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5thSEASON
望まれる明日
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(1)
「冬夜君、朝ごはんの時間だよ!」
愛莉の大きな声で目を覚ます。
「そんな大きな声で言わなくても聞こえてるよ」
僕は抗議をする。
「冬夜君は旅行の時はいつもよりずっと甘えてくるから駄目なの」
「旅行の時くらいいだろ?甘えても」
「いつも甘えてるじゃない、それにもたもたしてると朝ごはん無くなっちゃうよ?」
それは大変だ!
僕は顔を洗うとすぐに着替える。
「行こう!愛莉!」
「うぅ……」
何か悩んでるようだが、朝ごはんの方が大事だ。愛莉の手を引っ張って朝食に向かう。
「そんなに引っ張らなくてもいでしょ。痛いよ!」
畳の間に着くとご飯が待っている。
TKG!TKG!
まずはご飯に生卵と醤油をかけて一気にかきこむ。
そして仲居さんに「おかわり!」と……
ぽかっ
「よく噛んで食べなさい!それにおかずも一緒に食べなきゃダメ!」
「愛莉玉子いらないらならもらうよ?」
「うぅ……」
愛莉に渡された卵を受け取るとそれをかけてさらにかきこむ。そしておかわりを……
ぽかっ
「だからよく噛んで食べなさいって言ってるでしょ!おかず全然食べてないじゃない!」
「だから次からおかずと一緒に食べるんだって」
「嘘だもん、次は海苔でご飯を食べてお代わりする気でしょ!?」
「あらまあ、新婚さんかね~仲のいいことで」
そう言って仲居さんはご飯をくれる。
「まだ結婚はしてないけど昨日プロポーズみたいなことは言われました~」
「そうなの?おめでとう」
「ありがとうございます」
あれがプロポーズで良いのか?愛莉。
でも愛莉の機嫌がいいならそれに越したことは無い。
愛莉が仲居さんと喋ってる間にご飯と海苔を食べておかわりを……。
ぽかっ
「それで最後だからね!」
「本当に仲のいいことで……」
そう見えるならそれでいい、余計な事言って愛莉の機嫌を損ねるのは良くない。
ご飯から戻るとチェックアウトの時間まで部屋でのんびり過ごす。
二人でスマホを見ながらテレビをつけてる。
愛莉の視線が僕のスマホにいってるのに気づく。
「どうした愛莉?スマホが気になるの?」
「うん、メッセージ誰とやってるのかな?って」
「ああ、渡辺班だよ。男子会だけど」
「やっぱり……」
愛莉は僕を睨みつける。
「また男性だけで変な事企んでるんでしょう?」
「そんな事無いって。誠達が今日亜依さん達が帰ってくるからってほっとしてるから『よかったな』って返事してるだけだよ」
「で、誠君達どうするつもりなの?」
「それは来週末に決めるって話したろ?」
「その話なんだけどさ……」
愛莉は自分のスマホを見せる。
女子会グルのメッセージだった
「男だけって絶対また余計な事話すよ」
「こそこそやるのが男なんだから」
「断固許すわけには行かないな?」
「どうする?」
「私達も同伴させてもらうってのは?」
「それいいね!」
絶句した。
「冬夜君に聞いてみる!」
「愛莉ちゃんお願い」
聞いてみるってどう考えても拒否権無いだろ?
「冬夜君だめかな~?」
そんな目でお願いされたら断れないだろ。
僕は黙ってスマホを操作する。
「女性陣が参加したいって言ってるんだけど」
「な、何で遠坂さんが知ってるんだよ?お前まさか……」
「不可抗力だよ!」
「まあ、俺も美嘉に見られてるんだけどな」
渡辺君も逆らえないらしい。
愛莉が僕からスマホを奪うと何か打ち込み始めた。
「男だけでこそこそ何か企もうったってそうはいかないんだから!」
「い、いや。俺たちはただ単にあの二人の暴走に巻き込まれない手段を」
「そう言いながら冬夜君を厄介事に巻き込んでるじゃない!」
渡辺班の方で新着メッセージが。
「男共こそこそ隠れてねーでこっちに出てこい!」
美嘉さんだ。
「別にこそこそしてたわけじゃない」
「じゃあ、私達がいてもいいよね?」
愛莉が言う。
「……しかたないな、この人数だとファミレスは無理だ。週末に居酒屋確保しとくよ」
渡辺君が折れた。
「それでいいんだよ」
美嘉さんがそう言うと会話が止まった。
愛莉は満足気に笑ってる。
やれやれ……。
(2)
朝目が覚めると私達は朝食を済ませて。羽田空港へと向かった。
搭乗手続き、手荷物検査を済ませると。待合ロビーで待つ。
「なんかあっという間だったね」
亜依が言う。
「そうだな、まあいい気分転換にはなったんじゃないのか?」
「そうだね」
亜依が笑う。
搭乗が始まると私達は飛行機に乗り込む。
「神奈達は来年の4月に予定してたんだっけ?」
「まあ、そうだな」
あいつのデビュー祝いもしてやらないとな。
すぐに試合に出してもらえるのかは分からないけど。
「か、神奈これ見て?」
亜依はスマホを差し出す。
男性だけで誠と瑛大対策を考えるらしい。
それに愛莉と美嘉が乱入している。
女性陣も同行を条件としたらしい。
「後ろめたいことが無いなら一緒にいても平気だよね」
愛莉がそういうと誰も何も言わなくなった。
「女子会も迂闊にできなくなったね」
亜依がため息交じりに言う。
たしかにそうだな、あいつらを放っておくとろくなことにならない。
まだしっかりと手綱を持っておかないと駄目なようだ。
トーヤは平気なんだろうけどな。
トーヤと言えば……。
「意外だったな。あいつでも愛莉に対してあんな風に思っていたなんてな」
「片桐君。そうだよね……なんか抱え込んでそうだよね」
「と、思ったけど。凄く単純な答えなのかもしれない」
「どういう意味?」
「酒に溺れてその場のノリで言ってみたとかそんなんじゃないかな?」
「片桐君だとそっちの方が強そうだね」
でもそういう奴が一番怖いんだ。不満が溜まると何をしでかすか分かったもんじゃない。
キレると渡辺班で一番危険なのはトーヤだからな。
飛行機が離陸する。
飛び立つと私達は空を眺めていた。
「帰ってもまだ問題はあるみたいだね」
「一つずつ解決していくしかないだろうな?」
「だね」
亜依は笑う。
また旦那ともめ事を繰り広げながら日常を積み重ねていくんだろう。
私も人の事はいえない。喉元過ぎれば熱さを忘れる。
次はない、次はないって言いながら結局許していくんだろう。
でも何事もなければそれはそれで不安になる。
あいつらはあいつらなりにストレスを発散させてるんだろう?
