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これのどこが幸福なんですか!!
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ザンカルは私に教えてくれた。ネフィトさんとサーンズ大臣の間柄を。
「二人の関係には諸説あってな。友人。好敵手。果ては恋仲までと言われた事もあったそうだ」
な、なんだか二人の中は複雑なのね。
「まあ俺達若造が推察出来る程浅い方達ではない事は確かだ」
ザンカルは逞しい両腕を組みながらため息をつく。豪快奔放なザンカルが言うくらい、二人は只者ではないと言う事だろう。
ネフィトさんとサーンズ大臣は、タイラントの教育という一点で今まで協力してきた。だが、ここに来て二人の考えは決裂したと言う。
「つまりリリーカ。お前さんはネフィト執事長に認められたんだ。タイラントの花嫁候補にな」
ザンカルは片目を閉じ、悪戯っぽい表情で笑った。ネ、ネフィトさんが私を花嫁候補に!?
「そうでなければネフィト執事長が俺達にリリーカの警護を命じないだろう」
それは逆に、サーンズ大臣が私を何が何でも排除したいと目論んでいる事を示唆していた。
「心配するなリリーカ。お前の事は俺達が必ず守ってやる」
ザンカルはそう言って笑った。ザンカルは気を使っていてくれている。私が気に病まないよう、明るく振る舞っている。
······なんて優しい人なんだろう。少し胸が軋んだけど、私の心の中からはザンカルへの感謝の気持ちが溢れ出ていた。
その時、鍛錬室の扉がけたたましく破られた。茶色いフードを被った者達があっという間に私達を包囲した。
「······五人か。このザンカル相手にたった五人とは、サーンズ大臣も俺を見くびった物だな」
ザンカルが不敵に笑い、茶色いフードを被った集団に恐れの色一つ見せなかった。侵入者達は全員短剣を手にしている。
「······下がっていろ。リリーカ」
ザンカルの言葉と同時に、五人の侵入者達は一斉にザンカルに襲いかかった。私はザンカルの名を叫び両手で目を覆ってしまった。
鈍い打撃音とうめき声が重なり、鍛錬所は静寂に包まれた。私は薄目を開けると、素手のザンカルの周囲に五人の侵入者達が倒れていた。
「もう大丈夫だぞリリーカ」
ザ、ザンカルは武器も使わず素手で五人を倒したの!? 私が呆気に取られていると、倒れていた侵入者の一人が立ち上がり、猛然と私に向かって来た。
「リリーカ!!」
「きゃあ!!」
振り上げられた短剣に私は立ちすくみ何も出来なかった。再び閉じた目を開けると、私の目の前にザンカルの背中が見え、足元に短剣を振り上げた男が倒れていた。
「······良かった。無事だなリリーカ?」
ザンカルは私に微笑むとその場に倒れ込んだ。ザンカルの胸に短剣が刺さっていた。ザ、ザンカルは私を庇って!?
······それからの記憶は所々飛んでいた。私は自分の上着を裂きザンカルの胸を止血した。
はしたない格好でリケイを探し、ザンカルに治癒の呪文を施して貰った。リケイの話では命には別状は無いが、絶対安静が必要との事だった。
床に伏せるザンカルを見て、私の足は勝手に動き出す。リケイとシースンの静止を無視し、サーンズ大臣の部屋に向かった。
私はノックもせずサーンズ大臣の部屋の扉を開けた。サーンズ大臣は優雅にソファーに腰掛けていた。
「······近頃は耳が遠くなったのかしら? 声もノックも聞こえなかったようだけど?」
「いいえサーンズ大臣。貴方の聴覚は正常です。私はノックもせず入室しました」
私は低い声で返答し、サーンズ大臣の前に立った。
「まあ怖い顔ね。最近の人間の村娘と言うのは、こんなにも凶暴な輩なの?」
サーンズ大臣は失笑するように冷然と言い放った。
「大事な人を傷つけられた時の気持ちは人間も魔族も同じです。サーンズ大臣。貴方が大事になさっていたタイラントが傷ついても、貴方は平静でいられますか?」
タイラントの名前を出した瞬間、サーンズ大臣の表情が一変した。
「······小娘。私は親切にも忠告した筈よ。それを無視した以上、誰か傷つこうが全ての責任はお前にあるわ」
サーンズ大臣は私を冷たい両目で見上げ、殺意がこもった声を出す。
「······ネフィトさんも貴方も。タイラントを立派な国王にする為、愛しながらも厳しく接して来た。けど、それは間違いです!!」
私は手のひらを握りしめ、サーンズ大臣の殺意に恐怖しながらもそう叫んだ。
「その結果、タイラントの心は凍ってしまいました! 国王の役目を果たすにはいいかもしれません。だけど、私人としてのタイラントは、少しも幸せではありませんでした!」
「······幸せだと? 小娘。人間のお前如きが魔族の王の幸福について語ると言うのか?」
「語れます! 花を愛でる気持ちも無く。料理を美味しいとも感じず。恋も知ろうとしない。これのどこが幸福なんですか!!」
私は叫びながら、出会った頃のタイラントを思い出していた。ひたすら国を富ます事しか考えず、無感情のままの心。
私の頭の中にイメージされたのは、国と言う宝物を抱きしめている孤独な少年だった。私は決めた。タイラントの心を取り戻すと。凍った心を溶かすと。
「······よく動く口だ事。いいこと小娘。お前が城を出ない限り、お前の身近な者達が傷ついていくわ。お前が原因でね」
サーンズ大臣は忌々しげに吐き捨てた。傷つく?これからも? さっきのザンカルのように?
