4 / 20
第一章 ~ 祈りは魔法となりて
#04 ~ 蒼穹の鳥
しおりを挟む
「わあ!」
雪が、目を輝かせながら歓声を上げた。
その小鳥は燕にも似ている。まるでサファイアのように蒼く美しい羽をもっていた。
小鳥は祐真をじっと見ると――翼をばっと広げた。そして軽やかに……そう、まるで宮廷貴族のそれのように、器用に折りたたんで頭を下げた。
「――お久しぶりでございます、主サマ」
「しゃべった!? にいさま、しゃべった!」
雪が驚きに目を丸くしながら、祐真の腕を引っ張った。
祐真はといえば、そんな雪の様子に「やっぱりうちの妹は天使」とばかりにニコニコと笑っていたのだが――。
「……主サマ、この女はナニモノですか? 先ほどから、主に失礼な口を――」
「あ“?」
瞬間。
大気が圧した。
「――!?」
鳥は、飛び立つこともできずに全身を総毛立たせる。
死のイメージが、否応もなく浮かんだ。そしてその後に浮かんだのは、恐怖よりも激しい後悔である。
この鳥は、忠実な臣下である。自身にそうあれと願い実行することこそ、彼らにとっての誉れである。
ゆえに。主から怒りを抱かれ、そして失望されるなど、死よりもずっと恐ろしい。
どうすればいいと、ただひたすら思索を巡らせ――
「にいさま! とりさんをいじめるのは、めっ、です!」
小柄な少女が小鳥を抱えあげて、抱きしめながら告げた。
先ほどまであった圧力は一瞬にして霧散し、鳥の主である少年の顔は、にっこにこの笑顔に変わった。
(す、すごい……)
鳥は感動していた。
――主は、まず自分の決めたことは曲げない。他人に影響を受け、左右されるということがない。
偏屈とも、あるいは意思が強い――強すぎるとも言える。
それを、この少女は、こうも容易く曲げてみせたのだ。
(この女児……只者ではない……)
鳥は少女の腕の中で、愕然と震えた。
……一方、「めっ」された側の少年は、
(いやあ、うちの妹はやっぱり天使)
ほんわか笑顔を浮かべながら、そんなことを考えていた。
鳥が妹に殺気を向けた時は、処刑パターンを無数通り考えたが、今となってはどうでもいい。彼にとって、妹の前では他は全ては些末事なのである。
妹はどうやらこの鳥を気にいったらしく、嬉しそうに『なでなで』している。ちょっと嫉妬しそうになったが、まあ妹が気に入っているみたいなので許そう。寛容な心で。だから後で代われ。
『……さて、フィノス』
不意に、祐真は妹に抱かれたままの鳥の名を呼んだ。ただし肉声ではなく、念話で。
フィノス・フィオル。それこそが、この蒼い鳥の名である。
もっとも、ただの鳥ではない。喋る時点でただの鳥ではないが……この鳥は、千堂祐真――正確にはその前世たる魔法使いが使役した、十の使い魔のうちの一柱なのだ。使い魔という表現は若干正確ではないが。
祐真と彼らは、魂の奥深くで繋がっている。ゆえに転生しても召喚が可能だったし、こうして念話も可能なのだ。
『お前に頼みたいことは、この世界についての調査だ』
『調査、でございますか?』
そのとおり、と祐真は心の中で頷いた。
そして順番に説明していく。死んだあと、この世界に転生したこと。お前を抱いているのは自分の妹であり、両親も含め、最も大切な保護対象であること。
ゆえにこそ、知らなければならない。この世界を。
自分を、家族たちを害しうる脅威が存在しないのかを。
『なるほど、承知しました』
そう返事するや否や、小鳥は妹の腕の中からするりと抜け出す。
窓から外に飛び立つ蒼い鳥に、雪は名残惜し気に見送った。
……うん。
帰ってきたら、あいつは妹の玩具決定だな。
蒼穹へと飛び上がった鳥が、一瞬、慌てたように祐真へ振り返ったのが見えた。
雪が、目を輝かせながら歓声を上げた。
その小鳥は燕にも似ている。まるでサファイアのように蒼く美しい羽をもっていた。
小鳥は祐真をじっと見ると――翼をばっと広げた。そして軽やかに……そう、まるで宮廷貴族のそれのように、器用に折りたたんで頭を下げた。
「――お久しぶりでございます、主サマ」
「しゃべった!? にいさま、しゃべった!」
雪が驚きに目を丸くしながら、祐真の腕を引っ張った。
