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LASTSEASON
春が来て
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(1)
「冬夜さん、起きてくださいな。朝ですよ」
「おはよう愛莉」
冬夜さんと朝の挨拶を交わすとベッドを抜けてキッチンに向かう。
冬夜さんが着替えて支度をしている間に朝食を作り終える。
そして二人で朝食。
よく男性の人はご飯を食べながらスマホを見たりテレビを見たり新聞を読んだりするらしいけど冬夜さんはそれが無い。
ひたすら私との会話に没頭する。
それは朝食が終り片づけをしている間も続く。
片づけが終り私とリビングで落ち着くまで。
甘い一時を過ごすと冬夜さんは出勤の時間。
「行ってらっしゃい、お気をつけて」
「ああ、行ってくるよ」
冬夜さんを見送ると私も仕事開始。
洗濯をはじめて、掃除をする。
掃除が終わったら洗濯物を取り出して片付ける。
その間にゴミ出しがあるときはゴミ出しを忘れない。
その際ご近所の主婦と話をする。
ご近所付き合いは大事だとりえちゃんから聞いてる。
それが終ると昼食にする。
昼食を食べ終わって片付け終わった頃に冬夜さんから電話が入る。
今日は定時で上がれるそうだ。
電話を終えるとまだ済んでない家事をこなす。
家事が終ったら出かける。
青い鳥に向かう。
美里と恵美と晶と花菜と咲良と香織と夏凛がいる。
お茶を飲みながらお話をする。
咲良は専業主婦を選択したらしい。
檜山さんの収入で十分暮らしていけるから家事に専念したいんだとか。
恵美は毎日来るわけじゃない。
石原君の代わりに芸能事務所USEの経営をして行かなければならない。
重要な決断は石原君にさせてるらしいけど。
大学生組は殆ど来ない。
栗林君が顔を見せに来る程度だ。
他の皆は大学が遠かったり、サークルで忙しかったり、バイトをしてたりなど。
私達は長閑に話をする。
女性が8人もいれば話題が尽きることは無い。
それぞれの生活の中であったことを聞く。
美里と栗林君は良好な関係を築いているらしい。
特に不満はないそうだ。
お互いバイトをしているという事も理解してもらえてるらしい。
恵美は石原君のサポートで手一杯らしい。
2社の社運を背負わされているから少しでも負担を減らしてあげたいと思ってるそうだ。
それでも石原君は愚痴一つ漏らさず与えられた仕事をこなして重大な決断を自分でしている。
晶は酒井君がようやく仕事が落ち着いてきたという。
酒井君まで回る仕事が無くなり専務や秘書で細かい事は処理するようになったらしい。
本当に重要な時だけ酒井君が駆り出される。
酒井コーポレーションの課題は酒井君の負担を如何に減らすか。
かみ砕いて言えば酒井君に残業をさせないようにするのが課題らしい。
その為ならたとえ官僚との交渉であろうと断ることがあるらしい。
官僚との会食さえ晶は許さなかった。
そんな事をすれば県政すらも揺るがす惨事が待っている。
部下も必死らしい。
木元先輩の仕事も同様だ。
花菜が不満を漏らせば晶の耳に届いて、晶の耳に届けばすぐに晶の父親の耳に入る。
それで出入り禁止になったり業者入れ替えも当たり前のように起こっている。
原田総合デザインの仕事も請け負うようになった。
原田総合デザインからの要望もあって、竹本君の勤務する建付家具業者に仕事を回しているそうだ。
地元銀行との取引は檜山先輩と行っている。
檜山先輩は取引先の接待が多く、何度言っても夕食を作らせるだけ作らせておいて接待で要らないって事後報告なんだそうだ。
咲良はそれが不満らしい。
檜山先輩は冬夜さんが務める税理士事務所に仕事を紹介してくれるらしい。
竹本君の会社も冬夜さんが担当することになったそうだ。
冬夜さんの会社はそこまで大きくないので、また冬夜さんを指名することが多く、冬夜さんは繁忙期に怯えている。
香織たちもやはり4月という時期もあるのだろうか、自分の主人が飲み会で遅くなる事が多いらしい。
しかし、工期をきっちり守ってゆとりあるスケジュールで進行しているらしいので残業はそんなにないという。
木元先輩は基礎工事などの時に立ち会わなければならないので残業するらしいけど。
工期を守らない、工期ギリギリになる、工程を打ち合わせ通りに行わない会社は晶によって淘汰されていく。
「そんな能無しにくれてやる仕事はない。業者はいくらでもいる」
晶は言う。
森重市長が晶の家に菓子折りを持って交渉に来たことがあるそうだ。
「地元の零細企業を守って欲しい」と。
「企業を守るのは承知したけど約束事も守れない役立たずを庇う必要はない」と言ったそうだ。
事実上、晶の建設会社が公共工事の大半を請け負ってるらしい。
工期を守り予算を押さえ一定の品質を保った工事をするのは晶の建設会社くらいなんだとか。
その裏で次々と淘汰されていくブラック企業。
晶のやっていることが良い事なのか悪い事なのかは私には判断できなかった。
ただ言えるのは晶さんのお蔭で私達はのんびりしていられるんだなという事。
そんな話をしていると栗林君が見知らぬ二人を連れて来た。
1人はただ怯えながら栗林君に手を掴まれてやって来た青年。黒い髪を首にかかるくらいまで伸ばして前髪を揃えている。デニム生地のシャツにジーンズというあまりにもしゃれっ気の無い格好。
もう1人は気の強そうな女性。栗色のショートボブにピアスを開けている。神奈と同じくらいスタイルが細くカッコいい。白パンツに水色のシャツ黒いジャケットを着ている。ヒールのある靴を履いている。
「栗林君。その人達は?」
恵美が聞いていた。
「今年の新人候補ですよ」
栗林君がそう言ってにやりと笑った。
(2)
「すぐ返すからさ。少し貸してくれね?」
国公立の大学でもカツアゲなんてものが存在するのだろうか?
