優等生と劣等生

和希

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LASTSEASON

畏れ

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(1)

ピピピピ……
スマホのアラームが鳴る。
アラームを止めると隣を見る。
既に愛莉はいない。
キッチンに行くと愛莉が朝ごはんの仕度をしていた。

「おはよう愛莉」

愛莉に声をかけると愛莉は驚いている。

「おはようございます。どうされたんですか?まだ7時前ですよ?」

今日は休日なのにと愛莉は言う。
ダイニングのいつもの席に座るとカウンター越しに愛莉に話しかけた。

「休みの日だからだよ。愛莉僕をずっと寝せてるつもりだったろ?自分は家事をして」
「すいません……少しでも冬夜さんを休ませてあげたくて」
「だったら愛莉も休まなくちゃ。言ったろ?僕をダメな亭主にしないでって」
「もうしわけありません」
「いや、愛莉の気持ちはありがたく受け取っておくよ。それよりご飯食べよ?」
「はい」

そうしてご飯を食べると愛莉は片づけをする。
片付けが済むと掃除機をかけ始める。
その間洗濯機が回っている。
乾燥が済むと愛莉はアイロンがけをする。
僕も寝室に移動する。
今日明日は家でのんびりするって言ってたな。
どうやって愛莉を休ませてやればいいものか……。
丁寧に作業をする愛莉を見ながらその事を考えていた。
僕の視線に気づいた愛莉が話しかけてきた。

「どうかされましたか?」
「どうしたら愛莉を休ませてあげられるだろう?って」
「これが終わったらゆっくりしますよ?」
「本当にゆっくりできる?」
「そうですね、あとはお昼ご飯の仕度と片づけとお風呂の掃除と夕飯の仕度と片づけと……」

全然ゆっくり休んでないじゃないか。

「愛莉、僕から愛莉にお願いしてもいいかな?」
「ええ、どうかされましたか?」

僕は愛莉を後ろから抱きしめる。
若干痩せたんじゃないかというほどか細い体。
やっぱり毎日きついのか?

「僕もゆっくりするからお嫁さんに構って欲しいな」

愛莉の耳元で囁く。
愛莉は僕の意図を察したのか嬉しそうに愛莉を抱きしめる僕の手を掴む。

「本当に甘えん坊さんですね。困ったものです」

愛莉はそう言うと「これだけはやらせて」と言ってアイロンがけを続ける。
それが終って洗濯物を全部片づけると愛莉は僕に抱き着く。

「約束ですからしかたがないですね。何をすればよろしいですか?」
「今日はテレビを見て過ごそう。買い物ついでにレンタル屋さんで映画でも借りて来よう?」
「明日も私は冬夜さんに甘えていればいいのですか?」

愛莉が言うと僕はうなずく。

「本当に私は幸せです。こんなに大事にしてもらえるなんて」

お昼前になると愛莉は昼食を作り出す。
その間もダイニングのテーブルに座り愛莉の話し相手になってやる。
愛莉の片づけが終るとリビングのソファに座ってテレビを見る。
愛莉とスキンシップを楽しみながらテレビを見ている。
土曜の昼間のテレビ番組なんてつまらないものだけど愛莉と話しながら見ていれば苦にはならない。

「冬夜さん、お願いがあるのですが……」
「どうしたの?」

愛莉は寝室に行きたいという。
その方がくつろげるからと。
そういう気分になったのだろう。

「わかったよ。……よいしょ」
「きゃっ!」

愛莉をお姫様抱っこすると愛莉を寝室に運ぶ。
寝室のベッドに横にさせると僕は隣に横になる。

「この後はどうすればいいの?」
「そばにいてくれるだけでいいです」

そう言って愛莉は抱きついてくる。
のどかな午後の時間は愛莉との惰眠を楽しむことにした。
愛莉の寝息が可愛い子守唄。
愛莉も疲れているんだろうな。
とても心地のいい。お昼の出来事だった。

(2)

