優等生と劣等生

和希

文字の大きさ
412 / 442
LASTSEASON

涙の海を越えて

しおりを挟む
(1)

「おはようございます。冬夜さん。朝ですよ。起きてくださいな」
「おはよう愛莉」

そう言って冬夜さんは私を抱きしめる。
だから言ったのに。

「もう、悪戯はしないって約束しましたよ。早くベッドから出てください」
「いつもより早く起こしてくれたんだろ?少しくらい……」
「そういう優しさは夜してくれるだけでいいから」

すると冬夜さんは諦めてベッドから出ると着替え始める。
私はその間に急いで朝食の準備を始める。
そして冬夜さんと楽しく朝食。

「へえ~あのパフェ美味しそうだね」

そんな朝の番組の感想を聞いていた。
食べ物の所だけはしっかり見ている冬夜さん。
朝食が終ると私は片づける、
その間もカウンター越しに私に話しかけてくれる。
お仕事の話は難しいけど、それでも私に分かりやすく説明してくれる。
8月に資格の試験があるらしい。
全部で5科目受けなくてはいけないそうだ。
相槌を打ちながら作業を終えるとリビングでテレビを見る。
それなりに広いリビングで大きなソファを買ったのに隣に座ってくれる。
そんな甘い一時を過ごすと冬夜さんの出勤の時間

「気を付けて行ってらっしゃい」

そう言って冬夜さんを送り出す。

洗濯と掃除を同時にこなす。
掃除が終わる頃乾燥まで終えているので。私はたたみながらアイロンをかけるものはかけながら仕舞っていく。
その後にお風呂掃除。
お風呂掃除が終わる頃お昼を回っているので一緒につくっておいたお昼を食べながらテレビを見ている。
すると冬夜さんから電話がかかってくる。
大体時間は決まってる。

「なんかあった?」
「何もありませんよ。冬夜さんはお仕事順調ですか?」
「ああ。今日も定時で上がれると思う」
「頑張ってくださいね」
「愛莉も家事ばかりしてないで少しは羽を休めるのも……」
「ありがとうございます。ところで今夜の夕食いかがなさいましょう?」
「そうだなぁ~」

そんな感じでいつも電話をかけて来てくれる。
電話を終えると食器を洗ってテレビを見てる。
つかの間の休息。
最近は要領も得て来て休息の時間が稼げるようになった。
冬夜さんには悪いような気がするけど「愛莉も休める時に休んでいいんだよ」って言ってくれたから休む時は休む。
買い物もあるし、青い鳥にでも行ってみようかな?
青い鳥にいくと恵美と晶に穂乃果が来てた。
私は美里に注文を言うと3人の居るテーブル席に座る。
穂乃果は落ち込んでいる。
話題は当然のようについて中島君の事だった。

「あれからどうなの?」

私は穂乃果に聞いてみた。

「それが、一緒に病院に行こう?って言っても仕事を休めないの一点張りで……」
「そんなの放っておけばいいのよ。時期的にもただの6月病じゃないの?」
「晶の言うとおりね、もっとしんどい仕事をしている人は山ほどいるわ。ただの甘えよ」

晶と恵美が言う。

「でも、そんな事情知らなかったとはいえ、本来支えるべき私までもが彼を追い詰めていたのは事実だし……」

穂乃果は自分が言ったことを後悔してるらしい。

「愛莉はどう思う?このまま放っておいたら彼本当に……」

穂乃果も働いていて、行き違いの生活を送っている。
でもこのままだと穂乃果も同じ状態になってしまうのではないか?
彼に必要なのは休息。
しかしその休息の時間すら彼は自分を追い込んでいる。
中島君に必要なのはなんだろう?仕事をすることの達成感?充実感。それはどうやって与えてやればいい?
晶と恵美はそんなの中島君の甘えだだから放っておけという。
でもあの時、悠木さんは言ってた。

「同じ公務員にしか分からない苦悩がある」と……

中島君も「同僚と他愛のない話をしてる時が一番落ち着く」と言っていた。
自分の奥さんよりも頼れる同僚か……。
本来なら一番の理解者は奥さんであるべきだ。

「中島君が休まる場所を作ってあげたらいいと思う」

私は答えた。

「どうやって?休んでって言っても休んでくれないんだよ?」

穂乃果が聞いた。

「中島君は自分の仕事を理解してくれる人がいないから思いつめてるんだよね?」
「まあ、そうだね」
「穂乃果は、前に言ってたね『どんなに疲れていても患者のありがとうって言葉ですくわれるんだ』って……今の中島君に必要なのはそう言う人だよ」

