優等生と劣等生

和希

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LASTSEASON

ダイヤモンドクレバス

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(1)

2次会はいつものカラオケ屋さん。
高校生組は帰った。
飲んで歌って騒いで食べて。
楽しい時間を過ごすはずだった。
けど今日は気になることがあった。
なので渡辺君に提案してみる。
僕はその仕掛けの為にメモ帳とにらめっこ。

「冬夜さん、何をお考えなのですか?」
「ちょっとした余興だよ」
「余興?」

愛莉が首をかしげる。
出来た。
渡辺君にメモ紙を渡す。
渡辺君はそのメモ紙を見るとマイクをもって皆に言う。

「ああ、ちょっと今日は嗜好を変えてみようと思う」

皆が歌うのを止め渡辺君を注目する。

「嗜好を変えるって、どういう意味ですか?」

真鍋君が聞くと渡辺君が説明を始めた。

「今から言うものは席を交代してくれ、まず真鍋君と……」

そうして今までの集団がシャッフルされ色々とばらばらになった。

僕達の両隣りには渡辺君と秋吉夫妻が座っている。
多田夫妻の両隣りには桜木さんと梅本君、若宮さんと涼宮君、その隣に桐谷夫妻。
特に何か法則があるわけではない、とにかく色々バラバラにしてみた。
それに何か意味があるわけじゃない。
ただかき混ぜたかった。
そして宴は再会される。
渡辺君が「じゃ、続けてくれ」というと皆騒ぎ始める。
公生と佐々木君が討論を始めるとそれを黙って聞いている他の面々。
しばらくしてカンナ達が桜木さん、若宮さんと意気投合したようだ。騒ぎ出す。それに便乗する桐谷夫妻と梅本君。それを見ている如月夫妻と、涼宮君。
席は沈んでいる場所と盛り上がってる場所がはっきり別れてくる。
真鍋夫妻と小鳥遊君と月見里さん、卜部さんと神田さんのところは真鍋夫妻が沈黙している。
見るに見かねたのか椎名夫妻が真鍋夫妻に「こっちに来い」という。
すると真鍋夫妻、丹下夫妻、椎名夫妻が話しを始める。
するとはぶられる卜部さんと神田さん。

「卜部さん達は医療関係なんですって?大変ですね」

悠木さん達が話し始める。
結果、悠木さんと長谷部さん、卜部さんと神田さん、中島夫妻、西松夫妻、小鳥遊さんと月見里さんという集団が出来る。
他にも一定のつながりを持った集団が自然と席を移動して話を始める。
ますたーどの4人も石原夫妻と酒井夫妻と共に僕達の席にやってきた。
木元夫妻と檜山夫妻も4人で話を始めた。
水島夫妻と北村姉弟、栗林君と松本さんが孤立している。

「片桐君や、さっきの席替えに何か意味があったのかい?」

酒井君が聞いてきた。

「俺にもわからんぞ。何がしたかったんだ?これじゃあ意味がないんじゃないのか?」

渡辺君も聞いてる。

「愛莉、ちょっとおいで」
「はい」

僕と愛莉は孤立している。6人に話しかける。こんなキャラじゃないんだけどな。

「佐、楽しんでるか?」
「見ての通りだよ、どうしたものかと他の人と話していたところだ」
「そうか……佐、新婚生活はどうだい?」
「どうもこうもねーよ、桜子の口うるさいのが倍増して困ってる。噂には聞いていたがこれはつらい」
「佐がだらしない生活してるからでしょ!一から十まで世話焼かせないで」

そんな二人を見ると次に美里さんに声をかけてみた。

「美里さん、同棲生活は順調?」
「まあ、普通ですね……多分」
「お陰様で楽しくやらせてもらってますよ」

栗林君が言う。

「そうか、佐達みたいにならなくてよかった。大体衝突するらしいから」
「別に衝突してねーよ!」
「そうですよ!衝突にもならない。佐は何を言っても全然分かってくれないんですよ。美里さんも気を付けた方がいいですよ!」

