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4thSEASON
かじかむ心を抱きしめて
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(1)
「パパさん!!」
愛莉がベッドに横たわる愛莉パパに駆け寄る。
愛莉パパは上身を起こしていて、愛莉を抱きしめる。
その右腕にはギブスがされてあった。
ギブスをされているのは右足もだった。
頭にも包帯を巻いてある。
「私達のせいだよね?ごめんね!ごめんね!」
「……大丈夫だよ。それよりお前も大きくなったんだな」
「ほえ?」
「パパに抱き着いてきたのは小学生以来だろ」
「あっ!」
愛莉は恥ずかしがって慌てて愛莉パパから離れる。
「駄目よ~パパさん。娘を困らせるようなこと言ったら~」
「ハハハ……嬉しくてついな。怪我もたまにはしてみるものだな」
「パパさんの馬鹿!本気で心配したんだよ!」
愛莉の言ってる事は本当だった。
「パパさんがいなくなったらどうしよう?」ってずっと泣きじゃくっていた。
「おじさんすいません、僕達のせいですよね?」
「怪我をしたのが君達じゃなくて良かったよ。おじさんはこれが仕事だからね。しかし君達は違う」
愛莉パパの顔が真顔になる。
「……しかしこういう事をしてくるのが今度の相手だ。十分気をつけなさい」
「分かってます」
分かってるけどどう対応したらいいかは見出せずにいた。
やられる前にやれ!が正解なのだろうか?
その後も愛莉パパの同僚の刑事とかがやって来たので僕達は病室を出た。
「じゃあ、母さんたちは帰るから何かあったら呼んでちょうだい」
「片桐さん~ご迷惑をおかけしました~」
「いえいえ、梨衣さんも無理しないでね」
「は~い」
母さんが僕を呼ぶ。
「ああ、見えて梨衣さんも酷く動揺してたの。それで母さん達が付き添って来たのよ。あんた達が相手になってやってちょうだい」
「分かった」
母さんたちは帰っていった。
愛莉は今愛莉ママの話し相手をしている。
「愛莉ちゃんが元気な孫を産んでくれるまではこっちに来るなと死んだお祖父さんに言われたらしくてね~」
「じゃあ、まだずっと長生きしてもらわないとね」
「そんなに待てないわよ~ママも~」
「そんなに弱気になっちゃだめだよ~冬夜君も何か言ってあげて」
なんて言えば良いんだろう?
「愛莉はもうすでに僕の物だって言ってるけど僕はまだちゃんとおじさんから受け取ってない。それまでは……」
「そうよね~。パパさんもその日を夢見てるわ~」
「片桐君ちょっと」
深雪さんが呼んでる。
「愛莉ちょっと行ってくるね。おばさんの事よろしく」
「うん」
深雪さんのもとに行く。
「どうしたの?」
「現場検証の結果を聞いたんだけどね。こう言っちゃなんだけどはねられたのが遠坂警視でよかったわ。他の一般市民なら致命傷になっていたかもしれない」
「と、いうと」
「横断歩道で信号待ちしている遠坂警視に突っ込んだそうよ。警視は咄嗟によけようとしたらしいけど避けられなくてそれで咄嗟に受け身をとったみたいね」
なるほどね。
「で、犯人の目星はついてるの?」
深雪さんが聞いてくる
「だいたい見当はついてる。太陽の騎士団絡みの事件だろう。ファイルを奪っていったらしいから」
「大丈夫なの?」
「もっていたのは検察庁に届けるコピーのファイルだったらしくて」
「それなら安心ね」
深雪さんはガムを噛みだした。
「ところで、今後どうするつもり?」
「え?」
「やられたらやり返すがユニティのやり方なんでしょ?」
「振り上げたこぶしをどこに降ろせばいいか分からないでいる」
「そんなの?太陽の騎士団にじゃない?」
さっさと情報を公表すればいい。深雪さんはそういう。
だけど僕はそれは違うと思う。
「今度のは一度しか使えない必殺の切札だ。時期を外すと効果が薄れる。タイミングは合わせたい。それは遠坂警視と話してある」
「それが12月25日?」
「だと僕は思ってる」
「また耐える日々が続くのね……」
深雪さんはため息を吐く。
「まあ、怪我しても致命傷じゃなかったら私が治してあげるから」
「怪我しないように気をつけるよ」
「そうしてちょうだい」
そう言うと深雪さんは去っていった。
愛莉の元に戻る。
「深雪さんなんて?」
「気をつけてってさ」
「そうだよね~……」
愛莉の表情が暗い。
無理もないか……。
「愛莉。僕はそろそろ帰るけど愛莉どうする?」
「う~ん……」
「冬夜君、愛莉ちゃんは冬夜君のものなの~、おばさんに気を使わなくていいのよ~。愛莉ちゃんもその覚悟で家を出たんでしょ~?」
「うぅ……そうだけど」
「冬夜君、愛莉ちゃんをお願いしま~す」
「じゃあ、帰る。なんかあったら連絡してね。絶対だよ~」
「先生が良いっておっしゃってるから大丈夫よ~また明日来なさいな~」
そう言って愛莉ママは僕と愛莉を玄関まで見送りに来てくれた。
「愛莉ママどうだった?」
愛莉に聞いていた。
「やっぱりショックだったみたい。いつものりえちゃんじゃなかった」
「そうか……」
「ねえ?冬夜君。やっぱり私達が狙われているのかな?」
「相手が高橋憲伸ならそうなるだろうね」
父さんと愛莉パパの因縁の相手。
「どうすればいいと思う?」
「時期を待つしかない、それまで耐えるしかない。僕はそう思ってる」
「皆を巻き込まないかな?」
「巻き込むだろうね?」
こういう時に嘘をついて安心させたって意味がない。
「私たち二人でやるべきだったね……」
「愛莉、こういう時に「たら、れば」は禁句だよ」
「ほえ?」
「あの時こうしたら、こうしていれば……言い出したら切りがない。それよりこれからどうするべきかを考えた方が良い」
「って事は冬夜君は考えてるの?」
「相手は焦れてる、必ず尻尾を出すはずだ。それを確実に押さえ込む。今までのやり方でやるべきだ」
「相手が乗ってこなかったら?」
その時は……
愛莉が僕をじっと見る。
「餌を用意するさ。前に見たんだイノシシを捕らえる時の罠。あの感じでやろうと思う」
「餌なんてあるの?」
「いくらでもあるさ」
「例えば?」
僕はにやりと笑う。
「冬夜君まさか……!」
「そのまさかだよ」
「そんなの絶対にダメ!冬夜君が囮になるなら私がなったほうがまだましだよ!」
「可愛いお嫁さんにさせられないよ」
「大切な旦那様を失いたくない」
「じゃあ、やっぱり気楽に待とう。その時が来るのを」
「……うぅ。やられっぱなしってのも癪だけどそうだね」
「とりあえず明日渡辺君と話するよ。渡辺君も明日休みだって言ってたし」
「じゃあ、皆で集合だね」
「そうなるな」
ひとまず家に帰ると夕食と両親が待っていた。
ご飯を食べながら両親と話をする。
話の話題は太陽の騎士団についてだった。
そう言えばうちの親の勤め先も合同新聞だったっけ?
