優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

ありふれた時間が愛しく思えたら

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(1)

「ただいま~りえちゃん」
「あら、いらっしゃい~待ってたわよ~。さ、上がって~」

愛莉ママにリビングに案内される。

「色々あって挨拶が遅れました。これつまらないものですが」

僕は地元の高級銘菓を指しだす。

「……ありがとう。だがそういう他人行儀な事は今日までにしてくれ。梨衣、お茶を要してくれ」
「は~い」

それから愛莉の両親と一日を過ごした。
と、言っても話すことは殆どないんだけど。
だって祝勝会を開いてくれたから。
ただ、一応挨拶に伺っておいた方が良いと思って来ただけ。

「冬夜君~夕食食べていきなさいな~ご馳走作ってあげる~」
「あ、でも……」
「りえちゃん私も手伝う~」
「良いのよ愛莉ちゃん。今日はお客様なんだから~」

そう言って愛莉の提案を断る愛莉ママ。

「いいんだよ、今日はゆっくりくつろいで行きなさい」

愛莉パパはそう言って笑っている。
愛莉ママのご馳走を肴に酒は進む。

「冬夜君食べ過ぎたら駄目だよ?」

愛莉が言う。「飲み過ぎたら」と言わないところが愛莉らしさなんだろ。
しかし出されたものを残さないのが礼儀。
きっちり平らげる。
その後は愛莉パパと飲みながら話をする。
女性陣は片づけをしていた。
僕も手伝った方が良いんじゃないかと思ったけど、愛莉パパが「女手に任せておいておこう」と言うので任せておいた。
片づけが終わった愛莉たちが戻ってくると「お疲れ様」と愛莉の撫でてやる。
それで愛莉の機嫌が良くなると思ってた。
しかし「冬夜君飲み過ぎだよ!お酒臭い!」と顰蹙を買う。

「パパさんも冬夜君に飲ませ過ぎたらだめでしょ!」

愛莉が愛莉パパに叱ると愛莉パパは「う、うむ……」と言葉を濁す。

「男同士話したい事もあったんでしょ?あまり女が口出ししたらいけないこともあるのよ~」

愛莉ママが愛莉を宥める。愛莉は「うぅ……」と反論を許されずいた。

「ところで冬夜君。君は二度世界の頂点を見てきた。その頂点には何が見えた?」

誠にも言われた事だ。
僕は答えた。

「何もありませんでした、下には必死に足掻いて自分がと這い上がる人たちがいるくらいで。ただ景色は良かった。それだけです」
「なるほど、君に執着する意志はないわけだね?」
「はい、2度も見たらもう十分です」

更なる高みにW杯なんてものもあるけど興味は無かった。
上を目指していたらきりがない。
バスケで生きる道は自ら幕を下ろすと決めた。
だったらそんなものにこだわる必要が無いと思ったから。

「これからどうするつもりなんだい?」

愛莉パパが聞いてくる。僕は答えた。

「後期は愛莉とのんびり過ごします。愛莉との思い出作ってやりたい」

取りあえずは来月に愛莉とどこか旅行に行こう。
そう決めてた。
行き先も決めてある。
そう言うと愛莉は喜んでいた。
そうして時間が経つと愛莉と家に帰る。

「また遊びにいらっしゃい~」

愛莉ママに見送られて僕達は家に帰った。
家に帰ると風呂に入って愛莉を待つ。
愛莉が戻ってくると愛莉は髪を乾かしている。
その間にノートPCを弄っていた
愛莉もノートPCを起動させて帳簿をつけている。
やっぱり五輪での出費は大きかったらしい。
まあ、想い出はプライスレスというしね。
いいんじゃないか?と愛莉に言うと「そうだね」と返した。
愛莉の作業が終わると愛莉とゲームをして楽しむ。
そして時間が来ると眠りにつく。
ありふれた日常をとりもどしていた。

(2)

「おはよう冬夜君。朝ごはんの時間だよ~」

こう言うと大体冬夜君は起きてくれる。
そしてすぐに仕度を始める。
なんか寂しい。
前ならもっと甘えて来てくれたのに。
そんな感じでベッドに座っていると冬夜君は隣に座って「ご飯食べたらどこか行こうか?」と誘ってくれる。
私は嬉しい。
朝食を食べると、すぐに仕度に入る。
冬夜君は着替えて準備をしている。
どこに連れて行ってくれるんだろう?
そんな期待もあった。
着替えてる最中に冬夜君は抱きついてくる。

