海街の人魚姫

ガイア

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2話

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「小唄ー!そうめん食べにおいで!」
 下で母さんが呼ぶ声で目を覚ました。目を覚ますと、やっぱり暑かった。
 タンクトップの背中がびっしょりで気持ち悪い。
 ご飯を食べる前に冷たいシャワーを浴びよう。俺は、むくりと起き上がり一階へとのそのそ向かった。

「小唄?お風呂行くの?」
「いや、シャワー浴びるだけ」
「散歩行く気になったの?」

 母さんは少しうれしそうだった。
 あの話、本気でいっていたのかよ。俺は、顔をしかめて答えた。
 はっきりと『行かない』って。

「いや、まだ考え中」
 あれ。

「そう、まぁゆっくり考えるといいわね」

 母さんは優しくそう答えてリビングの方へと行ってしまった。
 行かないって、答えるはずだったのに。
 俺は、首を傾げながらお風呂へと向かった。
 冷たいシャワーを浴びると、気持ちまでしゃきっとして気持ちがいい。
 夏に汗を流す為に冷たいシャワーを浴びることは夏の風物詩に加えてもいいと思う。
 濡れた頭にタオルを巻いてリビングに行くと、氷がいくつか入ったざるにそうめんがこんもり入っている。

「食べな?美味しいよ」

 ごまとわさびとめんつゆ、そして氷の入った器と箸が母さんの正面に一つ置いてある。
俺はコップに麦茶を注いでその隣に置き、空いた席に座った。

「ありがとう、いただきます」
母さんは、こんな俺にも優しい。
「美味しい?」
 冷たくてつるつるとしたそうめんはいくらでも食べられると感じるくらいするすると喉に吸い込まれていく。
 夏バテでも食べられるそうめんは、カップ麺と違い味がなくても美味しく感じる。
「うん」
 何かの味を感じられるというのは幸せなことだ。
 当たり前に何かを美味しいと思えることは幸せなことなのだ。
 いただきます、ごちそうさまを言える相手が、目の前にいてくれることは決して当たり前のことではなく、食べ物に感謝し手を合わせるのと同時に感謝しなくてはいけないことなのだ。

「かあさん」
「ん?」
「散歩、行くよ」

 俺は、短くそういった。母さんの方はみなかった。
 代わりに、箸からつるりと流れ落ちる白糸を眺めていた。

「そっか」

 母さんの声は、顔を見ていなくてもわかるくらい優しかった。
 俺は、別に教会に行くとはいっていない。散歩に行くといっただけだ。
 ずっとかあさんに心配をかけながら寝たり起きたりを繰り返す毎日を過ごすより散歩でもいって気分転換するのいいかなと思ったからだ。

「夕方までには帰ってくるんよ」

 子供にいうみたいにいう母さんに俺はいっきにそうめんをずぞぞっとすすって頷いた。
あぁ、でも母さんにとって僕はまだまだ子供か。

「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」

 俺は、自分の食べた器を洗い、2階へと上がった。鏡を見ると、タオルを頭に巻いたタンクトップに短パンの俺がうつっている。
 東京でこんな格好をしていたら田舎ものっぽすぎてじろじろ見られるかもしれない。
 都会は色んな人間がいるが、大抵こういう格好をしているのは人目を気にしていないタイプの年寄りとかだろう。
 俺のような若者は、透け感のあるシャツとか若者らしく涼しげでおしゃれな服を着るものなのだ。
 Tシャツに着替え、軽くて薄い黒いパンツに履き替え1階に降りる。

「あ、小唄」

 母さんと目があって、俺はいってきますを言おうと口を開いた。
「暑いから帽子被っていきなさい」
「あ・・・うん」

 帽子か、そうだな。
顔も隠せるし、いいかもしれないな。
 俺は、また2階へあがってスーツケースに押し込んでいた黒いキャップを被って今度こそ1階けと降りて、

「いってきます」
 母さんにそういった。
「いってらっしゃい」

 扉を開けると、むわりとした空気が無防備な俺を包み込んだ。蝉の鳴き声が部屋にいた時よりより鮮明に聞こえている気がする。

「暑い・・・」

 またじわじわと汗をかいてきた。
 久しぶりの外の世界は、こんなに眩しくじりじりと肌が痛む程刺激的なものだったのだろうか。
 俺は、どこへ行く当てもなく歩き始めた。
目の前には車道。そしてその向こうには海が広がっている。
どこまでも続く黒い海。

かあさんは、「綺麗な青い海だ」というが、俺には不気味な黒い海に見える。人によって海は色を変えるのだと感じたのはこの町に帰ってきてからだった。
 歩道を俯きながら歩く、歩く、歩いていく。
 見える世界はコンクリートとただ動かしているだけの俺の足。
俺はどこへたどり着くのだろう。

行きつく場所で俺はどうなるのだろう。
光りのない真っ暗闇を歩いているような気持ちだ。
生きていてこれから楽しいことがあるんだろうか。

「ナミさんのところいこうぜ」

 子供の声と足音は、視界の端に捉えているのにずっと遠くの方から聞こえている気がする。
 汗が流れてぽたぽた落ちている、それは理解しているのに暑いという感覚はどこかに置いてきたかのように夢中で足は動いていく。
 気づいたら、そこに向かっていた。いやほぼ感覚的に俺はそこへ今日行くことが自分でもわかっていた。
 顔を上げると小さく屋根が見えた。そこに近づくにつれ、代わりに家や人気が少なくなっていく。
 最初にその場所を見た時、開けた海の街なのに、上の方は緑で囲まれているところがあってそこだけ少しこの町とは切り離されているような、隔離されているような、そんな印象を受けた。
 でも、こうして近くで見てみるとどうだろうか。
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