心配する母さんと激励する父さん。
立場上父さんは表立って援護できないけどというものの協力してくれるらしい。
「息子がどうなってもいいんですか?」
「ここで逃げ出すような情けない息子に育てた覚えはない!」
「愛莉ちゃんの心配もしないんですか?」
「それは冬夜がきっちり守ってあげるだろう」
むしろ愛莉の方が強いけどな……。
そんな話をしながら僕達は適当にキリをつけ部屋に戻る。
「冬夜、父さんの心配はしなくてもいいからな!」
部屋に入る時父さんに言われた言葉。
部屋に戻ると交互に風呂に入り部屋で酎ハイを飲んで寛ぐ。
スマホのメッセージは愛莉パパと愛莉の心配をするメッセージが主だった。
愛莉が返信している。
一段落着いたところで二人でベッドに入って寝ることにした。
「パパさん大丈夫そうでよかった」
「よかったね」
「うん、冬夜君も気をつけてね」
「愛莉もな」
「うん……」
愛莉はまだ何か言って欲しいらしい。
大丈夫だよ。
「愛莉は僕が守る……心配しなくていい」
「ありがとう……でも無理しないでね」
「愛莉に心配かけるような真似はしないよ」
「約束だよ」
「ああ」
今夜は愛莉をかばうように包み込んで眠りについた。
(2)
「ただいま」
「お帰り、善君」
家に帰ると妻が温かく出迎えてくれる。
最近滅多に味わえなかったこと。
食卓にはおいしそうなご馳走が並んでいる。
それを肴に酒を飲みながら晶ちゃんと話をしていく。
話の話題は遠坂警視が襲われた事。
ファイルはダミーだったみたいけどやはり……ってな感じを受けた。
触れてはいけないものに触れた気がしますね。
この分だとうちにもダンプが突っ込んできそうな気がしますね。
滅多に味わえない団らんの時を終えると、二人で食器を洗う。
それが終ると二人交互にシャワーを浴びてビールを飲みながらテレビを見る。
ニュースをやっていた。
警察官がはねられる。
そのニュースをやっていた。
運転手からアルコールが検出されたと報じていたが多分虚偽の報道だろう。
晶ちゃんはスマホを手に操作している。
多分ユニティの皆と話をしているのだろう?
ニュースが終わり深夜番組が始まる頃僕達は寝る事にした。
明日はユニティの招集がかかっている。
バイトも休んだ。
「太陽の騎士団は許すわけにはいかないわね」
晶ちゃんはそう憤りを見せている。
怒る気持ちもごもっともですけどね。
「無茶はしないでおくれ」
スーツがあるとはいえ、やはり亭主としては心配だよ。
ただの恋愛グループどうしてこうなったんだろうね。
事の発端はエゴイストの暗躍からだけど。
僕なんてただの一苦学生だったのが一転して「リーパー」扱いですよ。
暴走も甚だしいと思うんですけど。
平穏と言う二文字が懐かしく感じるほどに、僕達の日常は変化していた。
こうしている時間が懐かしく思えるほどに、恋愛小説というジャンルから逸脱していた。
今はその時間を楽しむ時間。
その平穏をかみしめる時間。
今は辛くても、想い続けていればきっと叶うから……。
また平穏な時間が流れていく時を夢見て僕達は眠りについた。
(3)
ピピピピ……。
アラームが鳴る。
俺がアラームを消そうとすると聡美の手と重なった。
まだ朝8時だ……休みの日にしてはまだ早いけど起きてしまったらしょうがない。
聡美は朝飯の仕度に入る。
俺も着替えるとテレビをつける。
ニュースの話題は変貌した。
紅白の司会が誰になったとかフィギュアスケートの選手が変わったとか。
日常の話題に変わっていった。
「朝食出来たわよ」
聡美が言うので食卓につき朝食を食べる。
「やっと平穏な日が戻って来たわね」
聡美が言う。
「そうですね、やっとですよ……本当に」
「でも、そんなに長い時間楽しんでいられない」
聡美は悲しそうに言う。
「ユニティの皆は根こそぎ刈り取るつもりでいるそうだけど……」
何もそこまでしなくていいんじゃないか?
