7 / 13
7話
しおりを挟む
「私のせいだと思います。お母さんは音楽学校に行くといって、音楽を続けられないなら親との縁を切るって高校を卒業してすぐおじいちゃんの反対を押し切って東京へ家出同然で上京していったそうです。孫までこういう状況になっても音楽を続けているのをよく思わないのは当然です」
ナミさんは、困ったような顔で俯いた。
「ナミさんが音楽を続けるのは自由だよ」
俺がぼそっとそういうと、ナミさんは眉を八の字にして微笑んだ。
「私は、この教会でピアノを弾いて、喜んでもらえるのが嬉しくて、音楽が好きで、おじいちゃんにもやっぱり、聴いてほしいんです。お祭りに来てほしいんです・・・今の状況では難しいかと思いますが・・・」
「じゃあさ」
ナミさんは、切実な思いを俺に打ち明けてくれた。
「招待状を作ろう!チラシも作って町に貼ろう!」
俺は、すぐにそういった。
「諦めちゃだめだ。勿体ない。ナミさんのピアノは凄いんだから。」
「そうでしょうか・・・」
「うん、それは俺が保証する。俺が保証してもって感じかもしれないけど・・・」
俺は、初めてナミさんのピアノを聴いたとき、涙が出て、感動した。心を動かされた。
「俺を変えてくれたナミさんのピアノなら、きっと大丈夫だよ」
「コウタさんを・・・変えた?」
「うん」
今度は、俺が話そう。
情けなくて、格好悪い俺がこの町に来た理由。
「俺も、音楽がずっと好きでさ。特に歌が好きで、俺の小唄に唄(うた)の字が履いているのも、家族が歌好きだからなんだ。週末は父さんがよく隣町にカラオケに連れて行ってくれてさ」
「そうだったんですか」
「それで俺、歌手になりたくて高校の時必死にバイトしてためたお金と、奨学金で高校を卒業してから上京してさ、立派な歌手になってくるって大口叩いて、音楽の学校に進学したんだ」
両親は、反対しなかった。むしろ、夢を応援してくれた。
「東京に行ってからはバイト、学校、休みの日はストリートライブの日々。正直、寝る暇なんてほとんどなくて、でも夢を追いかけて必死にやってた。がむしゃらに生きてた。それが楽しかったからさ」
俺は自然とその頃を思い出して体にしみついているギターを弾く動作をしてしまった。
「でも、いざ就職ってなった時。俺の周りは音楽を目指すのを自然と辞めていた。今でも覚えている『好きだからって就職できるとは限らないんだって。趣味で続けていけばいいじゃないか』って、友達に言われたこと」
ナミさんは、切なそうな顔で俺を見た。
「でも、俺どうしても歌手になりたくて、フリーターになってバイトを続けながら貧乏生活してオーディション受けまくったよ。でも、それでもだめだった。どこがダメなのか審査員の人に聞いた時、『音楽が好きなのは伝わってくるが、商品になるかどうかといわれると微妙』って言われて、俺この先どこを受けてもダメな気がしてきて」
あの時のことは、今でも夢に見る。好きだけじゃ駄目なのかって。友達の言葉を思い出した。受かったのは、華やかな容姿をした然程歌が上手くない俺より年下の男の子だった。どうしたら商品になるように歌えるんだって考え始めた時、俺の中で何かが壊れた。
『もしもし?母さん?」
『あっ!コウタ!久しぶり!全然連絡よこさないで、今どうしてるの?大丈夫?』
『母さん、俺疲れたから、近々そっちに帰るわ』
「俺は、音楽が嫌いになりかけてた。嫌いっていうか、怖くなってたっていうのが正しいかも。でも、初めてナミさんのピアノを聴いてさ」
「はい・・・」
「涙が出たんだ。楽しそうで、歌うようなピアノに。音楽が大好きって、あの曲が大好きってことが伝わってきて、自分もこんな風に音楽が、歌が大好きだったなって。羨ましいなって思ったんだ。眩しくて、キラキラしていて、気づいたらナミさんに目を奪われていた」
『あぁ・・・』
胸にこみあげてくるこの気持ちは。