桜子さんが美里さんに言う。

「そう言うの全然ないんですけど?」

美里さんが桜子さんに言う。

「偉そうに言える立場じゃないけど、あまり頭ごなしに叱ってもしょうがないよ。ゆっくりでいいんだから、私達の時間はこれからも続くんだから焦らないで」

愛莉が言う。

「彩人君達もよく見ておくと良いよ。君達も将来は同棲するんだろ?」
「そこまで考えてないです。将来の事なんて分からないから」
「今の生活で楽しいなら変えるつもりはありませんね。お互い友達とかもいるから、友達も大切にするべきだと思うし」

僕が言うと彩人と松本さんが答えた。

「でも二人とも、もう半同棲みたいなものじゃないか?思い切って同棲するのも手じゃないか?」

栗林君が彩人に聞いていた。

「でも同棲って親に挨拶にいったり住民票移したり色々と面倒で。今は今のままでいいかなって」
「私もまだ結婚は考えていないから」

二人が言う。
栗林君が言う。

「俺は彩人の考えに賛成だな。いきなり同棲は結婚並みにリスクが高い。学生のうちは彩人たちの生活スタイルで問題ないと思う」

そんな先の事まで普通考えないだろ?と佐は説く。
そうして6人は話を始めた。
僕が話をしなくてもそれぞれが自分の意見を言ってそして耳を傾けている。
そんな6人を見とどけると愛莉に「次行くよ」って言った。
愛莉は僕について来る。
僕は真鍋君達の席にいた。

「どう楽しんでる?」
「ええ、楽しんでますよ」

真鍋君が答える。

「片桐君の悪い癖だ、いい加減教えてくれてもいいんじゃないか?この状況を作り出した意図を」

椎名さんが聞いていた。

「そんな事より3組とも特に結婚の愚痴を聞かないんだけど、上手く言ってるんですか?」

僕は6人に聞いていた。

「簡単だよ片桐君。結局は男次第なんだ。男は黙って嫁の言う事を聞いていればいい。それだけで丸く収まるもんだ」
「遠坂さんにも言えるのよ。女次第のところもある。どれだけ亭主の行動を許してやれるかによる。なんでもかんでがんじがらめにすればいいってもんじゃない」

椎名さんと聡美さんが答える。

「冬夜さんは放っていてもちゃんとしてくれるから大丈夫です」

愛莉が言うと6人は笑っていた。

「お仕事の方はどうですか?」

僕は聡美さんに聞いていた。

「そうね、優秀なスタッフに恵まれて順調にやっているわ」
「それはよかった」
「で、片桐君。席替えの理由いい加減聞かせてくれない?」

聡美さんはそう言った。
僕は笑って答える。

「意味なんてないですよ?見たらわかるじゃないですか?」

6人は言葉を失っていた。
愛莉も戸惑ったようだ。

「じゃあ、どうして席替えを提案なされたんですか?」

愛莉が聞く。

「そうですね、多少は意味があったかな。でも真鍋達には全く意味がなかった」
「どういう意味ですか?」

真鍋君が言う。
僕は立ち上がると言った。

「みんなその場から動かないで!」

僕が言うと皆は話を止め僕を見る。

「どうしたんだ冬夜?」

渡辺君が聞く。

「自分がいる場所、よく確認して」

皆が困惑している。

「……渡辺君が指定した席から移動した人いるよね?」

何人かかが戸惑っている。

「席移動したら悪かった?」

恵美さんが言う。

「回りくどいと分からない人いるからはっきり言う。移動した移動しないは関係ない。今の状態に問題がある」
「全然分からねーぞ冬夜。もの凄い回りくどいいかたしてるぞ」
「まず動かなかった人達、二種類に分ける。隣にいた人に声をかけた者、たまたま隣にいた人が友達だったから移動しなかった人」

皆は静かに話を聞いていた。

「次に動いた人達。これも二種類だ。自分の友達の所に移動した者、困ってるところに声をかけられて動いた者」

そして佐達を見て言った。

「最後にどちらでもない者、自分の居場所を見つけられないために身動きがとれなかった者」
「そう言う魂胆があったのか……俺はてっきり派閥を見極めるだけだと思っていたが」