そんな気持ちが無い事もない。
「でもここで芽を摘んでおかないと私達の生活は保障されない」
聡美は淡々と言う。
「片桐君も言っていたわ。途中下車は許されない」
「それはそうだけど……」
「あなたの悪い癖よ、拓海。なんでも後ろ向きに考えてしまう。ここさえ乗り切ればどうにかなる。そうは考えられないの?」
「聡美、教えてくれ。俺達はあとどれだけ耐えたらいい?」
「少なくとも、今まで耐えてきたから今の時間があるんじゃない?」
今の時間を勝ち取るためだけにどれだけ危険な目にあってきたのか……それもすぐに消え去る。
「人間ね、たった一つの幸せに気づくのに多大な時間を要するの。私達は現在という幸せに気づくのに半年近くかかった。逆に考えたら半年で気づけた。そうは考えられない?」
ちっぽけな幸せに一生気づかないでいるよりはましだと聡美は言う。
「それに少なくとも私達は今月大きな幸せにたどり着ける。それは嬉しくない?」
「……嬉しいです」
「なら、それで良しとしましょう?」
聡美はそう言って笑った。
それから聡美は家事を始める。
家事が終ると家で仕事を始める。
俺もその手伝いをする。
のどかな時間。
この時間を手に入れる為にどれだけの犠牲を払ったのか?
そしてまたこの時間を手に入れる為にどれだけの危険を冒すのか?
世界中の時を止めて聡美と見つめ合えたら、二度と戻れないはるか遠くまで連れて行きたい。
凍えそうな夜はせめて夢の中で会いたい。
不器用にしか振舞えなくたって。
一途な愛なら誰にも負けないように。
喧騒から逃れても一人になりたくない今日は。
うじうじ考えても仕方ないな。
「聡美、今日は早めに出かけないか?」
「え?」
「お昼から出かけて映画でも見に行かないか?」
「見に行きたいのあるの?」
「ああ、気になる映画はある」
戦争もので非力なピアニストが戦場を生き延びて日常を取り戻す物語。
ピアノの音色がとても綺麗だと聞いた。
「買い物もしてみたいし」
「そういえばデートらしいデートしてなかったわね。結婚してから」
聡美には気づいてもらえたらしい。
「そういうことだ」
「わかったわ。じゃ、今日の作業はお終いね。準備しなくちゃ」
そう言って聡美はPCをシャットダウンして呪美を始める。
俺も準備を始めた。
日常を取り戻す準備を。
(4)
公生とDVDを見ていた。
子供用のアニメだと高をくくっていた。
大人になろうと足掻くけど自分の経験不足を痛感するストーリー。
BGMの主題歌がとても有名なアニメ。
私達もそうなのだろうか?
大人になりたくて足掻こうとしても、歴然とした経験不足が立ちはだかって大人になれない。
今は基礎を固める時期なんだ。
そんな事を考えながら見ていた。
映画が終ると公生は床に寝そべる。
そろそろ支度をしなくてはならない。
私は着替えを用意する。
公生の前で着替えるのは今更どうも思わない。
ずっと同じ部屋で過ごしてきたんだから。
「公生急いで、行きに寄りたいところあるから」
「寄るってどこに?」
「お爺様の家」
「僕に結婚させてくださいとでも言わせたいの?」
相変わらずの公生。
「言ってくれるのなら止めないけど」
そんな公生のあしらい方を少しだけ学んだ。
「まだ君にプロポーズすらしてないんだけど?」
「じゃあ、今してくれたらいい」
「どうしたの?映画の影響?」
公生でも驚くことあるんだ。
「そうだとしたらどうする?」
公生は悩んでいる。
「指輪のサイズ教えてよ」
え?
「婚約指輪……買えないだろ?」
そういう事ね?
「私も測ったこと無いから分からない。一緒に選ぼう?」
「麗しの君がそう言うなら光栄の限り」
「私はもう落ちぶれているわ。それでも付いて来てくれるなら……」
「どこまでもお供しますよ」
新條さんにお願いして、お爺様の家に寄ってもらった。
「よくきたね」
お爺様が出迎えてくれた。
前ほど立派な家じゃないけど、普通の民家に住んでいる。
「御前からの接触は?」
「ないね、あれからぱたりと止んだ。御前もそれどころではないんだろ?影武者として私は価値がなくなったからね」
お前たちの活躍のお蔭でな、と付け足して。
「では高橋家からの接触は」
「多額の慰謝料をもらってそれ以来ないのう。ニュースは見てる。またはじまったようじゃの?」
「真冬のディール」
私がその言葉を口にするとお爺様の口調が変わった。
「もうその局面に来たか」
「私達は阻止します。彼等の思い通りにはさせない」
「ふむ……。それでとどめをさせるはずだ。思い切りやりなさい」
「そのつもりです」
「ところで公生との仲はどうじゃ?」
「公生はその事で挨拶があるそうです」
意地悪を言ってやった。
「ほう?挨拶とはなにかな?公生」
公生に対する簡単な悪戯のはずだった。だけど公生はそうは受け取らなかったようだ。
公生は笑っている。
「実は今日奈留と指輪を買いに行くつもりです」
「ほう?」
「奈留が指輪を受け取ってくれたら。奈留と一緒になりたい」
戸籍上は無理だけど一緒になりたい。公生はそう言ってくれた。
「それは将来結婚したい。そうとって構わんのだな?」
お爺様が聞き返すと公生は頷いた。
「もう少し長生きせんといかんの」
お爺様はそう言って笑った。
「それでは私達約束があるので」
お爺様いそう言うとすっと立ち上がる。
「またおいで」
そう言って家を出る。
「じゃあ、早い所指輪を買おうか?麗しき君の気が変わらないうちにね」
公生はそう言って笑う。
私達は集合場所の居酒屋に行く前に宝石屋さんに寄って指輪を買った。
安い奴だけど意味はある。
こんな日常久しぶりだ。
集合時間まで時間があるので街ブラデートをしていた。
(5)
「みんな揃ったか?」
渡辺君の問いに、皆がグラスを掲げて答える。
「今日は集まってもらってありがとう。大所帯になったけど盛り上がろう」
「おお!」
「皆が酔う前に済ませておきたい用事が二件ある」
二件?
