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5thSEASON
名もなき詩
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(1)
「冬夜君おはよう」
「おはよう愛莉」
「最近ちゃんと起きてくれてるね♪いい子いい子」
愛莉と挨拶を交わすと、起きてから顔を洗いに行く。
愛莉の事だからもう朝食は出来てるんだろう。
4人で朝食を取ると僕はコーヒーを入れてマグカップを部屋に持って上がる。
愛莉も僕の後をついてくる。
テーブルの上にマグカップを置くと座ってテレビをつける。
コーヒーを飲み終わると僕がマグカップを持って降りる。
そして部屋に戻ると愛莉の隣に座ってノートPCを見る。
「今日はなにがあった~?」
愛莉はニュースの中味なんかに興味が無い。
単に僕とスキンシップを楽しみたいだけ。
それで愛莉が家事を止めてくれるならと僕は愛莉を受け止めてやる。
ノートPCを閉じると二人でテレビを見て過ごす。
今日はどこにも遊びに行かない。
神奈の誕生日会を女性陣だけでするらしい。
どうして女性陣だけなのか分からないけど女性陣だけど集まるならと男性陣も飲み会を予定していた。
社会人組も来れるように時間を遅めに設定していた。
それならバイト組も来れると思ったから。
狙いはそれだけじゃなかった。
これは公生と渡辺君と僕だけが知ってる秘密。
女性陣の罠が待っていた。
女子会の幹事は亜依さん、男子会は渡辺君がすることになっていた。
誠と瑛大がやりたがっていたが他の皆の意見で却下された。
もうあんなもめ事は沢山だ。
皆同じ思いをしたらしい。
日中は愛莉と部屋で過ごした。
DVDを借りて来てはそれを見ていた。
毎日ゲームじゃ飽きるだろ?
夕方頃になると愛莉とバス停に向かう。
バスに乗って駅前に向かう。
「冬夜君変な店行っちゃだめだからね」
「今日の事は愛莉も知ってるんだろ?」
「うん、知ってる」
「じゃ、安心だろ?」
「そうだね」
愛莉はそう言って笑う。
駅前で降りるとじゃあいつもの時間にと言って二人別々の店に行った。
と、いっても今から行ってもまだ時間がある。
僕と渡辺君は待ち合わせをしていた。
二人でラーメン屋さんに行く。
渡辺君はビールとラーメンを。
僕はラーメンと炒飯を頼む。
「今日の計画大丈夫だと思うか?」
「計画は上手くいくと思う……」
「そうだな」
「しかしあの二人には参ったね」
「まったくだ。巻き込まれる方の身にもなれってな」
渡辺君も困り果てているらしい。
美嘉さんの機嫌を取るのに翌日翌々日と時間をかけて苦労してるそうだ。
その気持ちはよく分かる。
愛莉も最初は大変だった。
今でも大変だけど。
一度機嫌を損ねて拗ねさせると機嫌を取り戻すのに時間と手間がかかる。
「やっぱり結婚すると大変?」
渡辺君に聞いていた。
「そうだな。やっぱり一日中監視されてると思うとつらいものがあるな」
それは分かる、休みの日は一日中愛莉の相手をしなくちゃならない。
平日もそうだけど。
「お前だったら大丈夫なんじゃないのか?すでに結婚してるようなものじゃないか?」
「渡辺君達を見てたらやっぱり躊躇いがあってね」
「あまり人前で言うとのろけ話になるから言わないが、結婚した当時も今も変わらず楽しみはあるぞ」
「そうなんだ」
じゃ、なきゃ離婚だろ?と渡辺君は笑う。
「なに、お前だったら大丈夫だ。今の調子でいればいい。それが難しいんだがお前なら大丈夫だろ?」
お前のだらしのない所も遠坂さんは見てきてるんだろ?と渡辺君は言う。
「人に言われて揺らぐようなら止めた方が良い。でもお前はそのつもりはないんだろ?だったら自分の道を進んで行けばいい。あるがままの心で」
「アドバイスありがとう」
「ただ家事の練習はしとけ?」と渡辺君は言って笑った。
「さて、そろそろ時間だし集合場所に行くか?」
「そうだね」
僕達は集合場所へ向かった。
(2)
「あれ?亜依じゃないか?」
「あれ?神奈じゃない!」
大在駅で私達は桐谷夫妻と会った。
今日は私の誕生日会をしてくれるらしい。
もう1週間は過ぎてるけどそれでも嬉しい。
その代わり悩み事はある。
女子だけで集まる日は男子だけで集まる。
そしてそれは大抵ろくなものじゃない。
今日も誠達が送迎しないのは一緒に飲みに行くから。
「あれからどうだ?亜依は?」
「不気味なほどおとなしいわ。神奈は?」
「同じだ……」
今日もまた張り込むのか?
