結婚とは案外悪いもんじゃない

あまんちゅ

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プロローグ

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「ねえねえ、芸能人の◯◯と◯◯電撃結婚ですって! いやまあ意外な組み合わせよねえ!」
「ふーん」

リビングのソファーでスマホをいじっている俺に、母さんが話しかけてきた。母さんはこの手の話に敏感だ。

「はあ。あんたも大人になったら早く結婚しなさいよね。後で後でしてたら、あっというまにお爺ちゃんになってあの世へgoよ」
「はいはい」

ここまではいつもの流れ。何回この話をされたことか。大体、母さんだってシングルマザーじゃないか。
若くして結婚して俺を産んだみたいだけど、すぐに離婚してるんじゃ俺に早く結婚しろなんて言う権利ないでしょ。
と反論したいところだが、そんなことをすれば余計話が長引くだけなのでやめておく。

「さて、そろそろお母さんお仕事いくわ。純平、学校行く前に洗い物だけやっといてね」
「はあ!?」
「してなかったら晩御飯抜きね。んじゃ、よろしく!」

強引に仕事を押し付けて、母さんは仕事へと向かった。くそ、ニュース見てる暇があるなら洗い物ぐらいやっていけってんだ。

よし、そろそろ俺も行くか。
洗い物を済ませた俺は、制服に着替え、鞄を手に取った。


家の玄関を出ると、いつもの場所にいつもの女が立っていた。

「おはよう純平! 今日はいつもより遅いね」

この女は高坂 美幸。俺の幼なじみだ。別に頼んでいるわけじゃないが、学校があるときは毎朝一緒に登校している。周りから、ふたりは付き合ってるの? と聞かれることも多いが、それはない。

「おはよう。お前こそ、今日寝癖凄いな」
「え!? 嘘でしょ!??」
「ああ、嘘」
「貴様……!」
「女子が貴様とか使ってんじゃねぇよ。もっと女子力を磨け女子力を」
「純平には言われたくない!」

文句を垂れる美幸を置いて、俺は一足先に学校へ向かって歩き出す。こんなことをして遅刻してはあとあと面倒くさい。俺だけでも遅刻を免れるのだ。

「ちょっとまちなさーい!!」

置いていかれていることに気づいた美幸が、走って俺のあとを追いかけてくる。全く、朝から賑やかな奴だ。

「ねえねえ純平」
「なんだ?」

体力のない美幸は、ほんの少しの距離を全力ダッシュしただけで少し呼吸が乱れていた。その事を隠そうと平然な顔をしているがバレバレだ。

「あんたってさ、結婚についてどう思ってる?」
「なんじゃそりゃ。美幸も朝から芸能ニュース見てた口か?」
「いやそうじゃなくて。割と真剣に聞いてる」
「真剣にって言われてもな……」

俺はまだ高校生3年生な訳で。しかも今は4月。高校卒業するまであと1年もあるような若造が、結婚なんて考えたこともないわ。

「……うちの親のことは知ってるべ?」
「うん」

まあ幼なじみだからな。うちの両親が離婚してることは美幸は知っている。

「まあ正直、それが影響してるのか、あんまりいいイメージはないな。なーんかお金自由に使えなさそうだし? こう、窮屈!! って感じがするかもな」
「ふーん。純平って結構頭固いのね」
「誰が石頭じゃ」
「物理的にじゃなくて、考え方が極端って話をしてるの!」
「お、おう」

割と真剣に質問しているだけあって、俺の冗談は通じないらしい。いやでも、正直結婚に対するイメージなんてそんなもんだし。

「ほら、結婚は人生の墓場って言葉もあるじゃん? なんかネットとかテレビ見てても結婚に対して否定的な意見多いじゃん?」
「ああもう、そうじゃなくて!」

俺は美幸に胸ぐらを掴まれた。自分より背の低い女子に胸ぐらを掴まれるという人生初の状況に思考停止している俺に、美幸がさらに言葉を投げかける。

「純平は! どう! 結婚!」
「なんだその言葉の区切り方は」
「どう!」
「いやだから、さっきも言ったけどあんまり……ぐおっ!」

しゃべっている途中に、俺を掴んでいた美幸の手にさらに力が入った。やばい、死ぬやつだこれ。

「だから、私と結婚するのはどうって聞いてるの!!!」
「…………」
「………………あ」
「……へ?」

途端に俺への胸ぐら掴み攻撃の手が緩まり、美幸は地面にぺたんと座り込んだ。二人とも本当に思考が停止した。




正直、この後のことは記憶にない。この日どうやって学校に行ったのか。夕飯なに食べたのか。
ただ、この時の美幸の発言をきっかけに、俺たちの関係は激変したのだ。
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