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201号室の彼らR-15
きいはあゆの唇が好き
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「あゆ、あゆ……」
「今卵焼き作ってんだから、邪魔しないの」
背後から抱きつこうとしたら軽くあしらわれてしまったため、俺はそのまま彼の腰に腕を巻き付けてぎゅっと密着した。同じシャンプーを使っているはずなのに、どうしてこんなにも甘い匂いがするんだろうか。
「危ないから離れてくれ」
かき混ぜたたまごをフライパンの上に流し入れて蓋をする。じゅわっという音と香ばしい匂いに食欲をそそられた。
そんなことを思いながらも離れる気にはなれなくて、肩口に顎を乗せてさらに強く抱き締めると、彼はやれやれというふうに息を吐いてから、くるりと身体を回転させてこちらに向き直ってくれる。
黒と茶色の中間のような色味の長い髪がふわりと揺れて顔にかかった。それを耳にかけてあげてから、彼の唇へ指を這わせると、ふにゃりと柔らかな感触が伝わってくると思っていたが……。
「……乾燥してる。手入れはしてるの?」
「ここ最近めんどくさくてしてないな」
「だめだよ、ちゃんとしなきゃ」
ぷっくらとしているはずのそこはカサついていた。思わず顔をしかめてしまう。あゆの唇はいつも潤っていて柔らかいのだ。それが損なわれているのは非常に残念だ。
「えー!やだよ面倒くさい」
ぷいと調理場へ向いてしまいそうになる顔を押さえつけて、俺はポケットに入れていたリップクリームを取り出した。
「なんでそんなもん持ってんだよ」
少し引いたような表情で見られたが気にせずキャップを外す。
「君のためだよ」
「そうか……いや違うね?!ていうかなにキャップに『あゆ専用』って書いてあんの?!」
うるさい口を塞ぐよう且つ、これでもかと言うほど塗りたくってやった。唇の端ぎりっぎりまで塗ってやる。
「これで良くなったよ、良かったねぇ」
「全然良くねえよ!今から朝ごはん食べるのに口の周りベタついて気持ち悪いんだけど?!」
文句をいう彼を無理矢理調理台の方へ向けさせる。
「うぅ~ベタベタする……」
不愉快だといわんばかりの顔で少し焦げた卵焼きを包丁で切っていく。俺はその横でレンチンしたご飯をお茶碗に盛ったあと、冷蔵庫から出した漬物を小皿に盛り付けた。
「あゆが悪いんだから我慢して」
「はぁ……もういいよ、早く食べよう」
「うん」
昨日の残り物であるごぼうとにんじんの煮物とほうれん草のおひたし、そして今朝作った味噌汁と卵焼きを食卓の上に載せれば完成だ。どれもこれも俺には作れない料理だ。
「いただきます」
「どうぞ」
まずは味噌汁を一口飲む。わかめと豆腐のシンプルなものだ。
「美味しい」
「だろぉ?」
「うん」
あゆの作る味噌汁は出汁がよく効いている。きっとお母さんに作り方を教えてもらったんだろう、家庭的な味だ。
もぐもぐと咀噛しているうちに、卵焼きが視界に入る。箸で掴んで口に入れると、ほんのり甘みを感じた。
「砂糖入ってるんだ」
「んや、今日は塩コショウ入れただけ」
「そうなの」
「うん、なんか今日はしょっぱいの食べたかったんだよなー」
あゆは一口で卵焼きを食べ終えて、満足そうにしている。俺もつられてもう一口食べると、やっぱり甘くて優しい味が口いっぱいに広がった。
胃袋も心も満たされていく感覚。
恋人と朝ごはんが食べれるなんて俺は幸せものだ。
「あゆ」
「なあに?」
「卒業したら結婚しよう」
「…………」
彼は黙り込んでしまったけれど、嫌がっているわけではないことくらいわかる。だってほら、耳が真っ赤になっているもの。
「今卵焼き作ってんだから、邪魔しないの」
背後から抱きつこうとしたら軽くあしらわれてしまったため、俺はそのまま彼の腰に腕を巻き付けてぎゅっと密着した。同じシャンプーを使っているはずなのに、どうしてこんなにも甘い匂いがするんだろうか。
「危ないから離れてくれ」
かき混ぜたたまごをフライパンの上に流し入れて蓋をする。じゅわっという音と香ばしい匂いに食欲をそそられた。
そんなことを思いながらも離れる気にはなれなくて、肩口に顎を乗せてさらに強く抱き締めると、彼はやれやれというふうに息を吐いてから、くるりと身体を回転させてこちらに向き直ってくれる。
黒と茶色の中間のような色味の長い髪がふわりと揺れて顔にかかった。それを耳にかけてあげてから、彼の唇へ指を這わせると、ふにゃりと柔らかな感触が伝わってくると思っていたが……。
「……乾燥してる。手入れはしてるの?」
「ここ最近めんどくさくてしてないな」
「だめだよ、ちゃんとしなきゃ」
ぷっくらとしているはずのそこはカサついていた。思わず顔をしかめてしまう。あゆの唇はいつも潤っていて柔らかいのだ。それが損なわれているのは非常に残念だ。
「えー!やだよ面倒くさい」
ぷいと調理場へ向いてしまいそうになる顔を押さえつけて、俺はポケットに入れていたリップクリームを取り出した。
「なんでそんなもん持ってんだよ」
少し引いたような表情で見られたが気にせずキャップを外す。
「君のためだよ」
「そうか……いや違うね?!ていうかなにキャップに『あゆ専用』って書いてあんの?!」
うるさい口を塞ぐよう且つ、これでもかと言うほど塗りたくってやった。唇の端ぎりっぎりまで塗ってやる。
「これで良くなったよ、良かったねぇ」
「全然良くねえよ!今から朝ごはん食べるのに口の周りベタついて気持ち悪いんだけど?!」
文句をいう彼を無理矢理調理台の方へ向けさせる。
「うぅ~ベタベタする……」
不愉快だといわんばかりの顔で少し焦げた卵焼きを包丁で切っていく。俺はその横でレンチンしたご飯をお茶碗に盛ったあと、冷蔵庫から出した漬物を小皿に盛り付けた。
「あゆが悪いんだから我慢して」
「はぁ……もういいよ、早く食べよう」
「うん」
昨日の残り物であるごぼうとにんじんの煮物とほうれん草のおひたし、そして今朝作った味噌汁と卵焼きを食卓の上に載せれば完成だ。どれもこれも俺には作れない料理だ。
「いただきます」
「どうぞ」
まずは味噌汁を一口飲む。わかめと豆腐のシンプルなものだ。
「美味しい」
「だろぉ?」
「うん」
あゆの作る味噌汁は出汁がよく効いている。きっとお母さんに作り方を教えてもらったんだろう、家庭的な味だ。
もぐもぐと咀噛しているうちに、卵焼きが視界に入る。箸で掴んで口に入れると、ほんのり甘みを感じた。
「砂糖入ってるんだ」
「んや、今日は塩コショウ入れただけ」
「そうなの」
「うん、なんか今日はしょっぱいの食べたかったんだよなー」
あゆは一口で卵焼きを食べ終えて、満足そうにしている。俺もつられてもう一口食べると、やっぱり甘くて優しい味が口いっぱいに広がった。
胃袋も心も満たされていく感覚。
恋人と朝ごはんが食べれるなんて俺は幸せものだ。
「あゆ」
「なあに?」
「卒業したら結婚しよう」
「…………」
彼は黙り込んでしまったけれど、嫌がっているわけではないことくらいわかる。だってほら、耳が真っ赤になっているもの。
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