渡辺君が言う。

「これだけ大人数なんだ。派閥ができるのは仕方ない。カンナや佐々木君みたいに進んでコミュニケーションを取ろうとする者もいるだろう?自分の居場所を見つけるのもいい。でも大事な事を忘れている。僕達は一つのグループだ」

僕達は新人が入るたびに新歓を設けてきた。
でもその新人に居場所がない。そして今浮き彫りになったのは。

「水島夫妻は新人とは言わせない。その水島夫妻ですらいまだに自分の居場所を見つけられずにいる。その状態に違和感を感じない?」
「それは興味深いね。討論する価値のある事案だと思うから僕も自分の意見を言わせてもらうよ。自分からコミュニケーションを取ろうとしない方にも問題があるんじゃない?」

佐々木君が言う。

「自己アピールも必要だと思う。でも肝心な事が抜けてる。6人とも『渡辺班に招待された者』ということ。少なくとも招待した人の所には居場所があるんじゃない?」
「桜子達を招待したのは片桐君でしょ?片桐君達が責任とるべきじゃないの?」

亜依さんが言う。

「だから僕が動いたんだ。中央に立っている6人はお互いどう話しかけたらいいか分からずにいたから一押ししてあげた」

カンナ達だってそうだ。桜木さん達に声をかけて意気投合した。
恵美さん達は事務所の仲間を連れて僕達の元にやってきた。
だけど亀梨君達は未だに4人で固まっている。医療関係も固まっている。丹下先生達は皆に心を開こうとしない。
木元先輩達も同じだ。悠木さん達ですら卜部さん達に声をかけたというのに。
僕達は新人を歓迎するために会を開いているんじゃないのか?
その新人どころか、すでに仲間になっている人にすら居場所を作ってやらないのは問題あるんじゃないのか?
それが僕が違和感を覚えた理由。

「これからもこの状態を続けるの?皆仲良しこよしでやれと言ってるわけじゃない。言ったよね?『好きの反対は無関心』だと」

今がまさにその状態だろ。

「冬夜の言う通りだな。このままじゃ何もできずにただいるだけの存在にしてしまう」

渡辺君が言う。

「社会人と学生……その溝だけかと思っていたがもっと複雑なものになっていたんだな」

いくつものクレバスが出来上がり孤立している状態。
行き場所を見つけられずに彷徨い続けて辿り着いた場所。
気づいたら逃げ道を失っていた。

「片桐さんの言う事は理解できる。でもだからと言って僕たちに責任を押し付けるのはおかしい。助けを呼ぶことくらい大人なんだから出来るでしょ?」

佐々木君が言う。

「そいつの言う通りだよ冬夜。俺にも非があるかもしれない」

佐はそう言うと語りだした。

(2)

俺は入社して3か月がたった。
仕事は比較的簡単だった。
残業代わりにバスケをすればいい。
そのバスケもお世辞にも強いチームと言えなかった。
年に1回大会に出るだけの楽なチーム。
しかし仕事でもバスケでも仲間と呼べるものはいなかった。
仕事では皆終業後に遊ぶことしか考えてない。
バスケが待っている俺には無縁の世界。
そのバスケも勝ちに行くという姿勢は全く見えず、練習後の飲み会の事しか考えていない。
練習も週2回。
市の体育館を利用するので自主練も出来ない。
同僚と飲むこともある。
仕事の愚痴でも理想でも何でもいい、仕事について語りたかった。
だが同僚の口からでるのは仕事以外の事ばかり。
仕事について話をしようものなら

