その日に出会うものたちへ ~東の巫女姫様は西の地でテイマーとなり、盗まれた家宝を探して相棒の魔獣と共に旅をする~

杵島 灯

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第2章

5.ルフザ村の冒険ギルド?

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 リディは額に右手をかざす。林を抜けて見通しが良くなった道の先に見えるのは、大きな山脈を後ろに背負った小さな村だ。

「あれがルフザ村……」
『これはまた、今まで見た中で一番小さな集落ですねぇ』
「ここが北西の一番はずれらしいから……あ、待ってマックロさん。ちょうどいい場所がある」

 道沿いに大きな岩があった。その横でマックロから下りたリディは馬具をすべて外し、岩の影に隠す。

「これで良し、と。じゃあマックロさんもここで待っててね」
『分かりました。ああ、私も緊張しますよ……』

 言いながらマックロも、のっそりと岩の後ろに姿を消した。

 冒険者ではないリディがナイトメアを連れてルフザ村の冒険ギルドへ行くわけにはいかない。
 マックロには村の外で待機していてもらって、リディが無事冒険者となれたら落ち合うか、あるいは何らかの試験があってマックロの力が必要となるとき合流する手はずになっていた。

 このところずっとマックロに乗っていたので、歩いて移動するのは久しぶりだ。ゆっくりと近づく山並みの緑を眺めながら進み、リディは村の中に入る。

 小さな村の小さな道の端には小さな花が揺れている。村にある建物はせいぜいが二階までしかない小ささ、そのおかげで視界のほとんどは青い空が占めている。
 そんなのどかな光景はこのルフザという場所にとても似つかわしく思え、リディは思わず目を細めた。

 ただ、困ったことに同じような建物ばかりなので目的の“冒険ギルド”がどこにあるのかさっぱり分からない。誰かに尋ねようにも、人に会わない。
 それでも歩いていれば見つけられるだろうと思ったのだが、前方には緑の草原が見えて来た。このままだと村の外へ出てしまうらしい。

「ありゃ。どうしよう」

 思わず呟いた時、左の道から「ほわっ!?」と気の抜けたような声がする。顔を向けると、一人の老人が目を丸くしてリディを見ていた。

「こんにちは!」

 人に会えて嬉しくなったリディが手を振ると、老人はぱちぱちと瞬きをする。

「お、おお。すまんのう。よその人を見るのは久しぶりじゃったから、いやはや、驚いて寿命が縮んだわい」
「えっ、ごめんね、どのくらい縮んじゃった?」
「……ただの例え話じゃよ。そんな深刻な顔をせんでもええわい」

 気まずそうな様子を見せた老人は、杖を突いてゆっくりとリディの傍まで来る。

「ときに嬢ちゃんは何をしとったんかな?」
「実は探してる場所があるんだけど、見つからなくて困ってたとこなの。良かったらどこにあるか教えてもらえる?」
「ええとも。何を探しとるんじゃ?」
「冒険ギルド」
「ぼうけんぎるど?」

 老人は一本調子でリディの言葉を繰り返す。

「ぼうけんぎるど……そんなもんはうちの村に無いぞい」
「またまたー。冗談がうまいね」
「冗談ではないわい。ワシが生まれて八十八年、この村に『ぼうけんぎるど』なるものが存在したことは無い」
「そんなこと言って。本当はあるんでしょ?」
「いーや、ない。絶対に絶対にない。断言する。ないったらないったらない」
「あるったらあるったらあるんだって。ちょっと待ってね」

 リディは手にした荷物を地面に置き、中から『冒険ギルド所在地一覧』と書かれた冊子を取り出してパラパラとめくる。

「ほら、見て。ここ」
「……ルフザ村……あ、確かにこの村のことじゃのう。……ん?」

 老人の目は冊子に記載されている『ルフザ村 冒険ギルドマスター:デール・ブルック』という文字に注がれている。

「デール……? ああ、なんじゃ。冒険ギルドなんつう大層な名前で呼んでからに」
「違うの?」
「違うな。まあ、ついてくれば分かるわい」

 ニッカリ笑って歩き出した老人は、何件か先の建物の前に立つ。

「ここじゃ」

 そこは他の家と同じほどの大きさをした建物だった。
 しかしよく見ると入口の横には看板があり、躍動感のある文字で大きく『何でも屋』と書かれている。

「本当に、何でも屋……」
「ワシの言った通りじゃったろ?」
「うん。……ん?」

 ふと違和感を覚えたリディは看板をまじまじと見つめて笑う。

「いや、私の言うこともあってたよ。ここは冒険ギルドでもあるみたい」

 看板の隅。『何でも屋』の主張に埋もれるようにして下に小さく書かれていたのは『冒険ギルド』という文字だった。


***


 冒険ギルドの基本的な役目は冒険者の統括と、魔獣の討伐に関すること。
 他にも冒険者が増えた今は、違法なものでなければ様々な依頼を受け付けている。
 港街カブレイの冒険ギルドマスター・ナージエッドが教えてくれたように、冒険ギルドには魔獣退治のほかにも、遺跡の調査や護衛、古語解読、アイテム修理に調理手伝い、子守りなど。

 他にも、多くの冒険ギルドは食堂を備えている。ただしこれは別に冒険者専用というわけではない。
 更に、ある程度の商品を陳列して販売している。これも別に冒険者専用というわけではない。
 集落に到着するたび冒険ギルドを覗いていたリディは、冒険ギルドが何でも屋として認識される場所になりそうだと思ったし、実際になんとなくそんな雰囲気がある冒険ギルド支部も見かけた。

「だけどここまで『何でも屋』って言葉がふさわしい冒険ギルド支部があるなんて思わなかったなあ」

 老人と別れたリディはルフザ村の何でも屋――冒険ギルドの入り口をくぐって呟く。
 値札の貼られた日用雑貨に占拠されている台や『本日のメニュー』が貼られている掲示板には冒険ギルドのマークがある。これらは本来なら冒険者受付台と依頼用の掲示板なのだろう。しかし今は看板と同様に既に何でも屋を構成する品の一つと化していた。

「いらっしゃ……ん?」

 奥で何かの作業をしていた筋骨隆々の男が振り返り、首を傾げる。

「見慣れない服だな。よそから来たのか?」
「うん。ルフザ村の冒険ギルドに用があってね」
「お、そうか。すまんな、分かりにくかったろ?」

 男は入口側へ歩み寄る。窓から入る光で、日焼けした彼の頭皮がきらりと輝いた。

「この村は平和なもんで冒険者もほとんど来なくてよ。暇に飽かして好き勝手してたらこうなっちまったんだ。まあ、いい感じに唯一無二の冒険ギルドになったと思ってるんだけどな」
「確かに。村人たちのためにもなれる格好いいギルドだと思うよ」
「お前さん分かってるじゃねぇか! そうだろそうだろ、そう思うだろ?」

 男は胸を張った。胸筋が盛り上がり、フリルエプロンの胸元に刺繍されたオレンジ色の花が弾けてしまいそうになった。

「さてと。冒険ギルドにようこそ、だ。こんな場所までどうした?」
「デール・ブルックさんを訪ねて来たんだけど、いるかな?」
「もちろんいるぞ。俺だ」
「俺? ってことはあなたがここの何でも屋……じゃない、冒険ギルドのマスター?」
「おうよ。俺がルフザ村の何でも屋の店長、けん、ルフザ村の冒険ギルドマスター、デール・ブルックだ。改めてよろしくな」

 灰色のシャツと黒いズボン、そして黄色のエプロンを身に着けたデールはリディに白い歯を見せ、親指を立てた。
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