神ノ創造する日本

鍵山 カキコ

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信じたくない

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 人は嘆く。
「もしも、あの時ああしていたら……」
「どうして、こうなってしまったの……?」
 しかしそんな人々を見て、こう言う者もいる。
「そんな事を言っては駄目! 未来を──前を見て、進んでいかないと!」
 その選択が正しいのか?
 それは分からない。
 我々人間に、のかもしれない。
 ──神が、正解をつくっていないのかもしれない。

「うわぁ! 凄いねぇ」
 明日香が感嘆の声をもらした。
「立派な建物だけど……何? これは」
「分からない……」
 遠野君の問い掛けに、私は首を横に振る。
「とりあえず、入ってみようぜ」
 そう言って伊藤は入り口の扉にふれる。
「ちょっ! それはさすがに──」 
「失礼しまーす!」
 躊躇ためらう私をよそに、伊藤は扉を開けてしまった。
「またアンタは! 人の話を聞けってさっきも!」
「ごめんって。でも、中に居た奴知りたいならこうした方が早いだろ?」
「……」
 ぞろぞろと、皆建物内に入る。
「!」
 の姿を見て一番に驚いたのは、一ノ瀬さんだった。
 緑のチェックシャツを着た、金髪碧眼の少年。
 彼は不敵に微笑む。
「やあやあ、こんにちは」
 少年の堂々たる態度に、私達は怖気づいてしまった。
 しかしたった一人、満足そうな笑みを浮かべている者がいた。
 そう、それは──
「お兄様っ」
 一ノ瀬さんが少年に飛びついた。
「リョーゼ! 元気だった?」
「もちろん! ……お兄様が来たってことは、もしかして……」
「フフフッ……その通り」
「……あの、さ。一ノ瀬、お前何者だ?」
 伊藤が震えた手で一ノ瀬さんを指差した。
 一ノ瀬さんは表情を真顔に戻し、こう答えた。
「私は──神・トミー=エニソンの妹、リョーゼ=エニソン」
「か、神ぃ!?」
「それより、二人は本当に兄妹なの? 似ても似つかない感じだけど」
 冷静になった明日香が切り出す。
「あぁ、」
 一ノ瀬さんがクルリと一回転する。
 すると、一ノ瀬さんの髪と瞳の色が兄と同じになる。
 そして眼鏡を外すと──
 兄そっくりの姿になった。
「これでどうかな? 私達、自由に姿を変えられるの。これが本当の姿」
(うわぁ……逆に今度は似過ぎ……)
「そぅ……で、貴方達神なんでしょ? どうしてこんな所にいるの?」
 明日香がまた質問する。
「……本当に聞きたい? それで、何も得なくても?」
「うん。だって、」
 明日香は一ノ瀬さんの両手を握る。
「私達、友達でしょっ」
「……」
 一ノ瀬さんはきょとんとした表情をしている。
 数十秒後、一ノ瀬さんは明日香の手を振り払い、
「お兄様。この子達に教えてあげていいよ」
と兄に告げた。
「そう。じゃあ君達、シアターにおいで。はい、こっち」
 トミーは後ろを向き、ゆっくりと歩き出した。
 伊藤が先頭で、彼に付いていく。
 しかし明日香は一向に前に進まない。 
 私は彼女に駆け寄った。
「明日香? 行かないの?」
「──ない」
「? どうしたの、明日香」
「私のリンが……本当の姿があんなだなんて……信じない!」
「……」
 えっと……。
 明日香は、一ノ瀬さんが大好きなようだ。
 知らなかった。
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