「今は準備中だからだめだよ~」
「いや、こうしている時間が懐かしく思えてさ……」

そうだね。

「今日はどこに行くの?」
「適当に映画でも見に行こうかと思ったけど?」
「わかった~」

どこへでもよかった。
冬夜君とデートができるなら。
ずっとバスケだったから。
映画を見た後昼食を取ってこれからどうするか考える。
考えた末日田に行くことにした。
日田の市内を散策する。
真夏日の続く日田市内だけど冬夜君はやっぱり冬夜君だった。
ソフトクリームを食べて焼きそばを食べて……。
日課続けさせた方が良いんじゃないか?
そう思った。
日田の散策を終えると国道を通って帰る。
途中温泉街に出る。
いつか来ようね。
そんな話をしていた。
市内に入る頃には夕暮れ時だった。
ファミレスで夕食を食べて帰る。
帰るとお風呂に入ってゆっくり過ごす。
テレビを見ながら帳簿をつける。

「今日はどうだった?」

本当は中味なんてどうだっていい癖に。
冬夜君はなにかと理由をつけては私にくっ付いてくる。
それが嬉しかった。

「いつも通りだよ~」

そう言って冬夜君に身を預ける。
ありふれた時間が愛しく思える。
それは愛の仕業だと冬夜君は小さく笑う。
私が見せる仕草は冬夜君に向けてるサイン。
冬夜君は何一つ見落とさない。
そう考えてくれてる。
偶に無頓着な言葉で汚しあって互いの未熟さに嫌気がさすけど、いつかは裸になり甘い体温に触れて優しさを見せつけ合う。
似てるけどどこか違うようで同じ匂い。
体でも心でもなく愛している。
僅かだって明りが心に灯るなら大切にしなきゃ。
巡り会ったすべてのものから送られるサイン。
何一つ見逃さずに暮らしていこう。
私達には残された時間があるから、大切にしなきゃねと冬夜君が小さく笑った。
冬夜君を強くさせるサイン。
何一つ見落とさない。そうやって暮らしていこう。
そんな事を考えてくれている。
そんなサインが届いてくれると良いな。
でもちゃんと届いている。
私の気づかないところで冬夜君は今も奏でている。
育たないで萎れてた新芽みたいな想いを二つ重ねて鳴らすハーモニー。
今日もありふれた一日を過ごしていたけど、それが愛おしく思えた。

(3)

「愛莉、準備出来た~?」
「もうちょっとまって~」

今日は渡辺班のキャンプの日。
去年と同じ様に遊園地に行ってキャンプをする。
僕は荷物を積み込んでいた。
狭間インターそばのコンビニで待ち合わせ。
そして出発する。
どうしてこの時期を選んだのか?
僕の五輪のお蔭で時期を逃したこと。
奈留と公生が学校始まるから中学の夏休み最後の思い出にでと選んだ。
進学はどうするのかと聞いたら二人共防府高校にするらしい。
理由は近いから。

「自転車で上り坂を上るなんて面倒だよ」と公生が笑って言った。

二人とも自転車で通学するらしい。
今なら大丈夫だろう。
公生達も大学は地元大学を受けるそうだ。
公生は理工学部。
奈留は教育学部。
もうそこまで考えているんだな。

「奈留ちゃんは先生になりたいの?」

愛莉が聞いていた。
奈留は小さくうなずいた。
「でもどうせすぐ結婚するんだから関係ないよ」と奈留は笑う。
奈留も専業主婦を目指すらしい。
今家で家事の特訓をしてるんだとか。
そう話してる間に皆集まった。
渡辺君を先頭に出発する。
高速道路だと仕方ないのだろうか?
飛ばせそうな車はおろかワゴン車まで我先にと飛ばす始末。
僕達はそんな皆を呆れながら見ていた。
遊園地の駐車場で案の定怒られる男性陣。

「トーヤを見習え!」

そんな風に怒られていた。
今日のキャンプはまた説教から始まるんだろうな。

「と、取りあえずみんな遊園地で遊んでいかないか?公生と奈留も今年は二人で行動で問題ないな」

渡辺君が言う。

「僕達は問題ないよ」と公生が笑う。
「俺達は適当に時間潰しておくよ」と栗林君が言う。

北村さんが乗り物苦手らしい。
愛莉もそんな時期あったな。
愛莉を見て笑った。

時間は2時間ほど。それからみんなで昼食を食べて志高湖に向かった。
テントを設営する。
全部で20個近いテントが集まっている。
一つの集落だ。
火を起こしたりするのは石原君がやっている。
女性陣はバーベキューの下ごしらえとご飯を炊く準備をしている。
男性陣は集まって相談している。

