優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

私にとってあなただけだって

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(1)

「じゃあ、冬夜君気をつけてね」
「愛莉も眠くなったら休憩して帰るんだぞ」

空港のカフェで話をしていた。
朝一の便で東京に向かう。
そろそろ搭乗手続きしないと。
愛莉と別れる。
搭乗手続きを済ませるとしばらく時間を潰してそれから飛行機に乗り込む。
飛行機の中ではぼーっと景色を見ていたら眠ってた。着陸の知らせの音が鳴ると目が覚める。
シートベルトをして着陸に備える。
空港から電車で移動して体育館に向かう。
体育館に着くと急いで更衣室で着替える。
そしてコートに向かうと個人練習が始まっていた。

「よお、相変わらずの重役出勤だな」

雄一郎が絡んでくる。

「これでも急いだつもりなんだけど?」

昨日は授業があったんだからしかたないだろ?

「お前ならプロバスケからもスカウトくるだろうに、なんで真面目に授業受けてるんだ?」

僕の目的の事は伏せておいた。
言うとまた揉めると思ったから。

「雄一郎も一々絡むなよ」

義明が話に混ざってくる。

「義明練習さぼってんじゃねーよ」
「だったら冬夜にも練習させてやれよ」
「……ちゃんとストレッチやっとけよ」

そう言って雄一郎は去っていった。

「一々雄一郎の言葉気にするなよ」
「もう慣れたよ」
「なら、問題ないな」

義明はそう言って笑って練習に戻った。
僕もストレッチしてボールを拾いシュート練習を始める。
メンバーはユニバーシアードと変わりなかった。
まあ、プロにも簡単に勝ってしまうチームだしね。
個人練習の後昼休憩をしてそれから3対3のコート半分をつかった練習に入る。
その後に5対5の練習。
控えにプロの選手が混ざっているという異様な事態。
とはいえ、戦術の確認が主な練習の目的。
後はディフェンス。
練習を終えるとホテルに移動してチェックイン。
その日は結団式。という事もあってホテルでのビュッフェスタイルでの会食だった。
色んな選手と交流した。
そして取材の嵐。
まともにご飯を食べさせてくれない。
会食が終わると部屋に戻る。
今回は和人は来てない。
アジア選手権には来るらしいけど。
部屋は雄一郎と一緒だった。

「初めての会食はどうだった?随分と取材を受けていたが」
「お陰様でろくに飯も食えなかったよ」
「明日の朝早いんだからな?早く寝とけ」

そう言って雄一郎は何かノートPCを操作している。

「何してるの?」
「大したことじゃねーよ。お前たちの戦術を確認してるだけだ」

へえ~そんな事も出来るんだ。

「まあ、冬夜がいると戦術にならないんだけどな」
「どうして?」
「お前が一人で戦術作っちまうからだよ!」

ああ、なるほどね。
よく言われる。

「お蔭でお前中心の戦術になってしまう。だからマークがつきやすくなるんだよ」
「なるほどね」
「ユニバーシアードと違って相手もベテランだからな気をつけろよ」
「わかった。ありがとう」
「勘違いするな。代表を勝たせたいから言ってるだけだ。ワンマンプレイでゲーム台無しにされたら困るからな」
「わかってる」
「じゃあ、もう寝ろよ」
「ああ、おやすみ」

雄一郎だけじゃない。色んなスタッフがいるから代表が成り立つんだろうな。
そんな影の立役者。それに代表の選考に漏れた人たちの為にも勝ち続けなければならない。
それはどの国もそうなんだろう。そんな奴らが相手なんだろう。
あ、……影の人で思い出した。
僕はベッドから起き上がると部屋の外に出る。

「どこ行くんだよ?」

雄一郎から呼び止められる。

「ちょっと電話」
「……仲が良いこって」
「まあね」

電話をするためにロビーに向かった。

(2)