「佐は真面目過ぎなんだよ。ちょっとは楽しむことを覚えようぜ!」

俺の楽しみはバスケくらいしかなかった。
そのバスケも今は楽しくない。
渡辺班も一緒だ。俺の居場所はない。
しかしそうじゃないんだ。
俺自身が変わらなければならない。
今の環境に適応していかなければならない。
居場所は用意してくれてる。
何より桜子と言う大切な場所がある。
俺は桜子に何をしてやればいい?
桜子に何をしてやれる。
まずはその事から考えよう。
ちょうどそんな事を考えていた。
俺の話を皆じっと聞いていた。
冬夜も俺の話を聞いていた。
冬夜は視野が広い。
孤立している俺達に手を差し伸べてくれる。
そして指摘する。
俺は冬夜の厚意に甘えてるだけじゃ駄目だ。
冬夜の厚意に答えなければならない。

「それは私も一緒だよ佐」

桜子がそう言って話し始めた。

(3)

私はある意味虚無感に包まれていた。
女バスは有名になり次々と名選手が入ってきて、監督が鍛えていく。
一方男バスは……。
奇跡の世代とでも呼べばよかったのだろうか?
皆が卒業していくと、何も残らなかった。
翔が一人で引っ張っていこうとするが皆ついていけず辞めていく。

「ここが頑張りどころだよ!」
「これからの男バスはあなた達が支えていくんだよ」

どれだけ励ましても皆続かずに脱落していく。
そして春季大会は初戦敗退だった。
負の連鎖は続いていくもので、やる気あった者も辞めていく。
今や男バスは片桐先輩が入る前の状態「同好会」に成り下がっていた。
試合をする事すらできない人数にまで減ってしまった。
監督も今期を持って辞めるらしい。
翔も千歳も失望した。
彼等を待っている未来は灰色だった。
翔たちが練習している間も私達は勧誘活動をつづけた。
強くなくてもいい。
せめて翔たちがバスケをできる環境を作ってやりたい。
しかし男バスの噂は広まり誰一人よりつこうとしなかった。
諦めるわけにはいかない!
千歳と必死に勧誘を続ける。
体験だけでもいいからとすがる。
せめてバスケチームとしての体裁を保って千歳にバトンタッチしないと。
必死になってた。
負の連鎖は続く。
私は、男バスに必死になるあまり大切な事を忘れていた。
あれだけ合宿中に言われた事なのに。
佐の居場所を準備してあげる事。
私は佐の事を蔑ろにしてた。
些細なストレスを佐にぶつけてた。
佐の悩みなど耳も貸さずに……。

「佐の悩みを真っ先に聞いてあげないといけない私の役目を忘れていました」

私はそう悔やむ。

「そんなにバスケ部やばいの?」

片桐先輩が聞いた。

「現時点で3対3が出来ない状態です。来年私達が卒業したらチームすら作れなくなってしまう」
「部から同好会に降格されたら予算的に今の監督は無理だと言われました……根幹から崩れてしまいます」

千歳が言う。
渡辺班の力を借りたいけど渡辺班の力を以てしても恐らくバスケ部のイメージが払拭できないだろう。
強豪チーム=練習がハードというイメージは簡単に覆せない。

「そいつは厄介な問題だな……」

渡辺先輩が言う。

「そう言う話なら俺も協力します。バスケ経験者の友人がいます」

栗林君が言う。

「俺も後輩にあたってみるよ」

真鍋君が言った。

「本当に申し訳ありません。折角先輩たちが作り上げたバスケ部をこんなに早く崩壊させてしまうなんて」

千歳や翔に残してやれる事すらできない。

「そいつは、お前が悩み過ぎなんじゃねーか?」

佐が言う。

「冬夜、お前はどう思う?」
「そうだね、思い込み過ぎだ。僕達の栄光は消えないよ」

片桐先輩が言う。

強く強く輝けとバスケ部を託されたと思っているだろうけど、それまでの悲しみの上にある今を忘れてしまっては、いったい何のためにバスケ部があるのかと語りかける。
私は何がしかの意味を彷徨い求めては今もこうして血を通わせ生きている。
私の努力はあるべくしてある意味を誰が知ろう……。

「千歳や翔はわかってるよ」

片桐先輩はそう言って微笑む。

片桐先輩に出会い輝いて今の私がいる。
アイがあればこそ希望のない奇跡を待ってどうなるの?
過去の輝きは涙に滲む。
忘れないよ、その優しさもすべて包んでくれた両手も
冷えた体一つで現状はどうにもならない。
張り続けていた虚勢が溶けていく……。
どうしてだろう?
涙があふれて止まらない。