「明日、去年みたいにまたあそこに行くのか……?」
「まあ、そうなるだろうな……」

頭を抱える男性陣。
最後の抵抗を試みてみた。

「明日は地獄めぐりでもしてみないか?」
「普通に調和の国でいいだろ?」
「地獄めぐりするには車多すぎるよ」
「下まで下りたら観光バスがでてるよ」

苦戦する誠に貸しを作ってやったつもりだった。

「北村さんも乗り物苦手みたいだしさ」
「あそこ売店とかパレードあるんですよね?私は大丈夫ですよ」
「じゃ、決まりだね♪」
「あ、いや偶にはのんびり温泉観光も」
「冬夜君が行きたいなら今度一緒に行こう?」
「いや、皆と一緒に……」
「決まりだね♪」

ごめん、誠。愛莉には逆らえない。

「調和の国か、久しぶりだな~」

ちぃちゃんが言う。

「俺は行ったことないな。どんなところなんですか?」
「楽しい所だよ」
「そうか、楽しみだな」

そうか、君達は行ったことないんだね。
去年行った組とは対照的に明るい男性陣。

「去年行ったじゃんか!一度行けば十分だろ!?」

馬鹿!桐谷君そんな事言ったら……。

「瑛大は嫁とのデートがつまならいのか……?」
「そういや、男性陣皆つまらなさそうにしてたな……?」
「まさかおまえら皆拒否してるわけじゃないだろうな?」

亜依さんとカンナと美嘉さんが言う。

「い、いやだな。そんなわけないだろ?なあ?冬夜?」
「そ、そうだよ。考えすぎだよカンナ」
「俺も同感だな。偶には嫁にサービスしてやらないとな」

冷酷に桐谷君を切り捨てる僕達。

「桐谷君、来月みっちりしごいてあげようかしら」

恵美さんが言う。

「い、いや俺バイトあるから」

桐谷君も必死に逃げようとする。
僕らに助けてと目で訴える。
僕らは非情にも彼を切り捨てる。
夜になると、楽しいBBQの始まり。

「明日朝早いからあんまり飲み過ぎるなよ~」

渡辺君が言う。
男性陣が集まる。

僕と公生は危険を感じて離れていた。

「いったいどういうところなんですか?調和の国って。みんな嫌がってるみたいだけど」
「一言で言うと地獄だ……」
「その先にあるのは苦痛しかない」

誠と瑛大が案の定余計な事を言ってる。

「いいか、とにかく笑顔をくずすな。それが最大のミッションだ」
「一瞬でも隙を見せたら女性は機嫌を損ねるぞ」
「何であんなところを好き好んでいくかわかんねーよな!誠!」
「ああ、瑛大の言う通りだ。どうして行くのかさっぱりわかんねー」

巨大な殺気の塊を感じた男はその場から離れる。

「大体遊園地なんて一か所行けば良いだろ!?」
「そうだよな!あそこぼろくてつまんねーし」
「それよりかえってゲームしてえ!」
「俺も帰って寝てーよ!」
「大体お前ら弱腰すぎるんだよ!そんなんだから女房に舐められる!」
「全くだ!文句の一つくらい言っても罰が当たらねーだろ!」
「誠、今夜は飲もうぜ!二人で憂さ晴らしよう!」
「良いぜ瑛大!とことんつきあってやるぜ」

もうすでに誠と瑛大以外の男性はそれぞれのパートナーと話をしたりテントに引き込んだりしていた。

「愛莉、少し散歩しようか」
「うん♪」
「奈留僕達も行こう?」
「……公生はやっぱりつまんないの?」
「片桐君じゃないけど婚約者と一緒に行ってつまらないなんて無いよ」
「ならいいんだけど……」
「さ、行こ?」
「うん」

「なんだよお前ら。ちょっとはびしっといてやれ!」
「そうだぞお前ら!そんなんだから女性に舐められる……ってあれ?女性陣がいるって事は……」

誠は今頃気づいたらしい。

「憂さ晴らし?いいなそれは。言いたい事あるなら聞いてやるぜ。誠。朝まで付き合ってやろうじゃないか?」
「文句の一つや二つくらい聞いてやるよ。どうして好き好んでいくかもきっちり説明してやろうか?」
「か、神奈!聞いてたのか!?いるならいるって言ってくれれば」
「あ、亜依……!ほら、男の主張って大事だと思わないか?」
「お前らが普段どういう風に私達の事を思ってるのか非常に興味がわいてきたんだがな、誠」
「神奈のいうとおりね。どういう風に見てるのかじっくり聞かせてもらおうじゃない?」
「ま、誠……明日も早いし寝ようか」
「そ、そうだな瑛大。じゃ、おやすみ」

そんな事で逃がしてもらえるはずもなく。

「朝まで時間があるって言ったろ。じっくり語り合おうじゃないか?」
「私も朝まで付き合ってあげるよ、瑛大」

この二人は同じやり取りを一生繰り返すんだろうな。

僕と愛莉、奈留と公生は夜の散歩を楽しんででテントに戻ると男性陣は皆説教を食らっていた。

「大体お前ら、無謀なスピード出さないって言っておきながらなんだ!高速でレース始めやがって!」
「とーやを少しは見習え!何度言ったらわかるんだ!」
「僕はスピード出した覚えないよ!」

