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4thSEASON
二人が出会った意味
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(1)
「冬夜君おはよう」
愛莉の声で目が覚める。
外からザーッと音が聞こえる。
今日は雨が降っていた。
これじゃジョギングは無理だな。
時間を見る。当たり前だけど1時間は余裕がある。
僕はベッドに入り寝た。
ぽかっ
「雨降ってるしジョギングは無理だろ」
「だからって寝なくてもいいでしょ!」
「する事無いんだよ」
家事でも手伝えばいいのか?
「勉強するとかゲームするとかやることいっぱいあるよ」
「朝からゲームして怒るのは愛莉だろ?」
「冬夜君起こすの大変なんだよ。最近は起こすと色々してくるし……」
「色々って?」
ぽかっ
「色々なの!どうせ分かってて聞いてるんでしょ!」
愛莉に気づかれたのは多分僕がにやけていたからだろう。
取りあえず寝るのはダメと言われたので着替える。
そのあとどうすればいい?
テレビでもつけるか?
ああ、でもゲームして良いって言ってたな。
愛莉をみると本を読んでいる。
ノートPCを起動するとゲームを始める。
すると愛莉もノートPCを起動する。
「一人でするなんてずるいよ」
「いや、でも愛莉本読んでたし」
「声かけてくれてもいいじゃない」
本当は一人でやりたいことあったんだけどいっか?
愛莉とゲームしてると本当にレアアイテム出るしな。
インスタントダンジョンを生成して始める。
ボスを倒すと……ほらね。
緑色の小さな四角い物がぽろっとでる。
何枚目だろう?
そんな風に時間を潰していると1時間なんてあっというまで……。
「そろそろ朝食準備しなくちゃ!」と、愛莉はログアウトして部屋を出る。
僕は一人でプレイを続けていると愛莉から「ご飯できたよ~」と声が聞こえる。
適当にキリをつけてログアウトするとダイニングに向かう。
みんな揃っていた。
ご飯を食べ終えると部屋に戻ってテレビをつけるとノートPCでサイトを巡回する。
一通り見るとシャットダウンしてノートPCをバッグにしまう。
テレビを見ていたら愛莉が戻ってくる。
しばらくすると愛莉は着替え始めてそして化粧をする。
愛莉の化粧が終わる頃時間になる。
愛莉とバッグをもって家を出る。
傘を持って愛莉を入れてやると愛莉は腕にくっ付いて歩き出す。
ドアロックを開錠すると助手席のドアを開け「お嬢様どうぞ」と愛莉を助手席に乗せる。
その後運転席に回って傘をたたみ、運転席に乗ると車を出す。
大学につくと、棟に向かい授業を受ける。
授業が終わると学食で弁当を食べる。
すると不思議とみんな集まってくる。
「グループメッセージ読んだか?」
渡辺君が聞いてくる。
多分晴斗君の事だろう。
「読んだよ、彼思ったより手が早いね」
「思ったよりって事はもっと奥手だと思ってたの?」
恵美さんが聞いてくると僕うなずいた。
「奥手って程でもないけど、慎重派かなって」
僕自身チャラい男と交流をもったことが無いので何とも言えないけど。
「呆れた。よくそんな男を入れる気になったわね」
「直感だよ。彼ならいけるって思ったんだ」
「直感ってお前……」
カンナの表情が険しい。
と、いうか女性陣の表情が険しい。
「手を付けてポイ捨てなんてことになったら、トーヤわかってるんだろうな?」
「それは絶対にないから心配ないよ。それより彼女の方を心配した方が良い」
「どうい意味だ?今まさに白鳥の心配してるんだけど?」
「多分、彼女との交際をするうえで避けられない障壁が出てくると思うんだ」
「て、ことは彼女は間違いなく落ちると?」
「予想通りことが進めばね」
「結局トーヤの掌の上で動いてるに過ぎないって事か。で、障壁ってなんだ?」
「彼女が友達すらできなかった理由って何だと思う?」
僕はカンナに聞いてみた。
「それなら私分かる気がする。身分の違い、その容姿かな……。それが嫌で私高校時代は身分を隠して来たけど」
恵美さんが言うと僕はうなずいた。
「うん、それだと思う」
「その障壁をぶち壊す為に晴斗をえらんだんじゃないのか?」
カンナが聞いてくる。
「恵美さんの場合は自分から障壁を取り除いた。白鳥さんの場合は無理矢理ぶち壊して隙間から光を見つけてその光に興味を示している」
「それなら問題ないじゃないか?」
「問題はその障壁を復元しようとしてる存在だよ。きっと彼の排除にかかると思う」
「……親?」
恵美さんが言うと僕はうなずいた。
「でもそんなものも白鳥さんの意思があればどうとでも……」
「そこが勝負どころ。白鳥さんに一緒に障壁を乗り越えようとする意志が生まれるかどうか?晴斗にその気にさせる力があるかどうか」
「ちーっす。何の話っすか?」
晴斗が来た。
「冬夜先輩にはマジ感謝です。あんな女生まれて初めてだ。夢見たいっす」
「夢で終わらない様にがんばってね」
「大丈夫っす、俺今回マジなんで」
「今回って事は何度か恋愛経験はあるの?」
恵美さんが言う。
「あるんすけど、どうも遊ばれてた感がパなくて。いつも最後は振られてました」
どうしてなんですかね?と彼は悩んでいる。
「その容姿に問題があるんじゃないの?」
晶さんが核心に迫る。
「この格好問題あるっすか?」
「そんなチャラい格好してるから、相手も軽い遊び相手にしか見てくれないんじゃない?」
「う~ん、変えた方がいいすかね?」
「その必要はないよ」
僕が言った。
「そんなまじめなキャラ作ったってすぐにぼろが出る。だったら今のままアタックを続けた方が良い。晴斗は本気なんでしょ?」
「当たり前っすよ!」
「頑張って。困ったことがあったら渡辺班に相談して」
「了解っす」
彼は買ってきたカツ丼を一気に頬張ると「んじゃまたっ!」と去っていった。
「ちょっと片桐君どういうつもり?あの格好で両親に会いに行ったらそれこそ破局よ!」
晶さんがそう言うと首を振った。
「それは無いから」
「どうしてそう言えるの?」
「彼の心は本当に読みやすい。言い方を変えると凄い率直な人なんだ。親に会う時の心構えくらい分かってると思う。分からなくても相談してきたときにレクチャーしてやったらいい」
「だったら今からそうした方がいいんじゃないの?」
「今はまず白鳥さんをその気にさせる気が肝心なんだ。……ここにいる男性に聞くけど白鳥さんにアタックしようとしたらどうする?」
「それは……あっ!」
石原君は気づいたようだ。
「なるほどな……冬夜が晴斗を選んだ理由分った気がしたぞ」
渡辺君も気づいたらしい。
「確かに真面目にアタックしようとしますよね」
竹本君も気づいたようだ。
他の男性も気づいたみたい。
「どういう事か説明してよ」
愛莉が説明を求める。
「少なからず何人かはいるはずなんだ。そうだな……かつての西松君のような自信家が交際を迫ってきてるはず。そんな普通のやりかたじゃ彼女の壁は壊せない」
「だから晴斗君を選んだの?」
「言ったろ?彼は率直だって。根は悪い人じゃないよ。そう確信したから彼をぶつけてみた」
「なるほどね……上手くいくの?」
「今のところは上手くいってるじゃない」
そう言うと皆黙ってしまった。
「まあ、トーヤの言う事を信じるしかないか」
カンナがそう言うと皆うなずいた。
「大丈夫だよ」と僕は言う。
だけど一つだけ不安要素があった。
彼女を守る最後の障壁……両親の存在だ。
だけどそれを取り除く一番の方法は彼女の方から出てくること。
そこまでこぎつけるかどうか?