気合を入れ過ぎただろうか?
朝11時の約束なのに、10時に準備を終えてしまう。
だけど窓から景色を見てると30分前には彼の派手な車が止まっている。
そして律義に11時に電話が鳴る。

「今付いたっす」
「わかった」

急いでサンダルを履いて家を出る。

「ちわっす」
「こんにちは」

彼の車に乗るとBGMのボリュームが下げられていた。

「良いドライブ日和でよかったっす」
「そうね」

彼は車を走らせる。

「昨日は寝れたっすか?」
「ええ、お陰様で」
「それはよかったっす」
「あなたは?」
「ばっちし寝たっすよ」

22時には寝たらしい。
で、朝5時に目が覚めてする事無くて家で音楽聴きながらスマホ弄ってたんだとか。
そしたら気づいたら寝ていて慌てて家をでたらしい。

「あ、そういや。CD持ってくるって言ってたっすね」
「それがCDがなくてスマホに入れてきたんだけど」
「了解っす。スマホ貸してください」

彼にスマホを渡すとスマホにコードを差し込む。

「OKっす。あとは聞きたい音楽を再生してください」

言われたとおりに曲を再生させるとスピーカーから鳴り響く。

「こんなのが好きなんすか?」
「昨日、お勧めの曲を聞いてそれをダウンロードしたの」
「なるほどね」

穏やかなBGMが静かに流れる中彼との会話に集中できた。
途中で、昼食の時間になる。
ただのファストフード店のドライブスルーで昼食を買って食べながら運転してた。
昼間の海も綺麗。
どこまでも果てしなく広がる海。
その海はどこへ続くのだろう。
はるか遠くに見える空。
空と海が交わる場所をただ眺めていた。
彼の話をBGMにして。
彼の話は武勇伝と言った方が良いのだろうか?
彼の過去の話を聞かされていた。
よく国公立の大学に入学出来たなと思った。
やんちゃしてたと言ったものだろうか?
あまり人に聞かせる話じゃないと思った。

「それあまり他の人の前で言わない方がいいわよ」
「どうしてっすか?」
「あまり褒められた話じゃないわ」
「普通だったっすけどね。もっとすごいのもいたし」
「その話はしなくていい」
「機嫌悪くさせたっすか?」
「大丈夫」

その後もどうでもいい話を延々とする彼。
でも彼の話し方が面白いのか普通に聞いて、相槌を打っていた。
車は途中海岸に寄ってそれから引き返そうとする。

「どうして引き返そうとするの?」
「だって海の方が好きなんすよね?」
「来た道を引き返すより違う道を選びたい」
「了解っす」

そう言うと彼は山の中へと車を剥ける。

「それにしても今日の春奈はこの前より綺麗っすね」

やっと触れて欲しい話題に触れてくれた。
気づいて欲しい事に気づいてくれてた。

喜び

そんな感情が私の中に芽生えた。

恥ずかしい

という感情も同時にあった。
俯く私にさらに「恥ずかしがる春奈も可愛いっす」と言う。
お願いだから前を見て運転して。
左を見ると電車が走っている。

「ねえ、あなたは電車と車どっちが好き?」

不思議な質問をしていた。

「そうっすね。やっぱり車っすね。好きな時に好きなところに行けるから」

何となくそう答えると思っていた。

「春奈はどうなんですか?」
「私も車かな」

自分の車を持ってる人が羨ましい。
好きな時に好きなところに行けるから。自由が欲しい。

渇望

一つの物を手に入れるとまた別のものが欲しくなる際限ない人間の欲望。
父さんは何を求めているのだろう?
私が欲しい物は自由。そして……恋?
私は恋を欲しているの?
レールはまっすぐ敷かれてある。
だけど道路は曲がりくねっていたり上り下りがあったりと大変。
そんな険しい道をゆっくりと進んでいくこの時間。