亜依に聞くと首を振った。
「今回はちゃんと手は打ってる。男子会の幹事は渡辺君だし」
「ほう?どんな手だ?」
亜依は私に耳打ちする。
「それは面白そうだな」
「でしょ、この際こいつらの本音を全部暴いてやろうじゃないと思ってね」
そう話しているうちに私達は駅に着いた。
駅前で男性二人と分かれる。
「妙な事するんじゃねーぞ!」
「わ、分かってるよ。なあ、瑛大?」
「そ、そうだよ。分かってるよ」
どうだか怪しいもんだが私達は誕生日会の会場に向かった。
女性が選ぶと自然とお洒落な店になる。
今日お洒落なお店だった。
「は~い、主賓の登場だよ!」
亜依が言うと皆が盛り上がる。
「神奈お誕生日おめでとう!」
皆がお祝いしてくれた。
「これみんなで買ったんだよ」
愛莉が花束を用意してくれた。
「ありがとうな」
私がそう言うと拍手が起きた。
「それじゃ、皆乾杯!」
そう言うと宴が始まった。
美味しいイタリアン料理を食べながらワインを飲む。
私の席には愛莉、亜依、恵美、花菜、晶の計6人だった。
話題は自然と自分の旦那の不満から始まる。
相変わらずの瑛大と誠に皆の非難が集まる。
愛莉にはあまり聞かせたくないけど。
トーヤとの結婚に影響があるんじゃないのか?と心配だった。
でもこれしきの事で不安になるなら結婚は止めた方が良いと亜依は言う。
「片桐君なら問題ないよ。不満要素なんてあの致命的な食い癖くらいでしょ?最近は愛莉にも興味もしめしてるようだし」
「そうだね~冬夜君最近優しいの~」
愛莉は上機嫌だ。
「愛莉ちゃん私達もね。結婚したこと自体は後悔してないの?ただあまりにも影でこそこそとして、しかも何もしてくれないからイライラしてるだけ」
恵美が言う。
「そうね、自分は悪くないと言い張るけど、自分の主張をはっきり示さない旦那にはイライラするわね」
晶が言う。
恵美と晶は意見が合うみたいだ。
「まあ、私の旦那と多田君が原因なんだけどね、たいていの場合」
亜依が言う。
「そうだな、あの二人には徹底的に何かしつけてやらないと駄目だな」
「神奈さんはそう言いますけど私の主人も同罪ですよ!相変わらず帰りは遅いしどこで飲んでくるんだか。お小遣いをすぐ強請るし何に使ってるのか問い詰めても言わないし」
花菜が言う。
「結婚の本番は旦那が社会に出た時なんだな」
私が言うとみんな同意した。
「だから今日の計画を練ったのよ。まずは敵を知ることからっていうでしょ?」
恵美が言うと亜依が頷いた。
「愛莉、中には理想の夫婦っているのよ。例えば美嘉さんとか聡美さんとか深雪さんとか」
「私達の事呼んだ?」
聡美さんと深雪さんが来た。
「私達だって不満はあるのよ、啓介はちょっと目を離すと悪さするし」
深雪さんが言う。
「拓海も同じね。まだ子供って感じが拭えない」
聡美さんが言う。
「聡美さん達もそう思うんだ。あれじゃ育児手伝ってくれなさそうで子供作る気にもなれないですよね」
「それは言えてるわね」
花菜がそう言うと3人で笑っていた。
「でもね、遠坂さん。断言するわあなた達も間違いなくいい夫婦になる。どうして今すぐ入籍しないの?って不思議なくらい」
「まあ、冬夜君はそういうの全然ないから……」
聡美さんが言うと愛莉が何か言いたそうだ。
「愛莉はトーヤに何か不満があるのか?」
私は愛莉に聞いてみた。
「ないの。無いから不安なの。どこかでストレスをため込んでるんじゃないかって。それはいつか爆発するんじゃないかって」
愛莉は自分の不安を打ち明ける。
「それは今日分かるんじゃない?」
「冬夜君今日の仕掛け知ってるもん。言わないよ絶対に」
恵美が言うと愛莉がそう返した。
でも根本的に間違ってるぞ愛莉。
「トーヤに限ってそれはねーよ。現にトーヤは今関心ある物に全力ではまってるじゃないか」
「それってなに?」
「お前だよ愛莉。傍から見ていて羨ましいくらいにお前にのめり込んでる。それはメッセージからも伝わってくるぜ」
「それは言えてる。愛莉は片桐君に愛されてるよ。これでもかってくらいに」
「そうね、長年培ってきた思いやりが今につながってるのかもね」
「絶対に誰にも覆せない事実です」
皆が言うと愛莉は恥ずかしそうに「えへへ~」と笑っていた。
「でも誠君と桐谷君はどうにかしないとね」
「それを今夜どうにかするんじゃない、愛莉」
「今回は軽いジャブってところだけどね」
恵美がそう言って笑みをこぼす。
コース料理を食べながら話をしていた。
最後のデザートが出た後に店員が「飲み物のラストオーダーの時間ですが」と聞いてきた。
「さてと、そろそろ仕掛けに行きますか?」
「そうだな、そろそろ時間だな?」
亜依が言うと私が言う。
私達は最後の飲み物を飲むと店を出る。
「じゃあ、私達は予定取り待ってるから。店を出たら連絡する」
奈留と伊織とちぃちゃんと美里、それに未来と海未はここでお別れした。
私達は二件目の店に移動する。
母さんの店だ。
私達を見ると母さんは「いらっしゃい、準備はしてある。今日は貸し切りよ」と言った。
私達は得物が来るのをじっと待っていた。
(3)
「じゃ、今日も盛り上がっていこう」
渡辺君が言うと宴の始まり。
「今日のお題は……そうだな。やっぱり嫁・彼女への不満かな?」