じゃあ、私達はどうやって発散させればいい?
女子会をやれば、男子会という火種を作りだす。
男っていうのはそういう生き物なのかもしれない。
女が舵を取ってやらないとどこへ行くのかも危うい人生。
だったらしっかり舵を取ってやればいい。
手綱を引いていたらいい。
理想としていたトーヤですら徒党を組めば何を言い出すか分からないのだから。
トーヤと愛莉の関係は理想の関係なんだろうな。
意地でも奪っておけばよかったか?
今さらそんな事を言ってもしょうがない。
あの時最善の選択をしたのだから、今更後悔する気もない。
自分を投げ出さず生きた今日を、褒め続けられる日々を送ろう。
自分を諦めず生きた日々を、悔いなく終わる命でありたい。
飛行機は地元空港に着陸する。
そこから高速バスで駅前まで移動する。
亜依もメッセージを送っている。
「今着いた、これから駅前に向かう」と。
ここで「旅する自由気ままな女」の時間は終わった。
ここからは「駄目な亭主の世話をする主婦」の始まりだ。
(3)
「あれ?瑛大じゃないか?」
「あれ?誠……誠もか?」
駅でばったり出会った瑛大。
電車が来るまでの時間二人で話していた。
お互いの女房は東京で羽を伸ばしていたらしい。
今日帰るから迎えに来い。夕食くらいご馳走しろ!
「まあ、よかったな……」
お互い考えだして出た結論がその一言だった。
「なあ、誠……頼みがあるんだけど」
「どうした?」
「一緒に夕食いかね?亜依が怖くてさ……」
二人っきりになりたくないらしい。
まだミスを犯すかもしれない。
それは俺もそうだな、瑛大が制御棒になるかどうかは置いておいて。
「じゃあ、4人で飯にするか?」
「ありがとう!助かる」
電車が来たので電車に乗る。
駅に着くと高速バスの乗降場で二人の帰りを待つ。
そして二人を乗せたバスがやってきた。
そして二人がバスを降りると俺達を見つける。
静かに近づいてくる。
瑛大はなんと声をかけたらいいか分からないらしい。
しょうがない、俺が手本を見せるか!
「おかえり、神奈。今回はまじすまなかった!」
そう言って頭を下げる。
「他人が見てる前でそんなみっともない真似止めろ」
神奈がそう言うと俺は頭をあげる。
「じゃ、亜依またな。行くぞ誠」
その件があった。
「それなんだがな、神奈……」
「?」
神奈に瑛大たちも一緒に4人で食事しようと思うんだがと伝える。
神奈は笑う。
「一人じゃ怖いか?」
亜依さんも同じ反応だった。
「いいよ、まだ夕食には早いけどどうするんだ?」
「とりあえず荷物持つよ。映画でも見て時間潰さね?」
「良いけどなんかいいのあるのか?」
「いや、適当に時間潰せればなんでもいいかな~って」
「……まあ、いいけど」
そして俺達は映画を見た。
寝ていたから内容は覚えてない。
映画が終ると神奈に起こしてもらう。
その後雑貨屋さんなんかを見ながら時間を潰す。
そして予約してあった時間になると店に向かう。
色々悩んだ挙句寿司屋にした。
四人で乾杯する。
「酔う前に確認しておきたいんだが……」
俺が切り出した。
「どうした?」
「神奈左手見せて」
「いいけど」
神奈が左手を出す。
そこには俺がプレゼントした指輪がきっちりはめられてあった。
胸をなでおろす。
「そこまで不安になるなら、最初からするんじゃねーよ」
そう言って神奈は笑う。
その後は普通に料理を楽しんだ。
酒も入りながらだったけど無事だった。
食事を終えると店を出る。
「まさかこのまま帰るつもりじゃないだろうな?」
神奈は酔って気分が良いらしい。
まあ、時間的にはもう一件くらい行けるか。
「神奈の母さんの店でも行くか?」
「それがいいな」
「亜依も行かないか?」
「別にいいけど」
4人でスナックに行くと神奈のお母さんが出迎えてくれる。
「神奈、東京行ってたんでしょ?お帰り、久しぶりの東京はどうだった?」
「修学旅行の時よりすごかった」
「そうだろうね~」
「君達奥さんとは仲直りできたの?」
「お陰様で」
「ハハハ」
渇いた笑い声しか出ない瑛大。
それから少しの間飲んでた。
カウンターで飲んでいた。
神奈は母さんと話し込んでる。
瑛大は亜依さんと仲良く飲んでるように思えた……。
「それにしても参ったな~誠!?酷い目に合ったぜ!」
瑛大の様子がおかしい。
「人が心配してる間東京でバカンスなんてふざけんな!ってのな!」
俺は聞いてないふりをした。
「誠も心配してたんだろ?なんか言ってやれよ!お前だって文句の一つや二つあるだろ?」
俺に話を振ってくるな!
