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私じゃない
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兄は人殺しだとか拷問だとか、そういった類のものが好きだった。
といっても、実際に人を殺めたりするのでは無く、あくまで二次元──漫画の中での話。
しかしそれでも、たまに現実との境が曖昧になるのか、恐ろしいことを口にすることはあった。
「ゆうなは、『死んでほしい』と思う奴はいない?」
初めてこんな質問をされた時は、驚きで一瞬固まってしまった。
「……そんな人いないよ。お兄ちゃん、もしかしているの?」
「う~ん。いないかなぁ。でも──誰かを殺してみたいな、とは思うね」
その言葉をおふざけなどではなく、すごい真面目な気持ちで発したというのが兄の表情で伝わった。
「どうして?」
「……自分の手で人殺しが出来るなんて、カッコイイじゃないか! いやぁ、殺人犯ってすごいよねぇ。尊敬するよ」
……怖かった。
それは、兄の笑顔への恐怖ではなく──そんな兄に対し、否定が、軽蔑が出来なかった自分への恐怖だ。
血が通っている訳だし、そこまで不思議な事ではないと思いつつも、私は自分が分からなくなっていった。
──最も憎い者を、どう殺すか?
まず、人を憎いと思うことが無かった。
憎い、憎い……憎いって、どんな感情?
「憎い……? う~んと……。『心から、死んでほしいと思う事』じゃない? オレはそう思うかな」
兄の答え。
「憎い……って、何でそんなこと聞くの? ……へぇ、分かんないんだ。そう。……憎いかぁ……、私はー『ウザったい事』だと思う。しつこく告白してくる男子みたいな」
明日香の答え。
「お前時々変なこと言うよなぁ……。あ? 兄ちゃん? 知らねぇけどよ……。憎い憎い……。! アレじゃねぇか? 『自分を不快にさせる』って事じゃね? 納得だろ!」
伊藤の答え。
「え? 憎……い? 私は……『自分が嫌だと思う事』……かな? あ、えっと……参考になった?」
一ノ瀬さんの答え。
『心から死んでほしいと思う事』
『ウザったい事』
『自分を不快にさせる事』
『自分が嫌だと思う事』
そう。それが、皆の「憎い」。
やっぱりそんな事を思う相手はいないな、と思った。けど──
私の国を、私の友を滅ぼそうとしている彼……いや彼らの事を、憎いと感じてしまった。
「……拷問という単語が、加瀬さんの口から出るなんて思ってもみなかったよ」
遠野君は何だか嬉しそうだ。
……もう少し時が経てば、消されてしまうというのに。
「それは勝手な思い込みだよね? 遠野君の中で作られた、遠野君が見た部分だけの私」
遠野君は少し驚いたようだ。
「……君って、こんなに面白い人だったんだね。今まで気づかなかった事を後悔したよ」
「面白い? 何、それ。馬鹿にされてるようにしか感じない」
「気分を悪くさせたなら、謝るよ。ごめん。……君に質問してもいいかい?」
全く反省した気配が無いが、こんな状況なので私はコクリと頷いた。
「ありがとうっ。そうだなぁ……。君、人を苦しめるの、好き?」
「全く」
遠野君がキョトンとした顔になる。
「なのに、拷問するのかい?」
「……あの台詞は、私が口にしたけど、私の本心じゃない。『お兄ちゃん』ならああ言うと思って」
「! ……加瀬さんにもお兄様がいるんだ……!」
リョーゼが嬉しそうに呟いた。
「……サイコパスなのかい? お兄さんは」
「なっ! そういう言い方はおかしい!」
思わず右手が遠野君に攻撃しようとしてしまうのを、私は慌てて左手で押さえた。
「……とにかく、あの言葉は私の本心じゃない。あくまでも、『お兄ちゃん』の言葉だから」
……ごめんなさい。
これだと、お兄ちゃんを言い訳にしてるよね。
といっても、実際に人を殺めたりするのでは無く、あくまで二次元──漫画の中での話。
しかしそれでも、たまに現実との境が曖昧になるのか、恐ろしいことを口にすることはあった。
「ゆうなは、『死んでほしい』と思う奴はいない?」
初めてこんな質問をされた時は、驚きで一瞬固まってしまった。
「……そんな人いないよ。お兄ちゃん、もしかしているの?」
「う~ん。いないかなぁ。でも──誰かを殺してみたいな、とは思うね」
その言葉をおふざけなどではなく、すごい真面目な気持ちで発したというのが兄の表情で伝わった。
「どうして?」
「……自分の手で人殺しが出来るなんて、カッコイイじゃないか! いやぁ、殺人犯ってすごいよねぇ。尊敬するよ」
……怖かった。
それは、兄の笑顔への恐怖ではなく──そんな兄に対し、否定が、軽蔑が出来なかった自分への恐怖だ。
血が通っている訳だし、そこまで不思議な事ではないと思いつつも、私は自分が分からなくなっていった。
──最も憎い者を、どう殺すか?
まず、人を憎いと思うことが無かった。
憎い、憎い……憎いって、どんな感情?
「憎い……? う~んと……。『心から、死んでほしいと思う事』じゃない? オレはそう思うかな」
兄の答え。
「憎い……って、何でそんなこと聞くの? ……へぇ、分かんないんだ。そう。……憎いかぁ……、私はー『ウザったい事』だと思う。しつこく告白してくる男子みたいな」
明日香の答え。
「お前時々変なこと言うよなぁ……。あ? 兄ちゃん? 知らねぇけどよ……。憎い憎い……。! アレじゃねぇか? 『自分を不快にさせる』って事じゃね? 納得だろ!」
伊藤の答え。
「え? 憎……い? 私は……『自分が嫌だと思う事』……かな? あ、えっと……参考になった?」
一ノ瀬さんの答え。
『心から死んでほしいと思う事』
『ウザったい事』
『自分を不快にさせる事』
『自分が嫌だと思う事』
そう。それが、皆の「憎い」。
やっぱりそんな事を思う相手はいないな、と思った。けど──
私の国を、私の友を滅ぼそうとしている彼……いや彼らの事を、憎いと感じてしまった。
「……拷問という単語が、加瀬さんの口から出るなんて思ってもみなかったよ」
遠野君は何だか嬉しそうだ。
……もう少し時が経てば、消されてしまうというのに。
「それは勝手な思い込みだよね? 遠野君の中で作られた、遠野君が見た部分だけの私」
遠野君は少し驚いたようだ。
「……君って、こんなに面白い人だったんだね。今まで気づかなかった事を後悔したよ」
「面白い? 何、それ。馬鹿にされてるようにしか感じない」
「気分を悪くさせたなら、謝るよ。ごめん。……君に質問してもいいかい?」
全く反省した気配が無いが、こんな状況なので私はコクリと頷いた。
「ありがとうっ。そうだなぁ……。君、人を苦しめるの、好き?」
「全く」
遠野君がキョトンとした顔になる。
「なのに、拷問するのかい?」
「……あの台詞は、私が口にしたけど、私の本心じゃない。『お兄ちゃん』ならああ言うと思って」
「! ……加瀬さんにもお兄様がいるんだ……!」
リョーゼが嬉しそうに呟いた。
「……サイコパスなのかい? お兄さんは」
「なっ! そういう言い方はおかしい!」
思わず右手が遠野君に攻撃しようとしてしまうのを、私は慌てて左手で押さえた。
「……とにかく、あの言葉は私の本心じゃない。あくまでも、『お兄ちゃん』の言葉だから」
……ごめんなさい。
これだと、お兄ちゃんを言い訳にしてるよね。
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