渡辺君が言うと誠が真っ先に手を上げた。
「今のままだと渡辺班は女性に舐められっぱなしだ!なんとかしないと」
誠が言う。
「別に俺は舐められてねーし!ていうかお前らのせいでどんだけ被害被ったと思ってるんだ?咲良なんて1週間口もきいてくれなかったぞ」
檜山先輩が言う。
「俺からも言わせてくれ、花菜のやつ1週間機嫌悪かったんだぞ。色々大変だったんだ。もう少し渡辺班は考えて行動してくれ!」
木元先輩が言う。
「俺もそう思うな。みんなを巻き込むような行動は慎んだ方が良い」
渡辺君も言う。
「それが問題なんだよ!たかが風俗にいくくらいでガタガタ抜かすんじゃねーって言ってやればいいんですよ!なあ瑛大」
「そうだ!男が飲んだら行くのが普通だろ!誠!」
この二人の飲むペースは異常だった。
普段から溜めこんでる物を吐き出してるように見えた。
僕はそんな二人に言う。
「じゃあ、二人はカンナ達に言えてるの?」
「当たり前だろ!男ならガツンと言ってやるのが当たり前だ!」
「当然だろ!亭主関白がちょうどいいんだよ!」
木元先輩も檜山先輩も付き合ってられないと言った感じで飲んでいる。
僕のテーブルには僕と渡辺君と石原君と桐谷君と誠と酒井君が座っていた。
僕はテーブルを変えて木元先輩たちに聞いてみた。
「夫婦生活って大変ですか?」
「まあ、ずっと顔を突き合わせているからな。大変だよ」
「ああ、冬夜達はまだ結婚してなかったのか。悪いな。結婚する気失せたろ?」
檜山先輩が言うと僕は首を振った。
誠達を見て言う。
「反面教師って言うんですか?ああはなるまいと思ってます」
「そうだな、ああはなるなよ」
「お前今でも苦労してそうだな」
木元先輩と檜山先輩は笑って言う。
木元先輩は言う。
「遠坂さんなら大丈夫だよ。出来た嫁さんになる。この2年近く冬夜のバスケ生活を支えてきた功労者の一人なんだから」
「だといいんですけどね……」
「どうした?何か不安要素があるのか?」
檜山先輩が聞いてきた。
「学業に家事。両方させながら2年間構ってやれなかった。それがどれだけのストレスになってるかと思うと」
僕が言うと二人共笑った。
「それはねーよ、そう思ってる限り遠坂も分かってくれてるさ」
「そうだよ、冬夜は十分遠坂さんの相手してやってるさ」
「冬夜!!戻って来い!何一人だけ逃げてるんだ!」
誠が呼んでいる。僕は二人に挨拶して席に戻った。
「今後のお前について話してる時にお前がいなくてどうするんだ!」
「そうだぞ!お前の今後について話してたんだぞ」
渡辺君の顔を見る。
渡辺君は呆れてた。
石原君と酒井君も困ってる。
「良いか冬夜!最初が肝心だ!今のお前は遠坂さんに言われっぱなしだ!そんなんだと駄目だ!」
「誠の言う通り!結婚する前からそんなんだと結婚した後苦労するぞ!」
誠と瑛大の苦労話?を延々と聞かされながら食べ物を食べて飲んでいた。
「冬夜に足りないのは勢いだ!もっとがっつり飲め!」
「そうだ冬夜に足りないのは勢いだもっと飲め!」
そんな風に言われて飲んでいると自分の限界を忘れてしまう。
そして二人のノリに乗ってしまう。
「僕だって愛莉なんて怖くない!」
「そうだその意気だ冬夜!」
「冬夜分かって来たじゃないか!」
気分が昂ってきたところで渡辺君が言う。
「そろそろ時間だ、2次会に行く人はついて来てくれ」
そう言うと皆店を出る。
「な、奈留!?」
最初の声を上げたのは公生だった。
翔や如月君、栗林君や丹下先生椎名さんがそれぞれのパートナーを見て声を出す。
僕も奈留を見て酔いが醒めた。そうだった。計画があるんだった。
渡辺君の顔を見る。渡辺君は苦笑していた。
「何を話していたのかは車の中でじっくり聞いてあげる」
「ぼ、僕は無関係だよ!むしろ被害者だ!」
他の人も同じような事を言いながら帰っていった。
誠と桐谷君は周りをきょろきょろ見ている。
誠は奈留を追いかけて何か聞いてる。
「か、神奈達は?」
「2次会にいきましたよ」
きっと心の中でくすくすと笑っていたに違いない。
「あいつら2次会だってさ」
「じゃあ、俺達も2次会行こうぜ!」
みんなは知らないのだろう2次会の場所を。
ただ安心していた。渡辺君が幹事なら惨劇は起こらない。
安心しきっていた。
だからみんな叫んでいた。
「こっちだって仕事で疲れてるんだ!一々嫁の顔色見て生きてられるか!」
檜山先輩までこの始末。
店の前に着いた。
看板にはスナックΔと書いてある。
僕達は店に入る。
「いらっしゃいませ、お待ちしてました中にどうぞ」
計画を知っていた僕と渡辺君、戦闘訓練で培った危険を察知する能力を得た酒井君と石原君はカウンター席へ避難する。
最初は綺麗なお姉さんたちが誠達の相手をしていた。
誠と瑛大は上機嫌だった。
「いやあ、お姉さん綺麗ですね。付き合って欲しいくらいだ」
しかしお姉さんは誠の手を見て言う。
「だめよ、既婚者が他の女を口説いたら」
「お姉さんと付き合えるなら今の女房と別れたって言い」
「俺もやかましい女房なんかよりお姉さんがいい!」
お姉さんはくすりと笑う。
「嬉しい事言ってくれるのね」
そう言ってお姉さんは笑う。
木元先輩は違和感を感じたのだろう?
