優等生と劣等生

和希

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LASTSEASON

本当の声をあなたに預けたくて

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(1)

皆で慌ただしく朝食の支度をしてる。
大勢の女性が広い厨房を駆けまわっている。
そして朝食が出来上がる頃、私は道場に向かう。
道場では今日も新人が新條さんの洗礼を浴びている。

「ご飯できたよ」

その一言で脱兎のごとく食堂へ向かう男性陣。
冬夜さんはそうでもない、一人残って私の肩を叩いてくださる。

「おはよう、愛莉。お疲れ様」
「ありがとうございます。おはようございます。ささ、朝食に行きましょう?」
「ああ」

朝から優しくしてくれる旦那様。
特別にご飯を大盛りによそってあげる。

「ありがとう」

そう言ってテーブルに着く。
冬夜さんは生卵があるとすぐにご飯にかけて食べたがる困った人。
そしておかわりという。

「ちゃんとおかずと交互に食べてくださいな」
「2杯目からそうするよ」

ほんとうにしかたないんだから。
朝食を済ませると、女性陣は食器の片付け。
男性陣は皆部屋で待機してるのに冬夜さんはひとり食堂に残って私を待っていて下さる。
そんな冬夜さんと楽しく会話をしながら片付ける。

「冬夜さんは今日の湯布院観光何かご予定は?」
「愛莉の行きたいところに合わせるよ。愛莉行きたいところないの?」
「う~ん、そうですねえ」

大体の場所は網羅したし。

「……ショッピングでもしながら観光しようか?」
「はい!」
「最近、愛莉とデートしてなかったしね」
「デートなら毎週してくださってますよ?」
「ちゃんとしたデートは久しぶりだろ?」
「そうですね」

嬉しいな。

「朝からお熱いことだな?」

神奈が言った。

「お前ら毎日そうなのか?」

美嘉さんが聞いていた。

「そうだよ~」
「同棲ってそういうもんじゃないのか?」

冬夜さんが言った。
冬夜さんは多分真面目に聞いてるんだろう。

「他の男共を見てから言いなよ。さっさと部屋に戻ってしまってるよ」

亜依が言う。

「……ひょっとして邪魔?」
「そんなことありませんよ」

冬夜さんは違った方向に捕らえたようだ。

「羨ましいって言ったろ?お前らが理想なんだよ」

神奈が言う。

「片桐君は家でもそうなの?」

亜依が聞く。

「休日の日はだいたいそうかな?」
「平日は朝早くて構ってやれないから。家事もさせてもらえないし、せめて話し相手になってやろうと思って」

私と冬夜さんが言うと、皆が感心する。

「本当に仲がいいんだね」

亜依が言う。

「仲良くなかったら同棲なんてしないだろ?結婚だってそうなんじゃないの?」
「同棲すると急に変わる男が大半なの」

冬夜さんが聞くと亜依が答える。

「冬夜さん、そろそろ片付け終わるから皆を呼びに行ってくださいな。テーブルマナーの講座ありますから」
「わかった」

冬夜さんは皆を呼びに行った。
そんな冬夜さんを皆が見送っている。

「亭主としても片桐君は完ぺきなわけ!」

亜依が叫ぶ。

「悔しいけど愛莉ちゃんが羨ましいわ」

恵美が言う。

「やっぱりあの時強引な手段使ってでもトーヤを落とすべきだったか」
「私も冬夜君を諦めずに追いかけるべきだったかも……」

神奈と咲が言う。

「それは違うと思うわよ」

深雪さんが言う。

「遠坂さんと片桐君だから辿り着いた世界なんだから。他の人とつきあってたからって同じ境地に立てるとは限らない」
「逆もあるわね。神奈さんと多田君だからこそ辿り着ける世界があるかもしれないってこと」

