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5thSEASON
一度だけの恋だから
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(1)
「冬夜君朝だよ」
「愛莉おはよう」
愛莉と朝の挨拶を交わすとベッドからでて顔を洗いに行く。
愛莉もついてくる。
一緒に歯を磨いて、顔を洗って寝癖を直す。
「いつもおもうんだけどさ、冬夜君は髪をセットしようとか思わないの?」
愛莉が朝食を食べながら聞いてきた。
「別に寝癖が無かったらいいかなって。だめ?」
「ううん、ただ結婚式で髪の毛セットするでしょ?冬夜君結構イケてると思うのに勿体ないな~って思っただけ」
「やりかたわかんないからいいよ」
あんまりべたべたしたりするの好きじゃないし。
「なるほどね~」
「冬夜にそう言う話をしても無駄よ。愛莉ちゃん。誰に似たのか知らないけど服でさえ無頓着なんだから」
母さんが言う。
愛莉が来るまでは適当だったしな。
朝食を食べ終わるとコーヒを入れたマグカップを持って部屋に戻る。
そして時間までテレビを見ながらくつろぐ。
今日はクリスマスパーティの日。
ホテルのパーティホールを貸し切って盛り上がるらしい。
晶さんの子会社のホテルだったので貸し切れたらしい。
そこでALICEの初ライブが行われる予定だ。
新しく生まれ変わったALICEを誰よりも早く見れると誠と桐谷君は楽しみにしている。
僕達はデビュー曲「イン・ワンダーランド」のCDをフライングゲットできた。
更には来月発売する新曲のお披露目もあるらしい。
2月にはアルバムを出すんだとか。大学生活も送りながら多忙な日を送っている彼女を支えているのは秋吉君だった。
公私ともに支えとなっているらしい。
渡辺君と江口さんから驚きの事実を聞かされた。
大晦日に年越しでパーティを開くのだがそこに森重清太がくるらしい。
何か事情がありそうだ。
なんとなく想像がつくけど。
僕は覚悟していた。
社会人になってからじゃ遅い。
決着をつけるなら大学生のうちに。
そう決めたから不思議と落ち着いていた。
まあ、年末まで待てばいい。
まずはクリスマスパーティから楽しもう。
クリスマスパーティは皆くるらしい。
楽しみだ。
「冬夜君準備出来たよ~」
愛莉の準備が終わったらしい。
僕達は荷物を持って家を出た。
学校に着くと授業を受けて昼休みに学食に向かう。
弁当を食べていると皆集まってくる。
栗林君達も翔も感じが雰囲気が違う。
イブに何か進展があったんだな。
あえて気づかないふりをしていた。
「今夜楽しみですね。パーティ」
伊織さんが言う。
「俺はアイドルとかあまり興味ないから」と佐(たすく)が言う。
まあ僕もないんだけどね。
ただそれでも今回は見る価値があるという。
そう言われると気にはなる。
ただあまり露骨に興味を示すと愛莉の機嫌を損ねるので表には出さない。
「亜依は大変らしいぜ、瑛大の奴かなりはしゃいでるらしい」
カンナが言う。
「誠はどうなんだ?あいつもファンなんだろ?」
「誠は節度を持ってるよ。まだ気にしてるんじゃないだろうかと不安になるくらいだ」
カンナが言う。
「冬夜相談があるんだがいいか?」
渡辺君が来た。
「相談って?」
渡辺君は隣の席に座って話を始めた。
「衛藤信一郎については話したな?」
「太陽の騎士団の一員だってことだろ?」
その事なら新聞で太陽の騎士団について取りざたされて大変になってるって父さんが言ってたけど?
「ああ、大変らしい。でも市長の座を奪われるわけには行かない。だから連中躍起になってる」
「どういうこと?」
「選挙前のこの時期だ。森重さんは迂闊な行動は取れない。取ったら即スクープだ」
「確かにそうだろうね」
清廉潔白なイメージを崩すと浮動票が離れてしまう。スキャンダルは避けたいだろう。
「それをいいことに奴等妨害が過激になってるらしい。でも森重さんからは手を出せない。江口グループもそうだ」
「その件ならパパも協力するって言ってくれたわ」
「春奈も言ってたっす。地元にも会社を展開してるから協力するって」
晶さんと晴斗が言った。
「なおさらだ、晶さんと白鳥さんの企業もマイナスイメージを起こすような真似はできない。奴らはそれを狙っている」
「そんなこと?簡単だわ。太陽の騎士団とやらがどれだけ地元に影響力があるのか知らないけど。私達には手が出せない」
「そうだ、俺達には手が出せない。そこで俺達の出番てわけだ」
晶さんがいうと渡辺君が言った。
「それって、妨害を妨害しろってこと?」
「かみ砕くとそう言うことになるな」
「その話は年越しパーティの時にしない?」
「なぜだ?」
「その森重清太って政治家が評判通りの人なのか見極めたい。評判通りの人なら力を貸していいけど」
単に力を力でねじ伏せたいって歪んだ思考の人なら手を貸せない。僕達はどの権力どの派閥にも属さない自由の剣であるべきだと説く。
「冬夜の言う通りだな。わかった。恵美さんもそれでいいかい?」
「そうね、見極めは必要かもね。私達に敵はいない。だからこそ私達は簡単に助力はできない。圧力を加えてねじ伏せたところで歪みが発生する」
渡辺君と恵美さんが言う。
「しかしまさか政界にまで介入する羽目になるとはね……」
僕が言った。
「俺はよくわからんので先輩たちに従うっす」
晴斗が言う。
昼休みが終ると授業に戻る。
授業を終えると家に帰る。
荷物を置いてベッドに倒れる。
「ねえ冬夜君?」
愛莉はテレビを見ながらお菓子をつまみジュースを飲んでいる。
「どうした?」
「昼休みはああは言ってたけど本当は手助けしてあげたいんじゃない?」
「まあね。興味はあるね。凄く評判のいい政治家だから」
「だよね、やっぱり応援するべきだよね!」
「どうかな?」
「え?」
「江口グループや志水グループが応援するのは問題ない。もちろん白鳥グループだっておなじだ。でも僕達が介入すべきことなのかはまだわからない」
「敵は太陽の騎士団なんでしょ?だったら、尚の事決着をつけたい。そう思ってるんじゃないの?」
「愛莉。森重清太の凄い所ってどこだと思う」
「え?それは~」
愛莉は悩んでる。それが太陽の騎士団とどう関係があるのか?それを悩んでいるのだろう?
「彼は清廉潔白なんだ。汚れが無い。地元の他の政治家には無い清純なイメージ。そこに渡辺班が介入したらどうなると思う?」
「イメージが崩れる?」
「血なまぐさい側面を拭えない渡辺班が表に出たら彼の清廉潔白なイメージが崩れてしまう。それだけは避けたい」
「確かにそうだね。じゃあ、何もしない方がいいの?」
「渡辺君には忘年会の時に決めると言ってる」
「何を決めるの?」
「森重清太に力を貸すかどうか?」
「でも冬夜君渡辺班は手を出すべきじゃないって言ったよ?」
あまり愛莉を困らせるのは可哀そうかな?
僕は起きてベッドに腰掛けると愛莉に「隣においで」と言った。
愛莉は隣に座ると僕の顔を見る。
愛莉の頭を撫でながら言った。
「彼が噂通りの人物なら僕は力を貸すべきだと思う」
「それってマイナスイメージなるって冬夜君が言ったばかりだよ?」
「僕達のやれることをやるだけだよ」
「それってな~に?」
「それはね、太陽の騎士団の妨害」
今誠や公生、恵美さんに情報を集めてもらってる。高橋グループ、須藤グループの潰れた今、どの企業がスティンガーを動かしているのか?