「ほう?誠も文句があるなら言ってもいいぞ?今日はいい気分だ。じっくり聞いてやるぜ」
この流れはやばい。切らないと。
「神奈。東京はどうだった?」
「はあ?」
「いや、神奈の旅の話を肴に飲むのもありなんじゃないかと思ってな」
「今の話を聞いてなかったのか?私は……」
「俺は神奈が戻ってきてほっとしてるよ。それが本音だ。首の皮一枚つながったと思ってる」
「それがお前の本音なんだな?」
「ああ」
「じゃあ、私も本音で言うよ」
神奈が口角を上げる。
「向こうで旧友にあった。一人は高校の修学旅行であった女ともう一人はその彼氏。私の好きだった男だ」
「そ、そうか……」
「悔しかったよ。今でも続いてたんだなって。しかもプロバスケと契約決まって本契約結んだら結婚するらしい」
「な、なるほどな……」
「私も自慢したかったよ。こんな素敵な旦那がいるんだぜって」
え?
「私も悔しかったな。こんな頼りなくてどうしようもない旦那だけど幸せなんだなって」
亜依さんも言う。
「私達約束したんだ。今度行くときは旦那を紹介するって」
神奈が言う。
「お前が反省してる事は電話を聞いて理解してるよ。だから酒を飲んでる時くらい他人行儀になるのはやめろ。たった一人のお前の嫁だぞ。もっと気楽に行け」
「……すまんな」
「しけた話は止めろ」
「わかった、んじゃ盛り上がるか」
「ああ、そうだな」
神奈が笑う。
「ここカラオケある?」
「あるわよ」
そう言って端末とマイクを渡される。
俺は歌いだす。
たとえ遥か遠く離れていても想いは繋がり合っていると。
悪戯な運命が降りかかろうとも壊れやしないと。
望まれる明日がその先にあると頭の奥で誰もが気づいているはず。
晴れ渡る日々に争いの種が消え去るをいつか見せたい。
傷つけあうのを止めない堕ちていく世界だけど、君に出会えたことだけでもう何も怖くは無い。
たとえこの身体がいくら燃え尽きてもいい君に捧げよう。
いつか生まれ変わる世界がその目に届くように。
俺達が繋がるロマン……。
瑛大は案の定亜依さんから説教を食らっていた。
「亜依、私達終電前に帰るけどどうする?」
「……この馬鹿に言い聞かせたい事いっぱいあるから先帰ってて。どっかホテルにでも泊まるわ」
「あ、亜依俺達もそろそろ」
「うるさい、この馬鹿は帰って来て早々怒らせやがって!」
俺達は亜依さん達を残して駅に向かう。
「大丈夫か?瑛大達」
「大丈夫だろ?」
神奈も大丈夫そうだ。
終電に乗って大在までいくと、そこから歩く。
しまった!
家の前に着くと神奈を抱きしめる。
「本当にすまなかった。俺にはお前が必要だって思いしらされた」
「わかったから家に入ろう」
「も、もう少しだけこのままで……」
無駄な抵抗だったみたいだ。
「誠。どけ今すぐドアを開けろ」
「神奈愛してる」
「分かったから開けろ」
「今はお前を離したくないんだ」
「うだうだ言ってねーでさっさと開けろ!」
ささやかな抵抗も虚しく神奈は俺を振りほどくと開錠してドアを開ける。
本気で神奈を抱きしめたら折れてしまいそうだろ?
そこには見るも無残な部屋があった。
カップラーメンや弁当の残骸。ペットボトルや空き缶が床に散らばり挙句の果てには面倒だからベッドに寝るのも面倒だと床に布団が落ちている。当然布団は汚れる。
神奈は何も言わずキッチンと脱衣所を見る。
キッチンは腐海と化し、脱衣所も3日分の洗濯物があふれかえっている。
神奈は俺も見てにこりと笑った。
「確かに誠には私が必要なようだな……」
分かってくれたか神奈。
「……で済むと思ったか!この馬鹿は!どうして3日空けただけでここまで散らかるんだ!」
俺はもう一つのミスを犯していることに気が付いた。
「そ、そうだな、今すぐ片付けるよ」
「……待て」
片付けようとする俺を制止する神奈。
「い、いや。これじゃ寝る場所無いだろ?神奈も旅疲れあるだろうし俺に任せてくれ」
「いいから動くな!……何だこの匂い?」
そう言うと部屋にずかずかと入ってくる神奈。
そしてその異臭の正体を発見する。
「この馬鹿は……いつの間にこんなもの買ってやがった!?」
「て、テレビでも見て落ち着け」
これが今日のダメ押しの一発。
テレビをつけると大音量の声と画面いっぱいに広がる……。
「決めた……お前と別れるって話は無しだ」
ジュースかコーヒーか分からないものが染みになった離婚届を破り捨てる。
「お前を一から叩き直してやる!逃がさないからな!覚悟しておけ!」
そういう神奈の表情は穏やかだった。
取りあえずテレビ消そう、話はそれからだ。
(4)
その日の夜に家に辿り着いた。
冬夜君はなぜか急いでるらしくて。昼食を食べ終えるとすぐに高速に入り地元まで目指した。
そして夕食も食べずに私の家に行く。
どうしたんだろ?
