召喚魔王×召喚勇者 世界を滅ぼす気も救う気もない二人は共に旅に出る

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第1章 商人の街

汝は今宵、何を見る

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 勇者は二人と合流し、町の喧騒を抜けた三人は、陽が落ちた頃、ようやく宿屋に腰を落ち着けた。

 リオンは一人ベッドに横たわる。

(別々の部屋に出来て良かった…、これでやっと静かになる……) 

 そんなことを思いながら目を閉じると、意識はすぐに眠りへと落ちていった。 


 ──暗闇。
 全身を覆う寒気と、底知れぬ殺意。
 姿なき“何か”が、確実に迫ってくる。 

 “逃げろ”──本能が叫んでいた。 

(なんだ……これ……!?) 

 理屈など考える余裕はない。ただ必死に走り、ただひたすら逃げ続ける。 

(いったい何がどうなっているんだ……!) 

 そして── 


「──死ね」 


 殺意に満ちた、誰かの囁く声が聞こえる。

 鋭い何かが胸を貫き、呼吸が断たれ、痛みを越えた“終わり”の感覚が一気に押し寄せる。

 リオンは瞬く間に、闇に飲み込まれていった。



 ***


 翌朝。   


「リオーン! 聞いてよ、超ヤバい夢見たんだけど!」  

「私もです。まるで、命を失ったかのような悪夢で……」  

 朝食もそこそこに、武道家と僧侶が口々に話し始める。
 リオンは口元だけ笑わせながら、スープをすすった。 


「俺もだよ。似たような夢を見た」   

「やっぱり!? これ、なんかおかしいよね!?」 

「ええ、偶然とは思えません」 

 そのとき、宿の店主であるオバチャンが、深刻な顔で声をかけてくる。 

「……あんたたちも、悪夢を?」  

「あ、オバチャンじゃん。なんか知ってるの?」 

「ああ、勿論さ。ここ数ヶ月、この町に滞在した人はみんな、似たような悪夢を見るんだよ。原因はわからないけど、それが怖くて旅人も避けるようになってね。宿屋もこの通り……」 
 
 視線の先には、客のいない空の食堂。
 その寂しさに、僧侶の表情が曇る。  

「……見過ごすわけにはいきませんね」 

「だよね! アタシたち、勇者パーティーなんだし♪︎ ね、リオン。 やれるよね? 」 

 リオンは、ほんの一瞬だけ頬を引きつらせた後、完璧な笑顔を貼り付けた。 

「もちろん。街の人たちが困ってるなら、放ってはおけないからな」   

「さっすがリオン、やっぱ勇者だわ~♪︎」 

「この問題、必ず私たちで解決して見せましょう」 


(こいつら、ほんと勝手に決めるよな……)


「じゃあ決まり! 今日から調査スタート♪︎」 

 武道家が勢いよく立ち上がり、僧侶もそれに続く。 

 リオンは立ち上がりながら、ふと目を伏せる。 

 (この町がどうなろうと、知ったこっちゃねぇ、……でも俺が“勇者”である限り、関係ないか) 

 そんな想いを隠しながら、リオンは笑顔で扉を開いた。




 *** 


 ──時は遡り昨夜


 すっかり鎮まりかえった夜の街を、魔王は見下ろしていた。 


「……勇者、見つからなかったな」 

 ぽつりと呟いたその時、空からバサバサと羽音が聞こえてくる。 

「アキト様ーっ!」   

 声と共に降り立ったのは、悪魔のような翼と鋭いくちばしを備えた魔物──ガーゴイルだった。翼を畳むや否や、恭しく膝をつく。 

「ケケッ、このガーゴイル、重大な情報を持って参りました」 

「ありがと、顔を上げて」 

「はい、実はこの町、魔将が関わっておりまして……」 

「魔将?」 

「はい。そやつが聖剣の力を弱めているようでございます。ケケッ、こんな小賢しいことができるのは、魔力と多少の知恵を兼ね備えた魔将くらいですな」 

「へえ、そうなんだ」 

「聖剣のような特別な魔道具は生きているようなもので、精神系の干渉は意外と効くんですよ。他にも── ケケッ、話を戻しましょう。奴は町のあちこちに魔石装置を仕掛けております」

「魔石装置……?」

 ガーゴイルは手のひらから、小さな機械を見せる。

「この様な形をした、元々は魔法の使えない人間が魔法を仕様する為の魔道具でございます。調べ上げたところ…… それらを改造し、人間から魔力を吸い上げ、さらに力を蓄えているようで…… あ、ちなみに魔石というのは──」 

「ふーん、それってもしかしてアレのこと?」 

 アキトが指差した先。教会の屋根に掲げられた風見鶏が、不自然に回転を続けていた。 


「ゲゲッ!? 魔力が一ヶ所に集まってる!? 昼間はなんともなかったのに……!」 

「つまり、あそこが本拠地だよね」 

 ガーゴイルは息を呑む。 

「い、いかがなさいますか?」 

「別に、放っとけばいいじゃん。代わりに勇者を倒してくれるなら、それで──」 


「アキト様、大変です!!」 


 屋根を伝って駆け寄ってきたのは、共に行動するもう一体の魔物、人狼ワーウルフだった。

 荒い息を整えながら声を張る。 

「ケッ、遅せーぞ人狼、今まで何やって──」 

「今すぐここから離れて下さい、この街は……っ!」 

 突然、視界がぐらりと揺れる。
 膝が折れ、立っていられない。 

「アキト様!! ──ウゲッ、なんだこれ、頭が……」

「ぐっ……!? この街を支配しているのは、おそらく……」

 言葉の続きを聞く前に、アキトの瞼はゆっくりと閉ざされていった。



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