「結構重いな」
「これ2階でいいんだな!?」

バスケ部だった人たちが引越しの加勢にきてくれた。
男手が沢山いたので比較的楽に進んだ。
お昼になると蕎麦を振舞う。

「ありがとうございました、あとは佐(たすく)と荷解きするだけなので」
「いいっすよ、俺達の時も手伝ってもらうから」

藤間先輩が言う。
先輩たちが帰ると私達は荷解きを始めた。
夕方ごろになると佐が「そろそろ腹減ったな」と言い出す。

「じゃあ、私買い物行ってきます」
「いいよ、今日くらいゆっくり外で食べようぜ」
「どうせ明日の朝食の準備もしなきゃいけないんです。買ってきます」
「じゃあ、俺も行くよ」

新居からスーパーまでは車で5分もかからないところにある。
バスや電車は殆ど走らないところ。
それでも大学までは10分もあれば着く。
スーパーで食材や調味料等を買えば結構な量になる。
佐が来てくれて助かった。

「こんなに必要あるのか?」
「最初だから仕方ないです」

家に持って帰るとそれを整理して、調理に入る。
佐はその間荷解きを続ける。

「佐、ご飯できたよ」

そう言うと佐がダイニングに来る。
佐と二人で食事。
それなりに腕を振るった。
佐は美味いと言ってくれた。
食べ終わると私は片づけに入る。
佐は荷物整理に戻る。

「終わったぞ~」

佐が寝室から出てきた。

「お疲れ様、お風呂でも入ってて」

佐にそう言うと佐は風呂に入った。
佐は風呂を済ませると冷蔵庫から缶ビールを取り出し一人で飲み始める。
私は自分の荷物の整理を粗方片付けると風呂に入って佐とリビングで飲み始める。

「おつかれ」

佐は一言そう言ってテレビを見る。
佐の様子がおかしい。

「佐、どうかした?」
「いや、俺達来週には夫婦になるんだよな?」

両親への挨拶は済んでいる。
あとは婚姻届を出すだけだ。
私が授業が終わったら必要書類を市役所に出すだけ。
それがどうかしたのだろうか?

「いや……なんか色々不安な事があってな?」
「私と結婚するのが不安なんですか?」
「桜子と一緒になれるのは嬉しいんだが……」
「?」

佐は、合宿で他の同棲している夫婦やカップルの愚痴を聞いて不安を感じたらしい。
自分はどう振舞えば良いのか悩んでいるらしい。
私が不満をため込むんじゃないのか?私が結婚したことを後悔するんじゃないか不安に感じたらしい。
佐でも考えてくれるんだ。

「そうですね、佐は生活能力0ですからね。しかも寝室以外はすぐにゴミの山にしてしまう才能の持ち主ですから」

私はこれから数々の苦労を背負いこむことになるだろう。そう佐に告げた。佐は落ち込んでいる。

「佐は、後悔しましたか?こんな口やかましい嫁をもらったことに」
「……お前に苦労させるかもしれない。そう考えると素直に喜べないんだ」

俺は理想の桜子にとって理想の夫になれるのか?そう佐が言う。

「私は後悔してませんよ。佐と一緒になる道を選んだこと。私だって不安はある、佐の人生を支える事が出来るのか?」
「俺は冬夜のように理想の夫にはなれないかもしれない」
「勘違いしないで。片桐先輩達は確かに理想のカップルかもしれない。でも私にとっての理想の夫は佐なの。その事実は変わらない」

佐は片桐先輩じゃない。でも私だって遠坂先輩じゃない。

「それでも佐の想いを信じてる。思われてるんだって信じてる。この先何があっても私の隣にいるのは佐だけ。自信を持って」

今のままのあなたでいいんだから、何も気負わなくていいんだよ。

「桜子、苦労させるかもしれないが……」
「それは言いっこなしです。共に頑張って幸せになろう?」
「ああ、そうだな」

佐はわかってもらえたようだ。

「でもそれだけじゃないんでしょ?佐の不安」
「……気づかれてたか?」
「私を誰だと思ってるんですか?」

あなたの事を3年間見て来たパートナーですよ。
佐は話し始めた。
仕事は楽しくはないけど別にきついとかそういうのはない。ただバスケをやっていて一人空回りしている気がしてならない。
バスケに明け暮れていた時期が懐かしい。でもその懐かしい時期を全否定されてるような今の環境に馴染めない。
佐の目を見る。
思いつめてるようだった。

