3 / 20
第一章 ~ 祈りは魔法となりて
#03 ~ 召喚
しおりを挟む
「ふっ……ふっふっふ」
部屋の中に、声が満ちる。
その中心にいるのは一人の子供だ。五歳にまで成長したその子供は、一見すればまるで女の子にも見える。だがれっきとした男児だ。
「ふわーっはっはっはっは」
その子供は――幼稚園でも「変わっている」と言われる子供だった。
まず、頭が良い。言葉遣いもちゃんとしているし、物静か。それだけならまだ普通の子供……なのだが、どうにも妙なカリスマを持っていた。
幼稚園で、彼に一目置かない者はいない。大人も子供もだ。だがその理由は、妙に名状しがたい。それゆえに「変わっている」という評価に落ち着く結果になっていた。
「にいさま??」
彼の後ろから、天使の声――少なくともそれを聞いた彼にとっては――が聞こえ、少年ははっと振り返る。
「おお、我が天使」
「にいさま、ゆきはてんしじゃないです」
果たしてそうだろうか? と少年は首を傾げる。
彼女は今年三歳になって、同じ幼稚園に入ってきた、彼の妹だ。彼にとって、妹と天使は同義である。
三歳ながらとびきりの美幼女で、しかも兄の教育――本人いわく『淑女教育』――のせいか性格もとびきり良い。これで天使じゃなかったら何なんだッ! とは本人の言である。
「にいさま、こんなまっくらで、なにをやってるのですか?」
彼ら二人がいる部屋は、幼稚園の一室だ。
今は昼寝の時間――この兄妹、こっそり抜け出して忍び込んでいる。この時間は使われていないため、当然真っ暗である。
「ふふふ……妹よ、よく聞いた」
まったく悪びれることなく告げた少年は、その手に紙を掲げた。複雑怪奇な模様が描かれた、A4用紙を。
「――今から、凄いものを見せてやる」
そう言って、少年――千堂祐真は、にっと笑った。
彼はかつて誓った。妹を、そして家族を守れる男に――大魔法使いになってみせると。
それは、荒唐無稽な夢などではない。
そもそもにして、彼は異世界で千年を生きた『大魔法使い』だったのだ。なる、というより取り戻すという表現のほうが近かった。
彼は、研鑽を怠らなかった。
魔法に適性のない身体ではあった。だが魔法の髄の髄まで理解していた彼の修行法が、どれほど効率的だったかなど問うまでもない。
結果として――生まれてしまったのだ。
この現代日本に。
存在するはずのない『魔法使い』が。
(ま、まだまだ理想は遠いけど)
そう。『大魔法使い』はまだ遠い。かつての自分の百分の一、千分の一にもまだ届いていない。
しかしだ、それでも既に、ある程度の魔法行使に問題はない。
そして今日……ついに、念願の魔法を使う。
「これはな、アウズンブラム式で描かれた紋章魔法陣だ」
「あう……ずん?」
「うん。まあ分からなくてもいい。見てなさい」
複雑な紋様が描かれた紙を床に広げ、ふう、と息を吐いた。
……実をいうと。
彼は今日まで、実際に魔法を行使したことは一度もない。
魔法は痕跡を残す。探知術式で探られれば、魔法を使用したかどうかは一発で分かる。痕跡はいつか消えるが、それまでに発見された場合、一体何が起こるか分からない。
だからこそ、慎重に計画を練ってきた。一体何の魔法を、いつ、どうやって、痕跡を残さずに行使するかを。
(……この国には今のところ、魔法の痕跡がない……)
それはすなわち、入念に痕跡を消している可能性が高い。
それが出来るだけの組織が、この国には存在するということだ。そしてそうしてまで、魔法の存在を隠匿したい者たちがいるということだ。下手を踏むわけにはいかない。
――だが。
(俺を舐めるなよ?)
