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序章
勇者に映るは曇天の空
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王都を抜け、小さな村を幾つか抜けた少し先。
晴天の下、三人の旅人が一本道を歩いていた。
「ねえリオン、もう足痛いんだけど~!休憩しようよ~」
「ミカ! あなたさっき休憩したばっかりでしょう!?」
「うっさいな~! ユリアってば、ほんっと頭固すぎ~! 」
「なっ、んですって!? あなたの頭が緩すぎるんですよ!!」
(また始まったか……)
黒目黒髪の少年は無言で歩きながら、背後から響く声を意図的に無視していた。
ツインテールをぶら下げた金髪ギャルもどきの武道家に、委員長風な青髪おかっぱ眼鏡の僧侶。
今二人を止めたところで、どうせ数分後には再開している。もはやこいつらは、喧嘩するのが日課みたいなものだった。
(……これが、俺のパーティーかよ)
喉まで出かかったため息を、咄嗟に飲み込む。
(ほんの少し前までは、適当に生きてる、普通の高校生だったんだけどなあ…)
一般的な日本生まれ日本育ちである自分だったが、今は何故か異世界にいて、白銀の鎧を身に纏い、腰に聖剣を携えていた。
──あの日。
突然異世界に召喚された俺は逃げ場もなく「勇者」として祭り上げられ、伝説の聖剣に選ばれた後に、世界を救えと命じられ。
気がつけば、絶望的に相性の悪いこの二人と旅する羽目になっていた。
「リオ~ン、聞いてる? あとどれくらいか見たいんだけど~」
「リオン様、次の町までの地図、見せてもらえますか? 」
同時に飛んできた声に、反射的に耳を塞ぎたくなったその瞬間、激しい頭痛が襲った。
(──ッ! またか…!)
ふざけた話だと思うが、この世界に来てからというもの、俺は“勇者らしくない”行動を取ろうとするたび、必ず激痛に苛まれるようになった。
必死に笑みを作り、二人に向き直る。
地図を広げた途端、彼女たちは嬉々として寄り添い、ぐいぐいと距離を詰めてくる。
「ありがとう! リオンの優しい所、アタシ大好き♪︎」
「な、なななな何を言ってるんですかあなたは……!!」
「トーゼンでしょ、アタシたちは勇者パーティーなんだから♪︎」
「そ、れは、そうですけど… わ、私だって……」
「言いたいことがあるならハッキリ言えば~ ねえ~♪︎」
「だから腕を絡ませないで下さい! リオン様から離れて!」
「あはは……… 二人とも、次の町まであと少しだから、もう少しだけ頑張ろう」
敬意を欠かさず、笑顔を崩さず、声色は優しく。
その勇者らしい態度に満足したのか二人は一旦口論を止め、素直に歩きだした。
「いいよ、今はまだ、ね♪︎」
「これからも駄目ですけど……」
──だって勇者を侍らすのは(私)(アタシ)なんだから
(……って考えが見え透きすぎて、気持ち悪ぃんだよな)
おまけにあの二人は、いつもあんな調子。
健全な頼れる勇者パーティーなんて初めから存在していなかったのだった。
「あっ、魔物じゃん、ちょっと倒してくる~♪︎」
「ミカ……! 抜け駆けは許しませんから!!」
疲れたと言っていたにも関わらず、武道家と僧侶はひとりでに走り出す。
「ミカ、ユリア、よせ! そいつは──!?」
向かって行ったのは、今まで倒してきた雑魚とは明らかに違う、一つ目の巨人の魔物だった。
「とりゃー! ……ってウソ!? 全然効いてない!? 」
「そんな!? 次、私が攻撃するなんて……」
通常、誰が見ても今の状態で敵う相手ではないことぐらいわかるだろう。
だが、彼女たちにとっては予想外の出来事であり、頭上では魔物が手に持っている棍棒を振り上げ、一撃を喰らわそうとしていた。
「リオ~ン、助け~て~!」
「リオン様ーー!」
(頼むから、もう少し考えて行動してくれよ──!)
