紳士は若女将がお好き

LUKA

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 志筑しづきかおりはとある地方の温泉郷に現存する老舗温泉旅館の一人娘だ。

海岸からさほど遠くない平地に居を構える保養地は、昔ながらの味わい深い静謐な街並みをたたえ、全盛期には、知識人を始めとした多くの文芸人たちが、こぞって泊まりに来たという。

父親は既に他界しており、彼女は母親と二人で、代々続く荘厳な宿を切り盛りしていた。

建物自体は年季が入り、華やかな印象はないが、落ち着いて静かに逗留できるといった玄人好みの宿泊所だった。

実際、過去に著名な文豪が頻繁に出入りしていたこともあり、旅館は気軽に泊まれるような気さくな雰囲気は持ち合わせていなかった。

客も馴染みの常連が多く、新規の客はあまり来ない。

しかし、インターネットが普及した現在、サイト上の口コミや温泉街特集などで、文豪も愛した隠れ家的な宿を知った家族やカップルなどの若年層が、ちらほらとやって来るようにはなった。

そのような趣と格式ある温泉旅館の跡取り娘である香は、現在は若女将として日々精進していた。


 とある晩、女将の母に追い立てられた香は客をもてなすため、座敷へ向かった。

仕事とはいえ、酔っ払った客や酒癖の悪い客に絡まれるのは気が進まなかった。

「失礼いたします」

座敷には、二人の男性客が座布団の上に座り、板前が腕を揮った豪勢な食事に箸をつけ、朗らかに話し合っていた。

次いで、香は片側に座る美形な男性を目にした途端、下向きだった気分が急激に高調した。

(――・・・素敵・・・!)

彼は、もう一人の男性と同じくスーツに身を包み、にこやかに中年の男と話をしていた。

がっしりと硬い肉がついた良い身体つきをしており、上質な綿のワイシャツの上に、三つボタンのベストを着込み、清涼な青のネクタイを小粋に締めた彼は、上等な印象が醸し出ていた。

「おう、ミっちゃん!」

女将に気付いた中年男性が機嫌良く声をかけた。

「マサさん、おこんばんは」

どうやら二人は顔馴染みらしく、香の母は愛想良く微笑み、恭しくお辞儀をすると、ビールが入った瓶を持ち、マサという中年の客のコップに注ぎ始めた。

「ほら、ボヤボヤしてないで」

香も上司に促されると、同じくビール瓶を手に、ドキドキと興奮と緊張に弾む胸で、もう一人の男性のグラスにビールを注ぎ始めた。

客への酌など、仕事柄数えきれないほどしてきたものだが、今回は事情が違った。

大抵いつもは、中年や初老の、一回りも二回りも年上の男たちばかりを相手にしてきたのだが、彼のように整った顔立ちをし、スタイルも良い、まるで俳優のような同年代の男性を間近でもてなす経験など、彼女にはなかった。

そのため、すっかり上がってしまった香は、激しい緊張から手がブルブルと震え、ビールを勢いあまってグラスから零してしまった。

「―――あっ・・・」

ビールはあろうことか男性の股座目がけて着地し、まるで漏らしてしまったかの如く、ズボンを無様に濡らした。

「!!――もっ、申し訳ありません・・・!!」

急遽傍らにあったおしぼりを掴むと、何をしている自覚もなく、香は衝動に任せて、シミを抜こうと男性の股間へ布を当てた。

刹那、場は一寸ちょっとした恐慌に陥り、女主人は恥ずかしそうに娘を咎め(「全くもう・・・!」)、中年男性は下世話な笑顔で若女将を揶揄からかった(「おっ、やるねぇ、香ちゃん!」)。

肝心の男性はというと、焦った香の手から落ち着いておしぼりを取ると、大丈夫ですと朗らかに微笑み、彼女の失敗を軽く受け流した。

だが若女将は、客のズボンを濡らしてしまった過失と、あろうことか男の股間にビールを零して、恥をかかせた失態を申し訳なく感じ、ひたすら平謝った。

結局、それでも男性は一度も怒ることなく、母と共にすごすごと座敷を下がった香は、別の仕事へ着手した。


 夜はとっぷり更け、業務を粗方終えた香は伸びをして、これからどうするかを考えた。

このまま風呂へ入って寝てしまおうかとも考えたが、未だ先の無礼を思い返しては、彼女はいたたまれなさに苦しんだ。

(あんなかっこいい人に、あんなかっこ悪い思いをさせてしまった!)

