優等生と劣等生

和希

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4thSEASON

太陽の騎士団

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(1)

「冬夜君朝だよ?起きて」

愛莉の言葉で目が覚める。

「おはよう愛莉」

愛莉の頭をそっと撫でてやると愛莉は抱きついてくる。
この一週間愛莉は上機嫌だった。
アーバニティの事件から1週間が経とうとしていた。
あれから襲撃は無くなり、僕達も平穏無事に暮らしている。
皇帝こと亀梨興毅は実家に帰り父親と和解したものの、女帝こと森園香織と暮らすために独立している。
また二人共大学に復学していた。今年の留年は免れないだろうけど仕方がないと諦めているようだ。
教皇こと三沢守、女教皇こと岸谷夏凛も地元大に復学している。二人共留年は免れないだろうけどバイトしながら生計を立てることを選んだようだ。
また4人ともユニティに参加することになった。
ユニティに参加しておいた方が、保護しやすい保護する理由が出来る。そう進めたのは渡辺君だった。
4人とも最初は躊躇っていたが、やがて了解を得ることが出来た。
ユニティも人数増えて来たな。
皆この一週間は平和に暮らしていた。
不気味なほどに。
非常事態に慣れてしまっていたのだろうか、平和という物に違和感を覚える。
でもそんな違和感を表に出すことは出来ない。
悪戯に愛莉を不安にさせる事なんてできない。
今週末本来のユニティの活動を始めることにした。
紅葉狩り。
いつもの夢大吊橋に行く予定だ。
愛莉も張り切って準備している。

「久しぶりに遊びに行くんだもん~天気も気分もいいよ~」

愛莉も大はしゃぎだ。
別府SAに集合することになっていた。
集合時間より早めに着いた。
それでも相変わらず晴斗達の方が早い。

「新人が遅刻するわけには行かないっす!」

その次に来たのが亀梨君と三沢君達だった。
それから渡辺君が来て石原君達が来て……最後に来たのはカンナ達だった。

「時間内に来たんだからいいだろ!」
「お前らが早すぎるんだよ!」

まあ、いいけどね。

「じゃあ、ここから九重IC付近のコンビニまで一気に行くぞ。みんな飲み物等は準備しておいてくれ」

渡辺君が言うと、皆買い物に向かう。

準備してる間に今日の参加メンバーを説明しよう。
僕と愛莉、多田夫妻、渡辺夫妻、桐谷夫妻、石原夫妻、酒井夫妻、木元夫妻、一ノ瀬さん、中島君、丹下夫妻、竹本夫妻、真鍋夫妻、椎名さん、新名さん、檜山先輩、咲良さん、佐(たすく)、佐倉さん、晴斗、白鳥さん、亀梨君、森園さん、三沢君、岸谷さん、公生、奈留。
30人を超す大所帯だ。
だけど、みんな死線を共にしてきた仲間。
誰一人として欠かすことのできない戦友。
今日は戦いの打ち上げと恒例行事を兼ねていた。
皆が戻ってきた。
順番に車が出ていく。
先頭は渡辺君が、最後尾を僕達がついて行く。
道中は案の定レースになっていた。
皆遠慮なく飛ばす。
僕と晴斗はマイペースで最後尾を走っていく。
ラジオはつけてなかった。
その代わり愛莉がずっと喋っていてくれたから。
だけど、頭は違う事を考えていた。
アーバニティは壊滅した。
だけどドラゴンと賢者、魔術師の存在は相変わらず。
そして謎の傭兵集団。
太陽の騎士団。郷土愛者。
気になる単語は沢山ある。
そして隠者の存在。

隠者は一人。

あの隠者がまだ健在だというのか?

「冬夜君、紅葉が綺麗だよ」
「そうだね」
「ちゃんと見てる?」

見てたら問題だろ?

