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第5章 空っぽの村
まるで流星のこどく
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日が沈んだ頃、雪山から少し離れた二人は、針葉樹が並ぶ森の中で静かに焚き火を囲っていた。
「んー、思ったよりも広い森だったね」
「今までが上手く行きすぎてたんだよな」
空を見上げれば、生い茂る木々の間から乾燥した空気が星を綺麗に映している。その隣にいるアキトは、呆然と星空を眺めるリオンを見つめていた。
「……リオン、元気ない?」
「ちげーよ、こういうの久しぶりだって考えてた」
アキトは少々不安に思っているのかもしれないが、リオンはむしろちょうどいいと思った。
「まあ、キャンプみてぇなもんだろ。 "アレ"出してくれ」
「うん……?」
「全然使う機会なかったし、一回やっておきたかったんだよ」
すると、これかな? と言ったアキトは虚空から、以前必要なものとしてリオンが購入していた、元の世界とよく似た形をした二人用のテントを取り出す。
「そうそう、それそれ。釣竿といい、一通り買っておいて正解だったわー」
アキトからテント一式を受け取ったリオンは、その大きさを確認すると、焚き火から少し離れた場所に置き平らに広げた。
「よっしゃ、まずはこれに…… あと、寒くなってきたから防寒も……」
「ねぇリオン」
「あー、飯がまだだったな、何か作んねぇと……」
「あれ?」
アキトの呼びかけにも応えず、リオンの独り言はさらに続く。
「どちらにしろ、まずは湯を沸かして……」
「────」
周りの音を気にすることなく、リオンは目を虚ろにしながら、まるで何かに迫られたようにテキパキと一人でテントを組み立てていく。
「それから……」
「ねぇ、リオン──」
さすがに様子がおかしいと感じたアキトは、すかさず彼の元に駆け寄り、邪魔にならないギリギリのところまで近づいてもう一度呼びかける。
芯の通った声にハッとしたリオンは、ようやく手を止めて振り向いた。
「僕にもやらせて」
「お、おう…… じゃあそこの紐を結んでくれ」
その時になって、自分があやうく全ての作業を一人でこなそうとしていたことに気づき、やっとアキトも作業に加わった。
二人は着々とテントを組み立てて行き、アキトはリオンについて気になったことを質問してみる。
「ねぇねぇ、リオンはキャンプが好きなの?」
「どうなんだろう、別に好きってほどじゃ……」
「そうなんだ、でもやったことはあるんだね」
お互い別の方向に回り込み、テントを固定するための杭を打ちながら話を続けていく。
「あー…… こっちに来てからだ、前は予定通りに道を抜けられた試しなんてなかったから……」
リオンは自分が勇者として旅をしていた頃、散々こちらを振り回した挙句、何を言ってもロクに手伝いなんてしなかったかつての仲間たちを思い出す。
(そういえば、宿以外でも…… この時だけはずっと一人になれたな……)
だが、誰にも邪魔されることなく一人で黙々と作業が出来たあの時間は、たしかに自分にとっていい気休めだったと今では思う。良くも悪くも、この世界に来てから数少ない楽しみの一つだったかもしれない。
「まあ、そこそこだな。お前は?」
「僕? これが初めてだよ」
「そうか……」
合流した二人の間を、焚き火から散った火の粉が僅かに掠める。リオンは自分と違い、まだ何も知らない彼にはこの経験を楽しんでもらいたかった。
(だったら、いい思い出にしてやらねぇと──)
そう思いながらテントの杭を打ち終え、最後にロープで固定しようとした時、上空から淡い月光が何やら歪な黒い影を落とす。
「なあ、この影。前にも見たことあるような……」
「こっち向かってきてるみたい、下がろっか」
そう言って、二人は組み立てていたテントから離れた直後──
「「ギャアアアァァァァァーー!!!」」
と、叫びながらガーゴイルと人狼が完成間近のテントを押し潰す形で、夜空から……
ドゴーーン!!