多分今回の作戦の鍵はそこだろう。
上手くいくかどうかは正直不安だった。
(2)
「ただいま~」
私が家に帰ると啓介はテレビを見ていた。
「おかえり~、夕飯はテーブルの上にある」
食卓の上を見ると、寿司が並んであった。
それを黙って食べると風呂に入る。
風呂から上がると、啓介とテレビを見る。
「啓介は自炊とかしたこと無いの?」
私は啓介に聞いてみた。
「無いね、する必要もなかったし」
「しかし毎日店屋物じゃ体に悪いわ」
「毎日じゃない、深雪が早いときは深雪が作ってくれるだろ」
啓介には自分で自炊するという観念がないらしい。
洗濯ものも洗濯機に入れっぱなし。
休みの日はそれの処理におわれる日々。
きっぱり言った方が良いのだろうか?
家事を分担しないか?と
せめて私が仕事で遅い時くらいしてくれてもいいんじゃないか?と
「……私仕事で疲れてるんだけど」
「そうか、じゃあゆっくり休めよ」
「休みたいけど家事をしなきゃいけないの」
「……家事大変か?」
「学生時代の時みたいに時間がないから」
「わかった……」
分かってもらえた?
「父さんに頼んで家政婦頼むよ」
自分でやろうとはいわないのね?
「そこまでのお金余裕ないわよ?」
「親にはらってもらうさ」
「あなた少しは自立しようって気にならないの!?」
ちょっと言い過ぎたかな?
「どうしたんだ突然?俺まだ学生なんだし親に甘えてもいいだろ?」
「あなたにバイトしろとは言わない。私がお金は稼いでくる。でもその分家事を手伝ってくれたっていいじゃない」
疲れてイライラしていたんだろう。
不満を啓介にぶつけていた。
いけない。ガムを2粒とりだし噛む。
「……ごめん、ちょっといいすぎたわ」
啓介はすっと立ち上がりキッチンに向かうと洗い物を始める。
分かってもらえたのだろうか?
「深雪……洗ったの拭いて直してくれないか?」
啓介が一言いう。
言われたとおりに従った。
啓介の隣にたって作業を進める。
「深雪がやって当たり前と思っていた。だけど違うんだな。俺はお金を家に入れてすらいない」
「学生だもの仕方ないわ」
「深雪の気持ちに気づいてやれなくて情けないと思う」
「私が少しいすぎたわ……ごめん」
「いいんだ。思ってる事を言って。聞いてやるくらいしかできないけど」
洗い物が終わった。
啓介は脱衣所に向かう。
「深雪ちょっと来てくれないか?」
どうしたんだろう?
脱衣所に向かうと洗濯機に向かう啓介が。
「使い方が分からない。教えてくれないか?」
洗剤を入れてボタンを押して設定すると洗濯機が自動で回りだす。
後は乾燥が終わるまで待つだけ。
「こんな簡単なこともわからないなんてつくづく駄目だな俺は」
自嘲気味に笑う啓介に言う。
「やろうという意思は伝わったわ。それだけでも嬉しい」
次の日啓介は私よりも先に起きてトーストを焼いてくれた。
スクランブルエッグも作ってくれた。
「まだ簡単なものしか作れないが……」
スマホを見ながら作ったらしい。
「これから覚えて行けばいいわ。私も教えてあげる。でも勉強もわすれないでね」
「分かってる」
それが私たちの初めての夫婦喧嘩だった。
(3)
時計は22時を回っている。
なのにかずさんは帰ってこない。
研修期間は定時であがれると聞いていた。
かずさんにメッセージを打つ。
「朝言ったろ?今日はバスケの練習があるって」
そうだった。
社会人クラブに入ったと聞いた。
かずさんは毎日のように練習に取り組んでいる。そして飲んで帰ってくる。
私は一人食事をしてそして一人で彼の帰りを待つ。
妻になるってこういう事なんだと納得したつもりだった。
朝になるとかずさんを起こす。
そして朝ごはんを作って彼を送り出して自分も大学に行く準備を始める。
帰りにスーパーに寄って買い物を済ませる。
唯一の救いはかずさんはちゃんと連絡してくれる
「今日は飲み会あるからご飯いらない」と
新入社員だとそんなに頻繁に飲み会があるものなのだろうか?