「終わったことを考えていてもしょうがないよ。何もないんだし今を楽しもう?」

愛莉には僕の考えてる事がお見通しのようで。

「楽しんでいいの?」
「ほえ?」
「僕は大吊橋で楽しんでいいんだね?」
「う、うぅ……どうせ夢バーガー食べたいとか考えてるんでしょう?」

当然じゃないか。

「いいよ、ただし一個だけだからね」
「わかったよ」

愛莉の前では余計な事は言わない。これは鉄則だった。
九重ICを降りて少し行ったところ、九酔渓に上る前あたりにコンビニはあった。
そこにぞろぞろと車が止まる。

「ここで少し休憩しよう。今のうちにトイレ買い物は済ませておいてくれ」

渡辺君が言うと僕はコンビニに入る。

「冬夜君は夢バーガー食べるんだから食べ物はいらないよね?」
「いや、渋滞するし途中でお腹空くかもしれないし」
「私の分けてあげるから」
「いや、愛莉だってお腹空くだろ?」
「分けてあげる♪」
「……はい」

僕はジュースだけ買って店を出る。
皆が買い物を済ませた頃に、僕達は出発する。
やはり混んでる。
途中の店になんて入る気すらしなかった。
愛莉は車が止まってる間に写真を撮る。
僕も九酔渓の紅葉を楽しみながら山を登っていく。
本当にこういうの久しぶりだな。
やがて夢大吊橋の看板が見えてくる。
駐車場まであと少しだ。
駐車すると脱兎のごとく売店に走る。
そして夢バーガーを頼む。
全部で6種類あるらしい。
全部堪能したいけど愛莉の機嫌を損ねるわけには行かない。
ドリームだけにした。
食べ終える頃には皆橋を渡っているだろう。
期間限定でラ・フランスソフトなるものがあるじゃないか?
食べないわけには行かない。
僕は早速買う。
のんびりベンチに座って食べていると愛莉がやってきた。

「皆待ってるよ」
「へ?先に行ってるものだと思ったけど?」
「冬夜君はどうせ食べてばっかりで動かないだろうからって待ってたんだよ!」
「そんな気遣いいらないよ」
「冬夜君は私に想い出プレゼントしてくれないの?」

その表情は卑怯だぞ愛莉。

急いでソフトを食べるとチケットを買って橋を渡る。
最後尾を歩いて行く。
すると公生と奈留が止まっている。
どうしたんだろう?

「どうしたの?」

愛莉が奈留に声をかける。

「な、なんでもないです」

奈留は明らかに怯えている。

「奈留が高所恐怖症みたいなんだ」

公生が言う。

「公生余計な事言わなくていい!」
「大丈夫だって。少々揺れたって落ちやしないから。ほら……」

公生はそう言って橋をガシガシ揺らす。
奈留には逆効果だったようだ。
中学生だもん、そういう悪戯したくなるよね。
僕は笑っていた。

ぽかっ

「笑っている場合じゃないでしょ!公生君も女の子には優しくしてあげないと駄目だよ!」

公生はこういうの慣れてると思ったんだけどな。

「ごめんごめん、あまりにも怖がるからつい面白くなってさ。ほら、手つないでやるから」
「うん……」

公生は奈留の手を取りゆっくりと歩き出す。
奈留も公生について行く。

その後を追いかけて橋を渡った。

30人超ともなれば記念撮影とりたくなるよね?
記念撮影をとってもらった。

そしてまた橋を渡って引き返す。

橋を戻ると脱兎のごとく売店に行く。
そしてブルーベリーソフトと串肉を……

ぽかっ。

「一個だけって言ったでしょ!」
「だから夢バーガーは一個しか食って無いよ!」
「そんな屁理屈はいらないの!」
「片桐先輩本当に自覚してるんですか!?仮にも日本代表選手ですよ!」
「佐倉、トーヤのこれは病気だ……諦めろ」

