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5thSEASON
時の子守唄
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(1)
「冬夜君朝だよ~ご飯の時間だよ~」
目を覚ますと愛莉は着替えていた。
どこか出かけるのだろうか?
そんな約束はした覚えないけど?
「愛莉どこか行く約束したっけ?」
ぽかっ
「また寝惚けてる!今日から学校だよ~」
あ、そうか。
「でも着替えるの早いね」
「着替えてたら冬夜君も抱きつけまい……きゃっ」
言うより早く愛莉に抱き着いてた。
「うぅ……服がしわくちゃになっちゃうし、ご飯さめちゃうよ?」
それはまずいな。
慌てて部屋を出る。
「ちゃんと顔洗ってから食べるんだよ~」
そんな愛莉の言葉を背に受けながらダイニングに向かっていた。
「ところで冬夜、住む家は探してあるのか?」
父さんが聞いてくる。
「年が明けたら探すよ」
「それがいいだろうな、年度末だと皆こぞって探してるだろうし」
「どのあたりに住むつもりだい?」
「出来ればこの辺りで探すよ。引っ越すの楽だろうし結構アパートあったろ?」
「それって独立する意味あるのか?」
「家計的に独立したかったから。それに、どうせこの家譲ってくれるんだろ?」
それなら近い方が良い。
「まあ、私達も気軽に孫の顔を見れるから問題ないけど」
そこまで予定はしてない。
「私は女の子と男の子が欲しいんです」
愛莉が話を進める。
「どうして?」
「だってりえちゃんは男の子欲しいって言ってたし、冬夜君のパパさんは女の子欲しいって言ってたから」
「あら?嬉しい事言ってくれるのね」
母さんは喜んでる。
「名前も決めてくれてるんですよね?」
「ああ、もちろん……」
本当か?
「何て名前なの?」
僕は聞いていた。
「娘なら翼か天音だな」
「男の子なら?」
「空」
名前に困る必要は無さそうだ。少なくとも両親のネーミングセンスは普通らしい。
「3人も作らないといけないんだね。頑張ろうね!冬夜君!」
「しっかりな。もう父さんたちが口出しする年頃じゃないからいつでも作ってくれて構わんぞ!」
「愛莉ちゃんに恥かかせないように出来婚なんてみっともないことはするんでないよ?」
父さんと母さんに言われた。
出来婚なんてした日には愛莉パパに絞殺されそうだ。
そう言えば他の皆はどうなんだろう?もう子供の事とか考えてるんだろうか?
石原君と酒井君は大変だろうな。男の子なんて作った日には徹底的に鍛え上げられそうだ。
誠の場合は女の子は駄目だろうな。誠の趣味に染められたら大変なことになりそうだ。
カンナがそうはさせないだろうけど。
「冬夜君食べ終わったなら仕度しないと」
愛莉に言われて席を立つ。
コーヒーをマグカップにいれると部屋に持って行く。
「片桐翼に片桐天音、片桐空か~、大変だね冬夜君」
色々突っ込みたいけど「ああ、そうだな」と流す。
それがいけなかったみたいで。
「うぅ……今どうでもいいと思ったでしょう?」
「そ、そんなことないよ。ただ愛莉3人も出産大丈夫なのか?結構大変だって聞いたけど」
「うん、りえちゃんからも聞いてる」
でも頑張る!と愛莉は今から張り切ってる。
翼に天音に空か……空は絶対に姉妹に頭が上がらないだろうな。血筋的に。
「う~ん……」
愛莉は横でコーヒーを啜りながら悩んでる。
聞くのが怖いけど聞かないと拗ねそうだし聞くか。
「どうしたの?」
「冬夜君はどんな子供が欲しいとかないの?希望があるなら4人作るけど」
そんなレンチンするように気軽に言わないでくれ。
「愛莉との子供ならどんな子供でも可愛いよ」
「そうだよね~。じゃあ、名前とかは?親の希望ばっかりで冬夜君の希望きいてなかったから」
「う~ん……苺?」
「ほえ?」
「あと蜜柑とか、まろんとか?」
「ま、まろん?」
「栗と書いてまろん」
「冬夜君にネーミングは任せたら駄目だね」
愛莉はそう言って笑った。
「愛莉はどうなんだよ?」
「うーん、月(らいと)とか?」
それは絶対にアウトだぞ愛莉。
(2)
昼休み学食に皆集まっていた。
「子供?」
恵美さんと晶さんが言った。
皆に子供の事とか考えてるのか?それを聞いてみたかった。
「そうね、望が望めばいつでも作る準備出来てるんだけど。望は学生の間は駄目って言ってきかないのよ」
「そうね、私と恵美は専業主婦だし。いつでも大丈夫だけどね」
恵美さんと晶さんはそう答える。
石原君と酒井君は苦笑いをしている。
女性の方が積極的なんだろうか?
「恵美たちは何人産む予定なの?」
愛莉が聞いていた。
「分からないわね。男の子が生まれるまで何人でも産む覚悟よ」
「じゃあ、どっちが先に作るか競争ね恵美。私も男の子欲しいし、何より親が望んでる」
恵美さんと晶さんが言うと石原君と酒井君は頭を抱えている。
そりゃそうなるだろうね。
「愛莉ちゃんは決めてるの?」
恵美さんが愛莉に聞いたら愛莉は嬉しそうに話す。
「最低3人が目標なの?女の子2人に男の子1人」
何も律義に名前の数だけ産む必要ないんじゃないのか?」
「それって愛莉ちゃんもし女の子3人とかになったらどうするの?」
「どうしよっか冬夜君?男の子出来るまで産んでもいい?」
そんな話題を僕に振るのか?