頬を伝う熱い涙は。
俺は、やっぱり歌が好きだ。音楽が好きだ。諦めたくない。やめたくない、好きだから。大好きだから――。
「えっ・・・」
「それから俺は、ナミさんのファンになってこうして教会に通うようになった。人一人変えられるようなピアノが弾けるんだ。きっと大丈夫だよ」
俺がつい拳を握りしめてそういうと、ナミさんは少し顔を赤くして、目を見開いた。
「はい、ありがとう・・・コウタさん」
「俺も、俺なりにできることをしてみるよ」
俺は立ち上がった。
「できること?」
「うん。とりあえず明日からお祭りに向けて一緒に動いていこう」
そういうと、ナミさんは俯いてもじもじし始めた。
「どうしたの?」
「あの、コウタさん。ちょっと相談があるんですけど」
ナミさんは、足をぷらぷらしながら俺しかいないのに小さい声で俺にとある相談をした。俺は、その話に少し顎に手を添えて考えた。
「ほ、本気?」
「コウタさんも、一緒がいいんです」
ナミさんは、俺を上目づかいで見ながらそういった。そういう顔で見られると困ってしまう。
「でも、俺なんか・・・」
「お願いします。コウタさん」
ナミさんは、また上目遣いで困ったようにそういった。俺は、くっと目を閉じると、
「わかった・・・」
根負けしたようにそういって、笑顔を見せた。
「ありがとう、コウタさん!」
ナミさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、早速それは明日から準備しないとな」
俺がそういうと、ナミさんがすくっと椅子から立ち上がって、
「そうですね、明日から。一緒に頑張りましょうね」
ナミさんは、そういって嬉しそうに微笑んだ。明日から、一緒に頑張ろう。また明日。一人でずっとやってきた俺にとって、こんなに力強い味方がいると、なんでもできる気がしてくる。
俺は帰宅し、全く連絡をとらなくなった音楽学校に通っていたときの友達に連絡した。
「もしもし?全然連絡できなくてごめん、あのさ・・・」
ナミさんは、困ったような顔で俯いた。
「ナミさんが音楽を続けるのは自由だよ」
俺がぼそっとそういうと、ナミさんは眉を八の字にして微笑んだ。
「私は、この教会でピアノを弾いて、喜んでもらえるのが嬉しくて、音楽が好きで、おじいちゃんにもやっぱり、聴いてほしいんです。お祭りに来てほしいんです・・・今の状況では難しいかと思いますが・・・」
「じゃあさ」
ナミさんは、切実な思いを俺に打ち明けてくれた。
「招待状を作ろう!チラシも作って町に貼ろう!」
俺は、すぐにそういった。
「諦めちゃだめだ。勿体ない。ナミさんのピアノは凄いんだから。」
「そうでしょうか・・・」
「うん、それは俺が保証する。俺が保証してもって感じかもしれないけど・・・」
俺は、初めてナミさんのピアノを聴いたとき、涙が出て、感動した。心を動かされた。
「俺を変えてくれたナミさんのピアノなら、きっと大丈夫だよ」
「コウタさんを・・・変えた?」
「うん」
今度は、俺が話そう。
情けなくて、格好悪い俺がこの町に来た理由。
「俺も、音楽がずっと好きでさ。特に歌が好きで、俺の小唄に唄(うた)の字が履いているのも、家族が歌好きだからなんだ。週末は父さんがよく隣町にカラオケに連れて行ってくれてさ」
「そうだったんですか」
「それで俺、歌手になりたくて高校の時必死にバイトしてためたお金と、奨学金で高校を卒業してから上京してさ、立派な歌手になってくるって大口叩いて、音楽の学校に進学したんだ」
両親は、反対しなかった。むしろ、夢を応援してくれた。
「東京に行ってからはバイト、学校、休みの日はストリートライブの日々。正直、寝る暇なんてほとんどなくて、でも夢を追いかけて必死にやってた。がむしゃらに生きてた。それが楽しかったからさ」