余り口出しするのも良くないと思って我慢していた。
しかし我慢にも限界がある。
つい、メッセージに残してしまった。
「主人の帰りが毎日遅い」と。
「そういうのは始めが肝心、ちゃんと言わないと!」と恵美が言う。
「言って喧嘩にならないかな?」と返信する。
「私達が替わって言ってあげようか?」と神奈がいう。
それはダメだと思ったので断った。
「自分で言ってみるね」と言った。
なのに憤慨した美嘉さんが渡辺班のグループでその事を言った。
案の定、かずさんはその日早く帰ってくる。
「どうして、俺に直接言ってくれなかったんだ!?不満があるなら言えば良いだろ!」
付き合い始めて初めてかずさんの怒鳴り声を聞いた気がする。
「だって言ったら怒られると思って」
「こんなやり方卑怯だと思わないか!?俺だって好きで飲みに行ってるわけじゃない!仕事の付き合いってあるだろ!?」
「……だったら私も言わせてください」
「?」
「かずさんはいいです。仕事の付き合いなのかもしれないけど、外で毎晩楽しんで羨ましい!なのに私は愚痴をこぼす事すら許されないんですか!?」
「……客先と飲んでる時は楽しいと思ったことはないよ」
「私だって愚痴を言って楽しいわけじゃない!でも私はかずさんのお世話係じゃない!かずさんの妻です!少しは構ってくれてもいいじゃないですか!?」
精一杯の事を言った。これでいいんだ。これでわかってくれないなら……。
涙がこぼれる。止めようにも止まらない。あふれ出す涙。
「これからは俺に直接ぶつけてくれ。妻の不満を受け入れるのが旦那の務めだろ?花菜だって家事と学業で疲れてることくらいわかってる。俺にしてやれるのはその不満を聞くくらいだ」
「じゃあ、今言います」
「ああ」
「寂しいです。毎晩一人でご飯を食べて一人でかずさんを待っている。凄く寂しいです。最初のうちは妻がいるからと断って帰って来てくれてたじゃないですか」
「わかった、ごめん」
「私こそごめんなさい。最初にかずさんに相談するべきでした」
「いいんだ。女性同士で愚痴を言い合うのも大事かもしれないな」
かずさんは良い主人だ。
その事に感謝しよう。
その後二人でご飯を食べて二人一緒にお風呂に入ってそしてテレビを見て寝た。
また今日がはじまる。
相変わらず帰りが遅い日が続く。
それでもかずさんは変わった。
頻繁にメッセージを送ってくれるようになった。
寂しくない様に泣かない様に。
電話もたまにしてくれる。
今度から思ったことはちゃんと自分の口で伝えよう。
かずさんなら分かってくれる。
(4)
金曜日の夕方。
定刻きっちりに、電話が鳴った。
「今ついたっす。準備出来たら降りてきて」
知ってる、アパートの前に30分前から止まってる不審な車。
私は家を出ると派手な車に乗る。
「服似合ってます。ばっちりっす」
因みに普段着だ。
車を出す。
車の中は良く分からない喧しい音楽が鳴っていた。
「……」
「え?なんて!?」
「音量下げて!!」
大声で叫ぶと彼は音量を下げてくれた。
「とりあえず腹ごしらえっすね」
そう言うと何の変哲もないただのファミレスに入った。
スマホを弄りながら、私と話をする。
「冬夜先輩まじすげーっすね。今度日本代表の強化合宿いくらしいっすよ」
「知ってる」
「いやあ、なんかマジ別世界の人間といるみたいですげーっす」
彼の声は一々大きい。
周りの目を引くくらいに。
けど彼はそんなのおかまいなしに話しかけてくる。
食事が済むと車に乗る。
「マジお勧めの場所あるんで」
「そうなの?楽しみだわ」
正直あまり期待してなかった。
そしてその通りだった。
海岸の公園に連れて行ってくれた。
海風が肌寒かった。
彼がパーカーを貸してくれた。
「あなたが寒いんじゃないの?」
「俺、馬鹿だから風邪ひかないんで大丈夫っす」
そう言って笑う。
引き方が馬鹿ならどうしようもないと思うんだけど。
「俺こう見えて頑丈なんすよ」
身体はどうか知らないけど心がタフなのはたしかなようね。
「……どうしてこの場所を選んだの?」
「俺、彼女と行ってみたい場所が何か所かあるんすよ!で、春奈が海が見たいって言ってたからここ選んだだけっす」
「私あなたの彼女になったわけじゃないわよ」
「じゃ、彼女になったらまた見に来ましょう」
どこまでもポジティブな考えの人のようね。
ポジティブか……私に欠けているものかもしれない。
恋人と言ってみたい場所か……あれ?
「あなた恋人いなかったの?」
「いなかったっすね、女友達はいたけどそれ以上にはなれなかったっす」
そうでしょうね。
「友達とは今も連絡とってるの?」
「とってますよ!」
「その中に好きな人はいなかったの?」
「いたけど振られたっす!」
そう言って彼はにんまりと笑う。
「聞いたらいけない事だったかもね、ごめんなさい」
「一々気にしてられないっすよ。全然問題ないっす」
周りを見ると、カップルや老夫婦が散歩したりベンチに座って話をしている。
私達もそんな風に見られているのかしら。
「俺こんなんだから、誤解されてるかもしれないけど今回だけはまじっす!」
「何が?」
「本気で春奈の事惚れたっす!付き合ってください」
自慢じゃないけど「好きだ」と言われた事は何度かある。
でもここまで、動揺したことはない。
「初めてあって『付き合ってください』は無いかと思うけど」
「じゃあ、何回目ならいいっすか?」
「何度も会えると思ってるの?」
「俺、こう見えて結構辛抱強いんで!」
「分からないわよ」
「え?」
「『はい』と言うかどうかわからないわよ」
会わないとは言わなかった。
「ってことは会ってもらえるっすね?」
「まあ、暇つぶしにはなるし」
「っしゃあ!」
彼は叫ぶ、周りの人が何事かとこっちを見てる。
こんな風な喜びをする人もいるんだ……。
「そろそろ帰りましょう。冷えて来たわ。あなた本当に風邪ひくわよ」
「了解っす!」
そう言うと彼は私の手を取り歩き出す。
やめてよ、そんなことしたら周りに彼女と思われるじゃない。
「……離して」
「あ、調子にのりすぎました。さーせん」
そう言って彼はあっさりと手を離す。
何か寂しい気分になった。
寂しい?
そうね、いつも一人だったものね。
渡辺班に入って、思い出した感情。
それまでは寂しいなんて言葉すら忘れていた。
彼の車で家に送ってもらう。
「好きな音楽とかあるっすか?」
「ごめんなさい、そういうに疎くて」
「じゃ、今度友達に聞いておくっす。ヒップホップとか嫌いみたいだから」
「どうしてそう思ったの?」
「だってさっき音量下げてって言ったじゃないっすか?」
本当に馬鹿じゃないのかと思った。
けれど憎めない馬鹿。
「……私が自分で選んでもってくるわ」
「まじっすか?さっき分からないって」
「全く聞かないわけじゃないから。けれど大音量はやめてね」
「大音量の方がテンション上がらないっすか?」
あなたのテンションをそれ以上上げてどうするつもりなの?
「……私静かに話がしたいから」
話がしたい?
この人と?
片桐さんとは違う感情。
この感情は何と呼べばいいのだろう?
「あ、そういうことだったんすね。さーせん」
どんな話をしてもこの人は明るく返してくれる。
それが私の気を紛らわしてくれた。
車は家につく。
すると白い高級車が止まっていた。
見覚えのあるナンバー。
家の車のナンバーだ。
「じゃ、また連絡するっす」
「ええ、気をつけて帰ってね」
なるべく早くその車から離れようとする。
けれど彼は私が家に入るのを見送ろうとしてくれた。
それが仇となった。
父さんが彼に話しかける。
「失礼だが君の名前は?春奈とはどういう関係だね?」
「彼はただの知り合いよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「ただの知り合いとこんな夜遅くまで遊ぶために一人暮らしを望んだのか!」
父さんの怒声に私はびくつく。
「春奈を叱らないでやってください。春奈のを誘ったのは俺っすから」
彼がそう言うと父さんの怒りの矛先は彼に向かう。
「他人の娘をこんな時間までどこに連れ出していた!?大体君は何者だ!」
だめ!絶対に名乗ったらだめ!
小学生の頃の悪夢が蘇ろうとしていた。
もう二度と大切なものを失いたくない。
大切な物……?彼は大切なものなの?
