優等生と劣等生

和希

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5thSEASON

いくつ歳をとっても

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(1)

「冬夜君おはよ~朝だよ~」
「おはよう愛莉」

11月。

そろそろ今年も後わずかとなってきた。
気温も冷え込みだし、木枯らしが吹く頃。
今日は渡辺班恒例の紅葉狩りの日。
朝食を食べると準備して、着替える。
愛莉の準備を待ってやって集合場所に移動する。
FMラジオを聞こうとすれば愛莉が「うぅ……」とうなる。
愛莉の好きなCDを聞かせてやる。
集合場所の狭間インターそばのコンビニまで車で約20分。
辿り着いたら晴斗達が早かった。

「昨夜春奈に家に泊まってもらったっす」

結構頻繁に泊まったり泊めてもらったりしてるらしい。

「両親とも何も言わない?」

愛莉が聞いていた。

「うちは何も言わないっす」
「私の家も私の結婚相手と思ってるみたいだから……」

白鳥さんがそういうと晴斗は笑ってた。

「おかしいですよね。私まだ晴斗にプロポーズしてもらってないのに」
「そうだね、早くして欲しいよね」

それは愛莉の願望もはいってるのだろうか?

渡辺君達がやってきた。

「お前たちは相変わらず早いな」

渡辺君が言う。

次々とくる中遅れてくるのはやはり多田夫妻と桐谷夫妻それに如月君と朝倉さん。
この6名の遅刻癖にはもう慣れた。
しかし6名に共通する事。いや、中島夫妻もか。みんな女性陣の機嫌が悪い。
朝倉さんはなんかうんざりしてるって感じだけど。
理由は多分愛莉がFMラジオを嫌がる理由と同じだろう。
その証拠にそれぞれの車から聞こえてくる曲が同じだ。

「不思議の国の~♪」

最近地元で流行ってる地下アイドルALICEのデビュー曲「不思議の国」だ。
地下アイドルのCDはイベントやライブに行って買うしかないのだが。ALICEの曲は飛ぶように売れる為一部レコード店で売ってるらしい。
最近はCDしか置いてなのにどうしてレコード店なのかちょっと疑問だけどそんな事は関係なく取りあえずそれをリピートで聴いてるのがきにいらないらしい。
いい加減にうんざりしたから別の曲にするかと思えばカップリング曲の「鏡の国」を聴きだす始末。
それが女性陣には不評らしい。
僕は曲なんて流れてればなんでもいいので愛莉に任せてる。
どうせ愛莉とお話しながら運転してるから曲なんて聞いてない。
他の皆もそうなんだろう。
渡辺君の車からは渋い演歌が流れてくることもある。
不評なのは4人の女性のみみたいだ。
取りあえず不満を言っていても始まらないので、コンビニで買い物を済ませて、現地へ向かうとする。
九重インターそばのコンビニまで行く。
途中でトイレ休憩等をする際はメッセージで連絡を。
等々渡辺君から説明を受けると皆が一斉に狭間インターに向かう。
高速に乗ると皆血が騒ぐらしい。
我先にと追い越し追い越されを繰り返す。

「皆まだ懲りてないんだね」

愛莉はご機嫌ななめだ。
地元の高速は意外と上り坂や下り坂トンネルやカーブが多いので僕はあまり飛ばしたくない。
この中でいかに速度を一定に保つかの方が余程難しい。
もちろん、周りの流れに合わせて車間距離と一定に保つことが大切だけど。

「きゃっ」

車間距離を保っていると偶に無理に割り込んでくる車がいる。
ウィンカーを出していればスピードを落とすがウィンカーをつけずに突然車線変更する車もいる。
そんな中で高速運転をすることがいかに危険な事か説明してもどうも一部の人には分かってもらえなかったみたいだ。
そんな事をしていると自然と最後に着くのは僕になるんだけど。
僕がコンビニに着いた時は皆ついていた。