カンナがため息交じりに言う。

「冬夜、肉と食ったら飲みたくならないか?」
「それはない。流石にない。だって運転愛莉にさせることになるから」
「私の運転だと不満ですか?」

愛莉の機嫌はあまりよろしくないらしい。

「可愛いお嫁さんを酷使したくないだろ?」

愛莉にそう囁いてやれば愛莉は上機嫌になる。

「そうだね」

ほらね。

「さて、昼も過ぎたしどこかで昼飯食って帰るか?」

渡辺君が言う。

「いつもの店でいいんじゃない?」
「冬夜君まだ食べるの!?」
「片桐先輩は抜きです!」

愛莉と佐倉さんに言われた。

「ここまで来て抜きは拷問だよ!」

僕は抗議する、

「冬夜、食べてもいいんだがちょっと相談に乗ってくれないか?」
「相談?」
「ああ、今後の事でな」
「まあ、いいけど」
「渡辺君甘やかしちゃダメ!」
「そうですよ!話なんて殆ど聞いてませんよ片桐先輩は!」
「いや、冬夜はどうも食べてる時の方が頭がさえるみたいだから」

渡辺君はよく分かっている。
毎年恒例のレストランに行くとハンバーグとピザを頼む。
ピザは愛莉とシェアする。
店一軒を貸し切ってるような状態になった。
僕のテーブルには渡辺君と愛莉と美嘉さんと亀梨君と森園さんと三沢君と岸谷さんが座っていた。

「で、話って?」
「お前も気になってるんじゃないのかこの一週間?」

ああ、その話か?愛莉の前ではしたくなかったな。

「一週間てなにかあったの?」

愛莉が当然聞く。
隠し事はダメか。

「尾行の事だね」
「ああ、特に何もしてこないから気にしてなかったんだがこの4人から話を聞いてちょっとな……」

そう言って亀梨君達の顔を見る。

「俺達も似たようなもので、尾行は要るんだけど特に何もしてこないって言うか」
「私達まだ狙われてるの?」

愛莉が不安そうな顔をする。

「まだ大元が残ってるからね。それに郷土愛者。気になる言葉だ」
「でも何もしてこないんだね?」
「だからこそ気になってるんだよ」

愛莉の質問に僕が答えてやる
愛莉は「うぅ……」と低く唸る。

「どうする?」

渡辺君が聞いてくる。

「こっちも様子見しよう。先に動いた方が不利だ」

今はお互い手札を知らない。少なくとも僕達は相手の手札を知らない。こっちから動くのは不利だ。

「竜の情報なら手に入れてると聞いたが」
「悪魔もあっさりと手離すほどの相手だ。もっと上の情報を引き出さないと途中でしっぽ切りに会うよ」

亀梨君が言うと僕が答える。

「IRISの情報は?」
「もうもみ消されてるだろうね。残る切札は太陽の騎士団だけど……これは最後までとっておきたい」

使いどころを間違えたら全てがパーだ。

「とにかく今は恵美さんと誠を使って情報を手に入れる事から始めよう。こっちの手札を揃えてから勝負。いつも通りでいいと思う」

相手の規模がでかいならなおさら慎重にいかないと。

「わかった……」
「あの、俺達も大丈夫なんでしょうか?」

亀梨君が聞く。

「不安なら恵美さんの家に泊めてもらうって手もあると思うけど」

でもどのみち一人になる時間、二人になる時間は来る。そこを狙われると意味がない。

「わかりました……」

次の戦場は地元大か……?。
そんな予感がした。
それは絶好の機会だ。

「じゃあ、そろそろ出るか」

渡辺君が言うと僕たちは席を立つ。
店を出ると。

「じゃあ、皆お疲れ様。この後2次会で地元の焼き鳥屋予約してるんだが時間に余裕のあるやつは来てくれ」

僕たちは参加することにした。
帰りの車の中で愛莉と話をしていた。

「まさかまだ狙われていたなんて……」

愛莉が心配そうに言う。

「むしろそれが自然だよ。こっちはまだ切り札をもってるんだからそのくらいしてくるよ。何もしてこない方が不気味だ」
「うぅ……それはそうだけどさ。折角皆に平穏が戻ったと思ったのに……」
「まあ……そうだね」
「冬夜君は平気なの?」
「愛莉が心配だよ。愛莉が狙われないか不安で仕方ない」
「私はプリズムスーツあるから平気」
「皆も護身術くらい覚えておいた方が良いかもね」
「そうだね……」

なんか話題が暗くなってきたな。
こんな時誠ならどうするだろ?