そう言いながら、にやっと笑みを作る。
(痕跡の隠蔽など初歩の初歩。念のため時間をかけたが――この魔術の痕跡、神であろうと見通すことは不可能)
絶対の自信が、彼にはあった。
――まあ全部がただの杞憂なのだが……彼にとって、家族を守ることは至上命題であり、そのためには時間などいくらかけても足りないことである。
「――■■■■■■」
彼の口から漏れた言葉は、この世界の誰にも理解できない言葉だった。
横で聞いていた妹は……虫のざわめきに似ていると、幼いながらにそう思った。
その言葉は、不思議なほどに響かなかった。
音が、まるで吸い込まれるように紙へと落ちると、描かれた魔法陣が青白い光を放った。
それは尋常な光ではなかった。
青白く輝いているというのに、壁も、床も、その色を変えない。何ひとつ照らすこともなく、なのにまるで燃えるように輝いている。
すっと少年が手を伸ばす。
瞬間。
爆発するように、部屋全体に魔法陣が広がった。
呆然とした顔で、彼の妹――千堂雪はそれを眺めていた。
後に彼女は言う。それは、まるで夜空のようだった、と。
幾千、幾万もの青く光る線が、夜空のような漆黒の中を泳ぎ、巡り、幾重もの紋様を描き出していく。
幻想的なその声の中で――静かに、そして甲高く、鳥の声が聞こえた。
「――来い」
その声が契機だったのだろう。
幾何学的な魔法陣は小さく収束していき、小さな、蒼い影へと終息する。その影は翼をはためかせながら、空間を飛び……そして、ぱたぱたと主人公の前に降り立った。
そして――青い光が収まったとき。
床に立った蒼い小鳥が、祐真たちを前にして「ピィ」と甲高く鳴いた。
部屋の中に、声が満ちる。
その中心にいるのは一人の子供だ。五歳にまで成長したその子供は、一見すればまるで女の子にも見える。だがれっきとした男児だ。
「ふわーっはっはっはっは」
その子供は――幼稚園でも「変わっている」と言われる子供だった。
まず、頭が良い。言葉遣いもちゃんとしているし、物静か。それだけならまだ普通の子供……なのだが、どうにも妙なカリスマを持っていた。
幼稚園で、彼に一目置かない者はいない。大人も子供もだ。だがその理由は、妙に名状しがたい。それゆえに「変わっている」という評価に落ち着く結果になっていた。
「にいさま??」
彼の後ろから、天使の声――少なくともそれを聞いた彼にとっては――が聞こえ、少年ははっと振り返る。
「おお、我が天使」
「にいさま、ゆきはてんしじゃないです」
果たしてそうだろうか? と少年は首を傾げる。
彼女は今年三歳になって、同じ幼稚園に入ってきた、彼の妹だ。彼にとって、妹と天使は同義である。
三歳ながらとびきりの美幼女で、しかも兄の教育――本人いわく『淑女教育』――のせいか性格もとびきり良い。これで天使じゃなかったら何なんだッ! とは本人の言である。
「にいさま、こんなまっくらで、なにをやってるのですか?」
彼ら二人がいる部屋は、幼稚園の一室だ。
今は昼寝の時間――この兄妹、こっそり抜け出して忍び込んでいる。この時間は使われていないため、当然真っ暗である。
「ふふふ……妹よ、よく聞いた」
まったく悪びれることなく告げた少年は、その手に紙を掲げた。複雑怪奇な模様が描かれた、A4用紙を。
「――今から、凄いものを見せてやる」
そう言って、少年――千堂祐真は、にっと笑った。
彼はかつて誓った。妹を、そして家族を守れる男に――大魔法使いになってみせると。
それは、荒唐無稽な夢などではない。
そもそもにして、彼は異世界で千年を生きた『大魔法使い』だったのだ。なる、というより取り戻すという表現のほうが近かった。
彼は、研鑽を怠らなかった。
魔法に適性のない身体ではあった。だが魔法の髄の髄まで理解していた彼の修行法が、どれほど効率的だったかなど問うまでもない。
結果として――生まれてしまったのだ。
この現代日本に。