サーンズ大臣の一言で、私は呪いにかけられたように固まってしまった。私のさっきまでの決意は、冷たすぎる呪いの言葉で凍てついた。
「二人の関係には諸説あってな。友人。好敵手。果ては恋仲までと言われた事もあったそうだ」
な、なんだか二人の中は複雑なのね。
「まあ俺達若造が推察出来る程浅い方達ではない事は確かだ」
ザンカルは逞しい両腕を組みながらため息をつく。豪快奔放なザンカルが言うくらい、二人は只者ではないと言う事だろう。
ネフィトさんとサーンズ大臣は、タイラントの教育という一点で今まで協力してきた。だが、ここに来て二人の考えは決裂したと言う。
「つまりリリーカ。お前さんはネフィト執事長に認められたんだ。タイラントの花嫁候補にな」
ザンカルは片目を閉じ、悪戯っぽい表情で笑った。ネ、ネフィトさんが私を花嫁候補に!?
「そうでなければネフィト執事長が俺達にリリーカの警護を命じないだろう」
それは逆に、サーンズ大臣が私を何が何でも排除したいと目論んでいる事を示唆していた。
「心配するなリリーカ。お前の事は俺達が必ず守ってやる」
ザンカルはそう言って笑った。ザンカルは気を使っていてくれている。私が気に病まないよう、明るく振る舞っている。
······なんて優しい人なんだろう。少し胸が軋んだけど、私の心の中からはザンカルへの感謝の気持ちが溢れ出ていた。
その時、鍛錬室の扉がけたたましく破られた。茶色いフードを被った者達があっという間に私達を包囲した。
「······五人か。このザンカル相手にたった五人とは、サーンズ大臣も俺を見くびった物だな」
ザンカルが不敵に笑い、茶色いフードを被った集団に恐れの色一つ見せなかった。侵入者達は全員短剣を手にしている。
「······下がっていろ。リリーカ」
ザンカルの言葉と同時に、五人の侵入者達は一斉にザンカルに襲いかかった。私はザンカルの名を叫び両手で目を覆ってしまった。
鈍い打撃音とうめき声が重なり、鍛錬所は静寂に包まれた。私は薄目を開けると、素手のザンカルの周囲に五人の侵入者達が倒れていた。
「もう大丈夫だぞリリーカ」
ザ、ザンカルは武器も使わず素手で五人を倒したの!? 私が呆気に取られていると、倒れていた侵入者の一人が立ち上がり、猛然と私に向かって来た。
「リリーカ!!」
「きゃあ!!」
振り上げられた短剣に私は立ちすくみ何も出来なかった。再び閉じた目を開けると、私の目の前にザンカルの背中が見え、足元に短剣を振り上げた男が倒れていた。
「······良かった。無事だなリリーカ?」
ザンカルは私に微笑むとその場に倒れ込んだ。ザンカルの胸に短剣が刺さっていた。ザ、ザンカルは私を庇って!?
······それからの記憶は所々飛んでいた。私は自分の上着を裂きザンカルの胸を止血した。
はしたない格好でリケイを探し、ザンカルに治癒の呪文を施して貰った。リケイの話では命には別状は無いが、絶対安静が必要との事だった。
床に伏せるザンカルを見て、私の足は勝手に動き出す。リケイとシースンの静止を無視し、サーンズ大臣の部屋に向かった。
私はノックもせずサーンズ大臣の部屋の扉を開けた。サーンズ大臣は優雅にソファーに腰掛けていた。
「······近頃は耳が遠くなったのかしら? 声もノックも聞こえなかったようだけど?」
「いいえサーンズ大臣。貴方の聴覚は正常です。私はノックもせず入室しました」
私は低い声で返答し、サーンズ大臣の前に立った。
「まあ怖い顔ね。最近の人間の村娘と言うのは、こんなにも凶暴な輩なの?」
サーンズ大臣は失笑するように冷然と言い放った。
「大事な人を傷つけられた時の気持ちは人間も魔族も同じです。サーンズ大臣。貴方が大事になさっていたタイラントが傷ついても、貴方は平静でいられますか?」
タイラントの名前を出した瞬間、サーンズ大臣の表情が一変した。
「······小娘。私は親切にも忠告した筈よ。それを無視した以上、誰か傷つこうが全ての責任はお前にあるわ」
サーンズ大臣は私を冷たい両目で見上げ、殺意がこもった声を出す。
「······ネフィトさんも貴方も。タイラントを立派な国王にする為、愛しながらも厳しく接して来た。けど、それは間違いです!!」
私は手のひらを握りしめ、サーンズ大臣の殺意に恐怖しながらもそう叫んだ。
「その結果、タイラントの心は凍ってしまいました! 国王の役目を果たすにはいいかもしれません。だけど、私人としてのタイラントは、少しも幸せではありませんでした!」
「······幸せだと? 小娘。人間のお前如きが魔族の王の幸福について語ると言うのか?」
「語れます! 花を愛でる気持ちも無く。料理を美味しいとも感じず。恋も知ろうとしない。これのどこが幸福なんですか!!」
私は叫びながら、出会った頃のタイラントを思い出していた。ひたすら国を富ます事しか考えず、無感情のままの心。
私の頭の中にイメージされたのは、国と言う宝物を抱きしめている孤独な少年だった。私は決めた。タイラントの心を取り戻すと。凍った心を溶かすと。
「······よく動く口だ事。いいこと小娘。お前が城を出ない限り、お前の身近な者達が傷ついていくわ。お前が原因でね」
サーンズ大臣は忌々しげに吐き捨てた。傷つく?これからも? さっきのザンカルのように?
サーンズ大臣の一言で、私は呪いにかけられたように固まってしまった。私のさっきまでの決意は、冷たすぎる呪いの言葉で凍てついた。
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