したがって、良心がズキズキと咎めるのを感じた若女将は、例の男性が宿泊している部屋へ実際に赴き、もう一度謝りに行くことを決定した。

温泉旅館の若女将として、夜更けに客が休む個室へ行くことに、そこまでの抵抗はなかったため、香は男性の泊まる離れの客室まで向かうと、扉を叩いて彼の応答を待った。

少しして、先ほどの紳士的なスーツ姿とは変わり、浴衣を崩して着たリラックス姿の男性が、ドアを開けて彼女を出迎えた。

「・・・何か御用ですか?」

若女将は頭を下げ、例の件を再び謝罪した。

「あ、あのっ・・・!先ほどは、~~本当に申し訳ありませんでした・・・!」

しかしながら、男性は特に何も言わず、ただ黙って彼女を傍観すると、フフッとほくそ笑んで言った。

「――・・・ベッドのお誘いに来たんでしょう?」

大胆な発言に虚を突かれ、香は羞恥的な動揺を露わにすると、急いで否定した。

「い、いえ!~~そんな・・・――!」

男性は下心のある眼差しで香を捉えると、いきなり腕を取って、彼女を部屋の中へ強引に引き入れた。

「!?」

香は敷居を跨ぐと、勢いあまって男性の腕の中へもたれるように収まった。

「・・・っ」

意外な密接に、彼女の頬は赤らみ、心臓が爆音を打ち始めるのが分かった。

続けて、香は男性の腕から離れようと意図する前に、彼の綺麗な顔が彼女の顔へ近づき、彼の形の良い唇が、そのまま彼女の唇へ口づけるのを許してしまった。

「・・・!!」

香は声もなく驚いた。

しかし、男性は積極的に香へ接近しては、唇を何度も彼女の唇と重ね合わせた。

「~~・・・ッ♡♡」

まるで映画かドラマのような情熱的なキスに、香は逃亡寸前の理性を感じつつ、すっかり酔いしれた。

とはいえ、それでも彼女には、これが許されざる行為だという事実が明白に分かっていた。

知る人ぞ知る、老舗温泉旅館の若女将である自分が、先ほど出会ったばかりで、ましてや、この宿を訪れた「客」といかがわしい行為をするなぞ、言語道断だ。

「ん・・・♡♡」

だがしかしながら、香は男性の圧倒的な魅力から、醜聞や理性といった歯止めが、音を立てて陥落するのを覚えながら、流されるまま、畳が敷かれた暗い客室へなだれ込み、男性の欲求を受け入れた。

男性は背後に場所を取り、重ねた衿元を大胆にずらして上半身を露出させると、剥き出た滑らかなうなじへ熱い唇を押し当てた。

「・・・♡♡」

すると、唇から官能的なため息が自然とこぼれ、香は全身を駆け巡る熱い興奮に苛まれた。

男性は、このような艶事に手慣れているのか、裾もめくって、女の熱く湿った秘部を指で優しく触れ始めた。

「あん・・・♡♡」

香はめくるめく快感にぴくぴくと悶え、男性の至極淫らな指使いに高まっていきながら、甘い嗚咽を漏らし続けた。

「――・・・気持ち良い・・・?」

男性は香を弄ぶかのように、わざと耳打ちした。

それはまるで、彼女の秘めた欲望を見透かされているようで、激しく脈打つ胸を携え、香は恥じらいつつも答えた。

「――ッ・・・き、気持ちいい・・・♡♡」

「・・・いけないひとだ・・・。老舗温泉旅館の若女将が、客とこのようなこと・・・・・・・をしてもいいんですか・・・?」

「――・・・ッ♡♡」

分かり切った指摘から、頬は紅潮し、香は言葉を詰まらせると、一段と激しくなった愛撫に堪らずのたうった。

「あぁ・・・ッ♡♡!!」

もうそろそろ満ちてくる頃合いだ。

香は、問答無用で塞ぐ男の唇を味わいつつ、内側で次第に満ちていく性的興奮へ身を任せた。

(――あ、イク・・・♡♡!!)

しかしながら、潮が満ち、霧散するという直前、男性は指を止めてそれを阻止した。

「――っ・・・♡♡!?」(――嘘・・・?!)

信じられない思いから、香は男性を見つめたが、もったいぶった瞳によって見つめ返されただけで、彼女はもどかしさをじりじりと感じた。

「――・・・イかせてほしい・・・?」

またしても、挑発する如く耳元で低く囁かれると、男性の戦術的な計略にまんまと陥るのを、羞恥と一緒に覚えながら、香は哀願した。

「~~お願い、イかせて・・・♡♡!」

「――・・・可愛い・・・!」

男性は香を賛美すると、再び淫靡で激しい指使いをもって、彼女を絶対的な快楽の頂へ追いやった。

それから、彼は着物を脱がそうと帯へ手をかけたのだが、簡単には解けない帯の複雑な構造に混乱を隠せず、事実を素直に訴えた。

「~~・・・ッ、海外での生活が長かったもので・・・。すみません、不勉強で」

「・・・いえ。大抵の人は分からなくて当然ですから」

弱く微笑んだ香は補助してから、男性の前で帯を解いた。

また同様に、足袋も脱ぎ捨て、もつれた髪を解くと、艶やかな黒髪が双肩へ落ち、滝のように背中へ流れた。

やっと帯の拘束が解かれ、着物と襦袢がするりと衣擦れの音を立てて彼女から滑り落ちると、男性は、一糸纏わない香を布団へうつ伏せ、彼の欲望に熱くたぎった昂ぶりを、女の泥濘ぬかるみへ一息に押し込んだ。

「~~~ッッ・・・♡♡!」

血で凝り固まった陰茎が、彼女の窮屈な内側を貫く独特な感触から、香は並々ならぬ極度の羞恥的興奮と目眩を覚え、身体の隅々まで甘美な快感に満たされた。

次いで、覆い被さった男性は耳へ熱い吐息を吐きかけつつ、リズミカルに腰を揺らして、彼女の思考と自由を奪い去った。

「~~あっ・・・♡♡ん・・・♡♡!」

男の腰がしなやかにくねる度、肉体は歓喜のためにゾクゾクと震え、もっともっと、彼女の秘密の楽園を暴き、征服・支配してほしいといった、ふしだらで忌むべき考えが頭の中で開花した。

すると、途端に腰つきは勢いを増し、男性は貪欲な獣のように、香を無心で求め始めた。

「――あ♡♡!だめ、そんな・・・っ♡♡!」

「――・・・そんな?そんな、何です・・・?」

「~~ッだめ・・・♡♡そんな、激しい・・・ッ♡♡!」

「激しいのは嫌いですか、若女将?」

「・・・だめ・・・♡♡!そんなにしたら、もうイク・・・♡♡!」

「いいですよ、存分にイってください」

「~~~ッだめ、イク♡♡!イク♡♡イっちゃ・・・♡♡!―――・・・ッッ♡♡!!・・・ッッ♡♡~~~♡♡!!」

「・・・随分と感じやすいみたいですね。でも、まだ俺は満足していませんから」

男性は伏せていた香をぐるりと天井へ向き直すと、再び、彼女の達したばかりで過敏な内部・・へ、自身の熱の化身を潜り込ませて、単調だが、何とも甘美で艶かしい往復運動を再開した。

「あう・・・っ♡♡!」

香は、情け容赦のない勇ましい熱棒に成す術もなく、仰いだ面を背け、幾度となく、鋭敏な雌を雄に穿たれる度、啜り泣きにも似た大量の甘い嗚咽を、激しい息遣いと共に吐き出して、また甘い苦しみになぶられる如く、もぞもぞと忙しなく身体を捩らせた。

「・・・っだめ・・・♡♡!恥ずか・・・しい・・・♡♡!」

「・・・どうしてです?」

「~~だっ・・・て♡♡」

出会ったばかりの男性に、自身のあられもない姿を目の当たりにされている複雑な女心と、責任ある若女将としての自分が立場も蔑ろにして、宿を訪れた客と、肉欲へ溺れている醜聞的な事実が相まって、香はそれ以外どう言葉にして良いか分からなかった。

その上、この体位正常位は向き合ってしまうが故に、自分のはしたない表情が、月明りだけの薄闇の中でも、直接男性に見られていることが気になっていたし、また彼女は彼女で、彼のハンサムな顔が否が応でも目に入ってしまって、羞恥心からどうしても心の余裕を持つことができなかった。

男性はそのように真面目に葛藤する若女将を見ると、ふふと口元に緩やかな笑みを浮かべて言った。

「あなたは可愛らしいひとだ・・・。口ではそう言っても、その実、同時にあなたは激しく俺を求めている」

「――ん♡♡んん・・・ッ♡♡!」

香は素早く唇を奪われると、たっぷりの熱い唾液と、ねっとりした淫らな舌使いで、呼吸が止まってしまったかと錯覚した。

「~~いやぁ・・・ッ♡♡!!」

するとまたしても、揺さぶりがより一層素早く、激しいものへ変えられたので、香は文字通り、布団の上で追い詰められた。

「~~~ッだめぇぇ・・・ッ♡♡!!イっちゃう・・・っ♡♡!!」

男性は、熱く湿った舌で、耳周りや耳の中までをもいやらしく伝っては、じっとりと濡れそぼたせ、堪らない香はゾワゾワと興奮に身の毛だった。

「ひゃうぅ♡♡!」

「・・・耳、舐められるの好きですか」

男性はすかさず香の弱点を突き止め、彼女にとっては恥辱的な指摘を耳元で低く囁いた。

「~~そ、そんなの、分からな・・・♡♡!~~あぅぅッ♡♡!」

しかしながら、いじらしい否定は無駄骨に終わり、彼女は語る傍から、男性の艶やかな舌使いに機敏に呼応して、ふしだらな嗚咽や嬌声をふんだんに上げて戦慄わなないた。

(・・・もう、だめ・・・♡♡!)「~~~♡♡!だめ、イク♡♡!イク♡♡!~~イっちゃ・・・―――♡♡!」

そして、香は激しい性的興奮と、身が崩れ落ちてしまいそうなほど甘美な快感から、全身が燃え盛る如く感じながら、静かだが、性急に昇りつめてきた絶頂を迎えた。

「・・・~~~ッッ・・・♡♡!!ッッ♡♡!!~~~・・・♡♡!!」
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