スティンガーにどこかの企業が肩入れしているのは明白だ。未だに潰れないのだから。
現在の太陽の騎士団の構成を確認する必要もある。そして衛藤信一郎にどれだけの力を貸しているのか?
紅会がつぶれた今、間違い泣く実行部隊はスティンガーだろう。
僕達に出来る事。それは応援じゃなくて裏方に徹して純白な政治家が闇に染まらぬように守る事。
一度汚れを知った政治家はその汚れを拭うことは出来ないから。
「要は森重さんのボディガード?」
「それは江口グループが兵隊を出しているよ。僕達のすることは太陽の騎士団を舞台から引きずり下ろす事。彼等にもう用はない。とっとと退場願おう」
「うぅ……難しくてわかんない」
「向こうの出方も分からないんだしかたないさ」
「そうだね」
「そろそろ時間だ。行こう?」
「うん」
愛莉と家を出るとバス停に向かう。バスに乗ると駅前に向かう。
このままホテルに向かっても時間が早すぎるな。
愛莉と本屋に寄る。
愛莉はホラーはだめだけどサスペンスは好きらしい。
女性ならではの感情なんだろうか?
愛莉はサスペンスの小説を手に取ると旅行雑誌のコーナーに向かい北海道の旅行ガイドの本を一緒に買った。
それをコーヒーショップで紅茶を飲みながら見ている。
「冬夜君は北海道でどこに行きたいの?」
「稚内」
「ほえ?」
「宗谷岬。一度行ってみたかったんだよね」
「なんで?」
「愛莉と一緒に世界の果てまで逃げようって言ったの覚えてる?」
「うん」
「世界の果ては難しいけど日本の果てなら行けるだろ?」
「なるほどね~。他には無いの?」
「愛莉は無いのかい?」
「私は冬夜君と一緒だったらどこでもいいから」
愛莉は本当に欲がないんだな。
「じゃあ、函館行こうか?」
「どうして?」
「夜景が綺麗らしいし、愛莉と思い出になるならどこでもいいのは愛莉と一緒だよ」
「……うん」
愛莉は言われたところが書いてあるページにしるしをつけていく。
僕がカツサンドを食べ終わる頃愛莉は「そろそろ行こっか」と言う。
時計を見る。そろそろ頃合いだな。
僕達はホテルの会場に向かった。
(2)
パーティホールの控室。
コンコン。
誰かがノックする。
「僕だけど」
圭太だ。
「どうぞ」
ドアをあけて圭太が入ってきた。
「準備はできた?」
圭太が聞いてくる。
「いつでも大丈夫よ。圭太こそ大丈夫?初めての仕事よ?」
「実はちょっと緊張してる」
圭太はそう言って笑う。
私は圭太の両手をとって言う。
「いつもどおりでいいの。普段の圭太が私を見てくれるなら、私は安心してALICEとして舞台に立てる。ALICEを演じられる」
だって下村有栖が帰る場所を貴方が用意してくれるのだから。
コンコン
「はい?」
「俺だ、渡辺だけど」
「どうぞ」
渡辺君が入ってくると私を見て驚いていた。
「なるほどな、誠や瑛大が魅了されるわけだ。綺麗だ……」
「ありがとうございます」
「客は全員揃った。定刻に始めてもらって構わない」
「わかりまいた。圭太行こうか?」
「ああ」
ピンマイクとイヤホンをセットした。
控室を出るとスタッフが待っている。
圭太が言う
「新生ALICEの初舞台です。必ず成功させましょう!」
「おう!」
皆とタッチする。
私達はステージに向かう。
舞台袖で舞台に立つ渡辺君を見ていた。
ちらりと圭太を見る。
圭太の表情が硬い。
圭太の手を握る。
「リラックスリラックス」
「ありがとう」
私達は出番のときを待った。
(3)
「ああ、今日は大勢の人に集まっていただき大変感謝している」
「正志なげーぞさっさと始めろ」
すでにジョッキのビールを開けている美嘉さんが言うと笑いがこぼれる。
「それじゃ、今夜は楽しもう。乾杯!」
渡辺君がそう言うと宴の始まり。
僕は料理を取り愛莉に叩かれる。
そして僕の食べる料理を愛莉が勝手に決める。
また取りに来ればいい。
「今回は初の試みだけど出し物を用意している。地元のアイドルALICEの移籍後初のステージだ。皆楽しんでくれ」
渡辺君がそう言ってステージを降りると、照明がくらくなる。
そして舞台に立つ女性をスポットライトが照らす。
赤いウィッグに赤いカラコン、黒いゴシック風の衣装をまとい現れた。
「weicome to Wonderland♪」
音楽が流れだすと始まる彼女の華麗な踊り。
皆の手拍子が始まる。
「歌は神秘、歌は元気、歌は命、歌は愛、歌は希望」
こういう時ってステレオから流れる音声に合わせて口パクするらしいけど、彼女の声をマイクがしっかり拾っていた。
こんなに激しく踊りながら彼女はしっかりと歌い続ける。
誠と桐谷君は振り付けを覚えていたらしくステージ前で一緒に踊っていた。
一曲目が終わると彼女の挨拶が始まった。
「今日はこのような席に招待していただきありがとうございます。短い時間ですが、皆楽しんでいこうね!」
彼女がそう言うと皆は盛り上がる。
そして次の曲に入る。
彼女の振り付け、歌声そして何より活き活きと舞台を舞う彼女の姿に、皆が虜になっていた。
生のライブってこんなにすごいんだ。
僕は食べることも忘れて、魅入っていた。
曲目は全部で4曲。
あっという間に最後の曲になる。
「楽しい時間でしたが次で最後です。わたしの想いを始めて詩にしました。聞いてください『一度だけの恋だから』」
彼女は静かに歌いだすと、曲が流れだす。
最後まで元気に踊る彼女。
そこにかつてのイメージの下村有栖の姿はなくALICEという一人のアイドルがいた。
歌い終わると鳴りやまない拍手が聞こえる。
「みんなりがとう!」
そう言って彼女はステージを降りた。
「やっぱり彼女凄いね。初めて見た時のイメージが全然なかったよ」
「そうだね。見事だった」
食べることを忘れていたよ。
思い出したように食べ物を取りに行く僕。
そんな僕から離れない愛莉。
「愛莉、食べる時くらい自由にさせてよ」
「だ~め!冬夜君すぐに食べ過ぎるんだから!」
だから私が見張っているの!と愛莉は主張する。
「冬夜。今のうちに覚えておくと良い。結婚するって幸せを手に入れることは何かを犠牲にすることなんだ」
誠は語る。
「ほう?お前は何を犠牲にしたんだ?誠」
「げ!神奈!!」
お前はいつになったら学習するんだ?誠。
「誠みたいにはなるなよ、いつも通りでいいんだ!ガツンといってやれガツンと」
「愛莉、このくらいならいいかい?」
「うぅ~ん、どうせまだ料理あるんだからこのくらいにしとこうね」
僕は桐谷君から逃げる。
「おい、俺は結婚の先輩としてお前に助言を!!」
「それはありがたいな。ガツンと言ってくれるのか?聞いててやるぞ瑛大」
「あ、亜依」
2人とも一生ああなんだろうな。
席に着くと、愛莉に聞いてみた。
「愛莉は僕に不満無いの?」
「ほえ?」
「いや、皆何かしら不満抱えてるみたいだから」
「う~ん……」
愛莉は悩んでいる。
「何でもいい?」
「ああ、いいよ」
「もっと構って」
へ?
「最近冬夜君朝素直に起きるようになったでしょ?」
それっていいことじゃないのか?