「バスケで就職するべきじゃなかったのかもしれないな」

佐は言う。
バスケで就職しなければ、片桐先輩みたいにバスケをキッパリやめていれば踏ん切り着いたのかもしれない。

「……それでもバスケが大好きなのでしょう?」
「まあな」
「じゃあ、続けるべきです。新しいバスケとの向き合い方を探していけばいい。佐は懐かしいといった。もう線引きはできているのだからこれからのバスケとの向き合い方を探していけばいい」

木元先輩がそうしたように。

「木元先輩の真似していいのか?」
「え?」
「花菜さんは随分不満をため込んでいるようだが」
「そうですね、でもその心配はしてない」

私があなたの居場所を作ってあげるから。

「佐の帰る場所はちゃんと用意してあげる。居場所は作ってあげる。だから心配しないで」
「本当にお前に頼りっぱなしになりそうだな」
「そのための私ですから。他の女性に頼られるよりましです」

私はそう言って笑う。
佐は私にとって星の輝き。
私にはあなたが必要。
一緒に私達は空をつないで行こう。
人生を諦めないで生きて行こう。
暗闇の中愛があなたを導くのを恐れないで。

「……俺はお前に何をしてやれる?」
「同じ事をしてくれたらいい」

一緒に手をつないで人生を諦めないで生きて行こう。
暗闇の中愛があなたを導くのを恐れないで。

「これからよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」

私達は、奈落の青を飛び越えて佐と灰になるために旅を始めた。

(3)

カランカラン。

ドアベルが鳴る。
やってきたのは酒井夫妻。

「おう、善幸。久しぶりだな!仕事は順調か!?」

マスターが厨房から叫んでいる。

「まあ、順調なんですかね~?」
「まださっきの事気にしてるの?問題ないわあれくらい」
「そうは言いますけど相手が悪すぎると思わないかい?晶ちゃん」
「あなたは県知事と私どっちが大事なの?」
「そういう問題とは違うと思うんですが」

話の内容がよくわからない。

「どうしたんだ善幸。何かへまやったのか?」

中島先輩が言う。
中島先輩は穂乃果先輩が仕事に行ってるので暇つぶしに来たらしい。

「へまをやったというかなんというか……」

どこか具合が悪いのだろうか?
顔色が悪い。
奥さんの顔を見ると問題ないと言った顔をしているか?

「じれったいな。何があったんだよ」

中島先輩が言う。
その間に咲先輩がコーヒーと紅茶を運んでた。
説明を始めたのは奥さんの方だった。
合宿明け早々会社に呼び出しを受けた。
呼び出しを受けて会社に向かう酒井先輩を奥さんが呼び止めて事情を聞いた。
買い取った土地に太陽光発電を作る件で県知事が訪問に来るらしいから至急来て欲しいという事。
その事を知った奥さんが激怒した。

「せっかくの連休に事前にアポもとらずに来るような無礼者の為にどうして主人がわざわざ出向く必要があるの!?そんな役立たずに応じる必要などない!」

と、専務を家に呼びだして叱ったらしい。
呼び出された専務と秘書はひたすら頭を下げたそうだ。

「しかし計画が流れたらどうするつもりだい?あの土地買うのに多額の金がかかってるはずだよ」

酒井先輩が言う。
しかし奥さんは言う。

「問題ないわよ善君。あの土地ただの土地じゃないの。国家の安全保障的に重要な土地でね。『計画を白紙にするならこっちにも考えがある。買取価格の倍の値段で中国の関連企業に売り払っても構わないのよ』って脅かしてやればいい」

何か物騒な話を聞いている気がする。
中島先輩は「それはご愁傷様」と言った顔をしている。

「それにしても地元の企業にはまともな社長がいないのかしら?休日に呼び出したり。夜にくだらない会合によびだしたり」
「しかし晶ちゃん。今回は相手が悪い。県知事だよ。公共事業取れなくなっちゃうよ」
「あんな小物がたてつくなら次の県知事選で引きずりおろすまでよ!森重さんでも候補に擁立すればいい」

奥さんに怖いものはないらしい。

「ところで今日は恵美はきてないの?」
「急な用件で来れないそうですよ」

咲さんが答えた。

「連休だって言うのにみんな頑張るのね。折角連休くらい休めばいいのに」
「まあ、休めない業種だってあるから。穂乃果みたいに」

2連休とるためにかなり苦労したらしい。嫌味もさんざん言われたらしいと中島先輩は言う。
2連休?昨日はどうしたのだろう?

