですけど。彼女斡旋してくれるんですよね!?」
「噂だと結婚までこぎつけてくれるとか?」
「俺も入れて下さい!彼女絶対幸せにさせるっす」

一日に何十人も押し寄せてくる始末。
そして一日にそれだけの数を面接する。
冬夜は部活後にその希望者にあっては首を振る。
そんな日が一週間以上続いた。
やっぱり条件が厳しいんじゃないか?
そう思っていた時だった。
一人の男に出会った。
その男はツーブロックソフトドレッドに両耳と鼻にピアスをつけている。ヒップホップ系の恰好で腰パン。指輪やらチェーンネックレスやらブレスレットやら。
どこから見てもチャラ男だった。

「俺楠木晴斗ッというっす。彼女欲しくて今日きました。彼女幸せにする自信あるっす。超余裕っす」

青い鳥に来ていた女性陣の冷たい視線刺さってることなど意にも介さない楠木君。
冬夜の反応はいいみたいだ。初めて冬夜が口を開いた。

「楠木君、好きな彼女のタイプとかいるの?」
「晴斗でいいっす。好きな女性のタイプは優しくて俺について来てくれる人っす」
「晴斗君、君の家は何をやってるの?」
「ただの公務員っす。あと君はいらないっす。タメ語でいきましょう!」
「うん、決めた。また今度連絡するよ。渡辺君あとお願い」
「……本当にいいんだな?」
「大丈夫」

俺は晴斗と連絡先を交換して渡辺班に加える」

「晴斗といいます。よろしくっす!」

そのメッセージを確認すると冬夜は「今日はいいよ、彼女とのセッティングは今度するから」と言う。

「もういるんすか!?彼女候補!」
「いるよ、君の好みに合うかどうかは分からないけど」
「あざーす。じゃあ楽しみにしてるんで」

晴斗が店を出ていくと女性の口撃を冬夜は一身に受けていた。

「何考えてるの!?最悪じゃない!」と晶さん。
「今回ばかりは賛成しかねるわよ……片桐君の考えてる事がわからない」と恵美さん。
「あれが片桐君の理想なわけ!?私の中では最悪なんだけど」と亜依さん。
「……冬夜君の要望通りの人なの?」と冷たい視線の遠坂さん。

そんな口撃を飄々と受け流す冬夜。

「渡辺君今週末にでもとりあえずセッティングできない?それとも亜依さんにお願いした方が良いのかな?」
「いいけど、責任とれるんでしょうね?」と亜依さんは凄む。
「多分大丈夫、予想通りの展開になる」と冬夜は余裕すら見せる。

冬夜の予想とはどんな予想なのか?
その時はまだ分からなかった。

(3)

檜山さんに連れられて地元大近くの喫茶店、青い鳥につく。
そこには渡辺班の面々と見慣れない、見かけチャラそうな男がいた。
片桐さんが私を見ると立ち上がる。隣にはチャラそうな男がいる。
ガムをくちゃくちゃとしている。
見るからに不快な男だった。

「白鳥さん今日はわざわざありがとうね。彼が楠木晴斗君」
「晴斗でいいっす。よろーっす」

喋り方も不快だ。
まさかとは思うがこの男が私の相手?
訝しげな眼でその男を見る私を見て満足気に笑みをこぼす片桐さん。

「まあ、そこに座ってお茶でも飲もうよ」

私は言われた通り空いてる遠坂さんの隣に座った。
皆が私達を見てる。

「冬夜先輩、この人がこの前話してた彼女候補っすか?」

は?

「そうだよ」

片桐さんは信じられない一言を言った。

「……私に選択権はないの?」

私は片桐さんに聞いていた。

「あるよ。でも今まで選択権あったの?」

片桐さんは聞き返してくる。
無かった。檜山さんの時もふーんで済ませた。

「あるならこれ以上の話は無駄だわ」

私が席を立つと遠坂さんが腕を掴んだ。

「ここは冬夜君を信じて」と遠坂さんが言う。

この男に何があるというのだろう?
席に座りなおした。
そこからは男の独壇場だった。

「名前なんて言うんすか?あ、俺楠木晴斗。はるとでいいっす。」
「私は白鳥春奈」
「じゃあ、春奈ってよばせてもらいますね。春奈今何歳?」

いきなり呼び捨て?

「18歳です」
「じゃあ、同い年っすね。タメ語でいいっすよ。学生さんですか」
「APRUに今年から通ってる」
「めっちゃかっこいいっすね。あ、俺地元大の1年っす。住みはやっぱり別府ですか?」
「そうよ」
「趣味とかはなんですか?俺はドライブとかサーフィンとかアウトドアなら何でもやる感じっす」
「特にないわ」
「じゃあ、今度一緒にドライブとかどうっすか?。俺運転自信あるっすよ」
「そうね」
「じゃあ、連絡先交換したいっす。教えてもらえないっすか?」
「いいわよ」

私はスマホを操作すると彼に番号とIDを提示する。
晴斗とやらはそれを見て自分のスマホを操作する。
私のスマホが鳴る。
すぐに切れた。

「今ワン切りしたんでそれ登録してください」

私はその場でその番号を登録する。
そして彼のIDを追加する。

「あ、すんません。俺ばっかり喋って。春奈から何か聞きたい事無いっすか?」
「そうね……その格好で私に会おうと思った理由を聞きたいわ」
「え?これでも決めてきたつもりっすけど」

彼の正装がこれなんだ……。

「人前にガムをくちゃくちゃする理由は?」
「あ、きになるっすか?