今は関係ない。この事態を収拾しなくては。だけどそんな私の願いなど叶わず。
「楠木晴斗18歳。地元大に通ってます。別に春奈とはドライブしてただけっす。変な事はしてないっす」
「当たり前だ!!」
「何をそんなに怒ってるのかわかんねーっすけど春奈は悪くないっす。悪いのは俺っす」
「楠木晴斗と言ったな……覚えておこう」
終わった……。どんな形であれ彼は潰される。そういうのが昔から得意だった。
「覚えてくれるんすね。よろしくっす」
彼は自分の置かれてる状況が飲みこめていないらしい。
「んじゃ、そういうわけで、責任は俺が取るんで」
「よく言った。じゃあ君に全責任を負ってもらおう」
「いいっすよ。俺も18歳っす。自分の尻くらい自分で拭けるんで」
「いい度胸だ、その度胸だけは認めてやる」
「んじゃ、またな。春奈」
そう言って彼は帰っていった。
私は自分の部屋に父さんを案内する。
「母さんが心配してるから来てみればなんて様だ!」
父さんの怒声が響く。
その後も父さんの叱りを受けていた。
いつもなら受け流していられたのに今日は酷く動揺してた。
そして……。
「もう彼とは二度と会うな!」
そう言われた時私は反発していた。
「そんな事父さんに言われたくない!」
初めての反抗。父さんも面食らっていた。
「もう二度と無くしたくない。今の気持ち。父さんに逆らってでも守って見せる」
「お前を力づくで家に連れ帰ることもできるのだぞ?」
それは……。
「だが、今回は大目にみよう。やっとお前に自我が芽生えてきたらしいしな。一人暮らしは成功だったんだろう。だが、あの男は許さん」
「自分の相手くらい自分で決めるわ」
どうせ家の跡取りは兄がいるじゃない?
「そうも言ってられなくなる。お前は私の娘だという自覚を持ってもらう」
始めるつもりなのね。
「今日はもう休みなさい。遊びに行くんじゃないぞ。今回は大目に見てやる」
父さんが優しい声になる。何かを企んでいる時の声だ。そしてそれはきっと……。
「あの人に手を出さないで」
私の悲痛な叫び。
どうしてそんなにムキになるの?
「お前が心配することは何もない」
そう言って父さんは家を出ていった。
彼とはもう連絡を取らない方が良い。
スマホから彼の連絡先を消そうとする。
指が震える。
駄目だ!出来ない!
どうしたらいいの?
頭がパニックだ。
こういう時は……。
棚に置いてあったキャンディを噛み砕く。
落ち着け、まずすることはなんだ?
彼に忠告することだ。
初めての行動。彼に電話する。
「はい、春奈どうした~?」
呑気な彼の声。彼に警告する。
「私達もう会わない方が良い」
心が痛い。張り裂けそうだ。
声が震えている。
そんな私の異変に気付いたのか彼の声音が変わる。
「大丈夫っすよ。何が会っても俺が春奈を守るっす」
そんな回答を聞きたいんじゃない。
「自分の身を心配して」
「俺は何が会っても平気っすよ。春奈がいれば」
「私とあなたは赤の他人。それでいいじゃない」
どうして分かってもらえないの?
「俺と春奈が出会った意味……きっと何か特別な意味があるっす」
初めて覚えた感情……それは恐怖。
「晴斗……私怖い……」
何が怖いのか分からない。友達を失うのが怖いの?それとももっと特別な?
「俺がついてるから大丈夫っすよ」
その時キャッチが入った。
父さんからだ早く出ないと。
「ごめん父さんから電話。もう切るね」
「了解っす。おやすみ」
「おやすみ」
彼からの電話を切って父さんの電話にでる。
「誰と電話していた。まさかあいつか」
「父さんには関係ない」
動揺をおさえて平静を装い対応する。
「さっき母さんと話したんだがな。春奈が身を引くかあの男に身を引いてもらうかどっちがいい?」
やっぱり始まるのね。
「そんな選択肢の無い質問答えるだけ無駄だわ」
「春奈はやっぱり物分かりがいいね」
「勘違いしてない?もともと彼にそんな感情抱いてないわ」
「そうか、勘違いだったか?じゃあ、彼がどうなろうと問題ないな」
「そうね……」
「じゃ、今日はもうおやすみ」
「わかったわ、おやすみなさい」
私は渡辺班にメッセージを送っていた。
頼れるのが他にいなかったから。
(5)
「父が彼を陥れようとしている」
そんな白鳥さんのメッセージが渡辺班に流れた。
「俺はへっちゃらですよ。何でもこいっす」
晴斗は気にも留めてないようだ。
「白鳥さん、心配しなくていいわ。両親の暴走を止める手段は用意してあるから」
恵美さんが言う。
「手段って?」
晶さんが聞く。
「こんな事もあろうかと白鳥ホールディングスの情報集めておいたわ。そしたら出てくる出てくる。官僚との癒着から今の経営難まで何でも出てくる。脅す材料ならいくらでもあるわ」
恵美さんの親って何やってるんだ?
「そういう事ならそうね。私にも出来る事がある。母さんに頼んで白鳥ホールディングスの子会社全部乗っ取ることも可能よ」
晶さんが言う。
この二人が揃ったら怖い物なんてないな。
でもそんな事より。
「それがどうしたの?」
「?」
皆が「?」打っている。
隣で愛莉も頭上に「?」を浮かべている。
「晴斗がどうなろうと白鳥さんには関係ないんじゃない?」
「ちょっと片桐君何言ってるの!?薄情にもほどがあるんじゃない!?自分でけしかけておいてそれはないでしょ!」
愛莉も隣でぽかぽかと僕の頭を叩いている。違ったのは白鳥さんだけ。
「私にもわかりません。ただ『怖い』んです」
白鳥さんは言う。
そんな白鳥さんに僕は言う。
「傷つくことが怖いの?失うことが怖いの?信じることが怖いの?」
「……わからない。頭がぐちゃぐちゃになって訳が分かんなくて」
「僕が聞きたいのは白鳥さんはどうするべきだと思うの?来た朝を後悔してるなら晴斗とここでお別れするべきだ。だけど行く夜を肯定するなら晴斗も君を愛してくれると思うよ」
「……私には無かった感情。……でも晴斗を失うのが怖い。晴斗が傷つくのが怖い」
「やっと自分の感情を肯定する覚悟ができたんだね?」
「……こんなに怖い物なの?」
「最初は皆そうさ。じゃあみんなそういう事だから」
ここからは白鳥さん次第だ。
埃を払って出発すると良い。白鳥さんの旅はまだ続くのだから。
「っしゃあ!燃えてきたぞ!やっぱり渡辺班はこうでないとな!」
美嘉さんが言うと皆が白鳥さんを励ます。
「冬夜君は何でもお見通しなんだね?最初から分かってたんでしょ?」
「予想より早く解決したけどね」
だけど問題はこれからだ。
白鳥さんの感情はまだ愛情とは呼べない。
ただ大事にしたいという小さな恋。
それをふくらませるには更なる時間を要するだろう。
でも白鳥さんの感情の小さな石は転がり始めた。
これからが大変だ。
ひび割れ傷つきながら転がっていく。冷たい石。
でもその石にも熱を帯びている。
その二つの意思はやがて触れ合うだろう。
「片桐さん。ありがとう」
「どういたしまして。大変なのはこれからだよ?」
「はい」
彼女のそのコメントに迷いは感じなかった。
後は進むだけだ。
前の見えない暗闇からでも、終わりの来ない悲しみの底からも
やっと見えた一つの光無くしたくないと白鳥さんが思ってるなら。
きっと素敵な世界を晴斗が見せてくれるだろう。
「冬夜君おはよう」
愛莉の声で目が覚める。
外からザーッと音が聞こえる。
今日は雨が降っていた。
これじゃジョギングは無理だな。
時間を見る。当たり前だけど1時間は余裕がある。
僕はベッドに入り寝た。
ぽかっ
「雨降ってるしジョギングは無理だろ」
「だからって寝なくてもいいでしょ!」
「する事無いんだよ」
家事でも手伝えばいいのか?
「勉強するとかゲームするとかやることいっぱいあるよ」
「朝からゲームして怒るのは愛莉だろ?」
「冬夜君起こすの大変なんだよ。最近は起こすと色々してくるし……」
「色々って?」
ぽかっ
「色々なの!どうせ分かってて聞いてるんでしょ!」
愛莉に気づかれたのは多分僕がにやけていたからだろう。
取りあえず寝るのはダメと言われたので着替える。
そのあとどうすればいい?
テレビでもつけるか?
ああ、でもゲームして良いって言ってたな。
愛莉をみると本を読んでいる。
ノートPCを起動するとゲームを始める。
すると愛莉もノートPCを起動する。
「一人でするなんてずるいよ」
「いや、でも愛莉本読んでたし」
「声かけてくれてもいいじゃない」
本当は一人でやりたいことあったんだけどいっか?
愛莉とゲームしてると本当にレアアイテム出るしな。
インスタントダンジョンを生成して始める。
ボスを倒すと……ほらね。
緑色の小さな四角い物がぽろっとでる。
何枚目だろう?
そんな風に時間を潰していると1時間なんてあっというまで……。
「そろそろ朝食準備しなくちゃ!」と、愛莉はログアウトして部屋を出る。
僕は一人でプレイを続けていると愛莉から「ご飯できたよ~」と声が聞こえる。
適当にキリをつけてログアウトするとダイニングに向かう。
みんな揃っていた。
ご飯を食べ終えると部屋に戻ってテレビをつけるとノートPCでサイトを巡回する。
一通り見るとシャットダウンしてノートPCをバッグにしまう。
テレビを見ていたら愛莉が戻ってくる。
しばらくすると愛莉は着替え始めてそして化粧をする。
愛莉の化粧が終わる頃時間になる。
愛莉とバッグをもって家を出る。
傘を持って愛莉を入れてやると愛莉は腕にくっ付いて歩き出す。
ドアロックを開錠すると助手席のドアを開け「お嬢様どうぞ」と愛莉を助手席に乗せる。
その後運転席に回って傘をたたみ、運転席に乗ると車を出す。
大学につくと、棟に向かい授業を受ける。
授業が終わると学食で弁当を食べる。
すると不思議とみんな集まってくる。
「グループメッセージ読んだか?」
渡辺君が聞いてくる。
多分晴斗君の事だろう。
「読んだよ、彼思ったより手が早いね」
「思ったよりって事はもっと奥手だと思ってたの?」
恵美さんが聞いてくると僕うなずいた。
「奥手って程でもないけど、慎重派かなって」
僕自身チャラい男と交流をもったことが無いので何とも言えないけど。
「呆れた。よくそんな男を入れる気になったわね」
「直感だよ。彼ならいけるって思ったんだ」
「直感ってお前……」
カンナの表情が険しい。
と、いうか女性陣の表情が険しい。
「手を付けてポイ捨てなんてことになったら、トーヤわかってるんだろうな?」
「それは絶対にないから心配ないよ。それより彼女の方を心配した方が良い」
「どうい意味だ?今まさに白鳥の心配してるんだけど?」
「多分、彼女との交際をするうえで避けられない障壁が出てくると思うんだ」
「て、ことは彼女は間違いなく落ちると?」
「予想通りことが進めばね」
「結局トーヤの掌の上で動いてるに過ぎないって事か。で、障壁ってなんだ?」
「彼女が友達すらできなかった理由って何だと思う?」
僕はカンナに聞いてみた。
「それなら私分かる気がする。身分の違い、その容姿かな……。それが嫌で私高校時代は身分を隠して来たけど」
恵美さんが言うと僕はうなずいた。
「うん、それだと思う」
「その障壁をぶち壊す為に晴斗をえらんだんじゃないのか?」
カンナが聞いてくる。
「恵美さんの場合は自分から障壁を取り除いた。白鳥さんの場合は無理矢理ぶち壊して隙間から光を見つけてその光に興味を示している」
「それなら問題ないじゃないか?」
「問題はその障壁を復元しようとしてる存在だよ。きっと彼の排除にかかると思う」
「……親?」
恵美さんが言うと僕はうなずいた。
「でもそんなものも白鳥さんの意思があればどうとでも……」
「そこが勝負どころ。白鳥さんに一緒に障壁を乗り越えようとする意志が生まれるかどうか?晴斗にその気にさせる力があるかどうか」
「ちーっす。何の話っすか?」
晴斗が来た。
「冬夜先輩にはマジ感謝です。あんな女生まれて初めてだ。夢見たいっす」
「夢で終わらない様にがんばってね」
「大丈夫っす、俺今回マジなんで」
「今回って事は何度か恋愛経験はあるの?」
恵美さんが言う。
「あるんすけど、どうも遊ばれてた感がパなくて。いつも最後は振られてました」
どうしてなんですかね?と彼は悩んでいる。
「その容姿に問題があるんじゃないの?」
晶さんが核心に迫る。
「この格好問題あるっすか?」
「そんなチャラい格好してるから、相手も軽い遊び相手にしか見てくれないんじゃない?」
「う~ん、変えた方がいいすかね?」
「その必要はないよ」
僕が言った。
「そんなまじめなキャラ作ったってすぐにぼろが出る。だったら今のままアタックを続けた方が良い。晴斗は本気なんでしょ?」
「当たり前っすよ!」
「頑張って。困ったことがあったら渡辺班に相談して」
「了解っす」
彼は買ってきたカツ丼を一気に頬張ると「んじゃまたっ!」と去っていった。
「ちょっと片桐君どういうつもり?あの格好で両親に会いに行ったらそれこそ破局よ!」
晶さんがそう言うと首を振った。
「それは無いから」
「どうしてそう言えるの?」
「彼の心は本当に読みやすい。言い方を変えると凄い率直な人なんだ。親に会う時の心構えくらい分かってると思う。分からなくても相談してきたときにレクチャーしてやったらいい」
「だったら今からそうした方がいいんじゃないの?」
「今はまず白鳥さんをその気にさせる気が肝心なんだ。……ここにいる男性に聞くけど白鳥さんにアタックしようとしたらどうする?」
「それは……あっ!」
石原君は気づいたようだ。
「なるほどな……冬夜が晴斗を選んだ理由分った気がしたぞ」
渡辺君も気づいたらしい。
「確かに真面目にアタックしようとしますよね」
竹本君も気づいたようだ。
他の男性も気づいたみたい。
「どういう事か説明してよ」
愛莉が説明を求める。
「少なからず何人かはいるはずなんだ。そうだな……かつての西松君のような自信家が交際を迫ってきてるはず。そんな普通のやりかたじゃ彼女の壁は壊せない」
「だから晴斗君を選んだの?」
「言ったろ?彼は率直だって。根は悪い人じゃないよ。そう確信したから彼をぶつけてみた」
「なるほどね……上手くいくの?」
「今のところは上手くいってるじゃない」
そう言うと皆黙ってしまった。
「まあ、トーヤの言う事を信じるしかないか」
カンナがそう言うと皆うなずいた。
「大丈夫だよ」と僕は言う。
だけど一つだけ不安要素があった。
彼女を守る最後の障壁……両親の存在だ。
だけどそれを取り除く一番の方法は彼女の方から出てくること。
そこまでこぎつけるかどうか?