「まず一件は遠坂警視が事故にあった件だ」
皆がざわつく。
「世間では事故と言われているが事故じゃない、立派な犯罪だ。それは深雪先生が証明してくれる」
「警察から手に入れた情報よ。相手は遠坂警視に突進してきた。間違いないわ。それに怪我の仕方からして故意に当てたとしか考えられない」
愛莉を落ち着かせる。
「やられたらやり返すだろ!倍返しだ!相手は誰か分かってんだろ!?ぶっこみかけてやろうぜ!」
美嘉さんが言うと皆が盛り上がる。
「それだとただの抗争だ。今回は相手にとどめを刺す一撃を持っている。だから相手も焦ってこんな危険な行為に出たんだろう。今は耐えてくれ」
渡辺君が皆を宥めると、僕が立ち上がって言う。
「問題は使用するタイミングなんだ。時期を間違えるとまた逃げられて振出しに戻ってしまう。だから遠坂警視と相談した。今回は確実に相手の息の根を止める」
「でもそれって相手が罠に飛び込んでくると見越しての話でしょ?気づかれてる今意味がないんじゃない?」
恵美さんが言うと僕が答える。
「飛び込んで込まざるを得ないんだ。向こうは既に最後のカードを切った。このまま逃げても損するのは相手だけ。しかも致命的な損失を被る」
「どういうこと?」
「それは恵美さんが知ってるだろ?資料に載ってあった」
「あっ!?」
「そう、筆頭株主は高橋憲伸。沈んでしまう泥船に乗ってしまっている。逃げるタイミングはもうすでにない」
「なるほどね……。じゃあ、それまで躍起になって資料を回収にあたるわね?」
「しかし資料は既に警察庁に届いてある。今日遠坂警視に確認したよ」
「罠にはまった……そういうことね」
「そういうこと」
「どういうことだよ!」
「7ならべの結末だよ」
美嘉さんが言うと僕が答えた。
「そのカードをだしたら相手に上がられてしまう。でも他に手札が出せない。手札が無いから最後の悪あがきをしてる」
僕が言うと皆が納得した。
「じゃあ、もうあとは見てるだけで良いんだな!?」
「そうなるね」
「じゃあ、今日は前祝と行こうじゃないか!なあ皆!」
美嘉さんが言うと皆盛り上がった。
「もう一つ報告があるんだが」
渡辺君が言う。
そういや2件あるって言ってたな。
「公生と奈留、前に出てこい」
公生と奈留が前に出て来ると皆ざわつく。
様子が変だ。
公生は緊張している。奈留は……恥ずかしがっている。
「公生いつでもいいぞ!」
渡辺君が言うと。公生は意を決して言う。
「奈留。君と同じ時間を刻みたい」
そう言って指輪を差し出す。
飲み物吹きかけた。
だってまだ中学生だぞ!?
「はい……、こちらこそよろしくお願いします」
奈留が言うと皆が囃し立てる。
「今日はもう無礼講だ!皆盛大に祝おうぜ!」
カンナが言う。
「公生今日はめでたい席だ飲め!」
「未成年に飲酒を勧めるな!」
美嘉さんが言うと渡辺君が注意する。
「公生かっけーっす!自分感動したっす!!」
晴斗が拍手してる。
「晴斗はいつ私に求婚してくれるの?」
白鳥さんが晴斗に聞く。
「お、俺はそのまだ春奈を幸せにする自信がないっすから……」
まあ、19歳じゃ無理だよね。
「そんな自信いらないよ?私はいま十分幸せだから」
「トーヤもそうだが女性がして欲しいって言ってるんだ言ってやるのが男ってもんだろ!!」
「そうだぞ晴斗!ここは勢いで言ってしまえ!」
白鳥さんが言うとカンナと美嘉さんが口々に晴斗をたきつける。
「ま、晴斗も思うところがあるんだろ?そっとしておいてやれ」
助け舟を出したのは渡辺君だった。
「正志!女性が結婚して欲しいって言ってるのに待てって。男として間違ってねーか?」
「俺達はそれで良かったかもしれないが、晴斗は白鳥さんを自分ひとりで養っていけるのか不安なんだろ?そうだな?晴斗」
渡辺君が言うと晴斗は黙ってうなずいた。
「それだって、二人で共働きするとか方法あるだろう!?現にユニティで結婚してるカップルはみんなそうだろ!?」
「そんな無用な苦労を白鳥さんにさせたくないという思いもあるんだろうさ。と、いうわけで白鳥さん。少し待ってやってもらえないか?そんなに焦って結婚することもないだろ?」
「それもそうですね。でも、晴斗。あまり待たせないでね?」
「も、もちろんっす!男として自立出来たら必ず求婚するっす!」
「……ありがとう」
晴斗、君今君凄い事言ってるよ。それって半分求婚してるも同然だよ?それだけで「お嫁さんだから~」って暴走する人もいるんだよ。
「おめでとう、白鳥さん」
愛莉が拍手すると皆拍手する。
「ありがとうございます」と皆に礼をする白鳥さんと、事態が掴めていない晴斗。
今夜も盛大に盛り上がるのだった。
「すごいね、ユニティは」
タクシーの後部座席に座っる僕の右腕にしがみ付く愛莉。
「そうだね……すごいね」
色んな意味で。
愛莉の頭を撫でてやりがなら言う。
「本当に色んな所に幸せを繋げていって、皆で団結していく。その広がりはとどまることを知らない」
愛莉の言う通りだと思う。だけどこの先どこに向かうんだろう?