「愛莉さ……ありがとうね」
「ほえ?」
「まだ覚えててくれたんだね?僕のお気に入りの服装」
「あ、うん。冬夜君がおねだりするなんて珍しいからしっかり覚えてるよ~春夏はワンピースがいいんだよね?」
「うん」
「冬夜君は私の脚線美とか気にならないの?それともやっぱり私じゃ未熟なのかな?」
「愛莉の脚線美は別の機会で一杯見せてもらってるから。他の奴にはみせてやらない」
「うぅ……優しいのか意地悪なのかわかんないよ」
「愛莉は僕だけのもの。それでいいじゃないか」
「……うん!」

愛莉の笑みは屈託のないものだった。
その愛莉の笑みを崩すものはどんなものでも排除するつもりでいた。

(2)

「審判の日の首尾はどうなってる?」
「順調です、誰も気づいていません」
「当然だ、気付かれたら元も子もない」
「奴らもまだ子供。このデータまでは辿り着かなかったようです」
「たかが子供と高をくくっているのなら今すぐその考えを捨てろ。すべては万全を期すのだ」
「御意……」

御前もここばかりは慎重になっているようだ。
外にもれたら大変なことになる。
その為の「交渉」も隠密に綿密に行ってきた。
審判の日が訪れたら我々の世界は大きく広がる。
地元どころではない、九州一体を支配することも可能になる。
それだけの「大取引」だ。
失敗は許されない。

「『賢者』は何をしている?」
「御前のご意志のままに……」
「ユニティは?」
「歓喜の歌に酔いしれてるようです」
「そうか、それならいい……。奴らが舞台に上がる前に事を済ませたい」

その為のアーバニティ。
もはや虫の息のアーバニティを捨て駒にして囮にする。
やはり御前もあいつらを子供と侮っている。
こんな取引に気づくはずがない。
とはいえ片桐冬夜の勘は看過できない。
出来れば片桐冬夜の身柄を押さえたい。
しかしユニティに手を出したら手痛い一撃を受けることになる。
やはり接触しないままが一番なのか?

ユニティ。
看過できない存在。
彼等をなめてかかった組織は尽く潰された。
高橋グループですら潰されかけた大組織だ。
御前は難を逃れたが。
その恐怖は味わっているのだろう。
だからこそユニティを誰よりも恐れ、誰よりも注視する。
公生と奈留の持つIRISも早めに処分したかったが失敗に終わった。
それどころか太陽の騎士団の存在にも気づかれてしまった。
こっちが着眼するとそれに気づいてしまう奴らの勘の鋭さ。
ならば最初から無視しておけばいい。
いたずらに刺激することはない。
事を起こすのは「真冬のディール」が終ってからだ。
Xデーは12月XX日。
その後は今までの借り全て返す。
熨斗をつけてな……。

「そういえば……」

御前が話し出すと俺は姿勢を正した。
それほどまでの威圧感がこの老人にはある。

「忍は元気か?」
「はい。あの男も事後処理に追われて大変のようですが」
「そうだろうのぉ。高橋グループも散々な目にあった……そのお礼くらいはしたいところだろうが……」
「大丈夫です、あの男も出来る男。今の状況を弁えて行動しています」
「ならいい」
「会長、そろそろ会議のお時間ですが……その方は?」