ああ、私は幸せを感じているんだ。

彼の声をBGMに流れる景色を見つめる。
この時間が永遠に続けばいいのに。
終わる時が必ず来る。

切なさ。

私は悲しいの?寂しいの?
その時彼が私の右腕を握る。
ハッとして彼の横顔を見る。

「よくわかんないっすけど。多分超余裕っす!俺がついてるから」

心強さ。

彼の言葉には何の理屈も理由も根拠もない。
でも彼と二人ならどんな山も越えられそうな気がする。
頼りになる?
それはわからない、でも不思議と勇気づけられる。
あやまちを恐れずに進む彼を、涙を見せずに見つめていたい。
出来なかった事、憧れていた事。
少しずつ分かってきた。
私の彼への想いは迷いながらも残ってる。
偶然でも彼に会えた。
彼にだけは伝えたい。

恋しい?

私にはまだ理解できない感情。
本当に?
本当は理解してる?
それを認めたくないだけ?
傷つくことが怖い?

戸惑い。

未知への世界へ踏み出す一歩。
暗闇の中を明りもつけずに歩き出す恐怖。
でも遠くに見える明りだけを頼りに進みたい。

車は峠を越えようとしていた。
登坂車線をゆっくり走る彼。
すると追い越し車線が終わるギリギリで割り込んでくる車。
よく出てくるRの字が良く目立つ車。

「ちっ」と彼の舌打ちが聞こえる。

「追うの?」
「そんなことできるわけないっす。春奈を傷つけるような危険は冒せないっす」
「私が邪魔?」
「そういう意味で言ったわけじゃないっす。第一この車だと追いかけられないっす。それにこの先オービスがあるっす。県外ナンバーだったから知らないんでしょうね」

そう言って彼は笑う。
ふと速度計を見る。
凄い安全速度で走っていた。
もっとスピードの出る車を買えばよかったのに。

「どうしてこの車を選んだの?」
「え?かっこよくないっすか?」

確かに派手な車だ。
内装も派手に施されてある。

「春奈は好きな車とかあるんすか?」
「車の事はよくわからないから。免許ももってないし」
「地元だと不便っしょ。あ、送迎があるからいらないのか」
「そうよ。決められた時間に決められた場所に向かう。列車と変わらないわ」
「それって楽しいっすか?」
「私の人生と同じ。決められた道をただ進むだけ」
「そんなの問題ないっす!」

彼はにこりと笑う。

「そんな物俺が壊してやるっす。俺が一緒に春奈の道作ってやるっす」

彼のその言葉はきっと信じていいのだろう?
現に今彼は私に新しい道を用意してくれてるのだから。
彼の後ろを付いて行けばいい?
けどそれじゃ変わらない。
他人じゃない自分が決める道。
自分が選ぶ道。
それは彼と同じ位置に立たないとダメだ。
私は彼と一緒に歩きたい?

帰りにうどん屋さんによって食べて家に送ってもらった。
もっと楽しみたかった?

楽しい?

そうか、私は楽しかったのね。

「じゃ、今日はあざーっした」
「ねえ、晴斗?」
「なんすか?」
「明日も会える?」

初めて言った言葉。
自分から自分の気持ちを伝えた言葉。
伝わったかどうかわからないけど。

「いいっすよ、また海行きましょう」
「海だけじゃなくて山でもいいのよ」
「でもまだ見てない海あるっす。海は広いっすよ」

そんな広い世界を私に見せてくれるというのね。
じゃあ一緒に見よう。
まだ恐怖は拭えない。
けれど生まれて初めて自分で一歩を踏み出した。
それは大きな一歩になるに違いない。

「じゃあ、また明日。今日と同じ時間にくるっす」
「もっとはやくてもいいよ?」

私がもっと長い時間あなたと過ごしたいから。

「了解っす。準備出来たら連絡欲しいっす」
「分かった。じゃあまた明日」

また明日。

明日が待ち遠しかった。

恋。

私の中に初めて出来た感情。
それが叶うのか叶わないのか分からないけど。
明日もし彼が言ってくれたら私の中で返事は決まっていた。

(3)