これまで通りの生活が約束されているわけじゃない。また、何か問題が出て来るかもしれない。
未だに解決していない問題だってある。それでもユニティは竜巻の如く周りを飲み込んで勢力を拡大していく。
それでもユニティは周りに幸せをまき散らしていくんだろう。
途中下車は許されない。
だけど辿り着く先も見えない終わりのない旅。
一つずつドアをノックしていって見えない世界を覗いていく旅。
変わり続ける街の片隅で夢の欠片が生まれてくる。
今にもそして僕はこのままで微かな光を胸に明日も進んでいくのだろう。
いつだってこの胸に流れてる明日を呼ぶ声。切なくて優しくて心が痛い。
陽の当たる坂道を上ったその先にまた新しい出会いがあるだろう。
その時は笑って虹の彼方に連れて行ってあげよう。
僕達の行く先は果てしなく続く無垢な世界。
「パパさん!!」
愛莉がベッドに横たわる愛莉パパに駆け寄る。
愛莉パパは上身を起こしていて、愛莉を抱きしめる。
その右腕にはギブスがされてあった。
ギブスをされているのは右足もだった。
頭にも包帯を巻いてある。
「私達のせいだよね?ごめんね!ごめんね!」
「……大丈夫だよ。それよりお前も大きくなったんだな」
「ほえ?」
「パパに抱き着いてきたのは小学生以来だろ」
「あっ!」
愛莉は恥ずかしがって慌てて愛莉パパから離れる。
「駄目よ~パパさん。娘を困らせるようなこと言ったら~」
「ハハハ……嬉しくてついな。怪我もたまにはしてみるものだな」
「パパさんの馬鹿!本気で心配したんだよ!」
愛莉の言ってる事は本当だった。
「パパさんがいなくなったらどうしよう?」ってずっと泣きじゃくっていた。
「おじさんすいません、僕達のせいですよね?」
「怪我をしたのが君達じゃなくて良かったよ。おじさんはこれが仕事だからね。しかし君達は違う」
愛莉パパの顔が真顔になる。
「……しかしこういう事をしてくるのが今度の相手だ。十分気をつけなさい」
「分かってます」
分かってるけどどう対応したらいいかは見出せずにいた。
やられる前にやれ!が正解なのだろうか?
その後も愛莉パパの同僚の刑事とかがやって来たので僕達は病室を出た。
「じゃあ、母さんたちは帰るから何かあったら呼んでちょうだい」
「片桐さん~ご迷惑をおかけしました~」
「いえいえ、梨衣さんも無理しないでね」
「は~い」
母さんが僕を呼ぶ。
「ああ、見えて梨衣さんも酷く動揺してたの。それで母さん達が付き添って来たのよ。あんた達が相手になってやってちょうだい」
「分かった」
母さんたちは帰っていった。
愛莉は今愛莉ママの話し相手をしている。
「愛莉ちゃんが元気な孫を産んでくれるまではこっちに来るなと死んだお祖父さんに言われたらしくてね~」
「じゃあ、まだずっと長生きしてもらわないとね」
「そんなに待てないわよ~ママも~」
「そんなに弱気になっちゃだめだよ~冬夜君も何か言ってあげて」
なんて言えば良いんだろう?
「愛莉はもうすでに僕の物だって言ってるけど僕はまだちゃんとおじさんから受け取ってない。それまでは……」
「そうよね~。パパさんもその日を夢見てるわ~」
「片桐君ちょっと」
深雪さんが呼んでる。
「愛莉ちょっと行ってくるね。おばさんの事よろしく」
「うん」
深雪さんのもとに行く。
「どうしたの?」
「現場検証の結果を聞いたんだけどね。こう言っちゃなんだけどはねられたのが遠坂警視でよかったわ。他の一般市民なら致命傷になっていたかもしれない」
「と、いうと」
「横断歩道で信号待ちしている遠坂警視に突っ込んだそうよ。警視は咄嗟によけようとしたらしいけど避けられなくてそれで咄嗟に受け身をとったみたいね」
なるほどね。
「で、犯人の目星はついてるの?」
深雪さんが聞いてくる
「だいたい見当はついてる。太陽の騎士団絡みの事件だろう。ファイルを奪っていったらしいから」
「大丈夫なの?」
「もっていたのは検察庁に届けるコピーのファイルだったらしくて」
「それなら安心ね」
深雪さんはガムを噛みだした。
「ところで、今後どうするつもり?」
「え?」
「やられたらやり返すがユニティのやり方なんでしょ?」
「振り上げたこぶしをどこに降ろせばいいか分からないでいる」
「そんなの?太陽の騎士団にじゃない?」
さっさと情報を公表すればいい。深雪さんはそういう。
だけど僕はそれは違うと思う。
「今度のは一度しか使えない必殺の切札だ。時期を外すと効果が薄れる。タイミングは合わせたい。それは遠坂警視と話してある」
「それが12月25日?」
「だと僕は思ってる」
「また耐える日々が続くのね……」
深雪さんはため息を吐く。
「まあ、怪我しても致命傷じゃなかったら私が治してあげるから」
「怪我しないように気をつけるよ」
「そうしてちょうだい」
そう言うと深雪さんは去っていった。
愛莉の元に戻る。
「深雪さんなんて?」
「気をつけてってさ」
「そうだよね~……」
愛莉の表情が暗い。
無理もないか……。
「愛莉。僕はそろそろ帰るけど愛莉どうする?」
「う~ん……」
「冬夜君、愛莉ちゃんは冬夜君のものなの~、おばさんに気を使わなくていいのよ~。愛莉ちゃんもその覚悟で家を出たんでしょ~?」
「うぅ……そうだけど」
「冬夜君、愛莉ちゃんをお願いしま~す」
「じゃあ、帰る。なんかあったら連絡してね。絶対だよ~」
「先生が良いっておっしゃってるから大丈夫よ~また明日来なさいな~」
そう言って愛莉ママは僕と愛莉を玄関まで見送りに来てくれた。
「愛莉ママどうだった?」
愛莉に聞いていた。
「やっぱりショックだったみたい。いつものりえちゃんじゃなかった」
「そうか……」
「ねえ?冬夜君。やっぱり私達が狙われているのかな?」
「相手が高橋憲伸ならそうなるだろうね」
父さんと愛莉パパの因縁の相手。
「どうすればいいと思う?」
「時期を待つしかない、それまで耐えるしかない。僕はそう思ってる」
「皆を巻き込まないかな?」
「巻き込むだろうね?」
こういう時に嘘をついて安心させたって意味がない。
「私たち二人でやるべきだったね……」
「愛莉、こういう時に「たら、れば」は禁句だよ」
「ほえ?」
「あの時こうしたら、こうしていれば……言い出したら切りがない。それよりこれからどうするべきかを考えた方が良い」
「って事は冬夜君は考えてるの?」
「相手は焦れてる、必ず尻尾を出すはずだ。それを確実に押さえ込む。今までのやり方でやるべきだ」
「相手が乗ってこなかったら?」
その時は……
愛莉が僕をじっと見る。
「餌を用意するさ。前に見たんだイノシシを捕らえる時の罠。あの感じでやろうと思う」
「餌なんてあるの?」
「いくらでもあるさ」
「例えば?」
僕はにやりと笑う。
「冬夜君まさか……!」
「そのまさかだよ」
「そんなの絶対にダメ!冬夜君が囮になるなら私がなったほうがまだましだよ!」
「可愛いお嫁さんにさせられないよ」
「大切な旦那様を失いたくない」
「じゃあ、やっぱり気楽に待とう。その時が来るのを」
「……うぅ。やられっぱなしってのも癪だけどそうだね」
「とりあえず明日渡辺君と話するよ。渡辺君も明日休みだって言ってたし」
「じゃあ、皆で集合だね」
「そうなるな」
ひとまず家に帰ると夕食と両親が待っていた。
ご飯を食べながら両親と話をする。
話の話題は太陽の騎士団についてだった。
そう言えばうちの親の勤め先も合同新聞だったっけ?