「冬夜君に甘える時間が朝起こす時くらいしかなかったのにそれも無くなっちゃったから。社会人になたら一人の時間も増えるし」
「じゃあ、もっと寝ててやろうか?」
ちょっと意地悪言ってみた。
「うぅ、またそうやって意地悪言うんだから!寝る前でもいいじゃない」
「ははは、お前たちはいつも仲睦まじいな。うらやましいよ」
渡辺君が下村さんと秋吉君を連れて来た。
「2人が冬夜にお礼を言いたいらしくてな」
渡辺君が言う。
「今夜はありがとうございました。最高のスタートを踏み出せました」
「ありがとうございます、一緒になれたのも片桐先輩のお蔭です。一生大事にするつもりです」
下村さんと秋吉君がそう言って礼を言う。
「礼を言うのはこっちだよ、最高のステージだった」
「そうだよ、ありがとう」
僕が言うと愛莉が言った。
「君達もお腹空いてるだろ?席空いてるから座って食べなよ」
「それじゃお言葉に甘えて、圭太行こ?」
「ああ。」
二人はそう言って食べ物を取りに行った。
戻ってくると食べながら会話をする。
「年越しライブもしてくれるんだって?」
「ええ、今度はアルバムの収録曲も発表するつもりです」
秋吉君が答える。
「そんなに一度に覚えられるものなの?」
僕が聞いてみた。
「大変だけど頑張ります」
彼女ならやってのけるんだろうな。
「冬夜お前たちだけ有栖さんを独占してズルいぞ!」
「そうだズルいズルい!」
誠と桐谷君と如月君が来た。
3人でサインや握手を求める。
彼女はそれに応えていた。
彼女たちと話しているとあっという間に時間は過ぎていく。
渡辺君がステージに立った。
「じゃあ、そろそろ時間だ。2次会に来れるやつは来てくれ。いつものカラオケでいいな」
渡辺君が言うと公生と奈留を除く全員が行くことになった。
公生と奈留と別れる。
去り際に公生が言った。
「片桐君の言われた通り調べたよ。やっぱりスティンガーが実行部隊と見て間違いない」
思った通りか。
「でも規模も勢力も大したことない。ゴーサインが出たらいつでも潰せる。問題はタイミングだね。公示前には済ませたいところだね」
「そうだね、実行部隊の武装とか調べられる?」
「それは僕達よりも恵美さんに頼んだ方が?」
「もう調べてあるわよ。公生が狙われた時から調べてた」
恵美さんが来た。
「でも、まだ動くかどうかも判断してないから言わなかっただけ」
「後で詳しく話を聞くよ」
「わかった。作戦会議ね」
恵美さんはそう言ってにやりと笑う。
「じゃあ、僕はこれで」
公生と奈留は帰っていった。
「作戦会議をしたいところなんだが……」
渡辺君が誠をちらりとみる。
「有栖ちゃんも2次会行くんだよね」
「はい」
「朝まで楽しもう!」
「それはいいんですけど……大丈夫ですか?二人とも」
「大丈夫だとも!渡辺班で行動してる間は皆のALICEちゃんだ」
「誠の言うとおり、皆のALICEちゃんだ!」
また誠と瑛大か。
「肝心のブレインがあれじゃ話にならんなと思ってな」
渡辺君が苦笑している。
「その心配なら必要ないよ」
僕はそう言うと二人を見る。
渡辺君も二人を見ていた。
「すいません、ステージから降りてる時は下村有栖として行動したいんで」
秋吉君が言ってる。
「そんなの関係ない、殺気立った女性陣に舞い降りた天使だ。皆で大切にしよう」
「そ、そう言う事ならしょうがないな。まあ二人で楽しんでくれ」
誠は感づいたようだ。勘は鋭くなったようだな。
「なんだよ誠の奴!最近ノリが悪いぜ!そんなに嫁さんが怖いのかよ!」
言うまでもないが皆は既に桐谷君から離れている。
絡まれている下村さんとそれを庇う秋吉君だけがいる。
そして巨大な殺気は桐谷君の後ろに立った。
「下村さんは今はオフの状態だ。そんな彼女と奥さんどっちを選ぶつもりだ瑛大は」
「そんなの有栖ちゃんに決まってるだろ!取り換えっこして欲しいくらいだぜ。どうだ?秋吉君うちの嫁と交換しないか?」
秋吉君は気づいている。だから作り笑いをするだけで何も言わない。
「そう言う事は奥さんの前で言わない方が……」
下村さんはやんわりと桐谷君に警告する。
「そんなの関係ない!俺はいつでも自分に正直に生きていく!たとえ嫁の前でも……て、え?」
桐谷君は後ろを振り返る。
「自分に正直か、いいよ。お前の本音聞かせてもらおうじゃないか?」
「亜依……いや、アイドルと嫁は別だろ?」
桐谷君に反省という言葉はないのだろうか……?
(4)
リクエストを受けて歌う下村さんとそれを見守る秋吉君。
手拍子をする男性陣。
そんな男性陣を呆れて見ている女性陣。
「神奈!渡辺班の歌姫の意地みせてやんないと」
「分かってる!」
美嘉さんとカンナが対抗意識を燃やしている。
「私も歌いたいな~」
「ちょっと端末借りて来るよ」
北村さんはカラオケ好きのようだ。
歌っていて楽しいんだろう?
桐谷君は亜依さんにみっちり叱られてる。
この光景も見慣れた。
僕と誠と渡辺君、石原夫妻、酒井夫妻、愛莉は一角に集まっていた。
「誠、スティンガーの実情は?」
「紅会と合体したって感じだな、もはや大学のサークルって規模じゃない。実質闇組織だ」
「そうね、どういう経路で入手したのか分からないけど銃火器も大量に所持してる」
誠が言うと恵美さんが言う。
恵美さんが言うセリフじゃないと思うんだけど……。
「私?簡単よ。親戚が貿易会社経営していてそのルートを使って……」
そう言う事言っちゃダメ!
「私は違うわよ。警備会社のグループを経営していて世界中に人材派遣していて……」
晶さんもさらりと過激な事言うなあ。
でも世界の警備会社ならありなのかも。日本に持ち込むのはセーフなのかどうかは別問題だけど。
「で、どうする?ドンパチするなら冬休みの間に片づけたいけど」
恵美さんが言う。年末年始の年賀状配りみたいに言うなあ。
「久しぶりいわくわくするわね。いつやるの?」
晶さんが言う。まだやるって決めたわけじゃないから。
「冬夜としては忘年会で森重さんと会ってからといったところか?」
渡辺君が言うと、僕がうなずいた。
「渡辺班……ユニティは地元最強のカードだ。でも今回の件だと諸刃の剣になってしまう可能性がある」
封印しておくに越したことは無い。
「どういう意味?」
「もし、森重さんが噂通りじゃないなら論外だ。勝手にやらせておく」
僕が言うと皆が頷いた
「そして問題は噂通りの人物だった場合だ。今回は叩きのめすじゃだめなんだ」
「どうして?」
恵美さんが聞いた。
「僕達が表に立った時の代償がでかい。そうですね?」
石原君が言うと、僕はうなずいた。
「もし僕達が彼等より先に手を出したらクリーンなイメージを崩してしまう。それは森重さんにとっても致命傷になりかねない。後出しでもだめだ、繋がりを気づかれたらそれで終わる」
「じゃあ、私達に出来ることは無いって事?」
「固定票が上回っていたら問題ないけどね」
さすがに江口グループと志水グループだけじゃまだ足りない。
「じゃあ、俺達はどうするんだ?」
「まずは衛藤信一郎と太陽の騎士団の繋がりを暴露する事。その際に渡辺班の足跡を残したらいけない」
太陽の騎士団については地元民なら誰もが知っているだろう。あれだけテレビで騒がれたのだから。ただ……。
「それだけじゃ、相手の力を削ぐことが出来ない」
真相を暴いたところで固定票が削れる事はないだろうから。
政治の難しい所だ。悪評が少しでもついたらそれだけで森重さんの政治生命は終わりだ。
「う~んでもこのまま戦っても難しいんでしょ?」
愛莉が言う。
「冬夜の言っていた太陽の騎士団についてだが、地元新聞と地元銀行は手を引いた。息のかかった役員に責任を取らせて辞任させたらしい」
誠が言う。
だがよそ者を受け付けない県民の気質もある。簡単に鞍替えはしないだろう。
「今回は俺達は手を出さない方がかいいかもな」
渡辺君はそう結論付ける。
「そうとも限らない」
僕が言う。
「何か力になれる時がくるかもしれない。その時に手を貸すかどうかは忘年会の時に決めるよ。それに手助けする方法も考えとくよ」
「力になれる時が来ないのが一番ですけどね」
酒井君が言う。
「そうだね」
「まずは会ってみないと話にならない!そう言う事で皆いいか」
渡辺君が言うと皆うなずいた。
「じゃあ、私と誠君で情報を集めるだけ集めておくわ。手札は多い方がいいんでしょ?デッキの構築だっけ?」
恵美さんが言うと僕がうなずいた。
「こうなったらとーやに採点してもらおうぜ!」
美嘉さんが僕を呼んでる。どうした?