「ちょっと悠馬!」
「どうした咲?」

缶ビールを飲みながら僕は咲に聞いていた。

「カレンダー見たわよ!あんた3連休全部バイトで埋めてるじゃない!」
「それは咲だって一緒だろ?」
「あんたと私のバイトは内容が違うでしょ!体壊すわよ!」
「こう見えて結構鍛えられてきたんだけど」

僕は右腕を曲げ力こぶを作ってみせた。

「そんなもん自慢されても嬉しくない!少しは休みなさいよ」
「それを言ったら咲もだよ。後半は全部休むんだろ?」
「それはそうだけど……」

咲はまだ何か言いたげだ。
心配してくれてるのは良いけど後半休む分前半仕事しないと。

「あんた最近無理してない?深夜までバイト入れて」

まあ、掛け持ちしたりはしてるけど。

「心配しなくても家計はやりくり出来てるから。あんまり無理しないで」

咲に手招きする。
咲は僕の隣に座る。

「心配かけてごめん、でもお金貯めておきたくてさ」
「どうしてよ」
「夏休みにさ、一泊旅行くらいしない?って思って」
「そんな事なら私も一緒にバイト増やす」
「咲は家事もあるから駄目だよ」
「悠馬も家事してるじゃない」
「僕は手伝い程度だし」
「……埒があかないから正直に言うわ」

急に改まってどうしたんだろう?

「まず悠馬の体が心配、本当に壊しちゃうんじゃないかって。私にとって悠馬だけなんだよ」
「うん」
「次もそれ。私にとって悠馬だけなの。悠馬との2人の時間削ってたった一泊旅行しても嬉しくない」
「何泊ならいいの?」
「最近すれ違いの生活続いてるじゃない、たまにはのんびり二人で夜を過ごしたい」

ああ、そういう事か。

「わかった、深夜の仕事減らすよ」
「悠馬の体の為にもそうして」
「でも夏休みに一泊くらいしようよ」
「無理しないって約束するなら……私だって一日くらい休みたいし」
「わかった」

カレンダーを見て確認する咲も明日は夕方からだ。

「明日は日中はゆっくりできるね」
「あのね、家事が大変だって悠馬分かってるんじゃないの」
「家事は僕も手伝うからさ……今夜ゆっくりしても問題ないだろ?」
「……そういうことなら最初に言ってよ」

咲はそう言って僕に寄りそう。
そんな咲の肩を抱いてテレビを見ている。
咲がうとうとし始めると咲を抱えてベッドに運ぶ。
そして再びテレビを見ようとすると咲が腕を掴む。

「一緒に過ごすんじゃないの」
「咲眠そうだから」
「あんたそういうところ意地が悪い」

僕は笑うと照明を消してベッドに入った。

(4)

カランカラン。

「こんにちは~」
「遠坂さん一人とは珍しいね。片桐君は?」
「今日から東京で強化合宿。さっき送ってきたところなの」
「ああ、今日からなんですね。すごいなあ、日本代表か~」

遠坂さんが言うと一ノ瀬さんが羨ましがってる。
遠坂さんは晶ちゃんの隣に座った。

「いつもので~」
「かしこまりました」

厨房に伝票を張る。
最近、みんな結婚してバイトして忙しいからか、なかなか顔を見せない。
売り上げ激減でマスターが悲鳴を上げている。

「で、中島君と一ノ瀬さんはあれからどうなの?」

初球からど真ん中ついてくるね遠坂さんは。

「どうって言われても普通だよ?」
「普通って……あなたまた彼女を放ってサッカー三昧なの!?」

晶ちゃんがさっそく噛みついた。

「まあ、部活が忙しいってのはあるね。やっとレギュラーとれたし」
「部活も夜はないでしょ!夜は何してるの」
「疲れて寝てるよ」
「デートはまったくしてないの!?あなたねえ」
「デートくらいしてますよ。俺だってそのくらいちゃんと反省してる」
「あれをデートと呼ぶの?」

