優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

上手く笑えてる?

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(1)

「うっす」
「ういーっす」

僕と佐(たすく)は2人こっそり抜け出して体育館に向かっていた。
やっぱりあると練習はしておきたくなるもの。
軽くジョギングして体育館に向かう。
体育館の鍵は開いてあった。
中に入るとコートをモップ掛けしてる佐倉さんの姿が。
佐倉さんが僕達に気づくと「おはようございます」と明るい声が。

「おはよう」
「おはよう、桜子」
「昨夜はちゃんと寝ましたか?」
「昨夜は話が盛り上がって寝れなかったよ」

佐が言う。
佐の意図はわかった。

「そうそう佐から聞いたよ。佐のパンツ洗う仲になってるんだって?」
「佐!片桐先輩に何吹き込んだの!?」

顔を真っ赤にして佐倉さんが怒ってる。

「事実を言っただけだぜ」
「言わなくてもいい事ってあるでしょ!」
「ただ『どこまで進んだ?』って聞かれたから正直に答えただけだ」
「黙秘権って言葉知らないんですか?」
「まあ、二人の仲はもう知れ渡ってるんだから隠すこともないだろ?」
「片桐先輩まで!」
「大丈夫だよ!桜子の黒子の位置まで把握してるとかは言ってないから」
「今言ってるじゃないですか!それ以上言ったら本気で怒りますよ!」
「わかったよ、ちょっと悪ふざけが過ぎたようだ。すまん」
「佐倉さんの黒子の位置までか、佐は凄いな」

僕でも愛莉の黒子の位置は把握してないぞ。

「あ、冬夜君おはよう。やっぱりここにいたんだね!」

愛莉が手を振ってる。

「愛莉おはよう」
「遠坂先輩聞いてください」
「佐倉さんどうしたの?」
「二人が……」

佐倉さんが愛莉に事情を説明する。
僕は余裕だった。愛莉の性格知ってるから。

「大丈夫だよ、私だって冬夜君のパンツ洗ってるよ」

ほらね?

「そういう問題じゃなくて」
「別に彼氏のパンツくらい洗うの普通じゃない?」
「わざわざ他人に言う事ですか?」
「きっと水島君も嬉しいんだよ。そんだけ仲がいいんだぞって自慢したかったんだよ。ね?水島君」
「そ、そうだな。嬉しいぞ桜子」

佐倉さんは言い返せなかった。
きっと喜んでるんだろう。
この手の話を愛莉にしても愛莉は動じない。
しかし誤算があった。

「私の黒子の位置まで興味を示すんですよ、片桐先輩」

待て、それは冗談で言っただけだ。本気じゃないぞ。ほら愛莉もそんな顔朝からしないでさ……。

ぽかっ

「冬夜君私の黒子の位置には興味示さないのに他人のには興味しめすわけ!?」
「ち、違う愛莉ただの冗談だって」
「朝から騒がしいな、どうしたんだ?」
「あら、愛莉。おはよう」

木元夫妻がやってきた。

「木元先輩も練習ですか?」
「ああ、二人ならきっとやってると思ってね」
「じゃあ、木元先輩も来たし練習さっさとやってしまおうか?時間も勿体ないし」
「そうだね、練習練習」
「うぅ……上手い事逃げたね」

シュート練習をしていたけど愛莉の視線が気になって仕方がない。
しょうがないなあ。ボールを持って愛莉のもとに近づく。

「どうしたの?」

愛莉に耳打ちする。

「帰ったらじっくり愛莉の黒子の位置確認するから」

ぽかっ

「今言う事じゃないでしょ!……馬鹿!」

言葉は怒っていたけど、愛莉の表情は笑っていた。
再びシュート練習に戻った

(2)

「あ、おはようございます」
「おはよう。早いね」
「椎名さんこそ」
「まあ、いびきが凄くてね」

通路でばったり出会った私たちは庭に散歩に行った。

「新名さんは去年もきたんだよね?」
「そうですよ」
「じゃあ、案内頼もうかな?」

お気に入りの散歩コースを歩く。
定期的に手入れされているのか、芝生や木々が綺麗だった。

「今日は何するの?」
「椎名さん初めてだったんですよね?」
「そうだけどどうして?」
「じゃあ、今日は覚悟しておいた方が良いですよ」
「なんで?」
「それは後のお楽しみで」
「?」

良く分かっていない椎名さん。
その余裕の笑みも今に消えますから?