でも中島君の仕事は、誰も評価してくれない。して当たり前だと思われてる。そして税金泥棒と言われてる。そんな中島君に出来ることはそんなに難しい事じゃない。

「穂乃果がお勤めから帰った時、中島君はどうしてくれてた?」

私が穂乃果に聞いた。

「最近は朝ごはんと一緒にお疲れ様って書置きが……」
「それだよ、穂乃果。中島君にも同じことをしてあげたらいい。穂乃果が中島君の仕事を理解してあげたらいい」

冬夜さんも言ってた。私の「お疲れ様でした」で思考が切り替わるって。

「愛莉ちゃん、穂乃果の方が何倍もきつい仕事してるのよ?それなのに中島君の仕事を理解しろっていうの?」
「仕事がきついのはみんな一緒だよ。でも中島君に足りないのはその仕事が辛いんだって事を理解してくれてる人がいないってこと」

数字や言葉で評価されない。ただ公務員って尺度で勝手に決めつけられる価値観。

「愛莉の言う事はわかった……。でもそれがちゃんと伝えられるかが不安で。私も仕事でイライラしっぱなしだから」
「中島君は穂乃果の仕事の辛さに理解を示してくれた。渡辺班の中でも穂乃果以外に誰にもできない事だよ。それは」
「わかったやれるだけやってみる。あ、私今日準夜勤だからそろそろ行くね」

穂乃果はそう言うと店を出た。

「愛莉ちゃん、これ以上穂乃果ちゃんに負担をかけたら……」

恵美が言う。

「穂乃果の負担は中島君が一緒に背負ってる。でも中島君はさらに自分の仕事を背負ってる」

二人の生活なのだから二人で背負わなければならない。どちらか一人折れてしまったら元も子もない。

「……私もそろそろ夕食の準備しないといけないから行くね」

そう言って私も店を出ると帰りにスーパーに寄って帰った。
家に帰ると夕飯の支度をして、冬夜さんの帰りを待つ。
冬夜さんが帰ってきた。
笑顔で迎える。

「お帰りなさい、お疲れ様でした」

その一言が冬夜さんを変える事が出来るなら。それが私の役割。
いつまでも続く、私の冬夜さんへの感謝の言葉。

(2)

「お疲れ亜依」
「おはよう穂乃果」

準夜勤の穂乃果がやってきた。

「そっちはどう?今日青い鳥行ってきたんでしょ?」
「まあね」
「皆なんて言ってるの?」
「愛莉以外は『単なる甘えだ、ほっとけ』だってさ」
「まあ、そうなるよね……愛莉はなんて言ったの?」
「支えてやれ、主人の仕事を理解してあげたらいいってさ」
「なるほどね~、で穂乃果やれそう?」
「とりあえず、行動はしてきた」
「そうなんだ。じゃあ、そろそろ申し送りの時間だし」
「そうだね」

そうして穂乃果と引き継ぎ業務を済ませると着替えて帰る。
車に乗るとメッセージを瑛大に送る。
まあ、返事が返ってこないんだけど。
スマホをホルダーにセットすると家に帰る。
帰りに食材を買って行く。
家に帰ると当然のように瑛大は家にいない。
一枚の書置きが残されている。

またか……。

今さら怒る気力も無かった。
食事を二人分作ると一人で食べる。
お風呂に入るってようやくのんびりしようと冷蔵庫を開けてビールを取ると、テレビをつけて観る。
21時を過ぎた頃瑛大から電話が入ってくる。

「今メッセージ見た。今日は遅くなるから夕食はいらない」
「……わかった。気を付けて帰れよ」

私はそう言うとラップしてあった夕飯のおかずを冷蔵庫にしまっておく。
明日の昼にでも食えば良いか。
再びテレビを見てる。
偶にスマホを見る。
佐々木君の独壇場になってる。
学生の女性陣が何名か相手してる程度だ。
社会人組はスマホを見るのも面倒なくらい疲れているんだろう。
そろそろ仕事が徐々に増えてくるころだ。
大きな病院だと看護師の人数も多いから問題ないんだろうけど。
クリニックだと平日の昼間しかやらないから問題ないんだろうけど。
中堅となると大変なことになる。
看護師の少なさから突然HCUの担当を任されたり、今日のようにオペの看護を任されたりする。
救急病院だと猶更だ。
それでも中島君と違うのは小児科の子供が退院するときに「おばちゃんありがとう」と言ってくれた時。