まあ、今現在進行形で起こってるのだからあるのだろうけど。
ママが来るまでまだ時間がある。
僕は4人の男に囲まれていた。
困ったな。
こんな面倒事が起こるなんて想像してなかった。
ちょっとした見物になってるらしくて回しに人だかりが出来てる。
「ほらぐずぐずしないで財布出せよ!」
男の一人が僕の胸ぐらを掴む。
「あ、あの……」
考えた末僕は正直に話をした。
「財布はママが持ってて僕今一円も持ってないんです」
「ふざけてんのかてめぇ!ちょっとジャンプしてみろよ!」
言われる通りジャンプした。
小銭すらもってない。
持ってるのは授業に必要な道具とママと連絡するためのスマホ。
男達による僕の身体検査が行われている最中に女性の声がした。
「何やってんだお前ら!?」
男たちはその声の主を睨みつける。
僕も気になったので見て見た。
栗色のショートボブのちょっと小麦色の女性。
白いパンツに水色のシャツ黒いジャケットを羽織っている。
トートバッグを持った彼女は彼等の視線に臆することなく言い放った。
「大学生にもなってカツアゲなんてダセー真似してんじゃねーよ!」
男の一人が女性に近づく。
「俺達はカツアゲなんてしてねーよ。ちょっと友達から金を借りようとしてるだけだよ」
ちなみにさっき初めてあった人達で高校の同級生とか中学校の旧友とかではない。
「お嬢ちゃんもカッコ良いけど……部外者は黙ってろ!」
男は女性を突き飛ばす。
だが女性は下がらない。
「お前らみたいなの見てるだけでイライラするんだよ!」
「痛い目見ないと分かんないのかこのアマ!」
男が怒鳴りつけると女性の右拳が男の顔面を打つ。
男は鼻血を垂らしながら倒れた。
「てめぇ!」
残りの3人が女性を取り囲む。
ああ、面倒なことになったな。
このまま女性に任せておけばいいかな?
そんな事を考えているうちに女性は3人を叩きのめしていた。
どうやら僕は助かったようだ。
その時スマホが鳴る。
ママからだ。
「校門で待ってる」
僕は校門に移動しようとした。
「待てよお前!」
女性に呼び止められた。
「このまま黙って行くってのはどういう了見だ!?」
怒りの矛先は僕に向かったようだ。
「あ、ありがとう。ママに呼ばれたから僕行かなきゃ……」
「ママだと!?いい歳して恥ずかしくないのか!?」
「ああ、ごめん。本当に助かったよ。お礼をしたい気持ちはあるんだけど本当にお金持ってないんだ」
「そう言う問題じゃねーだろ!そう言う態度してるからこういう奴等に絡まれるんだよ」
今は君に絡まれてるけどね。
「力人!何やってるの!?」
ママが来た。
「呼んでも来ないし何があったかと思えばこんなガラの悪い女にからまれていたのね。可哀そうに」
ママの思い込みの激しさは筋金入りだ。
「ママ勘違いしないで。この方は……」
「あんたは何も言わなくてもいいの!あなたは大人しい子だからすぐにこういうガラの悪いのにからまれやすいのね」
「なんだと?」
彼女の勘に障ったらしい。
「ちょっと待て!あんたがそういう教育してるからこういう状況をつくっているんじゃねーのか!?」
「力人に問題があるといいたいの!?あなたが力人の何を知ってるの?力人はね……」
「何も知らねーし知りたくもねーよ!財布も持たせてもらえないような情けない根性無しに興味なんかないね!」
「なんですって!?あなたこそ口の利き方も礼儀も知らない失礼な女ね!どういう育てられ方をしたのか知りたいわ」
「少なくともそこの根性も礼儀も自信もないような屑みたいな育てられ方はしてねーよ!」
「口だけは達者な小娘ね!」
ママと女性の口論が繰り広げられていると男が仲裁に入った。
「まあまあ、お二人とも落ち着いて。まずお母さん、あなたは勘違いをされてる」
「あなた誰?」
ママは男を睨みつける。
「地元大3年理工学部の栗林純一といいます」
栗林と名乗った男が事情を説明する。
ママは納得したらしい。
ママは女性を睨みつけると財布からお金を出した。
「礼はするわ。これで十分でしょう?さ、力人行くわよ」
ママはそう言って女性にお札を突きつける。
「ふざけんな!それで終わりか!?子が子なら親も親だな!」
ママの対応は女性には不満だったらしい。
そんな女性を栗林さんは宥める。
「君も落ち着け。……君名前は?」
「……左部綾香」
「左部さんか、初めまして。君の名前は?」
栗林さんが僕に名前を聞いてきた。
「館内力人です」
「館内君か。館内君のお母さん。少しばかり力人君をお借りしていいだろうか?」
「うちの力人に何をするつもり?」
「彼に世の理というものを教えたい。安心してください。悪いようにはしない。ちゃんと責任をもって家に送り届けますから」
「何を吹き込むつもりか知らないけど、栗林さんがそんなことしなくてもうちの力人は立派に育ってます」
「それは重々承知です。ですが少なくとも大学という小さなコミュニティの中で生活する術を彼は知らない。それを彼に教えてあげたい。このままだとお母さんも毎日が心配でしょう?」
「……それもそうね。余計な入れ知恵はしないでしょうね?」
「もちろん」
「わかったわ……力人はあなたに任せるわ。力人、門限までには帰ってくるのよ」
ママはそう言って帰っていった。
栗林さんはそれを見送ると僕と左部さんに言う。
「君達学部は?」
「経済学部です」
「教育学部」
「そうか、皆バラバラか……。館内君は車は無いよね?」
「はい、運転は危ないからってママが免許持たせてくれませんでした」
「左部さんは持ってるのかな?」
「持ってるよ?」
「じゃあ、館内君は僕は連れて行くから左部さんは後ろついて来て」
栗林さんが言う。
「どこに行くんだよ?」
左部さんが聞く。
「国道沿いに青い鳥って喫茶店があるんだ。そこまでついて来て欲しい」
栗林さんがそう言うと僕達は青い鳥という喫茶店に向かった。
喫茶店には何人かの女性がいた。
皆年上のようだ。
栗林さんと僕と左部さんはテーブル席につくと栗林さんが女性に事情を説明する。
「なるほどね……まさに格好の獲物じゃない」
黒い髪のロングヘアの人がそう言った。獲物ってどういう意味?僕ひょっとして選択を間違えた?
ママに電話しようとすると栗林さんが止める。
「君はまず何でもお母さんに頼ろうとするところから直さないといけない」
栗林さんがそう言う。
「そうだな、まずは彼女たちを紹介しようか」
そう言って栗林さんが女性達を紹介してくれた。
北村さんと恵美さんと晶さんと花菜さんと咲良さんと香織さんと夏凛さんと愛莉さん。
さっき獲物と発言したのは恵美さんらしい。
「で、私が呼ばれた理由はなんなの?」
左部さんが聞いた。
愛莉さんが答えた。
「彼の事このままでは良いと思ってないでしょ?」
「そうだな、この腐った根性を叩き直さないと気が済まない!」
「じゃあ、私達の意見と合致するわ。一緒に彼を矯正しない?」
恵美さんが言う。
「そんな方法あるのか?」
「あなた渡辺班って知ってる?地元大生なら知ってると思うけど」
「知ってる。多分高校生でも知ってるよ。地元じゃ有名な都市伝説だ。真相はしらないけど」
「実は私達がそうなの」
恵美さんが言う。
ちなみに僕は知らない。渡辺班ってなに?