多分今回の作戦の鍵はそこだろう。
上手くいくかどうかは正直不安だった。
(2)
「ただいま~」
私が家に帰ると啓介はテレビを見ていた。
「おかえり~、夕飯はテーブルの上にある」
食卓の上を見ると、寿司が並んであった。
それを黙って食べると風呂に入る。
風呂から上がると、啓介とテレビを見る。
「啓介は自炊とかしたこと無いの?」
私は啓介に聞いてみた。
「無いね、する必要もなかったし」
「しかし毎日店屋物じゃ体に悪いわ」
「毎日じゃない、深雪が早いときは深雪が作ってくれるだろ」
啓介には自分で自炊するという観念がないらしい。
洗濯ものも洗濯機に入れっぱなし。
休みの日はそれの処理におわれる日々。
きっぱり言った方が良いのだろうか?
家事を分担しないか?と
せめて私が仕事で遅い時くらいしてくれてもいいんじゃないか?と
「……私仕事で疲れてるんだけど」
「そうか、じゃあゆっくり休めよ」
「休みたいけど家事をしなきゃいけないの」
「……家事大変か?」
「学生時代の時みたいに時間がないから」
「わかった……」
分かってもらえた?
「父さんに頼んで家政婦頼むよ」
自分でやろうとはいわないのね?
「そこまでのお金余裕ないわよ?」
「親にはらってもらうさ」
「あなた少しは自立しようって気にならないの!?」
ちょっと言い過ぎたかな?
「どうしたんだ突然?俺まだ学生なんだし親に甘えてもいいだろ?」
「あなたにバイトしろとは言わない。私がお金は稼いでくる。でもその分家事を手伝ってくれたっていいじゃない」
疲れてイライラしていたんだろう。
不満を啓介にぶつけていた。
いけない。ガムを2粒とりだし噛む。
「……ごめん、ちょっといいすぎたわ」
啓介はすっと立ち上がりキッチンに向かうと洗い物を始める。
分かってもらえたのだろうか?
「深雪……洗ったの拭いて直してくれないか?」
啓介が一言いう。
言われたとおりに従った。
啓介の隣にたって作業を進める。
「深雪がやって当たり前と思っていた。だけど違うんだな。俺はお金を家に入れてすらいない」
「学生だもの仕方ないわ」
「深雪の気持ちに気づいてやれなくて情けないと思う」
「私が少しいすぎたわ……ごめん」
「いいんだ。思ってる事を言って。聞いてやるくらいしかできないけど」
洗い物が終わった。
啓介は脱衣所に向かう。
「深雪ちょっと来てくれないか?」
どうしたんだろう?
脱衣所に向かうと洗濯機に向かう啓介が。
「使い方が分からない。教えてくれないか?」
洗剤を入れてボタンを押して設定すると洗濯機が自動で回りだす。
後は乾燥が終わるまで待つだけ。
「こんな簡単なこともわからないなんてつくづく駄目だな俺は」
自嘲気味に笑う啓介に言う。
「やろうという意思は伝わったわ。それだけでも嬉しい」
次の日啓介は私よりも先に起きてトーストを焼いてくれた。
スクランブルエッグも作ってくれた。
「まだ簡単なものしか作れないが……」
スマホを見ながら作ったらしい。
「これから覚えて行けばいいわ。私も教えてあげる。でも勉強もわすれないでね」
「分かってる」
それが私たちの初めての夫婦喧嘩だった。
(3)
時計は22時を回っている。
なのにかずさんは帰ってこない。
研修期間は定時であがれると聞いていた。
かずさんにメッセージを打つ。
「朝言ったろ?今日はバスケの練習があるって」
そうだった。
社会人クラブに入ったと聞いた。
かずさんは毎日のように練習に取り組んでいる。そして飲んで帰ってくる。
私は一人食事をしてそして一人で彼の帰りを待つ。
妻になるってこういう事なんだと納得したつもりだった。
朝になるとかずさんを起こす。
そして朝ごはんを作って彼を送り出して自分も大学に行く準備を始める。
帰りにスーパーに寄って買い物を済ませる。
唯一の救いはかずさんはちゃんと連絡してくれる
「今日は飲み会あるからご飯いらない」と
新入社員だとそんなに頻繁に飲み会があるものなのだろうか?
余り口出しするのも良くないと思って我慢していた。
しかし我慢にも限界がある。
つい、メッセージに残してしまった。
「主人の帰りが毎日遅い」と。
「そういうのは始めが肝心、ちゃんと言わないと!」と恵美が言う。
「言って喧嘩にならないかな?」と返信する。
「私達が替わって言ってあげようか?」と神奈がいう。
それはダメだと思ったので断った。
「自分で言ってみるね」と言った。
なのに憤慨した美嘉さんが渡辺班のグループでその事を言った。
案の定、かずさんはその日早く帰ってくる。
「どうして、俺に直接言ってくれなかったんだ!?不満があるなら言えば良いだろ!」
付き合い始めて初めてかずさんの怒鳴り声を聞いた気がする。
「だって言ったら怒られると思って」
「こんなやり方卑怯だと思わないか!?俺だって好きで飲みに行ってるわけじゃない!仕事の付き合いってあるだろ!?」
「……だったら私も言わせてください」
「?」
「かずさんはいいです。仕事の付き合いなのかもしれないけど、外で毎晩楽しんで羨ましい!なのに私は愚痴をこぼす事すら許されないんですか!?」
「……客先と飲んでる時は楽しいと思ったことはないよ」
「私だって愚痴を言って楽しいわけじゃない!でも私はかずさんのお世話係じゃない!かずさんの妻です!少しは構ってくれてもいいじゃないですか!?」
精一杯の事を言った。これでいいんだ。これでわかってくれないなら……。
涙がこぼれる。止めようにも止まらない。あふれ出す涙。
「これからは俺に直接ぶつけてくれ。妻の不満を受け入れるのが旦那の務めだろ?花菜だって家事と学業で疲れてることくらいわかってる。俺にしてやれるのはその不満を聞くくらいだ」
「じゃあ、今言います」
「ああ」
「寂しいです。毎晩一人でご飯を食べて一人でかずさんを待っている。凄く寂しいです。最初のうちは妻がいるからと断って帰って来てくれてたじゃないですか」
「わかった、ごめん」
「私こそごめんなさい。最初にかずさんに相談するべきでした」
「いいんだ。女性同士で愚痴を言い合うのも大事かもしれないな」
かずさんは良い主人だ。
その事に感謝しよう。