深雪さんが言うと聡美さんが言った。

「結局はお互いの努力なのよ。そう仕向けるのも女性の手腕ってわけ」

聡美さんが言った。

「恵美さんだっけ?『男の躾が大事』って言ってたの。間違ってはいないわ、ただ彼等はまだ何もわからないの。手探りで必死になって考えてる。優しさが大事なの」

まあ、あなた達も手探りなんでしょうけど、お互いを思いやる気持ちが大事。と聡美さんは言う。
やっぱり聡美さんと深雪さんは凄い。

「思いやりが大事……か」

神奈が言う。

「深雪さん達も最初はそうだったのですか?」

私が聞いてみた。

「伊達に年は取ってないわよ、啓介とも長いし」と深雪さん。
「私もこう見えてバツイチだから、最初は皆と一緒だった」と聡美さん。

こんな風にかっこよくなりたいな。
男性陣が降りて来た。
私達はテーブルマナー講座を受けて合宿最後の行事、実践に臨んだ。

(2)

愛莉と湯布院に来たのは何度目だろう?
でも今回はいつもと違う。
同棲を始めて初めての湯布院デート。
愛莉は変わった。
僕のトリセツも一から作り直さなければならない。
今回は僕達二人だけで行動していた。
愛莉の希望だった。
誠や桐谷君も同じ考えだったらしい。
愛莉と二人で、湯の坪街道を散策する。
猫の店やオルゴールの店、ガラス細工の店の他にも調味料を見て回ったり民芸の店を見て回る。
愛莉は楽しそうだ。
僕は腕を組んで歩くだけ。後は愛莉が楽しそうに話しかけてくるのにあわせて話をあわせてやるだけ。
それだけで愛莉は喜ぶ。
あまり駄々をこねない。
ただ一緒に店を回るだけで愛莉は喜ぶ。
最後にカフェで愛莉と休憩する。
金鱗湖が見れるテラスの席に座ると注文をする。

「今日はありがとうございます。とても楽しかったです」

愛莉は本当にうれしそうだ。

「愛莉が楽しそうでよかったよ、普段どこにも連れて行ってやれなくてごめんな」

週1くらいでドライブや映画に連れて行ってやるべきか?

「そうですね~じゃあ、今度夏に連休有りますよね?その時にどこかへ旅行にいきませんか?」
「行きたいところはあるの?」
「冬夜さんにお任せします。冬夜さんはどこか行きたいところありませんか?」
「どこでもいい?」
「ええ」
「じゃあ、鳥取砂丘」
「え?」

愛莉の表情が陰る。

「どうした?」
「あの、私まだ至らないところありましたか?冬夜さん仕事で思いつめてる事があるとか?」

なんでそうなるんだ?

「だって、冬夜さん、富士の樹海とか砂丘に行きたいとか不安な事ばかり仰るので」

僕は笑った。

「そうだね、東尋坊とかもいってみたいかな?」
「冬夜さん……」

愛莉の顔は不安な表情を浮かべていた。

「ただ観光で行きたいなって思っただけ。なんも他意はないよ。日本に砂丘がある。それだけで見てみたいとおもうじゃないか」
「悩みがあったら仰ってくださいね。私じゃお役にたてないかもしれないけど」
「心配しなくても愛莉を残してい逝くなんて真似できないよ。ごめんねちょっと悪戯が過ぎたかな?」
「よかったです」

愛莉の表情は安堵の色を浮かべている。

「愛莉は行きたいところないの?」
「そうですね、行きたいところは学生時代に連れて行ってくれたから」
「そっか」
「後は時期の問題でしょうか?例えば冬に竹宵を見に行きたいとか」
「なるほどね」

地元でもまだ見てないものあったか。

「あとは冬夜さんと温泉に行きたいです。冬夜さんもお疲れでしょうから」
「ありがと」
「いえ……」
「そういえば最近冬夜さんご自分でお気づきですか?」
「何を?」
「あまり暴飲暴食されなくなったのですが?」