彼はおかれていた灰皿にペット吐き捨てる。

「その髪型はどうしてそうなってるの?」
「あ、これめちゃイケてないすか?」

彼なりのお洒落らしい。

「そういや、めっちゃ金持ちって感じっすね。親何してるんすか?」

親の職業に興味をもったらしい。

「白鳥ホールディングスの代表取締役。元・財務省の事務次官。地元銀行の顧問をやってるわ」
「よくわかんねーけど凄いんすね」

多分全然わかってないだろう。

「あ、俺そろそろバイトの時間なんで行きますね」
「その格好でバイトに行くの?」
「ああ、居酒屋の店員なんで余裕っす。じゃあ」

一人で勝手にしゃべって自由気ままに後を去った。

「白鳥さんどうだった?」

片桐さんは笑っている。

「不可解な人種ね。私とは相容れないわ」
「そう?」
「どういう意味?」
「興味もったんじゃない?」

言われて気づいた。
確かに私は彼に興味を示していた。
だが、それは好意とは程遠い。
むしろ嫌悪感を感じるほどだ。
私はその事を片桐さんに伝えると「なるほどね」と笑っていた。
片桐さんが何を企んでいるのか知らないけど私が彼を好きになることなんてあり得ない。

「用は済んだみたいね。帰らせてもらうわ」
「あ、送っていくよ」

檜山さんが後を追ってくる。
檜山さんの車で家に帰った。

「白鳥さん、どうして彼に連絡先教えたの?」
「わからない」

彼のペースに嵌められていた。

「あまり素性の分からない人間にむやみやたらに教えるのは止めた方が良い」
「渡辺班の人にも教えたわよ?彼も渡辺班の人なんでしょ?」
「入ったばかりだけどな」
「それなら私も一緒じゃない」
「確かに……」

私は理由がわからないけど彼に興味を持っていた。
そして彼に興味を持った自分に興味を示してた。
どうして彼に興味をもったのだろう?
今まで会ったことのない人種だから?
どうでもいいか……。
どうせ彼とは何もないのだから。

(4)

「冬夜、あれでよかったのか?」

渡辺君が聞いてきた。

「上出来だよ」

僕が答える。

「明らかに嫌悪感を示していたぞ?」
「そうかな?」

周囲にいる渡辺班全員が「え?」と言いたげな顔をする。

「嫌悪感だけの人間に連絡先教えないでしょ?」
「冬夜君いい加減に教えて、冬夜君の目的はなんなの?」

愛莉が聞いてきた。

「他人に興味を持たせること。渡辺班以外なら誰でもよかった」
「恋人を作ることじゃないの?」
「恋人としても最適だと思うけど?」
「どうして?」
「彼女は彼に興味を持った。よく言うじゃない『好きの反対は嫌いじゃない。無関心だ』って」
「そりゃそうだけどさあ」
「冬夜、次の手は考えてるのか?」

渡辺君が聞いてきた。

「それは考えるまでもないよ。新歓コンパまでに何か変化があるはずだからそれまで様子見かな?」
「と、いうと?」
「晴斗からモーションかけるでしょ?」
「ああ、そういうことか。でもそれに乗るって確証はあるのか?」
「あるね。白鳥さんは今まで誰とも接触してこなかった。それが今回初めて興味を示した。その自分に興味を持っている。だから彼の誘いにも乗ってくるはずだよ」
「そういうものか?」
「現にわざわざ来なくてもいい渡辺班の集まりにも来てるじゃないか」
「あ……」

皆納得したようだ。

「ねえ片桐君や」

酒井君が何か言いたげだ。

「白鳥さんと晴斗が二人でデートしたとして事故につながる危険は無いと言い切れるのかい?」

酒井君が聞くと女性陣が皆聞いてきた。

「そんな度胸のある人が、渡辺班に入りたがるとは思わないよ。普通の合コン行ってた方が遥かに合理的だ」
「なるほどね……」

晶さんが納得する。

「でも案外簡単に事が運びそうですね。片桐君の思い通りになってる」

石原君が言う。

「まだわからないよ」

僕が答える。

「え?」
「彼女はまだ『他人を好きになったりしない』と思い込んでる。理由はわからないけど。その考えを取り除かない限り彼氏はできないよ」
「その秘策はあるの?」
「前にも言ったけど僕達に彼女に恋愛感情を押し付けるなんてただのエゴだよ。彼女自身が気づくしかない。それをするのは僕達の役目じゃない。晴斗の役目だ」
「随分と冷たいのね」