「俺達もそろそろ子供をと考えているんだけどな、美嘉が産休とらないとだめだろ?もしくは美嘉が働かなくていい環境にしてやらないといけない」
渡辺君が言う。
「でも愛莉ちゃんなんで女の子2人に男の子1人なの?」
恵美さんが尋ねる。
「冬夜君の両親が名前を考えてくれたの」
「それって不公平じゃない?」
「ほえ?」
「愛莉ちゃんの両親の意見は聞かないの?」
「あ、そっか。じゃあもうちょっと頑張らないといけないね」
そう言いながら愛莉はスマホを操作してる。
それは僕達の「片桐・遠坂家」のグループだった。
「りえちゃんたちは子供の要望とかある?」
「そうね~男の子がいいかな?やっぱり。ねえ、パパさん?」
「う、うむ」
「じゃあ、名前は?」
「それは愛莉ちゃん達が自由に決めなさいな~」
「わかった~」
とりあえず3人で事足りそうだ。
「先輩たちはもう子供の事考えてるんすね?」
多分この3人が異常なんだと思うぞ。晴斗。
「私もそろそろって考えてるんだけどね、悠馬が……」
咲さんが言う。
「お互いまだ学生だろ!?早すぎるよ!」
竹本君が言う。
「私はいつ学校退学してもいいわよ?将来は決まったんだし」
「咲、ダメだよ。折角学費払ってもらってるのに無駄になっちゃう」
愛莉が言う。
「真鍋君はどうなんだ?」
渡辺君が真鍋君に聞いていた。
「うちはやっぱり聡美の収入で生計たててるから俺が大学卒業するまで無理ですね」
「花菜はどうなの?」
愛莉が花菜さんにきいていた。
「私も卒業するからそろそろって思うんだけど主人がそれどころじゃないくらい仕事にはまっていて……」
「佐(たすく)はどうなんだ?」
「俺も就職先は決まってるんだけどな。桜子がまだ学生だろ?」
「佐とはまだ結婚すらしてない!」
「結婚してもらえるなら卒業後にプロポーズするけど」
「片桐先輩みたいな予防線張るのやめて!」
それは間違ってるぞ佐倉さん。
気づいたら内堀まで身内にうめられてあまつさえ部下に首をとられただけだ!
「子供か……お前らも考えてるんだな……」
カンナが溜息をついている。
「神奈はいつ作るの~?」
愛莉が聞いている。
「その話で昨夜喧嘩してさ……」
「……誠また何かやったのか?」
僕が聞くとカンナが頷いて話し出した。
「子供を作るなら断然娘だよなって言いだしてさ。そこまでは読んでいたよ。娘の世話なら俺も見るって言いだしてさ……それもまあ協力してくれるならって理解したよ……だけど」
「だけど?」
「娘の名前は決めてあるんだ!って言いだしてな」
みんな娘の名前は決めてあるんだな。
「どんな名前だったの?」
愛莉が聞いている。聞かない方がいい気がするんだけど。
「女神(ヴィーナス)とか天使(ミカエル)とか言い出してな……さすがに我慢の限界がきて『ふざけんな!』って大ゲンカだよ」
誠……お前はいったい……。
「愛莉ちゃんも子供の名前決めてあるって言ってたわね。どんな名前なの?」
恵美さんが聞いた。
「娘が翼と天音。息子が空だよ~」
「トーヤが決めたのか?」
「いや、冬夜君のパパさん。冬夜君は誠君よりはマシかな。蜜柑とか苺とか栗(まろん)とか……」
「……男って普通に名前考えられないのかしら」
恵美さんが溜息をつく。
皆色々問題あるんだな。
「翔たちはまだだよな」
「そ、そうですね!」
「……はい」
どうしたんだろ?話を聞いてたのかすら怪しい空気だぞ。
「そっか、翔は怪我でそれどころじゃないか……」
「え!?」
「な、なんでそれを!?」
完全に勘だったんだけどね。
僕はにやりと笑う。
「翔!どういうこと!?説明しなさい!」
佐倉さんが言う。
「い、いや。大したことじゃないんです。ちょっと捻挫した程度で」
「捻挫は癖になるって本に書いてた。嘘は良くない」
ちぃちゃんと翔が言い争いを始めた。
「翔、マネージャーの言う事は聞いとけ。特に彼女だろ?なおさらだ。無理は駄目だ」
佐が言う。
「ちょっと今足見せなさい」
佐倉さんが言うが翔は拒否する。
「そんな子供の我儘みたいなことを千歳にもやったんだね!?つべこべ言わず見せなさい!」
「朝の騒ぎはそれか……?」
佐が言う。
「朝何があったの?」
僕が聞くと答えたのはちぃちゃんだった。
(3)
朝練をしている時だった。
私は佐倉先輩の指示通りに皆の状態をチェックしていた。
あの晩以降どうしても翔を意識してしまうけど。
翔のプレイに見とれてしまう。
私と翔だけの世界を作り出してしまう。
抜け出すことが中々出来ない。
これが恋の仕業なの?
佐倉先輩はどうやって抜け出しているんだろう?
佐倉先輩に聞いてみた。
「難しい問題だね。慣れるしかないんじゃない?」
佐倉先輩でも難しいんだ。
そんな話を佐倉先輩と話をしながら翔のプレイを見ていた時だった。
翔が赤井先輩と接触プレイで倒れる。
「わりぃわりぃ……立てるか?」
「平気っす」
その時気づいてしまった。
翔が足を少し引きずっているのを。
「ちょっと俺先に失礼します」
「ああ、おつかれ」
翔は更衣室に入って行った。
男性の更衣室、躊躇いはあったけどノックする。
「千歳です、入ってもいいですか?」
「あ、ああいいよ」
更衣室に入ると翔は着替えてなかった。
ズボンのすそを膝まで上げてる。
自然と足首を見ていた。
そして手に持っているスプレー……。
「それは何?」
「ただのコールドスプレーだよ」
「どうしてそんなの持ってるの?」
「ちょっとさっき足首痛めたみたいでさ。大したことないよ」
「大したことないかは私が判断する。見せて」
有無も言わさず膝まで露出させてる足を見る。
足首を触るだけでびくっとするほど痛がってる。
「今日病院に行こう?」
「そんなたいしたことないって。少し休めばよくなるよ」
「じゃあ、今日は休むんだね?」
「今日の練習までには治ってるから」
「そんな都合のいい怪我あるわけない」
本で見た。佐倉先輩に聞いた。足の故障は癖になるから早めに病院で治療を受けろと。
「今日病院に行こう。監督には私から話す」
「待ってくれ。チームの皆には黙っていてくれ!病院には行くから!」
「どうして?ここで無理したら一生バスケ出来なくなるよ?」
翔の夢はもっと大きな舞台に立つことなんでしょ?