口数が少なくなってる。
普段の誠なら感じたはずだ。中島君だって気づいたくらいなのだから。
「多田君、そのくらいにしといたほうが……」
中島君が誠を止めに入る。
「中島君何をびくびくしてるんだ!お前も結婚するんだろ!?このくらいでびびってんじゃねーよ!」
「ママ!私達そろそろ時間だから」
お姉さんが言う。
「そうねお疲れ様」
ママが言う。
「ええ、俺達の相手はどうなるんですか!?」
「ちゃんととっておきの子を準備してるわよ」
一人につき一人ついてくる。石原君はその様子を見て震えている。
「ぼ、僕ちょっと酔い覚ましに夜風にあたってきます」
「あら、連れない事言うのね。今夜はゆっくり話しましょう?」
「え、恵美……」
「善君も今夜はゆっくり話を聞いてあげる」
「あ、晶ちゃん」
戦闘してる時の二人の勇ましさなど微塵もなくただ怯えている二人。
誠達はその事に気づかない。
店の照明は薄暗く酔ってる二人には気づかなかったのだろう。
しかし周りの人間は違った。
酔いを一気に消し飛ばす威圧感。
「どうしたの?かずさん。さっきまで気分良さそうにしてたのに。相手が私じゃ不満ですか?」
「そ、そんなわけ無いだろ?花菜」
「春樹もどうしたんですか?妻の相手するのがそんなに面倒ですか~?」
「そ、そんなわけないだろ?咲良」
「どうしたんだ、皆。今夜は決起集会だろ!?」
「そうだよ先輩たちどうしたんだよ!?さっきまで嫁の相手なんてしてられるか!って言ってたじゃないですか?今さら嫁さんにビビってどうするんですか!?……嫁さん?」
誠は木元先輩と檜山先輩の言葉で感づいたようだ。
「え、瑛大今日はそろそろ引き上げようか?」
「どうしたんだよ誠!今日は渡辺班が女房に反旗を上げる日だ。冬夜もこっちに来て混ざろうぜ!!遠坂さんなんて怖くないって息巻いてたろ?」
桐谷君、余計な事を言うんじゃない!
「そうだよね~?お嫁さんが怖いわけないよね~?」
「当たり前だろ。愛莉」
「なのにどうしたの?暑いの?汗かいてるよ?」
「あれ?空調きいてないのかな~」
逃げ出したいけど愛莉が僕の腕をがっちりと組んでいる。
僕に出来ることは作り笑いを続ける事だけ。
「決起集会か、面白いな。綺麗なお姉さんが見ててやるから続けろよ」
「あ、亜依。なんで?二次会に行ったんじゃなかったの?」
「面白い事言うな、誠。私の相手がそんなにイヤか?今すぐ自由にしてやってもいいぞ?」
「神奈……リップサービスって言葉あるだろ?真に受けるなよ。ハハハ」
男性陣は皆酔いなどとうに覚めていた。
渡辺君は一人苦笑している。
「さてと、2次会の開始と行こうか……楽しい夜になりそうだな?喜べ、今夜は貸し切りだ」
カンナが言う。
うかつだった。酔っていたとは言え油断してた。
この日誰もがまたしても誠と瑛大を呪う日となった。
(4)
女性陣の不満を爆発させるだけの二次会は明け方近くまで続いた。
大人しく聞いているだけの男性陣。
解放されると皆帰っていった。
「うぅ……」
愛莉はタクシーの中で唸っていた。
そして一言いう。
「冬夜君はお嫁さんが怖いの?」
選択肢を間違えたら絶望の未来しか見えない。
「……怖いよ」
「うぅ……」
「愛莉に嫌われたらどうしよう?っていつも怯えてる」
「私そんなに信用無いの?」
「信じていても怖い事だってあるよ。だから愛莉の中に上手く入れない」
「う~ん、それは問題ですね~」
あれ?愛莉思ったより機嫌悪くない?
愛莉の顔を見ると微笑んでいた。
「私ね、皆に褒められちゃった。冬夜君と素敵な夫婦になれるって」
愛莉の言葉を聞いて思わず笑ってしまった。
愛莉はきょとんとしてる。
「僕も言われたよ、愛莉といい夫婦になれるって」
「いっしょだね!」
「そうだな」
「私ね不安があったの」
「なんだい?」
「冬夜君のストレスの発散場所が無くなっちゃってストレス抱えてるんじゃないかって。バスケを辞めてそれがさらに加速したんじゃないかって」
「それはないよ、愛莉とドライブ行ったり。来週は愛莉と旅行だろ?ストレス何てあるわけない」
「本当に?私が冬夜君の重荷になってない?」
「その話をするのは止めようって前に言ったよ?」
「そうだけど……」
「それに僕も同じ事事考えていた。家事と勉強の毎日で愛莉のストレス発散させてやってない。相手もしてあげてないしそのうち不満が爆発するんじゃないかって」
「相手してくれてたじゃない」
「そうか?」
「うん」
結局お互い同じ事を心配してたんだな。
僕達は笑いあってた。
お互いが同じ不安を抱えて生きている。
お互いがお互いを想ってる証拠。
こんな不調和な生活の中で偶に情緒不安定になるだろう?
