優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

交渉

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(1)

今日は雨だった。
ジョギングは出来ないな。
昨夜も遅くて愛莉はまだ眠ってる。
起こすのは可哀そうだな。
このまま寝せておいてあげようか。
僕は上身を起こすと、ベッドから出る。
愛莉は気づく事無く眠ってる。
この時間だとまだテレビもやってないし。テレビの音で起こしちゃうのも悪いし。
こういう時は携帯ゲーム機便利だよね。
まだやりかけだったRPGがある。
それをやろう。
のんびりやっていると後ろから愛莉が抱きついてくる。
あれ?音出してないのに気づかれた?

「ごめん、起こしちゃった?」
「そうじゃなくて~」
「?」
「もう、昨日の優しさはどこに行っちゃったの?」
「優しく寝せておいてあげようと思ったんだけど?」
「そうじゃないでしょ!」

愛莉は僕をきつく抱きしめる。

「『おはよう愛莉』ってぎゅーって抱きしめてくれるの待ってたのに!」

て、事は起きてたのね。

「ごめんごめん」

愛莉の頭を優しく撫でてやる。

「今からでも遅くないんだよ?ほら、早く早く!」

愛莉に向き合うと愛莉を抱きしめる。

「おはよう愛莉」
「おはよう冬夜君」

スキンシップを堪能させてやるとゲーム再開。

「それってテレビに接続で切るやつでしょ?やってやって!」
「それなら他のゲームでもいいんじゃない?」
「どうして?」
「二人でやったほうが楽しいだろ?」
「そうだね!どれにしようかな~?」

そう言ってテレビの下のラックを漁る愛莉。
お尻をこっちにむけて四つん這いになっている。
突き出されたおしりは程よい大きさで形もいい。
健全な男子ならわかるよね?
昨日愛莉の黒子の位置を把握するくらい見てたんだから、愛莉の裸が容易に想像できてしまう。

「愛莉!!」
「きゃっ!」

愛莉を後ろから抱きしめる僕。

「どうしたの冬夜君、突然」
「あ、ごめん。ちょっと……」

衝動的にとはいえついやってしまった。

「愛莉の姿見てたらついやってしまった」
「……それってつまり……」
「うん、愛莉に魅了されちゃった」
「わ~い」

愛莉の方から抱き着いてくる。

「私冬夜君が相手だったらいつでもいいよ」

あ、いや。今はほら親も寝てるし。

「防音工事してくれたから平気だって麻耶さん言ってたよ!」
「あ、いや。夜の楽しみにとっておこう?」
「う~ん……じゃあ!」

愛莉は僕をベッドに誘導する。

「お布団の中でいちゃいちゃするのはだめ?」

愛莉はどうも僕を侮ってるらしい。
愛莉がそんな顔で「だめ?」なんて言われたら「だめ」って言える男の数の方が気になるぞ。

「しょうがないなぁ」

僕はベッドに入ると愛莉を抱きしめる。

「冬夜君キスして」

そうやってハードルを上げるつもりなんだろ?
……いいよ、この際流れに乗っちゃえ。
目を閉じて愛莉の顔に接近する。

ガチャ。

隣の親の寝室のドアが開く音がした。
咄嗟に反応して愛莉の体から離れる。

「びっくりしたな」
「隠れてやるものじゃないね」

そう言って二人で笑っていた。

「じゃ、やりなおそっか」
「それは嬉しいんだけど~……」

愛莉が時計を指す。
もうこんな時間たってたのか。

「夜楽しみにしてるね♪」

今夜も夜更かしかな。

愛莉が朝食の準備をしてる間に仕度を済ませてしまう。
着替え終わった頃には朝食がテーブルに並んでいる。
4人揃って朝食を食べる。
食べ終えるとキッチンに食器を持って行って。部屋に戻る。
しばらくすると愛莉が戻ってきて、着替え始める。
愛莉の綺麗な曲線美が目の前にある。
愛莉に怒られて以来気にしない様にしていたが、昨日の件があって気にせずにいられない。
愛莉は僕の視線に気がついたのか、気まずい表情に気づいたのか知らないけど声をかけてきた。