「穂乃果も亜依さんも深夜勤だったそうだよ?で、今日はそのまま日勤」

中島君が説明した。

「学生時代に遊んでおけって言うのは本当みたいね」

酒井先輩の奥さんは言う。

「じゃあ、僕達は帰るよ。買い物のついでに寄っただけだから。雰囲気変わってなくてよかった……ただ」

酒井先輩が言う
ただ?

「どうかされましたか?」
「いや、気にしなくていいよ。どうも物騒な事件に巻き込まれて以来神経過敏になってしまってね。多分気のせいだ」
「はあ……」
「じゃあ、そういうことで。またゆっくり来るよ」

酒井夫妻は帰っていった。

「おっと、俺ものんびりしてられない。そろそろ穂乃果が帰ってくる。夕食の準備しないと!じゃあ、また来るよ」

中島先輩も帰っていった。

「社会人て大変みたいね」

咲先輩が言う。

「先輩は就職どうするんですか?」
「恵美先輩の会社に就職する予定。旦那の稼ぎだけじゃ将来不安だから」

咲先輩がそう言って笑う。
ちなみに、太陽光発電の事業は後日知事の方からお詫びに来たらしい。無事にに着工したそうだ。

(4)

「大丈夫?美月?」
「大丈夫……慣れてるから」

小泉君と昼食に来ていた。
普通のレストランで楽しく会話をしていた。
そろそろ出ようかと思った時にそれは起きた。
突然の下肢のしびれ。
最近頻発するようになった。
毎月の治療には行ってる。
手術すれば治るが、そんな時間はない。今は大切な時期。

「慣れてるって……いつもなの?いつからなの?」

口が滑ってしまった。
言いたくない。
私は口を固く閉ざす。
その時小泉君のスマホがなった。

「もしもし、小泉です。あ、社長……はい、一緒にいますけど……わかりました。今すぐ向かいます」

小泉君の電話は終わった。事務所かららしい。すぐに事務所に来るように言われたらしい。
私達は事務所に向かった。
理由は何となく察していた。
覚悟を決めなきゃいけない。
その為に今一度確認しておきたい。

「ねえ、小泉君?」
「どうしたの?」
「きっとこれから事務所で話すことは私の一生に関わることだと思う」
「え?」

彼の顔つきが変わった。
重たい女と思われるかな?
でも聞いておかないと……不安だった。

「小泉君は私とずっと一緒にいてくれますか?」

誰がどうとっても愛の告白にしか聞こえない言葉。
小泉君はしばらく考えていた。
そして言った。

「それは僕から美月に言うべき言葉だと思うんだけど」
「ごめん」

でも聞いておきたかったから。

「謝らなくていいよ。それより僕でいいの?僕は君の付き人でしかないけどそれ以上の関係になってもいいの?」
「もうとっくになってるよ」
「そうか、わかった。約束する。形にはまだできないけどいつか一緒になろう」

よかった。

「でもそんな大事なの?社長達もなんか様子が変だったけど」

私は何も言わなかった。
事務所に就くと、応接室に入る。
社長と恵美さんがいた。

「小泉君、悪いけど席を外してくれないか?ちょっと大切な話だから……」

やっぱり予感は的中した。

「そういうことなら、僕は外で待ってます……美月?」

私は彼の腕を掴んでいた。

「彼にも聞いてもらった方がいいです。これから彼も巻き込むことになるから……」
「香澄にも黙っている事なのにいいの?」
「……はい」
「わかったわ。小泉君かけて」
「はい」