「あら~冬夜君に愛莉ちゃん。どうしたの~?」
「おじさんいますか?」
「パパさんなら今お風呂に入ってるからちょっとあがって待ってなさいな」
パパさんに用事?
どうしたんだろう?
また何か事件なのかな~?
リビングで待っていると、りえちゃんがジュースを出してくれた。
冬夜君はそれを一気に飲み干す。
どんな用事があるのか分からないけど力み過ぎは良くないよ?
冬夜君に声をかけるけど何か考え込んでる様で上の空。
どうしたんだろう?
パパさんがお風呂から出てきた。
りえちゃんがパパさんに説明してる。
パパさんはソファーに座る。
「どうしたんだい?急に?」
冬夜君はなかなか要件を言わない。
しばらくしてようやく話を始めた。
「実は愛莉と旅行中に考えたのですが……」
「うむ……」
「来年から僕は社会人です、独り立ちしようと思います。愛莉とも相談したのですがやっぱり早い方が良いと思い決断しました」
「う、うむ……」
パパさんは察したらしい。
私も気が付いた。
「来年になったら家探して引っ越そうと思います。お金は十分貯えています。愛莉に余計な苦労はかけません。卒業して一年以内に必ずプロポーズします。その予行練習というかその……愛莉と二人で同棲させてください!」
「……」
パパさんは何も言わずにじっと冬夜君の話を聞いていた。
そしてゆっくりと話し出す。
「やっとその決意が出来たんだね?その言葉をどれだけ夢見ていた事か……梨衣」
「は~い?」
「この二人まだ夕食食べてないんだろう?寿司でもとってやりなさい」
「は~い」
「あ、あの返事は……」
「そうだ!片桐さんとこにも連絡しなさい!今夜は前祝だ!本祝いは結婚の報告の時にしよう!」
「そうですね~」
りえちゃんはお寿司の出前を取ると片桐家に電話している。
あっけにとられる冬夜君。
そんな冬夜君の両肩をしっかりとつかむパパさん。
「……娘の夢を叶えてくれてありがとう!」
「あ、あの。まだ結婚して欲しいと言ったわけじゃ……」
「結婚前提の同棲なんだろう!?うちの娘はまだ至らぬところがあるかもしれないがよろしく頼むよ」
「は、はあ」
「遠坂さん!今の話本当ですか?」
冬夜君のパパさんが言った。
「ええ。たった今『同棲させてほしい』と……」
「おお!お前もやっとその気になったか!?」
パパさん達は盛り上がっている。
「冬夜。愛莉ちゃんをちゃんと労わってやるんだよ」
「麻耶さん。愛莉ちゃんはそんなやわな娘に育てたおぼえはありませんから~」
りえちゃんと麻耶さんも盛り上がってる。
困惑してるの私と冬夜君。
その晩お祝いの予行演習が行われた。
お寿司とお酒を飲んでわいわいとやってそして冬夜君の家に帰った。
「引っ越しの時は手伝うからね~」
そう言ってりえちゃんは手を振った。
パパさんは一人で飲んでるらしい。
何でも一人で酔いたい気分なんだとか。
冬夜君が先にお風呂に入って、私はお風呂に入って酎ハイを二つとって部屋に戻る。
部屋に戻ると冬夜君が私を真剣なまなざしで見てる。
「冬夜君もってきたよ~」
「ありがとう」
まずは飲む。
冬夜君をリラックスさせてあげなくちゃ。
それから話を切り出す。
「どうしたの急に?あんなことして」
「愛莉に伝えたかったから。僕の気持ち」
「気持ち?」
「うん、本気で愛莉と二人で過ごしたいって思ってるって伝えたかった」
「……ありがとう。でもあんなことしなくても、伝わってるよ十分」
冬夜君は私を抱きしめる。
酔いもあるのかもしれない。冬夜君は私を抱きしめて言った。
「絶対幸せにするから!」
大声で言う冬夜君。
「や~だよ」
「え?」
戸惑う冬夜君の腕をほどいて冬夜君の前に正座して向き合う。
「まだまだ未熟な私だけど。こんな私でいいなら。一緒に幸せになってください」
そう言って冬夜君に抱きついてキスをする。
「あ、ああ……」
放心状態の冬夜君。
「突然だったからびっくりしちゃった。お昼から変だと思ってたけどそんな事考えてたんだね」
「うん、善は急げって言うだろ?だから急がなくちゃと思って」
「どうしてそんなに焦ってるの?私が遠くに行っちゃうと思った?」
「あ、いや。焦ってると言えば焦ってたんだけど」
「ほえ?」
冬夜君は言う。
結婚してる皆を見て自分も焦ってる。もう来年度からは社会人だ。就職も決まった。目の前の問題は片付いてる。愛莉が望んでるのに理由もなく待たせるのはまずいんじゃないか?って思ったと。
なるほどね……。
でもね、冬夜君勘違いしてるよ?
ぽかっ
「私いつまでも待ってるって言ったよ。そんなに焦らなくていいんだよ。さっきので十分。また一歩夢に近づいたんだから」
「愛莉の夢。ちゃんと叶えてあげるから」
「うぅ……それってプロポーズじゃない?」
私の夢は冬夜君のお嫁さんになる事。その夢を叶えてくれるってプロポーズだよね?