「どうしたの?」
「あ、いや。特に何もないよ」
「そう?」

不思議そうな顔をする愛莉。
とにかく服を着てくれ。
愛莉は着替え終えると僕の隣でカフェオレをのんでいる。
カフェオレを飲み終える頃には僕もコーヒーを飲んでいて愛莉がキッチンにコップを持って行く。
そして戻ってくると化粧を始める。
化粧が上達したのかわからないけど、化粧にかかる時間が長くなってきた。
そんなに化粧しなくても十分可愛いと思うんだけどな。
化粧が終ると、愛莉はまた隣に座って。テレビを見ている。
愛莉の横顔が気になる。
化粧の効果はあるようだ。
今日は香水もつけてるらしい。
愛莉の艶のある唇に見とれていると、ついまた劣情を催してしまう。
愛莉は僕の視線に気づく。

「だめだよ、冬夜君。朝からだめって言ったの冬夜君だよ?」

そんなの関係ない!
愛莉の体に腕を回す。
視線は愛莉の目から逸らさずに。
愛莉は僕の視線に心を奪われたのだろうか。
身体を僕に預け目を閉じる。
そして……。

スマホの着信音が鳴った。
僕と愛莉のスマホ同時にだ。
二人で慌ててスマホを見る。

「今日の交渉の事で昼に打ち合わせがしたい」

すっかり忘れてた。

「分かった」

そう送る。
すると時間を見るとそろそろ出ないといけない。

「愛莉行くよ」
「うぅ……朝もそうだけど、期待させるだけさせといてズルいよ冬夜君は」

愛莉は若干拗ねてるようだ。

「愛莉立って」
「ほえ?」

愛莉が言われるがまま立ち上がると、僕は愛莉を抱きしめる。

「今度は邪魔入らないよね?」
「そう祈るよ」

愛莉と濃厚なキスを楽しむ。
ちょっと長めのキス。
お互いの舌を絡め合いながら。
愛莉の僕を抱きしめる力が強くなる、
今日学校サボろうかな?

コンコン

「冬夜いい加減でないと遅れちゃうんじゃないかい?」

母さんだ。

「もう出るよ!」

そう言って愛莉から離れる。

「やっぱり夜とかじゃないとダメなのかな~」

愛莉が悩んでる。

「2人っきりの時ならいつでもできるよ」
「……うん♪」

そうして僕達は家を出る。



2限目が終わって昼休みになると学食で渡辺君たちと話しあい。

「どういう交渉になると思う?」

渡辺君が聞いてくる。

「多分渡辺君が考えてる通りのものだと思うけど?」

当然ウィザードと一ノ瀬さんの交換。
そう考えるのが普通でしょ?

「しかしお前たちの言っていた言葉が気になってな」

わざと情報を提供しているように思えてならない。

「だとすれば何か罠があってもおかしくないと?」

僕がそう言うと渡辺君が頷いた。

「お前はどう交渉するつもりなのか聞いておきたくてな?」

突拍子もない事言いだして俺達が動揺したら相手に見抜かれてしまう。
なるほどね。

「普通に交渉するつもりだよ?」
「普通とは?」

渡辺君が聞き返してきた。

「そのまんまだよ。とにかく時間を稼ぐ。晶さん達が一ノ瀬さん達を無事救出したら強気の攻勢にでるつもり」
「ウィザードさんは返しちゃうの?」

愛莉が不安そうに聞いてきた。

「彼の身の安全を保障されるならね」
「そんなの保証できるわけないじゃん」
「だろうね。問題はそこじゃない。一ノ瀬さんがいなかったら交渉の材料がない。そこで彼らがどんな取引材料を用意してくるかだよ」
「なるほどな……」
「そればっかりは相手にしか分からない。出たとこ勝負だよ」
「交渉の自信はあるのか?」
「あるね。だってこっちは交渉が決裂しても何もダメージが無いんだ。気楽なもんだよ」
「それもそうだな」
「要は作戦が遂行されるまで時間を稼ぐこと。晶さん達がそのウォーロックって相手に気づかれる前に救出できるか?ってこと。アドバンテージはこっちにある。こっちが穂乃果さんの所在を突き止めてるって事を相手が把握してない事前提だけど」
「把握してたら?」
「作戦は失敗するだろうね。その時は普通に交渉に応じるしか手が無い」
「わかった。……じゃあそれでいこう」