厨房では女性陣が忙しなく動いていた。
朝ごはんの準備だ。
私も手伝うことにした?

「なんか生臭くないか?」

美嘉さんが言う。
きっとこれのせいだろう。

「これ入れたからかもですね」
「未来!これみそ汁の出汁だぞ!なんで生のイワシを入れてるんだ!?」
「え?だって魚介系の出汁がはやりなんでしょ?」
「だからって!生のイワシ入れるやつがどこにいるんだ?」

遠坂先輩がイワシを取りのぞいてお湯を捨てると再び寸胴をコンロの上に置き小さい鍋で水を入れていく。
水を入れ終えると遠坂先輩は切っていた具を入れて火にかける。
水が沸騰し、具材に火が通たら一度火を止め味噌をお玉で溶きながら入れていく。
そして再び火を通す。

「このお味噌出汁入りだから出汁を作る手間省けるんだよ~」

遠坂先輩そう言って笑う。
最後に煮えばなで葱を入れて火を止める。

「これでお味噌汁はOKと……」
「キャー!!海未ちゃん何やってるの!?」

咲さんの悲鳴が聞こえた。

「え?ご飯洗ってるんだけど?」
「それ無洗米だよ!洗わなくていいんだよ!ていうか漂白剤で洗っちゃダメ!!」

遠坂先輩が海未ちゃんのもとにむかうとコメを全て捨てて、炊飯器の器を良く洗い無洗米を計量カップではかっていれると。水を入れる。

「海未ちゃん、お米を研ぐのはね、コメ通しでこすって肌糠を取るためにやるんだよ」
「てか、二人共去年も恐ろしい発想してたけど料理したことあるのか!?」

美嘉さんが言うと私と海未ちゃんは首を振った。

「もう、そこで見てろ!!」
「ダメだよ美嘉さん。料理覚えようとしてるんだから最初から教えてあげなくちゃ。1からだから時間かかるかもしれないけど」

遠坂先輩が言う。

「二人は私が見てるから」
「じゃあ、愛莉に任せるか」
「海未は私が見るよ。愛莉一人で二人は大変だろうし。海未一緒にサラダ作ろう」

神奈先輩がそう言うと海未ちゃんを連れて行った。

「じゃ、私たちは卵料理つくろうか?皆卵料理は何がいいかな?」

遠坂先輩が男性陣に聞くとさっきのやり取りを聞いていたのだろう黙っている。

「TKGでいいかな?」と片桐先輩。
「お、俺達も茹で卵で良いかな~」と真鍋君が言った。

「……今朝は和食だし巻き卵にするね」

遠坂先輩は男性陣の意見を無視して玉子焼き用のフライパンとと容器と菜箸とかつお昆布だしとみりんと醤油を準備する。

「文句のある人は自分で作ろうね~」

遠坂先輩はそう言って卵を溶いて材料を混ぜていく。

「焼き方よく見ててね~」

熱したフライパンにサラダ油を流し卵液を広げていく。
そして上手に卵液を追加しながらだし巻き卵を形成する遠坂先輩。

「コツさえ覚えたら簡単だよ~」

そうして一個作り終えると、それを包丁で切り分け皿に盛る。

「あ、もう一個だけ作らせて~」

そう言って再びだし巻き卵を作る、遠坂先輩。
さっきと違うのは砂糖を少量入れていたことくらい。

「冬夜君はね、砂糖を入れる派なんだよね~」

楽しそうに料理する遠坂先輩。

「彼の事を想って作ればきっと喜んでくれる。冬夜君車のゲームで言ってた。『自分に合ったセッティングが必要』だって。きっと料理もそうだよ。基本さえ抑え得ておけば後は彼好みの味付け覚える事かな~」