「冬夜遅いぞ!」
「ごめんごめん」

愛莉のご機嫌は斜めだったようだ。

「誠君達が危険な運転で我先にと飛ばすからでしょ!冬夜君はそんな真似しないもん!」

愛莉が不満を言うと女性陣から次々に文句が出る。
それに辟易する男性陣たち。

「ま、まあ遠坂さん達もジュース等買ってくると良い。こっから夢大吊橋まで休憩なしだから」

渡辺君が言う

「そうだね、愛莉行こうか?」
「うぅ……」

コンビニに入ってジュース等を買う。

「愛莉はお水でいいんだよね?」
「うん……」

様子がおかしい。どうしたんだろ?
買い物が終るといよいよ九酔渓を上る事になる。
さすがにここでは飛ばさないだろうと思ったら無茶なスピードで対向車線に出て抜く車が。
桐谷君だ……。

「うぅ……」

まずいな。

スマホが鳴っている。
愛莉が取る。

「愛莉ごめん!片桐君にも謝っておいて」

亜依さんかららしい。

「冬夜君は悔しいとか思わないの!?危険な真似されて怒ったりしないの!?」
「イライラ運転は事故の元だっていうだろ?そんな危ない真似お嫁さん乗せてできないよ」
「私が乗ってなかったらするの?」
「それって考えるだけ不毛じゃない?」
「どうして?」
「愛莉を乗せずに運転なんて今はありえないだろ?」
「そうだけど……」

そうだけど?

「例えば冬夜君がお勤めに行きだしたらどうするの?」
「引っ越し先は会社のそばにするよ。そしたら寝坊助の僕でも問題ないだろ?」
「寝坊助は気にしないでいいよ。私がちゃんと起こしてあげるから~」
「そっか、じゃあ問題ないな」

愛莉の頭を撫でてやる

「えへへ~」

愛莉の機嫌は直ったようだ。

「でもいつ来ても綺麗だね~」
「そうだな」
「冬夜君はちゃんと見れてる?」

見てたら問題だろ?
て、事もない。上の方に行けば渋滞に巻き込まれてどうせ止まるんだ。その間に景色を楽しめばいい。
愛莉もその間に写真を撮ったりしてる。
上にある大吊橋に辿り着いた時にはお昼を回っていた。
愛莉が皆と話してる。
どうしたんだろ?
戻って来た。

「行こ?」

吊橋と逆の方に歩く愛莉。どうしたんだろう?
愛莉は夢バーガーの売り場に来た。

「冬夜君どれにするの?」
「ドリーム。愛莉は?」
「う~ん、食べにくそうだなぁ~」

愛莉が悩んでいる。

「私レディースでいいよ。すいませんドリームとレディースを一つずつ~」

注文が来るとテーブルに座って食べる。
一口でかぶりつくのはちと難儀なハンバーガー。
レディースでも愛莉には辛かったらしい。

「うぅ……冬夜君食べて♪」
「いいよ」

自分の分を食べ終えると愛莉の分を食べようと愛莉から受け取ろうとするが愛莉は不満のようだ。
しょうがないな。
口を開ける。

「はい、あ~ん」

ぱくっ

「美味しい?」
「ああ、美味しいよ」

愛莉は満足すると僕にハンバーガーを渡す。
それを食べ終えると、そろそろ橋に行くかな。

「まだソフト食べてないよ?」

へ?

「冬夜君どれにする?」

そう言って別々のソフトを頼む。
食べてると愛莉がじーっと僕の見てる。

「……食べる?」

愛莉はにっこり笑ってうなずく。
愛莉に食べさせてやる。

「冬夜君私のも食べていいよ」

愛莉に食べさせてもらう。
食べ終わるとお土産屋さん見て回ろうという。

「良いのか愛莉?橋渡らなくて」
「冬夜君渡りたいの?」
「いや、愛莉が景色見たいんじゃないかって」
「う~ん、お土産買ったらもう一個だけソフト食べよう?」

愛莉が食べて良いなんて言うなんて珍しいな。
お土産を見て適当に買って、ソフトクリームを買うとベンチに座って皆が戻ってくるのを待ちながら話をする。

「愛莉今日はいったいどうしたの?いつもと違うよ?」
「冬夜君は私がしたいことをさせてくれるよね?デートの時」
「まあ、そうだね」
「行きたいところに連れていってくれて好きな事をさせてくれる」
「?」
「だから私がしたい事をしたの。冬夜君とご飯を食べてお土産屋さんを見て回る事」