恵美さんが言う。

「これでも十分お膳立てしたとおもうけどね」

やることはやった。後は晴斗次第だ。転がりそうになったら背中を押してやるだけでいい。
いや、もう下り坂をゆっくりくだってるのかもしれない。
そんな感じがした

(5)

家に帰って夕食を食べてシャワーを浴びて。
それからテレビを見ていた。
特に楽しい事はない。
テレビの音を聞きながら、スマホを弄ってる。
なぜこんなにみんな楽しそうなんだろう?
そんな事を考えながら、スマホの文字を読んでいた。
すると突然鳴りだすスマホ。
電話だ。
私が出ると晴斗だった。

「ごめ~ん寝てた~?」

時計を見る。22時を過ぎていた。
こんな時間にかけてくるとは失礼じゃないか?
やっぱりこの人とは無理。
そう決めつけていた。

「もうそろそろ寝ようと思っていたところです」
「俺今仕事の休憩時間」
「だったらゆっくり休んだら?」
「いや~寝る前に声聞きたかったから」

そんな理由で電話をしてくるの?

「じゃあ、声聞けたから十分ですね。もう切りますね」
「わあ!ちょ、ちょっとタンマっす」
「まだ何か要件があるのですか?」
「あんまり喋れなかったからさ。今のうちに喋ろうと思って。もっとお互いの事知るべきだと思うんすよね」

私は知る必要が無いと思ったけど。
知るだけ時間の無駄だ。
でも彼に興味を示している私がいる。
そんな私が電話を切ることを拒否していた。

「何をしゃべるんですか?」
「今度の新歓コンパ行くの?」
「行きますよ」
「その前に会えたりしないかな?」
「会う必要があるのですか?」
「会うのに理由がいるの?」
「用もないのに会う必要があるんですか?」
「用があればいいんすね?」

ある物なら提示して欲しい。
どうして?
普通に断ればいいだけの話じゃない。

「山と海どっちが好きっすか?」

突然の話題に思考がついて行かなかった。

「海……」

広大な海。どこまでも続く海。夜の海。どこへ行けばいいのか分からなくてなってしまう海。

「じゃあ、海でも見に行かねー?」

はい?

「ドライブ行こうって言ったじゃないっすか。海でも見に行こう!」
「どうして?」
「電話も良いけどちゃんと会って話して春奈と仲良くなりたいっす。どうっすか?」
「良いけど……」
「じゃあ、来週末にでも。」
「わかった」
「じゃあ、そろそろ飯食わねーとなんでまたっす。おやすみー」
「おやすみなさい」

彼のペースに引きずり込まれてる気がする。
私はどこへ向かうのだろう?
果てしない海をさまよっている気がする。
前も見えない暗闇からたった一つの光探してくれるのが彼なのだろうか?

(6)

「うぅ……」
「どうした愛莉?」

冬夜君が声をかけてくる。

「わかんない」
「え?」
「冬夜君が何を企んでるのか分からない!」
「そんなに難しい事考えてないよ」

それが分からないんだよ。

「彼女の心は平たんなんだ、なだらかで果てしなく広がる平地」
「?」
「それを少し傾けてやれば転がりだすだろ?」

まあ、そうだね。

「晴斗は良い意味で彼女の壁を叩き壊してくれたよ。良かった」

そうなの?

「彼女の心に光は確実に届いた。それを受けて彼女がどう動くか。どう転ぶのかはまだ分からないけど」

なるほどね。
私はペン回しをしながら考える。
初めて受ける光。それが優しい陽の光なのか、冷たく厳しい風なのか分からないけど他人の心を動かすには十分だろう。

「愛莉、今日の帳簿付け終わったの?」
「あ、まだだ」

ノートPCを開いて帳簿をつける。

「ねえ冬夜君」

私は冬夜君に聞いてみた。

「どうした?」
「もし、上手くいかなかったらどうするつもりだったの?」

さらに巨大な壁が出来上がっちゃったらどうするの?

「まだ上手くいったわけじゃないよ」
「え?」
「まだ彼女が晴斗を好きになったわけじゃない」
「そうだけど……」
「上手くいかなかったら別の手を考えるまでだよ」
「どんな手?」
「そうだなあ……」

冬夜君は私を見る。
そして私に抱き着いてくる。

「ちょっと冬夜君!」
「北風がダメなら太陽かな?」

今は勉強中だよ!

ぽかっ

「もう、今は勉強中だよ!」
「ちょっとじゃれてみただけだろ」
「……冬夜君は上手いね?」
「何が?」
「人の心を操るのが」
「……そうでもないよ」
「そうかな?」
「そうだよ……だって」

だって?

「愛莉の心は未だに上手く操れない」
「うぅ……それは問題ですね」
「だろ?」

けどそう思ってるのは冬夜君だけだよ?
冬夜君が気づいていないだけ。
いつも言ってるでしょ?
私の心ちゃんと覗いてって。
私はいつも微笑んでるよ。
だからちゃんと見て。
そうすれば2人きっと幸せになれるから。
私たちの心にはちゃんと綺麗な花が咲いているんだから。
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