ああ。

「昨夜とかもそうだけど、飲み会に行くと愛莉が食べ物をとってくれるだろ?それだけにしようって決めてるだけだよ」

大事なお嫁さんを困らせることしたくないから。と愛莉に伝える。

「お互い変わったんですね。大人になれたのでしょうか?」

手がかからなくなったと愛莉は言う。それが寂しいとも言ってるけど。

「最後の二日は愛莉に思いっきり甘えるよ」
「はい、私にも甘えさせてくださいね」
「わかってる」

その後しばらく話をしていると「冬夜」と声をかけられた。渡辺夫妻だ。2人は僕達の席に座る。

「おつかれ、流石にもう飽きて来ただろうが楽しんだか?」

渡辺君が聞いてきた。

「大丈夫、毎年楽しんでるよ」
「ならいいんだけどな。美嘉はさすがに飽きて来たらしい」

渡辺君がそう言って笑う。

「しょーがねーだろ、毎年店が変わるわけでも無いし!買い物もかわらねーし」

確かにそれはあるかもしれない。

「冬夜達は残りの休日どうするつもりなんだ?」

渡辺君が聞いた。

「愛莉と家でのんびり過ごすよ」
「まあそれが一番だな」

渡辺君が笑う。
そのあと渡辺夫妻と談笑して集合場所に5分前に着く。
晴斗達が待っていた。

「先輩たちお疲れさまっス」

晴斗が言う。

「晴斗達は楽しかったかい?」
「めちゃ楽しかったっす。春奈にも喜んでもらえたし」

確かに白鳥さんは楽しんでるようだ。
晴斗と白鳥さんの話を聞きながら僕達は皆を待っていた。

(3)

「あれ?祥子じゃん!」

今一番会いたくない相手と会ってしまた。

「久しぶり。芳樹」
「隣にいる男誰?お前の新しい男?」

鳥嶋芳樹。私の初恋の相手。私の初めての相手。そして……。

「祥子、知り合い?」

永遠が聞いてきた。

「鳥嶋芳樹、私が昔付き合ってた男」
「ああ……」

永遠は事情を察したようだ。黙って様子を見ている。

「へえ、お前にも男出来たんだ。相変わらず束縛してるのか?何人目の男?」

一々癇に障るやつ。

「芳樹~この女誰?」
「元カノ、桜木祥子。元カノって言っても直ぐ別れたんだけどな」
「へえ……」

芳樹の隣にいる彼女は私を見ている。

「あんたが好きそうなチャラそうな女だね。どうせやり目だったんだろ?」
「まあな、もっと遊ばせてくれると思ったんだけど見た目と違ってめんどくさい女でさ……」

めんどくさい女。
永遠の前で言うな。
だけど私は何も言えない。こんな奴の事忘れてしまいたいのに。
永遠はだまって私達の会話を聞いている。
しかし話は永遠にむかった。

「で、お前名前なんて言うの?」
「梅本永遠」
「梅本ね……祥子とはもうやったの?」
「まだだけど?」
「なんだよ、祥子そっち系に走っちゃったの?随分お利口さんになったんだな。何かしらけるわ。梅本君ももっと押していけよ。ちょっと押せば簡単にやらせてくれるぜ」

永遠は黙って聞いている。そして笑いだした。

「なに?急にどうしちゃったの?」
「いや、おかしくてさ。祥子こんな男の為に楽しい事から目をそらしていたんだなって」
「どういう意味?」

芳樹の表情が険しくなる。

「どうせあんたやった女の人数自慢して満足してる程度の男なんだろ?あんた程度の男に股開く尻軽女相手にして」
「なに?喧嘩売ってんの?」
「ちょっと尻軽女って……こいつムカつく。芳樹やっちゃいなよ」
「喧嘩売って欲しいなら喜んで売るよ。あんた程度の奴に祥子が一生物の傷おったって思うと俺もイラっときちゃったんだよね」
「ちょっと永遠やめろ!」

私は永遠を押さえる。

「もう行けよ芳樹。あんたはあんたでお気に入りの子見つけたんだろ?私達にはもう関わるな」
「祥子も相変わらずだな、どうせ永遠ってのもつまんねー男なんだろ?しょうもない事で何ムキになってんのさ?」
「つまんねー男はお前だろ?」