黙って聞いていた一ノ瀬さんが反発した。

「嫌がってなかったじゃない」
「一人待ちぼうけで寒い山の中待ってるのがデートなの?」

中島君や、何をやってるんだい?女性の扱いは得意なイケメンだろ?君は……。

「一体何をデートと呼んでるの?」
「それは……」

一ノ瀬さんが話を始めた。
片桐君たちが通ってた山にいってるらしい。中島君の車を整備している工場の店長が元ラリーの選手だったらしくて車のドラテクを教え始めたらしい。
それに通っているのをデートと称してるそうだ。
また、触れちゃいけないところに触れちゃったね。
どこかの漫画の影響かい?
どうせ本気で走るときは助手席に乗せないとか言ってるんでしょ?
晶ちゃんの逆鱗にふれたようだ。

「あなたレギュラーになったって言ったわよね。無謀な運転をして怪我して台無しになったらどうするの!?それに一ノ瀬さんの気持ち考えて行動してるとは思えないわよ!」
「無謀な運転じゃないよ、言ったろ?ちゃんとコーチついてるって」
「百歩譲ってもそれはデートじゃないわよ!」

カランカラン。

桐谷夫妻がやってきた。

「マスターいつもの~」

亜依さんがそう言うと二人もカウンターに座る。
憤慨してる晶ちゃんに亜依さんは気づいたのか「どうしたの?」と尋ねる。
晶ちゃんが亜依さんに説明する。
亜依さんはため息を吐いた。

「うちの馬鹿亭主と一緒か……」

ってことは、桐谷君もまさか……。

「バイト代の半分を車に注ぎこんで毎晩通ってるわ。車もエアロつけていかつくなったし」
「……呆れてものもいえない」
「せ、生活費は入れてるだろ!?」

桐谷君が反論するもそれは徒労に終わる。

「そういう問題じゃない!片桐君の一件で懲りたと思ったら今度はお前か!」

亜依さんのお怒りもごもっともだ。

「二人共、考え方変えた方がいいよ?そんな危険な運転しててもし何かあった時の事考えたことある?冬夜君は言ってたよ。公道走るのは限界が低い」
「それは冬夜の領域に達してから言うセリフだろ?」
「片桐君の領域でも限界はあるっていうんだからあんた達はもっと低いはずでしょ!?」
「その領域に近づこうと努力してるだけですよ」
「二人共基本的な事忘れてませんか?」

一ノ瀬さんが一言言う。
皆は一ノ瀬さんを見る。
一ノ瀬さんは遠坂さんを見て言った。

「片桐君は普段は普通に走ってました。遠坂さんが安心できるように。山を走ってる時だって遠坂さんが心配しない運転をしています。『本気で走るときは助手席に誰も乗せない』?笑わせないでください」
「穂乃果、だから上手くなったら穂乃果を乗せようと」
「私は乗りたくありません。そんな自分の限度もわきまえない人の車なんかに。片桐君は良くも悪くも遠坂さんの制御下で行動してました。遠坂さんありきの運転なんです。基本が違います」

一ノ瀬さんがそう言うと二人共黙ってしまった。
まあ、事故ったら不運と踊ったじゃすまないからねえ。

「茂さんや檜山さんの事件でそういうのはもう渡辺班ではないと思ってたのに」

遠坂さんはそういう。

「どうしてみんな自分の彼女や妻を大事に出来ないんですか?なんで気持ちを分かってもらえないんですか?」
「……ごめん」
「……悪かった」

2人は謝る。

「こういう時は罰ゲームだね」

遠坂さんは言う。どんな罰ゲームを与えるつもりだい?

「まず中島君は~……」

中島君が遠坂さんを見る。

「合宿までに必ず一ノ瀬さんとデートする事。もし破ったら~……」

破ったら?

「合宿の時に2人で買い出ししてもらいま~す」

ああ、買い物デートしろってことだね?