「今言ったら絶対にリーグ戦でスタメン取れなくなってしまう!千歳はマネージャー初めて半年しか経ってないから分からないだろうけど、最後のチャンスかもしれないんだ!」
「最後じゃない。来年その次の年、いくらでもチャンスはある!」
「……今のチームは多分地元大始まって以来の最強のメンバーだ。そんなメンバーと肩を並べてプレイしたい気持ちは選手にしか分からない!千歳には分かってもらえない!」
パシッ!
「分からないし、興味もない!私が心配するのは翔の未来だけ!私は翔の言う通り未熟なマネージャーだけど同時に翔の唯一の理解者だと思ってた!」
こんなに取り乱したのは生まれて初めてだ。
他人の為に涙を流すなんて一度たりとてあっただろうか?
翔もこんな私を見たのは初めてらしい。
「どうしたなんかあったのか?」
先輩たちが入ってくる。
私は先輩たちから翔の身を隠す。
今のうちに片付けろと。
翔はズボンを元に戻し。バッグにコールドスプレーを直す。
それをちらりと見て確認するとそっと更衣室を出る。
「なんだ、更衣室でいちゃついてたのか?」
「そんなんじゃないっすよ。ちょっと話をしてただけっす」
「何の話だよ」
そんな話を聞きながら悩んでいた。
この話を監督に知らせるべきか。
翔の意思を尊重するべきなのか?
佐倉先輩にも相談できない。
私と翔……どっちが正解なのか分からずにいた。
(4)
「翔が悪い!!」
佐倉さんはそう言い切った。
「でも千歳もマネージャー失格だよ!そんな隠し事するなんて!」
「でも翔の試合に出たい気持ちも理解するべきなんじゃないかって……」
ちぃちゃんが言うけど佐倉さんは引き下がらない。
「恋人の気持ちを大事に想う気持ちは私にもわかる。でもそれでも説得するのマネージャーとしての責務。ここで翔に無理させて一生を棒に振ったら後悔するのは千歳だよ」
「俺も桜子に同感だな。翔の気持ちも分からんでもないが怪我の治療が第一だ。千歳の言う事が正しいんだよ」
「今日の練習は休んで病院に行ってきなさい!千歳も同伴で!これは先輩としての命令です!練習には出させません!」
「わかりました……」
「……病院が終わったら千歳に夕食でもご馳走してあげなさい。彼女を心配させた罰です!」
「はい……悪かった……千歳」
「いいの……」
ちぃちゃんは落ち込んでる。まあ、あとは翔次第だろ?
翔の気持ちもわからないでもない。試合に出たいって思う気持ちはみんな一緒なんだろう。
僕自身出れないと分かって焦った時期もある。
コートのこっち側と向こう側。それはものすごく遠いものだ。
手が届きそうで届かないもの。懸命に掴もうと皆手を伸ばす。
無理をして掴もうとすると崖から転落してしまう。
転落したら二度と掴めない。
だから慌てず頑張れ。
「私そろそろ時間だからいきますね」
北村さんが言うと皆動き出す。
僕達も午後の授業を受ける為教室に向かった。
(5)
午後の授業が終わると、千歳の車で病院に向かった。
そして二人で診察を受ける。
症状は軽い物らしい。無理しなければ3週間程度で治ると言われた。
3週間か……リーグ戦には間に合いそうにない。
「後半の試合にでれるんじゃない?」と千歳は言った。
「そんなに甘いもんじゃないよ。片桐先輩ならともかく俺はスタメンすら入れなかったんだ」と言うと千歳は肩を落とす。
一度大学に戻ると、俺は自分の車で千歳の家に向かう。
千歳が車庫に車を入れると俺の車の助手席に乗る。
「千歳何が食べたい」
「翔が食べたいものでいいよ」
バイキングの店に言った。
ここなら、大体のものは食べれるだろう。
デザートもある。
「今朝はごめんな……」
「いいの、私は駄目なマネージャーなんだなって落ち込んでるだけ」
「俺は嬉しかったよ。朝先輩たちが来たとき咄嗟に俺をかばってくれた時」
「でもその行動自体が間違いだったのかもしれない」
「マネージャーとしては失格でも恋人としては最高の理解者だよ」
駄目なのは千歳にそんな迷いを作った俺自身だ。
「私佐倉先輩に相談したの」
「?」
「練習中自然と翔との二人だけの世界を作り出してしまうって。それはマネージャーとして失格なんじゃないのか?」
「それで答えは?」
「佐倉先輩にもわからないみたい、慣れるしかないって」
「そうか……」
「もっと勉強しなくちゃだね。マネージャーとしても、翔の恋人としても」
「俺も勉強するよ、千歳の恋人として」
「うん」
千歳は微かに微笑んだ。
(6)
「子供!?」
亜依さんが驚いている。
まあ、いきなりそんな話されたら驚くだろうね。
「私は旦那が子供みたいなものだから考えたこともないわ」
亜依さんはそう言った。
「私も結婚してないからまだ考えてないですね」
一ノ瀬さんも言った。
「でも穂乃果も来年3月には入籍なんでしょ?時期的には考えてもいいんじゃない?」
「さすがに出来婚は嫌ですからね」
「なるほどね。美里はどうなの?」
亜依さんは北村さんに話を振った。
「興味ないですね。そもそも結婚て必要な事なんですか?」
女性陣は驚いてる。
「普通興味わかない?」
亜依さんが聞いている。
「だって、色々面倒そうじゃないですか?引越しから家事まで、しかも働けって無理ですよ」
「なるほどね……」
恵美さんが言った。
「逆に質問しますけど結婚するメリットって何かあるんですか?」
北村さんに言われて戸惑う女性陣。
「達成感?」
「満足感?」
「充実感?」
「幸福感?」
「憧れ?」
皆それぞれいう。
「で、でも女の子なら一度はウェディングドレス着てみたいって思わない?」
愛莉が言う。
「でもまだ挙式してない人もいますよね?」
「う、うぅ……」
愛莉が困っている。偶には助けてやるか。
「北村さんは最近どうなの?栗林君とは上手くいってる」
「お陰様で。デートくらいはしてます」
「彼に手料理は作ってあげれた?」