渡辺君は席を立つ。

「愛莉もだけど絶対に余裕を見せちゃだめだよ。気取られる可能性がある」
「分かった」
「待ってくれ」

側で聞いていたカンナが何か言いたそうだ。

「誠からの伝言だ。『安心していい。サーバーにも皆のスマホにもハッキングされた形跡はない』ってさ」
「ありがとう」

って待てよ。

「なんでみんなのスマホの事まで知ってるんだ?」
「私も問い詰めたよ。セキュリティと一緒にアクセスログを送信するウィルスを送信しておいたって。あの馬鹿……」
「まあ、誠の管理下にあるなら問題ないさ」

誠サッカー以外でも飯食っていけるんじゃないか?

(2)

14:30分。

僕達は山奥の集落に来ていた。
そこに穂乃果さんが拉致されている建屋があるらしい。

「こちらアルファ1、デルタ1応答願います」
「こちらデルタ1感度良好です」

恵美と晶さんの「兵隊」の混成チームは4つに分かれている。

アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ。の4つ。
アルファが指揮系統、ブラボー、チャーリー、が実働部隊。デルタは諜報・索敵を担当する。
指揮系統、諜報索敵は恵美の部隊。実働部隊は晶さんの部隊。
でかいバンの後部座席にブラボー、チャーリーが待機している。

兵隊というよりは軍隊の感じ。
特に晶さんの実働部隊はどう見ても外人だ。
僕の太腿くらいある腕の太さにいかついタトゥを入れたりしてる。
しっかりドッグタグもつけてある。
はた目から見たらサバゲー同好会。
寧ろそうあって欲しい。
手に持ってるアサルトライフルがモデルガンであって欲しい。
ていうかよくそんなの持ち込めたね。
まさかRPGなんて持ち込んでいないだろうね。
いくらなんでも捕まるよ。
いくらなんでも日本にそんなの持ち込めないって?
今僕達の上空を飛んでる無人偵察機を見てから言ってくれ……。

「どうしたの望?今さらビビってる?」

恵美が聞く。
ある意味ビビってるよ。

「どうして無人偵察機なんてもちだしたの?」
「ドローンだと目立つでしょ?」

プレデターの方が余程目立つと思うけど。

「アルファ1よりデルタ1敵の配置状況を知らせてくれ」
「こちらデルタ1、大丈夫だ。目的の周りに人影はいない」
「それじゃ、みんな時刻合わせを1450に3,2,1,0」

皆が時刻を合わせる。

「これより10分後に作戦を始める、皆配置についてくれ。デルタ2からデルタ3は目標の確認を。」
「こちらデルタ2カーテンがしてあって中が分からない」
「こちらデルタ3、GPSの位置は移動していない」
「了解、作戦開始まであと5分」
「こちらブラボー表玄関は抑えた」
「こちらチャーリー、裏口も抑えた」

作戦開始まであと1分。
ブラボーチームは入り口に張っている。

「こちらブラボー突入を開始する」

ドアに何かを張り付ける。
C4爆弾だ、そんなのどこで買ってきたの?
世紀末じゃないんだしコンビニじゃ売ってないよ?

