優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

塔が崩れる時

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(1)

「冬夜君おかえり~」

陽が沈む頃、辺りが暗くなってきたころに冬夜君達を乗せたバスが戻ってきた。
冬夜君が降りると私はすぐに冬夜君に飛びついていた。
周りの人が冷やかすがそんなのどうでもいいもん。

「愛莉、ここだと皆の邪魔だから」と、冬夜君はバスから少し離れたところで私を抱きしめる。

「怪我無いかい?」
「うん、でも……」

皇帝さん達を奪われた上に亜依まで攫われるという失態。
冬夜君が一生懸命考えた作戦もすべて台無しになった。

「お疲れ冬夜」

渡辺君と石原夫妻、酒井夫妻が出迎える。

「3部昇格おめでとう」
「ありがとう、皆揃ってるって事は……」

冬夜君が言いかけると渡辺君は首を振る。

「何も進捗が無い。それでお前の知恵を授かりたくてな」
「じゃあ、いつものファミレスで」
「ああ、そうだな」

帰ったばかりで疲れてるのに、ごめんね冬夜君。
ファミレスに集まった皆は意気消沈していた。
そんな中冬夜君はいつも通りのメニューを注文する。

「話には聞いていたけど君はどんな時でもマイペースだね」

公生君が驚いている。

「ああ、腹減ってたら良いアイデアなんてでないだろ?」
「それもそうだね」
「呑気に飯食ってる場合じゃねーぞトーヤ!」

神奈が言うと皆が騒ぎ出す。
無理もない取引をすると言って丸一日何もなかったのだから。
渡辺君がその事を説明するも冬夜君は冷静だ。

「でもこっちも何もしなかったわけじゃないんだろ?誠。亜依さんと皇帝達の居場所くらいは突き止めたんだろ?」
「ああ、それはばっちりだ。アイツら圏外だと思って携帯持たせっぱなしだ。GPSくらい動いてるってのにな」
「で、どこ?」
「両方とも、別府の山の上だ」
「やっぱりそう遠くはなれてないところか」
「そこが奴らのアジトなのか?」
「それはいくらなんでもないだろうよ」

コーンポタージュを飲みながら冬夜君は言う。

「ごめんちょっとスープおかわり行ってくる」

そう言って席を立つ冬夜君。

「いつも通りで逆に怖いね」と公生。
「あれでもキレるとなにしでかすかわらねーんだぜ」と神奈が答える。

冬夜君が戻ってきた。

「で、冬夜はどう考える?この先相手はどう交渉を切り出すと思う?」

冬夜君は考える。

「もうすぐわかるんじゃない?」

冬夜君がそう言った頃に、冬夜君のスマホが鳴った。

「ほらきた」

冬夜君は電話に出るとスピーカーにする。

「こんばんは」

悪魔さんだ。

「こんばんは」

冬夜君は返事をしながら誠にジェスチャーを送る。
誠君は冬夜君のスマホをノートPCに接続して作業を始める。

「皆との対面は果たせたかね?」

こっちの動きを読まれてる?

「今皆と食事中だよ」
「それはよかった。用件は昨日の件なんだがね……」
「なんだい?交渉なら乗るって聞いたんだろ?」
「その交渉の要件なんだが?皇帝達4人と亜依さんの命どちらを選ぶ?」