カンナと美嘉さんが不満を言うと竹本君が弁解してる。

「たはは……まいったなこりゃ」

渡辺君はビールを飲みながら苦笑している。

「大人になるってみんなああなるの?」

奈留が聞く。

「そうだね、公生も変わるかもしれない。だからしっかり監視しとくんだよ~」
「……わかった」

公生よかったな、お前の将来は約束されたぞ。僕が保証する。
なんせ9年間監視されてきた僕が言うんだから間違いない。
この日皆で誠と瑛大を恨んでいた男性陣だった。

(4)

その日の朝は皆遅かった。
深夜遅くまで説教が続いていたから。
説教と言うか女性の不満を爆発させていただけだけど。
僕と愛莉と公生と奈留、石原君は朝の散歩をしている。

「昨日は大変だったみたいだね、片桐君」
「僕はまきこまれなかったよ」

石原君は危機を察してさっさとテントに入っていた為難を逃れた。

「でも男性ってなんでああいうテーマパーク苦手なの?」

奈留が不思議に思う。

「苦手ってわけじゃないよ、そうだな……奈留は公生が特撮物のショーに見とれていたらどう思う」
「くだらない……しょうもないもの見てないでって……そういうこと?」

奈留が言うと頷く。

「男性と女性の違いだよ。そればっかりはしょうがない。ただそれを表に出す人と出さない人がいるってだけ。自分の彼女が楽しんでるのに場をしらけさせるのは得策じゃないだろ?」
「やっぱりつまんないんだ……」
「楽しむ人もいるよ。公生は楽しんでる。奈留が楽しいから公生も楽しいんだ。そうだろ?公生」
「そうだね……奈留がはしゃいでる時なんてめったに無いから」
「私そんなにはしゃいでません」

女心って難しいな。
そう公生と笑いあってた。

散歩から戻ると朝ごはんの仕度が出来ていた。
朝食を食べるとテントの撤収をして調和の国に行く。
相変わらずのアトラクションとパレード。
女性陣は大体見とれている。
それに巻き込まれる男性陣。
あっちに連れて行かれこっちに連れて行かれ。
翔や如月君も例外じゃなかった。
栗林君は慣れてる様でうまくやってた。
夕方ごろまでその拷問の時間は続いた。
最後のお土産選びまでみっちり連れまわされた。
僕はもう慣れた。
渡辺君達も慣れている。
しかし初めての組は憔悴している。

そしてゲートを出ると渡辺君が言った。

「この後日出のファミレスで夕食食って解散と行きたいんだが、問題ないか?」

女性陣はテンションが上がってる。
男性陣はテンションが下がっている。
日出のファミレスによって夕食を食べる。
女性陣は盛り上がっている。
男性陣は疲れ切っていた。

「なんだよ男共!少しは楽しそうな顔をしろよ!」

美嘉さんが言うと苦笑いするのが精いっぱいだったようだ。
はしゃいでいる奈留の話をうんうんと受け流す公生。
愛莉は「冬夜君大丈夫?」と心配してくれた。
亜依さんが「また来年もこれるといいね」というと男性陣の顔色が青ざめていた。

「来年は僕は無理かな?もう仕事してるし」と言うと何人かは安堵の息を漏らしていた。

「そっかぁ~最後の夏だったんだね」と愛莉が言う

みんなシーンと静まり返った。

「私達は来年もありますよ!」と咲さんが言う。

「社会人になっても土日はあいてますよ」と未来さんが言う。

皆食事を済ませるとファミレスを出て解散して言った。
僕も愛莉を乗せて家に帰る。

「帰り運転しようか?冬夜君疲れたでしょ?」
「愛莉だってはしゃいで疲れてるんじゃないの?」
「まあ、そうだけど」
「公生君達は明日から学校なんだね」
「そうだな」
「私達も学生生活最後の夏……か」
「盆休みくらい取れるさ」
「そうだね」
「それに言ったろ?後半は愛莉と一杯思い出作ってやるって」
「……うん!」

家に帰ると道具を倉庫にしまって家に帰る。
風呂に入ると部屋で一缶飲む。
愛莉とテレビを見て、一夜を過ごす。
テレビが面白いのが無くなると僕達は眠りについた

ありふれた時間が愛しく思えたら。
それは愛の仕業だと小さく笑う。
愛莉が見せる仕草、僕に向けられているサイン。
何一つ見落とさない。
そんな事を考えている。
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