「いいわ、乗ったわ。この男は放っておけない。このままだと将来必ず破滅だ」
「本当に意見があうわね」
恵美さんがそう言って笑う。
「で、渡辺班ってのに入ればいいのか?この根性無しと一緒に」
「物分かりのいい子は嫌いじゃないわよ」
なんか僕の知らないところで話が進んでる。
「じゃあ、2人ともスマホを出して」
栗林さんが言うと僕達はスマホを出す。
そしてIDを交換してメッセージグループに招待される。
渡辺班というグループに。
「じゃあ、まずは今日の反省から行こうか」
栗林さんが言う。
まず僕が左部さんに対しての非礼をお詫びするべきだという。
「さっきはどうもすいませんでした。ママに呼ばれて慌ててて……」
「お前は自分の意見てものを持ってないのか!?お前はいくつだ!?」
「18になります」
「……まあ、いい。これから気をつければいい」
あ、そろそろ帰らないとまずい。
「すいません、そろそろ帰らないとママに怒られる……」
「その意識を変えろっていってるんだよ!」
左部さんの機嫌を損ねたようだ。
「でも本当に怒られるし……」
「……重症ね」
恵美さんが言った。
「まあ、いいんじゃないかな?初日から門限破ったりしたら後々面倒だし」
愛莉さんが言う。
「私達もそろそろ帰らないと主人の夕食準備しなきゃ」
花菜さんが言う。
「じゃあ、左部さん。彼を家に送ってやれないかな?」
へ?
「それ栗林さんがやるんじゃないですか?」
「僕は家に送り届けると言っただけで僕が送るとは言って無いよ?」
栗林さんが言う。
「分かりました。こいつに言いたい事あるし」
左部さんはあっさり受け入れた。
そして僕は左部さんの車に乗って家に帰る。
家の前に車を止めるとお礼を言って車を降りようとすると左部さんに呼び止められた。
「連絡先教えろ」
へ?
「お前の電話番号教えろよ」
「どうしてですか?」
「これから必要になるから」
どうしてそうなるのか分からないけど別に困る事でも無いから教えた。
「それじゃ、左部さん今日はありがとうございました」
「……絢香」
へ?
「これからは絢香って呼べ」
「どうしてですか?」
「……少しは渡辺班について調べとけ。いいか、これから私が望む男になってもらうからな。覚悟しておけ」
左部さんはそう言って僕の方に身を乗り出す。
軽く唇と唇が触れ合った。
「じゃあ、またな」
絢香は僕を降ろすと去っていった。
なんだろう?この気持ち。
今まで味わったことのない匂いと感触と感覚。
右左どちらか正解なのか中々決められずにママに選んでもらってた。
けど初めてだった。
浮かぶ大切な誰かに悲しい思いはさせまいと。
小さな勇気をもって前に進もう。
ちぐはぐなら斜めに進め。
進めたなら光になる。
季節の針は音を立てた。
春が来て僕は新しいページに絵の具を落とす。
友達?ができた。
それぞれの理由を胸に僕らは何度目かの木洩れ日の中で間違ってないはずの未来へ向かう。
その片道が追い風に揺れた今日は花マルだ。
すぐこんがらがって悩んで幸せなはずがもやついて
けれどふとしたことで一瞬で綻ぶ
そんな風にきっとできそうだね。
瞬きの数だけ写真になれ。
筆を躍らせる僕らはこの時を止めて今いたくなる。
笑顔があふれてみたことない色になって視界に収まらないから。
出来上がるページを見る誰かの為を想うそんなんじゃないね。
今でも分からない答えがある。
「わからない」って言うと「ざまみろ」って舌を出される。
夢が叶う。そんな運命が嘘だとしても、また違う色を混ぜてまた違う未来を作る。
神様が呆れる頃きっと暖かな風が吹く。
春が来て僕らは欲張ってしまう。
これまでの大切と同じ数新しいが始まる。
春が来て僕らは新しいページに絵の具を落とす。
それぞれの理由を胸に僕らは何度目かの木洩れ日の中で間違ってないはずの未来へ向かう。
その片道切符が揺れたのは、追い風のせいなんだけどさちゃんとこの足が選んだ答えだから見守ってください。
(3)
ピンポーン
呼び鈴が鳴った。
時計は17時半。
こんな時間に誰だろう?
ママがでる。
「あの、どちらさまですか?」
「初めまして石原恵美といいます、力人さんはおられますか?」
「力人、お客様よ」
僕が玄関に行くと恵美さんがいた。
「すぐに出かける準備をしなさい。連絡はしたはずよ」
「その件ならちゃんとお断りしたはずですけど?」
こんな時間から外出なんて許してくれるはずがない。
「いいから出かける準備をしなさい。その間にお母さんと話をするから」
恵美さんに言われると部屋に戻って着替えようとする。
「力人、もう夕飯はできてるわよ!出かけるのは止めなさい!」
「今日彼の歓迎会をやるんです。彼がいないと話にならない」
「うちの子は門限は18時と決めてあるの。勝手な約束しないでください」
「そうはいかないわね。予定を変えるつもりは無いわ」
言われたとおりに着替えて外出できるようにした。
「なんと言われようとこの子の外出は許可できません。お引き取り下さい」
「……彼ももう18。彼の意見を聞いてやっても良いのでは?」
「あなた子供はいるの?」
「いえ、まだいません。残念ながら」
「話にならないわね。子を思う親の気持ちを理解できるはずがない」
母さんは勝ち誇る。
だが恵美さんは余裕をまだ持っているようだった。
「あなたは間違ってる」
恵美さんはキッパリ言った。
「なんですって?」
母さんの表情が険しくなる。
「あなたは無責任です。自分の気持ちを押し付けるあまり彼の自我を押しつぶしてる」
「無責任?私はこれまで責任もって力人の面倒をしっかり見たつもりです」
「これまではそれでいい。これからはどうするおつもりで?」
「これからも責任をもって育てるつもりです!」
「責任を持って就職先を決めて結婚相手も決めて育児にも口出しする。そう言いたいのですか?」
「そうよ、それのどこが悪いの?」
「あなたの意思に関係なく彼は自分で責任を取らなければいけない時がきます。その時にあなたはどうするおつもりですか?」
「そ、それは……」
「あなたは自分の行動に責任を取れない無責任な男の子供を産めますか?育児だって教育だってすべて親任せが本当に彼にとっていい将来だと言えますか?」
僕は二人の話を聞いていた。
恵美さんはママに言ってるんじゃない。ママを通して僕に言ってるんだ。
「あなたがもしいない時、もし自分一人で決断しないといけない時。それでもあなたに頼って生きて行くんですか?」
僕一人で決断するとき何を頼ればいい?
誰を信用して何に奮闘してこの先歩けばいい?