「で、桐谷君もいっしょ、亜依とデートに行くこと。破ったら二人で買い出しだよ。もちろん二人共山に行くのは禁止で~す。代わりに良い物用意してあげるから」
「良い物って?」
「何かあるの?」

2人が聞く。僕も興味がある。

遠坂さんはスマホを操作するとその画面を僕達に見せた。

そこにはゲーム機のソフト。カーレースの奴だ。

「冬夜君と二人でたまにやってるの。楽しいよ」
「遠坂さん、ゲームと実写じゃ大きな違いが……」

遠坂さんはさらにスマホを操作する。

「本格的な運転を楽しみたいならこういうのもあるよ」

それはステアリングコントローラー。

「それでも加速するときのGとかは体感できない」
「文句は言わせないよ、二人が目標にしてる冬夜君はこれで走るのすっぱりやめたんだから。加速するときとかにぶるぶるって震えるし」
「遠坂さん俺そのゲーム機持ってない」
「僕ももってない」
「ちゃんと調べはついてるもん。山に行くガソリン代とか削ったら一月もあれば余裕で買えるよ」

毎日小遣い帳つけてるから調査済みです。と付け加えた。

「これならお家でデートとかでも二人で楽しめるからいいじゃない」

なるほどね、ゲームで誤魔化せか。上手い事考えたものだね。

「こういう時の愛莉冴えてるね」
「……それなら私も妥協はします」

2人の合意を得られた。

「わかったよ、早速買ってくる。穂乃果今夜家これるか?」
「いってもいいの?」
「ああ、早い方がいいだろ?」
「じゃあ、バイト終わったら電話する」
「ああ」

そう言って中島君は店を出ていった。

「瑛大……うちらも行くぞ」
「え?」
「バカが、余計な出費作らせやがって」
「いや、でも……?」
「毎月のお前の小遣いから差っ引くかからな」
「……わかった」

そう言って二人も出ていった。

「片桐君もそうやって調教していったわけ?」

晶ちゃんが聞く。

「うん、二人で楽しい罰ゲーム考えるの」

片桐君も苦労したんだろうなあ。

「確かにどっちも損はしないですよね」
「でしょ?」

一ノ瀬さんが感心してる。
その夜一ノ瀬さん達はゲームを楽しんだらしい。
桐谷夫妻も同様だった。

(5)

「春樹!いったいどういう事だ!?白鳥さんから全部聞いたぞ」

その日実家に呼び出された。話の内容は予想ついてたけど。

「話は全部聞いたんだろ。そういう事だよ」
「この馬鹿息子が……今すぐ白鳥さんに謝りに行くぞ」
「無駄だよ」
「なに?」
「春奈さんには俺が話をした。今さら無理だ」
「だから謝りに行くんだろうが!」

父さんは俺の腕を掴むと部屋を出ようとした。が、俺はその場を動かない。

「春樹!」
「くどい様だが俺に銀行を継ぐ意思はない!自分の将来は自分で決める!」
「そんな勝手な事許さんぞ!」
「今就活をしてる。大学卒業したら家を出る。咲良と一緒になるつもりだ!」
「貴様!!」

父さんの拳を躱すことなど造作もない。軽々と身を半身になって躱す。
尚も拳を振るおうとする父さんを止める母さん。

「春樹、子供みたいに駄々こねてないで父さんに謝りなさい」
「後を継がせて取引先のお嬢さんと政略結婚することの方が子供じみてると思うけどね。古臭い。馬鹿馬鹿しい」
「何を!?」
「あんたには世話になった。それは礼を言う。だが。それも今年までだ。そこから先は自由にいかせてもらう」
「貴様!今すぐこの家を出ていけ!お前とはもう絶縁だ……うっ!」