皆が何か言おうとするのを冬夜君が制する。

「意味がわからないんだけど?」
「君たちのカードは一枚、太陽の騎士団の情報だけだ。不公平だろ?」
「最初の取引は太陽の騎士団の情報と亜依さんの命だけだったはずだよ?どうして皇帝達4人が入ってくるのか不思議なんだけど?」
「君も噂と違って意外と冷酷なんだね?亜依さんの命が無事なら他の4人はどうなってもいいのかい?」
「急に4人を混ぜてきた魂胆が分からないと言ってるんだけど?」
「4人の悲鳴を聞かないとやはり交渉には持っていけないかい?」
「馬鹿なの?人質は無事だから意味があるんだよ?昨日も言ったと思うけど」
「……なるほど。やはりこの4人では亜依さんの命一人以上にはならないか?君たちの絆は強いみたいだね?」
「命に軽い重いはない。みな平等だよ?」
「では君はどちらをお望みなんだ?」
「まだ分かってもらえないのかな?ウォーロックの方が物分かりは良かったよ?」
「と、いうと?」
「どういう形の取引をするのであれ、5人の命に支障がでるようなら僕達は実力行使に出る。渡辺君から聞いてない?僕達に手を出すと割にあわないことになるって」

無茶だよ。
いくら相手の所在を突き止めたからって5人を無事助ける作戦なんて考えつかない。それとも冬夜君には算段があるの?

「こっちの条件は5人の返還。そっちの要件は?」

冬夜君が勝負に出た。勝算があるのかわからないけど。

「亜依さんの命は太陽の騎士団の情報の削除、4人の命は白鳥カンパニーが持っている太陽の騎士団の情報でどうだい?」
「削除したとみせる方法は?」
「目の前で作業してもらう。大方サーバーに乗せているんだろ?誠君と君の二人で来てもらおうか?」
「その要求は無理だね。僕達も人質に取ってしまおうって腹積もりなんだろうけど」

やけに強気な冬夜君。はったりなの?
その時銃声が響いて4人の叫び声が聞こえた。

「今のが最後通知だ。この要求を呑むか呑まないかはっきりしてもらおうか?」
「脅したって無駄だ。亜依さんは君たちの切札。折角の切札無にして上に怒られても知らないよ?」
「……俺を舐めるのも大概にしろよ。ガキ!」
「僕を侮るのもいい加減にして欲しいね。あまり子供をなめてかかると痛い目見るよ」
「明日の夜日出生台の広場に2人で来い。要求に従わなかったら全員殺す」
「一人でも殺してみろ、こっちもあんたの命を保証しない」
「なんだと?」

冬夜君は誠君を見る。誠君は親指を立てて冬夜君に向ける。

「後悔するなよ……ガキ!」

そう言って電話は切れた。

「ちょっと片桐君どういうつもり!?最初から交渉に応じるつもりはなかったの?」
「そうだよ?」

冬夜君はケロっと言う。

「冬夜、ばっちりだ。相手のスマホはしっかり捕獲した!」
「じゃあ、こっちも反撃しようか」

誠君が言うと冬夜君はそう応えた。

「恵美さんに頼みたい事があるんだけど?」
「何!?亜依ちゃんの命がかかってるんだもの、なんでもするわよ!」
「明日の朝までに誠の割り出したスマホの持ち主の特定と所有する車のナンバーを調べて欲しい」
「そんな簡単な事でいいの?」
「そこから先は多分晶さんの方が良いと思う」
「何でも言ってちょうだい」
「そのナンバーの車のうちどれかがここを必ず通るはずだからその身柄を拘束して欲しい」
「わかったわ」

晶と恵美が頷く。

「相手はこっちの部隊を全滅させた相手だという事を忘れないで気をつけて行動して」
「そういう奴相手ならそれなりの部隊と装備を準備するわ。手加減いらないのね?」
「手加減していい相手じゃないと思うから」

その時やっとわかった。
冬夜君は冷静を装ってるけどすでに怒ってるんだ。
その証拠に冬夜君がハンバーグにまったく手を付けてない。
私のしてあげることは一つ。

「冬夜君ハンバーグ冷めちゃうよ?」
「あ、本当だね。ありがとう愛莉」
「ちょっと愛莉ちゃん今ハンバーグどころじゃ」
「いいんだ、大丈夫だから。それより晶さんは部隊の配置急いでくれないかな?通る車を一台残さず見張るつもりでないと」
「わかった!」