「返事……今聞いて良い?」
「言いも何もさっき言ったよ?」
「え?」
「一緒に幸せになろうねって……」
「あ!」
自分のことになると鈍いんだから。
「でさ、冬夜君はどの辺に住もうと思ってるの?」
「愛莉は車運転できるからどこでも買い物できるだろ?」
「うん」
「僕の希望としては就職先の近所がいいんだよね。通勤便利だし」
就職先が駅の近所だから。電車通勤でも良いと言う。
「私の希望を言ってもいい?」
「ああ」
「私も駅の近所がいいな。青い鳥にすぐに行けるから」
スーパーなんかも近いし。
「楽しみな年になりそうだな?」
「まだ早いよ~9月だよ~」
「そうだな」
まだ秋に入ったばかりだけど私達の心は遠い未来、望まれる明日に期待していた。
「冬夜君、朝ごはんの時間だよ!」
愛莉の大きな声で目を覚ます。
「そんな大きな声で言わなくても聞こえてるよ」
僕は抗議をする。
「冬夜君は旅行の時はいつもよりずっと甘えてくるから駄目なの」
「旅行の時くらいいだろ?甘えても」
「いつも甘えてるじゃない、それにもたもたしてると朝ごはん無くなっちゃうよ?」
それは大変だ!
僕は顔を洗うとすぐに着替える。
「行こう!愛莉!」
「うぅ……」
何か悩んでるようだが、朝ごはんの方が大事だ。愛莉の手を引っ張って朝食に向かう。
「そんなに引っ張らなくてもいでしょ。痛いよ!」
畳の間に着くとご飯が待っている。
TKG!TKG!
まずはご飯に生卵と醤油をかけて一気にかきこむ。
そして仲居さんに「おかわり!」と……
ぽかっ
「よく噛んで食べなさい!それにおかずも一緒に食べなきゃダメ!」
「愛莉玉子いらないらならもらうよ?」
「うぅ……」
愛莉に渡された卵を受け取るとそれをかけてさらにかきこむ。そしておかわりを……
ぽかっ
「だからよく噛んで食べなさいって言ってるでしょ!おかず全然食べてないじゃない!」
「だから次からおかずと一緒に食べるんだって」
「嘘だもん、次は海苔でご飯を食べてお代わりする気でしょ!?」
「あらまあ、新婚さんかね~仲のいいことで」
そう言って仲居さんはご飯をくれる。
「まだ結婚はしてないけど昨日プロポーズみたいなことは言われました~」
「そうなの?おめでとう」
「ありがとうございます」
あれがプロポーズで良いのか?愛莉。
でも愛莉の機嫌がいいならそれに越したことは無い。
愛莉が仲居さんと喋ってる間にご飯と海苔を食べておかわりを……。
ぽかっ
「それで最後だからね!」
「本当に仲のいいことで……」
そう見えるならそれでいい、余計な事言って愛莉の機嫌を損ねるのは良くない。
ご飯から戻るとチェックアウトの時間まで部屋でのんびり過ごす。
二人でスマホを見ながらテレビをつけてる。
愛莉の視線が僕のスマホにいってるのに気づく。
「どうした愛莉?スマホが気になるの?」
「うん、メッセージ誰とやってるのかな?って」
「ああ、渡辺班だよ。男子会だけど」
「やっぱり……」
愛莉は僕を睨みつける。
「また男性だけで変な事企んでるんでしょう?」
「そんな事無いって。誠達が今日亜依さん達が帰ってくるからってほっとしてるから『よかったな』って返事してるだけだよ」
「で、誠君達どうするつもりなの?」
「それは来週末に決めるって話したろ?」
「その話なんだけどさ……」
愛莉は自分のスマホを見せる。
女子会グルのメッセージだった
「男だけって絶対また余計な事話すよ」
「こそこそやるのが男なんだから」
「断固許すわけには行かないな?」
「どうする?」
「私達も同伴させてもらうってのは?」
「それいいね!」
絶句した。
「冬夜君に聞いてみる!」
「愛莉ちゃんお願い」
聞いてみるってどう考えても拒否権無いだろ?