どれほど分かり合える同志でも孤独な夜はやってくる。
色んな事を踏み台にしてきたけど失くしちゃいけないものがある。
愛莉の仕草が滑稽なほど優しい気持ちになれるんだよ。
愛はきっと奪うでも与えるでもなくて気が付けばそこにある物。
あるがままの心で生きようと願うから人はまた傷ついてゆく
愛情という形のないものを伝えるのはいつも困難だ。
家に帰るとお互いにシャワーを浴びる。
シャワーを浴びるとベッドに入る。
「楽しみだね」
「うん?」
「来週の旅行」
「そうだな」
「楽しみだね」
「うん?」
「来年の同棲生活。冬夜君も就職先決まってるし。するんでしょ?」
「苦しい生活になるかもしれないけど」
「それはないよ、今までの貯えあるし」
「でもそんなに頻繁に遊びにいけなくなるかも」
仕事もあるし、時間も余裕もない。
また愛莉にストレスを与えてしまう。
「結婚の誓いの言葉分かる?」
「いや?」
「健やかなるときも病める時も、富める時も共に分かち合い生きていくことを誓いますって幸せな時ばかりじゃない、苦しい時も貧しい時も一緒に過ごそうって意味なんだって」
「……愛莉は一緒にいてくれる?」
「一緒にいさせてください」
愛莉はそう言って僕を抱きしめる。
そんな愛莉を抱きしめる。
一生手離さない。
愛情という名の詩をいつまでも愛莉に捧げよう。
「冬夜君おはよう」
「おはよう愛莉」
「最近ちゃんと起きてくれてるね♪いい子いい子」
愛莉と挨拶を交わすと、起きてから顔を洗いに行く。
愛莉の事だからもう朝食は出来てるんだろう。
4人で朝食を取ると僕はコーヒーを入れてマグカップを部屋に持って上がる。
愛莉も僕の後をついてくる。
テーブルの上にマグカップを置くと座ってテレビをつける。
コーヒーを飲み終わると僕がマグカップを持って降りる。
そして部屋に戻ると愛莉の隣に座ってノートPCを見る。
「今日はなにがあった~?」
愛莉はニュースの中味なんかに興味が無い。
単に僕とスキンシップを楽しみたいだけ。
それで愛莉が家事を止めてくれるならと僕は愛莉を受け止めてやる。
ノートPCを閉じると二人でテレビを見て過ごす。
今日はどこにも遊びに行かない。
神奈の誕生日会を女性陣だけでするらしい。
どうして女性陣だけなのか分からないけど女性陣だけど集まるならと男性陣も飲み会を予定していた。
社会人組も来れるように時間を遅めに設定していた。
それならバイト組も来れると思ったから。
狙いはそれだけじゃなかった。
これは公生と渡辺君と僕だけが知ってる秘密。
女性陣の罠が待っていた。
女子会の幹事は亜依さん、男子会は渡辺君がすることになっていた。
誠と瑛大がやりたがっていたが他の皆の意見で却下された。
もうあんなもめ事は沢山だ。
皆同じ思いをしたらしい。
日中は愛莉と部屋で過ごした。
DVDを借りて来てはそれを見ていた。
毎日ゲームじゃ飽きるだろ?
夕方頃になると愛莉とバス停に向かう。
バスに乗って駅前に向かう。
「冬夜君変な店行っちゃだめだからね」
「今日の事は愛莉も知ってるんだろ?」
「うん、知ってる」
「じゃ、安心だろ?」
「そうだね」
愛莉はそう言って笑う。
駅前で降りるとじゃあいつもの時間にと言って二人別々の店に行った。
と、いっても今から行ってもまだ時間がある。
僕と渡辺君は待ち合わせをしていた。
二人でラーメン屋さんに行く。
渡辺君はビールとラーメンを。
僕はラーメンと炒飯を頼む。
「今日の計画大丈夫だと思うか?」
「計画は上手くいくと思う……」
「そうだな」
「しかしあの二人には参ったね」
「まったくだ。巻き込まれる方の身にもなれってな」
渡辺君も困り果てているらしい。
美嘉さんの機嫌を取るのに翌日翌々日と時間をかけて苦労してるそうだ。
その気持ちはよく分かる。
愛莉も最初は大変だった。
今でも大変だけど。
一度機嫌を損ねて拗ねさせると機嫌を取り戻すのに時間と手間がかかる。
「やっぱり結婚すると大変?」
渡辺君に聞いていた。
「そうだな。やっぱり一日中監視されてると思うとつらいものがあるな」
それは分かる、休みの日は一日中愛莉の相手をしなくちゃならない。
平日もそうだけど。
「お前だったら大丈夫なんじゃないのか?すでに結婚してるようなものじゃないか?」
「渡辺君達を見てたらやっぱり躊躇いがあってね」
「あまり人前で言うとのろけ話になるから言わないが、結婚した当時も今も変わらず楽しみはあるぞ」
「そうなんだ」
じゃ、なきゃ離婚だろ?と渡辺君は笑う。
「なに、お前だったら大丈夫だ。今の調子でいればいい。それが難しいんだがお前なら大丈夫だろ?」
お前のだらしのない所も遠坂さんは見てきてるんだろ?と渡辺君は言う。
「人に言われて揺らぐようなら止めた方が良い。でもお前はそのつもりはないんだろ?だったら自分の道を進んで行けばいい。あるがままの心で」
「アドバイスありがとう」
「ただ家事の練習はしとけ?」と渡辺君は言って笑った。
「さて、そろそろ時間だし集合場所に行くか?」
「そうだね」
僕達は集合場所へ向かった。
(2)
「あれ?亜依じゃないか?」
「あれ?神奈じゃない!」
大在駅で私達は桐谷夫妻と会った。
今日は私の誕生日会をしてくれるらしい。
もう1週間は過ぎてるけどそれでも嬉しい。
その代わり悩み事はある。
女子だけで集まる日は男子だけで集まる。
そしてそれは大抵ろくなものじゃない。
今日も誠達が送迎しないのは一緒に飲みに行くから。
「あれからどうだ?亜依は?」
「不気味なほどおとなしいわ。神奈は?」
「同じだ……」
今日もまた張り込むのか?