永遠は一言言った。

「女とやれば満足。後は知らない?違うね。その後の事がに責任もてなくて逃げてるだけの臆病者だ。精々下半身の緩いもの同士で楽しんでなよ」
「なんだと!?」

芳樹が怒声を上げる。

「何ムキになってんの?図星だった?マジウケる。まあいいんじゃない?あんたの自己満足で楽しんでるなら。行こうぜ祥子」

永遠は私の手を取って立ち去ろうとする。

「逃げるのかよ、ダサっ!」
「相手にしてるのも馬鹿馬鹿しいだけだよ。ついでに忠告してやる。多分その女も食った男の数自慢してる次元の低いただの売女だ」
「永遠、もういいから!」
「分かってる。祥子行こうか?」

そう言って私達は立ち去った。
その後永遠は色んな店に案内してくれた。
私の気を紛らわすかのように。

つまらない女。

永遠も同じように思ってるんだろうか?
永遠との初めてのデートは初恋の相手との遭遇で最悪の気分で迎えてしまった。
最後にカフェによる。
永遠も私の気分を察してるのだろうか?
それとも未だにイラついてるだけ?
何も言ってくれない。

「折角のデートがしらけたね」

永遠はそう言った。

「ごめん……」
「祥子が謝ることじゃないよ」

どうしてこうなるんだろう?
また同じことを繰り返すのか?
過去は擬えるという。
擬えるか……永遠は優しくしてくれるんだろうか?

「永遠、今夜空いてるか?明日は暇か?」
「まあ、予定は入れてないけどなんで?」
「良かったら今晩……」

私に最後の想い出を下さい。

「いやだね」

彼は一言そう言った。

「私に幻滅した?」
「祥子俺の事馬鹿にしてない?」

え?

「女が誘えばほいほいと誘いにのるさっきの馬鹿な男といっしょにしてね?」
「そう言うつもりで言ったんじゃない」
「同じだよ、どうせ俺と最後の一夜を過ごそうとか思ってるんでしょ?俺がやり捨てするような男と思ってるんでしょ?」
「ごめん」

でもこんなつらい思いは嫌だ。

「祥子の本音を聞きたい。祥子の本当の声を聞きたい」

私の本音?

「祥子に必要なのは行きずりの恋なんかじゃない。恋する事の楽しみを覚えることだ。あんな奴の事なんか俺が忘れさせてやるから」

過去対未来の戦いで必要な物は確固たる自信と愛と絆。
迷いは置いて来て。覚悟はできた?

「祥子の事は俺が守る。誓うよ」

永遠の言葉で世の総に本当の色がついていく。
少し孤独に怯えていた。
満身創痍でも煌めく暗黒郷。
覚えた全てを忘れても構わない。
手にしたもの捨てても確かめたいその覚悟。
未来の私を永遠が救ってくれると言った。
もう迷わない。
本当の声で永遠に混ざりたくて。

「私の事守ってくれるって言ったよね?」
「ああ、最後まで守るよ」
「それじゃだめだ」
「え?」
「ずっと守ってくれ」

お前の名前が示すように。

「やっぱり今晩一緒に過ごしてくれないか?」
「……いいの?」
「過去に向き合う覚悟はできた」

永遠が固めてくれた。

「わかった。いいよ」

永遠は笑ってくれる。
本当の声をあなたに預けたいから。
ちゃんと聞いてくれ。

(4)

「ちょっとまってよ、秋空」
「あ、ごめん!」

連休ということもあって混んでいる。
移動も大変だ。

「これだとすぐにはぐれちゃうね」

秋空は悩んでいる。
どうせしょうがない事を悩んでいるのだろう。
慣れていないんだからしょうがないか。私も慣れてないけど。
でも興味があることはあった。
どんな気分になるんだろう?
だから行動に移した。
彼の腕を掴む。