ママは反論しなかった。
出来なかったのだろう。
「力人、自分で決めなさい。『ママに言われたから!』『私に言われたから』なんて言い訳は聞かない!自分の行動に責任を取りなさい」
恵美さんが言う。
「あなた、さっきから好き勝手な事を言って。この子に何かあったら責任とれるの!?」
母さんが言う。
「取るつもりはありません。もう卵の殻を尻に引っ付けたひな鳥じゃないんだから自分で責任とるべきだわ」
「この子はそう言う事にまだ慣れてないの!いきなりそんな事言ったら可哀そうだと思わないの?」
「その為に私達がいる。彼に自我を持たせる方法を与える。それが私達の役目。彼の将来なら約束してあげるわ。その道を選ぶかは彼次第だけど」
「母さん……僕行ってくる」
僕はそう言って靴を履く。
「力人!」
「ママには感謝してる。僕をここまで育ててくれた事。でもここから先は自分で進む」
「あなたこの女に騙されてるだけよ。ママの言う事はいつだって正しかったでしょ?」
「あの日、僕は大きな間違いを犯した」
「間違い?」
「簡単な間違いだ。ママの呼び出しを優先して絢香にお礼を言うという誰でも分かることに気付かなかった」
「そんなの気にすることない。ママがちゃんとお礼を言ったでしょ」
「だけどその方法が間違っていた。絢香を怒らせてしまった。何が正しいのか何が間違ってるのか僕は全部ママに頼りきりだった。まずはそれを正さなくちゃならない」
「力人……」
ママは言葉が続かなかった。
「大丈夫、自分の行動に責任を取れる人間になってくるから。恵美さん行きましょう」
「ええ」
その場に立ち尽くすママを置いて会場に向かった。
(4)
愛莉といつもの焼き鳥屋さんに行くと席について飲み物を取る。
僕のテーブルには愛莉と北村さんと栗林さんと館内君と左部さん、多田夫妻と石原夫妻がいた。
北村さんに館内君と左部さんを紹介される。
二人については渡辺班で話を聞いてる。
「トーヤちょっといいか?」
カンナが言った。
「どうした?」
「酒が入る前に相談しておいた方がいいと思ってな」
「どうしたんだ?」
「いや、トーヤの税理士事務所って確定申告とかもしてくれるのか?」
「ああ、してるけど」
「私たちの確定申告お願いしたいんだ」
「いったいどうしたんだ?」
誠が問題だった。
税金のことなど考えずに外車を買ったり領収書を捨てたりで、大分持っていかれたらしい。
それでカンナと大喧嘩になって。今に至る。
「わかった。誠、領収書ちゃんととっとけよ。経費になるかはこっちで決めるから」
「わりーな」
「片桐君も板についてきたって感じね?」
恵美さんが言う。
「まあ、慣れたかな」
「で、うちの事務所はどんな感じなのかしら?」
「いつも言ってるけど経営状態は悪くない。ただもう少し福利厚生費にお金をかけておいても悪くないかもしれない」
「わかりました」
石原君が笑って言う。
「皆さん大変長らくお待たせしました。これから渡辺班の新歓コンパを始めたいと思います。まず渡辺さんから挨拶を」
西松君が言う。
それから自己紹介が始まる。
今年は館内君と左部さんだけらしい。
二人と話をする。
心を読むまでもない。
助言をするまでもない。
二人とも心を通わせているようだ。
館内君の新しいページに絵の具は落とされた。
きっと間違ってないはずの未来へ向かっているだろう。
ちゃんと自分の足で選んだ答えを進んでいる。
いつも通りますたーどの出し物をされて、盛り上がって1次会は終わった。
そして二次会に行く。
「そろそろ帰らないとママが……」
館内君が言う。
そんな理由が通るほど渡辺班は甘くはない。
「なるほどな、恵美たちが勧誘した理由がわかったよ」
「徹底的に教育が必要だな!」
カンナと美嘉さんが言う。
「そうね、荒療治がいいかもしれないわね」
恵美さんが言う。
「そう言う事なら私から提案がある!」
左部さんが言った。
「力人!連休中に私の家に引っ越せ!生活を一から叩き直してやる!」
左部さんはそう言う系統らしい。
「無茶言わないでよ絢香!そんなのままが許してくれるはずがない」
館内君が言う。
「だ、そうだけど。恵美さんどうなの?」
「問題ないわ。そんな根性合宿で叩き直す!」
「その前に今日は朝まで徹底的にしごいてやらないとな!」
美嘉さんが言う。
その言葉通り二次会では二人を美嘉さんとカンナと恵美さんと晶さんが取り囲んでいた。
他の女性陣もまざっている。
北村さん達は歌っていた。
「冬夜、外車はまずかったかな?」
誠が言う。
「詳細を見てないと分からないけど、誠の収入と車の使用頻度によっては減価償却が認められるから大丈夫だよ」
「そうか……」
「ただ、お前これから子供つくったりするんだろ?別に車買う必要あるんじゃないのか?」
「それは大丈夫だ。ちゃんと家族で乗れるのにしてる」
「そうか、あとは……」
誠に節税対策を説明していく。
個人事業主では限度がある。手っ取り早いのは恵美さんの事務所に登録する事。
誠は地元TVのCM出演などのギャラも多いらしい。
事務所に報酬を支払って利益を減らすことも可能だ。
「冬夜も勉強してるんだな」
誠が言う。
「これも仕事だからな」
「お前たち今年はどうなんだ?合宿はこれそうか?」
渡辺君が聞いてきた。
誠は後半なら大丈夫だという。
「分かった。西松に言っておく」
「聞いてますよ。後半ですね。分かりました」
西松君が言う。
その後は女性陣にガミガミ言われている館内君を見ながらのんびり食べて飲んでいた。
朝になるとみんな解散する。
館内君は左部さんが送っていくという。
「じゃあ、次は合宿だな」
渡辺君がいうと「お疲れ様」と皆帰っていった。
僕達もバスに揺られながら帰る。
帰るとシャワーを浴びてベッドに倒れ込む。
知らないうちに眠っていた。
気が付いたら昼だった。
しまった!