父さんは胸を押さえ苦しみだした。

「あなた!春樹机の引き出しの一番上に薬があるから取ってちょうだい!」

母さんの言われたとおりに薬と水を渡すと父さんに飲ませる。

「急に怒鳴るからですよ」

母さんが言う。

「……いつから患わってたんだ?」
「春樹と白鳥さんの縁談を持ち掛けれられた前からよ。でも春樹はまだ若い、後を継ぐにも後ろ盾が必要。万が一の考えて準備したの」

母さんが言う。

「春樹、お願いだから。咲良さんとは別れて頂戴。白鳥さんとやり直しておくれ」
「その話だったら私も混ぜてくれない?」
「涼夏?」

妹が現れた。

「私に丁度いい相手を探して欲しい。私が跡取りと縁組する。それで解決でしょ?」
「涼夏……いいのか?」
「春兄があんな顔私に見せるの初めて見た。二人の幸せを応援したい」
「無駄だ、白鳥さんを怒らせたら相手の持ち株は30%を超えてるんだ」
「白鳥さんには息子がいたはずよ。その人と……」
「だめだ、銀行を乗っ取られる!」

銀行っていったって地方銀行だろ?
乗っ取りなんてありえるのか?
後継ぎもあやしいもんだが。

「……白鳥さんの件は俺たちに任せてくれないか?」
「お前たち?」
「ああ、あんたが散々馬鹿にした仲間だ」
「……どうにかなるのか?」
「どうにかするらしい」
「……好きにしろ。お前が白鳥さんを断ったことでどのみち終わりなんだ」
「そうとも限らないさ」

父さんは何も言わずに寝室に向かった。

「春兄。大丈夫なの?」

涼夏が聞いた。

「あの人たちに不可能は無い」

そう言い切ったはみたものの、多少の不安はあった。

(6)

「なるほどね~。ゲームで説得とはね」
「うまく考えたでしょ?」
「ああ、愛莉らしいよ」

わ~い、冬夜君に褒められた。
その後は冬夜君の話を聞いていた。
相変わらずご飯の事ばかりだけど。

「練習上手くいってる」
「相手がプロだからね、いつもより手ごわいよ」
「でも試合相手もっとすごいんだよね」
「ああ、210㎝ある巨漢のセンターがいるらしいから」
「……勝てるよね?」
「勝たなきゃ、夢は終わってしまう」
「それもそうだね」

冬夜君の最後の難関アメリカには7フッターと言われる高身長のセンターがいるらしい。

「愛莉ごめんな」

ほえ?

「せっかくの休日を……」

毎晩電話かけてくれるだけで嬉しいよ。

「明後日試合後に帰るの?」
「そのつもりだけど」
「じゃあ、迎えに行くね?」
「駅前まではバスのチケット買ったから。美味しいもの食って帰ろう」
「冬夜君が勝ったらね」
「益々負けられないな」

本当は美味しい手料理用意してあげたかったのにな~。

「じゃあ、そろそろ寝るね。同室のマネが五月蠅いんだ」
「たいへんだね。でもゆっくり休んでね。夜更かししたら駄目だよ」
「分かったおやすみ」
「おやすみなさい」

そう言って電話を切るとメッセージが溜まってる……。
えっ。
檜山先輩の父親が倒れた?

「大丈夫なの?」
「ああ、でも重いらしい」
「治らないの?」
「薬で何とか抑えてる状態だ」

それで縁談急いだんだね。

「春樹~……心配じゃないの?」
「咲良が心配する事じゃない。俺がなんとかする」
「その縁談破談してよかったかもよ?」

恵美が言う。

「どういう事だ?」

檜山先輩が尋ねる。

「どうもこうも無いわ。白鳥ホールディングスかなり危険な状態よ。マスコミにリークしたら大事になる」
「それで自信があったんだな」
「ええ、大丈夫。ことは順調に運ぶから」
「ありがとう」

白鳥ホールディングスで検索かけてみた。
事業内容。決算の内容。良く分からないけどおかしな点はわからなかった。
白鳥さんは大丈夫なんだろうか?
皆が幸せになればいい。
そんな奇跡を叶えてくれる渡辺班を信じるしかなかった。
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