晶さんはタブレットで位置を確認しながらスマホで指示を出している。

「冬夜ビンゴだ!相手の名前は山村獅童。アーバニティの幹部だ」
「悪魔がやっと尻尾を出したね。名前が分かればあとは恵美さん……」
「わかってる。後は任せて……逃がさないわよ」

恵美もスマホで指示を出している。
冬夜君はその間にハンバーグを食べ終わった。

「さてと……」
「ポテトフライ大盛りでしょ?」
「いいの?」
「今日は特別!」
「じゃあ、アイスクリームも頼もうかな」
「しょうがないな~」

注文を終えると冬夜君はジュースを取りに行った。
その間に渡辺君や酒井君達が私に「大丈夫なの?」と、聞いてくる。

「あれで本人冷静でいようと必死なんだよ。一歩間違えたら5人とも犠牲にしちゃう。そんなギリギリなゲームしてるんだから」
「ゲームって……」
「子供の遊びじゃないのよ……」

恵美と晶がいうと公生君が笑った。

「だからこういう勝負は子供の方が得意なんだよ。どんなこともゲーム感覚で自由な発想が効くからね。その証拠にみんな忘れてる。この勝負僕達の方が優位なんだ」
「どういうこと?」

恵美が聞く。

「相手は切札5枚使ってでも私達の切札1枚を欲している。それは余裕がない証拠」

奈留ちゃんが答える。

「多分アーバニティはガタガタ。だから散々姿をくらましていた悪魔が姿を出した。多分焦らしていれば賢者もドラゴンも姿を現す。いや引きずり出すつもりよ片桐さんは」

白鳥さんが言う。

「塔が崩れる時が来た。機は熟した。将棋って詰む寸前になったらこっちから切札を使って少し出も引き延ばそうとするでしょ?それと同じよ。状況の変化を待つしかない状態が今。だから受け流しながらこっちは一手ずつ詰めていくだけ」

奈留ちゃんが言う。
そうこう話しているうちに冬夜君が戻ってきた。

「皆何も食べなくていいの?」
「私食べようかな」
「腹が減っては戦も出来ないですよね」
「まずは腹ごしらえするくらいの余裕は必要か?」

そう言って皆注文する。
皆が食べ終わった頃を見計らって冬夜君が言い出した。

「準備は出来たかな?」

それが戦闘準備だという事くらいは分かってる。

「私の方は準備出来たわ」

晶が言う。

「私も準備OK。今晶に情報を渡してる」
「皆準備早いね」

冬夜君が笑ってる。

「これからどうするの?」

私が冬夜君に聞いていた。

「そうだな、渡辺君エンペラーの電話にかけてくれない?」
「俺が?」
「うん、そして相手の要求をのむように言うんだ。ユニティの代表は俺だ。俺が決断したって」
「……揺さぶるわけだな」
「そういう事」

渡辺君が皇帝に電話をかける。

「もしもし……」

出たのは皇帝だった。

冬夜君はスマホのメモを使って渡辺君に指示を送る。

「一緒にいたのは悪魔で間違いないか?」
「ああ、今は死神と悪魔両方いる」
「悪魔に代わってくれないか?」
「わかった」
「もしもし……どうした気が変わったか?」
「さっきは悪かった。あいつ一人の横行だ、ユニティの代表は俺だ。俺が決定権を持っている」
「お前は物分かりが良いようだな。で、どうする?」
「あんたの要求通りに動こう。俺があいつを説得する」
「説得が済んだら電話してこい。時間を指定する」
「わかった」

電話はそこで終わった。

「これでよかったのか?」

渡辺君が聞いてる。

「上出来だ。じゃあ、僕は一度家に帰るよ。汗も流したいし、愛莉に甘えたい」
「この馬鹿!!今どういう状況か分かってるのか!!」

神奈に叱られる冬夜君。

「あはは、やっぱり君は凄いね片桐君。僕らも帰って寝ようか奈留。明日学校だし早めにすませたい」
「公生まで何を言い出すの!?」
「宿題に決まってるだろ?それとも期待していいの?」
「……馬鹿!」
「晴斗、私もそろそろ帰らないと」
「そ、そうっすね。送るっす」
「私達も帰りましょうか?望」
「僕はへとへとだよ、恵美」
「帰ったらじっくり労わってあげるわよ」
「善君私達も帰りましょう?」
「そ、そうですね」
「神奈俺達も変えるぞ」
「この状況でいいのかよ」
「冬夜に任せておけば問題ないよ」
「じゃ、皆また何かあったら連絡する」