当然のように愛莉は寝室にはいない。
リビングに行くと愛莉がいる。
「あ、冬夜さん。おはようございます。すぐにお昼にしますね」
「ごめん、油断してた」
「大丈夫です、ちゃんと最低限の家事にとどめておきましたから」
愛莉はそう言って微笑む。
「午後は構ってやるから」
「本当ですか?それなら」
愛莉の要求を聞いてやる。
細やかな要求だ。
夕食は外で食べることにした。
夕食を食べると帰って風呂に入る。
今度はちゃんと起きていた。
愛莉が風呂から戻ってくると愛莉の相手をしてやる。
もう何も言わなくても分る。
愛莉の望むことくらい把握している。
そして愛莉は喜ぶ。
時間になるとベッドに入る。
「また明日から頑張ってくださいね」
「ああ、頑張るよ」
時間はゆっくりと着実に流れていく。
夢が叶うそんな運命が嘘だとしても、また違う色混ぜてまた違う未来を作ろう。
神様が呆れる頃、きっと暖かな風が吹く。
また春が来て僕らはごめんねと欲張ってしまう。
新しいと同じ数これまでの大切が続くように。なんて。
また春が来て僕らは新しいページに絵の具を落とす。
友達になった、美味しいものを食べた、たまにちょっと喧嘩をした。
それぞれの理由を無得に僕らは何度目かの木洩れ日の中で間違ってないはずの未来へ向かう。
その片道切符がゆれたのは、追い風のせいなんだけどさ。
ちゃんとこの足が選んだ答えだから見守って。
「冬夜さん、起きてくださいな。朝ですよ」
「おはよう愛莉」
冬夜さんと朝の挨拶を交わすとベッドを抜けてキッチンに向かう。
冬夜さんが着替えて支度をしている間に朝食を作り終える。
そして二人で朝食。
よく男性の人はご飯を食べながらスマホを見たりテレビを見たり新聞を読んだりするらしいけど冬夜さんはそれが無い。
ひたすら私との会話に没頭する。
それは朝食が終り片づけをしている間も続く。
片づけが終り私とリビングで落ち着くまで。
甘い一時を過ごすと冬夜さんは出勤の時間。
「行ってらっしゃい、お気をつけて」
「ああ、行ってくるよ」
冬夜さんを見送ると私も仕事開始。
洗濯をはじめて、掃除をする。
掃除が終わったら洗濯物を取り出して片付ける。
その間にゴミ出しがあるときはゴミ出しを忘れない。
その際ご近所の主婦と話をする。
ご近所付き合いは大事だとりえちゃんから聞いてる。
それが終ると昼食にする。
昼食を食べ終わって片付け終わった頃に冬夜さんから電話が入る。
今日は定時で上がれるそうだ。
電話を終えるとまだ済んでない家事をこなす。
家事が終ったら出かける。
青い鳥に向かう。
美里と恵美と晶と花菜と咲良と香織と夏凛がいる。
お茶を飲みながらお話をする。
咲良は専業主婦を選択したらしい。
檜山さんの収入で十分暮らしていけるから家事に専念したいんだとか。
恵美は毎日来るわけじゃない。
石原君の代わりに芸能事務所USEの経営をして行かなければならない。
重要な決断は石原君にさせてるらしいけど。
大学生組は殆ど来ない。
栗林君が顔を見せに来る程度だ。
他の皆は大学が遠かったり、サークルで忙しかったり、バイトをしてたりなど。
私達は長閑に話をする。
女性が8人もいれば話題が尽きることは無い。
それぞれの生活の中であったことを聞く。
美里と栗林君は良好な関係を築いているらしい。
特に不満はないそうだ。
お互いバイトをしているという事も理解してもらえてるらしい。
恵美は石原君のサポートで手一杯らしい。
2社の社運を背負わされているから少しでも負担を減らしてあげたいと思ってるそうだ。
それでも石原君は愚痴一つ漏らさず与えられた仕事をこなして重大な決断を自分でしている。
晶は酒井君がようやく仕事が落ち着いてきたという。
酒井君まで回る仕事が無くなり専務や秘書で細かい事は処理するようになったらしい。
本当に重要な時だけ酒井君が駆り出される。
酒井コーポレーションの課題は酒井君の負担を如何に減らすか。
かみ砕いて言えば酒井君に残業をさせないようにするのが課題らしい。
その為ならたとえ官僚との交渉であろうと断ることがあるらしい。
官僚との会食さえ晶は許さなかった。
そんな事をすれば県政すらも揺るがす惨事が待っている。
部下も必死らしい。
木元先輩の仕事も同様だ。
花菜が不満を漏らせば晶の耳に届いて、晶の耳に届けばすぐに晶の父親の耳に入る。
それで出入り禁止になったり業者入れ替えも当たり前のように起こっている。
原田総合デザインの仕事も請け負うようになった。
原田総合デザインからの要望もあって、竹本君の勤務する建付家具業者に仕事を回しているそうだ。
地元銀行との取引は檜山先輩と行っている。
檜山先輩は取引先の接待が多く、何度言っても夕食を作らせるだけ作らせておいて接待で要らないって事後報告なんだそうだ。
咲良はそれが不満らしい。
檜山先輩は冬夜さんが務める税理士事務所に仕事を紹介してくれるらしい。
竹本君の会社も冬夜さんが担当することになったそうだ。
冬夜さんの会社はそこまで大きくないので、また冬夜さんを指名することが多く、冬夜さんは繁忙期に怯えている。
香織たちもやはり4月という時期もあるのだろうか、自分の主人が飲み会で遅くなる事が多いらしい。
しかし、工期をきっちり守ってゆとりあるスケジュールで進行しているらしいので残業はそんなにないという。
木元先輩は基礎工事などの時に立ち会わなければならないので残業するらしいけど。
工期を守らない、工期ギリギリになる、工程を打ち合わせ通りに行わない会社は晶によって淘汰されていく。
「そんな能無しにくれてやる仕事はない。業者はいくらでもいる」
晶は言う。
森重市長が晶の家に菓子折りを持って交渉に来たことがあるそうだ。
「地元の零細企業を守って欲しい」と。
「企業を守るのは承知したけど約束事も守れない役立たずを庇う必要はない」と言ったそうだ。
事実上、晶の建設会社が公共工事の大半を請け負ってるらしい。
工期を守り予算を押さえ一定の品質を保った工事をするのは晶の建設会社くらいなんだとか。
その裏で次々と淘汰されていくブラック企業。
晶のやっていることが良い事なのか悪い事なのかは私には判断できなかった。
ただ言えるのは晶さんのお蔭で私達はのんびりしていられるんだなという事。
そんな話をしていると栗林君が見知らぬ二人を連れて来た。
1人はただ怯えながら栗林君に手を掴まれてやって来た青年。黒い髪を首にかかるくらいまで伸ばして前髪を揃えている。デニム生地のシャツにジーンズというあまりにもしゃれっ気の無い格好。
もう1人は気の強そうな女性。栗色のショートボブにピアスを開けている。神奈と同じくらいスタイルが細くカッコいい。白パンツに水色のシャツ黒いジャケットを着ている。ヒールのある靴を履いている。
「栗林君。その人達は?」
恵美が聞いていた。
「今年の新人候補ですよ」
栗林君がそう言ってにやりと笑った。
(2)
「すぐ返すからさ。少し貸してくれね?」
国公立の大学でもカツアゲなんてものが存在するのだろうか?