祐真はといえば、そんな雪の様子に「やっぱりうちの妹は天使」とばかりにニコニコと笑っていたのだが――。
「……主サマ、この女はナニモノですか? 先ほどから、主に失礼な口を――」
「あ“?」
瞬間。
大気が圧した。
「――!?」
鳥は、飛び立つこともできずに全身を総毛立たせる。
死のイメージが、否応もなく浮かんだ。そしてその後に浮かんだのは、恐怖よりも激しい後悔である。
この鳥は、忠実な臣下である。自身にそうあれと願い実行することこそ、彼らにとっての誉れである。
ゆえに。主から怒りを抱かれ、そして失望されるなど、死よりもずっと恐ろしい。
どうすればいいと、ただひたすら思索を巡らせ――
「にいさま! とりさんをいじめるのは、めっ、です!」
小柄な少女が小鳥を抱えあげて、抱きしめながら告げた。
先ほどまであった圧力は一瞬にして霧散し、鳥の主である少年の顔は、にっこにこの笑顔に変わった。
(す、すごい……)
鳥は感動していた。
――主は、まず自分の決めたことは曲げない。他人に影響を受け、左右されるということがない。
偏屈とも、あるいは意思が強い――強すぎるとも言える。
それを、この少女は、こうも容易く曲げてみせたのだ。
(この女児……只者ではない……)
鳥は少女の腕の中で、愕然と震えた。
……一方、「めっ」された側の少年は、
(いやあ、うちの妹はやっぱり天使)
ほんわか笑顔を浮かべながら、そんなことを考えていた。
鳥が妹に殺気を向けた時は、処刑パターンを無数通り考えたが、今となってはどうでもいい。彼にとって、妹の前では他は全ては些末事なのである。
妹はどうやらこの鳥を気にいったらしく、嬉しそうに『なでなで』している。ちょっと嫉妬しそうになったが、まあ妹が気に入っているみたいなので許そう。寛容な心で。だから後で代われ。
『……さて、フィノス』
不意に、祐真は妹に抱かれたままの鳥の名を呼んだ。ただし肉声ではなく、念話で。
フィノス・フィオル。それこそが、この蒼い鳥の名である。
もっとも、ただの鳥ではない。喋る時点でただの鳥ではないが……この鳥は、千堂祐真――正確にはその前世たる魔法使いが使役した、十の使い魔のうちの一柱なのだ。使い魔という表現は若干正確ではないが。
祐真と彼らは、魂の奥深くで繋がっている。ゆえに転生しても召喚が可能だったし、こうして念話も可能なのだ。
『お前に頼みたいことは、この世界についての調査だ』
『調査、でございますか?』
そのとおり、と祐真は心の中で頷いた。
そして順番に説明していく。死んだあと、この世界に転生したこと。お前を抱いているのは自分の妹であり、両親も含め、最も大切な保護対象であること。
ゆえにこそ、知らなければならない。この世界を。
自分を、家族たちを害しうる脅威が存在しないのかを。
『なるほど、承知しました』
そう返事するや否や、小鳥は妹の腕の中からするりと抜け出す。
窓から外に飛び立つ蒼い鳥に、雪は名残惜し気に見送った。
……うん。
帰ってきたら、あいつは妹の玩具決定だな。
蒼穹へと飛び上がった鳥が、一瞬、慌てたように祐真へ振り返ったのが見えた。
0
あなたにおすすめの小説
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る
こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
俺のレベルが常人では到達不可の領域にある件について ~全ユーザーレベル上限999の中俺だけレベル100億いった~
仮実谷 望
ファンタジー
ダンジョンが当たり前のようにある世界になって3年の月日が流れてずっとダンジョンに入りたいと願っていた青年が自宅にダンジョンが出現する。自宅の押し入れにダンジョンが出現する中、冷静に青年はダンジョンを攻略する。そして自分だけがレベル上限を突破してレベルが無尽蔵に上がり続けてしまう。そうしていづれは最強への探索者として覚醒する青年なのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる