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コロシアリズムから脱出せよ。

日常

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「ロイ、おはよ。馬鹿ね、寝坊よ。」

 目を覚ますとレイがいた。
 今さっき見た夢を、ロイは朧げながら覚えている。
 
 腹を刺された感覚。
 血を吐いた感覚。

 そして、目の前でレイが殺されたことも。

「ねぇ馬鹿、さっさと起きてくれない?こっちも忙しいんですけど!」

 ロイに厳しいところも、いつものレイだ。
 わざわざ起こしに来てくれるなんて珍しいけれど。

「いや、なんというかレイが起こしてくれるなんて珍しいなって。」
「馬鹿、今日の分届いてるみたいだからさっさと配ってアルルに渡して!」

 レイはベッドでボケーっとしていたロイをバチンと殴ると、扉近くの壁を指差した。


 
 ――本日、配給分。
 人参、大根、ジャガイモ、キャベツ、牛肉……
――――
 
 この街の不思議の一つだ。
 朝起きると、年長者の家には、いつの間にかこの街の子供達分の食料が配布されている。

 今日の朝は目玉焼きにしよう。

――――
「いただきます!」「いただきます」

 食べるときですらレイはいつも通り無感情だ。

「ロイは料理だけよね。ほんとに」

 一応褒めているみたいだが、逆に料理以外何もできないって強調しているようにしか聞こえない。
 ――全く、どこまで僕を認めたくないんだよ。

「そりゃどうも。んで、今日の”ゲート”の様子は?」
「近いうちに誰か来るわね。でもまあ、アルルに任せておけば大丈夫でしょ。」

 アルル。
 この街のもう一人の代表者であり調査班の第一人者。
 この街の異変について、おそらく彼よりも詳しい人はいないだろう。


――――
「パトロール隊長、アルル来たよー!ロイ!」

 しばらくすると、アルルはロイとレイの家の玄関をガンガンと叩きながら入ってきた。


<アルル視点>
 
 ――僕達の街には、大人がいない。

 僕の名前はアルル、苗字とかは特にない、ただのアルル。
 驚くかもしれないけれど、本当にいないんだ。だから僕達は大人の存在を知らない。でも、僕達の仲間の一人が仕切っている街の図書館には”大人”がどんな見た目をしていて、僕達と何が違うのかが、描かれている。

 大人達は普通、世界中どこにでもいるらしくて、僕達のような街の方が珍しいのかもしれないけれど、でも僕達は”大人”がいなくても幸せだ。
 
 街の中心には大きな鐘があり、その鐘が鳴るとともに街中の人たちが朝の活動を開始する。

「天才でみんなの勉強サポート担当、アス。
 植物医者兼放送担当リーフ。
 お医者さんマリン。
 みんなのお世話役キノ。
 コロシアリズム最強の騎士でありみんなの憧れのアイドルのセシルとラエサル。
「外の世界」からのお客様接待役アルルとウルル。
 そして、年配者ロイとレイ。」

 この街で色々な事件を解決したり接客するのは主に彼ら10人の仕事なのだ。

 街の名前はコロシアリズム、通称コリズ。昔から子供達だけで暮らしていて、”大人”になったら街から出られるっていう、そんな感じの掟だ。

 この街の掟は様々だ。例えば街からの外出を許されているのは年長者だけ、そして”能力”を使っていいのは鍛錬エリアのみ、などなど。

 実は僕らコロシアリズムの住人には、一人一人に能力がある。火を放つ能力、傷を治す能力、触れたものの温度を操る能力などなど。

でも、天才なアスでさえ、なぜ僕らに能力があるのかはっきりとは分からないらしい。
 
 毎日、昼前になると、セシルとラエサルが鍛錬エリアで争い合っている。火の使い手セシルと、電力を操るラエサル。

「ラエサルッ、今日は不調か?鈍っているぞ!こんな速さで私の炎から逃れられると?」
「ふん、何を言っているセシル、相変わらず単純なやつだ、飽き飽きする。能力を最小限に抑えいるだけさ。」

 セシルが訓練用の軽石剣を思いっきり握ると、剣からは火花が飛び散る。セシルはラエサルの電気攻撃を左右
へ避けながら突進、ラエサルの持つ軽石剣とぶつかり合って鈍い音を立てている。

 セシルが思いっきり剣を叩きつけ、ラエサルの剣を落とそうとするも、ラエサルは1m限定電光移動をしてセシルの裏に回り込む。そんな攻防が繰り広げられていた。

 鍛錬エリアには観客席がある。天才アス、植物医者リーフは、セシルとラエサルの大ファンで、いつも二人がしのぎを削って戦う姿を眺めている。
 
「やっぱすごいよねセシルさんとラエサルさん。俺もあんぐらい強けりゃなあ。」
「何を言うリーフ。君の能力だって僕にとっちゃ羨ましい事この上ない。」
「そうかよ、アス。それがどこまで本当かわからんけど」
「何バカを言っている。僕は嘘はつかん。」

 緑髪のリーフの能力は太陽の力をそのままエネルギーにしたり、触れた植物の成長を急速に促進する能力。
 青髪のアスは一定範囲の触れたものの温度を自在に操れる能力だ。
◆◇◇◇◇
「アルルー!なに逆さまになったままぼーっとしてんの!」

 声の高さで僕はウルルが呼んだのだと分かった。すごい……血が足りなくてクラクラしてるのにわかるなんて流石アルル、僕ってすごいや。

「へへへ、よく考えたら僕すごい状態だな今」
「それで、なんで洗濯棒に逆さまにぶら下がってるわけ?」
「ぁ、足の筋肉のトレーニング!」
「頭に血が昇って死にそうな顔してるのによく平気だね。」
「ははは、だって僕はいつか、セシルさん越えするから……」

 そういうか否かのタイミングでウルルの不意打ち腹パンチ!
「うわわっ!」
 アルルは体が反動で高速回転した後、ピザ生地を思いっきり落としたみたいにボテッと地面に落ちる。

「ウルル、君が、まさかそんな…」
「何バカなこと言ってんの?はいはい死んだふりしないの。」

 ウルルの言葉が聞こえたか否かでアルルはどっと出た疲れによってぐっすりとその場で眠ってしまった。
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