まあ、今現在進行形で起こってるのだからあるのだろうけど。
ママが来るまでまだ時間がある。
僕は4人の男に囲まれていた。
困ったな。
こんな面倒事が起こるなんて想像してなかった。
ちょっとした見物になってるらしくて回しに人だかりが出来てる。
「ほらぐずぐずしないで財布出せよ!」
男の一人が僕の胸ぐらを掴む。
「あ、あの……」
考えた末僕は正直に話をした。
「財布はママが持ってて僕今一円も持ってないんです」
「ふざけてんのかてめぇ!ちょっとジャンプしてみろよ!」
言われる通りジャンプした。
小銭すらもってない。
持ってるのは授業に必要な道具とママと連絡するためのスマホ。
男達による僕の身体検査が行われている最中に女性の声がした。
「何やってんだお前ら!?」
男たちはその声の主を睨みつける。
僕も気になったので見て見た。
栗色のショートボブのちょっと小麦色の女性。
白いパンツに水色のシャツ黒いジャケットを羽織っている。
トートバッグを持った彼女は彼等の視線に臆することなく言い放った。
「大学生にもなってカツアゲなんてダセー真似してんじゃねーよ!」
男の一人が女性に近づく。
「俺達はカツアゲなんてしてねーよ。ちょっと友達から金を借りようとしてるだけだよ」
ちなみにさっき初めてあった人達で高校の同級生とか中学校の旧友とかではない。
「お嬢ちゃんもカッコ良いけど……部外者は黙ってろ!」
男は女性を突き飛ばす。
だが女性は下がらない。
「お前らみたいなの見てるだけでイライラするんだよ!」
「痛い目見ないと分かんないのかこのアマ!」
男が怒鳴りつけると女性の右拳が男の顔面を打つ。
男は鼻血を垂らしながら倒れた。
「てめぇ!」
残りの3人が女性を取り囲む。
ああ、面倒なことになったな。
このまま女性に任せておけばいいかな?
そんな事を考えているうちに女性は3人を叩きのめしていた。
どうやら僕は助かったようだ。
その時スマホが鳴る。
ママからだ。
「校門で待ってる」
僕は校門に移動しようとした。
「待てよお前!」
女性に呼び止められた。
「このまま黙って行くってのはどういう了見だ!?」
怒りの矛先は僕に向かったようだ。
「あ、ありがとう。ママに呼ばれたから僕行かなきゃ……」
「ママだと!?いい歳して恥ずかしくないのか!?」
「ああ、ごめん。本当に助かったよ。お礼をしたい気持ちはあるんだけど本当にお金持ってないんだ」
「そう言う問題じゃねーだろ!そう言う態度してるからこういう奴等に絡まれるんだよ」
今は君に絡まれてるけどね。
「力人!何やってるの!?」
ママが来た。
「呼んでも来ないし何があったかと思えばこんなガラの悪い女にからまれていたのね。可哀そうに」
ママの思い込みの激しさは筋金入りだ。
「ママ勘違いしないで。この方は……」
「あんたは何も言わなくてもいいの!あなたは大人しい子だからすぐにこういうガラの悪いのにからまれやすいのね」
「なんだと?」
彼女の勘に障ったらしい。
「ちょっと待て!あんたがそういう教育してるからこういう状況をつくっているんじゃねーのか!?」
「力人に問題があるといいたいの!?あなたが力人の何を知ってるの?力人はね……」
「何も知らねーし知りたくもねーよ!財布も持たせてもらえないような情けない根性無しに興味なんかないね!」
「なんですって!?あなたこそ口の利き方も礼儀も知らない失礼な女ね!どういう育てられ方をしたのか知りたいわ」
「少なくともそこの根性も礼儀も自信もないような屑みたいな育てられ方はしてねーよ!」
「口だけは達者な小娘ね!」
ママと女性の口論が繰り広げられていると男が仲裁に入った。
「まあまあ、お二人とも落ち着いて。まずお母さん、あなたは勘違いをされてる」
「あなた誰?」
ママは男を睨みつける。
「地元大3年理工学部の栗林純一といいます」
栗林と名乗った男が事情を説明する。
ママは納得したらしい。
ママは女性を睨みつけると財布からお金を出した。
「礼はするわ。これで十分でしょう?さ、力人行くわよ」
ママはそう言って女性にお札を突きつける。
「ふざけんな!それで終わりか!?子が子なら親も親だな!」
ママの対応は女性には不満だったらしい。
そんな女性を栗林さんは宥める。
「君も落ち着け。……君名前は?」
「……左部綾香」
「左部さんか、初めまして。君の名前は?」
栗林さんが僕に名前を聞いてきた。
「館内力人です」
「館内君か。館内君のお母さん。少しばかり力人君をお借りしていいだろうか?」
「うちの力人に何をするつもり?」
「彼に世の理というものを教えたい。安心してください。悪いようにはしない。ちゃんと責任をもって家に送り届けますから」
「何を吹き込むつもりか知らないけど、栗林さんがそんなことしなくてもうちの力人は立派に育ってます」
「それは重々承知です。ですが少なくとも大学という小さなコミュニティの中で生活する術を彼は知らない。それを彼に教えてあげたい。このままだとお母さんも毎日が心配でしょう?」
「……それもそうね。余計な入れ知恵はしないでしょうね?」
「もちろん」
「わかったわ……力人はあなたに任せるわ。力人、門限までには帰ってくるのよ」
ママはそう言って帰っていった。
栗林さんはそれを見送ると僕と左部さんに言う。
「君達学部は?」
「経済学部です」
「教育学部」
「そうか、皆バラバラか……。館内君は車は無いよね?」
「はい、運転は危ないからってママが免許持たせてくれませんでした」
「左部さんは持ってるのかな?」
「持ってるよ?」
「じゃあ、館内君は僕は連れて行くから左部さんは後ろついて来て」
栗林さんが言う。
「どこに行くんだよ?」
左部さんが聞く。
「国道沿いに青い鳥って喫茶店があるんだ。そこまでついて来て欲しい」
栗林さんがそう言うと僕達は青い鳥という喫茶店に向かった。
喫茶店には何人かの女性がいた。
皆年上のようだ。
栗林さんと僕と左部さんはテーブル席につくと栗林さんが女性に事情を説明する。
「なるほどね……まさに格好の獲物じゃない」
黒い髪のロングヘアの人がそう言った。獲物ってどういう意味?僕ひょっとして選択を間違えた?
ママに電話しようとすると栗林さんが止める。
「君はまず何でもお母さんに頼ろうとするところから直さないといけない」
栗林さんがそう言う。
「そうだな、まずは彼女たちを紹介しようか」
そう言って栗林さんが女性達を紹介してくれた。
北村さんと恵美さんと晶さんと花菜さんと咲良さんと香織さんと夏凛さんと愛莉さん。
さっき獲物と発言したのは恵美さんらしい。
「で、私が呼ばれた理由はなんなの?」
左部さんが聞いた。
愛莉さんが答えた。
「彼の事このままでは良いと思ってないでしょ?」
「そうだな、この腐った根性を叩き直さないと気が済まない!」
「じゃあ、私達の意見と合致するわ。一緒に彼を矯正しない?」
恵美さんが言う。
「そんな方法あるのか?」
「あなた渡辺班って知ってる?地元大生なら知ってると思うけど」
「知ってる。多分高校生でも知ってるよ。地元じゃ有名な都市伝説だ。真相はしらないけど」
「実は私達がそうなの」
恵美さんが言う。
ちなみに僕は知らない。渡辺班ってなに?