ドアを爆破すると。中に何かを投げ込む。スタングレネードだ。閃光が室内から漏れる。
ブラボーチームが中に突入する。
銃弾がBB弾であることを祈るよ。それ以外の選択肢は……ないよね?
だが一発の銃声も発する事無く……そんなわけが無かった。
何発か発砲される。
相手も発砲したようだ。
だが数分も立たないうちにアジトは取り押さえられ、占拠する。
中島君が飛び出す。

「穂乃果!」
「隆司君!」

二人は感動の再会を果たす。
ハリウッド映画ではよくあるシーンだね。
二人はしっかり抱擁する。

晶さんと恵美が付近の住民に「映画の撮影」だと説明する。住民は納得したようだ。それでいいの住民。
まあ、しかりと晶さんと恵美から何かを握らされていたので納得した。

「望。酒井君に連絡を」

あ、そうだ。
慌てて酒井君に連絡を入れる。

「エゴイストの連中はどうするの?」

恵美に聞いていた。

「そうね、どうすればいいかしら?」
「警察に突き出すと私達にも都合が悪いわね」
「渡辺君の指示があるまでこのまま拘留しましょうか?」
「そうね」

恵美と晶さんが相談している。

「ありがとうございます、皆さん」

一ノ瀬さんが礼を言う。

「いいのよ、悪いのはこいつらなんだし。なんか変な事されなかった?」
「女の子が現れて、私のブラを持って行きました」
「なんですって?」

不可解な行動を取るエゴイストの連中。
多分映像からしてポープと呼ばれている連中の事だろう?
タブレットを見せて確認すると「この子です」といった。
取りあえずこっちの作戦は成功した。
あとは片桐君たちの交渉次第だ。
何事もなければいいけど。
無事を祈った。

(3)

15時きっかりにその3人は現れた。
黒いパーカーを着た男二人にグレーのパーカーを着た少年が一人。

「いらっしゃいませお客様」
「君が酒井君?僕はウォーロックだけど、3人は来ているのかな?」
「……こちらのテーブルにどうぞ」

酒井君が案内すると、僕達は立ち上がる。

「君がウォーロック?随分と若いんだね?」

わざとらしく、驚いてみせた。

「びっくりしたかい?まあ掛けてよ」

そう言って僕達に座るように促す。

「さてと注文はコーヒー3つと……君のそれ美味しそうだね」
「ここのナポリタンは美味しいよ」
「じゃあそれを一つもらおうかな」
「かしこまりました」

ウォーロックの注文を確認すると酒井君は厨房に戻る。

「じゃ、さっそく交渉に入ろうか?ここなら君たちの領域だ。誰に聞かれても問題ないだろ?」
「そうだね、じゃあさっそく聞きたい。穂乃果は無事なのかい?」
「無事だよ、今のところはね」
「君たちが穂乃果の身柄を預かっている証拠が欲しい」
「ああ、そう言うと思って証拠を持ってきたよ」

ウォーロックは黒いパーカーの男に指示すると男は紙袋を出した。

「中身確認してよ」

ウォーロックがそう言うと、僕は中身を確認する。

愛莉が声を出した。

中味はサイズの大きなブラジャーだった。

「それで確認できるでしょ?」

愛莉にブラジャーを渡す。

「あ、これ穂乃果のだ」
「なんでわかるの?」
「穂乃果の香水の匂いが残ってる」

そんなもんなのかな?
僕もにおいを嗅いでみる。
わかんないな。

ぽかっ

「冬夜君が分からなくてもいいの!」

するとウォーロックは笑った。

「敵の前で名乗っちゃいけないでしょ。遠坂愛莉さん」

愛莉は口を押える。

「まあ、分かっているけどね、君が片桐冬夜君で彼女が遠坂愛莉さん、そして渡辺正志君かな?」

まあそのくらいは想定の範囲内だ。

「それで取引の材料は?」
「ウィザードの身柄の引き渡し後もう一つお願いがあるんだけど」
「お客様、お冷のおかわりは必要ありませんか?」

酒井君が言った。
ああ、作戦成功したんだね。
僕達は平静を装って「要らないよ」と断った。

「本当にナポリタン美味しいね」

呑気にウォーロックは食べてる。

「もう一つのお願いって?」
「君たちの縁結びの力を借りたい」
「え?」
「うちのサークルの女性を一人預けたいんだけど?」
「人質交換ってことか?」

渡辺君が言った。

「そう言いたいところだけどね、残念だけど末端の一人なんだ。交換の対象にはならないでしょ」

ウォーロックは否定する。

「穂乃果さん一人の為に二つの条件って虫が良すぎない?」

僕が言った。

「じゃあ、君たちからの条件を飲もうじゃないか」

まだ余裕があるみたいだ。

「そもそも引き換えの条件が悪すぎるんだけど。ウィザード一人を渡すのに穂乃果一人じゃ割にあわない」
「冬夜君、それはいくらなんでも酷いよ」

愛莉が予定通りの行動に出る。

「俺もそう思うな。穂乃果は大切な仲間だ。その言い方はないと思う」
「でもウィザードも貴重な情報源だ。簡単に渡せない」
「ウィザードから必要な情報はすべて聞いたろ?」

渡辺君と言い合いを始める。
それを見て、ウォーロックは笑った。

「交渉の最中に言い争いかい?君たちの意思統一は思ったほどでもないらしいね。それとも……」

それとも……?

「こちらの取引材料を奪われちゃったかな?」

その一言に渡辺君と愛莉が反応してしまった。
それを見てウォーロックは満足気に笑う。

「図星だったみたいだね」
「……分かってるなら交渉決裂だね。これ以上話しても時間の無駄だ」

僕が言うとウォーロックは動ずることなく言う。

「君たちにとってウィザードはもう用済みだろ?こっちはまだ取引材料はあるよ?」
「へえ、なにがあるんだい?」
「君たちがこの条件をのんでくれたら以後もう拉致なんて真似はしない、僕の名前にかけて約束するよ」
「それって保証できるの?」
「信じてもらうしかないな。君たちも怯えて暮らすのは嫌だろう?」
「もし破ったらどうする?」
「君、やるね?交渉とか得意そうだ?心を読むのが得意なんだっけ?」
「質問の答えは?」
「どうやったら信じてもらえる?」
「君たちを信じるつもりが毛頭ないからその質問は無駄だね」
「君なら話がわかるとおもったんだけどね」

ウォーロックの表情が険しくなる。
やっぱりまだ子供だな。

焦り。

しっかりとその感情が浮き彫りになttる。

「それじゃ君たちの要望聞こうじゃないか」
「それは僕一人の一存じゃ決められないかな」
「じゃ、また出直してくるよ。その時までに考えておいて」
「ああ、分かった」
「それじゃ、またね。中々面白い交渉だったよ。君とはまた話がしたいな」
「時がくればまたあるさ」
「楽しみにしてるよ。片桐冬夜君」

そう言って店を出ていった。
彼は店を出ると爪を噛んでいた。

「なかなかおもしろいじゃないか……」

ウォーロックは憎々し気に言っていた。

(4)

その日の夜皆でまたファミレスで集まった。

「穂乃果!よかったな!」
「本当に皆さんご迷惑をおかけしました!」
「まだ終わったわけじゃないから油断しないでね」

カンナと一ノ瀬さんと恵美さんが言ってる。

「冬夜の交渉も見事だった。俺達が足を引っ張ったみたいだったが」
「まあ、一ノ瀬さん奪還がバレてしまったのは痛かったかな?」

其れさえなければもうちょっと遊べただろうけど。

「冬夜君すごいね。本当に強気で動じることなく交渉してた」

愛莉がそう評する。

「で、冬夜。相手の心は読めたのか?」

渡辺君が聞いてくる。

「最後にちょっと焦ってるのは分かったかな?」
「その程度しかわからなかったって事か?」

誠が言う。

「うん、彼かなりのやり手だよ。一ノ瀬さん奪還されるまでは全く意図が分からなかったし」
「じゃあ、今後の動きに要注意だな」
「とりあえず一人出の行動は極力避けた方がいい。彼ら何してくるか分からないから」

僕が言うと皆うなずいた。

「誠は相手の動き監視してて、部活と両立で大変だろうけど」
「まかせとけ」
「監視なら私もするわ、誠君に大体の事は聞いたから……あとゴッドの洗いだしね」
「うん、任せるよ……」
「冬夜君?まだ気になることあるの?」

愛莉は僕の考える事には敏感なんだな?