「とーや!神奈と有栖どっちの方が上だと思う!?」
は?
「何の話?」
「だあ、話に夢中で見てなかったのかよ!仕切り直しだ!」
美嘉さんが言うと二人は同じ歌を交互に歌った。
点数は神奈の方が上だった。
だけど男性陣の票数は下村さんの方が多いという。
「お前なら見た目に誤魔化されないだろ!どっちが上か白黒つけてやれ!」
無茶ぶりも良い所だろ!?
「美嘉、それはプロとアマの差もあるんだし比べるのは失礼だろ」
渡辺君が言う。
「冬夜!まさかお前が有栖を選ぶわけ無いよな」
カンナがそう言って迫ってくる。誠がいるんだぞ……それに……。
「神奈!人の旦那様に手をつけないで!誠君だっているんだよ」
「愛莉、私は冬夜にどっちが上かを聞いてるだけだ」
「そうだ、愛莉も混ぜようぜ!」
美嘉さんがとんでもないことを言い出した。
こりゃ早く結論付けないとだめだな。
「私は、神奈さんも素質あると思いますよ、何より綺麗だし」
下村さんが言う。
「私は冬夜に聞いてるんだ。なあ冬夜……早く決めろよ決めないと……」
カンナの顔が近づいてくる。
愛莉が間に手を入れる。
「神奈それだけは絶対にダメ!」
愛莉が叫ぶ。
森重さんの問題より難しい問題だな。
まてよ、そんなに難しい問題か?単にカンナと美嘉さんが酔ってるだけじゃないか?
「カンナじゃないかな?」
カンナが抱きついてきた。
「トーヤならそう言うと思ってくれてたよ」
「冬夜!お前何人の嫁に手を出してるんだよ!」
誠が立ち上がる!
僕のせいなのか!?
「神奈!冬夜君から離れなさい!」
「いいじゃないか?なあ、トーヤ、中学の時にキスまでした仲だしな」
「うぅ……」
愛莉が僕を睨んでる。
事態はさらにややこしくなったようだ。
「分かったからカンナ取りあえず離れよう!」
「やっぱり愛莉の方がいいのか……そうだよな」
勝手に落ち込むカンナ。
「神奈には俺がいるだろ?」
誠が言う。
「どうして私はいつも外れくじばかりなんだ」
「神奈、その一言はさすがに傷つくぞ」
いじけるカンナを励ます誠。
「神奈はまだいいよ、私なんて瑛大だよ」
「ぼ、僕だって亜依が一番だよ!」
桐谷夫妻が言う。
「亜依、同じ貧乏くじを引いたもの同士飲もうぜ!」
「神奈、そうこなくちゃね!徹底的に飲もう!」
「何かよく分からないけど私も混ぜろ!」
「私も混ぜてください!私も隆司君に言いたい事ある!」
女性同士で盛り上がり始める。
男性陣はやれやれと見ていた。
「いつもこうなんですか?」
下村さんがやってきた。
「まあ、お酒が入るとこうなるね大体」
「楽しそうでいいな~」
「下村さんもそのうち慣れるよ」
「がんばります」
困るのは秋吉君だ。流れに任せよう。
「そうだ言うの忘れてた」
深雪さんが言った。
「下村美羽さんだけど冬休みの間でもいいから入院しなさい。手術してあげるわ」
「え、でも。治療費が……」
「それなら問題ない。USEが肩代わりしてくれるそうだから」
深雪さんがそう言うと恵美さんが言った。
「これからのあなたの稼ぐお金を考えたらはしたものよ」
「ありがとうございます」
下村さんは深々と頭を下げる。
こっちは一件落着か。
一方で一向に収まる気配のない、女性陣の騒動。
男性陣も収拾を諦めたようだ。
女性陣の愚痴を朝まで聞く羽目になった。
(5)
朝になると皆解散した。
僕達もバスに乗って帰る。
家に帰って部屋に入ると部屋着に着替えて風呂に行く。
シャワーを浴びて部屋に戻ると愛莉が悩んでいる。
愛莉の周りには僕が脱ぎ散らかした衣服が。
怒ってる?
