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第3章 ~ジロー、学校へ行く?~

魔法陣、それは男の夢!

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 「そういえば、ジローがいない間にまたオースウェルの人間が来ていたな。」

 それは森に帰った次の日のことだった。

 「ほんとに?何しに来たの?」

 オースウェルは以前、アシナに戦争になった時の手助けを頼みに来た国だ。あの時は隠れてたのに、姫巫女さんの精霊に見つかって大変だった。

 「今回は何をするでもなかった。何やらあの姫巫女がこれから諸国を歩いて回るということで、これからは他の者がこの森に来るという話だったな。特に興味もなかったので別に無理して来なくていいとだけ言っておいた。」

 アシナさんブレないな!
 諸国を回るっていうと、精霊信仰を説いて回るのかな。そうだとしたらあの姫巫女さんは最適なのか。実際に精霊を使役してる訳だし説得力はあるよな。

 「あのうるさい兵士いた?」
 「それはいなかった。というよりも取り巻きの兵士は年老いた兵士以外は皆変わっていた。」

 あの若い兵士はいなかったのか。
 さすがにああいう場にはもう連れてはこないかな。それだけ姫巫女さんのことを大事にしてるんだろうけど、すごい空気の読めなさだったもんな。交渉の場で交渉相手に突っかかるとか。前回のことを反省してメンバーを考え直したのだろうか。

 「だが、あの姫巫女がジローのことを気にしていたぞ。あの少年は今日はいないのかとな。」
 「えっ?なんで?」
 「テラがジローのことを姫巫女に伝えると言っていただろう。それではないのか。今日はいないと言ったらがっくりとしていたな。その様子を見てテラは笑っていたよ。他には聞こえぬように話していたから兵士達はキョトンとしていたがな。」

 あーそういえばそんなことも言っていたな。テラが去り際におれという存在を姫巫女に伝えるって。
 そのことでおれと話したかったのだろうか。

 もしかしておれの存在を広まらないように人員を入れ換えてくれたのだろうか。同じ場所に行くのなら少なからず同じ人員の方がいいはずだ。考え過ぎかな。

 それにしても他の人に聞こえぬようにってことはそれだけ姫巫女さんの接近をアシナが許したってことだよな。テラを使役しているからか、それともアシナが人間を認め始めたのか…。
 分かんないけど、兵士の人達はアシナに近付く姫巫女さん見てドキッとしただろうな。
 
 でもこれから諸国を回るって言ってたもんな。当分姫巫女さんに会うこともないだろうな。


 それよりもおれには考えなければならないことがある。
 それは言葉の問題だ。言葉というよりも文字だな。

 なまじアシナやアリスと言葉が通じるものだから失念していた。まさか文字がわからないなんて思わなかった。
 
 文字かぁ。必要だろうか。必要かなぁ。
 この世界で生きていくなら最低限は出来た方がいいよな。
 
 文字が日本語じゃないってことは今おれが話してる言葉も日本語じゃないのかな?
 もしかしたらおれが認識出来てないだけで日本語じゃないのかもしれないな。

 「アシナってこの世界の文字って書けたりする?」
 「文字?どうしてだ?」
 「いやこの前街に行った時、この世界の文字がおれの生きてた世界とは文字が違ったんだ。」
 「なるほど。だが残念だが私は文字に関してはわからない。これまで必要なかったからな。」

 でしょうね!

 聞いておいてなんだけどそうだと思った。逆に知っていたらどういう場面で必要だったのか聞いてみたかったぐらい。

 でもアシナが知らないとなるとおれが聞けるのはアリスぐらいかな。ユキはもちろん知らないだろうし。

 文字を覚えたいというのには、最低限は人として覚えた方がいいと思うのともうひとつ理由がある。それは魔法があるというからにはあれもあると思うからなのだ。

 「この世界にはさ、魔法陣ってあるの?」
 「魔法陣?」
 「こう円形状にさ、ぼわーって浮かび上がって魔法の補助をしたりそれ自体が魔法の発動元になったりみたいな。」
 「それならばある。ただ私は使えないぞ。必要ないからな。」

 ですよね!!