橋なんてもう3回も渡ったし僕と思い出に残ることをしたかったと愛莉は言う。

「私達バカップルに見えたかな?」
「そうだろうね」
「わ~い」

今こうして普通に腕を組んでるのもバカップルに見えてるんだろうな。
そう思いながら周りを見てると北村さん達をみつけた。

「橋渡らなかったの?」
「美里が吊橋怖がるからやめました。代わりに滝観てきましたよ」

なるほどね。

「ねえねえ、聞く機会なかったんだけどさ。美里はキスできたの?」

相変わらず直球だな愛莉は。

「しましたよ」

普通に返してる。

「栗林君はキスだけで許してくれたの?」

なんて質問してるんだ愛莉は。

「生真面目みたいでその先はまですね。一緒に寝るのも躊躇うんですよ彼」
「片桐先輩はどうだったんですか?初めての時」

栗林君が聞いてきた。
愛莉は笑っている。

「どうしたらいいか分からなかった」
「え?」
「え?」

愛莉は笑っている。
栗林君と北村さんは同じリアクションをとってる。
そう、文字通りどうしたらいいか分からなかった。
愛莉がいきなり服を脱いだ時はびっくりした。
ベッドに入ったのは良いけどどうしたらいいか分からなくて愛莉に小突かれた。
そのまま伝えた。
ふたりは唖然としていた。
まあ、そうなるよね。

「純一さんも焦らなくていいですから」
「そうだな」

しばらく話をしてると皆戻って来た。

「だいぶ時間もおしてるけど皆どうする?」

渡辺君が言う。

「いつもの店でいいんじゃない?」

僕が答える。

「じゃあいつもの店まで行こう。ゆっくり行くからついて来てくれ。絶対に追い越しとかするなよ」

渡辺君が言う。
向こうで何かあったんだろうか?

(2)

俺達は橋を渡りながら話をしていた。

「しかしとーやの奴も幸せ者だな。愛莉が『冬夜君多分橋に興味ないから私達パスするね』って言いだして。とーやに合わせてるんだろうな」

美嘉が言う。

「そうだな、あの二人が未だに同棲すらしてないのが不思議なくらいだ」

同居はしてるが。

「それだけじゃないよ、片桐君も愛莉を気遣ってるよ。運転だって安全運転だし。めちゃ運転上手いのに」

亜依さんが言ってる。

「多分俺達との約束今でも守ってるんだろうな。走り屋としての冬夜は封印しろって約束」
「走り屋としての冬夜だって愛莉を乗せながら愛莉を気遣って運転してたんだぜ。天才だよ」

美嘉が言う。

「それに引き換え瑛大と来たら突然片桐君追い越すし。『もたもたしてるから追い抜いただけ』ってあいつらまだ懲りてないのか?」

やれやれだな……。

「正志からもビシッと言ってやれ。渡辺班のリーダーは正志なんだろ?」
「そうだな……」

俺達は橋を渡ると一度全員集めた。

「ああ、冬夜達がいないから言うけど高速でレース始めたやつ挙手しろ」

挙手したのは中島君、瑛大、檜山先輩、木元先輩、如月君、高槻君。

「ちょっと男子反省したんじゃなかったの!?」

亜依さんが怒ってる。

「隆司君もだよ!反省してないの!」

穂乃果さんも怒ってるようだ。

「ああ、最初に仕掛けたの誰だ?」

俺が聞いてみた。誰も手を上げない。

「隠したって無駄だ、瑛大!お前が如月君抜いてから始まったんだろうが!」
「しょうがないだろ!?追い越し車線は空いてる、如月君の前もガラガラ、抜きたくなるだろ!」

瑛大と亜依が始まった。まただ……

「しょ、翔ちゃんもムキになって追いかけるの良くないよ」
「売られた喧嘩は買うだろ普通!」

朝倉さんと如月さんも論争がはじまった。

「それで二人が競争を初めてそれに残りが便乗したわけか」

俺が言うと聡美さんが言う。

「競争はしてなかったけど拓海も目一杯飛ばしてたわ。少なくとも片桐君を追い越した」
「こ、高速道路ですよ80㎞/hを維持しろってのが無理な話だ」
「でも片桐君はそれをしてるのよ?」
「いや、してねーな、あいつも100㎞/hは出してたはずだ」