「いいわ、乗ったわ。この男は放っておけない。このままだと将来必ず破滅だ」
「本当に意見があうわね」
恵美さんがそう言って笑う。
「で、渡辺班ってのに入ればいいのか?この根性無しと一緒に」
「物分かりのいい子は嫌いじゃないわよ」
なんか僕の知らないところで話が進んでる。
「じゃあ、2人ともスマホを出して」
栗林さんが言うと僕達はスマホを出す。
そしてIDを交換してメッセージグループに招待される。
渡辺班というグループに。
「じゃあ、まずは今日の反省から行こうか」
栗林さんが言う。
まず僕が左部さんに対しての非礼をお詫びするべきだという。
「さっきはどうもすいませんでした。ママに呼ばれて慌ててて……」
「お前は自分の意見てものを持ってないのか!?お前はいくつだ!?」
「18になります」
「……まあ、いい。これから気をつければいい」
あ、そろそろ帰らないとまずい。
「すいません、そろそろ帰らないとママに怒られる……」
「その意識を変えろっていってるんだよ!」
左部さんの機嫌を損ねたようだ。
「でも本当に怒られるし……」
「……重症ね」
恵美さんが言った。
「まあ、いいんじゃないかな?初日から門限破ったりしたら後々面倒だし」
愛莉さんが言う。
「私達もそろそろ帰らないと主人の夕食準備しなきゃ」
花菜さんが言う。
「じゃあ、左部さん。彼を家に送ってやれないかな?」
へ?
「それ栗林さんがやるんじゃないですか?」
「僕は家に送り届けると言っただけで僕が送るとは言って無いよ?」
栗林さんが言う。
「分かりました。こいつに言いたい事あるし」
左部さんはあっさり受け入れた。
そして僕は左部さんの車に乗って家に帰る。
家の前に車を止めるとお礼を言って車を降りようとすると左部さんに呼び止められた。
「連絡先教えろ」
へ?
「お前の電話番号教えろよ」
「どうしてですか?」
「これから必要になるから」
どうしてそうなるのか分からないけど別に困る事でも無いから教えた。
「それじゃ、左部さん今日はありがとうございました」
「……絢香」
へ?
「これからは絢香って呼べ」
「どうしてですか?」
「……少しは渡辺班について調べとけ。いいか、これから私が望む男になってもらうからな。覚悟しておけ」
左部さんはそう言って僕の方に身を乗り出す。
軽く唇と唇が触れ合った。
「じゃあ、またな」
絢香は僕を降ろすと去っていった。
なんだろう?この気持ち。
今まで味わったことのない匂いと感触と感覚。
右左どちらか正解なのか中々決められずにママに選んでもらってた。
けど初めてだった。
浮かぶ大切な誰かに悲しい思いはさせまいと。
小さな勇気をもって前に進もう。
ちぐはぐなら斜めに進め。
進めたなら光になる。
季節の針は音を立てた。
春が来て僕は新しいページに絵の具を落とす。
友達?ができた。
それぞれの理由を胸に僕らは何度目かの木洩れ日の中で間違ってないはずの未来へ向かう。
その片道が追い風に揺れた今日は花マルだ。
すぐこんがらがって悩んで幸せなはずがもやついて
けれどふとしたことで一瞬で綻ぶ
そんな風にきっとできそうだね。
瞬きの数だけ写真になれ。
筆を躍らせる僕らはこの時を止めて今いたくなる。
笑顔があふれてみたことない色になって視界に収まらないから。
出来上がるページを見る誰かの為を想うそんなんじゃないね。
今でも分からない答えがある。
「わからない」って言うと「ざまみろ」って舌を出される。
夢が叶う。そんな運命が嘘だとしても、また違う色を混ぜてまた違う未来を作る。
神様が呆れる頃きっと暖かな風が吹く。
春が来て僕らは欲張ってしまう。
これまでの大切と同じ数新しいが始まる。
春が来て僕らは新しいページに絵の具を落とす。
それぞれの理由を胸に僕らは何度目かの木洩れ日の中で間違ってないはずの未来へ向かう。
その片道切符が揺れたのは、追い風のせいなんだけどさちゃんとこの足が選んだ答えだから見守ってください。
(3)
ピンポーン
呼び鈴が鳴った。
時計は17時半。
こんな時間に誰だろう?
ママがでる。
「あの、どちらさまですか?」
「初めまして石原恵美といいます、力人さんはおられますか?」
「力人、お客様よ」
僕が玄関に行くと恵美さんがいた。
「すぐに出かける準備をしなさい。連絡はしたはずよ」
「その件ならちゃんとお断りしたはずですけど?」
こんな時間から外出なんて許してくれるはずがない。
「いいから出かける準備をしなさい。その間にお母さんと話をするから」
恵美さんに言われると部屋に戻って着替えようとする。
「力人、もう夕飯はできてるわよ!出かけるのは止めなさい!」
「今日彼の歓迎会をやるんです。彼がいないと話にならない」
「うちの子は門限は18時と決めてあるの。勝手な約束しないでください」
「そうはいかないわね。予定を変えるつもりは無いわ」
言われたとおりに着替えて外出できるようにした。
「なんと言われようとこの子の外出は許可できません。お引き取り下さい」
「……彼ももう18。彼の意見を聞いてやっても良いのでは?」
「あなた子供はいるの?」
「いえ、まだいません。残念ながら」
「話にならないわね。子を思う親の気持ちを理解できるはずがない」
母さんは勝ち誇る。
だが恵美さんは余裕をまだ持っているようだった。
「あなたは間違ってる」
恵美さんはキッパリ言った。
「なんですって?」
母さんの表情が険しくなる。
「あなたは無責任です。自分の気持ちを押し付けるあまり彼の自我を押しつぶしてる」
「無責任?私はこれまで責任もって力人の面倒をしっかり見たつもりです」
「これまではそれでいい。これからはどうするおつもりで?」
「これからも責任をもって育てるつもりです!」
「責任を持って就職先を決めて結婚相手も決めて育児にも口出しする。そう言いたいのですか?」
「そうよ、それのどこが悪いの?」
「あなたの意思に関係なく彼は自分で責任を取らなければいけない時がきます。その時にあなたはどうするおつもりですか?」
「そ、それは……」
「あなたは自分の行動に責任を取れない無責任な男の子供を産めますか?育児だって教育だってすべて親任せが本当に彼にとっていい将来だと言えますか?」
僕は二人の話を聞いていた。
恵美さんはママに言ってるんじゃない。ママを通して僕に言ってるんだ。
「あなたがもしいない時、もし自分一人で決断しないといけない時。それでもあなたに頼って生きて行くんですか?」
僕一人で決断するとき何を頼ればいい?
誰を信用して何に奮闘してこの先歩けばいい?