遠坂先輩はきっと片桐先輩の好み網羅してるんだろうな~。

「私にもできるでしょうか?」
「大丈夫だよ~。きっと喜んでくれる」

遠坂先輩が作り終えると。

「じゃ、次は私手伝うから一緒に作ろう?」
「はい」

私はだし巻き卵に挑戦する。
男性陣も遠坂先輩の手つきに安心したのか安堵の表情を浮かべる。
だが、次の瞬間。男性陣が凍り付く。

「ダメだよ!チョコレートなんか入れたら!」
「え?甘い物なら何でも良いのでは?」
「チョコ混ぜるなら湯煎して溶かさないと」

あ、そっか。

形と色はは歪だけど一応だし巻き卵を作れた。
椎名さんの顔色が青ざめている気がするけど気のせいだよね。

「愛莉、教えるのも重要だけど早く作ってしまわないと男どもが腹空かせてるぞ」
「あ、そうだね。じゃ、急ごうか?」

私は卵液を作り、遠坂さんがそれを焼く。
それをひたすら繰り返した。

「海未!マヨネーズ入れ過ぎだ!!ジャガイモに下味付けてるからそんなに入れなくても大丈夫!」

海未ちゃんも苦戦してるようだった。
白鳥さんはというと……。

「白鳥何作ってるんだ?」

神奈先輩が言う。

「何って茹で卵作ってるんだけど。ゆで卵が良いって言ってる人もいるし」

だからって電子レンジで作ったら……。

バン!

玉子が破裂した。

「白鳥さん、ゆで卵を電子レンジで作るときはコツがあるんだよ?」

遠坂先輩がレンジを片付けながら白鳥さんに言ってた。
頭を抱える美嘉さん。
優しく見守ってくれる遠坂先輩。

これから料理の練習大変そうだ。

(3)

「ぐぁっ!」

バタン!

「どうしたもう終わりか!」
「まだまだっす……ってうわぁ!」

バタン!

私達は恵美さんのお世話係の新條さんに一方的に投げられてるだけの晴斗を見ていた。
こんなのただの公開処刑じゃない。
私はすっと立ち上がり新條さんに文句を言おうとすると、恵美さんが止めた。

「これでいいのよ。渡辺班流の男性の調教の仕方でね。皆通ってきた道なのよ。一人だけ例外がいるけどね」

そう言って恵美さんは片桐さんをちらりと見る。

「これで何が変わるというんですか?」
「そうね、気の持ちようが変わってくるわ。当然これだけじゃないから。軟弱な精神を叩きのめすためにまずこれを受けるの」
「はぁはぁ、どうした!?私はまだやれるぞ……」
「俺はもう無理っす……一歩も動けないっす」
「君はよくやった。私から言う事はもうない。ゆっくり休ませてもらえ」

ふらふらと私の側に近づいてくる晴斗。

「晴斗大丈夫。怪我とかしてない?」
「けがはないっす。からだ丈夫なのが取り柄なんで」
「少し休むと良いわ」

そう言って彼を膝枕してやる。

「うわ、気持ちいいっす。こんな経験初めてっす。嬉しいっす」
「相手、有段者なんですって。よく頑張ってた」
「カッコいいとこ見せたかったんすけどね」
「十分カッコよかったよ」

倒されても倒されても何度も挑むその姿に胸打たれないものがいるだろうか?
以前の私だったらそうでもなかったかもしれない。
今の私は彼の事を誇らしく思う。
こんなに勇敢な一面があったなんて。
私はどうしてあげたらいい?

「そんな顔しないで欲しいっす。笑ってる顔の方が数倍素敵っす」

晴斗はそう言う。
彼のそう言って笑う無邪気さに羨むくらいで。
私も笑って返してやりたい。
ねえ、私どんな顔してる?上手に笑えてる?