「肉じゃがくらいならつくってあげました」
「彼喜んでた?」
「喜んでくれましたよ。美味しいって。それがどうかしたんですか?」
僕はくすっと笑って言う。
「それ見てどう思った?」
「よかったって思いました」
「それはよかったね」
「あの、結婚の話をしてるのにどうして栗林さんの話がでてくるんですか?」
北村さんが面倒くさそうに聞いてきた。
「それが答えだよ」
「え?」
「料理を作ってあげたい、その次は何をしてあげたい……って積み重ねていった結果が結婚につながるんだ」
「私はまだ途中だってことですか?」
「そうだね、次は何をしてあげたい?」
「そうですね、また料理を作ってあげたいかな?」
「それは彼が喜ぶから?」
「ええ」
彼女はまだ気づいていないらしい。
「でも彼も同じように思ってくれてるかもしれない。その結果がデートしてるんだろ?」
「それは彼の要求もあるんじゃないですか?」
「それもあるかもしれない。でも彼聞いてこない『どこに行きたい?』って」
「それはありますね。でもそれって単に彼が行き場所決めるの面倒だから丸投げしてるだけじゃないんですか?」
「そうだね、どこでもいいんだろうね。北村さんがいるなら。でも北村さんもどこでもいいんだろ?栗林君がいるなら」
愛莉たちはクスクス笑っている。
それに気が付かない北村さん。
「つまり北村さんと一緒にいたいって思ってるわけでしょ?それは家でもいい」
「そうですね。家でもいいですね。お金使わないし、手料理で済ませられるし、着る服とか考えなくていいし」
「美里、自分の言ってる事考えてみ?」
亜依さんが言うと北村さんは「え?」という顔をする。
「いつも一緒に家で過ごしたい……それって同棲じゃない?いつまでも一緒にすごしたい……それって結婚じゃない?」
「……そう言われるとそうですね」
愛莉が言うと北村さんは自分の感情に納得したようだ。
「でも、皆さんの話聞いてると結婚のデメリットしか見えてこないんですけど」
「私が答えてあげる!」
愛莉が言う。
「んとね~冬夜君はまず朝起きるといつもおはようのキスしてくれるの~」
「私まだキスすらしたことないですけど、同居するくらいになって初めてするものなんですか?」
皆が静まる。
そして冷ややかな目が栗林君に向けられる。
栗林君は「今日はもう帰るよ」と帰ろうとするが恵美さん達の行動が早かった。
肩を掴まれる栗林君。
「瑛大達の騒動ですっかり忘れてたわ。……まさかそこまで重症だったとわね」
「私も油断してたわ……もっとスムーズに事を進められる人だと安心してたけど」
「そう言えば栗林君達は教育をうけてなかったわね。うかつだったわ」
亜依さんと晶さんと恵美さんが言う。
「い、いや。彼女結構ガード堅くて……」
「それをほぐすのがあなたの役目でしょ……どうやら渡辺班にはまだ問題が残っていたようね」
晶さんが言う。
それから栗林君は女性陣の説教を受けていた。
(7)
家に帰ると夕食を食べて愛莉が片付けてる間に風呂に入り、風呂を出ると愛莉が交代で風呂に入り僕は部屋で愛莉を待つ。
テレビをつけて適当に寛いでいると愛莉が酎ハイを持ってくる。
「おまたせ~」
「ありがとう、愛莉」
二人で酎ハイを飲む。
「でも栗林君には驚いたね~。栗林君みたいな人ってもっとスマートに事を進めそうに思ったけど」
「それだけ手ごわい女性だって事だよ北村さんは」
自分の感情に気づくのにも時間がかかるのだから。
「次の渡辺班の課題だね」
「すでに付き合ってるんだから自分のペースで良いと思うんだけどね」
「冬夜君はわかってないな~」
「何が?」
「北村さんには入らなかったの?」
愛莉が聞いてくる。
「まあ、ちょっとは入ったけど……彼女恋愛観が無さすぎて分からない時あるんだ」
「冬夜君でも気付かないのか~難しいんだろうね」
愛莉はそう言って笑ってる。
一体愛莉は何に気づいたのだろう?
「愛莉は気づいたの?」
「うん、気付いたよ~多分同じ気持ちだったんじゃないかな私と」
「どういうこと?」
「彼女私が冬夜君とキスしてるって言った時憧れのような目をしてた」
え?
「考えても見てよ。手料理作ってあげて美味しいって言われて喜んでる間柄だよ?キスくらい普通憧れない?」
「まあ、そうだね……」
「そんなんだから、私から冬夜君とファーストキスすることになっちゃうんだよ」
「あ、気にしてた?」
「そりゃね、初めての時くらい彼からして欲しいなって思ったから」
「ごめん」
「いいの、私からしてよかったと思ったから。危うくカンナにファーストキス奪われるところだったし」
「……そうだね」
運命って本当に複雑なんだな。
一つ一つ解いていくと単純だけど。
愛莉はスマホを見て笑ってる。
「今週末緊急で女子会だって。多分北村さんの事だと思う」
「そっとしておいてあげた方がいいと思うんだけどね」
「ブーッで~す。栗林君を攻略する方法を皆で探すんだから!」
愛莉はそう言って張り切ってる。
まあ、女性の事は女性同士でなんとかすればいいさ。
「冬夜君、週末変なお店行っちゃだめだからね!」
「わかってるよ」
「2次会は一緒の場所にするって亜依が言ってる。多分カラオケ屋さん」
「……そこで二人にさせるわけ?」
「よくわかったね」
愛莉の考えそうなことくらい分かるよ。
「無理強いは駄目だからな?」
「そのくらいわかってるもん!そんなキスしたって嬉しくないし!」
「そうだね」
「じゃ、もう寝よう?」
「あ、そうだな」
二人でベッドに入って寝る。
そうしているだけでも幸せか。
もう少しだけ幸せにしてあげようか?
愛莉を抱きしめる。
愛莉も気づいたみたいで僕を抱きしめる。
時計の針が時を刻み続ける。
一秒足りとてこぼさない幸せをかみしめながら、眠りについた。
「冬夜君朝だよ~ご飯の時間だよ~」
目を覚ますと愛莉は着替えていた。
どこか出かけるのだろうか?