その後二人でご飯を食べて二人一緒にお風呂に入ってそしてテレビを見て寝た。
また今日がはじまる。
相変わらず帰りが遅い日が続く。
それでもかずさんは変わった。
頻繁にメッセージを送ってくれるようになった。
寂しくない様に泣かない様に。
電話もたまにしてくれる。
今度から思ったことはちゃんと自分の口で伝えよう。
かずさんなら分かってくれる。
(4)
金曜日の夕方。
定刻きっちりに、電話が鳴った。
「今ついたっす。準備出来たら降りてきて」
知ってる、アパートの前に30分前から止まってる不審な車。
私は家を出ると派手な車に乗る。
「服似合ってます。ばっちりっす」
因みに普段着だ。
車を出す。
車の中は良く分からない喧しい音楽が鳴っていた。
「……」
「え?なんて!?」
「音量下げて!!」
大声で叫ぶと彼は音量を下げてくれた。
「とりあえず腹ごしらえっすね」
そう言うと何の変哲もないただのファミレスに入った。
スマホを弄りながら、私と話をする。
「冬夜先輩まじすげーっすね。今度日本代表の強化合宿いくらしいっすよ」
「知ってる」
「いやあ、なんかマジ別世界の人間といるみたいですげーっす」
彼の声は一々大きい。
周りの目を引くくらいに。
けど彼はそんなのおかまいなしに話しかけてくる。
食事が済むと車に乗る。
「マジお勧めの場所あるんで」
「そうなの?楽しみだわ」
正直あまり期待してなかった。
そしてその通りだった。
海岸の公園に連れて行ってくれた。
海風が肌寒かった。
彼がパーカーを貸してくれた。
「あなたが寒いんじゃないの?」
「俺、馬鹿だから風邪ひかないんで大丈夫っす」
そう言って笑う。
引き方が馬鹿ならどうしようもないと思うんだけど。
「俺こう見えて頑丈なんすよ」
身体はどうか知らないけど心がタフなのはたしかなようね。
「……どうしてこの場所を選んだの?」
「俺、彼女と行ってみたい場所が何か所かあるんすよ!で、春奈が海が見たいって言ってたからここ選んだだけっす」
「私あなたの彼女になったわけじゃないわよ」
「じゃ、彼女になったらまた見に来ましょう」
どこまでもポジティブな考えの人のようね。
ポジティブか……私に欠けているものかもしれない。
恋人と言ってみたい場所か……あれ?
「あなた恋人いなかったの?」
「いなかったっすね、女友達はいたけどそれ以上にはなれなかったっす」
そうでしょうね。
「友達とは今も連絡とってるの?」
「とってますよ!」
「その中に好きな人はいなかったの?」
「いたけど振られたっす!」
そう言って彼はにんまりと笑う。
「聞いたらいけない事だったかもね、ごめんなさい」
「一々気にしてられないっすよ。全然問題ないっす」
周りを見ると、カップルや老夫婦が散歩したりベンチに座って話をしている。
私達もそんな風に見られているのかしら。
「俺こんなんだから、誤解されてるかもしれないけど今回だけはまじっす!」
「何が?」
「本気で春奈の事惚れたっす!付き合ってください」
自慢じゃないけど「好きだ」と言われた事は何度かある。
でもここまで、動揺したことはない。
「初めてあって『付き合ってください』は無いかと思うけど」
「じゃあ、何回目ならいいっすか?」
「何度も会えると思ってるの?」
「俺、こう見えて結構辛抱強いんで!」
「分からないわよ」
「え?」
「『はい』と言うかどうかわからないわよ」
会わないとは言わなかった。
「ってことは会ってもらえるっすね?」
「まあ、暇つぶしにはなるし」
「っしゃあ!」
彼は叫ぶ、周りの人が何事かとこっちを見てる。
こんな風な喜びをする人もいるんだ……。
「そろそろ帰りましょう。冷えて来たわ。あなた本当に風邪ひくわよ」
「了解っす!」
そう言うと彼は私の手を取り歩き出す。
やめてよ、そんなことしたら周りに彼女と思われるじゃない。
「……離して」
「あ、調子にのりすぎました。さーせん」
そう言って彼はあっさりと手を離す。
何か寂しい気分になった。
寂しい?
そうね、いつも一人だったものね。
渡辺班に入って、思い出した感情。
それまでは寂しいなんて言葉すら忘れていた。
彼の車で家に送ってもらう。
「好きな音楽とかあるっすか?」
「ごめんなさい、そういうに疎くて」
「じゃ、今度友達に聞いておくっす。ヒップホップとか嫌いみたいだから」
「どうしてそう思ったの?」
「だってさっき音量下げてって言ったじゃないっすか?」
本当に馬鹿じゃないのかと思った。
けれど憎めない馬鹿。
「……私が自分で選んでもってくるわ」
「まじっすか?さっき分からないって」
「全く聞かないわけじゃないから。けれど大音量はやめてね」
「大音量の方がテンション上がらないっすか?」
あなたのテンションをそれ以上上げてどうするつもりなの?
「……私静かに話がしたいから」
話がしたい?
この人と?
片桐さんとは違う感情。
この感情は何と呼べばいいのだろう?
「あ、そういうことだったんすね。さーせん」
どんな話をしてもこの人は明るく返してくれる。
それが私の気を紛らわしてくれた。
車は家につく。
すると白い高級車が止まっていた。
見覚えのあるナンバー。
家の車のナンバーだ。
「じゃ、また連絡するっす」
「ええ、気をつけて帰ってね」
なるべく早くその車から離れようとする。
けれど彼は私が家に入るのを見送ろうとしてくれた。
それが仇となった。
父さんが彼に話しかける。
「失礼だが君の名前は?春奈とはどういう関係だね?」
「彼はただの知り合いよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「ただの知り合いとこんな夜遅くまで遊ぶために一人暮らしを望んだのか!」
父さんの怒声に私はびくつく。
「春奈を叱らないでやってください。春奈のを誘ったのは俺っすから」
彼がそう言うと父さんの怒りの矛先は彼に向かう。
「他人の娘をこんな時間までどこに連れ出していた!?大体君は何者だ!」
だめ!絶対に名乗ったらだめ!
小学生の頃の悪夢が蘇ろうとしていた。
もう二度と大切なものを失いたくない。
大切な物……?彼は大切なものなの?
