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第3話 血の代償
3 強襲の牙
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クロウが『先住民』と呼ぶそれは、禍々しい殺気を放ってクロウを見下ろしていた。
作務衣に似た服を着ているが、足元は裸足だ。
先住民は、牙を見せてクロウを威嚇する。
身長は、およそ3メートル。
爛々とひかる目は二つ。
頭には、角のようなモノがあるように見える。
身体のつくりは人と同じだが、シルエットで見ると人とは思わないだろう。
身体がどこか、歪に見える気がする。
クロウは、先住民の殺気をそよ風のように受け流している。
先住民の高まる殺気に、クロウも殺気を放つ。
2人の殺気に、森が静まり返る。
先住民の左の爪先が動く気配を感じた時、岩のような拳が唸りをあげてクロウを襲った。
予備動作からの打撃が速すぎる。
それでもクロウは腕でガードする。
みちり....と、クロウの腕が鳴った。
先住民の拳の衝撃を受け切れずに、クロウの左腕にヒビが入った音だ。
と同時に、クロウの右の拳が先住民の腹にめり込んでいた。
思わず先住民の頭が下がる。
クロウはその顎を下から蹴り上げる。
が、先住民の左の拳がクロウを襲う。
速さは五分五分だろうか。
だが、先住民の威力の方がクロウより勝っていた。
乱打戦ではクロウの分が悪い。
先住民の長い手足は、クロウを容易に懐に入れさせない。
次第にダメージを負うクロウ。
動きが鈍くなったところを捉えられた。
先住民は、クロウの頭を鷲掴みにして持ち上げた。
そして、クロウの首を力任せにねじ切った。
骨が砕け、肉が引き千切られる音が響いた。
断末魔の痙攣の中、地元に崩れ落ちるクロウのことを、先住民は見向きもしない。
先住民の目は、真っ直ぐうさぎを見た。
それは、壊してもいいオモチャを見る目だ。
声も出せず、震えるうさぎ。
その瞳から大粒の涙が溢れていた。
牙を見せ、笑う先住民。
先住民の殺気が歓喜に変わる時、暗闇の中から黒い男が現れた。
「お前の相手は、俺だ」
そこに、クロウが立っていた。
ねじ切られた首は元通りになっている。
おそらく腕も治っていることだろう。
オモチャを取り上げられた子供のように、先住民の怒りが爆発する。
唸り声をあげ、一気に間合いを詰め、クロウに殴りかかる。
先住民の拳とクロウの拳が正面からぶつかる。
轟!
衝撃波で森が揺れる。
弾かれたのは....先住民の拳だった。
反射的に出した左の拳も、クロウの拳に迎撃された。
信じられないモノを見るように、先住民の目は見開かれていた。
クロウの瞳が、蒼く光る。
反撃開始だ!
クロウの拳が先住民の肋骨を軋ませる。
回し蹴りがこめかみを抉る。
たまらず膝をつく先住民。
「オマエハナンダ?」
毒を吐き出すように、先住民が言葉を発した。
「死ねば死ぬほど強くなる」
クロウの拳が先住民を翻弄する。
「オマエハダレダ?」
震える声で、先住民が問うた。
「俺の名は、アイアン・クロウだ」
クロウの拳が先住民に叩き込まれる。
地に伏した先住民が、這いずりながら間合いを開ける。
「去れ」
クロウの言葉に、先住民は闇に消えた。
震えているうさぎの頭を、クロウは優しく撫でた。
「もう大丈夫だ」
うさぎは何度も頷いた。
うさぎが落ち着きを取り戻すと、クロウは自分の事を話して聞かせた。
鴉天狗の法術で生き返れること。
生き返る度に、強さが増すこと。
なので普段は、人間以外のトラブルを担当していること。
うさぎには理解できないことばかりだったが、クロウの言葉にひとつひとつ頷きながら、うさぎはクロウの話を聞いていた。
先住民のことも教えてもらった。
我々の住む世界と僅かにズレた世界に住む人類であること。
身長は2~5メートルの範囲に入るモノが多いこと。
寿命は数百年あること。
目や腕の数が二つとは限らないこと。
彼等の亜種に、鬼や天狗がいること。
一通りの説明が終わると、
「課長に連絡を入れる」
そう言って、クロウは小さな端末を取り出した。
クロウは端末の画面に現れた数字をいくつかタップすると、その端末を耳に当てた。
(クロウさんは何をしているの❓)
うさぎがサポートAIに聞いてみた。
(あれは多分、携帯電話って言う物だと思うよ。
ボクも初めて見るけど、きっと平成か令和の時代の通信機器だと思うんだ)
(そうなんだ❓
でも、電脳化やサポートAIを使えば、通信機器なんていらないはずなのに.....❓)
「.....分かりました。
では、戻ります」
どうやら、クロウの電話の相手は課長のようだ。
意味のわからないうさぎは、ずっとぽか~んとした表情をしていた。
「どうしてクロウさんは電脳やサポートAIを使わないんですか❓」
うさぎの質問にクロウは優しい笑顔を見せた。
「俺が生き返る時は、1番最初にアイアン・クロウになったあの時の身体に戻るんだ。
その時の所持品も当時のままに戻るんだよ。
だから、後付けの電脳は生き返る度に無くなってしまうから、俺は当時の携帯電話を使っているのさ」
「そうだったんですね❣️」
笑顔で答えるうさぎだったが、やっぱり良くわからなかった。
「ブライドは、自分の事を『うさぎ』って呼ぶけど、『アリス』って名前は嫌いなのかい❓」
不意に真面目な顔でクロウが聞いた。
「.....アリスも好きな名前です❣️」
「そうか.....」
クロウがホッとした顔をした。
うさぎはクロウの顔を覗き込んだ。
「どうしたんですか⁉️」
「君の『アリス』って名前は、俺が付けた名前だから....」
照れくさそうに笑うクロウ。
(この人は、ずっとうさぎちゃんの味方なんだね)
(.....そうだといいな❣️)
「君が組織に不安を持っていることは予想がつく。
そして、誰を疑っているのかも....