「その顔が素敵っす」
「ありがとう」
「さて次は誰だ!?確か椎名さんと言っていたか?あれ?失礼ですがおいくつですか?」
「27ですが」
「同い年か、じゃあ遠慮なくいきます」
「僕は遠慮してほしいんですけどね」

受け身の取り方を教えると投げ始める新條さん。
椎名さんの悲鳴が響き渡る。
そんな様子を私達は眺めている。
新條さんによる公開処刑が終わると。次はマナー講座。
これはカップルで行われる。
渡辺班の大半は去年受けているらしく、なれた所作で進んでいく。
晴斗はそういうのに慣れていないらしく、これでもかというくらいしごかれる!
理不尽すぎる指導に文句も言ってみたくなるが、晴斗は止める。

「これもいつか役に立つっす」
「君はまず喋り方からだな!」

言葉遣いにも指導を受ける晴斗。
一通り終わる頃には買い出しに行っていた中島さんと一ノ瀬さん、桐谷夫妻が帰ってきた。
昼食を作り出す。
昼食はカレーライスだという。

「未来!なんでもかんでもチョコレートを入れるのは止めろ!」

美嘉さんの指導が入る。
私ははちみつとリンゴを投入しようとすると遠坂さんに止められた。

「味付けは美嘉さんに任せて私達はサラダのドレッシング作ろうか?」

そう言って遠坂さんは材料をとってフードプロセッサで混ぜ合わせる。
それだけでドレッシングは出来上がる。

「簡単でしょ?白鳥さんもやってみて?」

遠坂さんの言われた通りやってみる。
簡単にできた。
海未さんも神奈さんの指導のもと上手くターメリックライスをを炊けてるみたいだ。
分量を間違えたせいで炊飯器が凄いことになってるけど。
それを美嘉さんが作ったカレーをよそってカレーライスの出来上がり。
新名さんも付け合わせのアチャールを作る。
こちらも神奈さんの指導で作ったもの。
後は皆が作ったフライドポテトと買ってきたヨーグルトを足して完成。
皆に配膳する。

「美味いっす!おかわり」
「僕もおかわり」
「先輩は3杯までです!」

佐倉さんが片桐さんに叱る。

「食事制限なんて、入院患者じゃないんだからさあ!」
「ダメです!月末の公式戦に備えて今から慣らしてもらいます。いや、普段の食生活を見直す必要があります」
「大丈夫だよ、普段は私が見張ってるから~」
「春奈!おかわりっす。まじうめーっす」

私はちょっとだけ大盛りでよそってあげる。
晴斗はそれをぺろりとたいらげる。

「もっと食いたいけど片桐先輩に悪いっすからやめとくっす」
「おかわりしたくてももう残ってないわ」
「そうなんすね!」

食後の片づけは男性陣も手伝ってくれる。
皆でわいわいやりながら後片付け。

「今度は春奈の手作りのカレーも食べてみたいっす」
「いいわよ、練習しておく」
「っしゃあ!」

ネットでカレーの作り方を後で調べていた。

(4)

私達は車でスーパーまで買い出しに行く。
買い出し班は4人。
私と中島君、桐谷夫妻。
結局罰ゲームを受けた。
理由は、来る途中に無謀な運転をしたから。

「それだったら誠達だって同罪だろ?」

桐谷君がそう言うと、渡辺君は頭をぽんと叩く。
話はメッセージで見た。罰ゲームはお前たち4人だけだろ?
しかしこの二人懲りるという事を知らない。
むやみに桐谷君を煽る中島君。
桐谷君は対抗してスピードをあげる。

「そうこなくちゃな」

中島君は加速する。

「やめてください!また罰ゲームですよ!」

もう遅いけど、渡辺班には報告済み。

「俺は罰ゲームでも構わないぜ。また、穂乃果と買い出しに行けるんだろ?」

反省の色が見えない。

「片桐君は彼女を乗せて無謀な運転はしないって言ったはずですよ」
「ちゃんと安全考えてるよ」
「遠坂さんは言ってました。遠坂さんは恐怖を覚えた感じは一度もない、一般道で飛ばしたりしないって。私は今怖い」
「でも負けるのは癪だろ」
「煽った中島君が悪いんでしょ」
「……分かったよ」