存在するはずのない『魔法使い』が。
(ま、まだまだ理想は遠いけど)
そう。『大魔法使い』はまだ遠い。かつての自分の百分の一、千分の一にもまだ届いていない。
しかしだ、それでも既に、ある程度の魔法行使に問題はない。
そして今日……ついに、念願の魔法を使う。
「これはな、アウズンブラム式で描かれた紋章魔法陣だ」
「あう……ずん?」
「うん。まあ分からなくてもいい。見てなさい」
複雑な紋様が描かれた紙を床に広げ、ふう、と息を吐いた。
……実をいうと。
彼は今日まで、実際に魔法を行使したことは一度もない。
魔法は痕跡を残す。探知術式で探られれば、魔法を使用したかどうかは一発で分かる。痕跡はいつか消えるが、それまでに発見された場合、一体何が起こるか分からない。
だからこそ、慎重に計画を練ってきた。一体何の魔法を、いつ、どうやって、痕跡を残さずに行使するかを。
(……この国には今のところ、魔法の痕跡がない……)
それはすなわち、入念に痕跡を消している可能性が高い。
それが出来るだけの組織が、この国には存在するということだ。そしてそうしてまで、魔法の存在を隠匿したい者たちがいるということだ。下手を踏むわけにはいかない。
――だが。
(俺を舐めるなよ?)
そう言いながら、にやっと笑みを作る。
(痕跡の隠蔽など初歩の初歩。念のため時間をかけたが――この魔術の痕跡、神であろうと見通すことは不可能)
絶対の自信が、彼にはあった。
――まあ全部がただの杞憂なのだが……彼にとって、家族を守ることは至上命題であり、そのためには時間などいくらかけても足りないことである。
「――■■■■■■」
彼の口から漏れた言葉は、この世界の誰にも理解できない言葉だった。
横で聞いていた妹は……虫のざわめきに似ていると、幼いながらにそう思った。
その言葉は、不思議なほどに響かなかった。
音が、まるで吸い込まれるように紙へと落ちると、描かれた魔法陣が青白い光を放った。
それは尋常な光ではなかった。
青白く輝いているというのに、壁も、床も、その色を変えない。何ひとつ照らすこともなく、なのにまるで燃えるように輝いている。
すっと少年が手を伸ばす。
瞬間。
爆発するように、部屋全体に魔法陣が広がった。
呆然とした顔で、彼の妹――千堂雪はそれを眺めていた。
後に彼女は言う。それは、まるで夜空のようだった、と。
幾千、幾万もの青く光る線が、夜空のような漆黒の中を泳ぎ、巡り、幾重もの紋様を描き出していく。
幻想的なその声の中で――静かに、そして甲高く、鳥の声が聞こえた。
「――来い」
その声が契機だったのだろう。
幾何学的な魔法陣は小さく収束していき、小さな、蒼い影へと終息する。その影は翼をはためかせながら、空間を飛び……そして、ぱたぱたと主人公の前に降り立った。
そして――青い光が収まったとき。
床に立った蒼い小鳥が、祐真たちを前にして「ピィ」と甲高く鳴いた。
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る
こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
俺のレベルが常人では到達不可の領域にある件について ~全ユーザーレベル上限999の中俺だけレベル100億いった~
仮実谷 望
ファンタジー
ダンジョンが当たり前のようにある世界になって3年の月日が流れてずっとダンジョンに入りたいと願っていた青年が自宅にダンジョンが出現する。自宅の押し入れにダンジョンが出現する中、冷静に青年はダンジョンを攻略する。そして自分だけがレベル上限を突破してレベルが無尽蔵に上がり続けてしまう。そうしていづれは最強への探索者として覚醒する青年なのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる