召喚魔王×召喚勇者 世界を滅ぼす気も救う気もない二人は共に旅に出る

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第4章 にぎやかなイカれた町

あたらずとも遠からず (後半)

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  カジノ客たちに案内され再び町に戻ってきた二人は、雪山から一番近い宿に到着した。

「ここまで来たらええやろ、気ぃつけてな」

 カジノ客から逃れるため商人に変装しているアキトは、商人らしく丁寧に感謝を述べた。

「はい、とっても助かりました。今度お買い求めの際は、うんとサービスさせて下さいね!」

「そ、そうだな…… 気を付ける。ここまで案内してくれてありがとう」

 (ダメだ…… 今のあいつを見てると調子が狂う)

 リオンはアキトの見せる別人っぷりに戸惑いながらも、二人は案内してくれた彼らに礼を言い、再び雪山に向かう彼らを見届けた。



 二人の目に映ったのは、反逆同盟レジスタンスの本拠地に似た二階建ての造りの宿だった。
 扉を開ければ、ストーブのような魔石装置によって暖められた中、ワイワイと酒を囲いながら騒ぐカジノ客たちの姿が見えた。

 ふとリオンは、ポーカーをしながらテーブルを囲んでいた時の光景を思い出す。

「そういえば、あの宿にいたやつらって無事なんだろうか……?」

「たしかに、みんな、どこにいるんだろうね」

 ひとけの少ない窓際の席から二人は外を覗きつつ、本拠地で別れた同盟者たちの存在を思い出す。ここに来る途中でもその姿を見てはおらず、この町はカジノ客たちによって占領されているらしい。

 うがあぁぁぁぁぁぁ───!!!!