ママは反論しなかった。
出来なかったのだろう。
「力人、自分で決めなさい。『ママに言われたから!』『私に言われたから』なんて言い訳は聞かない!自分の行動に責任を取りなさい」
恵美さんが言う。
「あなた、さっきから好き勝手な事を言って。この子に何かあったら責任とれるの!?」
母さんが言う。
「取るつもりはありません。もう卵の殻を尻に引っ付けたひな鳥じゃないんだから自分で責任とるべきだわ」
「この子はそう言う事にまだ慣れてないの!いきなりそんな事言ったら可哀そうだと思わないの?」
「その為に私達がいる。彼に自我を持たせる方法を与える。それが私達の役目。彼の将来なら約束してあげるわ。その道を選ぶかは彼次第だけど」
「母さん……僕行ってくる」
僕はそう言って靴を履く。
「力人!」
「ママには感謝してる。僕をここまで育ててくれた事。でもここから先は自分で進む」
「あなたこの女に騙されてるだけよ。ママの言う事はいつだって正しかったでしょ?」
「あの日、僕は大きな間違いを犯した」
「間違い?」
「簡単な間違いだ。ママの呼び出しを優先して絢香にお礼を言うという誰でも分かることに気付かなかった」
「そんなの気にすることない。ママがちゃんとお礼を言ったでしょ」
「だけどその方法が間違っていた。絢香を怒らせてしまった。何が正しいのか何が間違ってるのか僕は全部ママに頼りきりだった。まずはそれを正さなくちゃならない」
「力人……」
ママは言葉が続かなかった。
「大丈夫、自分の行動に責任を取れる人間になってくるから。恵美さん行きましょう」
「ええ」
その場に立ち尽くすママを置いて会場に向かった。
(4)
愛莉といつもの焼き鳥屋さんに行くと席について飲み物を取る。
僕のテーブルには愛莉と北村さんと栗林さんと館内君と左部さん、多田夫妻と石原夫妻がいた。
北村さんに館内君と左部さんを紹介される。
二人については渡辺班で話を聞いてる。
「トーヤちょっといいか?」
カンナが言った。
「どうした?」
「酒が入る前に相談しておいた方がいいと思ってな」
「どうしたんだ?」
「いや、トーヤの税理士事務所って確定申告とかもしてくれるのか?」
「ああ、してるけど」
「私たちの確定申告お願いしたいんだ」
「いったいどうしたんだ?」
誠が問題だった。
税金のことなど考えずに外車を買ったり領収書を捨てたりで、大分持っていかれたらしい。
それでカンナと大喧嘩になって。今に至る。
「わかった。誠、領収書ちゃんととっとけよ。経費になるかはこっちで決めるから」
「わりーな」
「片桐君も板についてきたって感じね?」
恵美さんが言う。
「まあ、慣れたかな」
「で、うちの事務所はどんな感じなのかしら?」
「いつも言ってるけど経営状態は悪くない。ただもう少し福利厚生費にお金をかけておいても悪くないかもしれない」
「わかりました」
石原君が笑って言う。
「皆さん大変長らくお待たせしました。これから渡辺班の新歓コンパを始めたいと思います。まず渡辺さんから挨拶を」
西松君が言う。
それから自己紹介が始まる。
今年は館内君と左部さんだけらしい。
二人と話をする。
心を読むまでもない。
助言をするまでもない。
二人とも心を通わせているようだ。
館内君の新しいページに絵の具は落とされた。
きっと間違ってないはずの未来へ向かっているだろう。
ちゃんと自分の足で選んだ答えを進んでいる。
いつも通りますたーどの出し物をされて、盛り上がって1次会は終わった。
そして二次会に行く。
「そろそろ帰らないとママが……」
館内君が言う。
そんな理由が通るほど渡辺班は甘くはない。
「なるほどな、恵美たちが勧誘した理由がわかったよ」
「徹底的に教育が必要だな!」
カンナと美嘉さんが言う。
「そうね、荒療治がいいかもしれないわね」
恵美さんが言う。
「そう言う事なら私から提案がある!」
左部さんが言った。
「力人!連休中に私の家に引っ越せ!生活を一から叩き直してやる!」
左部さんはそう言う系統らしい。
「無茶言わないでよ絢香!そんなのままが許してくれるはずがない」
館内君が言う。
「だ、そうだけど。恵美さんどうなの?」
「問題ないわ。そんな根性合宿で叩き直す!」
「その前に今日は朝まで徹底的にしごいてやらないとな!」
美嘉さんが言う。
その言葉通り二次会では二人を美嘉さんとカンナと恵美さんと晶さんが取り囲んでいた。
他の女性陣もまざっている。
北村さん達は歌っていた。
「冬夜、外車はまずかったかな?」
誠が言う。
「詳細を見てないと分からないけど、誠の収入と車の使用頻度によっては減価償却が認められるから大丈夫だよ」
「そうか……」
「ただ、お前これから子供つくったりするんだろ?別に車買う必要あるんじゃないのか?」
「それは大丈夫だ。ちゃんと家族で乗れるのにしてる」
「そうか、あとは……」
誠に節税対策を説明していく。
個人事業主では限度がある。手っ取り早いのは恵美さんの事務所に登録する事。
誠は地元TVのCM出演などのギャラも多いらしい。
事務所に報酬を支払って利益を減らすことも可能だ。
「冬夜も勉強してるんだな」
誠が言う。
「これも仕事だからな」
「お前たち今年はどうなんだ?合宿はこれそうか?」
渡辺君が聞いてきた。
誠は後半なら大丈夫だという。
「分かった。西松に言っておく」
「聞いてますよ。後半ですね。分かりました」
西松君が言う。
その後は女性陣にガミガミ言われている館内君を見ながらのんびり食べて飲んでいた。
朝になるとみんな解散する。
館内君は左部さんが送っていくという。
「じゃあ、次は合宿だな」
渡辺君がいうと「お疲れ様」と皆帰っていった。
僕達もバスに揺られながら帰る。
帰るとシャワーを浴びてベッドに倒れ込む。
知らないうちに眠っていた。
気が付いたら昼だった。
しまった!
当然のように愛莉は寝室にはいない。
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「ああ、頑張るよ」
時間はゆっくりと着実に流れていく。
夢が叶うそんな運命が嘘だとしても、また違う色混ぜてまた違う未来を作ろう。
神様が呆れる頃、きっと暖かな風が吹く。
また春が来て僕らはごめんねと欲張ってしまう。
新しいと同じ数これまでの大切が続くように。なんて。
また春が来て僕らは新しいページに絵の具を落とす。
友達になった、美味しいものを食べた、たまにちょっと喧嘩をした。
それぞれの理由を無得に僕らは何度目かの木洩れ日の中で間違ってないはずの未来へ向かう。
その片道切符がゆれたのは、追い風のせいなんだけどさ。
ちゃんとこの足が選んだ答えだから見守って。
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