今は関係ない。この事態を収拾しなくては。だけどそんな私の願いなど叶わず。
「楠木晴斗18歳。地元大に通ってます。別に春奈とはドライブしてただけっす。変な事はしてないっす」
「当たり前だ!!」
「何をそんなに怒ってるのかわかんねーっすけど春奈は悪くないっす。悪いのは俺っす」
「楠木晴斗と言ったな……覚えておこう」
終わった……。どんな形であれ彼は潰される。そういうのが昔から得意だった。
「覚えてくれるんすね。よろしくっす」
彼は自分の置かれてる状況が飲みこめていないらしい。
「んじゃ、そういうわけで、責任は俺が取るんで」
「よく言った。じゃあ君に全責任を負ってもらおう」
「いいっすよ。俺も18歳っす。自分の尻くらい自分で拭けるんで」
「いい度胸だ、その度胸だけは認めてやる」
「んじゃ、またな。春奈」
そう言って彼は帰っていった。
私は自分の部屋に父さんを案内する。
「母さんが心配してるから来てみればなんて様だ!」
父さんの怒声が響く。
その後も父さんの叱りを受けていた。
いつもなら受け流していられたのに今日は酷く動揺してた。
そして……。
「もう彼とは二度と会うな!」
そう言われた時私は反発していた。
「そんな事父さんに言われたくない!」
初めての反抗。父さんも面食らっていた。
「もう二度と無くしたくない。今の気持ち。父さんに逆らってでも守って見せる」
「お前を力づくで家に連れ帰ることもできるのだぞ?」
それは……。
「だが、今回は大目にみよう。やっとお前に自我が芽生えてきたらしいしな。一人暮らしは成功だったんだろう。だが、あの男は許さん」
「自分の相手くらい自分で決めるわ」
どうせ家の跡取りは兄がいるじゃない?
「そうも言ってられなくなる。お前は私の娘だという自覚を持ってもらう」
始めるつもりなのね。
「今日はもう休みなさい。遊びに行くんじゃないぞ。今回は大目に見てやる」
父さんが優しい声になる。何かを企んでいる時の声だ。そしてそれはきっと……。
「あの人に手を出さないで」
私の悲痛な叫び。
どうしてそんなにムキになるの?
「お前が心配することは何もない」
そう言って父さんは家を出ていった。
彼とはもう連絡を取らない方が良い。
スマホから彼の連絡先を消そうとする。
指が震える。
駄目だ!出来ない!
どうしたらいいの?
頭がパニックだ。
こういう時は……。
棚に置いてあったキャンディを噛み砕く。
落ち着け、まずすることはなんだ?
彼に忠告することだ。
初めての行動。彼に電話する。
「はい、春奈どうした~?」
呑気な彼の声。彼に警告する。
「私達もう会わない方が良い」
心が痛い。張り裂けそうだ。
声が震えている。
そんな私の異変に気付いたのか彼の声音が変わる。
「大丈夫っすよ。何が会っても俺が春奈を守るっす」
そんな回答を聞きたいんじゃない。
「自分の身を心配して」
「俺は何が会っても平気っすよ。春奈がいれば」
「私とあなたは赤の他人。それでいいじゃない」
どうして分かってもらえないの?
「俺と春奈が出会った意味……きっと何か特別な意味があるっす」
初めて覚えた感情……それは恐怖。
「晴斗……私怖い……」
何が怖いのか分からない。友達を失うのが怖いの?それとももっと特別な?
「俺がついてるから大丈夫っすよ」
その時キャッチが入った。
父さんからだ早く出ないと。
「ごめん父さんから電話。もう切るね」
「了解っす。おやすみ」
「おやすみ」
彼からの電話を切って父さんの電話にでる。
「誰と電話していた。まさかあいつか」
「父さんには関係ない」
動揺をおさえて平静を装い対応する。
「さっき母さんと話したんだがな。春奈が身を引くかあの男に身を引いてもらうかどっちがいい?」
やっぱり始まるのね。
「そんな選択肢の無い質問答えるだけ無駄だわ」
「春奈はやっぱり物分かりがいいね」
「勘違いしてない?もともと彼にそんな感情抱いてないわ」
「そうか、勘違いだったか?じゃあ、彼がどうなろうと問題ないな」
「そうね……」
「じゃ、今日はもうおやすみ」
「わかったわ、おやすみなさい」
私は渡辺班にメッセージを送っていた。
頼れるのが他にいなかったから。
(5)
「父が彼を陥れようとしている」
そんな白鳥さんのメッセージが渡辺班に流れた。
「俺はへっちゃらですよ。何でもこいっす」
晴斗は気にも留めてないようだ。
「白鳥さん、心配しなくていいわ。両親の暴走を止める手段は用意してあるから」
恵美さんが言う。
「手段って?」
晶さんが聞く。
「こんな事もあろうかと白鳥ホールディングスの情報集めておいたわ。そしたら出てくる出てくる。官僚との癒着から今の経営難まで何でも出てくる。脅す材料ならいくらでもあるわ」
恵美さんの親って何やってるんだ?
「そういう事ならそうね。私にも出来る事がある。母さんに頼んで白鳥ホールディングスの子会社全部乗っ取ることも可能よ」
晶さんが言う。
この二人が揃ったら怖い物なんてないな。
でもそんな事より。
「それがどうしたの?」
「?」
皆が「?」打っている。
隣で愛莉も頭上に「?」を浮かべている。
「晴斗がどうなろうと白鳥さんには関係ないんじゃない?」
「ちょっと片桐君何言ってるの!?薄情にもほどがあるんじゃない!?自分でけしかけておいてそれはないでしょ!」
愛莉も隣でぽかぽかと僕の頭を叩いている。違ったのは白鳥さんだけ。
「私にもわかりません。ただ『怖い』んです」
白鳥さんは言う。
そんな白鳥さんに僕は言う。
「傷つくことが怖いの?失うことが怖いの?信じることが怖いの?」
「……わからない。頭がぐちゃぐちゃになって訳が分かんなくて」
「僕が聞きたいのは白鳥さんはどうするべきだと思うの?来た朝を後悔してるなら晴斗とここでお別れするべきだ。だけど行く夜を肯定するなら晴斗も君を愛してくれると思うよ」
「……私には無かった感情。……でも晴斗を失うのが怖い。晴斗が傷つくのが怖い」
「やっと自分の感情を肯定する覚悟ができたんだね?」
「……こんなに怖い物なの?」
「最初は皆そうさ。じゃあみんなそういう事だから」
ここからは白鳥さん次第だ。
埃を払って出発すると良い。白鳥さんの旅はまだ続くのだから。
「っしゃあ!燃えてきたぞ!やっぱり渡辺班はこうでないとな!」
美嘉さんが言うと皆が白鳥さんを励ます。
「冬夜君は何でもお見通しなんだね?最初から分かってたんでしょ?」
「予想より早く解決したけどね」
だけど問題はこれからだ。
白鳥さんの感情はまだ愛情とは呼べない。
ただ大事にしたいという小さな恋。
それをふくらませるには更なる時間を要するだろう。
でも白鳥さんの感情の小さな石は転がり始めた。
これからが大変だ。
ひび割れ傷つきながら転がっていく。冷たい石。
でもその石にも熱を帯びている。
その二つの意思はやがて触れ合うだろう。
「片桐さん。ありがとう」
「どういたしまして。大変なのはこれからだよ?」
「はい」
彼女のそのコメントに迷いは感じなかった。
後は進むだけだ。
前の見えない暗闇からでも、終わりの来ない悲しみの底からも
やっと見えた一つの光無くしたくないと白鳥さんが思ってるなら。
きっと素敵な世界を晴斗が見せてくれるだろう。
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