心配する母さんと激励する父さん。
立場上父さんは表立って援護できないけどというものの協力してくれるらしい。
「息子がどうなってもいいんですか?」
「ここで逃げ出すような情けない息子に育てた覚えはない!」
「愛莉ちゃんの心配もしないんですか?」
「それは冬夜がきっちり守ってあげるだろう」
むしろ愛莉の方が強いけどな……。
そんな話をしながら僕達は適当にキリをつけ部屋に戻る。
「冬夜、父さんの心配はしなくてもいいからな!」
部屋に入る時父さんに言われた言葉。
部屋に戻ると交互に風呂に入り部屋で酎ハイを飲んで寛ぐ。
スマホのメッセージは愛莉パパと愛莉の心配をするメッセージが主だった。
愛莉が返信している。
一段落着いたところで二人でベッドに入って寝ることにした。
「パパさん大丈夫そうでよかった」
「よかったね」
「うん、冬夜君も気をつけてね」
「愛莉もな」
「うん……」
愛莉はまだ何か言って欲しいらしい。
大丈夫だよ。
「愛莉は僕が守る……心配しなくていい」
「ありがとう……でも無理しないでね」
「愛莉に心配かけるような真似はしないよ」
「約束だよ」
「ああ」
今夜は愛莉をかばうように包み込んで眠りについた。
(2)
「ただいま」
「お帰り、善君」
家に帰ると妻が温かく出迎えてくれる。
最近滅多に味わえなかったこと。
食卓にはおいしそうなご馳走が並んでいる。
それを肴に酒を飲みながら晶ちゃんと話をしていく。
話の話題は遠坂警視が襲われた事。
ファイルはダミーだったみたいけどやはり……ってな感じを受けた。
触れてはいけないものに触れた気がしますね。
この分だとうちにもダンプが突っ込んできそうな気がしますね。
滅多に味わえない団らんの時を終えると、二人で食器を洗う。
それが終ると二人交互にシャワーを浴びてビールを飲みながらテレビを見る。
ニュースをやっていた。
警察官がはねられる。
そのニュースをやっていた。
運転手からアルコールが検出されたと報じていたが多分虚偽の報道だろう。
晶ちゃんはスマホを手に操作している。
多分ユニティの皆と話をしているのだろう?
ニュースが終わり深夜番組が始まる頃僕達は寝る事にした。
明日はユニティの招集がかかっている。
バイトも休んだ。
「太陽の騎士団は許すわけにはいかないわね」
晶ちゃんはそう憤りを見せている。
怒る気持ちもごもっともですけどね。
「無茶はしないでおくれ」
スーツがあるとはいえ、やはり亭主としては心配だよ。
ただの恋愛グループどうしてこうなったんだろうね。
事の発端はエゴイストの暗躍からだけど。
僕なんてただの一苦学生だったのが一転して「リーパー」扱いですよ。
暴走も甚だしいと思うんですけど。
平穏と言う二文字が懐かしく感じるほどに、僕達の日常は変化していた。
こうしている時間が懐かしく思えるほどに、恋愛小説というジャンルから逸脱していた。
今はその時間を楽しむ時間。
その平穏をかみしめる時間。
今は辛くても、想い続けていればきっと叶うから……。
また平穏な時間が流れていく時を夢見て僕達は眠りについた。
(3)
ピピピピ……。
アラームが鳴る。
俺がアラームを消そうとすると聡美の手と重なった。
まだ朝8時だ……休みの日にしてはまだ早いけど起きてしまったらしょうがない。
聡美は朝飯の仕度に入る。
俺も着替えるとテレビをつける。
ニュースの話題は変貌した。
紅白の司会が誰になったとかフィギュアスケートの選手が変わったとか。
日常の話題に変わっていった。
「朝食出来たわよ」
聡美が言うので食卓につき朝食を食べる。
「やっと平穏な日が戻って来たわね」
聡美が言う。
「そうですね、やっとですよ……本当に」
「でも、そんなに長い時間楽しんでいられない」
聡美は悲しそうに言う。
「ユニティの皆は根こそぎ刈り取るつもりでいるそうだけど……」
何もそこまでしなくていいんじゃないか?