そんな約束はした覚えないけど?
「愛莉どこか行く約束したっけ?」
ぽかっ
「また寝惚けてる!今日から学校だよ~」
あ、そうか。
「でも着替えるの早いね」
「着替えてたら冬夜君も抱きつけまい……きゃっ」
言うより早く愛莉に抱き着いてた。
「うぅ……服がしわくちゃになっちゃうし、ご飯さめちゃうよ?」
それはまずいな。
慌てて部屋を出る。
「ちゃんと顔洗ってから食べるんだよ~」
そんな愛莉の言葉を背に受けながらダイニングに向かっていた。
「ところで冬夜、住む家は探してあるのか?」
父さんが聞いてくる。
「年が明けたら探すよ」
「それがいいだろうな、年度末だと皆こぞって探してるだろうし」
「どのあたりに住むつもりだい?」
「出来ればこの辺りで探すよ。引っ越すの楽だろうし結構アパートあったろ?」
「それって独立する意味あるのか?」
「家計的に独立したかったから。それに、どうせこの家譲ってくれるんだろ?」
それなら近い方が良い。
「まあ、私達も気軽に孫の顔を見れるから問題ないけど」
そこまで予定はしてない。
「私は女の子と男の子が欲しいんです」
愛莉が話を進める。
「どうして?」
「だってりえちゃんは男の子欲しいって言ってたし、冬夜君のパパさんは女の子欲しいって言ってたから」
「あら?嬉しい事言ってくれるのね」
母さんは喜んでる。
「名前も決めてくれてるんですよね?」
「ああ、もちろん……」
本当か?
「何て名前なの?」
僕は聞いていた。
「娘なら翼か天音だな」
「男の子なら?」
「空」
名前に困る必要は無さそうだ。少なくとも両親のネーミングセンスは普通らしい。
「3人も作らないといけないんだね。頑張ろうね!冬夜君!」
「しっかりな。もう父さんたちが口出しする年頃じゃないからいつでも作ってくれて構わんぞ!」
「愛莉ちゃんに恥かかせないように出来婚なんてみっともないことはするんでないよ?」
父さんと母さんに言われた。
出来婚なんてした日には愛莉パパに絞殺されそうだ。
そう言えば他の皆はどうなんだろう?もう子供の事とか考えてるんだろうか?
石原君と酒井君は大変だろうな。男の子なんて作った日には徹底的に鍛え上げられそうだ。
誠の場合は女の子は駄目だろうな。誠の趣味に染められたら大変なことになりそうだ。
カンナがそうはさせないだろうけど。
「冬夜君食べ終わったなら仕度しないと」
愛莉に言われて席を立つ。
コーヒーをマグカップにいれると部屋に持って行く。
「片桐翼に片桐天音、片桐空か~、大変だね冬夜君」
色々突っ込みたいけど「ああ、そうだな」と流す。
それがいけなかったみたいで。
「うぅ……今どうでもいいと思ったでしょう?」
「そ、そんなことないよ。ただ愛莉3人も出産大丈夫なのか?結構大変だって聞いたけど」
「うん、りえちゃんからも聞いてる」
でも頑張る!と愛莉は今から張り切ってる。
翼に天音に空か……空は絶対に姉妹に頭が上がらないだろうな。血筋的に。
「う~ん……」
愛莉は横でコーヒーを啜りながら悩んでる。
聞くのが怖いけど聞かないと拗ねそうだし聞くか。
「どうしたの?」
「冬夜君はどんな子供が欲しいとかないの?希望があるなら4人作るけど」
そんなレンチンするように気軽に言わないでくれ。
「愛莉との子供ならどんな子供でも可愛いよ」
「そうだよね~。じゃあ、名前とかは?親の希望ばっかりで冬夜君の希望きいてなかったから」
「う~ん……苺?」
「ほえ?」
「あと蜜柑とか、まろんとか?」
「ま、まろん?」
「栗と書いてまろん」
「冬夜君にネーミングは任せたら駄目だね」
愛莉はそう言って笑った。
「愛莉はどうなんだよ?」
「うーん、月(らいと)とか?」
それは絶対にアウトだぞ愛莉。
(2)
昼休み学食に皆集まっていた。
「子供?」
恵美さんと晶さんが言った。
皆に子供の事とか考えてるのか?それを聞いてみたかった。
「そうね、望が望めばいつでも作る準備出来てるんだけど。望は学生の間は駄目って言ってきかないのよ」
「そうね、私と恵美は専業主婦だし。いつでも大丈夫だけどね」
恵美さんと晶さんはそう答える。
石原君と酒井君は苦笑いをしている。
女性の方が積極的なんだろうか?
「恵美たちは何人産む予定なの?」
愛莉が聞いていた。
「分からないわね。男の子が生まれるまで何人でも産む覚悟よ」
「じゃあ、どっちが先に作るか競争ね恵美。私も男の子欲しいし、何より親が望んでる」
恵美さんと晶さんが言うと石原君と酒井君は頭を抱えている。
そりゃそうなるだろうね。
「愛莉ちゃんは決めてるの?」
恵美さんが愛莉に聞いたら愛莉は嬉しそうに話す。
「最低3人が目標なの?女の子2人に男の子1人」
何も律義に名前の数だけ産む必要ないんじゃないのか?」
「それって愛莉ちゃんもし女の子3人とかになったらどうするの?」
「どうしよっか冬夜君?男の子出来るまで産んでもいい?」
そんな話題を僕に振るのか?