「もし例えこの先バスケ部が消えたとしても俺達の思い出までは消えねーよ」

佐が言う。

月は今日も語り帰る。
私達がすべて忘れてしまわぬように。

「あの……話が脱線してるみたいだけど?」

佐々木君が言う。

「そうだね、でも佐々木君も気づいたんじゃないのかい?」

片桐先輩が語り始めた。

(4)

バスケ部の話は正直衝撃だった。
でも十分あり得る話だった。
だけどそれでもかまわない、僕達が手にした栄光は僕達でだけ共有すればいい。
きっとちぃちゃんや翔にも残っただろう。
僕達の時代は終わっている。
また新しい時代が訪れるまで待つしかない。

「あの……話が脱線してるみたいだけど?」

佐々木君が言う。

「そうだね、でも佐々木君も気づいたんじゃないのかい?」

僕が言う。

「今の話がさっきの主題と関係あると片桐さんは言いたいんですか?」

佐々木君が言う。

「桜子さんはバスケ部という居場所をちぃちゃんや翔に残そうとしてる。佐は自分の居場所を見つけようと努力してる。居場所を作って維持するって難しいんだ」

だから居場所を探してる人に手を差し伸べてやるべきではないか?
ひび割れて落ちていくのを止めるべきではないのか?

「居場所を失ってる人間、彼等は声を出す事すらできない。そして何も見えないそんな人間にしてやれる事は……わかるよね?」
「なるほどな……皆周りが見えなくなってしまっていたというわけか。こうして片桐が形にするまで誰も気づかなかった」

丹下さんが言う。

「で、冬夜先生はどうするべきだと思うんだ?」

佐が聞く。

「それは僕が言うまでもないでしょ?答えは次のキャンプには出てるよ」

僕が答えた。

「それもそうだな」

渡辺君がそう言って笑う。

「よしっ!しけた話はここまでにして皆で盛り上がろうぜ!」

美嘉さんが言うと皆盛り上がり始めた。

「そうだな、ここはまず一人ずつ自己紹介してもらおうか?」

渡辺君が言う。
自己紹介をしてる間、僕と愛莉、水島夫妻、木元夫妻に美里さんと栗林君、翔とちぃちゃんが集まっていた。

「桜子、そんなに気負わなくていい。元々同好会だったのが冬夜の活躍で勢いがついただけだから」

木元先輩が言う。

「本当は言いたくなかったんです。でも本当にどうにもならなくなって」

桜子さんが言う。

「大丈夫です、先輩の願いをかなえるのが俺達の役目だから」
「同好会に落ちてもやっていけます」

翔とちぃちゃんが言う。

こんな終わりが来るとは思ってなかった。
もう二度と戻れないなら、せめて最後にもう一度……。
さよならって何度も自分に無上に言い聞かせて……。
今こそ強さが欲しい。
アイあればこそ、希望のない奇跡をまってどうなる?
みんながいるから歩いていける。
1人なんかじゃないよね?
今答えが欲しい。
燃えるような流星捕まえて火を灯して縋っていたい。
冷えた体一つで世界はどうなるというのだ?
張り続けていた虚勢が崩れていく。
いつかまた巡り会えるから。
その時は一緒に居よう。
二度と離さない様にしっかり捕まえていよう。
1人じゃないと囁いていて欲しいだろうから。

「過ぎたことを悔やんでいてもしょうがねーよ!なるようになる!それでいいじゃねーか!」

佐が言う。

「桜子さんは何も残せなかった?そう考えてる?」

僕が聞く。

「そうじゃないですか、私の判断がバスケ部の運命を作ってしまった」
「だとするとそれは大間違いだ。少なくとも桜子さんの選択があったから、僕は金メダルを手にすることが出来た」
「冬夜の言う通りだ、俺達だって2部リーグまで昇格出来た」