水島君が言う

「それは周りのスピードに合わせてただけですよ。皆さんみたいに180㎞/hなんて無謀なことしてない」

佐倉さんが反論した。

「瑛大は国道に下りてからも冬夜を追い抜いたらしいが?」

俺が瑛大に聞いてみた。

「冬夜の奴前方に何も無いのにのんびり走ってるんですよ。抜きたくもなりますよ!」
「嘘つけ!その先に片側通行って標識あったろうが!片桐君じゃなかったらぶつかってたぞ!」
「トーヤの話聞いてたのか!?公道は危険がいっぱいあるからスピード出せないってあれほど言ってただろ!」
「でも逆を言えば冬夜くらいのスピードまでなら出しても問題ないってことだろ!」
「そのトーヤ追い越してどうするんだ馬鹿!」

亜依と瑛大と神奈さんが言い争ってるのを黙ってみてる誠君。
誠君に聞いてみた。

「誠君はレースには参加しなかっのか?」
「俺はもう後がないですから……次問題起こしたら本当に離婚だ」

なるほどな。
しかしこの騒動どう収めたらいいものやら……。

「高槻君は自分がアスリートって事を忘れてるんじゃないのか?身体が資本だろ?足を負傷して学んだんじゃないのか?」

俺は高槻君を説得する事から始めてみた。

「そ、そうなんですけど、高速出た後ってスピード感が残ってしまうじゃないですか?それで」
「言い訳になってない。高速でもスピード出してた。私が怖がる運転しないって言ったの嘘だったの?」

高槻君が言うと千歳さんが反論する。

「皆基本的な事だが、特に結婚してる奴に言える事だが自分1人の問題じゃないって事を忘れてないか?」

俺が言うと皆黙った。

「良くも悪くも誠は変わったよ。私の事を一番に考えてくれるようになった」

神奈さんが言う。

「スピードを出してる奴は基本的に助手席に大切な人を乗せてる事を忘れてるんじゃないのか?」

俺がそう言うと皆何も言わない。

「でも渡辺君、冬夜レベルなら速度を出していいって事だろ?」

瑛大が言うと俺が答えた。

「出せるものならな、言っとくがあいつが高速道路で無謀運転したって話はきいたことないぞ?」

瑛大は黙ってしまった。

「……合宿するか」

俺は言った。

「合宿って何の?」
「車の運転のだよ、例えばレース場を借りてやるとか」
「それは反対だね。そんな無茶な遊びする奴の助手席なんて絶対乗りたくないね」

美嘉が言う。

「カートならいいんじゃない?」

恵美さんが言う。

「庄内の誰も使ってないカート場があるのよ。カートなら限界速度もあるし……」
「同じよ恵美、カートでやれることを車でしようとするだけ。もっと根本的なところから変えないと」

晶さんが言う。

「合宿したって一緒じゃないですか!どうせまたすぐ忘れて飛ばすに決まってる」
「そうですね~。……馬鹿に付ける薬はない」

穂乃果さんと咲良さんが言う。

「分かった……後で冬夜と検討しよう。とにかく男性陣はもっと女性陣に気を配って走行してくれ」

こういう事なら冬夜の方が分かるだろう。

「冬夜達を待たせてるかもしれない。そろそろ戻ろう」

俺がそう言うと皆戻り始めた。

(3)

