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第7話 浮生若夢-3
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俺は、この店オリジナルのハンバーガーセットを、美幸はドリアとシーザーサラダを注文した。ドリンクにはビールとカシオレ。ちなみに、カシオレが俺だ。ビールは苦手なんだよ。いいじゃないか別に。
それから、二人でつまめるようにピザも注文。バーというものを知らない俺だが、ここは結構ご飯のメニューが充実してると思う。だからこそ、美幸に聞かれたときこの店が思い浮かんだんだ。値段もリーズナブルなのがいい。
それに、ファミレスや居酒屋と違って落ち着いて話ができる。
「美味しい……」
「ほんと? よかった」
届いたドリアを一口食べ、満足そうな表情を浮かべる美幸。まるで、昔の美幸を見ているようだった。あの頃は、学校の昼休みに二人でお弁当を食べることもあった。何気ない日常のヒトコマだったけど、今となっては欠けがないのないものだ。
「…………」
「………………」
……聞きたいことは、山ほどある。でも、どれから聞いたらいいのか分からない。そして、美幸は答えてくれるだろうか。様々な不安と過度の緊張が押し寄せ、言葉が喉から出てこない。
「……そういえば、会社の人とは仲いいの?」
とりあえず、当たり障りのない会話で場を繋ぐ。
「んー、そうだね。いい方だと思うよ。少人数の部署だし、アットホームな感じで」
「そう、なんだ。なんかいいね、そういうの」
「うん。仲が悪いと、仕事中もギスギスしちゃうからね。できれば楽しく仕事したいし」
仕事、楽しくやってるんだ。それはそれで安心したけど、別の不安もある。不安というか、心配。俺が心配できるような立場じゃないかもしれないけど、それでも……。
「……彼氏とか、いるの?」
先に聞くべきことがあるだろ。と自分にツッコミを入れるが、時すでに遅い。口を出た言葉を引っ込めることはできない。自分でも、なんでそんなことを聞いたのかは不明。誰か解明してくれ。
「……その質問に答える前に、私からひとつ聞いてもいいかな?」
「え? う、うん。どうしたの?」
何だろう。美幸の纏う空気が、少し変わったように感じる。気のせいかな。
「高坂くん、私の同僚がお店に忘れ物したって言ってたけど、あれ嘘だよね?」
「あ……」
適当にはぐらそうと考えていた、忘れ物のことか。直接会うことはできないという美幸と会って話をするために、俺が吐いた嘘。どうせすぐにバレると思っていたけど、なんでもうバレてるんだ。
「高坂くんとの電話の後、みんなに確認したんだ。誰か忘れ物してませんかって。でも、みんなしてないって。酔っ払ってたから記憶にないだけかもと思ってたけど、高坂くんの反応を見るとそうでもないみたいだね」
「…………ごめん、嘘吐いた」
「ああ、別に謝らなくていいって。なんでそんな嘘吐いたんだろうって気になっただけだよ」
なんでって、そんなの決まってるだろ。
「……電話でも言ったと思うけど、直接会って話がしたかったんだ」
「どうして?」
「え」
美幸は、俺の目をじっと見つめ何かを窺っている。月曜日に会った時の美幸に近づいている、そんな気がした。
嘘を吐いたことは勿論悪かったと思っているけど、それならなんで今日会ってすぐに言わなかったんだろう。美幸の考えていることが分からない。美幸は今、何を考えているんだろう。
「色々と、話したいことがあったから」
「色々……。話すだけなら、電話でもできるよ?」
「そりゃそうだけど……。久しぶりに会ったから、もっと話がしたいと思って。俺、そんなに変なこと言ってるかな?」
何を言っても否定されている気がして、つい不貞腐れてしまう自分がいた。ダメだ、俺から会いたいって言って時間を作ってもらってるんだ。俺が機嫌を悪くするなんて言語道断。自分の立場を弁えるんだ。
「変じゃないよ。私こそごめんね、何か問い質すみたいに」
「いや、全然大丈夫。俺の方こそ、嘘吐いてごめん」
「…………ちょっと、お手洗い行ってくるね」
美幸はそう言って席を立った。1人になった俺は、深いため息をはいた。嫌な空気にしてしまったな。もとはといえば、嘘を吐いてまで会おうとした俺が悪い。嘘を吐かれれば、誰だって嫌な気分になる。
……怒ってた、よな。せっかく会ってくれたのに。悪いことしちゃったな。
俺は気持ちを切り替えようと、テーブルに置いてある料理に手をつけた。うん、美味しい。そういえば、美幸はお腹が空いてると言っていた。お腹が空いてイライラしてただけかもしれないな。そう考えると、少し気が楽になった。
「………………」
美幸を待っている間、先ほど質問した時のことについて考えていた。俺は彼氏がいるかどうかを聞いたけど、その答えは返ってこなかった。逆に、美幸から別の質問が飛んできたからだ。
……いる、ってことだろうか。そうなれば、俺の敗北は濃厚ってことになる。敗北っていうのは、つまり
「……ごめん、遅くなって」
と、そこで美幸が席に戻ってきた。女性のトイレタイムに関して首を突っ込むのはナンセンス。全くもって非紳士。紳士で真摯な俺は、さらっと美幸の言葉を流す。
「私もご飯食べよっと」
まだ数口しか手をつけていなかったドリアを頬張る美幸。シャアしやすいように切り分けておいたピザにも手を伸ばし、これも美味しいねと言う。どうやら、機嫌は治っているみたいだ。