俺は自然とその頃を思い出して体にしみついているギターを弾く動作をしてしまった。
「でも、いざ就職ってなった時。俺の周りは音楽を目指すのを自然と辞めていた。今でも覚えている『好きだからって就職できるとは限らないんだって。趣味で続けていけばいいじゃないか』って、友達に言われたこと」
ナミさんは、切なそうな顔で俺を見た。
「でも、俺どうしても歌手になりたくて、フリーターになってバイトを続けながら貧乏生活してオーディション受けまくったよ。でも、それでもだめだった。どこがダメなのか審査員の人に聞いた時、『音楽が好きなのは伝わってくるが、商品になるかどうかといわれると微妙』って言われて、俺この先どこを受けてもダメな気がしてきて」
あの時のことは、今でも夢に見る。好きだけじゃ駄目なのかって。友達の言葉を思い出した。受かったのは、華やかな容姿をした然程歌が上手くない俺より年下の男の子だった。どうしたら商品になるように歌えるんだって考え始めた時、俺の中で何かが壊れた。
『もしもし?母さん?」
『あっ!コウタ!久しぶり!全然連絡よこさないで、今どうしてるの?大丈夫?』
『母さん、俺疲れたから、近々そっちに帰るわ』
「俺は、音楽が嫌いになりかけてた。嫌いっていうか、怖くなってたっていうのが正しいかも。でも、初めてナミさんのピアノを聴いてさ」
「はい・・・」
「涙が出たんだ。楽しそうで、歌うようなピアノに。音楽が大好きって、あの曲が大好きってことが伝わってきて、自分もこんな風に音楽が、歌が大好きだったなって。羨ましいなって思ったんだ。眩しくて、キラキラしていて、気づいたらナミさんに目を奪われていた」
『あぁ・・・』
胸にこみあげてくるこの気持ちは。
頬を伝う熱い涙は。
俺は、やっぱり歌が好きだ。音楽が好きだ。諦めたくない。やめたくない、好きだから。大好きだから――。
「えっ・・・」
「それから俺は、ナミさんのファンになってこうして教会に通うようになった。人一人変えられるようなピアノが弾けるんだ。きっと大丈夫だよ」
俺がつい拳を握りしめてそういうと、ナミさんは少し顔を赤くして、目を見開いた。
「はい、ありがとう・・・コウタさん」
「俺も、俺なりにできることをしてみるよ」
俺は立ち上がった。
「できること?」
「うん。とりあえず明日からお祭りに向けて一緒に動いていこう」
そういうと、ナミさんは俯いてもじもじし始めた。
「どうしたの?」
「あの、コウタさん。ちょっと相談があるんですけど」
ナミさんは、足をぷらぷらしながら俺しかいないのに小さい声で俺にとある相談をした。俺は、その話に少し顎に手を添えて考えた。
「ほ、本気?」
「コウタさんも、一緒がいいんです」
ナミさんは、俺を上目づかいで見ながらそういった。そういう顔で見られると困ってしまう。
「でも、俺なんか・・・」
「お願いします。コウタさん」
ナミさんは、また上目遣いで困ったようにそういった。俺は、くっと目を閉じると、
「わかった・・・」
根負けしたようにそういって、笑顔を見せた。
「ありがとう、コウタさん!」
ナミさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、早速それは明日から準備しないとな」
俺がそういうと、ナミさんがすくっと椅子から立ち上がって、
「そうですね、明日から。一緒に頑張りましょうね」
ナミさんは、そういって嬉しそうに微笑んだ。明日から、一緒に頑張ろう。また明日。一人でずっとやってきた俺にとって、こんなに力強い味方がいると、なんでもできる気がしてくる。
俺は帰宅し、全く連絡をとらなくなった音楽学校に通っていたときの友達に連絡した。
「もしもし?全然連絡できなくてごめん、あのさ・・・」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる