願いがかないますように…

kitahara

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大人の挨拶…は危険。

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訳も解らずトウゴに唇を塞がれて繰り返される口付けを
数十秒?
 数分?
 数十分?…
受け、息もろくにできず耐えたオリビアは…



「…オリビア」

トウゴが心配そうにのぞき込んでいる。

 「…あら?」

わたし…

「…トウゴ?」

 寝ているわたしの手を握りしめているトウゴ。
トウゴをみて微笑んだ私を、ほっとしたように力ない笑顔を見せてくれた。

トウゴの頭の先にある天井。
 先程寝ていた部屋とは違う。
ベットに、寝かされている自分。
 何故?

 「だから、大丈夫だと言ったでしょう」

トウゴの後ろから柔らかな声がした。

 「でもな…」

オリビアの顔をみながらバツの悪そうにトウゴが謝った。

 「…悪い」

 悪い?
…しばらくトウゴの顔を眺めて…そして思い出した。
 息ができなかったことを。

 「…トウゴ、貴方いきなり何を」

 「だから、悪かった」

 抗議の続きを言わせないよう、ぶった切るように謝ってくる。

むう…
腹ただしい…

不穏な雰囲気になりかけた時、先程の柔らかな声が聞こえた。

 「お初にお目にかかります。アリス様」

トウゴの後ろから、柔らかな声と共にきれいな青年が現れた。

 「…あの」

 「私は、ロード。宮廷医をさせて頂いている者です。」

 宮廷医?

 「ここは執務室を兼ねた私の部屋です。先刻、このバカが強引に押し入りまして。」

 空耳かしら・・・
 バカって聞こえたような…

きれいな御仁の柔らかな声でのバカ発言に頭が否定しかけた…。

 「…」

 「このバカの所為で。オリビア様は、気を失って連れて来られました。」

バカ…ってまた言った。

 気を失って…ね。
なるほど、息ができなかったから。


あそこで、まさか落ちるとは思わん…
何やらぶつくさ呟いているトウゴはほっといて。


にこやかに告げる優し気な雰囲気で話すこの青年は…
見た目に反してなかなかの人物のようだ。
…気を付けてここは謝っておこう。


 「お手数をおかけしたようで申し訳ありません」

 「いえいえ、全てはこのバカが起こしたことですので」


…ここまで聞いていればなんとなく解る。
この方にとって、トウゴはどこまでもバカ扱いなのね。
トウゴ…貴方何をしたの?

トウゴのキスを受けたオリビアが酸欠になって気を失い、その姿に慌てたトウゴによって運ばれた。


 「…以上がオリビア様に起こった事です」

 宮廷医ロード様が状況を説明してくれました。


 要するにトウゴの言う、大人の挨拶っていうのは、俗に言う単に大人が行うキスの交換の事だった。
トウゴの手加減なしのキスをオリビアの経験不足が酸欠を引き起こしただけで、ロードから懇切丁寧にキスのやり方の説明を受けたオリビアは、身の置き場がなかった…。


 口頭とはいえ…キスのやり方を人から説明を受ける事があるとは、思わなかった…。
 恥ずかしすぎる…。


 今度は、うまくできるといいですねと若干黒さの漂う笑顔で言われて二人して部屋から出されました…。



…トウゴ。
 …貴方ね…

文句を言おうとした涙目のオリビアの手を掴むと無言で歩き始めた。

 連れ込まれたのは、通路の奥の部屋で一際見事な造りだった。

どうやら、トウゴの部屋のようで、ソファには無造作に脱いだ服があったり、生活感があった。

オリビアをソファに座らせると備え付けの棚から、グラスに何かを注いでオリビアに持ってきてくれる。

 渡されたグラスに口を付けるとよく飲まれる少しきつめの果樹酒だった。

オリビアの飲む姿を見ると、自分も違う瓶を取っってグラスに並々と注ぐと一気に飲み干し、再度足し始める。


ちょっと…トウゴ?


 心配したオリビアが思わず腰を上げかけた時、大丈夫だと手で立ち上がるのを制して飲み干した。

そしてグラスをテーブルに置くとアリスの隣に腰かける。


しばらく待っても何も言わないので、少し、先程の事持ち出した。

 「…恥ずかしかった」

その言葉にトウゴが項垂れて

「…悪い」

と呟いたので、

 「…前もって説明して欲しかった」

と言うと再度「それも悪かった…」と謝ってくる。

 自信満々ないつにないトウゴの姿に…。


…うーん、これは。

 ちょっとは…反省している…かな?




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