「おばさんじゃなくてお姉さんでしょ!」と笑って誤魔化すけど嬉しさはある。

私達は一人の子供を救ったんだって達成感がある。
当然達成感ばかりじゃない。
緩和ケア患者を担当した長浜さんは初めて人の死に直面したらしい。

「最後まで頑張ったね……」と体を震わせながら丁寧に患者の体を拭いていたという。

それでも何かしらやり甲斐をみつけて人は仕事をするのだろう。
それを見つけられなかったら、辞めるか病んでいくかのどちらかだ。
中島君は結婚している。辞めるに辞めれない事情がある。
そして、公務員の離職率が低いのは待遇がいいからではない。民間企業への再就職が困難だからという。
やる気のない人間は適当にこなしてそして出世していく。
やる気のあった人間は挫折して病んでいく。
なんとも不条理な世界だろうか?
学生だった頃が人生の華だと皆言う。
社会にでれば不条理な出来事の連続だ。
夢を抱き続ける事のなんと難しい人生。
私も結婚に夢を見ていた。
そして結婚の現実を突きつけられた。
私はどうして結婚したんだろう?
愛莉は結婚にどんな希望を抱いているのだろう?
もう諦めに近い感情。
憧れ、未来、絶望、喪失、別離。
幾つもの悲しみと海を越え。
たとえ、世界の全てが海色に溶けてもきっとあなたの声がする。大丈夫帰ろうってでも……
世界がすべて反転しているのならそれでもあなたと真っ直ぐに前を見ていたい。
塗りつぶされても忘れない。
こじ開けてるのを見ていてよ。
煌めき、青空、希望、敗北、眠り。
幾つもの涙の海を越えて……。
私の全てが過去に消えてもずっと、きっと共にあるって、いつの日か変われるってでも……
私が全て幻だとしたらそう、それでもあなたと奇跡のよう。
この時代に響けと今祈りを込める。
私達は人生という大海原に大航海にでる。行き先は分からない。
どこからきてどこへいくのかもわからない。
行き先のしるしとなる北極星があるというのなら、今こそ輝いて欲しい。

時間は0時を回った。
瑛大は帰ってこない。
私は一人でベッドに眠る。
絶対思ってはいけない一言がこみあげてくる。

こんなはずじゃなかったのに……。

後悔先に立たず。そう、後悔は後からやってくるんだ。
翌朝目が覚める。瑛大が帰ってきていたのかどうかも分からない、気にも止めない。
1人で朝ごはんを食べると洗濯と掃除を済ませる。
昼食は昨日の夕食。
食べると片づけてテレビを見て時間を潰す。
夕食を作る、二人分。
瑛大の分をラップしてテーブルにおいておく。
シャワーを浴びて時間までテレビを見て潰す。
そして時間になったら家を出る。
今日は穂乃果も深夜勤。

「おはよう」
「おはよう」

二人とも疲労していた。
これをずっと続けていかなければいけないのかと思うとぞっとする。
二人で実感していた。社会に出るという事の意味を。
二人でそれぞれの海を後悔していた。

(3)

今日も一日が終わった。
いつものように家に帰る。
誰も待っていない家に帰る。
そしてテーブルの上に置いてある夕食を電子レンジで温める。
その時書置きに気が付いた。

今日も一日お疲れ様でした。

穂乃果なりの気づかいなんだろう。
そんな些細な優しさが心に染みる。
ご飯を食べ終わると、片づけてシャワーを浴びる。
ビールを飲んでテレビを見る。
今日は準夜勤と言ってたな。
あまり眠くないし起きて待ってるか?
最近どんなお笑い番組を見ても笑えなくなってきた。
笑い方を忘れていた。
うつろに流れていくコント。
滑稽に映る。
ドアの音がなる。

「ただいま~ってまだ起きてたの?」
「ああ、どうせすぐ帰ってくるだろうと思って」
「休まないと駄目っていったでしょ!?」
「眠れないんだ」
「やっぱり病院に行こう?心配だよ」
「大丈夫だから、そのうち慣れるよ」

先輩が言っていた。今の環境に慣れる時が必ず来るって。
穂乃果がテレビを消す。

「だったら言うこと聞いて。今は寝る。明日も朝早いんでしょ」
「わかったよ」

ベッドに入る。
眠るのが怖かった。
明日が来ることに怯えていた。
いつの間にか朝になっていたようだ。
ベッドから出ようとすると俺にしがみ付いていた穂乃果が目を覚ます。