そんな気持ちが無い事もない。
「でもここで芽を摘んでおかないと私達の生活は保障されない」
聡美は淡々と言う。
「片桐君も言っていたわ。途中下車は許されない」
「それはそうだけど……」
「あなたの悪い癖よ、拓海。なんでも後ろ向きに考えてしまう。ここさえ乗り切ればどうにかなる。そうは考えられないの?」
「聡美、教えてくれ。俺達はあとどれだけ耐えたらいい?」
「少なくとも、今まで耐えてきたから今の時間があるんじゃない?」
今の時間を勝ち取るためだけにどれだけ危険な目にあってきたのか……それもすぐに消え去る。
「人間ね、たった一つの幸せに気づくのに多大な時間を要するの。私達は現在という幸せに気づくのに半年近くかかった。逆に考えたら半年で気づけた。そうは考えられない?」
ちっぽけな幸せに一生気づかないでいるよりはましだと聡美は言う。
「それに少なくとも私達は今月大きな幸せにたどり着ける。それは嬉しくない?」
「……嬉しいです」
「なら、それで良しとしましょう?」
聡美はそう言って笑った。
それから聡美は家事を始める。
家事が終ると家で仕事を始める。
俺もその手伝いをする。
のどかな時間。
この時間を手に入れる為にどれだけの犠牲を払ったのか?
そしてまたこの時間を手に入れる為にどれだけの危険を冒すのか?
世界中の時を止めて聡美と見つめ合えたら、二度と戻れないはるか遠くまで連れて行きたい。
凍えそうな夜はせめて夢の中で会いたい。
不器用にしか振舞えなくたって。
一途な愛なら誰にも負けないように。
喧騒から逃れても一人になりたくない今日は。
うじうじ考えても仕方ないな。
「聡美、今日は早めに出かけないか?」
「え?」
「お昼から出かけて映画でも見に行かないか?」
「見に行きたいのあるの?」
「ああ、気になる映画はある」
戦争もので非力なピアニストが戦場を生き延びて日常を取り戻す物語。
ピアノの音色がとても綺麗だと聞いた。
「買い物もしてみたいし」
「そういえばデートらしいデートしてなかったわね。結婚してから」
聡美には気づいてもらえたらしい。
「そういうことだ」
「わかったわ。じゃ、今日の作業はお終いね。準備しなくちゃ」
そう言って聡美はPCをシャットダウンして呪美を始める。
俺も準備を始めた。
日常を取り戻す準備を。
(4)
公生とDVDを見ていた。
子供用のアニメだと高をくくっていた。
大人になろうと足掻くけど自分の経験不足を痛感するストーリー。
BGMの主題歌がとても有名なアニメ。
私達もそうなのだろうか?
大人になりたくて足掻こうとしても、歴然とした経験不足が立ちはだかって大人になれない。
今は基礎を固める時期なんだ。
そんな事を考えながら見ていた。
映画が終ると公生は床に寝そべる。
そろそろ支度をしなくてはならない。
私は着替えを用意する。
公生の前で着替えるのは今更どうも思わない。
ずっと同じ部屋で過ごしてきたんだから。
「公生急いで、行きに寄りたいところあるから」
「寄るってどこに?」
「お爺様の家」
「僕に結婚させてくださいとでも言わせたいの?」
相変わらずの公生。
「言ってくれるのなら止めないけど」
そんな公生のあしらい方を少しだけ学んだ。
「まだ君にプロポーズすらしてないんだけど?」
「じゃあ、今してくれたらいい」
「どうしたの?映画の影響?」
公生でも驚くことあるんだ。
「そうだとしたらどうする?」
公生は悩んでいる。
「指輪のサイズ教えてよ」
え?
「婚約指輪……買えないだろ?」
そういう事ね?
「私も測ったこと無いから分からない。一緒に選ぼう?」
「麗しの君がそう言うなら光栄の限り」
「私はもう落ちぶれているわ。それでも付いて来てくれるなら……」
「どこまでもお供しますよ」
新條さんにお願いして、お爺様の家に寄ってもらった。
「よくきたね」
お爺様が出迎えてくれた。
前ほど立派な家じゃないけど、普通の民家に住んでいる。
「御前からの接触は?」
「ないね、あれからぱたりと止んだ。御前もそれどころではないんだろ?影武者として私は価値がなくなったからね」
お前たちの活躍のお蔭でな、と付け足して。
「では高橋家からの接触は」
「多額の慰謝料をもらってそれ以来ないのう。ニュースは見てる。またはじまったようじゃの?」
「真冬のディール」
私がその言葉を口にするとお爺様の口調が変わった。
「もうその局面に来たか」
「私達は阻止します。彼等の思い通りにはさせない」
「ふむ……。それでとどめをさせるはずだ。思い切りやりなさい」
「そのつもりです」
「ところで公生との仲はどうじゃ?」
「公生はその事で挨拶があるそうです」
意地悪を言ってやった。
「ほう?挨拶とはなにかな?公生」
公生に対する簡単な悪戯のはずだった。だけど公生はそうは受け取らなかったようだ。
公生は笑っている。
「実は今日奈留と指輪を買いに行くつもりです」
「ほう?」
「奈留が指輪を受け取ってくれたら。奈留と一緒になりたい」
戸籍上は無理だけど一緒になりたい。公生はそう言ってくれた。
「それは将来結婚したい。そうとって構わんのだな?」
お爺様が聞き返すと公生は頷いた。
「もう少し長生きせんといかんの」
お爺様はそう言って笑った。
「それでは私達約束があるので」
お爺様いそう言うとすっと立ち上がる。
「またおいで」
そう言って家を出る。
「じゃあ、早い所指輪を買おうか?麗しき君の気が変わらないうちにね」
公生はそう言って笑う。
私達は集合場所の居酒屋に行く前に宝石屋さんに寄って指輪を買った。
安い奴だけど意味はある。
こんな日常久しぶりだ。
集合時間まで時間があるので街ブラデートをしていた。
(5)
「みんな揃ったか?」
渡辺君の問いに、皆がグラスを掲げて答える。
「今日は集まってもらってありがとう。大所帯になったけど盛り上がろう」
「おお!」
「皆が酔う前に済ませておきたい用事が二件ある」
二件?
