変態令嬢はきっと悪役にはならない

犬神まつり

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事故

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あれから随分時間が経ったのに、一向にアレンの元へ行けずにいた。
どんな拷問が行われていたのか、私にはわからないけど、顔を見ただけで真っ青になるくらいなんだからその度合いは簡単に想像がつく。
 優衣わたしがやったことでは無いにせよ、彼等からしたらティアわたしがやった事なのだから顔を合わせづらいわけで、しばらくの間部屋から出る事を自制してた。……のだが。


 「だぁぁぁぁ!無理っ!この辛気臭い空気耐えきれないわ!」


部屋に引き持ってもんもんと思案したりしてみたけど、元々考えるのは得意じゃないし、私がどんなに頭を使ったところでろくな答えが出てこないのは毎度の事だ。むしろ、深く悩めば悩む程ドツボにハマる。
 
 「庭にでも出るかぁ」

 また誰かに遭うかもしれないけど、部屋の隅でじめじめしてるよりはよっぽど健康的だと思うので、とりあえず部屋を抜けて庭へと降りてみることにした。

 転生初日は3階の窓から見えたこの芝に寝転んだらさぞ気持ちいいだろうと考えたりしてたけど、今やったらきっと侍女達に「あのお嬢様、今度は庭の芝を潰してたわ。折角庭師が綺麗に刈り揃えたのに」とか言われそう。
 誰かに見られてるかもと思うと、折角の気分転換が気分転換じゃなくなるので何かいい隠れ場所で落ち着けるところを探していると……ふと、一本の木に視線が向く。

 「……あの木なら登れそうかも」

 幼い頃、兄とよく近所の公園で木登りをしていた私にとっては木登りなんて朝飯前。さっそく幹に足をかけてみる。うん、やっぱりこれなら登れる。

 「ほっ、よっと!」

 一番低い位置の枝に腰掛けて遠くの景色を眺める。目に映るのは遥遠くに見える山の稜線と雲一つない青い空、それから鼻に通る芝と木と花々の匂い。
そうだ。小さい頃、両親に怒られて不貞腐れた時もよくこうして木の上に登ってたっけ。そうしてしばらくの間一人で何も考えず、ただぼんやりと木の上で過ごしているともやもやとかイライラとかがすぅと胸の内から消えて行くんだ。
 
 「あっ、お兄様だ」

 屋敷からアレンが出てくるのが見えた。片手にあの分厚い本を持っている。天気が良いから外で読書でもと思ったのかもしれない。なら、私がいるって気づいたら怖がらせちゃうよね……。私は屋内に帰った方がいいか。

 「……ってこっちに近づいてくる!?」

まさか気が付かれた!?と思ったけど、よく考えたら私に気が付いたのなら逃げるだろうし、きっとすぐそこのベンチに向かってるんだ!やばい、気が付かれるうちに早く降りないと……!

「……ティア、最近来なくなったなぁ」

 「えっ!?」

 アレンの口からまさか私の名前が出てくるなんて思わなくて、降りようとしていた手を止める。まさか……アレンも私の愚痴を零そうとしている……?そんなのダイレクトに聴いた日には、もう私は二度とアレンと顔を合わせられなくなる。

 「最近はティアと顔を合わせるの……悪くないなって思えてきたのに」

「!!」

 初めて聴いたアレンの本音に私の胸はドクンと強く脈を打つ。優衣わたしの行動は、確かに彼を変えていたんだ。と。
  

 「お兄様っ!!」

 嬉しさのあまり声を掛けずにいられず、気が付けばアレンに向かって全力で手を振っていた。
 

ーーここが木の上だという事も忘れて。


 「うわっ!?」

 「ティア!?危ない!」

 バランスを崩した身体は背中から地面へと落下して行く。あぁ、本当に私の馬鹿っ!そんなのだから毎回学校の成績表に『もっと落ち着いて行動しましょう』って書かれるんだよっ!
 落ちているコンマ何秒かの間でそんな思考が頭をよぎり、私は衝撃に備えて固く目を瞑った。


 が、どれだけ待っても想像していた痛みや衝撃は来ない。
 いくら一番低い枝だったといっても落ちたらそれなりの負傷は覚悟しなきゃいけない高さ……



 「っ…!?お兄様っ!?」



 体の下を見ると地面との間にアレンが私を受け止めるような形で倒れている。


  「お兄様っ!!アレンお兄様っ!!」


  必至になって名前を呼ぶが、固く目を閉じた彼からの返答はない。最悪の事態が脳裏を掠めたけど、よく見ればちゃんと呼吸はしている。
……よかった、気を失ってるだけみたい。けど、もしかしたら骨が折れているかもしれない。下手したら頭を打ったかも。一刻も早くお医者さんに見せなければいけないけど……今の私じゃアレンを部屋に連れていくことも出来ないし、誰か大人の助けを借りないと!

 「誰かっ!誰か来て!」

 助けを求めて屋敷の中へ入ったが、どれだけ大きな声で叫んで呼んでも誰も姿を現さない。きっと私が叫んでるから怖くて出て来れないんだ……!

「お願いっ……!誰でもいいからっ、お兄様を助けて……っ!」

 こんな時こそ冷静にならなきゃいけないとわかっているのに涙が溢れそうになる。泣いてる場合じゃない、こうしている間にもアレンの状態はどんどん悪くなっているかもしれないんだから。

「っ!誰かっ!!」

「ど、どういたしましたか?」

 必死な思いが伝わったのだろうか。一人の若い侍女が困惑した様子で廊下の角から姿を現した。



  




 






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