「つばめ!?」
「これならはぐれないでしょ?」

そうして私達は色んな店を回った。
コロッケを買い食いしたリ。ソフトクリームを食べたり。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、集合時間になった。
集合場所に着くと何名かは既に集まっていた。
集合場所で深雪先輩と話をしていた。

「初めてのデートはどうだった?」

深雪先輩が聞いてきた。

「えーと……」
「楽しかったです」

躊躇う秋空に変わって私が答えた。

「それならよかったわ」

深雪先輩はそう言って笑う。
秋空は何か悩んでるようだ。

「どうしたの?」
「つばめはやっぱりデートとかしたい?」
「……彼氏とデートしたくない彼女の方が珍しいと思うけど?」
「そうだよね……」

秋空の悩みはそんなこと?
私は笑っていた。

「言ったでしょ。毎日秋空とデートしてるって。秋空と勉強してると捗るよ?」
「そんなことでいいの?」
「そんなことがいいの!」

あなたといるだけでセピア色の世界に色がつくから。

「帰ったらまた勉強だね」
「そうだね」

同じ空間で同じ時を刻んで行こう。
私達の時計合わせはすでにすんでいるのだから。

(5)

忘れていた世界。
雑多な町並みを歩いていく。
色んな雑貨や食べ物を衣服を見ては彼とはしゃぐ。
私が秋吉有栖としていられる時間。
姓を秋吉に変えて数週間。
ブログやSNSが炎上した。
ファンも減った。
それでも熱心に公演に通うファンはいた。
明日からまた公演とレッスンの日々が始まる。
ALICEという人間は今はいない。
人混みに紛れた一般人に過ぎない。
騒がしい中に私たちの平穏は約束されていた。

「お疲れ様でした」

圭太がそう言う。

「圭太こそお疲れ」

私達は今カフェにいる。
ジュースを飲みながら一息ついてる。
圭太はお疲れのようだ。
色々引っ張りまわし過ぎたかな?
でも楽しかったよ。ありがとう。

「でも私は楽しかった。圭太は?」
「楽しかったですよ」

作り笑いの下手な彼。
そんな顔を見て私は笑う。

「また来ようね」
「そうですね」

孤独に怯えていた。
満身創痍でも煌めく暗黒郷。
心と喉を同時に震わせて伸ばした手はブレない夢をつかんだ。

「圭太は行きたいところとかないの?」
「そう言う事考えたことないんで、有栖は?」

行きたいところか。

「そうね、遊園地とか街ブラデートには興味あるわ」
「なるほど……考えておきます」
「よろしくね」
「また明日から忙しくなりますね」
「そうね」

また忙しい日常が始まる。
けど今はそれも悪くない。
今はいつも圭太がそばにいてくれる。

「そろそろ時間ですね。行きましょうか?」
「ええ。行きましょう」

私達は手を取ると集合場所へ向かった。

(6)

「ああ、皆3日間お疲れさまだった」

全員揃うと渡辺君が言う。

「まだ1年が始まったばかりだ。色々やるからまた皆で遊ぼう、これで解散だけど時間のあるやつは帰りに地元のファミレスに集まって夕食食べて帰ろう。じゃ、お疲れ様。解散」

渡辺君が言うとみんなそれぞれ車に乗り込む。
そして皆帰りに着いた。
途中渡辺君の指定したファミレスに寄る。
僕のテーブルには愛莉、渡辺夫妻、多田夫妻、桐谷夫妻がいた。
いつもと同じ顔ぶれ。
いつもと同じ注文をとる。