「俺達もそろそろ子供をと考えているんだけどな、美嘉が産休とらないとだめだろ?もしくは美嘉が働かなくていい環境にしてやらないといけない」
渡辺君が言う。
「でも愛莉ちゃんなんで女の子2人に男の子1人なの?」
恵美さんが尋ねる。
「冬夜君の両親が名前を考えてくれたの」
「それって不公平じゃない?」
「ほえ?」
「愛莉ちゃんの両親の意見は聞かないの?」
「あ、そっか。じゃあもうちょっと頑張らないといけないね」
そう言いながら愛莉はスマホを操作してる。
それは僕達の「片桐・遠坂家」のグループだった。
「りえちゃんたちは子供の要望とかある?」
「そうね~男の子がいいかな?やっぱり。ねえ、パパさん?」
「う、うむ」
「じゃあ、名前は?」
「それは愛莉ちゃん達が自由に決めなさいな~」
「わかった~」
とりあえず3人で事足りそうだ。
「先輩たちはもう子供の事考えてるんすね?」
多分この3人が異常なんだと思うぞ。晴斗。
「私もそろそろって考えてるんだけどね、悠馬が……」
咲さんが言う。
「お互いまだ学生だろ!?早すぎるよ!」
竹本君が言う。
「私はいつ学校退学してもいいわよ?将来は決まったんだし」
「咲、ダメだよ。折角学費払ってもらってるのに無駄になっちゃう」
愛莉が言う。
「真鍋君はどうなんだ?」
渡辺君が真鍋君に聞いていた。
「うちはやっぱり聡美の収入で生計たててるから俺が大学卒業するまで無理ですね」
「花菜はどうなの?」
愛莉が花菜さんにきいていた。
「私も卒業するからそろそろって思うんだけど主人がそれどころじゃないくらい仕事にはまっていて……」
「佐(たすく)はどうなんだ?」
「俺も就職先は決まってるんだけどな。桜子がまだ学生だろ?」
「佐とはまだ結婚すらしてない!」
「結婚してもらえるなら卒業後にプロポーズするけど」
「片桐先輩みたいな予防線張るのやめて!」
それは間違ってるぞ佐倉さん。
気づいたら内堀まで身内にうめられてあまつさえ部下に首をとられただけだ!
「子供か……お前らも考えてるんだな……」
カンナが溜息をついている。
「神奈はいつ作るの~?」
愛莉が聞いている。
「その話で昨夜喧嘩してさ……」
「……誠また何かやったのか?」
僕が聞くとカンナが頷いて話し出した。
「子供を作るなら断然娘だよなって言いだしてさ。そこまでは読んでいたよ。娘の世話なら俺も見るって言いだしてさ……それもまあ協力してくれるならって理解したよ……だけど」
「だけど?」
「娘の名前は決めてあるんだ!って言いだしてな」
みんな娘の名前は決めてあるんだな。
「どんな名前だったの?」
愛莉が聞いている。聞かない方がいい気がするんだけど。
「女神(ヴィーナス)とか天使(ミカエル)とか言い出してな……さすがに我慢の限界がきて『ふざけんな!』って大ゲンカだよ」
誠……お前はいったい……。
「愛莉ちゃんも子供の名前決めてあるって言ってたわね。どんな名前なの?」
恵美さんが聞いた。
「娘が翼と天音。息子が空だよ~」
「トーヤが決めたのか?」
「いや、冬夜君のパパさん。冬夜君は誠君よりはマシかな。蜜柑とか苺とか栗(まろん)とか……」
「……男って普通に名前考えられないのかしら」
恵美さんが溜息をつく。
皆色々問題あるんだな。
「翔たちはまだだよな」
「そ、そうですね!」
「……はい」
どうしたんだろ?話を聞いてたのかすら怪しい空気だぞ。
「そっか、翔は怪我でそれどころじゃないか……」
「え!?」
「な、なんでそれを!?」
完全に勘だったんだけどね。
僕はにやりと笑う。
「翔!どういうこと!?説明しなさい!」
佐倉さんが言う。
「い、いや。大したことじゃないんです。ちょっと捻挫した程度で」
「捻挫は癖になるって本に書いてた。嘘は良くない」
ちぃちゃんと翔が言い争いを始めた。
「翔、マネージャーの言う事は聞いとけ。特に彼女だろ?なおさらだ。無理は駄目だ」
佐が言う。
「ちょっと今足見せなさい」
佐倉さんが言うが翔は拒否する。
「そんな子供の我儘みたいなことを千歳にもやったんだね!?つべこべ言わず見せなさい!」
「朝の騒ぎはそれか……?」
佐が言う。
「朝何があったの?」
僕が聞くと答えたのはちぃちゃんだった。
(3)
朝練をしている時だった。
私は佐倉先輩の指示通りに皆の状態をチェックしていた。
あの晩以降どうしても翔を意識してしまうけど。
翔のプレイに見とれてしまう。
私と翔だけの世界を作り出してしまう。
抜け出すことが中々出来ない。
これが恋の仕業なの?
佐倉先輩はどうやって抜け出しているんだろう?
佐倉先輩に聞いてみた。
「難しい問題だね。慣れるしかないんじゃない?」
佐倉先輩でも難しいんだ。
そんな話を佐倉先輩と話をしながら翔のプレイを見ていた時だった。
翔が赤井先輩と接触プレイで倒れる。
「わりぃわりぃ……立てるか?」
「平気っす」
その時気づいてしまった。
翔が足を少し引きずっているのを。
「ちょっと俺先に失礼します」
「ああ、おつかれ」
翔は更衣室に入って行った。
男性の更衣室、躊躇いはあったけどノックする。
「千歳です、入ってもいいですか?」
「あ、ああいいよ」
更衣室に入ると翔は着替えてなかった。
ズボンのすそを膝まで上げてる。
自然と足首を見ていた。
そして手に持っているスプレー……。
「それは何?」
「ただのコールドスプレーだよ」
「どうしてそんなの持ってるの?」
「ちょっとさっき足首痛めたみたいでさ。大したことないよ」
「大したことないかは私が判断する。見せて」
有無も言わさず膝まで露出させてる足を見る。
足首を触るだけでびくっとするほど痛がってる。
「今日病院に行こう?」
「そんなたいしたことないって。少し休めばよくなるよ」
「じゃあ、今日は休むんだね?」
「今日の練習までには治ってるから」
「そんな都合のいい怪我あるわけない」
本で見た。佐倉先輩に聞いた。足の故障は癖になるから早めに病院で治療を受けろと。
「今日病院に行こう。監督には私から話す」
「待ってくれ。チームの皆には黙っていてくれ!病院には行くから!」
「どうして?ここで無理したら一生バスケ出来なくなるよ?」
翔の夢はもっと大きな舞台に立つことなんでしょ?
「今言ったら絶対にリーグ戦でスタメン取れなくなってしまう!千歳はマネージャー初めて半年しか経ってないから分からないだろうけど、最後のチャンスかもしれないんだ!」
「最後じゃない。来年その次の年、いくらでもチャンスはある!」
「……今のチームは多分地元大始まって以来の最強のメンバーだ。そんなメンバーと肩を並べてプレイしたい気持ちは選手にしか分からない!千歳には分かってもらえない!」
パシッ!
「分からないし、興味もない!私が心配するのは翔の未来だけ!私は翔の言う通り未熟なマネージャーだけど同時に翔の唯一の理解者だと思ってた!」
こんなに取り乱したのは生まれて初めてだ。
他人の為に涙を流すなんて一度たりとてあっただろうか?
翔もこんな私を見たのは初めてらしい。
「どうしたなんかあったのか?」
先輩たちが入ってくる。
私は先輩たちから翔の身を隠す。
今のうちに片付けろと。
翔はズボンを元に戻し。バッグにコールドスプレーを直す。
それをちらりと見て確認するとそっと更衣室を出る。
「なんだ、更衣室でいちゃついてたのか?」
「そんなんじゃないっすよ。ちょっと話をしてただけっす」
「何の話だよ」
そんな話を聞きながら悩んでいた。
この話を監督に知らせるべきか。
翔の意思を尊重するべきなのか?
佐倉先輩にも相談できない。
私と翔……どっちが正解なのか分からずにいた。
(4)
「翔が悪い!!」
佐倉さんはそう言い切った。
「でも千歳もマネージャー失格だよ!そんな隠し事するなんて!」
「でも翔の試合に出たい気持ちも理解するべきなんじゃないかって……」
ちぃちゃんが言うけど佐倉さんは引き下がらない。
「恋人の気持ちを大事に想う気持ちは私にもわかる。でもそれでも説得するのマネージャーとしての責務。ここで翔に無理させて一生を棒に振ったら後悔するのは千歳だよ」
「俺も桜子に同感だな。翔の気持ちも分からんでもないが怪我の治療が第一だ。千歳の言う事が正しいんだよ」
「今日の練習は休んで病院に行ってきなさい!千歳も同伴で!これは先輩としての命令です!練習には出させません!」
「わかりました……」
「……病院が終わったら千歳に夕食でもご馳走してあげなさい。彼女を心配させた罰です!」
「はい……悪かった……千歳」
「いいの……」
ちぃちゃんは落ち込んでる。まあ、あとは翔次第だろ?
翔の気持ちもわからないでもない。試合に出たいって思う気持ちはみんな一緒なんだろう。
僕自身出れないと分かって焦った時期もある。
コートのこっち側と向こう側。それはものすごく遠いものだ。
手が届きそうで届かないもの。懸命に掴もうと皆手を伸ばす。
無理をして掴もうとすると崖から転落してしまう。
転落したら二度と掴めない。
だから慌てず頑張れ。
「私そろそろ時間だからいきますね」
北村さんが言うと皆動き出す。
僕達も午後の授業を受ける為教室に向かった。
(5)
午後の授業が終わると、千歳の車で病院に向かった。
そして二人で診察を受ける。
症状は軽い物らしい。無理しなければ3週間程度で治ると言われた。
3週間か……リーグ戦には間に合いそうにない。
「後半の試合にでれるんじゃない?」と千歳は言った。
「そんなに甘いもんじゃないよ。片桐先輩ならともかく俺はスタメンすら入れなかったんだ」と言うと千歳は肩を落とす。
一度大学に戻ると、俺は自分の車で千歳の家に向かう。
千歳が車庫に車を入れると俺の車の助手席に乗る。
「千歳何が食べたい」
「翔が食べたいものでいいよ」
バイキングの店に言った。
ここなら、大体のものは食べれるだろう。
デザートもある。
「今朝はごめんな……」
「いいの、私は駄目なマネージャーなんだなって落ち込んでるだけ」
「俺は嬉しかったよ。朝先輩たちが来たとき咄嗟に俺をかばってくれた時」
「でもその行動自体が間違いだったのかもしれない」
「マネージャーとしては失格でも恋人としては最高の理解者だよ」
駄目なのは千歳にそんな迷いを作った俺自身だ。
「私佐倉先輩に相談したの」
「?」
「練習中自然と翔との二人だけの世界を作り出してしまうって。それはマネージャーとして失格なんじゃないのか?」
「それで答えは?」
「佐倉先輩にもわからないみたい、慣れるしかないって」
「そうか……」
「もっと勉強しなくちゃだね。マネージャーとしても、翔の恋人としても」
「俺も勉強するよ、千歳の恋人として」
「うん」
千歳は微かに微笑んだ。
(6)
「子供!?」
亜依さんが驚いている。
まあ、いきなりそんな話されたら驚くだろうね。
「私は旦那が子供みたいなものだから考えたこともないわ」
亜依さんはそう言った。
「私も結婚してないからまだ考えてないですね」
一ノ瀬さんも言った。
「でも穂乃果も来年3月には入籍なんでしょ?時期的には考えてもいいんじゃない?」
「さすがに出来婚は嫌ですからね」
「なるほどね。美里はどうなの?」
亜依さんは北村さんに話を振った。
「興味ないですね。そもそも結婚て必要な事なんですか?」
女性陣は驚いてる。
「普通興味わかない?」
亜依さんが聞いている。
「だって、色々面倒そうじゃないですか?引越しから家事まで、しかも働けって無理ですよ」
「なるほどね……」
恵美さんが言った。
「逆に質問しますけど結婚するメリットって何かあるんですか?」
北村さんに言われて戸惑う女性陣。
「達成感?」
「満足感?」
「充実感?」
「幸福感?」
「憧れ?」
皆それぞれいう。
「で、でも女の子なら一度はウェディングドレス着てみたいって思わない?」
愛莉が言う。
「でもまだ挙式してない人もいますよね?」
「う、うぅ……」
愛莉が困っている。偶には助けてやるか。
「北村さんは最近どうなの?栗林君とは上手くいってる」
「お陰様で。デートくらいはしてます」
「彼に手料理は作ってあげれた?」
「肉じゃがくらいならつくってあげました」