だけど、俺と課長は何があっても君の味方だという事を覚えておいてほしいんだ」
クロウは強い言葉で伝えた。
うさぎは真っ直ぐにクロウの瞳を見つめて、
「はい❣️」
と頷いた。
Rabbit bride 2085 登場人物紹介
神長 九郎(かみなが くろう)
コードネーム:アイアン・クロウ
一人称:俺
所属:内閣調査室
性別:男性
身長:176cm
年齢:不明
サイボーグ比率:0%
特徴:死ねば死ぬほど強くなる
特記事項:烏天狗の霊力で動いている死人。課長とは古い付き合い。他の特務エージェントでは扱えない、人ならざるモノの処分を専門とする。アリスとルカの秘密を知っている。電脳もサポートAIも機能しないため、この時代では珍しい携帯電話を利用している。移動手段はバイク=黒鉄。闇の中から現れる。この時代のアイアン・クロウは1人しかいないので、ゼロ・クロウとは名乗っていない。ブライドの本名『アリス』はクロウが付けた名前。
性格:暗い。孤独を愛している
作務衣に似た服を着ているが、足元は裸足だ。
先住民は、牙を見せてクロウを威嚇する。
身長は、およそ3メートル。
爛々とひかる目は二つ。
頭には、角のようなモノがあるように見える。
身体のつくりは人と同じだが、シルエットで見ると人とは思わないだろう。
身体がどこか、歪に見える気がする。
クロウは、先住民の殺気をそよ風のように受け流している。
先住民の高まる殺気に、クロウも殺気を放つ。
2人の殺気に、森が静まり返る。
先住民の左の爪先が動く気配を感じた時、岩のような拳が唸りをあげてクロウを襲った。
予備動作からの打撃が速すぎる。
それでもクロウは腕でガードする。
みちり....と、クロウの腕が鳴った。
先住民の拳の衝撃を受け切れずに、クロウの左腕にヒビが入った音だ。
と同時に、クロウの右の拳が先住民の腹にめり込んでいた。
思わず先住民の頭が下がる。
クロウはその顎を下から蹴り上げる。
が、先住民の左の拳がクロウを襲う。
速さは五分五分だろうか。
だが、先住民の威力の方がクロウより勝っていた。
乱打戦ではクロウの分が悪い。
先住民の長い手足は、クロウを容易に懐に入れさせない。
次第にダメージを負うクロウ。
動きが鈍くなったところを捉えられた。
先住民は、クロウの頭を鷲掴みにして持ち上げた。
そして、クロウの首を力任せにねじ切った。
骨が砕け、肉が引き千切られる音が響いた。
断末魔の痙攣の中、地元に崩れ落ちるクロウのことを、先住民は見向きもしない。
先住民の目は、真っ直ぐうさぎを見た。
それは、壊してもいいオモチャを見る目だ。
声も出せず、震えるうさぎ。
その瞳から大粒の涙が溢れていた。
牙を見せ、笑う先住民。
先住民の殺気が歓喜に変わる時、暗闇の中から黒い男が現れた。
「お前の相手は、俺だ」
そこに、クロウが立っていた。
ねじ切られた首は元通りになっている。
おそらく腕も治っていることだろう。
オモチャを取り上げられた子供のように、先住民の怒りが爆発する。
唸り声をあげ、一気に間合いを詰め、クロウに殴りかかる。
先住民の拳とクロウの拳が正面からぶつかる。
轟!