「……と、いうわけなんだが」

渡辺君が言う。
なるほどねえ。
僕はステーキを食べながら考えていた。
スピードに憑りつかれたものは一度事故らないと分からないか。
そう言うわけでもないらしい。現に檜山先輩が未だに魅了されている。
僕のテーブルには愛莉、渡辺夫妻、石原夫妻、多田夫妻の8人が座っている。
本当は多田夫妻と石原夫妻だけでも良かったんだけど渡辺夫妻が相談があると言うので8人テーブルについた。
名前の挙がった皆は僕達のテーブルを注視している。
幸いにもこの店の大半は僕達渡辺班の人だ。
まずは誠か。

「誠はどうしてレースしなかったんだ?」
「そ、そりゃ神奈の事を考えて?」
「要するに神奈に怒られたくないから?」
「な、何言ってんだよ。神奈の安全を考えてだな」

そんなに暖房聞いてないのに汗をかいてる誠。
相変わらずなわけだな。

「カンナ、誠と今日ドライブしててどうだった?」
「どういう意味だ?」
「楽しかったとか退屈だったとかそんな感想無いか?」
「そういう感想ならある、嬉しかったかな」
「だ、そうだよ誠」
「でもそれがどうかしたのか?」

神奈が聞く。

「愛莉、説明してあげなよ」
「ほえ?」
「愛莉がいつも言ってる事」
「あ、そういうことだね」

愛莉はにこりと笑った。

「神奈嬉しいよね、のんびりドライブするって楽しくお話しできるし音楽やラジオを楽しんだり一緒に道を探したり……私は冬夜君のそういう運転が好き」
「愛莉の言う事は分かる。前は話しかけるなと言わんばかりに集中してたからな。話しかけても上の空だし。ひやひやするし」

神奈が答えた。

「と、言うわけだ誠。よかったじゃないか新しい共通の趣味出来て。楽しいぞ、一緒に洗車してくれたり」
「そうだよね~普段のお買い物も楽しいデートになっちゃうもんね」

愛莉が言う。

「他の皆もそうなんじゃない?運転技術よりもっと大事なものあるんじゃない?運転中だってデートだよ?デート中に他の事に夢中になってたら彼女怒るでしょ」
「片桐君や神奈の言う通りだね。怖い運転されてる上に話しかけても応えてくれないんじゃつまらないわ」

亜依さんが言うとみんなが頷く。

「だからと言って一人で走りに行くのも駄目だ。ここにいる皆はわかってるはずだよ。何度も言われてきた事だ。自分一人なんかじゃない。木元先輩檜山先輩中島君桐谷君は特に忘れちゃいけないことだ」
「片桐先輩、この人たちに何言っても無駄ですよ~何度言っても懲りないんだから~」
「誠は理解したよ。咲良さん」
「ああ、冬夜の言ってる意味は分かったよ。ただ運転しててもつまらないと思うかもしれないけど神奈が相手してくれるんだ。楽しいデートの時間だよ」

誠が言う。

「そういう事、言ったはずだよ車の楽しみ方は色々あるって」

そう言う楽しみを見つければいい。

「でもそれは男性だけが努力したって無理だ。女性も協力してあげなくちゃ。話を聞いてあげるとか話しかけてあげるとかやり方は色々あると思う」
「それは皆分かってますよ~。……私達だって旦那といて嫌な気分になりたいわけじゃない」

咲良さんが言う。

「結局の始まりは桐谷君だったんだろ?」
「そうね、瑛大のせいだわ。……私にも問題があったって言いたいわけ?」

亜依さんが言う。

「それはないよ、桐谷君は自分で認めてるんだから『如月君が遅い、追い越し車線が開いてるから抜いた』って」

そしてそこから如月君がムキになって皆を巻き込んでった。
でも如月君が相手をしなければレースにはならなかった。

「皆もっと車を大事にしなよ。彼女と同じくらい大切にしなよ。そうすればムキになって相手するはずないから」

彼女の声に耳を傾けてやればいい。それだけの話だ。

「冬夜の言う通りだな。俺達が運転してる時は妻を置き去りにしてる」

木元先輩が言う。

「ここまで言って分からないならもう僕にもどうしようがない。そもそも彼女の存在を否定してることになるんだから。車も大切に出来ない人が生涯のパートナーを大切にできるとは思えない」
「冬夜の言う通りだな」

檜山先輩が言う。

「翔ちゃん、私も頑張って翔ちゃんを退屈させないようにするから。もうやめようよ」
「……わかったよ」

如月君は言う。

「でもそれって今まで通りなわけ?何のペナルティも与えないわけ?」

恵美さんが言う。

「それだと女性陣は納得しないよね?」

僕が言うと亜依さん達がうなずく。

「テストしよう。帰りは湯布院インターから高速で帰ろう。それでもし理解してないようなら……」
「なら?」

女性陣が注目する。

「愛莉何か良い罰ゲーム無い?」

愛莉に聞いてみた。

「あ!いいこと思いついた!」
「なんだい?」
「車さんにごめんなさいするの!」
「どういう意味だ?」

神奈が聞いていた。

「二人で一緒に車を洗車するの。無理させてごめんねって。点検もしたらいいかもね」
「それが罰ゲームになるのか?」
「2人の時間の大切さをかみしめる良い時間になるじゃない」
「それはいいな。それに決めよう」

渡辺君が言う。

「でもそれでも守れなかったら?その一回のテストだけ守って、その後破ったら?」

亜依さんが言う。

「そんな奴はいないと俺は思う。俺達が自分で作り上げた絆を自ら千切るような奴はいないと信じてる」

渡辺君が言う。

「瑛大、分かってるでしょうね。あんたが一番危ないんだよ!」
「わ、分かってるよ。暴走したら洗車だろ?」
「そうじゃないだろ!暴走前提で話を決めるな」
「わかったよ」
「じゃあ、僕が先頭を走るから。追い抜いた車は愛莉がチェックするから」

最後尾は渡辺君でいいか。

「今ので納得できないやつはいるか?」

渡辺君が聞く。誰も手を挙げない。

「よし、この話は終わりだ。この人数で長居しても営業妨害だ。そろそろ帰ろう」

僕達は店を出る。
そして渡辺君と誠と桐谷君と恵美さんと晶さんに伝える。

「地元に着いたらファミレスで夕食しよう。片付いてない話がある」
「俺達も必要なのか?」

桐谷君達が聞く。

「うん、関係ないとは思えないから」
「あの件ね?」

恵美さんが言うと僕はうなずく。
その後僕が先導するとゆっくりと皆走り出す。
そして由布院から高速に乗って晴斗達は別府インターで出て、狭間インターで降りるもの。その先まで行くものに分かれた。
幸いにも皆僕の後ろをついてきた。
メッセージで確認したけど追い越しは無かったらしい。

(4)

「桐谷君どうだった?」
「まあ、悪くはないね。楽しかったよ。でもよ~冬夜もう少しスピード上げろよ」
「わざとゆっくりめで走ったんだよ」
「やっぱりな、そんな事だろうと思ったぜ!」
「誰のせいでこんな目に遭ったと思ってるんだ!」

亜依さんが言う。

「ところで冬夜。俺達を呼んだ件ってなんだ?」

渡辺君が質問する。

「それは私が説明するわ」

恵美さんが言った。
恵美さんはバッグから資料を取り出す。

「片桐君に言われた下村有栖の情報よ」
「下村有栖って誠を陥れた奴か!?確かスティンガーの……」

神奈が言うと恵美さんがうなずく。
僕は資料に目を通す。

下村有栖18歳私立大1年生。特に成績がいいわけでもなく運動に秀でてるわけでもない、ルックスは見た通り。地下アイドルALICEとして人気を集めるほど。実家は地元、今は寮生活。学費と生活費を工面するためにスティンガーに入るも失敗。その後今の芸能事務所に売られる。その借金の返済と学費の支払いで生活が苦しい。