勇者であるが故に、仲間を見捨てるような行為は自分に返ってくる。
リオンはやむを得ず両手に剣を構え、魔物の足を狙い、怯ませた。
「逃げるぞ! 今の俺たちに敵う相手じゃない!!」
「えぇ~……」
「で、ですが……」
「いいから早く!! ──ッ!」
何度も注意した、何度も何度も、身の丈に合わない戦闘はするなと言った。
強く叱ろうにも、仲間に対する罵倒と判断され頭痛が起こる。
「走るぞ! ミカ、ユリア!!」
「リオン様! 攻撃の弱い武道家なんて、さっさと置いて行きましょう」
「はあ~!? 自分ばっか守ってる僧侶の方が要らないから」
(……ホント、何やってんだろ)
走りながらふと考える。
自分が勇者に向いていない事も悪いのかもしれないが、だからといって、こんな強制的な在り方、絶対間違ってる。
(気持ち悪い気持ち悪い、こんな世界むしろ滅びてしまえ! そうすれば……)
「痛っ──!」
頭痛が酷くなる、恐らく勇者らしくない考えを浮かべたからだ。
「はぁ……」
結局、どう足掻いたって、自分は"勇者"でいなければいけないらしい。
(……誰か、代わりに世界救ってくんねぇかな)
そんなことを思いながら、空を見上げる。
雲ひとつない青空だったが、彼の胸の中は、ひたすら光の見えない曇り空が広がっていた。
晴天の下、三人の旅人が一本道を歩いていた。
「ねえリオン、もう足痛いんだけど~!休憩しようよ~」
「ミカ! あなたさっき休憩したばっかりでしょう!?」
「うっさいな~! ユリアってば、ほんっと頭固すぎ~! 」
「なっ、んですって!? あなたの頭が緩すぎるんですよ!!」
(また始まったか……)
黒目黒髪の少年は無言で歩きながら、背後から響く声を意図的に無視していた。
ツインテールをぶら下げた金髪ギャルもどきの武道家に、委員長風な青髪おかっぱ眼鏡の僧侶。
今二人を止めたところで、どうせ数分後には再開している。もはやこいつらは、喧嘩するのが日課みたいなものだった。
(……これが、俺のパーティーかよ)
喉まで出かかったため息を、咄嗟に飲み込む。
(ほんの少し前までは、適当に生きてる、普通の高校生だったんだけどなあ…)
一般的な日本生まれ日本育ちである自分だったが、今は何故か異世界にいて、白銀の鎧を身に纏い、腰に聖剣を携えていた。
──あの日。
突然異世界に召喚された俺は逃げ場もなく「勇者」として祭り上げられ、伝説の聖剣に選ばれた後に、世界を救えと命じられ。
気がつけば、絶望的に相性の悪いこの二人と旅する羽目になっていた。
「リオ~ン、聞いてる? あとどれくらいか見たいんだけど~」
「リオン様、次の町までの地図、見せてもらえますか? 」
同時に飛んできた声に、反射的に耳を塞ぎたくなったその瞬間、激しい頭痛が襲った。
(──ッ! またか…!)
ふざけた話だと思うが、この世界に来てからというもの、俺は“勇者らしくない”行動を取ろうとするたび、必ず激痛に苛まれるようになった。
必死に笑みを作り、二人に向き直る。
地図を広げた途端、彼女たちは嬉々として寄り添い、ぐいぐいと距離を詰めてくる。
「ありがとう! リオンの優しい所、アタシ大好き♪︎」
「な、なななな何を言ってるんですかあなたは……!!」
「トーゼンでしょ、アタシたちは勇者パーティーなんだから♪︎」
「そ、れは、そうですけど… わ、私だって……」
「言いたいことがあるならハッキリ言えば~ ねえ~♪︎」
「だから腕を絡ませないで下さい! リオン様から離れて!」
「あはは……… 二人とも、次の町まであと少しだから、もう少しだけ頑張ろう」
敬意を欠かさず、笑顔を崩さず、声色は優しく。
その勇者らしい態度に満足したのか二人は一旦口論を止め、素直に歩きだした。
「いいよ、今はまだ、ね♪︎」
「これからも駄目ですけど……」
──だって勇者を侍らすのは(私)(アタシ)なんだから
(……って考えが見え透きすぎて、気持ち悪ぃんだよな)
おまけにあの二人は、いつもあんな調子。
健全な頼れる勇者パーティーなんて初めから存在していなかったのだった。
「あっ、魔物じゃん、ちょっと倒してくる~♪︎」
「ミカ……! 抜け駆けは許しませんから!!」
疲れたと言っていたにも関わらず、武道家と僧侶はひとりでに走り出す。
「ミカ、ユリア、よせ! そいつは──!?」
向かって行ったのは、今まで倒してきた雑魚とは明らかに違う、一つ目の巨人の魔物だった。
「とりゃー! ……ってウソ!? 全然効いてない!? 」
「そんな!? 次、私が攻撃するなんて……」
通常、誰が見ても今の状態で敵う相手ではないことぐらいわかるだろう。
だが、彼女たちにとっては予想外の出来事であり、頭上では魔物が手に持っている棍棒を振り上げ、一撃を喰らわそうとしていた。
「リオ~ン、助け~て~!」
「リオン様ーー!」
(頼むから、もう少し考えて行動してくれよ──!)
勇者であるが故に、仲間を見捨てるような行為は自分に返ってくる。
リオンはやむを得ず両手に剣を構え、魔物の足を狙い、怯ませた。
「逃げるぞ! 今の俺たちに敵う相手じゃない!!」
「えぇ~……」
「で、ですが……」
「いいから早く!! ──ッ!」
何度も注意した、何度も何度も、身の丈に合わない戦闘はするなと言った。
強く叱ろうにも、仲間に対する罵倒と判断され頭痛が起こる。
「走るぞ! ミカ、ユリア!!」
「リオン様! 攻撃の弱い武道家なんて、さっさと置いて行きましょう」
「はあ~!? 自分ばっか守ってる僧侶の方が要らないから」
(……ホント、何やってんだろ)
走りながらふと考える。
自分が勇者に向いていない事も悪いのかもしれないが、だからといって、こんな強制的な在り方、絶対間違ってる。
(気持ち悪い気持ち悪い、こんな世界むしろ滅びてしまえ! そうすれば……)
「痛っ──!」
頭痛が酷くなる、恐らく勇者らしくない考えを浮かべたからだ。
「はぁ……」
結局、どう足掻いたって、自分は"勇者"でいなければいけないらしい。
(……誰か、代わりに世界救ってくんねぇかな)
そんなことを思いながら、空を見上げる。
雲ひとつない青空だったが、彼の胸の中は、ひたすら光の見えない曇り空が広がっていた。
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