秘書が御前をちらりと見る。

「そうか、邪魔してすまんかったの……そろそろ帰るかの」

御前はそう言って退室する。
俺は慌てて御前の後を追う。

「見送りなどいらんぞ。ちと寄りたいところもあるしの」
「はっ」

そう言って頭を下げる。

「あのお方は何者なのですか?」

秘書が聞いてくる。

「……知らない方が良い事もあると言ったはずだ」
「しかし私は会長の秘書」
「地元を統べる存在と言えばわかるか?」
「いえ……」
「そうか……」

そんな眉唾な話誰も信じないだろうな。

「私がいない間に来てもくれぐれも失礼の無いようにな?」
「分かりました。ではせめて名前だけでも」
「御前……あのお方はそう名乗る」
「……わかりました。ではそろそろ会議室の方へ」
「ああ、わかった」

秘書に従い通常業務に戻る。
今頃紅葉だのと騒いでいる輩が多いのだろうが。
……本当に紅く染まるのはもう少し先だという事は限られたものにしか知らない話だった。

(3)

「まあ、皆固くなってないで飲みなよ。僕と奈留はソフトドリンクだけど」

そう言って緊張している4人に酒を勧める。
4人は固くなっている。
もっと緊張をほぐしてやらないと駄目か?

「ここにいる皆は君たちの事を敵だとはもう誰も思っちゃいないよ?君達の立派なユニティのメンバーだ」
「公生の言う通りだぞ、お前ら勢いってもんが足りねえ!こういう時は弾けるんだよ!せっかくの打ち上げだ!しけたつらすんな!」

そう言うのは美嘉さん。

「美嘉の言う通りだな。もっとみんなと打ち解けた方が良い。過去の事は忘れようや?俺達はそうやって仲間を増やしてきた」

渡辺君が言うとようやく四人とも飲みだした。
そしてこの宴に参加する。
そんな中皇帝……亀梨興毅だけが浮かない顔をしていた。

「どうしたの?亀梨君。まだ酒が足りない?」
「いや、酔う前に話しておきたい事があってな」
「へえ?太陽の騎士団の秘密とか?」
「……やっぱりお前は察していたか?」
「あっさりとアーバニティから手を引いた事。手を引いた割には未だにアーバニティの残党がうろついてる事を考えるとね?」

僕達が以前やったやり方に酷似してる。ニーズヘッグを囮にしてユニティから逃げたやり方に。
すると香織さんが話した。

「真冬のディール……そう彼等は呼んでいた」

僕は目を細める。

「Xデーは12月24日。クリスマスイブ。浮かれている民衆を絶望のどん底に陥れる審判の日」
「絶望に陥れるってテロでも計画してるのかい?」

それはないな、地元でテロを起こしたくらいじゃ大した騒ぎにならない。

「内容までは知らない。知っているのは魔術師と賢者とドラゴン……それに隠者だった」
「これは僕の推測だけど太陽の騎士団の団長は隠者だね?違う?」
「それもわからない。でも多分あってると思う」

太陽の騎士団が動くとなればやはりただのテロの可能性は薄いだろう?
太陽の騎士団の情報が欲しい。そうすれば目的も見えてくるはずだから。

「君が知ってる太陽の騎士団についての情報を教えてくれないか」
「今ここで言って大丈夫?」
「周りは酔っ払いだけだ。問題ない」

入り口には恵美さんのSPがついてるしね。

「地元の有名企業で構成される団体って事はしってるよね?」

香織さんが言うと頷く。

「ああ、政治家とのつながりもあることはIRISで確認済みだ」
「その中に須藤グループと高橋グループも混ざってる」
「まあ、そうだろうね」
「あとは……郷土愛者ってグループが実行部隊らしいわ。私がしっているのはそれだけ」