私の隣に小泉君が座る。
話は恵美さんから切り出された。

「あなた連休前の通院キャンセルしてるわね?病院から連絡あったわよ!」
「すいません。打ち合わせがあったから行けませんでした」
「深雪先生から言われたわ『今後の事もあるからスケジュール調整お願い』って」
「ちょっと待ってください!通院って美月どこか悪いところあるんですか?」

小泉君が立ち上がって言う。

「……美月あなたから説明するべきなんじゃない?そう覚悟を決めたのでしょ?」

恵美さんが言うと私はゆっくりと話し始めた。

潜在性二分脊椎症による神経因性膀胱。
二分脊椎は国の難病指定を受けている病気。腰椎や仙椎などを伴う。
神経因性膀胱は二分脊椎の症状の一つ。
排尿・畜尿の状態が悪くなる病気。
私の場合は内服薬の服用で症状を抑えられる程度の軽い症状。
毎月診察を受けながら薬をもらわなければならない。
最近下肢のしびれが生じているのは服薬してなかったから。

小泉君は黙って話を聞いていた。
私が話を終えると恵美さんが差し出した。

「今日持ってきてくれたわ。今月分の薬。でも連休が明けたらすぐに病院に行きなさい。小泉君わかったわね」
「はい、必ず連れて行きます」
「この事はこの4人で秘密にしておきます。あなたの意思を尊重する。でもまた通院をキャンセルするようなことがあったらマネージャーには報告するわよ」

そうならないように自分で管理しなさい。恵美さんはそう言った。
その後私達は事務所を出た。

「どこかで何か食べて行こうか?」
「ええ」

レストランに入ると注文をして。料理が来るのを待つ。
彼は何も言わない。
きっとなんと声をかけたらいいか分からないでいるのだろう。
私から切り出してみた。

「後悔してる?」
「え?」
「私と一緒にいるって言ったこと」
「美月の覚悟がわかったよ。これからは僕しっかり美月を見てる」
「……ありがとう」

私は泣いていた。

「どのくらい重いの?」
「そんなには重くない、薬を飲めば大丈夫。ただ一生飲み続けないといけない。今までは両親に付き添ってもらってた」
「……わかった。美月、明日美月の両親に挨拶したい」
「え?」
「両親が付き添うより僕が連れて行った方が便利だ。今後の事も考えると早いうちに挨拶に行った方がいい」
「今後の事?」
「前期が終ったら一緒にアパート探そう?」
「……いいの?」

小泉君はうなずいた。

「ありがとう」
「僕なんかじゃ頼りにならないかもしれないけど。これからはもっと頼って欲しい」
「うん……」

畏れ。
でも人生を生きる事を今、諦めちゃいけない、人生は常に動き続ける。
恐れないで、愛は真っ暗な世の中でも私を導いてくれる。
2人で風の始まりの音奏でよう。

(5)

2人とも風呂を済ませると寝室でテレビを見ていた。
愛莉は家計簿をつけながら。
愛莉が家計簿をつけ終わりノートPCをたたんでしまうと僕の隣にくっついて座る。
それが愛莉のサイン。
そっと愛莉の肩を抱いてやる。
愛莉は僕にもたれかかってスマホを弄っている。
渡辺班のチャットを見ているのだろう。

「今日も一日無事に終わりましたね」

愛莉が声をかけてきた。

「そうだね」

僕が返してやる。
ゆっくりと時は流れる。
テレビの音だけが流れる。
こうしてる間も互いの鼓動を確認している。
互いの鼓動が響き合う。
この世の果てにまで響かせていこうずっと。
響き合った瞬間は身体の全てが覚えてる。
君が照らし出す太陽。
僕には君が必要。
二人で一緒ならば世界を照らせる。
畏れるな。
生きて諦めないで、前へ進め。
僕達はこれらもずっと前に進むだろう。
隣に愛莉を乗せて。ゆっくりと。
愛莉が大人になって何度も遠くへ行って、見守る僕が眠れない僕がくしゃくしゃになったとしても……。

「冬夜さん、そろそろ……」

愛莉が言う。
僕はテレビを消して照明を落とすとベッドに入る。
明日また愛莉に出会うだろう。
君の名を歌う為に……。
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