「ああ、ごめん。今すぐ片付けるよ。洗濯機に入れとけばいいかな?」
愛莉は首を振る。
「あ、ごめん!洗濯は自分でするよ。愛莉にばっか家事させたら悪いよね!」
それでも愛莉は首を振る。
愛莉の前に座ると愛莉の顔をのぞいてみた。
「どうしたの?」
「うぅ……」
どうしたんだろう?しばらく様子を見てると愛莉は話し出した。
「脱ぎ散らかす冬夜君を叱るべきなのか、しょうがないな~と自分で片づけるべきなのか悩んでたの」
「そんなの叱ってくれていいよ。これから二人だけで暮らすんだし、そのくらい気配りできない僕が悪い」
「そうだよ。冬夜君と二人で暮らすんだよ。冬夜君はお勤めだけど私は専業主婦だよ?そのくらいしてあげるべきなんじゃないかって……」
「……愛莉は僕に構って欲しいっていってたよね」
「うん」
「そうやって叱るのも愛莉にとってはストレス発散になって僕とのスキンシップも取れて良いんじゃないか?」
「口うるさいお嫁さんて思わない?」
「思うわけないだろ」
「そっか。でも私もシャワー浴びたいしついでに持って行くね」
愛莉はそう言って部屋を出ていった。
僕はため息を吐くと床に寝転がる。
今年もあとわずかで終わる。
今年一年を振り返る。
バスケットボールはちゃんと望み通りに終止符を打てた。
もうすぐ学生と言う身分も卒業する。
これから待ち受けるのは社会という試練。
そして愛莉と共同生活と言うゴールのない迷路。
期待と不安を胸に僕達は手探りで先を進む。
愛莉が戻って来た。
「そんなところで寝てたら風邪引くよ。ちゃんとベッドで寝なさい」
愛莉がそう言って微笑む。
僕は起き上がるとベッドに入る。
愛莉もベッドに入ると僕に抱き着く。
「あんなところで寝転がってなにしてたの?」
「先の事を考えてた」
「ほえ?」
「愛莉と何年たってもこうして生きていくんだろうなって」
「そうだね、子供が増えるくらいだね、変わるとしたら」
「そうだな」
きっと何年たってもこうして変わらぬ気持ちで過ごしていくのだろう、愛莉となら。
ずっと心に描いている未来のカタチ。
思った通りに叶えられてく。
「冬夜君朝だよ」
「愛莉おはよう」
愛莉と朝の挨拶を交わすとベッドからでて顔を洗いに行く。
愛莉もついてくる。
一緒に歯を磨いて、顔を洗って寝癖を直す。
「いつもおもうんだけどさ、冬夜君は髪をセットしようとか思わないの?」
愛莉が朝食を食べながら聞いてきた。
「別に寝癖が無かったらいいかなって。だめ?」
「ううん、ただ結婚式で髪の毛セットするでしょ?冬夜君結構イケてると思うのに勿体ないな~って思っただけ」
「やりかたわかんないからいいよ」
あんまりべたべたしたりするの好きじゃないし。
「なるほどね~」
「冬夜にそう言う話をしても無駄よ。愛莉ちゃん。誰に似たのか知らないけど服でさえ無頓着なんだから」
母さんが言う。
愛莉が来るまでは適当だったしな。
朝食を食べ終わるとコーヒを入れたマグカップを持って部屋に戻る。
そして時間までテレビを見ながらくつろぐ。
今日はクリスマスパーティの日。
ホテルのパーティホールを貸し切って盛り上がるらしい。
晶さんの子会社のホテルだったので貸し切れたらしい。
そこでALICEの初ライブが行われる予定だ。
新しく生まれ変わったALICEを誰よりも早く見れると誠と桐谷君は楽しみにしている。
僕達はデビュー曲「イン・ワンダーランド」のCDをフライングゲットできた。
更には来月発売する新曲のお披露目もあるらしい。
2月にはアルバムを出すんだとか。大学生活も送りながら多忙な日を送っている彼女を支えているのは秋吉君だった。
公私ともに支えとなっているらしい。
渡辺君と江口さんから驚きの事実を聞かされた。
大晦日に年越しでパーティを開くのだがそこに森重清太がくるらしい。
何か事情がありそうだ。
なんとなく想像がつくけど。
僕は覚悟していた。
社会人になってからじゃ遅い。
決着をつけるなら大学生のうちに。
そう決めたから不思議と落ち着いていた。
まあ、年末まで待てばいい。
まずはクリスマスパーティから楽しもう。
クリスマスパーティは皆くるらしい。
楽しみだ。
「冬夜君準備出来たよ~」
愛莉の準備が終わったらしい。
僕達は荷物を持って家を出た。
学校に着くと授業を受けて昼休みに学食に向かう。
弁当を食べていると皆集まってくる。
栗林君達も翔も感じが雰囲気が違う。
イブに何か進展があったんだな。
あえて気づかないふりをしていた。
「今夜楽しみですね。パーティ」
伊織さんが言う。
「俺はアイドルとかあまり興味ないから」と佐(たすく)が言う。
まあ僕もないんだけどね。
ただそれでも今回は見る価値があるという。
そう言われると気にはなる。
ただあまり露骨に興味を示すと愛莉の機嫌を損ねるので表には出さない。
「亜依は大変らしいぜ、瑛大の奴かなりはしゃいでるらしい」
カンナが言う。
「誠はどうなんだ?あいつもファンなんだろ?」
「誠は節度を持ってるよ。まだ気にしてるんじゃないだろうかと不安になるくらいだ」
カンナが言う。
「冬夜相談があるんだがいいか?」
渡辺君が来た。
「相談って?」
渡辺君は隣の席に座って話を始めた。
「衛藤信一郎については話したな?」
「太陽の騎士団の一員だってことだろ?」
その事なら新聞で太陽の騎士団について取りざたされて大変になってるって父さんが言ってたけど?
「ああ、大変らしい。でも市長の座を奪われるわけには行かない。だから連中躍起になってる」
「どういうこと?」
「選挙前のこの時期だ。森重さんは迂闊な行動は取れない。取ったら即スクープだ」
「確かにそうだろうね」
清廉潔白なイメージを崩すと浮動票が離れてしまう。スキャンダルは避けたいだろう。
「それをいいことに奴等妨害が過激になってるらしい。でも森重さんからは手を出せない。江口グループもそうだ」
「その件ならパパも協力するって言ってくれたわ」
「春奈も言ってたっす。地元にも会社を展開してるから協力するって」
晶さんと晴斗が言った。
「なおさらだ、晶さんと白鳥さんの企業もマイナスイメージを起こすような真似はできない。奴らはそれを狙っている」
「そんなこと?簡単だわ。太陽の騎士団とやらがどれだけ地元に影響力があるのか知らないけど。私達には手が出せない」
「そうだ、俺達には手が出せない。そこで俺達の出番てわけだ」
晶さんがいうと渡辺君が言った。
「それって、妨害を妨害しろってこと?」
「かみ砕くとそう言うことになるな」
「その話は年越しパーティの時にしない?」
「なぜだ?」
「その森重清太って政治家が評判通りの人なのか見極めたい。評判通りの人なら力を貸していいけど」
単に力を力でねじ伏せたいって歪んだ思考の人なら手を貸せない。僕達はどの権力どの派閥にも属さない自由の剣であるべきだと説く。
「冬夜の言う通りだな。わかった。恵美さんもそれでいいかい?」
「そうね、見極めは必要かもね。私達に敵はいない。だからこそ私達は簡単に助力はできない。圧力を加えてねじ伏せたところで歪みが発生する」
渡辺君と恵美さんが言う。
「しかしまさか政界にまで介入する羽目になるとはね……」
僕が言った。
「俺はよくわからんので先輩たちに従うっす」
晴斗が言う。
昼休みが終ると授業に戻る。
授業を終えると家に帰る。
荷物を置いてベッドに倒れる。
「ねえ冬夜君?」
愛莉はテレビを見ながらお菓子をつまみジュースを飲んでいる。
「どうした?」
「昼休みはああは言ってたけど本当は手助けしてあげたいんじゃない?」
「まあね。興味はあるね。凄く評判のいい政治家だから」
「だよね、やっぱり応援するべきだよね!」
「どうかな?」
「え?」
「江口グループや志水グループが応援するのは問題ない。もちろん白鳥グループだっておなじだ。でも僕達が介入すべきことなのかはまだわからない」
「敵は太陽の騎士団なんでしょ?だったら、尚の事決着をつけたい。そう思ってるんじゃないの?」
「愛莉。森重清太の凄い所ってどこだと思う」
「え?それは~」
愛莉は悩んでる。それが太陽の騎士団とどう関係があるのか?それを悩んでいるのだろう?
「彼は清廉潔白なんだ。汚れが無い。地元の他の政治家には無い清純なイメージ。そこに渡辺班が介入したらどうなると思う?」
「イメージが崩れる?」
「血なまぐさい側面を拭えない渡辺班が表に出たら彼の清廉潔白なイメージが崩れてしまう。それだけは避けたい」
「確かにそうだね。じゃあ、何もしない方がいいの?」
「渡辺君には忘年会の時に決めると言ってる」
「何を決めるの?」
「森重清太に力を貸すかどうか?」
「でも冬夜君渡辺班は手を出すべきじゃないって言ったよ?」
あまり愛莉を困らせるのは可哀そうかな?
僕は起きてベッドに腰掛けると愛莉に「隣においで」と言った。
愛莉は隣に座ると僕の顔を見る。
愛莉の頭を撫でながら言った。
「彼が噂通りの人物なら僕は力を貸すべきだと思う」
「それってマイナスイメージなるって冬夜君が言ったばかりだよ?」
「僕達のやれることをやるだけだよ」
「それってな~に?」
「それはね、太陽の騎士団の妨害」
今誠や公生、恵美さんに情報を集めてもらってる。高橋グループ、須藤グループの潰れた今、どの企業がスティンガーを動かしているのか?