佐が言う。

「桜子にはまだ半年以上時間がある。その間やれることをやればいい。そしてその後は千歳さんや翔君に託せばいい。きっと受け取ってくれる」

木元先輩が言う。

風が花を咲かせるように笑い合えたら。
雨が草を濡らすように涙こぼれたら。
僕達の願いは大丈夫疑いのコートはいらない。
時代に邪魔されたって大丈夫。
星が闇をつなげるように見つめ合えたら。
月がすべてを赦すように恐れ溶かしたら。
翔たちは迷わず飛べる。
コンパスの針さえまだ知らない今日の先まで翔るだろう。それを見守るだけ。

「次世代に託すってそういうことだよ」

木元先輩が言う。
二人の可能性を信じよう。

「そこ!いつまでうだうだ言ってんだよ!辛気臭いオーラだしてんじゃねーよ!」

美嘉さんが言う。
僕達は笑って宴に混ざる。
桜子さんもようやく決意が固まったようだ。
涙を振り払うように端末を受け取る。
彼女の番が回ってくる。
なぜ生まれたのだろう?
なぜここに居る?
でも生き残りたい。
埋まらない後悔。
光りを恐れていた。
許された命が今惹かれあう。
がけっぷちでもいいから生き残りたい。
目覚めたい命が今惹かれあう。
狂気に代えて祈り捧げよう。
生き残りたいからまだ生きていたくなるから途方に暮れて枯れてゆく。
其れでも本気の心見せつけるまで私は眠らない。
私は眠らない……。

(5)

宴は朝まで続いた。
僕達はバスに乗って帰った。

「冬夜さんお疲れ様です」
「愛莉もありがとう」
「いいえ」

着替えるとシャワーを浴びて寝室でテレビを見ながら参考書を眺める。
するとシャワーから戻って来た愛莉が僕から参考書を取りあげる。

「お疲れなんですから少し休んでください。その後一緒にしましょう?」
「良いけど約束してくれる?」
「なんなりと」
「僕が寝てる間愛莉は僕から離れない事。約束できる?」
「……困った旦那様ですね」

愛莉はそういうと僕と一緒にベッドに入る。

「ねえ、冬夜さん?」
「どうした?」
「いつから気付いてらしたんですか?」
「なにが?」
「いつから、皆に亀裂が入ってるって気づいてらしたんですか?」

僕は微笑む。

「そんなの最初からに決まってるじゃないか」
「え?」
「少なくとも晴斗達までの世代とそれ以降の世代、もっと大雑把に言うと高校時代の皆とそれ以外かな?」
「じゃあ、なぜ今まで放っておいたのですか?」
「あの頃と変ったことがある」
「それは何でしょう?」
「これから先を担っていくのは西松君と咲さん……僕達以降の世代だ。同世代ですら亀裂を作っていたら話にならない。いつか分裂する」

現に最初に剥がれそうなのは真鍋君達だったしね。

「これから先ですか……」
「愛莉は僕と結婚して……子供を三人つくるんだろ?」
「作ってくださるんですか?」
「そうなったらいくら僕達でも渡辺班に干渉する余裕は無くなるよ。それに人数的にもそろそろやばいと思ったから」
「いつかは私達から離れていくということですか?」
「ああ、いつかは彼等に託す時がくる。その時の準備をする時期に来たと思った」

強く強く輝けと彼等に託して彼等が授かり希望。

「なんだか寂しいですね」
「でもいつかは皆離れていくものだよ?」

悲しみの上にある今。
それを忘れたら一体誰の為に残したのだろう?と語りかける。

「冬夜さんはずっと私と一緒にいてくださいね」

愛莉はそう言って僕を抱きしめる。
そんな愛莉の背中をさすってやる。
星座の導きで今見つめ合ったから。
許されたい生命が今引かれ合ったから。
彷徨い果てた時、愛莉の隣で火照りを鎮めたいから。
崖っぷちでもいいから生き残りたい。
愛莉を愛してるから。
愛莉が本気の心を見せてくれる時がくるまで君を愛そう。
僕はまだ眠らない。
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