やはり末端には大した情報は与えないか……。

「ごめんなさい、あまり役に立てなくて」
「いや、十分な情報だよ。ありがとう」
「な~にしけたつら視点だお前たち」

絡んでくるのは美嘉さん。

「こっちにこい、楽しい酒の飲み方ってのを教えてやる」

そう言って自分たちのテーブルに森園さん達を連れて行った。

「どうだ?なんか情報を手に入れたのか?」

渡辺君がやってきた。

「いや、特に何も?」
「真冬のディールってのは気になるね」

隣のテーブルにいた片桐君が言った。

「ディールって言うくらいだ何かの取引をするんだろう」

それは僕も考えた。
でもそれが皆を絶望に落とすことになるとは思えない。

「証拠がつかめたら致命傷になると思うよ?多分やることはインサイダーだろうから」
「なんでそう言い切れるんだ冬夜?」

渡辺君が片桐君に聞く。

「取引で彼らが必ず得をするって言ったらインサイダーくらいしかないじゃないか?」

事もなげに片桐君は言う。

「防ぐ方法ないのか?冬夜?」
「無いね」

片桐君が即答する。

「確たる証拠が無かったらこっちが風説の流布で捕まってしまう。証拠をつかむしか手は無いだろうけど何が目的なのか分からないと話にならない」
「目的ならある程度目星はつくけど?」

椎名さんが言った。

「倒産寸前の銘柄の株を空売り。真っ黒なアイデアだ。君の言うインサイダーにもあてはまる」

椎名さんが言う事が正しいとすると、筋書きは浮かぶ。
恐らく12月21日が仕掛け。その日に空売り注文をする。
12月24日までに会社が倒産を宣言する。
12月25日に買戻しをして大儲け。
だが、その銘柄が問題だ。地元民を絶望に突き落とすまでの銘柄とは一体……。

「ま、単純に考えたら。銀行か証券会社だろうね」

椎名さんが言う。

「ただし真に受けたら駄目だよ。迂闊に言ったら捕まるのは僕達だって言う事を忘れちゃいけない」
「防ぐことは無理ですか?」
「無理だろうね。片桐君の言うように確たる証拠がないと話にならない」
「唯一の希望は太陽の騎士団か……」
「誠にもう一度調べなおさせる必要があるね」

片桐君が言ってると片桐君に抱き着く女性の姿が。

「冬夜君~。今日は難しい話はなしだって皆言ってるよ~」
「分かったよ。向こうに行こう?じゃ、皆また」

片桐君はそう言って遠坂さんと違うテーブルに言った。

「んじゃ、俺達も忘れて楽しく飲みますか?」
「……そうだね」

渡辺君と椎菜さんも飲み始める。

「奈留はどう思う?」
「株の売買は自己責任。迂闊に口をはさんでいい問題じゃない」

奈留のいう事は正論だ。

「でもそれで罪のない人が被害を被るなら邪魔したい」

奈留の言う事は正論だ。

「公生はどうするつもり」
「個人的に少し探ってみるよ」

大きな手掛かりが得られたらユニティに相談する。

「公生の言うとおりね」

大人が盛り上がっている中僕達はしずかにジュースを飲んでいた。

(4)

「2次会行こうぜ!」

カンナと美嘉さんが盛り上がっている。

「2次会はいつもの店でいいよな!」

美嘉さんが言う。

「いいわけないだろ!子供がいるんだぞ!」

渡辺君に窘められてる。

「今日はもうお開きだ」

渡辺君が言う。

「僕達だけ新條さんに連れて帰ってもらうから皆楽しんできなよ」

公生が言う。

「公生がそう言ってるんだから、そうしてもらいなよ」

僕が言うと渡辺君が承諾する。

「公生達今日はお疲れさま」

僕が言うと「またね」といって駅前の広場に歩いて行った。

「今日は店変えてみないか!?」

カンナが言う。

誰も反対する者はいなかったけど

「30人近く収容できるのか?」

渡辺君が当然の質問をする。
カンナは電話をする。

「全然大丈夫みたいだ。繁華街にあるから付いて来てくれ」

そう言ってカンナは歩き出す。
僕達は大通りを歩く。

「もう冬なんだね」

愛莉が言う。

そう言えばこの前イルミネーションの点灯式やってたっけ?
初めてみたイルミネーションの日僕達は大げんかになった。
そのあと初めて僕の気持ちを愛莉にぶつけて愛莉は受け入れてくれた。
あの時より愛莉は大きくなって、そして綺麗になった。
あの時より愛莉を想う気持ちは強くなった。
そう考えると手をつなぐくらいなんてことない。
でも愛莉はその手を振り払った。
愛莉は怒ってる?
僕は困惑してる。
愛莉は僕の腕を掴む。