「ALICEってあのALICEちゃん!?」
「マジかよ全然気づかなかった」

桐谷君と誠が驚いてる。

「片桐君に言われた時は何でこんな奴調べるの?って思ったけど調べてみると同情しちゃうわね」

恵美さんが言う。

「親は何してるの?」
「父親はサラリーマン。母親も働いてるそうよ。3人の子供を抱えていて上の子は統合失調症、下の子は心臓に先天性の疾患を抱えていてね。治療費だけでも大変らしいわ。有栖は真ん中の子ね」
「なるほどね……芸能事務所って須藤グループの傘下の?」
「そんな立派な芸能事務所じゃないわよ。地下アイドルの事務所よ?その契約金の半分をスティンガーにとられて半分は学費に当てたらしいわ。今は地元の売れっ子だけど同じ芸能事務所のメンバーのWHITEからは煙たがれいるみたい」
「どうして?」
「彼女ああ見えて努力家でね、WHITEに加入した時も一人で必死に振り付けとか覚えたらしいわ。そういうのがウザがられたみたい。もともと大人しくて気が弱いってのもあったけど」
「トーヤあの女の事気にかけてどうするんだよ。恵美も同情するってどういう神経だよ!詐欺の加担者だぞ」

カンナが言う。

「そんな奴ほっとけ!身から出た錆だ!!」
「俺もそう思うな。今回ばかりは俺達が手を貸すことは無い」

美嘉さんと渡辺君も言う。

「そうだね」

しかしそんな過酷な状況だったとはね……恵美さんの言う事が正しいのかもしれない。

「片桐君どうする?」

恵美さんが聞く。

「僕は力になりたいです……彼女も泣いてる女性の一人だ」

石原君が言うとカンナが怒る。

「ふざけるな!あいつのせいで私達がどんな目に遭ったのか分かってるのか!?私達だけじゃない!何十件も被害出てるんだぞ!」
「落ち着け神奈」
「落ち着けだ?お前もどうかしてるぞ。そんな奴のファンだって!?頭おかしいんじゃねーのか?」
「それはそうなんだが……」
「瑛大!?帰ったらすぐにグッズやCD捨てるぞそんな奴のファンなんて私は絶対に許さない!」
「わ、わかったよ」
「誠もだぞ!私の前で一切そいつの名前を口にするな!」
「わ、分かったから落ち着け」

桐谷君と誠は亜依さんとカンナを宥めるのに必死だ。
僕はそんな様子を見ながらハンバーグを食べてた。
僕達は解散すると家に帰り、風呂を浴びていつものように一缶開ける。
そしてテレビを見ていた。
地下アイドルの特集をやっていた。
その実情は悲惨なもので抜け出そうにも抜け出せない可哀そうな少女がたくさんいるらしい。
そんな現実に蓋をして笑顔を振りまき、軽やかに踊る地下アイドル達。
その背景には過酷な現実があるなどつゆしらず。

「うぅ……」
「どうした愛莉?」

あ、僕が彼女に入っていると思ったのだろうか?

「ごめんね、また愛莉置き去りにしちゃった」
「ほえ?」

違うの?

「うぅ、冬夜君は肝心な時にちゃんと見てくれませんね」
「ごめん」
「……冬夜君の本音を知りたい」
「え?」
「有栖って人の事どう思ってるの?」

ああ……。

「僕達が手出しすることは出来ないよ」
「だよね……神奈がいるもんね」
「そうだよ」
「でも私も同情しちゃって、やっぱり可哀そうだなって」
「そうだな」
「どっちも上手くいく方法ってないかな?」
「口実が出来れば……」
「え?」
「彼女に手を出す口実が出来ればなんとかなるかもしれないけど」

そんなに都合よくあるわけないよな。

「うぅ……」

テレビを消した。

「悩んでいないで今日はもう寝よう?」
「……じゃあ腕枕して」
「ああ、いいよ」
「わ~い」

愛莉は眠りについた。
彼女はスティンガーの末端だ。
そして芸能プロダクションに売られた。
多分原因は僕達だろう。
僕達にも正当な理由があるけど。
神奈を押さえながら彼女を救う方法。
そんなアイデアがあるのだろうか?
一歩間違えれば分裂。
それは避けたい。
頭では理解できるけど心が納得しない。
そんな11月の始まりだった。
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