「……まだ取引材料は幾らでもあるって言うのが気になってね」

彼もまだ最後の切り札を切ってないみたいだ。
僕達を揺るがすほどの奥の手。
よく考えろ、冷静に……。
僕のバスケの人生と恵美さんと晶さんの企業へのダメージ。
美嘉さんの両親のスキャンダル。
誠のサッカー人生。
僕達の結束を覆すものの何かか……。

「片桐さん」

白鳥さんが飴玉を差し出した。

「これ噛んでみてください」
「噛むの?」
「はい、思考が落ち着くから」

言われたとおりに飴玉を噛んでみる。

カリッ、ガリガリ……。

……なるほど。思考が纏まっていく。

「白鳥さんありがとう」
「いえ、これくらいしか手伝えること無いから」
「それで何か思いついたの?」

恵美さんが聞いてくる。
恵美さんの顔を見て言う

「恵美さん次の取材はいつ?」
「いつでもいいって言ってたけど?」
「じゃあ、週末に設定してよ。ちょうど僕の祝勝会やってくれるんだろ?」
「いいけど?……それでどうするつもり?」
「メンバー全員集める」
「……言ってる意味がわからないんだけど」
「誠。一つ頼まれて欲しいんだけど?」
「なんだ?」
「あのさ……」
「はあ?そんなことして何の得があるんだよ!?」
「相手の交渉手段をこっちから引きずり出してやる」
「それってこっちにもダメージあるんじゃね?」
「この前みたいに開き直ればいいだろ?」
「冬夜は相手に一切の取引材料を潰すわけだな」
「そうだね」

渡辺君の質問に答えた。
向こうの手が見えないなら引きずり出してやればいい。

「それじゃ、ユニティのサイトと暴露サイト更新する」

誠が言う。

「頼む。恵美さんはマスコミへのリークを」
「お安い御用だけどいいのね?あなたのユニバーシアードの夢潰えるかもしれないわよ?」
「同じ事だよ、それをネタに利用されるくらいならこっちから切るさ」
「こっちから切るってことは奥の手があるんだな?」
「そう思わせるのさ」

誠が聞くと僕が答えた。

「俺達にも何か協力できることないですか?」

檜山先輩と木元先輩、真鍋君と椎名さんが聞いてきた。

「今は無いです。精々飲み会に参加してくれる事くらい」
「そのくらいならお安い御用だ」
「でも片桐先輩~……本当は奥の手用意してるんじゃない?」
「まあね、凄くシンプルな事だけど。それを匂わせることくらいはするさ」
「冬夜の思考がかたまったところで今日も遅い。そろそろ帰ろうか?皆気をつけて帰ってくれ」

そう言うと皆解散した。



「うぅ……」

愛莉が唸っている。

「どうした愛莉?」
「本気でやるつもりなの?」
「愛莉の望みが叶っていいじゃないか?」
「でも冬夜君の足かせになっちゃいそうで」
「愛莉を重荷に感じたことはないよ」
「それはわかってるんだけど」

愛莉の頭を撫でてやる。

「今日は早く帰らないとな」
「なんで?」
「愛莉との朝の約束まだ果たしてない」
「ほえ?」
「続きは夜って言ったろ」

ぽかっ

「今それどころじゃないでしょ!?」
「そうだな、言い方が悪かった」
「?」
「僕がしたいんだ。愛莉と」
「……しょうがないなあ」

愛莉が微笑む。
そんな愛莉の愛らしい微笑みが、唯一の不安を取り除いてくれた。
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