 「魔法陣というのは、魔法技術や魔力の低かった人間がそれを補うために産み出したものだ。人間は最初にエルフの魔法を真似しようとした。だがエルフは自身の魔力量も違うが根本的に精霊の力を利用している。借りていると言った方がいいか。それは精霊を認識することが出来ない人間には出来ぬことだ。だからこそ少ない魔力を効率的に使う術が必要だった。その為に昔の人間が産み出したのが魔法陣だ。
 だが、それは我々のような存在やエルフなどには必要の無いものだ。魔法陣を作るということは我々にとっては余分な作業でしかないからな。
 しかし、人類は魔法陣を産み出したことで魔法の実用性を上げ、さらには道具に魔法陣を刻み込むことで魔道具も作り出した。人間は自らの魔法技術を確立させていったのだな。」

 ということはだ。

 「その魔法陣には人間の使う文字が使われてるんじゃない?その魔方陣が何のために使われるかによってその内容を文字で記してるとか。」
 「そのとおりだ。たしかに魔法陣を使おうと思えばジローは文字を覚える必要があるな。
 だが必要か?魔法陣は本来足りない部分を補填するために人間が産み出したものだ。今のジローにそれが必要とは思えない。将来的に魔道具を作ろうと思っているのなら話は別だが。」

 ちっちっち。
 わかってないな。アシナさん。
 魔法陣はね、一度はそういうアニメなんかを見たことがあるものなら憧れるもんなんだ。

 そう!正に夢!
 それは某錬○術師のように!
 ちなみにあれは錬成陣だったけどね。

 それは冗談として

 「文字は少なからず必要だと思ってるんだ。魔法陣はその延長線上かな。文字もそうだけど、魔法陣を使えるようになるにはもう少し魔法についても勉強しなきゃいけないと思うんだ。それはもちろんアシナに教えてもらった魔法の方じゃなくて人間が築き上げた魔法をね。時間は掛かるかもしれないけどマイナスにはならないと思うんだ。」
 「そうか。だがそうなると私は協力は難しそうだ。」
 「うん。そこはわかってる。何とか方法を考えてみるよ。魔法学校に入学するのも考えたんだけどさ、アリスに聞いたらどうも魔法学校に入学したらそのまま軍人の扱いになっちゃうみたいなんだよね。」

 魔法学校に入学したものは王国の軍部に所属する。そうしておきたいほど国にとって魔法使いという存在は大事なのだろう。その存在が強力なのか、それとも希少なのかまではわからないけれど。

 「今のところおれ何処かの国に入るとかは考えてないしさ。それどころか軍人になろうなんて考えもないよ。どうせなるなら自由に動ける冒険者ぐらいがいいな。
 という訳だから魔法学校はやめとくよ。アリスになんか語学だけ教えてくれる人でも紹介してもらおうかな。本当は学校に勤めてるぐらいだし、アリスに教えてもらいたいけどそこまではさすがに悪いし。」
 「そうか。なら…」

 そうアシナが言葉を続けようとすると、何処からか声が響いてきた。

 「はっはっはー!はっはっはーのじゃ!話は聞かせてもらったのじゃ!」

 声の聞こえる方を見ると、崖の上にアリスが腕を組んで立っていた。
 なんでそんなところに。何とかと煙は高いところが…

 「こらっ!ジロー!今失礼なこと考えたじゃろ!そういうの分かるんじゃぞ!」
 「アリスこそ何してるんだよ!そんなところで!そんなところに立ったら危ないだろ!早く降りて来なさい!」 
 「そんな普通に怒られるとわしの立場がないのじゃ!とにかく今行くのじゃ!
 とうっ!」

 そい言うとアリスは右手を強く突き上げ崖を飛んだ。
 ○面○イダーか!!
 ていうか今危ないって言ったばっかだろ!

 そんな心配を他所にアリスは目の前に、すたっと着地する。

 わかってはいたよ。アリスは人外だってことは。

 「ふっふっふ。話は聞かせてもらったのじゃ。ジローその悩み、わしが解決してやろう!」
 「え?ほんとに?文字教えてくれるの?」
 「ジロー、お主はわしと魔法学校へ通うのじゃ!」

 ん?
 おれ魔法学校には行かないって言ったよね?
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