「彼喜んでた?」
「喜んでくれましたよ。美味しいって。それがどうかしたんですか?」
僕はくすっと笑って言う。
「それ見てどう思った?」
「よかったって思いました」
「それはよかったね」
「あの、結婚の話をしてるのにどうして栗林さんの話がでてくるんですか?」
北村さんが面倒くさそうに聞いてきた。
「それが答えだよ」
「え?」
「料理を作ってあげたい、その次は何をしてあげたい……って積み重ねていった結果が結婚につながるんだ」
「私はまだ途中だってことですか?」
「そうだね、次は何をしてあげたい?」
「そうですね、また料理を作ってあげたいかな?」
「それは彼が喜ぶから?」
「ええ」
彼女はまだ気づいていないらしい。
「でも彼も同じように思ってくれてるかもしれない。その結果がデートしてるんだろ?」
「それは彼の要求もあるんじゃないですか?」
「それもあるかもしれない。でも彼聞いてこない『どこに行きたい?』って」
「それはありますね。でもそれって単に彼が行き場所決めるの面倒だから丸投げしてるだけじゃないんですか?」
「そうだね、どこでもいいんだろうね。北村さんがいるなら。でも北村さんもどこでもいいんだろ?栗林君がいるなら」
愛莉たちはクスクス笑っている。
それに気が付かない北村さん。
「つまり北村さんと一緒にいたいって思ってるわけでしょ?それは家でもいい」
「そうですね。家でもいいですね。お金使わないし、手料理で済ませられるし、着る服とか考えなくていいし」
「美里、自分の言ってる事考えてみ?」
亜依さんが言うと北村さんは「え?」という顔をする。
「いつも一緒に家で過ごしたい……それって同棲じゃない?いつまでも一緒にすごしたい……それって結婚じゃない?」
「……そう言われるとそうですね」
愛莉が言うと北村さんは自分の感情に納得したようだ。
「でも、皆さんの話聞いてると結婚のデメリットしか見えてこないんですけど」
「私が答えてあげる!」
愛莉が言う。
「んとね~冬夜君はまず朝起きるといつもおはようのキスしてくれるの~」
「私まだキスすらしたことないですけど、同居するくらいになって初めてするものなんですか?」
皆が静まる。
そして冷ややかな目が栗林君に向けられる。
栗林君は「今日はもう帰るよ」と帰ろうとするが恵美さん達の行動が早かった。
肩を掴まれる栗林君。
「瑛大達の騒動ですっかり忘れてたわ。……まさかそこまで重症だったとわね」
「私も油断してたわ……もっとスムーズに事を進められる人だと安心してたけど」
「そう言えば栗林君達は教育をうけてなかったわね。うかつだったわ」
亜依さんと晶さんと恵美さんが言う。
「い、いや。彼女結構ガード堅くて……」
「それをほぐすのがあなたの役目でしょ……どうやら渡辺班にはまだ問題が残っていたようね」
晶さんが言う。
それから栗林君は女性陣の説教を受けていた。
(7)
家に帰ると夕食を食べて愛莉が片付けてる間に風呂に入り、風呂を出ると愛莉が交代で風呂に入り僕は部屋で愛莉を待つ。
テレビをつけて適当に寛いでいると愛莉が酎ハイを持ってくる。
「おまたせ~」
「ありがとう、愛莉」
二人で酎ハイを飲む。
「でも栗林君には驚いたね~。栗林君みたいな人ってもっとスマートに事を進めそうに思ったけど」
「それだけ手ごわい女性だって事だよ北村さんは」
自分の感情に気づくのにも時間がかかるのだから。
「次の渡辺班の課題だね」
「すでに付き合ってるんだから自分のペースで良いと思うんだけどね」
「冬夜君はわかってないな~」
「何が?」
「北村さんには入らなかったの?」
愛莉が聞いてくる。
「まあ、ちょっとは入ったけど……彼女恋愛観が無さすぎて分からない時あるんだ」
「冬夜君でも気付かないのか~難しいんだろうね」
愛莉はそう言って笑ってる。
一体愛莉は何に気づいたのだろう?
「愛莉は気づいたの?」
「うん、気付いたよ~多分同じ気持ちだったんじゃないかな私と」
「どういうこと?」
「彼女私が冬夜君とキスしてるって言った時憧れのような目をしてた」
え?
「考えても見てよ。手料理作ってあげて美味しいって言われて喜んでる間柄だよ?キスくらい普通憧れない?」
「まあ、そうだね……」
「そんなんだから、私から冬夜君とファーストキスすることになっちゃうんだよ」
「あ、気にしてた?」
「そりゃね、初めての時くらい彼からして欲しいなって思ったから」
「ごめん」
「いいの、私からしてよかったと思ったから。危うくカンナにファーストキス奪われるところだったし」
「……そうだね」
運命って本当に複雑なんだな。
一つ一つ解いていくと単純だけど。
愛莉はスマホを見て笑ってる。
「今週末緊急で女子会だって。多分北村さんの事だと思う」
「そっとしておいてあげた方がいいと思うんだけどね」
「ブーッで~す。栗林君を攻略する方法を皆で探すんだから!」
愛莉はそう言って張り切ってる。
まあ、女性の事は女性同士でなんとかすればいいさ。
「冬夜君、週末変なお店行っちゃだめだからね!」
「わかってるよ」
「2次会は一緒の場所にするって亜依が言ってる。多分カラオケ屋さん」
「……そこで二人にさせるわけ?」
「よくわかったね」
愛莉の考えそうなことくらい分かるよ。
「無理強いは駄目だからな?」
「そのくらいわかってるもん!そんなキスしたって嬉しくないし!」
「そうだね」
「じゃ、もう寝よう?」
「あ、そうだな」
二人でベッドに入って寝る。
そうしているだけでも幸せか。
もう少しだけ幸せにしてあげようか?
愛莉を抱きしめる。
愛莉も気づいたみたいで僕を抱きしめる。
時計の針が時を刻み続ける。
一秒足りとてこぼさない幸せをかみしめながら、眠りについた。
0
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