そう言って皆帰ってしまった。

その間に冬夜君はポテトを全部食べてしまった。
冬夜君は席を離れようとしない。

「どうしたの?」
「いや、締めのアイスまだ食べてない」

ぽかっ

「私とアイスどっちが大事?」
「そんなの愛莉に決まってるだろ?」
「今日甘えたいんだよね」
「その前に甘いもの食べたっていいだろ?」
「うぅ……」
「ちゅ、注文したのに勿体ないよ!ほらきたっ」

店員さんがアイスクリームを持ってくる。

「それ食べたら帰るんだからね?」
「わかってるよ」

最後まで美味しそうにアイスを食べている冬夜君だった。
本当に冬夜君に任せてて大丈夫なのかなぁ?

(2)

22時過ぎ。
私のスマホに電話がかかってきた。
悪魔は私に出るように指示する。

「もしもし……」
「亜依さんか!無事か!!」
「ええ、今のところは」
「すぐに助けるからな、悪魔に替わってくれ」
「わかった」

私は悪魔にスマホを渡す。

「なんだ?……そうか……じゃあ明日の正午にだ。約束を忘れるなよ」

そう言って電話を切ると私にスマホを返す。

「渡辺という男は随分物分かりのいいやつのようだな」

冬夜君を説得した?
多分嘘だろう。
何か企んでる。
私達にできることはこの男に気取られない事。
いけない、スマホのバッテリーが切れそうだ。

「悪魔さん、スマホを充電したいんだけど?」
「何?」
「唯一の通信手段失ったらそっちも痛手だと思うんだけど?」
「しょうがないな、充電器はあるのか?」
「バッグの中に用意してある」
「じゃあ、そこのコンセント使え!」
「ありがとう」

私はコンセントにプラグを指して充電を開始する。

「おい、俺はちょっと山を下りてくる。お前らしっかり見張っとけ」
「分かってる。心配しないで用を済ませてきてくれ」

そう言って悪魔は外に出ていった。
部屋に残った茶髪の黒くて長いバンダナをした男はタバコを吸っている。
歳の割には逞しい肉体。
愛用している拳銃の手入れをしている。

「俺達これからどうなるんですか?」

掠れた声で皇帝が話しかけてきた。

「話聞いてなかった?『すぐに助ける』って私達助かるよ」
「取引に応じたからと言って俺達の命が約束されたわけじゃない」

私はバンダナの男を見る。
話を聞いていたのだろう?男は私の方をちらりと見て銃を見る。

「この部屋から出ないように見張ってろと言われただけだ。後は好きにしろ」

私はスマホで皇帝にメッセージを送る。

「多分この位置は割り出せてるはず」
「じゃあ、俺達は!?」
「多分救出に来るはず」
「でもどうやって、目の前の男は腕前は確かだ」
「それをどうにかするのがユニティよ」

それに片桐君の作戦はいつも単純だけど確実に成功させる。
相手がどれだけ先手を打とうがその先の手を考えている片桐君。
その片桐君が帰ってきたのだから怖い物なんてない。
今の私に出来る事。即座に行動に移れるように少しでも休息しておくこと。
そう考えた私は床に座ったまま眠りについた。

「随分余裕を見せるなこの女……」

男の笑い声が聞こえる。
明日の朝余裕がなくなっているのはあなたの方よ。

(3)