「冬夜君だめかな~?」
そんな目でお願いされたら断れないだろ。
僕は黙ってスマホを操作する。
「女性陣が参加したいって言ってるんだけど」
「な、何で遠坂さんが知ってるんだよ?お前まさか……」
「不可抗力だよ!」
「まあ、俺も美嘉に見られてるんだけどな」
渡辺君も逆らえないらしい。
愛莉が僕からスマホを奪うと何か打ち込み始めた。
「男だけでこそこそ何か企もうったってそうはいかないんだから!」
「い、いや。俺たちはただ単にあの二人の暴走に巻き込まれない手段を」
「そう言いながら冬夜君を厄介事に巻き込んでるじゃない!」
渡辺班の方で新着メッセージが。
「男共こそこそ隠れてねーでこっちに出てこい!」
美嘉さんだ。
「別にこそこそしてたわけじゃない」
「じゃあ、私達がいてもいいよね?」
愛莉が言う。
「……しかたないな、この人数だとファミレスは無理だ。週末に居酒屋確保しとくよ」
渡辺君が折れた。
「それでいいんだよ」
美嘉さんがそう言うと会話が止まった。
愛莉は満足気に笑ってる。
やれやれ……。
(2)
朝目が覚めると私達は朝食を済ませて。羽田空港へと向かった。
搭乗手続き、手荷物検査を済ませると。待合ロビーで待つ。
「なんかあっという間だったね」
亜依が言う。
「そうだな、まあいい気分転換にはなったんじゃないのか?」
「そうだね」
亜依が笑う。
搭乗が始まると私達は飛行機に乗り込む。
「神奈達は来年の4月に予定してたんだっけ?」
「まあ、そうだな」
あいつのデビュー祝いもしてやらないとな。
すぐに試合に出してもらえるのかは分からないけど。
「か、神奈これ見て?」
亜依はスマホを差し出す。
男性だけで誠と瑛大対策を考えるらしい。
それに愛莉と美嘉が乱入している。
女性陣も同行を条件としたらしい。
「後ろめたいことが無いなら一緒にいても平気だよね」
愛莉がそういうと誰も何も言わなくなった。
「女子会も迂闊にできなくなったね」
亜依がため息交じりに言う。
たしかにそうだな、あいつらを放っておくとろくなことにならない。
まだしっかりと手綱を持っておかないと駄目なようだ。
トーヤは平気なんだろうけどな。
トーヤと言えば……。
「意外だったな。あいつでも愛莉に対してあんな風に思っていたなんてな」
「片桐君。そうだよね……なんか抱え込んでそうだよね」
「と、思ったけど。凄く単純な答えなのかもしれない」
「どういう意味?」
「酒に溺れてその場のノリで言ってみたとかそんなんじゃないかな?」
「片桐君だとそっちの方が強そうだね」
でもそういう奴が一番怖いんだ。不満が溜まると何をしでかすか分かったもんじゃない。
キレると渡辺班で一番危険なのはトーヤだからな。
飛行機が離陸する。
飛び立つと私達は空を眺めていた。
「帰ってもまだ問題はあるみたいだね」
「一つずつ解決していくしかないだろうな?」
「だね」
亜依は笑う。
また旦那ともめ事を繰り広げながら日常を積み重ねていくんだろう。
私も人の事はいえない。喉元過ぎれば熱さを忘れる。
次はない、次はないって言いながら結局許していくんだろう。
でも何事もなければそれはそれで不安になる。
あいつらはあいつらなりにストレスを発散させてるんだろう?
じゃあ、私達はどうやって発散させればいい?
女子会をやれば、男子会という火種を作りだす。
男っていうのはそういう生き物なのかもしれない。
女が舵を取ってやらないとどこへ行くのかも危うい人生。
だったらしっかり舵を取ってやればいい。
手綱を引いていたらいい。
理想としていたトーヤですら徒党を組めば何を言い出すか分からないのだから。
トーヤと愛莉の関係は理想の関係なんだろうな。
意地でも奪っておけばよかったか?
今さらそんな事を言ってもしょうがない。
あの時最善の選択をしたのだから、今更後悔する気もない。
自分を投げ出さず生きた今日を、褒め続けられる日々を送ろう。
自分を諦めず生きた日々を、悔いなく終わる命でありたい。
飛行機は地元空港に着陸する。
そこから高速バスで駅前まで移動する。
亜依もメッセージを送っている。
「今着いた、これから駅前に向かう」と。
ここで「旅する自由気ままな女」の時間は終わった。
ここからは「駄目な亭主の世話をする主婦」の始まりだ。
(3)
「あれ?瑛大じゃないか?」
「あれ?誠……誠もか?」
駅でばったり出会った瑛大。
電車が来るまでの時間二人で話していた。
お互いの女房は東京で羽を伸ばしていたらしい。
今日帰るから迎えに来い。夕食くらいご馳走しろ!
「まあ、よかったな……」
お互い考えだして出た結論がその一言だった。
「なあ、誠……頼みがあるんだけど」
「どうした?」
「一緒に夕食いかね?亜依が怖くてさ……」
二人っきりになりたくないらしい。
まだミスを犯すかもしれない。
それは俺もそうだな、瑛大が制御棒になるかどうかは置いておいて。
「じゃあ、4人で飯にするか?」
「ありがとう!助かる」
電車が来たので電車に乗る。
駅に着くと高速バスの乗降場で二人の帰りを待つ。
そして二人を乗せたバスがやってきた。
そして二人がバスを降りると俺達を見つける。
静かに近づいてくる。
瑛大はなんと声をかけたらいいか分からないらしい。
しょうがない、俺が手本を見せるか!