「まず一件は遠坂警視が事故にあった件だ」
皆がざわつく。
「世間では事故と言われているが事故じゃない、立派な犯罪だ。それは深雪先生が証明してくれる」
「警察から手に入れた情報よ。相手は遠坂警視に突進してきた。間違いないわ。それに怪我の仕方からして故意に当てたとしか考えられない」
愛莉を落ち着かせる。
「やられたらやり返すだろ!倍返しだ!相手は誰か分かってんだろ!?ぶっこみかけてやろうぜ!」
美嘉さんが言うと皆が盛り上がる。
「それだとただの抗争だ。今回は相手にとどめを刺す一撃を持っている。だから相手も焦ってこんな危険な行為に出たんだろう。今は耐えてくれ」
渡辺君が皆を宥めると、僕が立ち上がって言う。
「問題は使用するタイミングなんだ。時期を間違えるとまた逃げられて振出しに戻ってしまう。だから遠坂警視と相談した。今回は確実に相手の息の根を止める」
「でもそれって相手が罠に飛び込んでくると見越しての話でしょ?気づかれてる今意味がないんじゃない?」
恵美さんが言うと僕が答える。
「飛び込んで込まざるを得ないんだ。向こうは既に最後のカードを切った。このまま逃げても損するのは相手だけ。しかも致命的な損失を被る」
「どういうこと?」
「それは恵美さんが知ってるだろ?資料に載ってあった」
「あっ!?」
「そう、筆頭株主は高橋憲伸。沈んでしまう泥船に乗ってしまっている。逃げるタイミングはもうすでにない」
「なるほどね……。じゃあ、それまで躍起になって資料を回収にあたるわね?」
「しかし資料は既に警察庁に届いてある。今日遠坂警視に確認したよ」
「罠にはまった……そういうことね」
「そういうこと」
「どういうことだよ!」
「7ならべの結末だよ」
美嘉さんが言うと僕が答えた。
「そのカードをだしたら相手に上がられてしまう。でも他に手札が出せない。手札が無いから最後の悪あがきをしてる」
僕が言うと皆が納得した。
「じゃあ、もうあとは見てるだけで良いんだな!?」
「そうなるね」
「じゃあ、今日は前祝と行こうじゃないか!なあ皆!」
美嘉さんが言うと皆盛り上がった。
「もう一つ報告があるんだが」
渡辺君が言う。
そういや2件あるって言ってたな。
「公生と奈留、前に出てこい」
公生と奈留が前に出て来ると皆ざわつく。
様子が変だ。
公生は緊張している。奈留は……恥ずかしがっている。
「公生いつでもいいぞ!」
渡辺君が言うと。公生は意を決して言う。
「奈留。君と同じ時間を刻みたい」
そう言って指輪を差し出す。
飲み物吹きかけた。
だってまだ中学生だぞ!?
「はい……、こちらこそよろしくお願いします」
奈留が言うと皆が囃し立てる。
「今日はもう無礼講だ!皆盛大に祝おうぜ!」
カンナが言う。
「公生今日はめでたい席だ飲め!」
「未成年に飲酒を勧めるな!」
美嘉さんが言うと渡辺君が注意する。
「公生かっけーっす!自分感動したっす!!」
晴斗が拍手してる。
「晴斗はいつ私に求婚してくれるの?」
白鳥さんが晴斗に聞く。
「お、俺はそのまだ春奈を幸せにする自信がないっすから……」
まあ、19歳じゃ無理だよね。
「そんな自信いらないよ?私はいま十分幸せだから」
「トーヤもそうだが女性がして欲しいって言ってるんだ言ってやるのが男ってもんだろ!!」
「そうだぞ晴斗!ここは勢いで言ってしまえ!」
白鳥さんが言うとカンナと美嘉さんが口々に晴斗をたきつける。
「ま、晴斗も思うところがあるんだろ?そっとしておいてやれ」
助け舟を出したのは渡辺君だった。
「正志!女性が結婚して欲しいって言ってるのに待てって。男として間違ってねーか?」
「俺達はそれで良かったかもしれないが、晴斗は白鳥さんを自分ひとりで養っていけるのか不安なんだろ?そうだな?晴斗」
渡辺君が言うと晴斗は黙ってうなずいた。
「それだって、二人で共働きするとか方法あるだろう!?現にユニティで結婚してるカップルはみんなそうだろ!?」
「そんな無用な苦労を白鳥さんにさせたくないという思いもあるんだろうさ。と、いうわけで白鳥さん。少し待ってやってもらえないか?そんなに焦って結婚することもないだろ?」
「それもそうですね。でも、晴斗。あまり待たせないでね?」
「も、もちろんっす!男として自立出来たら必ず求婚するっす!」
「……ありがとう」
晴斗、君今君凄い事言ってるよ。それって半分求婚してるも同然だよ?それだけで「お嫁さんだから~」って暴走する人もいるんだよ。
「おめでとう、白鳥さん」
愛莉が拍手すると皆拍手する。
「ありがとうございます」と皆に礼をする白鳥さんと、事態が掴めていない晴斗。
今夜も盛大に盛り上がるのだった。
「すごいね、ユニティは」
タクシーの後部座席に座っる僕の右腕にしがみ付く愛莉。
「そうだね……すごいね」
色んな意味で。
愛莉の頭を撫でてやりがなら言う。
「本当に色んな所に幸せを繋げていって、皆で団結していく。その広がりはとどまることを知らない」
愛莉の言う通りだと思う。だけどこの先どこに向かうんだろう?
これまで通りの生活が約束されているわけじゃない。また、何か問題が出て来るかもしれない。
未だに解決していない問題だってある。それでもユニティは竜巻の如く周りを飲み込んで勢力を拡大していく。
それでもユニティは周りに幸せをまき散らしていくんだろう。
途中下車は許されない。
だけど辿り着く先も見えない終わりのない旅。
一つずつドアをノックしていって見えない世界を覗いていく旅。
変わり続ける街の片隅で夢の欠片が生まれてくる。
今にもそして僕はこのままで微かな光を胸に明日も進んでいくのだろう。
いつだってこの胸に流れてる明日を呼ぶ声。切なくて優しくて心が痛い。
陽の当たる坂道を上ったその先にまた新しい出会いがあるだろう。
その時は笑って虹の彼方に連れて行ってあげよう。
僕達の行く先は果てしなく続く無垢な世界。
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