僕は恵美を乗せて車を走らせていた。
その後を酒井夫妻が追ってくる。

「恵美、標的は?」
「今山降りてる」

合流地点は九州横断道路か。
別府ICを降りると自衛隊駐屯地入り口で新條さんに運転を変わってもらい僕は助手席に座る。

「左前の車が標的よ!」

追いついたようだ。
こういういう時どうやって車を止める?
タイヤを撃ったら深夜とはいえ罪のない人の車を巻き込んでしまう。
じゃあどうする?
まず運転席側のサイドミラーを撃つ。
すると必ずやること。
運転席のウィンドウを開けて後方を確認する。
開けた時がチャンス。
運転手を狙うなんて真似はしない。
事故の元だから。
必ず自ら車を止めたくなる時。それは……。
僕は二発続けて発砲する。
二発の弾丸はフロントガラスに当り亀裂が入る。
視界を奪われた運転手は必ずブレーキを踏む。
やがて停止した車の前に車を止め僕と新條さんは車を降りる。
相手もドアを開けてこっちの様子を伺おうとするがドアのガラスを撃つ。亀裂が入って視界が途絶える。
素早く相手の車の空いたドアをめがけて突進する。
照明灯がついてるとはいえ、こんな夜間にむやみに撃って当たる物じゃない。
流れ弾が車に当らないことを祈りつつ……まだローン残ってるんだ。
新條さんとドアを飛び越えて前転すると相手に向けて銃口を突きつける。

「無駄な抵抗は止めてください。銃を捨てて!」

運転席と助手席の男は銃を捨てると大人しく投降する。
捕縛してる暇はない。
しゃがんでいる男の側頭部を蹴飛ばす。
軽く脳震盪を起こす程度の威力だ。
次に後部座席に銃を突きつける。

「このままじっとしてるつもりですか?僕達もそんなに我慢強くない。こう見えて急いでるんです。撃ちますよ?」

後部座席をガチャリと開けると出てきたのは。黒服の男と。白いスーツの男だった。
髪は長くて赤い。
オールバックにしてある。
サングラスをつけてある。

「お前が悪魔だな!?」

新條さんの方に白いスーツの男はいた。

「だったらどうする?俺が帰らなかったらお前たちの仲間は死ぬぞ?」

白いスーツの男に手錠をはめて後部座席に新條さんと悪魔。助手席に恵美を乗せると車を出す。
残された男たちと車は衝突事故として処理されるだろう。
来た道をUターンして引き返す。
向かう先は男たちの拠点。亜依さん達が捕まってる場所。

「どうするつもりだ?俺達のやり方を知らないわけじゃないだろ?」
「あなた風に言うなら取引ですか?」
「取引?」

恵美に促すと恵美は片桐君に電話して悪魔に電話に出るように言うと新條さんにスマホを渡す。

「もしもし」
「こんばんは」
「こんな真似をして5人が無事だと思ってないだろうな?」
「言ったろ?人質は無事だから価値があるんだ」
「俺をどうするつもりだ?」
「君は餌だよ」
「餌だと?」
「君を囮にして賢者をドラゴンをおびき出す」
「そんな脅しに乗ると思うのか?」
「その子意外と平気で人の関節砕くくらいのことはするよ?」
「……で、どうしろというんだ?」
「何もしなくていい。こっちで段取りは組んである」

片桐君と悪魔が話してる間に目的地に着いた。
何やら騒がしい。
どうやら酒井君が交戦しているようだ。
新條さんにここを任せると僕も酒井君の応援に行く。

「言っとくが死神はどいつも本物の傭兵だ。素人では相手にならんぞ!」

悪魔が叫ぶ。

「彼等が素人かどうかはすぐわかるよ」

片桐君が答える。
僕は片桐君の期待に応える為に闇夜を駆け抜ける。

(4)