「眠れた?」

穂乃果が聞いている。きっと顔色を見て気づいたのだろう。
俺は首を振った。

「朝食は私が作るから少しでも休んでいてください」

そういって穂乃果はキッチンに行く。
俺は少しだけ横になって目を閉じた。

「朝食出来たけど食べれる?」
「ああ、ありがとう」

あまり食欲がなかったけど、穂乃果が作ってくれたんだと、言い聞かせて食べた。
そのあと準備をすると家を出る。
その時穂乃果が後ろから抱きしめる。

世界の全てが消えてもあなたを忘れない。
世界の全てが海に溶けても私が探し出す。
大丈夫だよ、還ろう。
大丈夫、変われる。
進める、やれる、まだ。
全部嘘!これで終わり?違う。
今、全てが海に溶けても深みへ落ちていく。
そして、記憶の全てが海色になって光に消えていく。
例え世界の全てが海色に溶けてもきっとあなたの声がする。大丈夫帰ろうって、でも。
大切なあなたがいるから私は歩き出せる。
最後にこの願い今乗り越え未来へと漕ぎ出そう。

「隆司さんは私を理解してくれた。今度は私の番。どんなに世界中を敵に回しても私はあなたについて行くから心配しないで」
「穂乃果……ありがとう」
「今まで酷い事いってごめんね」

穂乃果は泣いていた。

「いいんだ。穂乃果の一言で歩き出せる気がした」
「隆司さん一人である必要はないんだよ。私が隣にいるから」
「そうだな……じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」

穂乃果の言葉に送り出されて俺は職場に向かった。
渇いた心に染みていく穂乃果の気づかい。
夫婦の意味を今知った。

(4)

「じゃあ、僕バイトだから……」
「バイト先まで送っていくわ」

つばめがそう言うと僕は助手席に乗る。

「帰り何時頃になるの?」
「22:00かな」
「わかった」
「つばめは家で休んでて良いよ」
「気にしないでいいから、私が好きでやってるだけ」
「ありがとう」
「だから気にしなくていいって」

つばめはそう言って運転に集中している。
気まずい空気が流れる。

「人はなぜ働くのだろう?」

つばめが突然言い出した。

「それは生活するためだろ?」
「それならなんで働くことで悩むの?」

中島さんの事を言ってるんだな。

「きっと理解していても、悩んでしまうんじゃないかな?」

その仕事の意義、やり甲斐、達成感。
それらを見いだせない時人は挫折するんだろう。

「私達にも同じ時がくるのかな?」
「つばめは何を悩んでいるの?」
「私達のやろうとしてることは意義があるのか?やり甲斐や達成感はあると思うけど」
「それで十分じゃない。『やってきてよかった』そう思えることが大切なんじゃないかな?」
「……そうだね」

バイトの店の前で降ろしてもらうとありがとうと礼を言う。

「じゃあ、また来るから」

そう言うつばめを見送るとバイトの店に入る。
仕事の意義か……。
そんな事を考えてる余裕があるだけまだましという人もいるだろうけど。
収入の為ならならと割り切って働ける人がどれだけいるだろう?
それだけの為に死に物狂いで働ける人がどれだけいるだろう?

イヤなら辞めたらいいじゃん。

佐々木君はそう言ってた。
社会人組から反感を買うと思っていたけど誰も何も言わなかった。
社会人組も同じ考えなんだろうか?
よくテレビでやっちる新社会人を対象にした企業説明会
当然だけど新卒者をメインターゲットにしている。
一度辞めてしまったら。中途採用という枠組みに入れられてしまう。
当然前の会社を辞めた理由を聞かれる。
なんて答えればいいんだろう?
やり甲斐が無いから辞めましたと素直に言えるのだろうか?
協調性のない人間とレッテルを貼られるのではないだろうか?
それが怖くてやめないのだろうか?
バイトと正社員の違い。
僕は実家の診療所を継ぐ予定だ。
いつか患者の命と働く人間の命を秤にかける時が来るだろう。
その時が来た時僕は正しい判断を出来るのだろうか?
それが正しいと誰が判断するのだろうか?
自分が正しいと証明し続けられるのだろうか?
そんなことを考えながらバイトをこなしていた。
バイトが終わる頃つばめが店を訪れていた。