中島君はスピードを緩めた。
桐谷君の黄色いスポーツカーは先へと進んでいく。
あっという間に見えなくなった。
スーパーに着くと桐谷君が得意気に言った。

「どうして途中で勝負逃げたんだよ!?僕の方が早いと思ったから?」
「お前、罰ゲームの内容わすれたのか?」

亜依さんが怒ってる。

「大丈夫だよ、俺のFCが行けると教えてくれる……いてぇっ」
「ふざけるな!一緒に乗る身にもなれ!」
「と、とりあえず買い出し行こうぜ」

中島君が言うとスーパーに入る。
案の定肉とお菓子それに飲み物ばかりかごに入れる。

「穂乃果?米ってまだあったっけ?」
「まだ十分あったと思うけど」
「それなら後は野菜か」
「魚も買っておいた方が良いんじゃない?」
「明日の朝はパン食にするか?」

そんな事を亜依と話しながらカゴに入れていく。
一通り買い物を済ますと別荘に帰る。
私の提案で先に私たちが行くことにした。
後からついてくる桐谷君の車。
案の定対向車線に出て抜きにかかろうとする。
私は中島君を見る。
中島君はルームみーらを見ずに運転する。

「俺だって馬鹿じゃねーよ」

分かってくれた。

「馬力のある車に上りで仕掛けるような真似はしない」

全然分かってくれてなかった。
そういう問題じゃないのに……。

帰ると荷物を下ろすときに遠坂さんに相談する。

「後でみんなで考えよう?」

遠坂さんはそう言ってくれた。
治ってくれるのだろうか?


昼ごはんを食べ終えると皆で会議室に集まった。

「今日のお題は車で無茶な運転をする人についてです。走り屋に女はいらねえとか言い出したら怒るからね」

遠坂さんがそう言う。

「ゲームで解決したんじゃなかったのか?」

片桐君がそう言う。

「相変わらず懲りないみたいだよ」
「うーん……誠もなの?」
「そうみたい」
「なるほどねえ」

2人が話しあってる。

中島君と桐谷君、そして多田君はただじっと聞いてる。

「車を買い替えた方がいいんじゃないか?」

美嘉さんが言うと皆が賛同した。

「多分意味ないよ」

片桐君は否定する。

「じゃあ、どうしたらいいの?」
「やっぱりサーキットに定期的に行くことかな、それもスピードに取りつかれた3人には意味無いか」

片桐君は悩んでいる。
そして口を開いた。

「なあ、誠。お前ピッチにいる時どのくらい状況を把握できる?」
「そうだなボールの位置と味方と敵のポジショニングくらいか?」
「もし海外みたいに発煙筒を持った男が乱入して来たらプレイ続行できるか?」
「まあ、プレイは止まるな」
「だろ?」

片桐君はくすりと笑う。

「公道を走るってそういう事だよ。信号、道路の混雑状況、歩道に人がいるかどうか、車の陰に人がいないか?横に2輪が走っていないか、挙げだしたらキリがないくらいの状況を瞬時に把握しないといけない。スピードが上がれば上がるほどそれはシビアになる」
「……冬夜はそれを出来てるのか?」
「無理だね。だから街中では飛ばさない。山道も一緒だよ?車のコンディション、路面の状態、対向車の有無。色んな状況を瞬時に把握しないといけない。飛行機のコクピットにはそれを瞬時に把握できる様になってる。飛行時間も関係するらしいよ」
「でも冬夜は飛ばしてただろ?」
「愛莉には悪かったと思うけど、愛莉を安全弁にしてた。愛莉が怖いと思うような運転は避けてた。それでも事故の危険が無いとは言いきれないよ。そう断言する自信は無かった」

片桐君の言葉には説得力がある。
それでも間違いがあるかもしれないと認めたから走ることから身を引いたのだと。

「誠だってサッカー選手だろ?怪我して一生を棒に振るような真似はよした方が良い。カンナだって悲しむ」
「……お前に言われると返す言葉が無ないよ」
「桐谷君だって、亜依さんを支えて行かなきゃいけないんだろ?亜依さんだってああは言ってるけど純粋に桐谷君の心配してるだけだよ。事故してからじゃ遅いんだよ?」
「……わかったよ」
「中島君だってサッカー選手だ。自分の体が資本なんだと自覚した方が良い。人の事言えないけどね。中島君や桐谷君の車は僕の車より山道に向いてる。でも今言った情報を常に把握しながら運転できる?」
「ちょっと無理かな」
「愛莉はこう言ってくれた、助手席に座ってのんびりドライブしてお話してるのが一番楽しいって。車の楽しみ方って一つじゃないんだって気づかされたよ」
「言いたい事は分かった」
「それなら私からも言わせてください」