「何だ!? どうしたんだ急に……!」

 一息ついたのも束の間、リオンたちは突如狂ったような悲鳴が聞こえ即座に立ち上がる。

 カジノ客が集まる奥を見れば、客の一人である大男が突然暴れ始め、周囲の机や椅子を壊しながら見境なく周りの人々を巻き込んでいた。

「んー、なんか大変そうだね、眠らせちゃってもいいかな?」

 やがて大男は撹乱しながら、こちらに向かって襲いかかってくる。見かねたアキトはやむを得ず眠りの魔弾を使おうとするが、その必要はすぐに無くなった。

「あっはは、オッチャンだいぶイカれてらぁ!」

 笑い声と共に二人の前に現れた青年は、襲いかかってきた大男の胸ぐらと腕を掴み、前に出る勢いを利用しながら豪快に背負い投げて見せる。

「よお、兄ちゃん。ってもうこれ三回目か」

 厳つい大男を軽々と投げ飛ばすようなイメージが無かったので、リオンは顎に拳を当てながら別の人物である可能性を疑った。

「リオン、知ってる人?」

「どうだろう…… カジノで会ったことあるような……」

「いや、あってる、あってるから自信もって!」

 へべれけな状態ではないため多少わかりずらいが、あの時カジノで絡んできた酔っ払い釣り青年だった。
  

「今日は酒入ってねぇんだな」

「まあな、今飲んだら多分これの二の舞だ」

 すると地面に投げ飛ばされた大男はすぐに正気に戻り、立ち上がって感謝を述べると、何事も無かったかのようにその場を去っていく。

「他の奴らもそうだけど、長いこと記憶が飛んでたせいか、頭こんがらがっちまうんだよ」

 去っていく大男の背中を見ながら語る青年は、どうやら酒が抜けた代わりに記憶が戻っているらしい。リオンはそれでもこの町に残る彼に問いかけた。

「じゃあ、あんたは何でまだここにいるんだ?」
 
「そりゃあ……ギャンブルしたいからに決まってるだろ? 聞いた話じゃ、この宿でカジノを再開させるって話だぜ」

「……マジか」

 カジノに拘る客たちの執念深さに、もはや怖いとさえ感じていた。


「なに、同情なんてしたら負けだ。この町には、こんなイカれた奴しかいないから」


 すると、何かに気づいたらしいアキトが入り口の扉に目を向ける。

 バァン──と宿の扉が音を立てながら開かれ、その奥には反逆同盟レジスタンスのディーラー男がいた。

「お待たせいたしました! 皆様の強い要望を受け、我々反逆同盟レジスタンスは簡易的ではありますが、カジノを再開したいと思います!!」

 扉の外から次々とディーラーの格好をした数人の同盟者たちが現れ、カジノ客たちは宿を揺らすような勢いの歓声が上がる。

「ひゅ~、待ってたぜ! やっぱカジノあってのこの町だー!!」

 青年も拳を突き上げながら、他の客たち同様に歓喜の声を上げていた。

「みんな、無事でよかったね」

「そうだな、もっと騒がしくなる前に行くか」

 宿の部屋を借りたリオンはボロボロの服から着替え、二人はこの町を出るための準備をする。

 暖かい空間から寒空の下へと向かい、宿から外に抜け出した二人だが……

「お待ち下さい、お二方!」

 そのあとを追いかけてきたディーラー男の声に振り返った。

「リーダー、 シャーク、本当にありがとうございました!」

 扉の前で直角に頭を下げる男に、リオンは呆れたように鼻で笑ってしまう。

「何言ってんだよ、あんたの…… いや、あんたらの一人勝ちだろ? 捕食者シャーク

 その言葉を聞いたディーラー男は、ハッとした表情を浮かべた後、まるで自白をするかのように告げた。

「……正直、貴方方が我々を信じてくれるかは賭けでした」

「言葉に嘘は無かったからな、違和感の正体はあんたらの"あり方"だ」

「そっか、だからあの時……」

 二人は、カジノから持ち出した資料の冒頭にはハッキリと【かつて存在した"氷の魔物"】と書かれていたことを思い出す。

「魔将って言って通じるのは、俺とこいつと"魔物"連中だけなんだよ」

「……なるほど、それは盲点でした」

 ディーラー男は目を伏せながら、その言葉を肯定した。

「相手が魔将でないとわかり、勝負を仕掛けました。あとは巨大な魔物よけ装置さえ壊せば、我々の勝ちでしたから」

「魔物よけ…… あ、あの大きなシャンデリア、そうだったんだ」

 アキトは最後に破壊した一番大きな設備を思い出して納得したようだ。

「とにかく、あとは好きにすればいい。あんたらだしな」

「……そのセリフ、いつか誰かに言われた気がします」


 ディーラー男が夕焼けに照らされた二人の背中を見届けた後、男の体から複数の声が聞こえてくる。

「なんでわかったんだろ?」「みんながんばったのにね」「でもいい人たちでよかったよ」

 男の体はゼリー状に溶け始め、小さな塊がいくつも散らばった。

「宿でがんばってる仲間たちにも伝えよう」「でもうれしいから先に言っちゃおう!」

 小さなゼリー状の塊は、ピョンピョンと飛び跳ねながら声を揃えて喜びを叫ぶ。

「「「この町は、われわれ"スライム軍団"が支配したーー!!」」」



 小さな町を後にしたアキトとリオンは、積雪が残る一本道を夕日が沈む方向へと並んで歩いていく。

「おっと、あぶな……! この道凍ってんのか」

「ねぇリオン、ホントに休まなくてもいいの? 」

「ああ、予備の剣も持ったし、服も着替えられた。てか、魔法使えばいつでも買って戻ってこれるしな」

「それは、そうかもだけど……」

 アキトは帽子とリュックと仮面をしまい、黒いマントを羽織ったいつもの格好には戻ってはいるが、珍しく何か言いたげな彼に、リオンは意を決して聞いてみた。

「……お前は、休みたかったか?」

「え……?」

「俺のことばっか気にかけて、気ぃ使ってるなら止めてくれ」

 氷の魔将の最後を見たあの日から、リオンはずっと考えていた。
 受け止められるか不安で思わず下を向いてしまったが、それでも顔を上げ、アキトと目を合わせながら言った。


