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第1章 商人の街
それは何気ない筈の大切な話
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危険な魔物から逃げ切った後、次の町に着いたのは、午後を過ぎた頃だった。
商店街には人の波。
屋台の香ばしい匂いが立ち上り、武器や防具を並べている露店が道の両脇に軒を連ねていた。
「やばっ、見てリオン! このグローブ超カッコよくない? てか試着できるってー!」
反省する素振りも無い武道家が声を上げるや否や、勝手に防具屋へと駆けて行った。
「ミカ、待って下さい! まだ宿も決まってないのに……!」
同じく僧侶が慌てて追いかけていく。
いつも通りといえばいつも通りなその光景を見送り、肩をすくめた。
(財布は僧侶が持ってるか……まぁ、いいや、一人になれるし)
頭痛も来ない。
ならば今は放っておこうと、人混みを避けて静かな裏路地へ足を踏み入れる。
狭く薄暗い路地の行き止まりに背を預け、彼は空を仰いだ。
「……はぁ、疲れた」
それは行き場の無い感情を、吐き出すような声だった。
「異世界転移」とか「勇者」とか、どれも自分の人生とは無関係だったはずだ。
なのに今は、望んでもいないのに誰かの期待に応えるふりをして、毎日を偽って生きている、……正直もう限界だった。
「……生きるって、めんどくせーな」
──そのとき。
「わかるよ、その気持ち」
不意に声が聞こえ、思わず身を起こす。
優しくも冷たい声が、壁の向こう側から響いて来た。
「随分と苦しそうだね」
胸の奥がざわついた。今の言葉は明らかに“勇者らしくない”、なのに──頭痛は訪れない。
この世界に来てから初めてのことだった。
自分でもよくわからず、圧し殺していた言葉が次々と溢れてくる。
「……まあな。誰かに期待されて、勝手に役割押し付けられて、断ることもできない。そんな人生ってさ……正直、しんどいよな」
「そっか、大変だね」
「だろ? もうやめていいかな」
「でも、 生きるってめんどくさいけど、生きるのやめたら死んじゃうよ?」
『それはそうだろ』と、あまりにも当然のことを、あまりにも淡々と言われ、そのあっけなさにリオンは堪えきれず吹き出してしまった。
「アッハハハ、そうだな! ……やっぱ、死ぬのはダメだよなー」
「うん、だってそういうものでしょ?」
返事も素っ気なかったが、関係ない。
リオンはこの世界に来て初めて、誰かに理解された気がして、心地が良かった。
(……誰だか知らねぇけど、変なやつ。)
だけど、どこか落ち着く不思議な存在、これは生きてきた中で、初めての経験だった。
「……そろそろ行くわ」
今と向き合う覚悟を決めて、立ち上がる。
(うん、さすがに財布の中身が気になってきたな……)
「そっか。気をつけて」
一体どこの誰なのか、顔も名前も知らない相手。
それでも、自分がこの声に救われたのは紛れもない事実だった。
「……ありがとう。それじゃあ」
路地を抜けて、陽の差す街道へと戻り、ふと思う。
「結局なんだったんだろ? 」
少し疑問は残る、だが……
「まあ…… どうでもいっか!」
そんな事はどうでもいいと感じるほどに、胸の奥には先ほどのやり取りが残響のように響いていた。
「苦しいのは、よくないよね。元気になって、よかったよ」
裏路地の奥──
人けのない壁の向こうに、無表情の少年が座っていた。
「……人ごみ、疲れたなぁ」
町人に扮した姿で独りごちたのは、異世界から召喚された魔王、アキトだった。
「あの二人はここが一番近いって言ってたけど…… どうなんだろ?」
アキトたちは城を後にし、勇者が召喚され旅立つであろう王都から一番近くて大きなこの街に辿り着いていた。
「んー、でも強くなる前に倒しちゃえばいいって言ったの、僕だし…」