亜依に聞くと首を振った。
「今回はちゃんと手は打ってる。男子会の幹事は渡辺君だし」
「ほう?どんな手だ?」
亜依は私に耳打ちする。
「それは面白そうだな」
「でしょ、この際こいつらの本音を全部暴いてやろうじゃないと思ってね」
そう話しているうちに私達は駅に着いた。
駅前で男性二人と分かれる。
「妙な事するんじゃねーぞ!」
「わ、分かってるよ。なあ、瑛大?」
「そ、そうだよ。分かってるよ」
どうだか怪しいもんだが私達は誕生日会の会場に向かった。
女性が選ぶと自然とお洒落な店になる。
今日お洒落なお店だった。
「は~い、主賓の登場だよ!」
亜依が言うと皆が盛り上がる。
「神奈お誕生日おめでとう!」
皆がお祝いしてくれた。
「これみんなで買ったんだよ」
愛莉が花束を用意してくれた。
「ありがとうな」
私がそう言うと拍手が起きた。
「それじゃ、皆乾杯!」
そう言うと宴が始まった。
美味しいイタリアン料理を食べながらワインを飲む。
私の席には愛莉、亜依、恵美、花菜、晶の計6人だった。
話題は自然と自分の旦那の不満から始まる。
相変わらずの瑛大と誠に皆の非難が集まる。
愛莉にはあまり聞かせたくないけど。
トーヤとの結婚に影響があるんじゃないのか?と心配だった。
でもこれしきの事で不安になるなら結婚は止めた方が良いと亜依は言う。
「片桐君なら問題ないよ。不満要素なんてあの致命的な食い癖くらいでしょ?最近は愛莉にも興味もしめしてるようだし」
「そうだね~冬夜君最近優しいの~」
愛莉は上機嫌だ。
「愛莉ちゃん私達もね。結婚したこと自体は後悔してないの?ただあまりにも影でこそこそとして、しかも何もしてくれないからイライラしてるだけ」
恵美が言う。
「そうね、自分は悪くないと言い張るけど、自分の主張をはっきり示さない旦那にはイライラするわね」
晶が言う。
恵美と晶は意見が合うみたいだ。
「まあ、私の旦那と多田君が原因なんだけどね、たいていの場合」
亜依が言う。
「そうだな、あの二人には徹底的に何かしつけてやらないと駄目だな」
「神奈さんはそう言いますけど私の主人も同罪ですよ!相変わらず帰りは遅いしどこで飲んでくるんだか。お小遣いをすぐ強請るし何に使ってるのか問い詰めても言わないし」
花菜が言う。
「結婚の本番は旦那が社会に出た時なんだな」
私が言うとみんな同意した。
「だから今日の計画を練ったのよ。まずは敵を知ることからっていうでしょ?」
恵美が言うと亜依が頷いた。
「愛莉、中には理想の夫婦っているのよ。例えば美嘉さんとか聡美さんとか深雪さんとか」
「私達の事呼んだ?」
聡美さんと深雪さんが来た。
「私達だって不満はあるのよ、啓介はちょっと目を離すと悪さするし」
深雪さんが言う。
「拓海も同じね。まだ子供って感じが拭えない」
聡美さんが言う。
「聡美さん達もそう思うんだ。あれじゃ育児手伝ってくれなさそうで子供作る気にもなれないですよね」
「それは言えてるわね」
花菜がそう言うと3人で笑っていた。
「でもね、遠坂さん。断言するわあなた達も間違いなくいい夫婦になる。どうして今すぐ入籍しないの?って不思議なくらい」
「まあ、冬夜君はそういうの全然ないから……」
聡美さんが言うと愛莉が何か言いたそうだ。
「愛莉はトーヤに何か不満があるのか?」
私は愛莉に聞いてみた。
「ないの。無いから不安なの。どこかでストレスをため込んでるんじゃないかって。それはいつか爆発するんじゃないかって」
愛莉は自分の不安を打ち明ける。
「それは今日分かるんじゃない?」
「冬夜君今日の仕掛け知ってるもん。言わないよ絶対に」
恵美が言うと愛莉がそう返した。
でも根本的に間違ってるぞ愛莉。
「トーヤに限ってそれはねーよ。現にトーヤは今関心ある物に全力ではまってるじゃないか」
「それってなに?」
「お前だよ愛莉。傍から見ていて羨ましいくらいにお前にのめり込んでる。それはメッセージからも伝わってくるぜ」
「それは言えてる。愛莉は片桐君に愛されてるよ。これでもかってくらいに」
「そうね、長年培ってきた思いやりが今につながってるのかもね」
「絶対に誰にも覆せない事実です」
皆が言うと愛莉は恥ずかしそうに「えへへ~」と笑っていた。
「でも誠君と桐谷君はどうにかしないとね」
「それを今夜どうにかするんじゃない、愛莉」
「今回は軽いジャブってところだけどね」
恵美がそう言って笑みをこぼす。
コース料理を食べながら話をしていた。
最後のデザートが出た後に店員が「飲み物のラストオーダーの時間ですが」と聞いてきた。
「さてと、そろそろ仕掛けに行きますか?」
「そうだな、そろそろ時間だな?」
亜依が言うと私が言う。
私達は最後の飲み物を飲むと店を出る。
「じゃあ、私達は予定取り待ってるから。店を出たら連絡する」
奈留と伊織とちぃちゃんと美里、それに未来と海未はここでお別れした。
私達は二件目の店に移動する。
母さんの店だ。
私達を見ると母さんは「いらっしゃい、準備はしてある。今日は貸し切りよ」と言った。
私達は得物が来るのをじっと待っていた。
(3)
「じゃ、今日も盛り上がっていこう」
渡辺君が言うと宴の始まり。
「今日のお題は……そうだな。やっぱり嫁・彼女への不満かな?」