と響くぐらい、勢いよく真っ逆さまに落下してきた。
「……また、あんたらか」
「二人とも、今度はどうしたの?」
リオンは頭を抱え、アキトは動じることなく倒れている魔物に問いかける。
落ちた衝撃から焚き火も消え、壊れたテントの上でピクピクと仰向けになったままのガーゴイルがやがて口を開き……
「ケケッ…… 話が早くて…… 助かります」
と言って、同じく隣にいる布でくるまれた細長い包みを抱える人狼を指差した。
「んー、思ったよりも広い森だったね」
「今までが上手く行きすぎてたんだよな」
空を見上げれば、生い茂る木々の間から乾燥した空気が星を綺麗に映している。その隣にいるアキトは、呆然と星空を眺めるリオンを見つめていた。
「……リオン、元気ない?」
「ちげーよ、こういうの久しぶりだって考えてた」
アキトは少々不安に思っているのかもしれないが、リオンはむしろちょうどいいと思った。
「まあ、キャンプみてぇなもんだろ。 "アレ"出してくれ」
「うん……?」
「全然使う機会なかったし、一回やっておきたかったんだよ」
すると、これかな? と言ったアキトは虚空から、以前必要なものとしてリオンが購入していた、元の世界とよく似た形をした二人用のテントを取り出す。
「そうそう、それそれ。釣竿といい、一通り買っておいて正解だったわー」
アキトからテント一式を受け取ったリオンは、その大きさを確認すると、焚き火から少し離れた場所に置き平らに広げた。
「よっしゃ、まずはこれに…… あと、寒くなってきたから防寒も……」
「ねぇリオン」
「あー、飯がまだだったな、何か作んねぇと……」
「あれ?」
アキトの呼びかけにも応えず、リオンの独り言はさらに続く。
「どちらにしろ、まずは湯を沸かして……」
「────」
周りの音を気にすることなく、リオンは目を虚ろにしながら、まるで何かに迫られたようにテキパキと一人でテントを組み立てていく。
「それから……」
「ねぇ、リオン──」
さすがに様子がおかしいと感じたアキトは、すかさず彼の元に駆け寄り、邪魔にならないギリギリのところまで近づいてもう一度呼びかける。
芯の通った声にハッとしたリオンは、ようやく手を止めて振り向いた。
「僕にもやらせて」
「お、おう…… じゃあそこの紐を結んでくれ」
その時になって、自分があやうく全ての作業を一人でこなそうとしていたことに気づき、やっとアキトも作業に加わった。
二人は着々とテントを組み立てて行き、アキトはリオンについて気になったことを質問してみる。
「ねぇねぇ、リオンはキャンプが好きなの?」
「どうなんだろう、別に好きってほどじゃ……」
「そうなんだ、でもやったことはあるんだね」
お互い別の方向に回り込み、テントを固定するための杭を打ちながら話を続けていく。
「あー…… こっちに来てからだ、前は予定通りに道を抜けられた試しなんてなかったから……」
リオンは自分が勇者として旅をしていた頃、散々こちらを振り回した挙句、何を言ってもロクに手伝いなんてしなかったかつての仲間たちを思い出す。
(そういえば、宿以外でも…… この時だけはずっと一人になれたな……)
だが、誰にも邪魔されることなく一人で黙々と作業が出来たあの時間は、たしかに自分にとっていい気休めだったと今では思う。良くも悪くも、この世界に来てから数少ない楽しみの一つだったかもしれない。
「まあ、そこそこだな。お前は?」
「僕? これが初めてだよ」
「そうか……」
合流した二人の間を、焚き火から散った火の粉が僅かに掠める。リオンは自分と違い、まだ何も知らない彼にはこの経験を楽しんでもらいたかった。
(だったら、いい思い出にしてやらねぇと──)
そう思いながらテントの杭を打ち終え、最後にロープで固定しようとした時、上空から淡い月光が何やら歪な黒い影を落とす。
「なあ、この影。前にも見たことあるような……」
「こっち向かってきてるみたい、下がろっか」
そう言って、二人は組み立てていたテントから離れた直後──
「「ギャアアアァァァァァーー!!!」」
と、叫びながらガーゴイルと人狼が完成間近のテントを押し潰す形で、夜空から……
ドゴーーン!!
と響くぐらい、勢いよく真っ逆さまに落下してきた。
「……また、あんたらか」
「二人とも、今度はどうしたの?」
リオンは頭を抱え、アキトは動じることなく倒れている魔物に問いかける。
落ちた衝撃から焚き火も消え、壊れたテントの上でピクピクと仰向けになったままのガーゴイルがやがて口を開き……
「ケケッ…… 話が早くて…… 助かります」
と言って、同じく隣にいる布でくるまれた細長い包みを抱える人狼を指差した。
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