魔王は空を仰ぎながら、まるで何気ない話でもするかのように呟いた。
「勇者、早く見つけないとなぁ」
商店街には人の波。
屋台の香ばしい匂いが立ち上り、武器や防具を並べている露店が道の両脇に軒を連ねていた。
「やばっ、見てリオン! このグローブ超カッコよくない? てか試着できるってー!」
反省する素振りも無い武道家が声を上げるや否や、勝手に防具屋へと駆けて行った。
「ミカ、待って下さい! まだ宿も決まってないのに……!」
同じく僧侶が慌てて追いかけていく。
いつも通りといえばいつも通りなその光景を見送り、肩をすくめた。
(財布は僧侶が持ってるか……まぁ、いいや、一人になれるし)
頭痛も来ない。
ならば今は放っておこうと、人混みを避けて静かな裏路地へ足を踏み入れる。
狭く薄暗い路地の行き止まりに背を預け、彼は空を仰いだ。
「……はぁ、疲れた」
それは行き場の無い感情を、吐き出すような声だった。
「異世界転移」とか「勇者」とか、どれも自分の人生とは無関係だったはずだ。
なのに今は、望んでもいないのに誰かの期待に応えるふりをして、毎日を偽って生きている、……正直もう限界だった。
「……生きるって、めんどくせーな」
──そのとき。
「わかるよ、その気持ち」
不意に声が聞こえ、思わず身を起こす。
優しくも冷たい声が、壁の向こう側から響いて来た。
「随分と苦しそうだね」
胸の奥がざわついた。今の言葉は明らかに“勇者らしくない”、なのに──頭痛は訪れない。
この世界に来てから初めてのことだった。
自分でもよくわからず、圧し殺していた言葉が次々と溢れてくる。
「……まあな。誰かに期待されて、勝手に役割押し付けられて、断ることもできない。そんな人生ってさ……正直、しんどいよな」
「そっか、大変だね」
「だろ? もうやめていいかな」
「でも、 生きるってめんどくさいけど、生きるのやめたら死んじゃうよ?」
『それはそうだろ』と、あまりにも当然のことを、あまりにも淡々と言われ、そのあっけなさにリオンは堪えきれず吹き出してしまった。
「アッハハハ、そうだな! ……やっぱ、死ぬのはダメだよなー」
「うん、だってそういうものでしょ?」
返事も素っ気なかったが、関係ない。
リオンはこの世界に来て初めて、誰かに理解された気がして、心地が良かった。
(……誰だか知らねぇけど、変なやつ。)
だけど、どこか落ち着く不思議な存在、これは生きてきた中で、初めての経験だった。
「……そろそろ行くわ」
今と向き合う覚悟を決めて、立ち上がる。
(うん、さすがに財布の中身が気になってきたな……)
「そっか。気をつけて」
一体どこの誰なのか、顔も名前も知らない相手。
それでも、自分がこの声に救われたのは紛れもない事実だった。
「……ありがとう。それじゃあ」
路地を抜けて、陽の差す街道へと戻り、ふと思う。
「結局なんだったんだろ? 」
少し疑問は残る、だが……
「まあ…… どうでもいっか!」
そんな事はどうでもいいと感じるほどに、胸の奥には先ほどのやり取りが残響のように響いていた。
「苦しいのは、よくないよね。元気になって、よかったよ」
裏路地の奥──
人けのない壁の向こうに、無表情の少年が座っていた。
「……人ごみ、疲れたなぁ」
町人に扮した姿で独りごちたのは、異世界から召喚された魔王、アキトだった。
「あの二人はここが一番近いって言ってたけど…… どうなんだろ?」
アキトたちは城を後にし、勇者が召喚され旅立つであろう王都から一番近くて大きなこの街に辿り着いていた。
「んー、でも強くなる前に倒しちゃえばいいって言ったの、僕だし…」
魔王は空を仰ぎながら、まるで何気ない話でもするかのように呟いた。
「勇者、早く見つけないとなぁ」
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