「せっかくだから本を買おうと思って」
「どんな本?」
「エッセイ」
「それならこっち」

つばめが本を選んでいる。

「これにするわ」
「わかった」

レジに通してお金を受け取って本を渡す。

「ありがとうございます」

そしてバイトを終えて帰ると聞いていた。

「どんな人のエッセイなんの」
「難民キャンプや被災地で活動する医者のエッセイ」

またご立派な人の本だね。

「どうしてその本を?」
「渡辺班のグループでまた始まってね、例の討論」
「ああ。仕事の意義について?」
「そそ、そしたら『職業に貴賎は無いよ』って佐々木君がいいだしてね。私の価値観が揺らいじゃって……確かめたくて買ってみたの」

僕は笑っていた。

「それで先輩たちはなんて言い出したの?」
「そうね、大学生組は反論したわ。西松先輩とか真鍋先輩は何も言わなかったけど」
「なんて反論したの?」
「『俺達を馬鹿にしてるのか!?ふざけんな!』ってバイトしてる人が中心ね」

なるほどね。

「ねえ?私達のやろうとしてることは偽善なのかしら?医者は所詮医者。汚い銭の亡者なのかな?」
「つばめはまずことわざの意味を間違えてる」
「え?」
「社会人組が正しいんだよ無視してればいい。職業に貴賎はないっていうのは『お金を稼いでるのだから立派な職業だ』って意味じゃないよ『人間らしく勤勉に勤めなさい、差別しないように賢くなりなさい』って意味なんだよ」

石田梅岩という人の教えで「士農工商」は「武士が治め、農民が生産し、職人が道具を作り、商人が流通させる。士農工商は世の中を収めるに役立つ」という教え。
「士農工商」は国を支える職業の事だとつばめに説明する。

「じゃあ、社会人組が無視していたのは?」
「討論する価値も無いと判断したんだろうね。反論するだけ無駄だと思ったんでしょ。そもそも話にならない」
「なるほどね~」
「実は僕も悩みがあったんだ」
「え?」

僕はバイト中に考えていたことをつばめに説明した。
つばめは笑ってた。

「だから私が必要でしょ?って言ったじゃない。私はあなたと二人っきりになったとしても一緒に最後まで諦めない」

つばめは言う。

「あなたが考えることはそんなことじゃない、まず立派な医師になること。そして私を妻に選んで」

大胆な告白だな。

「努力します」
「一人で悩む必要なんてないんだよ。二人でならきっといい知恵が出る」
「そうだね」

同じ時を生き抜いていくから覚悟してねとつばめは言う。
一度だけの恋ってきめたのだから。
最後の願い、今乗り越え未来へと飛び越えよう。

(5)

愛莉がスマホとにらめっこしている。
僕はぼんやりドラマを見ていた。
好きな女優が出ているチアダンス部の話。
元々の映画版にも好きな女優が出ていたんだけど。

「冬夜さんは腹が立たないんですか?冬夜さんの仕事を悪徳商法と一緒にされてるんですよ」

愛莉の機嫌は悪いらしい。
愛莉だけじゃなかった。カンナや悠木さん亜依さんからも言われている。

「愛莉は勘違いしてる。そもそも愛莉の言う悪徳商法はその職にあてはまらない」
「え?」

愛莉に正しい「職に貴賎なし」の意味を伝える。

「それで皆さん反論なさらないんですね」
「いや、違うよ」
「え?」
「単純に『子供の相手をするのがめんどくさい』だけだよ」

本で得た知識をひけらかし、得意気に話し、討論になれば屁理屈をこねる。皆疲れてるのに一々相手にしてられない。言わせたいだけ言わせたらいい。

「なるほど……」
「愛莉も楽しんでたろ?相手を楽しませるのは得意らしいからね」
「じゃあ、冬夜さんが佐々木君に妬いたりしないのは……」
「単に歯牙にもかけてないだけ」
「そうですよね!」

そう言って愛莉は抱きつく。
一緒にドラマを見ている。

「冬夜さんはこういう女性はお好きなんですか?」
「う~ん……初めて見た映画の影響かな?」
「なるほど。第一印象が大事なんですね」
「そうかもね。僕達だってそうだったろ?」
「そうでした」

にこりと笑う愛莉の頭を撫でてやる。
ドラマが終るとテレビを消す。

「さて、明日に備えて寝ようか」
「そうですね」

ベッドに入る。

「中島君の件も解決したみたいで安心しました」
「そうだね」

後は二人で答えを出していくだろう。

そこで繰り返して、後悔は言うまい。
中島君は最後まで希望を捨てないだろう。
それは穂乃果さんだけが知っていればいい。
こんな愚かな悲劇は繰り返してはならない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...