衝撃波で森が揺れる。
弾かれたのは....先住民の拳だった。
反射的に出した左の拳も、クロウの拳に迎撃された。
信じられないモノを見るように、先住民の目は見開かれていた。
クロウの瞳が、蒼く光る。
反撃開始だ!
クロウの拳が先住民の肋骨を軋ませる。
回し蹴りがこめかみを抉る。
たまらず膝をつく先住民。
「オマエハナンダ?」
毒を吐き出すように、先住民が言葉を発した。
「死ねば死ぬほど強くなる」
クロウの拳が先住民を翻弄する。
「オマエハダレダ?」
震える声で、先住民が問うた。
「俺の名は、アイアン・クロウだ」
クロウの拳が先住民に叩き込まれる。
地に伏した先住民が、這いずりながら間合いを開ける。
「去れ」
クロウの言葉に、先住民は闇に消えた。
震えているうさぎの頭を、クロウは優しく撫でた。
「もう大丈夫だ」
うさぎは何度も頷いた。
うさぎが落ち着きを取り戻すと、クロウは自分の事を話して聞かせた。
鴉天狗の法術で生き返れること。
生き返る度に、強さが増すこと。
なので普段は、人間以外のトラブルを担当していること。
うさぎには理解できないことばかりだったが、クロウの言葉にひとつひとつ頷きながら、うさぎはクロウの話を聞いていた。
先住民のことも教えてもらった。
我々の住む世界と僅かにズレた世界に住む人類であること。
身長は2~5メートルの範囲に入るモノが多いこと。
寿命は数百年あること。
目や腕の数が二つとは限らないこと。
彼等の亜種に、鬼や天狗がいること。
一通りの説明が終わると、
「課長に連絡を入れる」
そう言って、クロウは小さな端末を取り出した。
クロウは端末の画面に現れた数字をいくつかタップすると、その端末を耳に当てた。
(クロウさんは何をしているの❓)
うさぎがサポートAIに聞いてみた。
(あれは多分、携帯電話って言う物だと思うよ。
ボクも初めて見るけど、きっと平成か令和の時代の通信機器だと思うんだ)
(そうなんだ❓
でも、電脳化やサポートAIを使えば、通信機器なんていらないはずなのに.....❓)
「.....分かりました。
では、戻ります」
どうやら、クロウの電話の相手は課長のようだ。
意味のわからないうさぎは、ずっとぽか~んとした表情をしていた。
「どうしてクロウさんは電脳やサポートAIを使わないんですか❓」
うさぎの質問にクロウは優しい笑顔を見せた。
「俺が生き返る時は、1番最初にアイアン・クロウになったあの時の身体に戻るんだ。
その時の所持品も当時のままに戻るんだよ。
だから、後付けの電脳は生き返る度に無くなってしまうから、俺は当時の携帯電話を使っているのさ」
「そうだったんですね❣️」
笑顔で答えるうさぎだったが、やっぱり良くわからなかった。
「ブライドは、自分の事を『うさぎ』って呼ぶけど、『アリス』って名前は嫌いなのかい❓」
不意に真面目な顔でクロウが聞いた。
「.....アリスも好きな名前です❣️」
「そうか.....」
クロウがホッとした顔をした。
うさぎはクロウの顔を覗き込んだ。
「どうしたんですか⁉️」
「君の『アリス』って名前は、俺が付けた名前だから....」
照れくさそうに笑うクロウ。
(この人は、ずっとうさぎちゃんの味方なんだね)
(.....そうだといいな❣️)
「君が組織に不安を持っていることは予想がつく。
そして、誰を疑っているのかも....
だけど、俺と課長は何があっても君の味方だという事を覚えておいてほしいんだ」
クロウは強い言葉で伝えた。
うさぎは真っ直ぐにクロウの瞳を見つめて、
「はい❣️」
と頷いた。
Rabbit bride 2085 登場人物紹介
神長 九郎(かみなが くろう)
コードネーム:アイアン・クロウ
一人称:俺
所属:内閣調査室
性別:男性
身長:176cm
年齢:不明
サイボーグ比率:0%
特徴:死ねば死ぬほど強くなる
特記事項:烏天狗の霊力で動いている死人。課長とは古い付き合い。他の特務エージェントでは扱えない、人ならざるモノの処分を専門とする。アリスとルカの秘密を知っている。電脳もサポートAIも機能しないため、この時代では珍しい携帯電話を利用している。移動手段はバイク=黒鉄。闇の中から現れる。この時代のアイアン・クロウは1人しかいないので、ゼロ・クロウとは名乗っていない。ブライドの本名『アリス』はクロウが付けた名前。
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