結婚とは案外悪いもんじゃない

最終話 夢ノ終了-5

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「…………ぺい？」

「…………ん？」

「純平っ！」

なんだ……。誰が呼んでるんだ？


「先生、……が目を覚ましました！」

この声は……？ 先生って、誰だ？ 俺は今、どうなってる？


「奇跡だ……」

なんのことだ。何を話している？
ぼんやりとしていた視界が、徐々にハッキリと見えてくる。どうやら俺は今、ベッドに寝ているらしい。ここは、病院か？

目に映るのは、見知らぬ女性。それに、白衣を着た医者らしき男性と他数名。


「ここは……？」

声を出すのが苦しい。何とかその言葉を絞り出す。


「……ここは、病院です。あなたは交通事故に合って、ここに運ばれたんです。4日ほど寝たきりで、目を覚まさなかったんですよ」

交通事故？ 俺が？ 何を言ってるんだ。俺はさっきまで……あれ、何をしていたっけ。誰かと話していた気がするんだけど。


何だか、長い夢を見ていた気がする。


「純平！ 純平、やっと目を覚ましたのね！」

「…………」

俺の体は、包帯でぐるぐる巻きだった。よく分からないチューブのような物も繋がっている。一目見ただけで、とんでもない状態だと分かった。

どういうことなんだ。なんで俺はこんなことになってる？ 交通事故なんて、俺はそんなこと……。覚えてない。


「とにかく、安静にしていてください。あなたには今、休息が必要ですので」

医者らしき男性はそう言うと、何やらナース達と話をしながら病室を出ていった。

残ったのは、見知らぬ女性。とても綺麗な人だった。この人は……？


「よかった。本当によかった。純平が目を覚ましてくれなかったら、私……」

その女性は、俺のために泣いていた。どうして、泣いているんだ？


「あの……」

「ん？ どうしたの？」


「あなたは、どなたですか？」

「え……？」

俺の問いに、その女性は再び涙を流した。え、どうしたんだろう。何かまずいことを聞いてしまったのか？


「ええと、すみません。交通事故に遭ったこととかあんまり覚えてなくて……」

少しずつ喋れるようにはなってきた。ただ、頭はまだぼんやりとしている。事故の記憶なんて、全く覚えていない。

「………………私のことも、覚えてない？」

「……はい。ごめんなさい」

「……そっか」

その女性は、それ以上何も言わず病室を出ていった。その横顔は、とても悲しそうだった。



「…………」

誰なんだろう。思い出せない。何だか、今すぐにでもあの人を追いかけたい。しかし、体は全く動かなかった。


「あっ」

数分後、あの人は缶コーヒーを２つ持って戻ってきた。ベッドの横にあるパイプ椅子に腰掛けると、缶コーヒーのプルタブを開け、中身を飲んだ。もうひとつは、備え付けの冷蔵庫の中に入れた。

「……元気になったら、飲んでね。私の奢りだから」

「あ、はい。ありがとうございます」

「…………いつもの冗談とかじゃ、ないんだよね」

「……？」

「ううん。何でもない」

その人はそう言うと、飲みかけの缶コーヒーを置き、立ち上がった。病室の窓の外を眺めていた。その姿が綺麗で、見とれてしまった。


「あの」

「……どうしたの？」


気がつけば、声をかけていた。

「あなたの、お名前は？」



俺は、この人のことをもっと知りたいと思った。