「おかえり、神奈。今回はまじすまなかった!」
そう言って頭を下げる。
「他人が見てる前でそんなみっともない真似止めろ」
神奈がそう言うと俺は頭をあげる。
「じゃ、亜依またな。行くぞ誠」
その件があった。
「それなんだがな、神奈……」
「?」
神奈に瑛大たちも一緒に4人で食事しようと思うんだがと伝える。
神奈は笑う。
「一人じゃ怖いか?」
亜依さんも同じ反応だった。
「いいよ、まだ夕食には早いけどどうするんだ?」
「とりあえず荷物持つよ。映画でも見て時間潰さね?」
「良いけどなんかいいのあるのか?」
「いや、適当に時間潰せればなんでもいいかな~って」
「……まあ、いいけど」
そして俺達は映画を見た。
寝ていたから内容は覚えてない。
映画が終ると神奈に起こしてもらう。
その後雑貨屋さんなんかを見ながら時間を潰す。
そして予約してあった時間になると店に向かう。
色々悩んだ挙句寿司屋にした。
四人で乾杯する。
「酔う前に確認しておきたいんだが……」
俺が切り出した。
「どうした?」
「神奈左手見せて」
「いいけど」
神奈が左手を出す。
そこには俺がプレゼントした指輪がきっちりはめられてあった。
胸をなでおろす。
「そこまで不安になるなら、最初からするんじゃねーよ」
そう言って神奈は笑う。
その後は普通に料理を楽しんだ。
酒も入りながらだったけど無事だった。
食事を終えると店を出る。
「まさかこのまま帰るつもりじゃないだろうな?」
神奈は酔って気分が良いらしい。
まあ、時間的にはもう一件くらい行けるか。
「神奈の母さんの店でも行くか?」
「それがいいな」
「亜依も行かないか?」
「別にいいけど」
4人でスナックに行くと神奈のお母さんが出迎えてくれる。
「神奈、東京行ってたんでしょ?お帰り、久しぶりの東京はどうだった?」
「修学旅行の時よりすごかった」
「そうだろうね~」
「君達奥さんとは仲直りできたの?」
「お陰様で」
「ハハハ」
渇いた笑い声しか出ない瑛大。
それから少しの間飲んでた。
カウンターで飲んでいた。
神奈は母さんと話し込んでる。
瑛大は亜依さんと仲良く飲んでるように思えた……。
「それにしても参ったな~誠!?酷い目に合ったぜ!」
瑛大の様子がおかしい。
「人が心配してる間東京でバカンスなんてふざけんな!ってのな!」
俺は聞いてないふりをした。
「誠も心配してたんだろ?なんか言ってやれよ!お前だって文句の一つや二つあるだろ?」
俺に話を振ってくるな!
「ほう?誠も文句があるなら言ってもいいぞ?今日はいい気分だ。じっくり聞いてやるぜ」
この流れはやばい。切らないと。
「神奈。東京はどうだった?」
「はあ?」
「いや、神奈の旅の話を肴に飲むのもありなんじゃないかと思ってな」
「今の話を聞いてなかったのか?私は……」
「俺は神奈が戻ってきてほっとしてるよ。それが本音だ。首の皮一枚つながったと思ってる」
「それがお前の本音なんだな?」
「ああ」
「じゃあ、私も本音で言うよ」
神奈が口角を上げる。
「向こうで旧友にあった。一人は高校の修学旅行であった女ともう一人はその彼氏。私の好きだった男だ」
「そ、そうか……」
「悔しかったよ。今でも続いてたんだなって。しかもプロバスケと契約決まって本契約結んだら結婚するらしい」
「な、なるほどな……」
「私も自慢したかったよ。こんな素敵な旦那がいるんだぜって」
え?
「私も悔しかったな。こんな頼りなくてどうしようもない旦那だけど幸せなんだなって」
亜依さんも言う。
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神奈が言う。
「お前が反省してる事は電話を聞いて理解してるよ。だから酒を飲んでる時くらい他人行儀になるのはやめろ。たった一人のお前の嫁だぞ。もっと気楽に行け」
「……すまんな」
「しけた話は止めろ」
「わかった、んじゃ盛り上がるか」
「ああ、そうだな」
神奈が笑う。
「ここカラオケある?」
「あるわよ」
そう言って端末とマイクを渡される。
俺は歌いだす。
たとえ遥か遠く離れていても想いは繋がり合っていると。
悪戯な運命が降りかかろうとも壊れやしないと。
望まれる明日がその先にあると頭の奥で誰もが気づいているはず。
晴れ渡る日々に争いの種が消え去るをいつか見せたい。
傷つけあうのを止めない堕ちていく世界だけど、君に出会えたことだけでもう何も怖くは無い。
たとえこの身体がいくら燃え尽きてもいい君に捧げよう。
いつか生まれ変わる世界がその目に届くように。
俺達が繋がるロマン……。
瑛大は案の定亜依さんから説教を食らっていた。
「亜依、私達終電前に帰るけどどうする?」
「……この馬鹿に言い聞かせたい事いっぱいあるから先帰ってて。どっかホテルにでも泊まるわ」
「あ、亜依俺達もそろそろ」
「うるさい、この馬鹿は帰って来て早々怒らせやがって!」
俺達は亜依さん達を残して駅に向かう。
「大丈夫か?瑛大達」
「大丈夫だろ?」
神奈も大丈夫そうだ。
終電に乗って大在までいくと、そこから歩く。
しまった!
家の前に着くと神奈を抱きしめる。
「本当にすまなかった。俺にはお前が必要だって思いしらされた」
「わかったから家に入ろう」
「も、もう少しだけこのままで……」
無駄な抵抗だったみたいだ。
「誠。どけ今すぐドアを開けろ」
「神奈愛してる」
「分かったから開けろ」
「今はお前を離したくないんだ」
「うだうだ言ってねーでさっさと開けろ!」
ささやかな抵抗も虚しく神奈は俺を振りほどくと開錠してドアを開ける。
本気で神奈を抱きしめたら折れてしまいそうだろ?
そこには見るも無残な部屋があった。
カップラーメンや弁当の残骸。ペットボトルや空き缶が床に散らばり挙句の果てには面倒だからベッドに寝るのも面倒だと床に布団が落ちている。当然布団は汚れる。
神奈は何も言わずキッチンと脱衣所を見る。
キッチンは腐海と化し、脱衣所も3日分の洗濯物があふれかえっている。
神奈は俺も見てにこりと笑った。
「確かに誠には私が必要なようだな……」
分かってくれたか神奈。
「……で済むと思ったか!この馬鹿は!どうして3日空けただけでここまで散らかるんだ!」
俺はもう一つのミスを犯していることに気が付いた。
「そ、そうだな、今すぐ片付けるよ」
「……待て」
片付けようとする俺を制止する神奈。
「い、いや。これじゃ寝る場所無いだろ?神奈も旅疲れあるだろうし俺に任せてくれ」
「いいから動くな!……何だこの匂い?」
そう言うと部屋にずかずかと入ってくる神奈。
そしてその異臭の正体を発見する。
「この馬鹿は……いつの間にこんなもの買ってやがった!?」
「て、テレビでも見て落ち着け」
これが今日のダメ押しの一発。
テレビをつけると大音量の声と画面いっぱいに広がる……。
「決めた……お前と別れるって話は無しだ」
ジュースかコーヒーか分からないものが染みになった離婚届を破り捨てる。
「お前を一から叩き直してやる!逃がさないからな!覚悟しておけ!」
そういう神奈の表情は穏やかだった。
取りあえずテレビ消そう、話はそれからだ。
(4)
その日の夜に家に辿り着いた。
冬夜君はなぜか急いでるらしくて。昼食を食べ終えるとすぐに高速に入り地元まで目指した。
そして夕食も食べずに私の家に行く。
どうしたんだろ?
「あら~冬夜君に愛莉ちゃん。どうしたの~?」
「おじさんいますか?」
「パパさんなら今お風呂に入ってるからちょっとあがって待ってなさいな」
パパさんに用事?
どうしたんだろう?
また何か事件なのかな~?
リビングで待っていると、りえちゃんがジュースを出してくれた。
冬夜君はそれを一気に飲み干す。
どんな用事があるのか分からないけど力み過ぎは良くないよ?
冬夜君に声をかけるけど何か考え込んでる様で上の空。
どうしたんだろう?
パパさんがお風呂から出てきた。
りえちゃんがパパさんに説明してる。
パパさんはソファーに座る。
「どうしたんだい?急に?」
冬夜君はなかなか要件を言わない。
しばらくしてようやく話を始めた。
「実は愛莉と旅行中に考えたのですが……」
「うむ……」
「来年から僕は社会人です、独り立ちしようと思います。愛莉とも相談したのですがやっぱり早い方が良いと思い決断しました」
「う、うむ……」
パパさんは察したらしい。
私も気が付いた。
「来年になったら家探して引っ越そうと思います。お金は十分貯えています。愛莉に余計な苦労はかけません。卒業して一年以内に必ずプロポーズします。その予行練習というかその……愛莉と二人で同棲させてください!」
「……」
パパさんは何も言わずにじっと冬夜君の話を聞いていた。
そしてゆっくりと話し出す。
「やっとその決意が出来たんだね?その言葉をどれだけ夢見ていた事か……梨衣」
「は~い?」
「この二人まだ夕食食べてないんだろう?寿司でもとってやりなさい」
「は~い」
「あ、あの返事は……」
「そうだ!片桐さんとこにも連絡しなさい!今夜は前祝だ!本祝いは結婚の報告の時にしよう!」
「そうですね~」
りえちゃんはお寿司の出前を取ると片桐家に電話している。
あっけにとられる冬夜君。
そんな冬夜君の両肩をしっかりとつかむパパさん。
「……娘の夢を叶えてくれてありがとう!」
「あ、あの。まだ結婚して欲しいと言ったわけじゃ……」
「結婚前提の同棲なんだろう!?うちの娘はまだ至らぬところがあるかもしれないがよろしく頼むよ」
「は、はあ」
「遠坂さん!今の話本当ですか?」
冬夜君のパパさんが言った。
「ええ。たった今『同棲させてほしい』と……」
「おお!お前もやっとその気になったか!?」
パパさん達は盛り上がっている。
「冬夜。愛莉ちゃんをちゃんと労わってやるんだよ」
「麻耶さん。愛莉ちゃんはそんなやわな娘に育てたおぼえはありませんから~」
りえちゃんと麻耶さんも盛り上がってる。
困惑してるの私と冬夜君。
その晩お祝いの予行演習が行われた。
お寿司とお酒を飲んでわいわいとやってそして冬夜君の家に帰った。
「引っ越しの時は手伝うからね~」
そう言ってりえちゃんは手を振った。
パパさんは一人で飲んでるらしい。
何でも一人で酔いたい気分なんだとか。
冬夜君が先にお風呂に入って、私はお風呂に入って酎ハイを二つとって部屋に戻る。
部屋に戻ると冬夜君が私を真剣なまなざしで見てる。
「冬夜君もってきたよ~」
「ありがとう」
まずは飲む。
冬夜君をリラックスさせてあげなくちゃ。
それから話を切り出す。
「どうしたの急に?あんなことして」
「愛莉に伝えたかったから。僕の気持ち」
「気持ち?」
「うん、本気で愛莉と二人で過ごしたいって思ってるって伝えたかった」
「……ありがとう。でもあんなことしなくても、伝わってるよ十分」
冬夜君は私を抱きしめる。
酔いもあるのかもしれない。冬夜君は私を抱きしめて言った。
「絶対幸せにするから!」
大声で言う冬夜君。
「や~だよ」
「え?」
戸惑う冬夜君の腕をほどいて冬夜君の前に正座して向き合う。
「まだまだ未熟な私だけど。こんな私でいいなら。一緒に幸せになってください」
そう言って冬夜君に抱きついてキスをする。
「あ、ああ……」
放心状態の冬夜君。
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「うん、善は急げって言うだろ?だから急がなくちゃと思って」
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