「どうせならこっちのほうがいい~♪」

相変わらずだな。
愛莉を連れてカンナについてくと繁華街の飲み屋のビルに着いた。
エレベーターに乗って3階で降りてあるくと一軒の店に着いた。
スナックΔと書いてある。
店の中に入るとカンナのお母さんと若い女の人とかがたくさんいる。

「いらっしゃい、神奈。今日は貸し切りにしておいたよ」

ああ、神奈のお母さんに会いたかったんだな。
僕の隣にも綺麗なお姉さんがついた。
こういう店の女性のスカートってミニスカートが多くてさ。それでもってスタイルも良いとなるとやっぱりみちゃうよね……

ぽかっ

そしてこうなる。

「冬夜君は私がお酒用意してあげるからチーママさんは必要ないです」
「愛莉、それって営業妨害にならないか?」
「うぅ……」
「可愛らしい彼女さんね。じゃあ私はお邪魔みたいだし」

チーママさんはカウンターに戻っていった。

「冬夜君は水割りが良いの?ロックが良いって言ってたね」

そう言って愛莉はお酒の準備を始める。
カンナはお母さんと話し込んでるみたいだ。誠も緊張してる。

皆それぞれのカップルと話をしているみたいだ。

「それで冬夜。わざわざ公生達を帰してまで2次会開いたんだ。何か魂胆あるんだろ?」
「……店今日は貸し切りって言ってたね?」
「ああ」
「恵美さんちょっと来てくれないか?」

石原夫妻を呼ぶ。

「どうしたの?」
「頼みたい事があるんだけど?」
「なんでもいってちょうだい」
「ここ最近経営不振になってる証券会社か銀行を割り出して欲しい」
「ああ、それなら割り出すまでも無いわよ。ねえママ」

席に残っていた。チーママがカンナのお母さんに言った。

「駄目よ、あまり第3者に個人情報教えたら」

カンナのお母さんが言った。

「てへっ、ダメだったか」
「でもお客さんだいぶ飲んでるみたいだし忘れてしまうってこともあるかもね」

教えてくれるらしい。

「地元証券がやばいらしいわ『あそこはもうだめだ。俺は別口座に資産逃がしたよ』って言ってた」
「……恵美さん」
「分かってる。ついでに関わってる企業も洗えばいいのね?」
「うん、たぶん目的に行きつくと思う。ただ気をつけて、多分厳重に警戒されてると思うから」
「わかってる。任せて」
「冬夜俺達に出来る事は?」

渡辺君が聞いてきた。

「今のところは無いよ。今度は実力行使ってわけじゃなさそうだから」
「そうか……」
「精々できることと行ったら、彼女のご機嫌取りくらいじゃないかな?ね?石原君」
「そうですね。……ってなんで僕なんですか!?」
「一番酷使してるの恵美さんと晶さんだからね。石原君と酒井君もだけど」
「なるほど」
「今できることは、日常の暮らしを十分満喫することくらいだよ。また、忙しくなる時が来る」

それはユニティを発足してから覚悟していたこと。

「それもそうですね」

石原君はそう言って笑う。

「エゴイスト、アーバニティとたて続けによくやってきたわよね」

恵美さんが言う。
やっと訪れた平穏な日常。
それはわずかな間かもしれない。
僅かかもしれないからこそ今のうちに思う存分満喫しよう。
愛莉に甘えて、甘えさせて。のんびりと過ごそう。
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