「しかし今回も波乱の三日間だったな」

渡辺君が言う。
確かに波乱の三日間だった。
原因はもう言うまでもない。

「その事なんだが冬夜帰ったら相談してもいいか?」

誠が言う。
そう言う事はこの場で言ったら意味が無いだろ。

「……誠、僕への相談ならこの場でしてくれ。愛莉に隠し事はできない」
「そうだよ誠君。言いたい事があるなら堂々と言う。合宿中に言われたでしょ」

愛莉が言う。

「……神奈の奴が変なんだ」

誠が言うと桐谷君も言い出した。

「誠もか俺も亜依が昨夜から妙でさ……」
「変ってどう変なんだ?」

2人に聞いてみた。

「昨夜もやらかしたろ?絶対怒鳴られると思ったんだけどにこにこしててさ……」
「俺も、やっちまった!と思ったんだけど怒らないから不思議でしょうがなくて」

誠と桐谷君が言う。
愛莉は事情を知っているようだ。

「愛莉は理由しってるの?」
「昨夜お話したでしょ?女同士の秘密です」

やっぱり風呂場で何かあったらしい。

「そうだな、女同士の秘密ってやつだな」
「そうだね、女同士の秘密だね」

カンナと亜依さんが言う。
そういや奈留の様子も変だったな。
カンナと亜依さんをじっと見る。
二人の心は優しさで溢れている。
愛莉昨日言ってたな「私達が理想の夫婦像」だと。
あ、そう言う事か?
押して駄目なら引いてみろ。
誠と桐谷君はそれで戸惑っているらしい。
なんとなく分かった。
それで戸惑っている誠達を見て笑ってしまった。

「冬夜さん、言ったら駄目ですよ。秘密なんですから」
「分かってるよ愛莉」
「ちょっとなんで冬夜だけ理解してるんだよ教えろよ!」
「そうだぞ!男同士隠し事は無しだぜ冬夜」

誠と桐谷君が言う。

「トーヤ!絶対言うな!」
「片桐君言ったらわかってるでしょうね!」
「とーや!正志にも言うなよ!」

カンナと亜依さんと美嘉さんが言う。
どうやら文字通り「女性だけの秘密」らしい。

「ごめん、言えない。ただ言えるのは『彼女の気持ちになって』かな?」

自分の事を彼女がどう思っているのか考えてみたらいい。
彼女の気持ちになってみればいい。

きっと彼女の本音は本当の声で相手に混ざりたくて。
その声に命が宿って煌めく理想郷。
心と喉が同時に震えるなら瞬く間に輝く未来へ導いてくれる。

「誠も桐谷君も旦那さんなら奥さんの声に耳を傾けてあげなよ。少なくとも奥さんは旦那さんの声を受け止めてくれてるよ」

そして、思ってるんだ。本当の心をあなたに預けたいと。
頭を捻る誠と桐谷君。
そんな二人を温かい目で見守っているカンナと亜依さん。
僕はそんな4人を羨ましく思いながら食事をしていた。
夕食を終えると、僕達は解散して家に帰る。
家に帰ると荷物を片付ける。

「冬夜さんは本当に片付けるのがだめですね」

バッグの中に入ったくしゃくしゃになった着換えを見て行った。

「ご、ごめん、そんなに着替え多くなかったからバッグも大きめなの持って行ったし」
「せめて、濡れたタオルくらいビニール袋に入れるくらいはしてくださいな」
「わかったよ」
「手のかかる旦那様ですね」

愛莉はそう言って。洗濯機にまとめて持って行った。
その間にお風呂に入ると寝室のテレビを見てくつろぐ。
愛莉もお風呂を済ませて、お酒を持ってきた。

「で、どこまでわかったんですか?私達の事」
「え?」
「とぼけたって駄目ですよ。覗いたんでしょ?神奈と亜依の心」
「まあね、凄く優しくなってた」
「それだけでお分かりになるんですか?」
「愛莉のヒントがあったからね?愛莉言ったろ『私達が理想の夫婦像』って」
「なるほど、でもそれでしたらもっと簡単な方法があったでしょうに」

簡単な方法?

「私の心は覗いて下さらないのですか?」

ああ、なるほどね。

「では今覗いてくださいな」

愛莉は目を閉じて言う。
覗くまでも無いよ、愛莉。

「約束だったよな」
「え?」

テレビを消すと照明を落とし愛莉を抱きかかえベッドに横にさせる。

「覚えててくださったんですね」
「もちろん」

本当の声をあなたに預けたいからという愛莉のメッセージは確かに届いた。
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