宵闇に紛れる刃物程厄介なものは無い。勘だけを頼りに躱し続ける。
唯一の救いは五月蠅いチェーンソーの音が位置を知らせてくれることくらいですね。
月明かり一つない闇の中チェーンソーを躱しながら反撃の機会を待つ。
こんな重そうな甲冑を身に着けて……よくサイズがあったな。と思うくらいのでかい図体の女、普通に考えてそのうちばてる。そう思うでしょ?
だけどこの人汗一つ見せないんですよ。息も切らさずに奇声を上げながら切りかかる女性。
この女性一人に構ってるだけじゃないんですよ。

ひゅいーん……。

ほら聞こえてきた。
反射的に横に跳ぶ。
僕がいた場所は爆音を立てて穴をあける。
青白く光るその発光を見れば位置はあらかじめわかる。
しかし銃を撃ってもナイフを投げても全く当たらない。
弾が妙な軌道を描いてそれていく。
知ってます?そういうのってチートって言うんですよ?
この二人が連携を組めていたたら僕の体は今頃バラバラですね。
夜で連携が取れないのかそれとも端から連携を組む気が無いのか?
試してみるか?
僕はチートじみた人とやっぱりチートじみてる大女を直線状に並べる。
僕は動きを止める。

ひゅいーん……。

聞こえてきた。
大女も奇声を上げてチェーンソーを振りかざす。
今だ!
僕は横に跳ぶと同時にチートじみた人が光を放つ。
その光は大女の背中に直撃する。

「ちょっと痛いじゃない!!何考えてるのよこの役立たず」
「お前が邪魔するからだ。突進ばかりしてないで少しは回避するとかしたらどうだ?」
「私はあんたみたいなスタイルのいい女が大嫌いなのよ!エリス!」
「私もお前みたいな醜い豚は嫌いだ。ナツコ」

どう考えても超電磁砲を撃ってきてるのにそれを背中にまともに食らって「ちょっと痛いじゃない」で済ませる大女に恐怖を抱きましたけど。
二人が仲間割れしてる隙に小屋に一人近づく僕。
すると銃声が聞こえてくる。
ああ、石原君はミッションを終えてこっちの加勢に来てくれたんだね?
でも見方を変えると美味しい所横取りですよ?
君もあの二人を相手にしてみたらどうだい?恐怖しか感じないから。
窓の外から中を伺う。
派手に交戦してるバンダナの男と石原君。
お互い人質に当るのを懸念してるのか銃は使わずに格闘戦を行っている。
投げつ投げられつつ。お互いの打撃を躱しながらの攻防。
体格的には石原君が不利だけど男以上に素早い動きで機敏に躱しながら攻撃を加える。
しかし男も老練の戦士といった感じで技術で素早い攻撃に対応する。
その攻防は両者ともに互角。永遠に続くと思えた。
だが……

ピリリリ……。

バンダナを巻いてる男が持っている無線が鳴る。
男は拳銃を人質に向け石原君の動きを止めると無線に応じる。

「なに?……そうか。わかった……」

どんなやりとりがあったのだろうか分からないけど男は銃を降ろす。

「ヘッジホッグか、噂通り良い動きをする戦士だったな。続きを楽しみたいところだが予定が狂った。また次の機会にすることにしよう」

男は入り口から外に出る。

「エリス。スティールレディ!予定変更だ!引上げるぞ!」
「ちょっと!こっちはまだ終わっていないわよ……ってあれ?あの痩せ男どこに消えた!?」

今頃気づいたようだ。

「……『ボス』の仰せのままに」

そう言って3人は撤収する。
だが、ボスと呼ばれた男は足を止めた。

「君の気配の隠し方も上手かった。だが、まだ経験不足のようだな。途中で気づかれるようではまだまだだぞ若き『死神』よ」

ちょっとそのネーミングには疑問を呈しますね。石原君はハリネズミで僕は死神ですか?どう考えても逆でしょ!
そんな僕の抗議も意に介することなく3人は宵闇に消えて行った。

「善君達無事!?」

懐中電灯を手に晶ちゃんが上がってくる。

「亜依!亜依はどこ!?」

桐谷君の声がする。

「瑛大!」

宵闇の中二人は感動の再開を果たしていた。
抱き合ってお互いの無事を喜び合う二人。

「善君お疲れ様」

今にも倒れそうな僕を支えてくれる晶ちゃん。
本当に疲れたよ。

「望もおつかれ」
「……屈辱です。まだ手加減されてる感じがありました。まるで手ほどきを受けてるような……」

「この次はこうはいかない」と言ってるけどこの次なんて来て欲しくないね。少なくとも僕はあの二人を相手にするのは嫌だよ。

(5)

正午日出生台広場にて。

僕と誠は準備をしてきた。
正面にいるのは悪魔ただ一人。

僕の後ろには愛莉や亜依。渡辺君達が控えている。

「約束と違うようだけど?」
「お互い様だろ」

悪魔はそう言ってにやりと笑う。
まだ何か手を考えている?

「君に選択を与えよう」

そう言うと両手に銃を持って片方は僕にもう片方は自分のこめかみに銃を当てる。

「俺の命とお前の命。どっちを取る?」
「そんなの冬夜君の命に決まってるじゃない!」
「愛莉は下がっていて」

前に出る愛莉を制する。

「そうだね。答えは決まってる……」

男はにやりと笑う。

「どっちも選ばない!」

そう叫ぶと同時に悪魔が両手に持っていた銃は酒井君と石原君が手を狙撃して落ちていた。

「言ったろ?他人の命に軽い思いは無いって」

両手を押さえる男に近づいて見下ろすように言い放つ僕。

「どんな奴だろうと日本と言う国にいる以上平等に法の裁きを受ける義務がある」

だが悪魔は起き上がると僕を突き飛ばす。
突き飛ばされた僕は地面に倒れ突き飛ばした悪魔は胸に銃弾を受け僕に倒れ掛かる。
崖上に硝煙がはっきりと見える。
石原君達が狙撃手を見つけるがバイクに乗って逃走してしまった。

「しっかりしろ!!」

亜依さんが様子を見る。

「聞こえますか!しっかりしてください。すぐ救急車呼びますからね!片桐君傷口をこれで押さえて」

亜依さんにハンカチを渡され指示されたとおりに傷口を押さえる。

「不思議な連中だな……敵と助けるのか……」
「どう思われようが構わない、これが僕達のやり方だ」
「ならばお前たちに一つ忠告しておこう……アーバニティはもう終わりだ……ステージは次に移行している……ごほっ」
「あまり喋らないで。肺が血で溺れます」

亜依さんが言う。

「……お前たちの相手は郷土愛者達だ。太陽の騎士団直々の部隊」

郷土愛者?どっかのゲームで聞いたようなネーミングだな。まみむめもとか言うんじゃないだろうね?

「これからお前達はもっと過酷な試練が待ち受けているだろう。……どんなことがあっても今言ったことをわすれるな」

今言ったこと?

「他人にどう思われようと自分たちのやり方を貫き通せ……」

男はそこで事切れた。
脈を計っていた亜依さんが首を振る。
ヘリの音がする。
ヘリでかけつけた深雪さんが容体を見る。
深雪さんも首を振る。

「冬夜君……」

愛莉が背中から抱きしめる。
こうして塔が崩れた。
アーバニティは事実上崩壊した。
だが、ドラゴンと賢者は無事だった。
自分の尻尾を噛みちぎって逃走してしまった。
戦いに僕達は勝った。
なのになぜか心は空しかった。
何の為に戦っているのだろう?

(6)

「そうか悪魔も落ちたか……」

高層ビルの最上階にいるその老人は窓の景色を見ながら立っていた。

「塔も崩れたようです」
「手持ちの札も寂しくなったことよのう……」
「それどころか太陽の騎士団の存在も掴まれています」
「うむ……」
「どうなさるおつもりで?御前」

俺は老人の事を御前と呼んでいた。
このビルにいるものなら皆そう呼ぶだろう。

「もはやただの子供と侮って良い相手ではなさそうだのぅ」
「ではやはり俺達の出番か?」

そう言って現れたのは光学迷彩服を着た中年の男だった。
頭に黒いバンダナを巻いている。

「今一時様子を見よう。油断させることも必要だろう?今一番警戒してる時に力づくで押せる相手でもあるまいて」
「では、まずは……」
「予定通り、マスコミに情報をリークし誤魔化せ。ひょっとしたら重鎮の命が無くなることもあるだろう?」
「御意に」
「ヴァイパー、お前はしばらくユニティを監視しろ。特に片桐と遠坂には気をつけてな」
「新しい主はあんただ。あんたに従おう」
「頼りにしてるぞ、お前たち……」

御前の考えてる事が分からなかった。
放っておけと言いながら注意しろという。
それよりアーバニティが崩壊した。
俺達はどうする?
……考えてみれば普通の事だった。
審判の日が来るまではそうすることが最善手だろう。
そして世界を手にするときまで予定に狂いが生じてはならない。
真冬のディールと呼ばれるその日が訪れるまで

(7)

「うぅ……」

愛莉が唸っている。
愛莉においでと手招きする。
愛莉は喜んで僕に飛びついてくる。

「どうしたんだい?可愛いお嫁さん?」
「冬夜君がまた思い詰めてたから。きっとまだ悪魔さんの死について考えてるんでしょ?」

愛莉にまで読まれていたか。

「まあね」
「駄目だからね!『僕が代わりに死ねばよかった』なんて誰も思ってないんだから!」
「わかってるよ、可愛いお嫁さん残して死ぬわけにはいかないよ」
「そうだよ~」

愛莉は悩んだり怒ったり喜んだり忙しい。
大体僕が原因だけど。
愛莉なりに色々考えてくれてるんだろうな。
今も話題を明るい方向に持って行こうと必死に考えてる。

「あ、そうだ」

ほらきた。

「あのね、私達のあの変身にね、名前つけたいんだけどなんかないかな~?」

へ?

「返信するときは白鳥さんが勝手に『レッツプレイ・モジュレーション』って呼んだらしいんだけど肝心の変身後の名前が決まってなくて」

すっごくどうでもいい気がするのは僕だけか?

「なんかいいのないかな?」
「そうだなぁ……」

ちらりと深夜やってるアニメを見た。
あっ……

「プリズムなんてどう?プリズムホワイトとかプリズムピンクとか」
「なるほど……」

愛莉はスマホで送信している。

「総称はプリズムフェイスとかで……」
「皆がそれにしようって~」
「そうか」
「う~ん……」

愛莉がまた悩んでる。何か聞くのが恐ろしいんだけど聞かないと拗ねるだろうしなぁ。

「今度はどうしたの?」
「なんかさ変身したときにこうかっこいいセリフないかなって思って」

やっぱりしょうもない悩みだった。
でもそんなしょうもない悩みで、僕の心を癒してくれる。ここは愛莉に甘えるとしよう。

「『溢れだす愛の吐息プリズムピンク!』とかでいいんじゃない?」

自分で言ってて恥ずかしい。
だけど愛莉には好評だったようだ。

「冬夜君すごいね!それに決まり!!」

愛莉、本気で言うつもりか?……言うつもりなんだろうなぁ。

「じゃあさ、なんかこう決めポーズみたいなのないかな?」
「愛莉の中ではなんかお気に入りのあるの?」
「何個かあるんだけど。一個に絞れなくて~」
「じゃあ、選んであげるからやってみ?」
「え~今やるの?」
「僕の前で恥ずかしがってたらどっちみち意味ないだろ?」
「それもそうだね~。じゃあ、まずはね~」

その後もやれ必殺技を考えたいとか皆が集まった時の決め台詞とかカーテンコールとか愛莉の悩みに付き合って夜の寂しさをまぎらわすのだった。
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