それからしばらく、食事を楽しんでいた俺たち。その時、美幸が突然口を開いた。
「私、お付き合いしてる人いるよ」
その言葉が耳に入った途端、俺の頭は思考を停止した。手にしていたピザを落としそうになったけど、ギリギリのところでキャッチした。
それから、二人でつまめるようにピザも注文。バーというものを知らない俺だが、ここは結構ご飯のメニューが充実してると思う。だからこそ、美幸に聞かれたときこの店が思い浮かんだんだ。値段もリーズナブルなのがいい。
それに、ファミレスや居酒屋と違って落ち着いて話ができる。
「美味しい……」
「ほんと? よかった」
届いたドリアを一口食べ、満足そうな表情を浮かべる美幸。まるで、昔の美幸を見ているようだった。あの頃は、学校の昼休みに二人でお弁当を食べることもあった。何気ない日常のヒトコマだったけど、今となっては欠けがないのないものだ。
「…………」
「………………」
……聞きたいことは、山ほどある。でも、どれから聞いたらいいのか分からない。そして、美幸は答えてくれるだろうか。様々な不安と過度の緊張が押し寄せ、言葉が喉から出てこない。
「……そういえば、会社の人とは仲いいの?」
とりあえず、当たり障りのない会話で場を繋ぐ。
「んー、そうだね。いい方だと思うよ。少人数の部署だし、アットホームな感じで」
「そう、なんだ。なんかいいね、そういうの」
「うん。仲が悪いと、仕事中もギスギスしちゃうからね。できれば楽しく仕事したいし」
仕事、楽しくやってるんだ。それはそれで安心したけど、別の不安もある。不安というか、心配。俺が心配できるような立場じゃないかもしれないけど、それでも……。
「……彼氏とか、いるの?」
先に聞くべきことがあるだろ。と自分にツッコミを入れるが、時すでに遅い。口を出た言葉を引っ込めることはできない。自分でも、なんでそんなことを聞いたのかは不明。誰か解明してくれ。
「……その質問に答える前に、私からひとつ聞いてもいいかな?」
「え? う、うん。どうしたの?」
何だろう。美幸の纏う空気が、少し変わったように感じる。気のせいかな。
「高坂くん、私の同僚がお店に忘れ物したって言ってたけど、あれ嘘だよね?」
「あ……」
適当にはぐらそうと考えていた、忘れ物のことか。直接会うことはできないという美幸と会って話をするために、俺が吐いた嘘。どうせすぐにバレると思っていたけど、なんでもうバレてるんだ。
「高坂くんとの電話の後、みんなに確認したんだ。誰か忘れ物してませんかって。でも、みんなしてないって。酔っ払ってたから記憶にないだけかもと思ってたけど、高坂くんの反応を見るとそうでもないみたいだね」
「…………ごめん、嘘吐いた」
「ああ、別に謝らなくていいって。なんでそんな嘘吐いたんだろうって気になっただけだよ」
なんでって、そんなの決まってるだろ。
「……電話でも言ったと思うけど、直接会って話がしたかったんだ」
「どうして?」
「え」
美幸は、俺の目をじっと見つめ何かを窺っている。月曜日に会った時の美幸に近づいている、そんな気がした。
嘘を吐いたことは勿論悪かったと思っているけど、それならなんで今日会ってすぐに言わなかったんだろう。美幸の考えていることが分からない。美幸は今、何を考えているんだろう。
「色々と、話したいことがあったから」
「色々……。話すだけなら、電話でもできるよ?」
「そりゃそうだけど……。久しぶりに会ったから、もっと話がしたいと思って。俺、そんなに変なこと言ってるかな?」
何を言っても否定されている気がして、つい不貞腐れてしまう自分がいた。ダメだ、俺から会いたいって言って時間を作ってもらってるんだ。俺が機嫌を悪くするなんて言語道断。自分の立場を弁えるんだ。
「変じゃないよ。私こそごめんね、何か問い質すみたいに」
「いや、全然大丈夫。俺の方こそ、嘘吐いてごめん」
「…………ちょっと、お手洗い行ってくるね」
美幸はそう言って席を立った。1人になった俺は、深いため息をはいた。嫌な空気にしてしまったな。もとはといえば、嘘を吐いてまで会おうとした俺が悪い。嘘を吐かれれば、誰だって嫌な気分になる。
……怒ってた、よな。せっかく会ってくれたのに。悪いことしちゃったな。
俺は気持ちを切り替えようと、テーブルに置いてある料理に手をつけた。うん、美味しい。そういえば、美幸はお腹が空いてると言っていた。お腹が空いてイライラしてただけかもしれないな。そう考えると、少し気が楽になった。
「………………」
美幸を待っている間、先ほど質問した時のことについて考えていた。俺は彼氏がいるかどうかを聞いたけど、その答えは返ってこなかった。逆に、美幸から別の質問が飛んできたからだ。
……いる、ってことだろうか。そうなれば、俺の敗北は濃厚ってことになる。敗北っていうのは、つまり
「……ごめん、遅くなって」
と、そこで美幸が席に戻ってきた。女性のトイレタイムに関して首を突っ込むのはナンセンス。全くもって非紳士。紳士で真摯な俺は、さらっと美幸の言葉を流す。
「私もご飯食べよっと」
まだ数口しか手をつけていなかったドリアを頬張る美幸。シャアしやすいように切り分けておいたピザにも手を伸ばし、これも美味しいねと言う。どうやら、機嫌は治っているみたいだ。
それからしばらく、食事を楽しんでいた俺たち。その時、美幸が突然口を開いた。
「私、お付き合いしてる人いるよ」
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