渡辺君が言うと誠が真っ先に手を上げた。
「今のままだと渡辺班は女性に舐められっぱなしだ!なんとかしないと」
誠が言う。
「別に俺は舐められてねーし!ていうかお前らのせいでどんだけ被害被ったと思ってるんだ?咲良なんて1週間口もきいてくれなかったぞ」
檜山先輩が言う。
「俺からも言わせてくれ、花菜のやつ1週間機嫌悪かったんだぞ。色々大変だったんだ。もう少し渡辺班は考えて行動してくれ!」
木元先輩が言う。
「俺もそう思うな。みんなを巻き込むような行動は慎んだ方が良い」
渡辺君も言う。
「それが問題なんだよ!たかが風俗にいくくらいでガタガタ抜かすんじゃねーって言ってやればいいんですよ!なあ瑛大」
「そうだ!男が飲んだら行くのが普通だろ!誠!」
この二人の飲むペースは異常だった。
普段から溜めこんでる物を吐き出してるように見えた。
僕はそんな二人に言う。
「じゃあ、二人はカンナ達に言えてるの?」
「当たり前だろ!男ならガツンと言ってやるのが当たり前だ!」
「当然だろ!亭主関白がちょうどいいんだよ!」
木元先輩も檜山先輩も付き合ってられないと言った感じで飲んでいる。
僕のテーブルには僕と渡辺君と石原君と桐谷君と誠と酒井君が座っていた。
僕はテーブルを変えて木元先輩たちに聞いてみた。
「夫婦生活って大変ですか?」
「まあ、ずっと顔を突き合わせているからな。大変だよ」
「ああ、冬夜達はまだ結婚してなかったのか。悪いな。結婚する気失せたろ?」
檜山先輩が言うと僕は首を振った。
誠達を見て言う。
「反面教師って言うんですか?ああはなるまいと思ってます」
「そうだな、ああはなるなよ」
「お前今でも苦労してそうだな」
木元先輩と檜山先輩は笑って言う。
木元先輩は言う。
「遠坂さんなら大丈夫だよ。出来た嫁さんになる。この2年近く冬夜のバスケ生活を支えてきた功労者の一人なんだから」
「だといいんですけどね……」
「どうした?何か不安要素があるのか?」
檜山先輩が聞いてきた。
「学業に家事。両方させながら2年間構ってやれなかった。それがどれだけのストレスになってるかと思うと」
僕が言うと二人共笑った。
「それはねーよ、そう思ってる限り遠坂も分かってくれてるさ」
「そうだよ、冬夜は十分遠坂さんの相手してやってるさ」
「冬夜!!戻って来い!何一人だけ逃げてるんだ!」
誠が呼んでいる。僕は二人に挨拶して席に戻った。
「今後のお前について話してる時にお前がいなくてどうするんだ!」
「そうだぞ!お前の今後について話してたんだぞ」
渡辺君の顔を見る。
渡辺君は呆れてた。
石原君と酒井君も困ってる。
「良いか冬夜!最初が肝心だ!今のお前は遠坂さんに言われっぱなしだ!そんなんだと駄目だ!」
「誠の言う通り!結婚する前からそんなんだと結婚した後苦労するぞ!」
誠と瑛大の苦労話?を延々と聞かされながら食べ物を食べて飲んでいた。
「冬夜に足りないのは勢いだ!もっとがっつり飲め!」
「そうだ冬夜に足りないのは勢いだもっと飲め!」
そんな風に言われて飲んでいると自分の限界を忘れてしまう。
そして二人のノリに乗ってしまう。
「僕だって愛莉なんて怖くない!」
「そうだその意気だ冬夜!」
「冬夜分かって来たじゃないか!」
気分が昂ってきたところで渡辺君が言う。
「そろそろ時間だ、2次会に行く人はついて来てくれ」
そう言うと皆店を出る。
「な、奈留!?」
最初の声を上げたのは公生だった。
翔や如月君、栗林君や丹下先生椎名さんがそれぞれのパートナーを見て声を出す。
僕も奈留を見て酔いが醒めた。そうだった。計画があるんだった。
渡辺君の顔を見る。渡辺君は苦笑していた。
「何を話していたのかは車の中でじっくり聞いてあげる」
「ぼ、僕は無関係だよ!むしろ被害者だ!」
他の人も同じような事を言いながら帰っていった。
誠と桐谷君は周りをきょろきょろ見ている。
誠は奈留を追いかけて何か聞いてる。
「か、神奈達は?」
「2次会にいきましたよ」
きっと心の中でくすくすと笑っていたに違いない。
「あいつら2次会だってさ」
「じゃあ、俺達も2次会行こうぜ!」
みんなは知らないのだろう2次会の場所を。
ただ安心していた。渡辺君が幹事なら惨劇は起こらない。
安心しきっていた。
だからみんな叫んでいた。
「こっちだって仕事で疲れてるんだ!一々嫁の顔色見て生きてられるか!」
檜山先輩までこの始末。
店の前に着いた。
看板にはスナックΔと書いてある。
僕達は店に入る。
「いらっしゃいませ、お待ちしてました中にどうぞ」
計画を知っていた僕と渡辺君、戦闘訓練で培った危険を察知する能力を得た酒井君と石原君はカウンター席へ避難する。
最初は綺麗なお姉さんたちが誠達の相手をしていた。
誠と瑛大は上機嫌だった。
「いやあ、お姉さん綺麗ですね。付き合って欲しいくらいだ」
しかしお姉さんは誠の手を見て言う。
「だめよ、既婚者が他の女を口説いたら」
「お姉さんと付き合えるなら今の女房と別れたって言い」
「俺もやかましい女房なんかよりお姉さんがいい!」
お姉さんはくすりと笑う。
「嬉しい事言ってくれるのね」
そう言ってお姉さんは笑う。
木元先輩は違和感を感じたのだろう?
