極東の魔王~魔法使い、現代日本に転生す~

山形くじら2号

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第一章 ~ 祈りは魔法となりて

#04 ~ 蒼穹の鳥

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「わあ!」

 雪が、目を輝かせながら歓声を上げた。
 その小鳥は燕にも似ている。まるでサファイアのように蒼く美しい羽をもっていた。
 小鳥は祐真をじっと見ると――翼をばっと広げた。そして軽やかに……そう、まるで宮廷貴族のそれのように、器用に折りたたんで頭を下げた。

「――お久しぶりでございます、主サマ」

「しゃべった!? にいさま、しゃべった!」

 雪が驚きに目を丸くしながら、祐真の腕を引っ張った。
 祐真はといえば、そんな雪の様子に「やっぱりうちの妹は天使」とばかりにニコニコと笑っていたのだが――。

「……主サマ、この女はナニモノですか? 先ほどから、主に失礼な口を――」

「あ“?」

 瞬間。
 大気が圧した。

「――!?」

 鳥は、飛び立つこともできずに全身を総毛立たせる。
 死のイメージが、否応もなく浮かんだ。そしてその後に浮かんだのは、恐怖よりも激しい後悔である。
 この鳥は、忠実な臣下である。自身にそうあれと願い実行することこそ、にとっての誉れである。
 ゆえに。主から怒りを抱かれ、そして失望されるなど、死よりもずっと恐ろしい。

 どうすればいいと、ただひたすら思索を巡らせ――

「にいさま! とりさんをいじめるのは、めっ、です!」

 小柄な少女が小鳥を抱えあげて、抱きしめながら告げた。
 先ほどまであった圧力は一瞬にして霧散し、鳥の主である少年の顔は、にっこにこの笑顔に変わった。

(す、すごい……)

 鳥は感動していた。
 ――主は、まず自分の決めたことは曲げない。他人に影響を受け、左右されるということがない。
 偏屈とも、あるいは意思が強い――強すぎるとも言える。
 それを、この少女は、こうも容易く曲げてみせたのだ。

(この女児……只者ではない……)

 鳥は少女の腕の中で、愕然と震えた。

 ……一方、「めっ」された側の少年は、

(いやあ、うちの妹はやっぱり天使)

 ほんわか笑顔を浮かべながら、そんなことを考えていた。

 鳥が妹に殺気を向けた時は、処刑パターンを無数通り考えたが、今となってはどうでもいい。彼にとって、てんしの前では他は全ては些末事なのである。

 妹はどうやらこの鳥を気にいったらしく、嬉しそうに『なでなで』している。ちょっと嫉妬しそうになったが、まあ妹が気に入っているみたいなので許そう。寛容な心で。だから後で代われ。

『……さて、フィノス』

 不意に、祐真は妹に抱かれたままの鳥の名を呼んだ。ただし肉声ではなく、念話で。

 フィノス・フィオル。それこそが、この蒼い鳥の名である。
 もっとも、ただの鳥ではない。喋る時点でただの鳥ではないが……この鳥は、千堂祐真――正確にはその前世たる魔法使いが使役した、十の使い魔のうちの一柱なのだ。使い魔という表現は若干正確ではないが。

 祐真と彼らは、魂の奥深くで繋がっている。ゆえに転生しても召喚が可能だったし、こうして念話も可能なのだ。

『お前に頼みたいことは、この世界についての調査だ』

『調査、でございますか?』

 そのとおり、と祐真は心の中で頷いた。
 そして順番に説明していく。死んだあと、この世界に転生したこと。お前を抱いているのは自分の妹であり、両親も含め、最も大切な保護対象であること。

 ゆえにこそ、知らなければならない。この世界を。
 自分を、家族たちを害しうる脅威が存在しないのかを。

『なるほど、承知しました』

 そう返事するや否や、小鳥は妹の腕の中からするりと抜け出す。
 窓から外に飛び立つ蒼い鳥に、雪は名残惜し気に見送った。

 ……うん。
 帰ってきたら、あいつは妹の玩具決定だな。

 蒼穹へと飛び上がった鳥が、一瞬、慌てたように祐真へ振り返ったのが見えた。
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