スティンガーにどこかの企業が肩入れしているのは明白だ。未だに潰れないのだから。
現在の太陽の騎士団の構成を確認する必要もある。そして衛藤信一郎にどれだけの力を貸しているのか?
紅会がつぶれた今、間違い泣く実行部隊はスティンガーだろう。
僕達に出来る事。それは応援じゃなくて裏方に徹して純白な政治家が闇に染まらぬように守る事。
一度汚れを知った政治家はその汚れを拭うことは出来ないから。
「要は森重さんのボディガード?」
「それは江口グループが兵隊を出しているよ。僕達のすることは太陽の騎士団を舞台から引きずり下ろす事。彼等にもう用はない。とっとと退場願おう」
「うぅ……難しくてわかんない」
「向こうの出方も分からないんだしかたないさ」
「そうだね」
「そろそろ時間だ。行こう?」
「うん」
愛莉と家を出るとバス停に向かう。バスに乗ると駅前に向かう。
このままホテルに向かっても時間が早すぎるな。
愛莉と本屋に寄る。
愛莉はホラーはだめだけどサスペンスは好きらしい。
女性ならではの感情なんだろうか?
愛莉はサスペンスの小説を手に取ると旅行雑誌のコーナーに向かい北海道の旅行ガイドの本を一緒に買った。
それをコーヒーショップで紅茶を飲みながら見ている。
「冬夜君は北海道でどこに行きたいの?」
「稚内」
「ほえ?」
「宗谷岬。一度行ってみたかったんだよね」
「なんで?」
「愛莉と一緒に世界の果てまで逃げようって言ったの覚えてる?」
「うん」
「世界の果ては難しいけど日本の果てなら行けるだろ?」
「なるほどね~。他には無いの?」
「愛莉は無いのかい?」
「私は冬夜君と一緒だったらどこでもいいから」
愛莉は本当に欲がないんだな。
「じゃあ、函館行こうか?」
「どうして?」
「夜景が綺麗らしいし、愛莉と思い出になるならどこでもいいのは愛莉と一緒だよ」
「……うん」
愛莉は言われたところが書いてあるページにしるしをつけていく。
僕がカツサンドを食べ終わる頃愛莉は「そろそろ行こっか」と言う。
時計を見る。そろそろ頃合いだな。
僕達はホテルの会場に向かった。
(2)
パーティホールの控室。
コンコン。
誰かがノックする。
「僕だけど」
圭太だ。
「どうぞ」
ドアをあけて圭太が入ってきた。
「準備はできた?」
圭太が聞いてくる。
「いつでも大丈夫よ。圭太こそ大丈夫?初めての仕事よ?」
「実はちょっと緊張してる」
圭太はそう言って笑う。
私は圭太の両手をとって言う。
「いつもどおりでいいの。普段の圭太が私を見てくれるなら、私は安心してALICEとして舞台に立てる。ALICEを演じられる」
だって下村有栖が帰る場所を貴方が用意してくれるのだから。
コンコン
「はい?」
「俺だ、渡辺だけど」
「どうぞ」
渡辺君が入ってくると私を見て驚いていた。
「なるほどな、誠や瑛大が魅了されるわけだ。綺麗だ……」
「ありがとうございます」
「客は全員揃った。定刻に始めてもらって構わない」
「わかりまいた。圭太行こうか?」
「ああ」
ピンマイクとイヤホンをセットした。
控室を出るとスタッフが待っている。
圭太が言う
「新生ALICEの初舞台です。必ず成功させましょう!」
「おう!」
皆とタッチする。
私達はステージに向かう。
舞台袖で舞台に立つ渡辺君を見ていた。
ちらりと圭太を見る。
圭太の表情が硬い。
圭太の手を握る。
「リラックスリラックス」
「ありがとう」
私達は出番のときを待った。
(3)
「ああ、今日は大勢の人に集まっていただき大変感謝している」
「正志なげーぞさっさと始めろ」
すでにジョッキのビールを開けている美嘉さんが言うと笑いがこぼれる。
「それじゃ、今夜は楽しもう。乾杯!」
渡辺君がそう言うと宴の始まり。
僕は料理を取り愛莉に叩かれる。
そして僕の食べる料理を愛莉が勝手に決める。
また取りに来ればいい。
「今回は初の試みだけど出し物を用意している。地元のアイドルALICEの移籍後初のステージだ。皆楽しんでくれ」
渡辺君がそう言ってステージを降りると、照明がくらくなる。
そして舞台に立つ女性をスポットライトが照らす。
赤いウィッグに赤いカラコン、黒いゴシック風の衣装をまとい現れた。
「weicome to Wonderland♪」
音楽が流れだすと始まる彼女の華麗な踊り。
皆の手拍子が始まる。
「歌は神秘、歌は元気、歌は命、歌は愛、歌は希望」
こういう時ってステレオから流れる音声に合わせて口パクするらしいけど、彼女の声をマイクがしっかり拾っていた。
こんなに激しく踊りながら彼女はしっかりと歌い続ける。
誠と桐谷君は振り付けを覚えていたらしくステージ前で一緒に踊っていた。
一曲目が終わると彼女の挨拶が始まった。
「今日はこのような席に招待していただきありがとうございます。短い時間ですが、皆楽しんでいこうね!」
彼女がそう言うと皆は盛り上がる。
そして次の曲に入る。
彼女の振り付け、歌声そして何より活き活きと舞台を舞う彼女の姿に、皆が虜になっていた。
生のライブってこんなにすごいんだ。
僕は食べることも忘れて、魅入っていた。
曲目は全部で4曲。
あっという間に最後の曲になる。
「楽しい時間でしたが次で最後です。わたしの想いを始めて詩にしました。聞いてください『一度だけの恋だから』」
彼女は静かに歌いだすと、曲が流れだす。
最後まで元気に踊る彼女。
そこにかつてのイメージの下村有栖の姿はなくALICEという一人のアイドルがいた。
歌い終わると鳴りやまない拍手が聞こえる。
「みんなりがとう!」
そう言って彼女はステージを降りた。
「やっぱり彼女凄いね。初めて見た時のイメージが全然なかったよ」
「そうだね。見事だった」
食べることを忘れていたよ。
思い出したように食べ物を取りに行く僕。
そんな僕から離れない愛莉。
「愛莉、食べる時くらい自由にさせてよ」
「だ~め!冬夜君すぐに食べ過ぎるんだから!」
だから私が見張っているの!と愛莉は主張する。
「冬夜。今のうちに覚えておくと良い。結婚するって幸せを手に入れることは何かを犠牲にすることなんだ」
誠は語る。
「ほう?お前は何を犠牲にしたんだ?誠」
「げ!神奈!!」
お前はいつになったら学習するんだ?誠。
「誠みたいにはなるなよ、いつも通りでいいんだ!ガツンといってやれガツンと」
「愛莉、このくらいならいいかい?」
「うぅ~ん、どうせまだ料理あるんだからこのくらいにしとこうね」
僕は桐谷君から逃げる。
「おい、俺は結婚の先輩としてお前に助言を!!」
「それはありがたいな。ガツンと言ってくれるのか?聞いててやるぞ瑛大」
「あ、亜依」
2人とも一生ああなんだろうな。
席に着くと、愛莉に聞いてみた。
「愛莉は僕に不満無いの?」
「ほえ?」
「いや、皆何かしら不満抱えてるみたいだから」
「う~ん……」
愛莉は悩んでいる。
「何でもいい?」
「ああ、いいよ」
「もっと構って」
へ?
「最近冬夜君朝素直に起きるようになったでしょ?」
それっていいことじゃないのか?
「冬夜君に甘える時間が朝起こす時くらいしかなかったのにそれも無くなっちゃったから。社会人になたら一人の時間も増えるし」
「じゃあ、もっと寝ててやろうか?」
ちょっと意地悪言ってみた。
「うぅ、またそうやって意地悪言うんだから!寝る前でもいいじゃない」
「ははは、お前たちはいつも仲睦まじいな。うらやましいよ」
渡辺君が下村さんと秋吉君を連れて来た。
「2人が冬夜にお礼を言いたいらしくてな」
渡辺君が言う。
「今夜はありがとうございました。最高のスタートを踏み出せました」
「ありがとうございます、一緒になれたのも片桐先輩のお蔭です。一生大事にするつもりです」
下村さんと秋吉君がそう言って礼を言う。
「礼を言うのはこっちだよ、最高のステージだった」
「そうだよ、ありがとう」
僕が言うと愛莉が言った。
「君達もお腹空いてるだろ?席空いてるから座って食べなよ」
「それじゃお言葉に甘えて、圭太行こ?」
「ああ。」
二人はそう言って食べ物を取りに行った。
戻ってくると食べながら会話をする。
「年越しライブもしてくれるんだって?」
「ええ、今度はアルバムの収録曲も発表するつもりです」
秋吉君が答える。
「そんなに一度に覚えられるものなの?」
僕が聞いてみた。
「大変だけど頑張ります」
彼女ならやってのけるんだろうな。
「冬夜お前たちだけ有栖さんを独占してズルいぞ!」
「そうだズルいズルい!」
誠と桐谷君と如月君が来た。
3人でサインや握手を求める。
彼女はそれに応えていた。
彼女たちと話しているとあっという間に時間は過ぎていく。
渡辺君がステージに立った。
「じゃあ、そろそろ時間だ。2次会に来れるやつは来てくれ。いつものカラオケでいいな」
渡辺君が言うと公生と奈留を除く全員が行くことになった。
公生と奈留と別れる。
去り際に公生が言った。
「片桐君の言われた通り調べたよ。やっぱりスティンガーが実行部隊と見て間違いない」
思った通りか。
「でも規模も勢力も大したことない。ゴーサインが出たらいつでも潰せる。問題はタイミングだね。公示前には済ませたいところだね」
「そうだね、実行部隊の武装とか調べられる?」
「それは僕達よりも恵美さんに頼んだ方が?」
「もう調べてあるわよ。公生が狙われた時から調べてた」
恵美さんが来た。
「でも、まだ動くかどうかも判断してないから言わなかっただけ」
「後で詳しく話を聞くよ」
「わかった。作戦会議ね」
恵美さんはそう言ってにやりと笑う。
「じゃあ、僕はこれで」
公生と奈留は帰っていった。
「作戦会議をしたいところなんだが……」
渡辺君が誠をちらりとみる。
「有栖ちゃんも2次会行くんだよね」
「はい」
「朝まで楽しもう!」
「それはいいんですけど……大丈夫ですか?二人とも」
「大丈夫だとも!渡辺班で行動してる間は皆のALICEちゃんだ」
「誠の言うとおり、皆のALICEちゃんだ!」
また誠と瑛大か。
「肝心のブレインがあれじゃ話にならんなと思ってな」
渡辺君が苦笑している。
「その心配なら必要ないよ」
僕はそう言うと二人を見る。
渡辺君も二人を見ていた。
「すいません、ステージから降りてる時は下村有栖として行動したいんで」
秋吉君が言ってる。
「そんなの関係ない、殺気立った女性陣に舞い降りた天使だ。皆で大切にしよう」
「そ、そう言う事ならしょうがないな。まあ二人で楽しんでくれ」
誠は感づいたようだ。勘は鋭くなったようだな。
「なんだよ誠の奴!最近ノリが悪いぜ!そんなに嫁さんが怖いのかよ!」
言うまでもないが皆は既に桐谷君から離れている。
絡まれている下村さんとそれを庇う秋吉君だけがいる。
そして巨大な殺気は桐谷君の後ろに立った。
「下村さんは今はオフの状態だ。そんな彼女と奥さんどっちを選ぶつもりだ瑛大は」
「そんなの有栖ちゃんに決まってるだろ!取り換えっこして欲しいくらいだぜ。どうだ?秋吉君うちの嫁と交換しないか?」
秋吉君は気づいている。だから作り笑いをするだけで何も言わない。
「そう言う事は奥さんの前で言わない方が……」
下村さんはやんわりと桐谷君に警告する。
「そんなの関係ない!俺はいつでも自分に正直に生きていく!たとえ嫁の前でも……て、え?」
桐谷君は後ろを振り返る。
「自分に正直か、いいよ。お前の本音聞かせてもらおうじゃないか?」
「亜依……いや、アイドルと嫁は別だろ?」
桐谷君に反省という言葉はないのだろうか……?
(4)
リクエストを受けて歌う下村さんとそれを見守る秋吉君。
手拍子をする男性陣。
そんな男性陣を呆れて見ている女性陣。
「神奈!渡辺班の歌姫の意地みせてやんないと」
「分かってる!」
美嘉さんとカンナが対抗意識を燃やしている。
「私も歌いたいな~」
「ちょっと端末借りて来るよ」
北村さんはカラオケ好きのようだ。
歌っていて楽しいんだろう?
桐谷君は亜依さんにみっちり叱られてる。
この光景も見慣れた。
僕と誠と渡辺君、石原夫妻、酒井夫妻、愛莉は一角に集まっていた。
「誠、スティンガーの実情は?」
「紅会と合体したって感じだな、もはや大学のサークルって規模じゃない。実質闇組織だ」
「そうね、どういう経路で入手したのか分からないけど銃火器も大量に所持してる」
誠が言うと恵美さんが言う。
恵美さんが言うセリフじゃないと思うんだけど……。
「私?簡単よ。親戚が貿易会社経営していてそのルートを使って……」
そう言う事言っちゃダメ!
「私は違うわよ。警備会社のグループを経営していて世界中に人材派遣していて……」
晶さんもさらりと過激な事言うなあ。
でも世界の警備会社ならありなのかも。日本に持ち込むのはセーフなのかどうかは別問題だけど。
「で、どうする?ドンパチするなら冬休みの間に片づけたいけど」
恵美さんが言う。年末年始の年賀状配りみたいに言うなあ。
「久しぶりいわくわくするわね。いつやるの?」
晶さんが言う。まだやるって決めたわけじゃないから。
「冬夜としては忘年会で森重さんと会ってからといったところか?」
渡辺君が言うと、僕がうなずいた。
「渡辺班……ユニティは地元最強のカードだ。でも今回の件だと諸刃の剣になってしまう可能性がある」
封印しておくに越したことは無い。
「どういう意味?」
「もし、森重さんが噂通りじゃないなら論外だ。勝手にやらせておく」
僕が言うと皆が頷いた
「そして問題は噂通りの人物だった場合だ。今回は叩きのめすじゃだめなんだ」
「どうして?」
恵美さんが聞いた。
「僕達が表に立った時の代償がでかい。そうですね?」
石原君が言うと、僕はうなずいた。
「もし僕達が彼等より先に手を出したらクリーンなイメージを崩してしまう。それは森重さんにとっても致命傷になりかねない。後出しでもだめだ、繋がりを気づかれたらそれで終わる」
「じゃあ、私達に出来ることは無いって事?」
「固定票が上回っていたら問題ないけどね」
さすがに江口グループと志水グループだけじゃまだ足りない。
「じゃあ、俺達はどうするんだ?」
「まずは衛藤信一郎と太陽の騎士団の繋がりを暴露する事。その際に渡辺班の足跡を残したらいけない」
太陽の騎士団については地元民なら誰もが知っているだろう。あれだけテレビで騒がれたのだから。ただ……。
「それだけじゃ、相手の力を削ぐことが出来ない」
真相を暴いたところで固定票が削れる事はないだろうから。
政治の難しい所だ。悪評が少しでもついたらそれだけで森重さんの政治生命は終わりだ。
「う~んでもこのまま戦っても難しいんでしょ?」
愛莉が言う。
「冬夜の言っていた太陽の騎士団についてだが、地元新聞と地元銀行は手を引いた。息のかかった役員に責任を取らせて辞任させたらしい」
誠が言う。
だがよそ者を受け付けない県民の気質もある。簡単に鞍替えはしないだろう。
「今回は俺達は手を出さない方がかいいかもな」
渡辺君はそう結論付ける。
「そうとも限らない」
僕が言う。
「何か力になれる時がくるかもしれない。その時に手を貸すかどうかは忘年会の時に決めるよ。それに手助けする方法も考えとくよ」
「力になれる時が来ないのが一番ですけどね」
酒井君が言う。
「そうだね」
「まずは会ってみないと話にならない!そう言う事で皆いいか」
渡辺君が言うと皆うなずいた。
「じゃあ、私と誠君で情報を集めるだけ集めておくわ。手札は多い方がいいんでしょ?デッキの構築だっけ?」
恵美さんが言うと僕がうなずいた。
「こうなったらとーやに採点してもらおうぜ!」
美嘉さんが僕を呼んでる。どうした?
「とーや!神奈と有栖どっちの方が上だと思う!?」
は?
「何の話?」
「だあ、話に夢中で見てなかったのかよ!仕切り直しだ!」
美嘉さんが言うと二人は同じ歌を交互に歌った。
点数は神奈の方が上だった。
だけど男性陣の票数は下村さんの方が多いという。
「お前なら見た目に誤魔化されないだろ!どっちが上か白黒つけてやれ!」
無茶ぶりも良い所だろ!?
「美嘉、それはプロとアマの差もあるんだし比べるのは失礼だろ」
渡辺君が言う。
「冬夜!まさかお前が有栖を選ぶわけ無いよな」
カンナがそう言って迫ってくる。誠がいるんだぞ……それに……。
「神奈!人の旦那様に手をつけないで!誠君だっているんだよ」
「愛莉、私は冬夜にどっちが上かを聞いてるだけだ」
「そうだ、愛莉も混ぜようぜ!」
美嘉さんがとんでもないことを言い出した。
こりゃ早く結論付けないとだめだな。
「私は、神奈さんも素質あると思いますよ、何より綺麗だし」
下村さんが言う。
「私は冬夜に聞いてるんだ。なあ冬夜……早く決めろよ決めないと……」
カンナの顔が近づいてくる。
愛莉が間に手を入れる。
「神奈それだけは絶対にダメ!」
愛莉が叫ぶ。
森重さんの問題より難しい問題だな。
まてよ、そんなに難しい問題か?単にカンナと美嘉さんが酔ってるだけじゃないか?
「カンナじゃないかな?」
カンナが抱きついてきた。
「トーヤならそう言うと思ってくれてたよ」
「冬夜!お前何人の嫁に手を出してるんだよ!」
誠が立ち上がる!
僕のせいなのか!?
「神奈!冬夜君から離れなさい!」
「いいじゃないか?なあ、トーヤ、中学の時にキスまでした仲だしな」
「うぅ……」
愛莉が僕を睨んでる。
事態はさらにややこしくなったようだ。
「分かったからカンナ取りあえず離れよう!」
「やっぱり愛莉の方がいいのか……そうだよな」
勝手に落ち込むカンナ。
「神奈には俺がいるだろ?」
誠が言う。
「どうして私はいつも外れくじばかりなんだ」
「神奈、その一言はさすがに傷つくぞ」
いじけるカンナを励ます誠。
「神奈はまだいいよ、私なんて瑛大だよ」
「ぼ、僕だって亜依が一番だよ!」
桐谷夫妻が言う。
「亜依、同じ貧乏くじを引いたもの同士飲もうぜ!」
「神奈、そうこなくちゃね!徹底的に飲もう!」
「何かよく分からないけど私も混ぜろ!」
「私も混ぜてください!私も隆司君に言いたい事ある!」
女性同士で盛り上がり始める。
男性陣はやれやれと見ていた。
「いつもこうなんですか?」
下村さんがやってきた。
「まあ、お酒が入るとこうなるね大体」
「楽しそうでいいな~」
「下村さんもそのうち慣れるよ」
「がんばります」
困るのは秋吉君だ。流れに任せよう。
「そうだ言うの忘れてた」
深雪さんが言った。
「下村美羽さんだけど冬休みの間でもいいから入院しなさい。手術してあげるわ」
「え、でも。治療費が……」
「それなら問題ない。USEが肩代わりしてくれるそうだから」
深雪さんがそう言うと恵美さんが言った。
「これからのあなたの稼ぐお金を考えたらはしたものよ」
「ありがとうございます」
下村さんは深々と頭を下げる。
こっちは一件落着か。
一方で一向に収まる気配のない、女性陣の騒動。
男性陣も収拾を諦めたようだ。
女性陣の愚痴を朝まで聞く羽目になった。
(5)
朝になると皆解散した。
僕達もバスに乗って帰る。
家に帰って部屋に入ると部屋着に着替えて風呂に行く。
シャワーを浴びて部屋に戻ると愛莉が悩んでいる。
愛莉の周りには僕が脱ぎ散らかした衣服が。
怒ってる?
「ああ、ごめん。今すぐ片付けるよ。洗濯機に入れとけばいいかな?」
愛莉は首を振る。
「あ、ごめん!洗濯は自分でするよ。愛莉にばっか家事させたら悪いよね!」
それでも愛莉は首を振る。
愛莉の前に座ると愛莉の顔をのぞいてみた。
「どうしたの?」
「うぅ……」
どうしたんだろう?しばらく様子を見てると愛莉は話し出した。
「脱ぎ散らかす冬夜君を叱るべきなのか、しょうがないな~と自分で片づけるべきなのか悩んでたの」
「そんなの叱ってくれていいよ。これから二人だけで暮らすんだし、そのくらい気配りできない僕が悪い」
「そうだよ。冬夜君と二人で暮らすんだよ。冬夜君はお勤めだけど私は専業主婦だよ?そのくらいしてあげるべきなんじゃないかって……」
「……愛莉は僕に構って欲しいっていってたよね」
「うん」
「そうやって叱るのも愛莉にとってはストレス発散になって僕とのスキンシップも取れて良いんじゃないか?」
「口うるさいお嫁さんて思わない?」
「思うわけないだろ」
「そっか。でも私もシャワー浴びたいしついでに持って行くね」
愛莉はそう言って部屋を出ていった。
僕はため息を吐くと床に寝転がる。
今年もあとわずかで終わる。
今年一年を振り返る。
バスケットボールはちゃんと望み通りに終止符を打てた。
もうすぐ学生と言う身分も卒業する。
これから待ち受けるのは社会という試練。
そして愛莉と共同生活と言うゴールのない迷路。
期待と不安を胸に僕達は手探りで先を進む。
愛莉が戻って来た。
「そんなところで寝てたら風邪引くよ。ちゃんとベッドで寝なさい」
愛莉がそう言って微笑む。
僕は起き上がるとベッドに入る。
愛莉もベッドに入ると僕に抱き着く。
「あんなところで寝転がってなにしてたの?」
「先の事を考えてた」
「ほえ?」
「愛莉と何年たってもこうして生きていくんだろうなって」
「そうだね、子供が増えるくらいだね、変わるとしたら」
「そうだな」
きっと何年たってもこうして変わらぬ気持ちで過ごしていくのだろう、愛莉となら。
ずっと心に描いている未来のカタチ。
思った通りに叶えられてく。
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「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
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