口数が少なくなってる。
普段の誠なら感じたはずだ。中島君だって気づいたくらいなのだから。
「多田君、そのくらいにしといたほうが……」
中島君が誠を止めに入る。
「中島君何をびくびくしてるんだ!お前も結婚するんだろ!?このくらいでびびってんじゃねーよ!」
「ママ!私達そろそろ時間だから」
お姉さんが言う。
「そうねお疲れ様」
ママが言う。
「ええ、俺達の相手はどうなるんですか!?」
「ちゃんととっておきの子を準備してるわよ」
一人につき一人ついてくる。石原君はその様子を見て震えている。
「ぼ、僕ちょっと酔い覚ましに夜風にあたってきます」
「あら、連れない事言うのね。今夜はゆっくり話しましょう?」
「え、恵美……」
「善君も今夜はゆっくり話を聞いてあげる」
「あ、晶ちゃん」
戦闘してる時の二人の勇ましさなど微塵もなくただ怯えている二人。
誠達はその事に気づかない。
店の照明は薄暗く酔ってる二人には気づかなかったのだろう。
しかし周りの人間は違った。
酔いを一気に消し飛ばす威圧感。
「どうしたの?かずさん。さっきまで気分良さそうにしてたのに。相手が私じゃ不満ですか?」
「そ、そんなわけ無いだろ?花菜」
「春樹もどうしたんですか?妻の相手するのがそんなに面倒ですか~?」
「そ、そんなわけないだろ?咲良」
「どうしたんだ、皆。今夜は決起集会だろ!?」
「そうだよ先輩たちどうしたんだよ!?さっきまで嫁の相手なんてしてられるか!って言ってたじゃないですか?今さら嫁さんにビビってどうするんですか!?……嫁さん?」
誠は木元先輩と檜山先輩の言葉で感づいたようだ。
「え、瑛大今日はそろそろ引き上げようか?」
「どうしたんだよ誠!今日は渡辺班が女房に反旗を上げる日だ。冬夜もこっちに来て混ざろうぜ!!遠坂さんなんて怖くないって息巻いてたろ?」
桐谷君、余計な事を言うんじゃない!
「そうだよね~?お嫁さんが怖いわけないよね~?」
「当たり前だろ。愛莉」
「なのにどうしたの?暑いの?汗かいてるよ?」
「あれ?空調きいてないのかな~」
逃げ出したいけど愛莉が僕の腕をがっちりと組んでいる。
僕に出来ることは作り笑いを続ける事だけ。
「決起集会か、面白いな。綺麗なお姉さんが見ててやるから続けろよ」
「あ、亜依。なんで?二次会に行ったんじゃなかったの?」
「面白い事言うな、誠。私の相手がそんなにイヤか?今すぐ自由にしてやってもいいぞ?」
「神奈……リップサービスって言葉あるだろ?真に受けるなよ。ハハハ」
男性陣は皆酔いなどとうに覚めていた。
渡辺君は一人苦笑している。
「さてと、2次会の開始と行こうか……楽しい夜になりそうだな?喜べ、今夜は貸し切りだ」
カンナが言う。
うかつだった。酔っていたとは言え油断してた。
この日誰もがまたしても誠と瑛大を呪う日となった。
(4)
女性陣の不満を爆発させるだけの二次会は明け方近くまで続いた。
大人しく聞いているだけの男性陣。
解放されると皆帰っていった。
「うぅ……」
愛莉はタクシーの中で唸っていた。
そして一言いう。
「冬夜君はお嫁さんが怖いの?」
選択肢を間違えたら絶望の未来しか見えない。
「……怖いよ」
「うぅ……」
「愛莉に嫌われたらどうしよう?っていつも怯えてる」
「私そんなに信用無いの?」
「信じていても怖い事だってあるよ。だから愛莉の中に上手く入れない」
「う~ん、それは問題ですね~」
あれ?愛莉思ったより機嫌悪くない?
愛莉の顔を見ると微笑んでいた。
「私ね、皆に褒められちゃった。冬夜君と素敵な夫婦になれるって」
愛莉の言葉を聞いて思わず笑ってしまった。
愛莉はきょとんとしてる。
「僕も言われたよ、愛莉といい夫婦になれるって」
「いっしょだね!」
「そうだな」
「私ね不安があったの」
「なんだい?」
「冬夜君のストレスの発散場所が無くなっちゃってストレス抱えてるんじゃないかって。バスケを辞めてそれがさらに加速したんじゃないかって」
「それはないよ、愛莉とドライブ行ったり。来週は愛莉と旅行だろ?ストレス何てあるわけない」
「本当に?私が冬夜君の重荷になってない?」
「その話をするのは止めようって前に言ったよ?」
「そうだけど……」
「それに僕も同じ事事考えていた。家事と勉強の毎日で愛莉のストレス発散させてやってない。相手もしてあげてないしそのうち不満が爆発するんじゃないかって」
「相手してくれてたじゃない」
「そうか?」
「うん」
結局お互い同じ事を心配してたんだな。
僕達は笑いあってた。
お互いが同じ不安を抱えて生きている。
お互いがお互いを想ってる証拠。
こんな不調和な生活の中で偶に情緒不安定になるだろう?
どれほど分かり合える同志でも孤独な夜はやってくる。
色んな事を踏み台にしてきたけど失くしちゃいけないものがある。
愛莉の仕草が滑稽なほど優しい気持ちになれるんだよ。
愛はきっと奪うでも与えるでもなくて気が付けばそこにある物。
あるがままの心で生きようと願うから人はまた傷ついてゆく
愛情という形のないものを伝えるのはいつも困難だ。
家に帰るとお互いにシャワーを浴びる。
シャワーを浴びるとベッドに入る。
「楽しみだね」
「うん?」
「来週の旅行」
「そうだな」
「楽しみだね」
「うん?」
「来年の同棲生活。冬夜君も就職先決まってるし。するんでしょ?」
「苦しい生活になるかもしれないけど」
「それはないよ、今までの貯えあるし」
「でもそんなに頻繁に遊びにいけなくなるかも」
仕事もあるし、時間も余裕もない。
また愛莉にストレスを与えてしまう。
「結婚の誓いの言葉分かる?」
「いや?」
「健やかなるときも病める時も、富める時も共に分かち合い生きていくことを誓いますって幸せな時ばかりじゃない、苦しい時も貧しい時も一緒に過ごそうって意味なんだって」
「……愛莉は一緒にいてくれる?」
「一緒にいさせてください」
愛莉はそう言って僕を抱きしめる。
そんな愛莉を抱きしめる。
一生手離さない。
愛情という名の詩をいつまでも愛莉に捧げよう。
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