白鳥さんが何か言いたげだ。

「晴斗見かけによらず私を気遣った運転してくれるの。とても丁寧な運転。彼は言っていた。どんなに飛ばしても信号で必ず追いつかれるんだから意味がない。マイペースが一番なんだって」
「晴斗の車は飛ばすように作られてないしな」

神奈さんが言う。

「それなら~私も神奈さんと話したことがあります~。どうして男は無謀な運転をしたがるのだろう?って~。神奈さんは言いました~。『スピードの向こう側』ってのに憧れてるんだって~。……ありもしないのに、考えることが子供過ぎるわ」

咲良さんが言う。

「言っとくけど彼女を乗せてなかったら無謀な運転して良いって話じゃないからな?常に心配されてるんだって意識もてよ」

神奈さんが言う。

3人は「分かった。もうしないよ」と言う。

「罰ゲームは明日の買い出しはお前ら3人な」と美嘉さんが言う。

もちろん私達を乗せて本当に分かってるのか試すのだという。
男はハンドルを握ると人が変わるという。
本当に分かってるのか確認する必要がある。

「そろそろ休憩して晩飯の準備にするか?」

渡辺君が言うと皆会議室をあとにする。

「穂乃果済まなかった。今度は真面目に反省してるから」

中島君が言う。

「明日確認するからわすれないでね」
「分かってるよ」
「ならよしっ。少し二人でお話ししよう?」

そう言って会議室から出る。
皆が上手く笑えるような環境になればいい。
そう願った。

(5)

「うん、これが美味しいんだよね~」

僕はスナック菓子を手に取るとカゴに入れる。

「ねえ冬夜君」
「なんだい?」

因みに僕達はスーパーに買い物に来ている。
ついでに愛莉たちの好きそうな甘いパンや洋菓子も買っていた。
後は飲み物追加かな?

「どうしてまた買い物に来たの?」
「何って今夜は足りないと思ったから?」

昨日足りなかったしね?

「そんなに大量に買っても残したら意味ないよ?」

愛莉が言う。
レジに持っていって会計を済ませるとエコバッグに詰める。
入り切れない分はレジ袋に入れる。
そして買い物を済ませると両手に袋を持って車に向かう。

「うぅ……冬夜君の考えてる事が解んない。いい加減教えてよ」
「愛莉がいつも思ってる事だよ?」
「ほえ?」

愛莉がいつも言ってただろ?

「愛莉は僕との時間が欲しい。でも最近バスケで時間取れなかったろ?これからも旅行に行ったりはできなくなるかもしれない」
「それはしょうがないって諦めてる」
「だから僕が愛莉に出来る精一杯の事。何気ない日常を二人で過ごしたい。買い物はその口実」
「……」
「李相佰杯終わったらデートしようか?たまには普通にドライブでもいいだろ?最近してないし」
「春季大会あるよ?」
「あ、じゃあそれが終わったら……」
「ユニバーシアードの準備しなきゃ。その後はアジア選手権」

愛莉は次々と僕のスケジュールを教えてくれる。

「……冬まで無理かな?」
「でも、一日くらい休んだっていいよね?」
「え?」
「冬夜君もメンテしなくちゃ。労わってあげなくちゃね?」

愛莉は笑っていた。

「私今上手く笑えてる?」

涙交じりの笑顔。

「ああ、上手く笑えてるよ」
「冬夜君も安全運転してね」
「今もしてるよ」
「もっと安全運転して!」

愛莉が思ってる事よくわかるよ。
アクセルペダルを踏む足を少し緩める。
ノロノロ運転だけど後ろから来た車に道を譲りながらゆっくりと進んでいく。
回り道も寄り道もしできないけど、ゆっくり確実に進んでいった。
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