「あいつがいなくなって……お前はどう感じているんだ?」


「僕が、感じていること……」

 すると彼は立ち止まり、しばらく顎に指を当てながらうつむくと、やがて困ったようにこう告げた。

「考えたことなかったな」

 まさかの発言に、リオンは目を丸くする。

「……マジで、言ってるのか?」
 
「うん、君に悲しんで欲しくないって、ずっとそれだけ考えてた」

 なんと彼は自身をそっちのけで、こちらのことを気にしていたと言う。そう言った彼に、リオンは激しい憤りを抑えられなかった。

「は? てめぇ……!」

 右手で彼の胸ぐらを掴み、自分の気持ちを圧し殺して欲しくない思いから声を荒げてしまう。

「ふざけんな! 俺を理由に自分のこと考えてねぇとか…… 馬鹿にもほどがあるだろ!! もっと自分のこと大切にしろよ!!!」

 リオンは、それがどれだけ辛いことなのかを十分に理解していた。

「そっか……ごめん。僕は君を理由に、自分の気持ちを考えようとしてなかったんだね」

 アキトは自身を掴む彼の手を見ると、それを両手で包みながら考え直す。

 冷たい風が二人は間を抜けるとともに、穏やかな声で言った。


「うん、あの人にもう会えないのは…… 寂しいね」


 表情こそ変わらない。それでも彼の両手から喪った悲しみが伝わり、この時リオンは初めて彼の思いを知った。

「ごめんね。自分のこと、よくわかってなくて」

「いや、俺もその…… 色々すまん」

 リオンは掴んだ右手を緩ませると、アキトはそのまま彼の手を両手で優しく握り直しながら──

「ううん、君がいてくれたから気づけたんだ」

 ありがと── と、彼はどこか儚げな表情で微笑んで見せた。


「ねぇ、君はどう思ったの?」

「え? そりゃあ俺は……」

 お前のことが心配で…… と言いかけた瞬間、リオンは理解してしまう。

 (ちょっと待て、こいつの言ってたことって…… 俺にもあてはまるんじゃ──!?)

 人に散々言っておいて、自分は全く気づきもしなかった己の浅ましさを思い知ってしまい、リオンはあまりの大恥にいてもたってもいられなくなる。

「どうしたの?」

「いや、ちが、そんなつもりなんて…… !」

 アキトはリオンの手を両手で握ったまま、急に焦りだす彼を不思議そうに見つめ首をかしげる。

 目の前のアキトに合わせる顔がないリオンは、距離を取ろうと慌てて手を振りほどき、後ろに下がろうとした直後。凍った道で足を滑らせ、頭から地面へと体が向かっていく。

「ちょっ──! マジで…… うわっ!? 」

「リオン──!」

 アキトは迷うことなく彼の元に手を伸ばすが、凍った地面では彼を上手く支えきれず一緒に倒れ込んだ。


 ドサッ─────


 リオンは頭部にくるはずの衝撃が軽く、少しづつ目を開けると。


「あ──」
「あ──」

 リオンの頭部をアキトが両腕で覆う。その際二人は、唇と唇が触れる寸前のところまで顔が近づいていた。

 少しでも動けば触れてしまいそうで、リオンは今、自分のどうしようもない生き恥を間近で見られていることに頭が沸騰しそうになる。

 (見るな、見るな見るな見るな───!!! これ以上どうしろってんだよ────!!!!!)

 彼の目に映る自分を意識しながら、空いた口が震えてしまうのをひたすらに堪えるしかなかった。


 やがてアキトがゆっくりと体を起こし、地面に座りながら何事もなかったかのように心配する。

「リオン、大丈夫?」

「……俺も大概だった」

 しかし、リオンは寝そべったまま起き上がることが出来ず、右腕で両目を隠しながら天を仰いた。

「もう、ダメかもしんない……」

「えぇ……そんなぁ……」



 やっと落ち着いた頃、二人は何気ない会話をしながら再び歩き始める。

「なぁ、お前さ、何か欲しい物とかないのかよ」

「欲しい物、んー……」

「あー、それじゃあ、好きなもの。お前の好きなものは何だ?」

 リオンはただ、彼がくれた分の優しさを自分も返したいと思った。
 
「えーっと、海と、船と、あとは…… 」

 次に出たものは、リオンにとっては意外なものだった。

「君の笑った顔が好きかな」

「えっ……?」
 
「剣を振るってるカッコいい時の顔も、美味しいもの食べてる時の顔も、あとちょっとびっくりしてる時の顔も好きだよ」

 思ってもいなかった言葉にリオンは思いが詰まり、反応に困る。

「ってことは、つまり僕は──


 ──君が欲しいってことになるのかな?」


 こちらを見つめる赤い瞳が、まるで本心であると言っているようだった。

 あれ? でもこれだと── と言いかけたアキトに、リオンはデコピンを食らわせる。

「……ばぁか」

 夕焼けが映し出した彼は、眉を下げながらも満更でもなさそうに笑っていた。

 アキトは理由よくわからずとも、リオンが笑っているならいいと額を押さえながら微笑み返す。


 間もなく二人は次の場所へと辿り着く、彼らの旅の終わりは近い。


 
     
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